(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678189
(24)【登録日】2015年1月9日
(45)【発行日】2015年2月25日
(54)【発明の名称】UV照射及び電子を用いる気体のイオン化方法及び気体の同定方法、ならびにその装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20150205BHJP
G01N 27/64 20060101ALI20150205BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20150205BHJP
【FI】
G01N27/62 101
G01N27/64 B
G01N27/64 C
H01J49/10
【請求項の数】18
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-527526(P2013-527526)
(86)(22)【出願日】2011年8月11日
(65)【公表番号】特表2013-541701(P2013-541701A)
(43)【公表日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】EP2011063807
(87)【国際公開番号】WO2012031850
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2013年11月6日
(31)【優先権主張番号】10175936.3
(32)【優先日】2010年9月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500399105
【氏名又は名称】エアセンス アナリティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Airsense Analytics GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ ミュンヒマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ウンゲテューム
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヴァルテ
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−250450(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0205775(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0185593(US,A1)
【文献】
特表2009−505082(JP,A)
【文献】
特開2005−093152(JP,A)
【文献】
特開2001−068053(JP,A)
【文献】
武部 雅汎,「イオン移動度測定装置の試作」,応用物理,社団法人応用物理学会,1970年12月10日,Vol. 39, No. 12,p. 1119-1126
【文献】
武部 雅汎, 佐藤 義之, 飯沼 恒一, 瀬戸 邦夫,「イオンの輸送係数測定装置の試作」,応用物理,社団法人応用物理学会,1981年10月10日,Vol. 50, No. 10,p. 1040-1048
【文献】
P. Begley et al.,"Photoemissive ionisation source for ion mobility detectors",Journal of Chromatography A,Elsevier Science Publishers B.V.,1991年12月27日,Vol. 588, No. 1-2,p. 239-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 27/64
H01J 49/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を同定及びイオン化する方法であって、
前記同定対象の気体を反応チャンバ内でイオン化し、
生じた生成イオンを測定することを含み、
前記生成イオンの測定が、前記生成イオンを電場に暴露し、イオン検出器で検出することにより行われ、
前記イオン化が、UV照射により行われ、これと同時に又は連続して、電子によるイオン化が行われ、
電子源から生成する前記電子は、
a)電子ウィンドウへ向けて加速され、前記ウィンドウを通過し、及び/又は制動放射を生じ、結果として反応チャンバ内の分子をイオン化し、
b)第二の電子ウィンドウへ向けて加速され、前記第二の電子ウィンドウを通過し、そして高圧チャンバ内でUV照射を生じ、前記UV照射がUV透過性ウィンドウを透過して前記反応チャンバ内の分子をイオン化することを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記イオン化が、電子を低圧領域において電気的に加速させ、前記電子を電子透過性の前記電子ウィンドウへ向けて加速させることにより行われることを特徴とし、
