(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678350
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】路面摩擦係数のリアルタイム推定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/068 20120101AFI20150212BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20150212BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20150212BHJP
【FI】
B60W40/068
B60T8/172 B
B60W30/045
【請求項の数】19
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-511617(P2014-511617)
(86)(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公表番号】特表2014-518533(P2014-518533A)
(43)【公表日】2014年7月31日
(86)【国際出願番号】US2013030488
(87)【国際公開番号】WO2013158252
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2013年8月21日
(31)【優先権主張番号】61/635,122
(32)【優先日】2012年4月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/649,434
(32)【優先日】2012年5月21日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033020
【氏名又は名称】イートン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン トマス チムナー
(72)【発明者】
【氏名】ジョン アレン グロッグ
【審査官】
山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−173044(JP,A)
【文献】
特開2012−056365(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/133150(WO,A1)
【文献】
特開平08−156627(JP,A)
【文献】
特開平11−115721(JP,A)
【文献】
特開2000−062594(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/158252(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/068
B60T 8/172
B60W 30/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサによる処理のために配置された記憶装置に記憶されているプログラムを含むコンピュータプログラムであって、
前記プログラムは、プロセッサにより実行された場合に、
車両の動力伝達装置のセンサにより収集するデータから得られる車両パラメータを受信し、該車両パラメータには、車両速度V
x、ステアリング角δ、ヨーレートr、横加速度a
yが含まれる命令と、
再帰最小二乗推定法を含む計算を行い、前記検出車両パラメータに基づいてルックアップ値を算出する命令と、
算出した前記ルックアップ値とルックアップ表に格納されている路面摩擦係数とを照合することで、前記ルックアップ表から前記路面摩擦係数を検索する命令と、
前記路面摩擦係数を用いて前記車両に対する調整値を計算する命令と、
調整実行のために前記調整値を車両制御システムに出力する命令とを含み、
前記再帰最小二乗推定法は、以下の実行可能基準
【数43】
【数44】
【数45】
【数46】
が満たされる場合のみ実行可能であり、式中、V
x,MIN及びV
x,MAXは車両速度の予め定めた最小値及び最大値、δ
MIN及びδ
MAXはステアリング角の予め定めた最小値及び最大値、r
MIN及びr
MAXはヨーレートの予め定めた最小値及び最大値、a
y,MIN及びa
y,MAXは横加速度の予め定めた最小値及び最大値であ
り、
