【実施例1】
【0014】
ベルト状金型の成形装置10は従来のスピニング加工機とほぼ同様の構成であって、主に、円柱状の回転体であるマンドレル13と、縦方向に延伸する中心軸を中心にマンドレル13を回転させるマンドレル駆動モータ23と、マンドレル13に装着される薄肉金属管状体11の縦方向に張力を付与する張力付与手段21と、薄肉金属管状体11を横方向から押圧する円盤状の加圧ロール15と、から構成されている。
【0015】
実施例1におけるベルト状金型は以下の工程を経て製造される。
(1)押圧前の薄肉金属環状体11は円筒体で、上端部は内側に曲折し、下端部は外側に曲折して鍔部が形成されている。この薄肉金属環状体11をマンドレル13に装着する。
(2)薄肉金属環状体11の鍔部を張力付与手段21が下方に押し下げるように押圧して薄肉金属環状体11に張力を付与する。
(3)マンドレル13を回転させ、マンドレル13と共に回転する薄肉金属環状体11に連れ回る加圧ロール15が押圧する。加圧ロール15は薄肉金属環状体11を押圧しながら下方に移動していくが、押圧により薄肉金属環状体11は塑性変形を生じて加圧ロール15の押圧面に刻設されたマザーパターン3が螺旋状となって金型模様5として転写される。
(4)転写後の薄肉金属環状体11の上端部および下端部の鍔部を切断してベルト状とする。
【0016】
薄肉金属環状体11の素材はステンレス鋼、ニッケル合金、ジュラルミン、銅等であって、これらの金属薄板を円筒状に曲げ加工して突き合せ、溶接で接合する。溶接は、プラズマ溶接、TIG溶接、レーザー溶接、または電子ビーム等が用いられる。転写前の薄肉金属環状体11の表面粗さは、形成する金型模様5の画線幅および深さよりも小さいことが必要である。例えば画線幅0.1μm、深さ0.1μmの金型模様5を形成する場合には、薄肉金属環状体11は表面を研磨して、Raで0.05μm以下、好ましくは0.04μm以下の鏡面仕上げとする必要がある。
【0017】
加圧ロール15は、
図2(a)に示すように大略算盤玉の形状をしていて、
図2(b)に示すように薄肉金属円筒体20の外周面に押し当てられ、薄肉金属円筒体20の回転によって連れ回る。なお、加圧ロール15は、前進する方向に入側角度(α)、先端平坦部(w)、出側角度(β)を有している。
【0018】
加圧ロール15の先端平坦部(w)には、例えば
図2(b)に示す複数条の三角溝のマザーパターン3が刻設されている。そして、加圧ロール15が薄肉金属環状体11の外周面に押し当てられ、図の左方に移動することによって、マザーパターン3の反転形状が薄肉金属環状体11の外周面に金型模様5として連続して転写される(
図2(c)および(d))。
【0019】
ここで入側角度(α)は、0.1°〜5°、望ましくは、0.5°〜1.0°、先端平坦部(w)は、略平坦であり、若干の丸みを有してもいい。出側角度(β)は、0°〜1.0°、望ましくは、0°〜0.5°である。なお、マザーパターン3は、レーザーまたはダイヤモンド工具による切削加工で刻設される。
【0020】
上記は、加圧ロール15が1個の場合についての説明であるが、2個以上の複数個の加圧ロールを薄肉金属環状体11の外周面に等間隔で配置してもよい。例えば、3個の加圧ロール15を配置し、移動方向に対して最前に位置する加圧ロール15を#1ロールと称し、以下順に、#2ロール、#3ロールと称することとする。マンドレル13の回転数R(r/min)、加圧ロール15の移動速度V(mm/min)とすると、加圧ロール15の送りピッチPは、P=V/R(mm/r)となる。具体的な数値で示すと、R=60(r/min)、V=36(mm/min)では、送りピッチP=36/60=0.6mm/rになる。すなわち、薄肉金属環状体11の成形速度は、マンドレル13の1回転毎に0.6mmずつ進行する。3個の加圧ロール15がマンドレル13の外周上の120°で等間隔に配置されている場合、マンドレル13の中心軸方向に対して0.6mm/3=0.2mm、若しくは、その整数倍の距離をおいて配置されているならば、先頭の#1ロールの軌跡の上をなぞって、#2ロール、#3ロールも押圧していくことになるので、整数倍にならない距離を置くことが必要である。加圧ロール15の数をn個とし、加圧ロール15が均等にマンドレル13の外周上に配置されるならば、P/nの整数倍の間隔をおいて加圧ロール15をマンドレル13の軸方向に配置すると、各加圧ロールは、同じ軌跡を押圧するが、各加圧ロールをP/nの整数倍にならない間隔をおいて配置するならば、各加圧ロールは前の加圧ロールの軌跡とは異なる軌跡を押圧していく。すなわち、n個の加圧ロール15がマンドレル13の中心軸方向に同一位置で外周に均等に配置された場合は、n重の螺旋軌跡(すなわち、異なる軌跡)を残し、マザーパターン3の転写が行われていく。