前記電子が、前記ウィンドウを透過した後に高圧領域内でイオンを生成する、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、
前記イオン化が、電子を低圧領域において電気的に加速させ、前記電子を電子透過性の前記電子ウィンドウへ向けて加速させることにより間接的に行われることを特徴とし、
前記電子が、前記ウィンドウを透過することで大きく減速されて生じる制動放射を高圧領域で用いてイオンを生成する、方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法であって、
前記UV照射が、ガス放電により生じ、
前記電子が、ガス放電から配置電極により抽出されて前記電子ウィンドウへ収束されることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法であって、
電子源から生成する前記電子は、フィラメント又は一つ以上の電界放出チップから生成することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法であって、
前記電子によるイオン化が、UV照射によるイオン化を行う間に、前記電子を特定の時のみに前記電子ウィンドウへ誘導することにより不連続的に起こることを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法であって、
前記UV照射及び電子衝突によるイオン化が不連続に起こり、
a)前記電子が、電子透過性ウィンドウへ誘導されることにより反応チャンバ内でイオンが生じ、そして、
b)電子が、前記第二の電子ウィンドウに特定の時のみに誘導され、これらの電子がガスチャンバ内の気体と相互作用してUV照射を生じ、当該UV照射は次にUV透過性ウィンドウを透過して反応チャンバに入り、
よってイオン化は電子又はUV照射により行われ、ここで、
2種のうち1種のイオン化が継続して行われ、第二の種類のイオン化は追加的にわずかにスイッチオンされることを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の方法であって、
前記UV照射によるイオン化と前記電子衝突によるイオン化とが、不連続かつ交互に、短い間隔、すなわち、数ミリ秒の間隔で行われることを特徴とすることを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法であって、
物質の同定のために、UV照射によるイオン化を行い測定されたスペクトルと、電子衝突によるイオン化を行い測定されたスペクトルとが、組み合わせて考慮され、
データベースとの比較により物質が同定されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
気体をイオン化及び同定する装置であって、
イオン源チャンバ(5)、
前記イオン源チャンバ(5)に設けられたイオン源(1)、及び
イオン移動度分光計(2)を含み、
前記イオン源チャンバ(5)及び前記イオン移動度分光計(2)との間には仕切り(6)が設けられ、
前記仕切り(6)には、UV照射を透過させるウィンドウ(8)及び電子を透過させるウィンドウ(7)が設けられていることを特徴とし、
UV照射及び電子照射は、前記イオン源チャンバ(5)内の前記イオン源(1)により生じさせることができる、装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置であって、
前記イオン源チャンバ(5)内に、希ガスがガス放電に最適の圧力、具体的にはミリバールの範囲内で存在し、
前記ウィンドウ(8)は、例えばフッ化マグネシウム又はフッ化カルシウムから形成され、前記ガス放電により生じるUV照射を透過させ、前記イオン源チャンバ(5)と反応チャンバ(20)とを区切り、
別のウィンドウ(7)は、電子ウィンドウであり、電子を透過させ、例えば窒化ケイ素、ダイアモンド又はベリリウムから形成され、UV照射を透過させる前記ウィンドウ(8)の隣に配置されており、
前記イオン源チャンバ(5)内には、ガス放電により生じた電子を加速させ、前記ウィンドウ(7)へ収束させるための電極(15)が配置されていることを特徴とする、装置。
【請求項12】
請求項10記載の装置であって、
前記イオン源チャンバ(5)内は高真空、具体的には10−6ミリバール未満の圧力に保たれており、
前記イオン源チャンバ(5)は、二つのウィンドウ(7,10)により区切られ、これらのウィンドウは電子透過性であり、
前記ウィンドウ(7)は、反応チャンバ(20)に直接隣接しており、
他方のウィンドウ(10)は高圧チャンバ(9)に隣接しており、
前記高圧チャンバ(9)内には希ガスが0.1バールより高い圧力で存在し、