前記ルックアップ値の計算は、指数の忘却因子を含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項2】
前記ルックアップ値をαとするとαは、前記ヨーレートの測定値
rMEASをヨーレート推定値r
ESTで割った偏導関数であり、前記ヨーレート推定値r
ESTは、次の式
【数42】
に従って算出され、式中、Lはホイールベースの長さ、k
usは車両アンダーステアの変化度、gは重力定数であることを特徴とする請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記指数の忘却因子が、時間mでのヨーレート測定値rMEASと、時間m+1でのヨーレート測定値rMEASとの差に基づいて調整されることを特徴とする請求項2記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記ルックアップ値の計算は、以下の式
【数47】
【数48】
【数49】
【数50】
に従って実行され、式中、α(m)は時間mでの推定値αを表わし、λは前記指数の忘却因子であり、r
MEAS,mは時間mでのヨーレート測定値を示し、r
EST,mは時間mでのヨーレート推定値を示し、α^(m)は時間mでの中間ベクトルを表わし、H
mは時間mでの中間行ベクトルであり、K
mは時間mでの推定ゲイン行列であり、P
mは時間mでの推定エラー分散行列であることを特徴とする請求項3記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記ルックアップ値をβとするとβは、前後輪の正規化された横力ψを前記車両ステアリング角で割った偏導関数を計算するための命令を用いて計算され、
前記正規化された横力ψは、次の式
【数51】
に従って算出され、式中、mは車両質量、F
fは前輪の横力、F
rは後輪の横力であることを特徴とする請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記指数の忘却因子が、前記正規化された横力ψの経時的な差に基づくものであることを特徴とする請求項5記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
指数の忘却因子を備えた前記再帰最小二乗推定法は、以下の式
【数56】
【数57】
【数58】
【数59】
に従って実行され、式中、β(m)は時間mでの推定値βを表わし、λは前記指数の忘却因子であり、ψ
mは時間mで算出した正規化された横力を示し、δ
mは時間mでの車両ステアリング角の測定値を示し、β^(m)は時間mでの中間ベクトルを表わし、H
mは時間mでの中間行ベクトルであり、K
mは時間mでの推定ゲイン行列であり、P
mは時間mでの推定エラー分散行列であることを特徴とする請求項6記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の推定装置であって、
アクチュエータを含む車両安定性制御システムと、
車両速度V
xを検出するための1台以上の速度センサ、車両ステアリング角δを検出するためのステアリング角度センサ、ヨーレートrを検出するためのヨーレートセンサ、及び、横加速度a
yを検出するための横加速度センサを含む、車両パラメータを獲得するためのデータを検出するセンサと、
路面摩擦係数を推定するためのプログラムを記憶する1つ以上の非一時的記憶装置とを含み、
前記プログラムは、以下の実行可能基準
【数62】
【数63】
【数64】
【数65】
が満たされるか否かを判定し、式中、V
x,MIN及びV
x,MAXは車両速度の予め定めた最小値及び最大値、δ
MIN及びδ
MAXはステアリング角の予め定めた最小値及び最大値、r
MIN及びr
MAXはヨーレートの予め定めた最小値及び最大値、a
y,MIN及びa
y,MAXは横加速度の予め定めた最小値及び最大値であり、前記実行可能機基準が満たされる場合に、前記車両パラメータと再帰最小二乗推定法とに基づいてルックアップ値を算出し、算出した前記ルックアップ値と路面摩擦係数とを照合することで、記憶されているルックアップ表から前記路面摩擦係数を検索し、該路面摩擦係数を用いて前記車両に対する調整値を計算し、
前記ヨーレートの測定値と正規化された横力との何れかの、経時的な差に基づく指数の忘却因子を用いて、前記ルックアップ値に対する調整値を算出し、前記車両に対する調整値を調整実行のために前記車両制御システムに出力する、プロセッサにより実行可能な命令を含み、