【0021】
加圧ロール15は、押圧される薄肉金属環状体11の材料よりも靭性、耐摩耗性、強度、硬度等が優れた材料であることが必要である。一般的に670HV〜770HV(61HRC〜63HRC)の硬さの材料で、JIS規定のSKD11(合金工具鋼)やSKH51(高速度工具鋼)相当品を工具基材として用いている。また、さらに硬度をあげるために塩浴窒化処理やガス窒化処理により表層部に窒化拡散層が設けることもある。
【0022】
本発明に係るマザーパターン3の転写は、強い力を加えて素材を変形させる塑性加工の一つである転造という技術の応用であり、結晶組織を寸断する切削加工に対して結晶組織が寸断されずに繊維状になり、緻密で堅い組織になるとともに、引張り強さ、衝撃強さ、表面硬さ、疲れ強さ等の性能が向上する。
【0023】
ところで、本発明に係るマザーパターンの転写方法では、加圧ロール15に刻設されたマザーパターン3が押し込まれ、マザーパターン3の反転形状が金型模様5として薄肉金属環状体11に形成されるが、加圧ロール15の押し込みによって排除された素材容積は、金型模様5の盛り上がり変形となって吸収される。このため、この盛り上がり変形が金型模様5の形成を阻害する場合があるが、これを防止するために、薄肉金属環状体11に張力を付加する必要がある。必要な張力は、加工する素材の降伏力の0.5倍〜1.2倍、望ましくは0.7倍〜1.0倍である。また、形成する金型模様5の画線幅の1.0倍〜2.0倍の間隔を開けておくと盛り上がり変形による素材容積の吸収に効果的である。
【0024】
実施例1では、薄肉金属円筒体11を材質SUS304、直径500mm、厚さ0.23mm、長さ1,200mmで、スピニング加工で成形して鏡面研磨されたものを使用し、その内の長さ300mmにマザーパターン3を形成した。なお、マザーパターン3は、
図2(c)に示すように、加圧ロール15の幅0.6mmの押圧面上に、幅1.0μm、深さ1.0μm、間隔1.0μmの三角溝をレーザー加工で形成した。そして、ベルト状金型の成形装置10に装着し、マンドレル13の回転数V=0.6(r/min)、加圧ロール15の送り速度R=1.0(mm/min)とすると、加圧ロール15の送りピッチP(P=V/R(mm/r))を0.6mm/rとして、1回転に0.6mmのピッチで前進させた。この結果、薄肉金属円筒体11の周上に転写形成された金型模様5の形成時間は約8時間であった。すなわち約470,000mm
2の面積のパターン形成が8時間で可能になり、これまでのレーザーによる成形方法に比べて120倍ほどのスピードアップになった。転写後、長さ300mmの金型模様5の形成部分から薄肉金属円筒体11を所定の幅に切断してベルト状金型とした。なお、形成された金型模様5は、レーザー顕微鏡で観察したところ、高精度に形成できることが分った。
【実施例2】
【0025】
ベルト状金型の成形装置30は、主に、円柱状の回転体である主ロール33と、主ロール33に従動する副ロール37と、主ロール33および副ロール37に巻回されて回転走行する薄肉金属環状体である無端ベルト31と、主ロール33にバックアップされた無端ベルト31を押圧する加圧ロール35と、主ロール33および副ロール37を離反方向に付勢する張力付与手段(図示外)と、から構成されている。
【0026】
加圧ロール35の外周面には微細のマザーパターン3が刻設されており、無端ベルト31の回転に連れ回りしながら回転し、同時に無端ベルト31に押圧されて、マザーパターン3の反転形状が金型模様5として無端ベルト31の上に転写される。
【0027】
なお、薄肉金属管状体11を無端ベルト31と読み替えることにより、段落〔0021〕ないし段落〔0023〕の記述は実施例2においても適用される。
【0028】
実施例2では、無端ベルト31を材質SUS304、幅50mm、厚さ0.23mm、周長4,000mm、全周圧延で成形し、鏡面研磨されたものを使用し、加圧ロール35は、幅60mmの略円柱状で、マザーパターン3として、40mmに幅1.0μm、深さ1.0μm、間隔1.0μmの三角溝をレーザー加工で形成した。そして、主ロール33および副ロール37に巻回し、加圧ロール35で押圧した。金型模様5の形成時間は0.5時間であった。なお、形成された金型模様5は、実施例1同様、レーザー顕微鏡で観察したところ、高精度に形成できることが分った。