前記高圧チャンバ(9)が、UV照射を透過させるウィンドウ(8)を介して前記反応チャンバ(20)に隣接していることを特徴とする、装置。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれかに記載の装置であって、
前記電子ウィンドウ(7)は、電子を減速させ、制動放射を透過させ、具体的には、金属で被覆されたベリリウムから形成されることを特徴とする、装置。
【請求項14】
請求項10乃至13のいずれかに記載の装置であって、
前記イオン源チャンバ(5)内に配置電極(15)が配置され、
前記配置電極(15)が、電子を加速させ、当該電子を前記電子ウィンドウ(7,10)へ向けて移動させるか、又は、これらの電子ウィンドウ(7,10)からそれるように移動させる、装置。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれかに記載の装置であって、
前記イオン源チャンバ(5)内には、電子仕事関数が低い材料を含む電子源が配置され、
前記イオン源チャンバ(5)内には、光子を生じる外部光源が一つ以上配置されており、当該光子の光電効果により電子源において電子が放出される、装置。
【請求項16】
請求項10乃至15のいずれかに記載の装置であって、
前記UV透過性ウィンドウ(8)と前記電子ウィンドウ(7)とは同一の面に配置されておらず、
前記二つのウィンドウ(7,8)は、UV照射と電子及び/又は制動放射とが反応チャンバ(20)内で交差し得るように配置されている、装置。
【請求項17】
請求項10乃至16いずれかに記載の装置であって、
前記イオン源チャンバ(5)が、イオン移動度分光計(2)の反応チャンバ(20)と結合されている、装置。
【請求項18】
請求項10乃至16いずれかに記載の装置であって、
前記イオン源チャンバ(5)が、反応チャンバ(20)又は質量分析計の注入領域と(具体的には注入キャピラリ又は注入アパーチャーと直接)結合されている、装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
気体の検出及び同定のための方法、ならびにこれらに関連した装置は、化学物質や化合物を検出及び同定するために用いられ、特に非常に低い濃度で、爆発物、及び/又は、健康に害のある物質又は化合物が検出される。
【0002】
爆発物、及び/又は、有害化学物質の検出は、ppt〜ppbレンジの検出限界での測定技術を要求する。これらの化合物の検出及び同定には、分光計がたびたび用いられる。プラズマクロマトグラフとしても知られる、イオン移動度分光計(IMS)の利用が好ましいが、これは、この分光計が質量分析計などの他の分光計とは異なり、化学物質や化合物を真空条件下で検出しないため、真空状態をつくる真空ポンプを要しないからである。
【0003】
このため、IMSは、他の分光計に比して、小型かつ安価である。質量分析計は、分解能がIMSより優れ、よって一般的に選択性もIMSより優れており、有利である。
【0004】
IMS及びその適用の一般的なレビューは、例えばG.A. Eiceman and Z. Karpas "Ion Mobility Spectrometry"(2nd. Edition, CRC, Boca Raton, 2005)に記載されている。
【0005】
IMSの構造及び操作は、多数の出版物に記載されている。
【0006】
例えば、US 3,621,240には、大気圧でのイオン移動度が異なることを利用した、古典的な飛行時間型のIMSが記載されている。ターゲット化合物は、イオン源によって連続的にイオン化される。空気分子を直接的にイオン化する放射能源がしばしば用いられる。
【0007】
イオン化した空気分子は、水分子と更に反応して所謂反応イオンを形成する。反応イオンは、プロトン移動反応、電子移動反応、又は、プロトン引き抜き反応により、目的の化合物と反応し、所謂生成イオンを形成する。
【0008】
生成イオンは、約200マイクロ秒の非常に短い時間スパンの間に、電気グリッドを経てドリフト管に導入される。このドリフト管は、電場を有し、ドリフトガス(一般的には、フィルタされた大気圧の空気)内のイオンを加速させるようになっている。ドリフト領域の電場極性を変化させることにより、正操作モードでは正イオンを検出することができ、負操作モードでは負イオンを検出することができ
【0009】
導入された生成イオンは、電場により連続的に加速され、ドリフトガス内の中性分子との衝突を介し連続的に減速され、結果として平均ドリフト速度が生じる。電場は、同一の電荷を有する全てのイオンに対して同じ引力を与える。しかし、生成イオンは異なる質量及び形状を有しているため、生成イオンは電場において異なるドリフト速度を得る。生成イオンは、ドリフト速度の違いに応じて、異なるタイミングで、ドリフト管の末端に位置する検出器に衝突する。
【0010】
ドリフト管を通過する生成イオンの飛行時間(一般的には、5〜30ミリ秒のレンジ内にある)が異なることにより、種々のテスト化合物について結論を導き出すことが可能となる。