更に、前記センサ及び前記1つ以上の記憶装置と通信する1つ以上のプロセッサを含み、該1つ以上のプロセッサは、前記命令を受信及び実行し、かつ、検出した前記車両パラメータを受信するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項9】
前記ルックアップ値をαとするとαは、前記ヨーレートの測定値をヨーレート推定値r
ESTで割った偏導関数を計算するための命令を利用して計算され、
前記ヨーレート推定値r
ESTは、次の式
【数60】
に従って算出され、式中、Lはホイールベースの長さ、k
usは車両アンダーステアの変化度、gは重力定数であることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
更に、ヨーレート推定部と、制御部と、再帰最小二乗推定法を行うRLSE部とを含み、
前記ヨーレート推定部は、前記速度センサ及び前記ステアリング角度センサに接続され、前記センサが検出した前記車両速度と前記車両ステアリング角とを受信し、次の式
【数61】
に従って前記ヨーレート推定値を算出し、
前記制御部は、前記速度センサ、前記ステアリング角度センサ、前記ヨーレートセンサに接続され、前記車両速度V
x、前記ステアリング角δ、前記ヨーレートrを受信し、前記実行可能基準が満たされるかをチェックし、前記実行可能基準が満たされている場合に、前記RLSE部に対して前記再帰最小二乗推定法を許可する実行可能信号を出力し、
前記RLSE部は、前記ヨーレート推定部と前記制御部とに接続され、前記ヨーレート推定部が算出した前記ヨーレート推定値を受信し、前記制御部から前記実行可能信号と同様に前記ヨーレート測定値を受信し、
前記制御部から前記実行可能信号を受信すると、前記RLSE部が、前記再帰最小二乗推定法で前記ルックアップ値を算出することを特徴とする請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記RLSE部は、時間mでのヨーレート測定値rMEASと、時間m+1でのヨーレート測定値rMEASとの差に基づいて調整される、指数の忘却因子を用いて前記ルックアップ値を算出することを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記再帰最小二乗推定法は、前記指数の忘却因子と共に以下の式
【数66】
【数67】
【数68】
【数69】
に従って実行され、式中、α(m)は時間mでの推定値αを表わし、λは前記指数の忘却因子であり、r
MEAS,mは時間mでのヨーレート測定値を示し、r
EST,mは時間mでのヨーレート推定値を示し、α^(m)は時間mでの中間ベクトルを表わし、H
mは時間mでの中間行ベクトルであり、K
mは時間mでの推定ゲイン行列であり、P
mは時間mでの推定エラー分散行列であることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記ルックアップ値をβとするとβは、前後輪の
前記正規化された横力ψを車両ステアリング角で割った偏導関数を計算するための命令を利用して計算され、
前記正規化された横力ψは、次の式
【数70】
に従って算出され、式中、mは車両質量、F
fは前輪の横力、F
rは後輪の横力であることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項14】
更に、正規化横力推定部と、制御部と、再帰最小二乗推定法を行うRLSE部とを含み、
前記正規化横力推定部は、前記速度センサ、前記ヨーレートセンサ、前記横加速度センサに接続され、前記車両速度、前記ヨーレート、前記横加速度を受信し、次の式
【数71】
に従って前記正規化された横力ψを算出し、
前記制御部は、前記速度センサ、前記ステアリング角度センサ、前記ヨーレートセンサ、前記横加速度センサに接続され、前記車両速度V
x、前記ステアリング角δ、前記ヨーレートr、前記横加速度a
yを受信し、前記実行可能基準が満たされるかをチェックし、前記実行可能基準が満たされている場合に、前記RLSE部に対して再帰最小二乗推定法を許可する実行可能信号を出力し、
前記RLSE部は、前記正規化横力推定部と前記制御部とに接続され、前記正規化横力推定部が算出した前記正規化された横力を受信し、前記制御部から前記実行可能信号と同様に前記ステアリング角δを受信し、