【0011】
電気グリッドのスイッチング処理は、一部のイオンのみをドリフト空間へ導入するものであり、これにより古典的な飛行時間型IMSのドリフト速度の測定のためのスタートパルスが与えられる。導入されたイオンパケットは、飛行中に広く拡散する。
【0012】
検出器で測定された信号は、ガウス釣鐘曲線の形状をとる。ドリフト速度は、測定された飛行時間から、又は、釣鐘曲線の最大値でのドリフト時間と既知のドリフト空間の長さとから、決定することができる。得られたスペクトルは、化学物質や化合物を同定するために用いることができる。
【0013】
ドリフト管を通過する生成イオンの飛行時間は、検出器に衝突する生成イオンのドリフト速度に反比例する。ドリフト速度は、電場での加速及びイオンと中性分子間の衝突による減速により定まるものであるが、イオンの質量、又は、イオンの大きさ及びイオンの形状のそれぞれにも依存する。
【0014】
古典的な飛行時間型IMSシステムに加えて、イオンを気流により輸送し、静電場により気流に対し垂直方向に偏向し、種々の電極により検出するイオン移動度分光計が知られている。これらのIMSシステムは、「吸引IMS」とも呼ばれ、例えばBaetherらの提案する小型化された設計において記載されている(DE 10 2005 007 746 B4)。
【0015】
高強度の非対称交流電場を気流に対して垂直に加えると、電場強度に対する移動度の依存性に基づいてイオンが分離され、正イオン及び負イオンを同時に2本の電極の間を通して移動させることができ、配置の最後にある2本の追加の電極により検出することができる。これらのIMSシステムは、「微分移動度分光計、DMS」又は「電場非対称性イオン移動度分光計、FAIMS」としても記述されることがあり、例えばA.A. Shvartsburg の"Differential Ion Mobility Spectrometry"(CRC Press, Boca Raton , 2009)に詳細に記載されている。
【0016】
しかしながら、これらのIMSは全て放射能源をイオン化に用いるという欠点を有する。トリチウム、ニッケル63、又はアメリシウム241が、放射性材料として一般に使用される。しかしながら、放射性イオン化源は、環境ならびに製造及びサービス設備における労働者の健康に危険をもたらし得るという欠点を有する。放射能源を含む装置の使用及び販売には、法規制が課せられるが、これは国によって異なる場合がある。これらの法規制に対応するためには、非常に高度な管理及び高い費用が求められる。
【0017】
したがって、放射性イオン源を代替する試みが行われてきた。例えば、ガス放電によりイオン化するイオン源がある。コロナ放電が頻繁に用いられるが、当該コロナ放電におけるイオン化のプロセスは異なる機構によるものである。特に、例えば、キャリアガス及びドリフトガスとしてよく用いられる空気を用いて操作を行った場合には、オゾン及び窒素酸化物が生じ、他のイオン化プロセス及び/又は化学反応を引き起こし、結果として生成イオンの生成が阻害される。ガス放電は、IMSの金属表面における酸化を進行させてしまうという欠点を有する。
【0018】
したがって、イオン化メカニズム及び化学反応メカニズムが放射性イオン源と同じである非放射性イオン源を構築する試みが何年も行われてきた。ベータ線によるイオン化(例えばニッケル63又はトリチウムを用いたイオン化)は、電子衝撃により直接行うことができ、ガンマ線によるイオン化は、例えばX線の代用により直接行うことができる。
【0019】
Budovichらの特許(DE 196 27 621 C2)には、真空チャンバ内で非放射性の電子源により電子が発生するイオン源が開示されている。電子は電場において加速され、例えば20keVに達し、大気圧下の反応チャンバへ導入される。電子は、反応チャンバの前に配置されているガス不透過性のウィンドウを通過する際に減速される。
【0020】
放射能源と同様に、電子が反応チャンバ中のガスをイオン化する。ウィンドウの材料としては、マイカが使用される。Doering(DE 101 20 335 C2)の特許には類似の構造が開示されており、金属コーティングされたベリリウムの薄膜により電子が減速され、生じたエックス線がイオン化に使用される。
【0021】
電子透過性であってガス不透過性である窒化ケイ素のウィンドウを備えている電子源が知られており、このウィンドウの厚さは300ナノメートルより薄い。Baether et al. (DE 10 2005 028 930 A1)は、これらのイオン源をイオン移動度分光計と組み合わせることを開示している。このタイプの他の電子源は、半導体産業における製造プロセスを適用することで製造することができ、F. Haase et al. ("Electron permeable membranes for MEMS electron sources"、Sensors and Actuators A, 132 (2006) 98-103)及びS. Zimmerman et al. (DE 10 2008 032 333 A1)に記載されている。