前記制御部から前記実行可能信号を受信すると、前記RLSE部が、前記再帰最小二乗推定法で前記ルックアップ値を算出することを特徴とする請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記再帰最小二乗推定法と前記指数の忘却因子とは、以下の式
【数76】
【数77】
【数78】
【数79】
に従うものであり、式中、β(m)は時間mでの推定値βを表わし、λは前記指数の忘却因子であり、ψ
mは時間mで算出した正規化された横力を示し、δ
mは時間mでの車両ステアリング角の測定値を示し、β^(m)は時間mでの中間ベクトルを表わし、H
mは時間mでの中間行ベクトルであり、K
mは時間mでの推定ゲイン行列であり、P
mは時間mでの推定エラー分散行列であることを特徴とする請求項
14記載の装置。
【請求項16】
車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の推定装置であって、
アクチュエータを含む車両安定性制御システムと、
少なくとも車両速度V
x、ステアリング角δ、ヨーレートr、及び、横加速度a
yを含む車両制御パラメータを獲得するためのデータを検出するセンサと、
路面摩擦係数を推定するためのプログラムを記憶する1つ以上の非一時的記憶装置とを含み、
前記プログラムは、前記車両制御パラメータと再帰最小二乗推定法とに基づいて、ルックアップ値αを算出し、該ルックアップ値が、前記ヨーレートの測定値をヨーレート推定値r
ESTで割った偏導関数を計算するための命令を利用して計算され、
前記ヨーレート推定値r
ESTが、次の式
【数80】
に従って算出され、式中、Lはホイールベースの長さ、k
usは車両アンダーステアの変化度、gは重力定数であり、算出した前記ルックアップ値と路面摩擦係数とを照合することで、記憶されているルックアップ表から前記路面摩擦係数を検索し、該路面摩擦係数を用いて前記車両に対する調整値を計算し、
時間mでのヨーレート測定値rMEASと時間m+1でのヨーレート測定値rMEASとの差に基づいて調整される指数の忘却因子を用いて、前記ルックアップ値に対する調整値を計算し、前記車両に対する調整値を調整実行のために前記車両制御システムに出力する、プロセッサにより実行可能な命令を含み、
更に、前記センサ及び前記1つ以上の記憶装置と通信する1つ以上のプロセッサを含み、該1つ以上のプロセッサは、前記命令を受信及び実行し、かつ、検出した前記車両パラメータを受信するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項17】
更に、ヨーレート推定部と、制御部と、再帰最小二乗推定法を行うRLSE部とを含み、
前記ヨーレート推定部は、前記車両制御パラメータである車両速度とステアリング角とを受信するように接続され、次の式
【数81】
に従って前記ヨーレート推定値を算出し、
前記制御部は、前記車両制御パラメータである車両速度V
xとステアリング角δとヨーレートrとを受信するように接続され、以下の実行可能基準
【数82】
【数83】
【数84】
【数85】
が満たされるかをチェックし、式中、V
x,MIN及びV
x,MAXは車両速度の予め定めた最小値及び最大値、δ
MIN及びδ
MAXはステアリング角の予め定めた最小値及び最大値、r
MIN及びr
MAXはヨーレートの予め定めた最小値及び最大値、a
y,MIN及びa
y,MAXは横加速度の予め定めた最小値及び最大値であり、前記実行可能基準が満たされている場合に、前記RLSE部に対して前記再帰最小二乗推定法を許可する実行可能信号を出力し、
前記RLSE部は、前記ヨーレート推定部と前記制御部とに接続され、前記ヨーレート推定部が算出した前記ヨーレート推定値を受信し、前記制御部から前記実行可能信号と同様に前記ヨーレート測定値を受信し、
前記制御部から前記実行可能信号を受信すると、前記RLSE部が、前記再帰最小二乗推定法で前記ルックアップ値を算出することを特徴とする請求項
16記載の装置。
【請求項18】
車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の推定装置であって、
アクチュエータを含む車両安定性制御システムと、
少なくとも車両速度V
x、車両ステアリング角δ、ヨーレートr、及び、横加速度a
yを含む車両制御パラメータを獲得するためのデータを検出するセンサと、
路面摩擦係数を推定するためのプログラムを記憶する1つ以上の非一時的記憶装置とを含み、
前記プログラムは、前記車両制御パラメータと再帰最小二乗推定法とに基づいて、ルックアップ値を算出し、該ルックアップ値が、前後輪の正規化された横力ψを車両ステアリング角で割った偏導関数を計算するための命令を利用して計算され、