【0022】
これらのイオン化源によるイオン化メカニズムは、放射能源によるイオン化と同じであり、放射能源の代替として用いることができる。放射能源によるターゲット分子のイオン化は、空気のクラスターイオン間、すなわち反応イオンと測定物質との間の電荷移動により行われるが、本発明のイオン化においては、反応イオンはアルファ粒子、ベータ粒子若しくはガンマ線ではなく、電子又はX線により生じる。
【0023】
放射能源と同様に、これらのイオン化源はいくつかの高毒性有機化合物(例:ベンゼン、アリシン又はホスフィン)を検出することが出来ないという欠点を有している。多くの有機分子(例:アルカンやアルケン)、又は芳香族分子(例:トルエン又はクロロベンゼン)も、プロトン親和力又は電子親和力の低さにより、又は電気陰性度の低さにより、あるいはクラスターイオンと同じドリフト時間を有することにより検出することが出来ない。もう一つの欠点は、多くの物質について測定可能な濃度範囲の上限があり、狭い範囲でしか線形性を有していないことである。
【0024】
イオンを生成する更なる方法は、光子によるイオン化である。UV照射によるイオン化が知られており、例えば光イオン化検出器に用いられている。
【0025】
光イオン化は、広い濃度範囲における分子の検出を可能にする。放射能源によるイオン化とは異なり、測定物質は光子により直接イオン化される。典型的には、10.6eVのイオン化エネルギーを出力するUVランプが用いられ、このイオン化エネルギーと同等以下のイオン化ポテンシャルを有する全ての分子がイオン化される。RAE Systems (U.S. 6,509,562 B2)の特許に記載されているように、異なるエネルギーを出力する異なるUV源を用いることで、分子を選択的にイオン化して検出することができる。
【0026】
しかしながら、光イオン化においては、負イオンが生成されることが稀であるという欠点があり、例えば、一般的にハロゲン化炭化水素の検出が出来ない。UV照射のエネルギーは、窒素や酸素のイオン化ポテンシャルより低いため、空気中ではシグナルが生じない。したがって、UV照射によりイオン化を行う場合には反応イオンピーク(RIP)が存在せず、内部較正時にピークが存在しないという欠点を有する。
【0027】
前述の欠点のいくつかは、異なるイオン源を組み合わせることにより解消できる。例えば、Bensch et al. (DE 100 42 394 B4)による特許には、放射能源とUVランプをドリフト管に組み合わせたものが記載されている。少なくとも1つの放射能源と、追加のイオン源と、異なるドリフト管の組み合わせが、例えばDoering et al. (DE 197 30 896 C2)に記載されている。
【0028】
このような組み合わせの欠点は、依然として放射能源が用いられていることである。更なる欠点は、放射能源のスイッチを容易に切ることができないことである。いくつかの化合物、例えばベンゼンは、空気中のクラスターイオンと同じドリフト時間を有しているため、一つのドリフト管と少なくとも一つの放射能源を用いた場合には検出できない。また、複数の毒性化合物の同時検出は、異なるイオン源を異なるドリフト管と共に用いた場合にだけ可能であり、このようなシステムは複雑な設計と高い製造コストが必要となるという欠点を有している。
【0029】
したがって、電子衝突又はX線によって放射能源と同様のスペクトルが得られ、且つ、任意で、UV照射によって光イオン化源と同様のスペクトルが得られる非放射性イオン源を、分離及び検出方法と組み合わせて用いることが望ましい。このような非放射性イオン源を、任意で電子照射又はX線又はUV照射のいずれかと共に操作することも望ましい。
【0030】
以上により、本発明の目的は気体をイオン化する一般的な方法、及びこれに対応する装置を開発することであり、コンパクトなデザインと、電子衝突又はX線又はUVの照射による大気圧下での気体のイオン化を達成することである。なお、生じたイオンは分離を経て検出される。本発明によれば、イオン源は、電子衝突によるイオン化のスイッチを素早くON/OFFすることが出来るように構築されている。
【0031】
本発明にかかる方法は、請求項1記載の事項により達成され、そして本発明にかかる装置は、請求項10記載の事項により達成される。有利な実施形態は、従属項2乃至9及び11乃至18に記載されている。
【0032】
本発明によれば、イオン化はUV照射により行われ、これと同時に又は連続して電子によるイオン化が行われる。
【0033】
新規な気体のイオン化方法及び検出方法、ならびにこれらに対応する装置は、前述の先行技術の欠点を解消するものである。
【0034】