前記正規化された横力ψは、次の式
【数86】
に従って算出され、式中、mは車両質量、F
fは前輪の横力、F
rは後輪の横力であり、算出した前記ルックアップ値と路面摩擦係数とを照合することで、記憶されているルックアップ表から前記路面摩擦係数を検索し、該路面摩擦係数を用いて前記車両に対する調整値を計算し、
前記正規化された横力ψの経時的な差に基づいた指数の忘却因子を用いて、前記ルックアップ値に対する調整値を計算し、前記車両に対する調整値を調整実行のために前記車両制御システムに出力する、プロセッサにより実行可能な命令を含み、
更に、前記センサ及び前記1つ以上の記憶装置と通信する1つ以上のプロセッサを含み、該1つ以上のプロセッサは、前記命令を受信及び実行し、かつ、前記車両パラメータを受信するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項19】
更に、正規化横力推定部と、制御部と、再帰最小二乗推定法を行うRLSE部とを含み、
前記正規化横力推定部は、前記車両制御パラメータである車両速度とヨーレートと横加速度とを受信するように接続され、次の式
【数87】
に従って前記正規化された横力ψを算出し、
前記制御部は、前記車両制御パラメータである車両速度V
xとステアリング角δとヨーレートrと横加速度a
yとを受信するように接続され、以下の実行可能基準
【数88】
【数89】
【数90】
【数91】
が満たされるかをチェックし、式中、V
x,MIN及びV
x,MAXは車両速度の予め定めた最小値及び最大値、δ
MIN及びδ
MAXはステアリング角の予め定めた最小値及び最大値、r
MIN及びr
MAXはヨーレートの予め定めた最小値及び最大値、a
y,MIN及びa
y,MAXは横加速度の予め定めた最小値及び最大値であり、前記実行可能基準が満たされている場合に、前記RLSE部に対して前記再帰最小二乗推定法を許可する実行可能信号を出力し、
前記RLSE部は、前記正規化横力推定部と前記制御部とに接続され、前記正規化横力推定部が算出した前記正規化された横力を受信し、前記制御部から前記実行可能信号と同様に前記ステアリング角δを受信し、
前記制御部から前記実行可能信号を受信すると、前記RLSE部が、前記再帰最小二乗推定法で前記ルックアップ値を算出することを特徴とする請求項
18記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、それらの全ての開示内容が参照によって本願に組み込まれる、2012年5月21日に出願された米国特許仮出願第61/649,434号、及び、2012年4月18日に出願された米国特許仮出願第61/635,122号に対する優先権の利点を主張するものである。
【0002】
本発明は、車両の安定性制御に係る路面摩擦係数のリアルタイム推定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
路面摩擦係数μは、特に高速で走る車両については、短時間で車線を大きく逸脱し得る時間変化特性を示すものである。車両の安定性制御システムを最大限に活用するために、車両走行中の路面摩擦係数μを把握することが望ましい。この情報を利用することで、制御システムは、安定性制御システムの反応を最適化する支援をするように、路面の様々の種類(アスファルト、砂利、雪、氷等)毎に、ヨー制御パラメータを変化させることができる。現在、係数μを直接的に計測する方法はなく、従って、車両で利用可能なセンサ情報を使用して、制御システムにより、係数μを推定しなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の態様)
本発明は、車両の安定性制御に係る路面摩擦係数を、リアルタイムで正確に推定するための、コンピュータプログラム、方法及び装置を提供する。本コンピュータプログラムは、記憶装置に記憶されたプログラムを含む。このプログラムは、プロセッサにより処理するように形成される。このプログラムは、検出された車両パラメータを車両から受信し、再帰最小二乗推定法(recursive least square estimation)を含む計算を行って、検出車両パラメータに基づいてルックアップ値を算出し、算出したルックアップ値とルックアップ表に格納されている路面摩擦係数とを照合することで、ルックアップ表から路面摩擦係数を検索し、路面摩擦係数を用いて車両に対する調整値を計算して、調整実行のために調整値を車両制御システムに出力する命令を含んでいる。
そして、再帰最小二乗推定法は、予め定めた実行可能基準が満たされている場合のみ、実行されることとなっている。
【0005】
ルックアップ値は、ヨーレート測定値をヨーレート推定値で割った偏導関数、或いは、前後輪の正規化された横力(normalized lateral forces)を車両ステアリング角で割った偏導関数とすることができる。
【0006】
車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の推定装置は、アクチュエータを含む車両安定性制御システムと、車両パラメータを検出するためのセンサと、路面摩擦係数を推定するためのプログラムを記憶する1つ以上の記憶装置とを含んでいる。プログラムは、
予め定められた実行可能基準が満たされている場合に、車両パラメータと再帰最小二乗推定法とに基づいてルックアップ値を算出し、算出したルックアップ値と路面摩擦係数とを照合することで、記憶されているルックアップ表から路面摩擦係数を検索し、路面摩擦係数を用いて車両に対する調整値を計算して、この調整値を調整実行のために車両制御システムに出力するという、プロセッサにより実行可能な命令を含んでいる。1つ以上のプロセッサが、センサ及び1つ以上の記憶装置と通信する。この1つ以上のプロセッサは、命令を受信及び実行し、かつ、検出した車両パラメータを受信するように構成されている。
【0007】
上述した装置により計算されるルックアップ値は、ヨーレート測定値をヨーレート推定値で割った偏導関数、或いは、前後輪の正規化された横力を車両ステアリング角で割った偏導関数とすることができる。
【0008】
上記方法及び装置で、路面摩擦係数をリアルタイムに正確に推定することができる。
【0009】
先の概要と以下の詳細な説明との双方が、単に模範的かつ説明的なものに過ぎず、クレームを制限するものでないことは、理解されるべきである。
【0010】
本明細書に組み込まれ、本明細書を構成する添付の図面は、いくつかの実施形態を示し、本開示のアルゴリズムの本質を説明するために有用な描写を伴うものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車両の安定性制御に係る路面摩擦係数のリアルタイム推定方法を示している。
【
図2】車両をμが大きい路面(アスファルト)で運転した場合の、μ及びαの推定値を示している。
【
図3】
図2と同様の車両をμが大きい面上の代わりにμが小さい路面(雪)で運転した場合の、μ及びαの推定値を示している。
【
図4】車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の別のリアルタイム推定方法を示している。
【
図5】車両をμが大きい路面(アスファルト)で運転した場合の、μ及びβの推定値を示している。
【
図6】
図5と同様の車両をμが大きい面上の代わりにμが小さい路面(雪)で運転した場合の、μ及びβの推定値を示している。
【
図7】車両の安定性制御に係る路面摩擦係数のリアルタイム推定装置を示している。
【
図8】車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の別のリアルタイム推定装置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
さて、例えば添付図面に示されている本発明の模範的な形態について、詳細に説明していくこととする。
【0013】
いくつかの理由により、ミニバン、SUV、セダン、ピックアップトラック等の車両は、アンチロックブレーキ、横転防止、スリップ制御、燃料節約等の用途のために、電子的に監視及び制御されている。全輪駆動(AWD)、後輪駆動(RWD)、前輪駆動(FWD)は、ブレーキベースシステムと作動中のトルク配分を行う動力伝達経路システムとの、一方又は双方を制御することにより動的に変化させることが可能な、トラクションコントロールシステム及び/又は安定性制御システムを有している。センサや制御装置のための、ハードウェアの多くの配置形態が存在する。
【0014】
監視及び制御のためのデータは、データ測定が困難な(backing out hard to measure data)他のデータを算出するために、収集及び使用できる。路面摩擦係数(μ)の絶対的で正確な検知を、リアルタイムに行うことは困難なままである。発明者らは、μの直接的な測定の代わりに、ゲインスケジューリングを提案している。規定したアルゴリズムでは、収集したデータを調べ、リアルタイムでμを推定する。この提案された手法では、事前にプログラムされたデータ、及び/又は、路面の変化によりもはや適切ではないデータへの、過剰な依存を回避することができる。