新規な気体のイオン化方法及び検出方法を用いれば、イオン化を非放射能性の手法により行うことができ、また、本発明の装置は、電子及びUV照射によるイオン化を可能にする。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、電子を低圧領域において電気的に加速させ、その後、この電子を電子透過性の電子ウィンドウへ向けてさらに加速させ、このように加速させた電子を用い、高圧領域おいてイオン化が行われる。
【0036】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、電子を低圧領域において電気的に加速させ、その後、この電子を電子透過性の電子ウィンドウへ向けてさらに加速させ、このように加速させた電子を大きく減速させて制動放射を生じさせ、これにより高圧領域おいて電子による間接的なイオン化が行われる。
【0037】
気体をイオン化し、同定する新規な方法、及び対応する装置は、様々な手法により実現され得る。これらの例示的な実施形態は、以下に添付される図面を参照することで、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】イオン移動度分光計に組み合わせた新規なイオン源の概略図
【
図2】放射性イオン源を適用したイオン移動度分光計を用いてヘキサンを測定し、得られたスペクトル(生成イオン無し)
【
図3】UVイオン源を適用したイオン移動度分光計を用いてヘキサンを測定し、得られたスペクトル(生成イオンを明瞭に視認可能)
【
図4】イオン移動度分光計に組み合わせた別の形態の新規なイオン源の概略図
【
図5】小型化された別の形態の新規なイオン源の概略図
【0039】
本発明の気体をイオン化する装置は、
図1に示される例示的な実施形態のように、イオン源1及びイオン移動度分光計2から構成される。イオン移動度分光計2は、ドリフト管19を有し、このドリフト管19は、一方にイオン源1を有する注入口システム3、他方に検出器4を配置するように区切られている。
【0040】
ドリフト管19内に、ドリフト電極11及び電気ゲート12が設置されている。Bradbury-Nielsenの配置を使用した例示的な実施形態においては、ドリフト管19の内側の空間は反応チャンバ20とドリフトチャンバ21とに分けられている。検出器4の前に、容量性デカップリングとして機能する遮蔽グリッド13が配置されている。ドリフト電極11は、それぞれレジスタを介して電気的に相互接続されており、DC電極を構成する。ドリフト電極11に加えられる電圧は、ドリフト管19内で一定の電界強度が得られるように選択される。
【0041】
イオン源1は、高気密性イオン源チャンバ5から構成され、チャンバ5は、仕切り6により反応チャンバ20から隔てられている。仕切り6はウィンドウ7及び二つ目のウィンドウ8を含み、ここで、ウィンドウ7は、電子透過性かつガス不透過性であり、約100nm〜400nmの厚さの窒化ケイ素膜又はダイアモンド膜で形成可能であり、二つ目のウィンドウ8は、UV照射透過性であって、MgF
2で製造可能である。
【0042】
ウィンドウ7は、ベリリウムで製造されるものであってもよく、特に、金属コーティングを有するベリリウムで製造されるものであってもよい。
【0043】
更に、ガスチャンバ9がイオン源チャンバ5内に配置されており、好ましくは、ガスチャンバ9は、大気圧以上の不活性ガスで満たされている。このガスチャンバ9も、仕切り6に接続されている。ガスチャンバ9の反対側において、電子を透過可能な別のウィンドウ10が配置されている。
【0044】
図1に表されるイオン源チャンバ5は、高真空下に置かれる。本配置においては、電子はフィラメント14により生じる。配置電極15は、電子を加速させ、収束させるものである。配置電極15は、電子がガスチャンバ9を回避して直接ウィンドウ7に衝突し、そこから反応チャンバ20に入るか、又は、電子がウィンドウ10に衝突し、そこからガスチャンバ9に入り、ガスとの相互作用により発生したUV照射がUV透過性ウィンドウ8を通過して反応チャンバ20に入るように設置されている。電子は、2〜50keVの高電圧によって加速される。
【0045】
加速され、薄いウィンドウ7を透過した電子は、主に空気分子をイオン化する。更なる反応及び水分子との作用を経て反応イオン17が生じる。これらの反応イオンは、次に、試験対象化合物を、プロトン移動、電子移動、又はプロトン脱離反応によりイオン化し、生成イオンを生じる。このイオン化プロセスは、放射能源によるイオン化プロセスとよく似たプロセスで進行するため、同一のスペクトルが得られる。
【0046】
加速され、薄いウィンドウ10を透過した電子は、ガスチャンバ9内の気体により減速される。適した気体は、希ガスである。不活性ガス中で電子が減速されると、UVスペクトル領域において希ガスのエキシマ発光に由来する発光が生じる。エキシマは、励起状態のみで存在する二原子分子である。
【0047】