【0015】
リアルタイムなμの推定法は、例えば、車両がスリップ中である場合やμ特性から乖離した場合の、トラクションコントロールに用いることができる。この推定法は、ABS(アンチロックブレーキシステム)のブレーキ圧制御や、車輪速度のトルク制御に用いることができる。他の例として、この推定法は、ブレーキ力やトルク制御による、オーバーステアリング又はアンダーステアリングの補正といった、ヨー安定性の制御に用いることができる。
【0016】
この方法では、収集したデータを念入りに調べ、命令決定過程に利用するために統計手段を適用する。このように、単なるデータ抽出や数学的な「支援(backing out)」に勝る事を行い、μをリアル・タイムに検出する。
【0017】
図1は、車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の、リアルタイム推定方法を示している。この方法は、処理工程S101、S102、そして、S103を含んでいる。
図1に示されているように、処理工程S101では、いくつかの典型的な車両パラメータ(すなわち、車両速度V
X、車両ステアリング角δ、及び、ヨーレートr)を、好ましくは適切な車両センサによりリアルタイムで検出する。
【0018】
次に、処理工程S102では、検出したパラメータを用いてルックアップ値αを算出する。値αは、ヨーレート測定値をヨーレート推定値で割った偏導関数として定義される。
【数1】
上式において、
rはヨーレート測定値を表わし、r
ESTは、ヨーレート推定値を表わし、次の式
【数2】
を用いて算出される。上式において、V
Xは車両速度、δは車両ステアリング角、Lはホイールベースの長さ、k
usは車両アンダーステアの変化度(gradient)、そして、gは重力定数である。アンダーステア変化度k
usは、車両走行中の車両ヨーレートの正確な予測モデルを与えるための、キャリブレーション中に選定される所定のパラメータである。
【0019】
μが大きい路面上で車両が運転された場合、ルックアップ値αは1に略等しくなる。μが小さい路面においては、車両は、αが1より小さくなることで、コーナリング中のアンダーステアを発生させてしまう。すなわち、摩擦係数が小さくなると、αが小さくなる。
【0020】
最後の処理工程S103では、ルックアップ表を用いて、αからμ値を推定する。ルックアップ表は、μとαとの関係に基づいて、実験によって事前に準備する。
【0021】
αを正確に予測するために、処理工程S102では、再帰最小二乗推定(recursive least square estimation)(RLSE)スキームを用いる。RLSEには、様々な派生と表現がある。下記は、行列記法で書かれた、それらのうちの1つである。
【0022】
ベクトルyの入力情報値と行列Aとを備えたn次のベクトルxを推定すると仮定すると、次の関係
【数3】
に従う。上式において、εは、実際に観測したyと、予測結果Axとの間の差分を補完する確率変数ベクトル(エラー)であり、y
iはベクトルyの成分を表わし、a
ijは行列Aの成分を表わし、ε
iはベクトルεの成分を示している。式〔数3〕から、下記の最小二乗(LS)推定式
【数4】
【数5】
が生成される。上式は、重み付けされたLS推定損失関数J
m=(y−Ax)’Q(y−Ax)を最小化するものであり、Qはm×m次の重み行列、P
mは推定エラー分散行列である。次に、新しい更新情報値
【数6】
【数7】
が導出されると仮定する。上式において、スカラーy
m+1と中間行ベクトルH
m+1とは、更新情報値を示している。増加した情報値は、
【数8】
のようになるため、新しいLS推定式は、
【数9】
に応じて計算することができる。上式において、q
m+1は、スカラーy
m+1と中間行ベクトルH
m+1との更新情報値への重み付けに用いられている。損失関数
【数10】
を最小化するために、逆行列の補助定理((A+BCD)
-1=A
-1−A
-1B(C
-1+DA
-1B)
-1DA
-1と示される)に従って、式〔数9〕を
【数11】
のように変形させることができ、上式の推定エラー分散行列は、
【数12】
のようになる。式〔数11〕及び〔数12〕から、以下のRLSEスキーム