エキシマ発光は、0.2bar以上の圧力下でしか起こらず、よって1bar〜3barの高い圧力が好ましい。エキシマ発光のUVスペクトルは、希ガスの種類により異なる。不活性ガスを変えると、異なる発光が起こり、200nm以下の波長領域内であり得る。より重い不活性ガスを少量混合すると、エネルギー移動が起こり、UVスペクトルを変化させることができる。
【0048】
偏向電圧を配置電極15に印加すると、電子は、ガスチャンバに入ってUV照射によるイオン化が起こるか、あるいは電子透過性ウィンドウ7を通過して直接反応チャンバ20に入る。
【0049】
この配置によって、電子によるイオン化のON/OFFを制御でき、同時にUV照射のON/OFFも制御できる。
【0050】
したがって、電子照射と光子照射(すなわちUV照射)との間の迅速な切り替えを、ミリ秒の次元で行うことが可能となる。
【0051】
分析対象物質は、例えば薄いシリコン膜で構成された注入システム3を通過し、反応チャンバに入り、そこで電子又はUV照射によりイオン化される。反応チャンバ20内で生成されたイオンは、ドリフト電極11で生じた電場により電気ゲート12へ向かって加速される。
【0052】
電子注入グリッドは、例えばBradbury-Nielsenの配置の場合、導電体の交互配置により構成され、導電体間に生じる電場がイオンの透過を阻むようになっている。導電体間の電圧のスイッチを数マイクロ秒間切ると、イオンは、ドリフト空間21内の電場により一時的に引き付けられる。
【0053】
イオンのごく一部のみが(電子注入グリッドを)透過してドリフト空間21内に入り、ここで更なるドリフト電極11がイオンを検出器4へ向けて誘導する。イオンは、電場中を移動している間、常にドリフトガス中の中性分子と衝突している。ドリフトガスは、一般的には乾燥空気から構成され、ポンプによりイオンの飛行方向とは逆の方向に送られる。
【0054】
イオンの飛行時間は、とりわけイオンの衝突断面積に影響され、つまり、小さなイオンが大きなイオンと比較して早く検出器に到達することを意味する。検出器のシグナル強度、すなわち飛行時間の変数としてのイオンの数は、IMSスペクトルとして参照される。ドリフト管19内の電場の極性は、反転させることができ、正イオン及び負イオンの双方を測定できる。
【0055】
図2は、ベンゼン含有混合物について、電子によるイオン化を行う測定により得られたIMSスペクトルを示す。スペクトルは、実質的に反応イオンピーク17、すなわち水クラスターのピークしか示しておらず、ベンゼンは検出されていない。同じ混合物であっても、UV照射によりイオン化を行うと、全く異なるスペクトルを示すようになる。生成イオンのピークは、
図3において18の符号が付されている。
【0056】
気体をイオン化する新規な装置の別の実施形態を
図4に示す。
【0057】
図1の装置とは異なり、イオン源チャンバ5にガスチャンバは無く、代わりに、気体がイオン源チャンバ5内に存在している。気体は、好ましくは希ガスであり、また、好ましくはPaschenカーブが最小である領域において陰圧、すなわち数ミリbarの範囲である。
【0058】
イオン源チャンバは、非導電性材料、例えばガラスで作られている。ガス放電を起こすために、チャンバ5内に配置された高周波電極16に高い交流電圧を印加し、その結果としてUV照射を生じさせる。これらのUV線は、UV透過性ウィンドウ8を透過し、反応チャンバ20に入る。
【0059】
ガス放電から電子を抽出し、電子透過性ウィンドウ7へ電子を収束させる、少なくとも1つの配置電極15が、イオン源チャンバ5内に配置されている。抽出された電子は、配置電極15により加速され、電子透過性ウィンドウ7を通過して反応チャンバ20に入る。
【0060】
ドリフト管19内には、
図1に表される構成と同様のものが配置されている。
【0061】
イオン源1内におけるガス放電によりUV照射が起こり、分析対象のいくつかを直接イオン化することができる。
【0062】
配置電極15の電圧を切替えて電子の加速及び収束を周期的にON/OFFさせると、電子によるイオン化のON/OFFを切り替えることが可能である。このようにして、UV照射により得られるスペクトルを電子照射により得られるスペクトルに重ね合わせることができる。
【0063】
UV照射及び電子照射によるイオン化のために、追加的な配置をすることが可能であることが理解される。例えば、UV照射は、直流高電圧を交流電圧の代わりに用いて行うことが可能である。対応する電極のみをイオン源チャンバに導入すれば良い。
【0064】
本発明に関する気体のイオン化装置の追加の実施形態を
図5及び
図6に示す。
【0065】
図1及び
図4とは異なり、イオン源1は、半導体の技術分野において用いられる方法で構築され、電子は、フィラメントでは無く、複数の電界放出チップ22の配列により生じる。電子はグリッド23により電子透過性ウィンドウ7へ向けて加速され、そこから反応チャンバに入る。
【0066】
グリッド23は、ウィンドウ7に直接配置されていてもよい。広いビームの形で到達する電子の一部が第二のウィンドウ10を通過してガスチャンバ9に入り、そこで生じたUV照射が、UV透過性ウィンドウ8を通して反応チャンバに入ってもよい。
【0067】
図6に表されるように、イオン源は他の幾何学的配置をとることが可能である。例えば、UV透過性ウィンドウ8及び電子透過性ウィンドウ7は、同一面上に配置されずに、角度を有して配置されていてもよく、このような配置によれば反応チャンバの同じ領域をイオン化することが可能である。円状の配置も可能であり、例えば、半円の一方にUV透過性ウィンドウを配置し、半円の他方に電子透過性ウィンドウを配置することが可能である。
【0068】
別の配置も可能であり、例えば、
図1、
図4、
図5及び
図6において、電子を光電効果によって生じさせてもよく、すなわち、外部光源を用い、イオン源1内に配置され、電子仕事関数が低い材料で出来た表面に光子を当てて、電子を生じさせてもよい。電子は、ガス放電により生じさせてもよく、例えば、中空陰極ガス放電により電子を生じさせ、配置電極を用いてこれを抽出してもよい。
【0069】
薄いウィンドウ7を通り反応チャンバ20に入った電子によるイオン化の代わりに、X線、好ましくは低エネルギーX線を用いたイオン化を行うことも可能である。この場合には、ウィンドウ7及び/又は10のみを、電子を完全に減速させる他のウィンドウと代替する必要がある。これは、例えば、より厚いウィンドウ又は金属コートされたウィンドウを用いることで達成可能である。配置電極15の加速電圧を上昇させることによっても、電子によるイオン化に加えてX線によるイオン化を行うことができる。
【0070】
前述のイオン源の寿命は、追加の要素、例えばイオン源チャンバ内に設置されたゲッター材料、を用いることで長くすることが可能である。
【0071】
希ガスを、対応するガスチャンバ9の開口に合わせて変更又は調整することも考え得る。これにより、UV照射を変え、よってイオン化エネルギーを変えることができ、ターゲット物質のイオン化を最適化することが可能である。
【0072】
本発明にかかる測定方法の選択性及び検出限界の最適化は、追加の反応性ガス又はドーパントガスを反応チャンバ20に導入することで推進することが可能である。電子衝突反応によりイオン化を行う場合、この反応性ガスは化学反応に影響を及ぼすことが可能であるため、正イオンについてはプロトン親和性、負イオンについては電気陰性度により当該化学反応を制御可能である。これにより、本発明の方法において選択性を変えることができる。UV照射によるイオン化を行う際に反応性ガスを使用すると、検出限界を向上させることが可能であることも知られている。
【0073】
更に、イオン移動度分光計と他のセンサ又は検出器、及び/又は他の方法と組み合わせることで選択性を向上させることが可能であり、例えば、特に、上流にガスクロマトグラフィーを配置することが可能である。
【0074】
前述の本発明は、放射性物質を必要とせず、新規なイオン源により芳香族化合物(例:ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン)及び脂肪族化合物、アルシン又はホスフィン、ならびにハロゲン化合物を、UVを用いるイオン化により、また追加的に電子又は制動放射によるイオン化により検出することを可能にする。よって、従来方法の欠点は、本発明により解消することができる。
【0075】
本発明は、両方のイオン化方法のスイッチをON/OFFさせることができ、より多数の化合物の検出と、得られたスペクトルの比較による同定の向上とを可能にする。
【0076】
非放射能源を使用すると、反応チャンバ内の電子フローが放射能源を用いた場合よりも大きくすることができるという利点が得られる。これは、後者の活性の上限が法的規制により制限されているからである。結果として、新規なイオン源では検出限界を著しく低くすることが可能である。
【0077】
検出限界を向上させるため、いくつかのイオン源を検出器と組み合わせることが可能であり、これは特に小型化された実施形態において有利である。
【0078】
前述のイオン源が、他の種類の分光計と組み合わせることが可能であることが理解される。これには、他のIMS設計、例えば"示差移動度"分光計、質量分析計、(例:"飛行時間(TOF)"、四重極イオントラップ質量分析計)などが含まれる。特に、前述のイオン源を他の質量分析計と組み合わせる場合には、このイオン源は注入口の高圧領域に設置することができ、UV照射と電子衝突によるイオン化を交互に組み込むことにより検出限界の向上を達成できる。
【0079】
参照記号の一覧
1 イオン源
2 イオン移動度分光計
3 注入口システム
4 検出器
5 イオン源チャンバ
6 仕切り
7 電子ウィンドウ
8 UV照射透過性ウィンドウ
9 ガスチャンバ
10 第二電子ウィンドウ
11 ドリフト電極
12 電子ゲート
13 遮蔽グリッド
14 フィラメント
15 配置電極
16 高周波電極
17 反応イオン
18 生成イオン
19 ドリフト管
20 反応チャンバ
21 ドリフト空間
22 電界放出チップ
23 加速グリッド