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
が導かれる。上式において、I
nはn次の単位行列、H
mは時間mでの中間行ベクトル、K
mは時間mでの推定ゲイン行列、P
mは時間mでの推定エラー分散行列である。
【0023】
更に、上記のRLSEスキームは、指数の忘却因子を備えたものにまとめることができるため、本推定法では、古いエラー(データ)が徐々に消去される。こうするために、重み行列Qを
【数17】
として設定する。上式において、λは指数の忘却因子である(λ<1)。上記の重み行列により、式〔数10〕の損失関数と、式〔数13〕〜〔数16〕に明示されている推定スキームとは、夫々、
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
のようにまとめられる。
【0024】
式〔数13〕〜〔数16〕及び〔数19〕〜〔数22〕は、RLSEの一般的な表現式である。一般的な表現式を式〔数1〕で定義した推定値αへ適用すると、式〔数3〕及び〔数19〕〜〔数22〕は、
【数23】
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
のようにまとめられる。上記の式において、α(m)は時間mでの推定スカラー値αを表わし、cは定数であり、r
MEAS,mは時間mでのヨーレート測定値を示し、r
EST,mは時間mでのヨーレート推定値を示し、α^(m)は時間mでの中間ベクトル(すなわち、[αc]’)を表わし、H
mは時間mでの中間行ベクトルであり、K
mは時間mでの推定ゲイン行列であり、そして、P
mは時間mでの推定エラー分散行列である。
【0025】
発展させた理論の典型的な実施形態では、ステアリング角の入力が、ゼロであると共に、ゼロである車両ヨーレートと等しくなるように、オフセットがゼロに等しいと仮定される。この実施形態では、c=0として、cを式〔数23〕から外すことができる。
【0026】
式〔数24〕〜〔数27〕は、時間mでの推定値αであるα(m)が、時間mでのヨーレート測定値であるr
MEAS,mを介して推定できることを明示している。本方法は再帰的であり、前の時間(すなわち、時間1、時間2、・・・、時間(m−1))のヨーレート測定値の計算に用いる。換言すれば、本方法は、前の情報値r
MEAS,1、r
MEAS,2、・・・、r
MEAS,m-1の計算に用いる。
【0027】
一方、
rMEAS,mの情報値が古くなると、指数の忘却因子λに起因して、αの推定値への影響が小さくなる。指数の忘却因子λの値は、1より小さく、
rMEAS,mの情報値を消去すべき早さに応じて調整することができる。例えば、環境(地形)の変化により、時間mと時間m+1との間で
rMEAS,mが劇的に変化する場合、時間mと時間m+1との間の
rMEAS,mの値が狭い範囲内にある場合よりも早く
rMEAS,mを消去するように、λを調整することができる。従って、本推定法は、経時的に
rMEAS,mの値を比較するプログラムを含んでいてもよい。
【0028】
本推定法の全体的な安定性を向上させるために、次の基準が満たされる場合のみ、RLSEの計算をすることが好ましい。
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
上式において、V
x,MIN及びV
x,MAXは車両速度V
xの予め定めた最小値及び最大値、δ
MIN及びδ
MAXはステアリング角δの予め定めた最小値及び最大値、r
MIN及びr
MAXはヨーレートrの予め定めた最小値及び最大値、そして、a
y,MIN及びa
y,MAXは横加速度の予め定めた最小値及び最大値である。式〔数28〕〜〔数31〕は、タイヤが直線的な範囲内で作動することと、車両がαの推定に十分なほど駆動されることとの保証に役立つものである。
【0029】
図1を再度参照すると、最適な実施を保証するために、式〔数28〕〜〔数31〕の基準が満たされる場合のみ、本RLSE推定法の実行が可能となるように、処理工程S102は、複数の下位処理工程を通して実行される。下位処理工程S1021では、車両速度V
x、車両ステアリング角δ、ヨーレート測定値
r、及び、横加速度a
yが、式〔数28〕〜〔数31〕を満たしているか否かをチェックする。式〔数28〕〜〔数31〕が満たされている場合(YES)、本方法は下位処理工程S1022に移行し、そうでない場合(NO)、本方法は戻って再度処理工程S101から始める。下位処理工程S1022では、検出した車両速度V
xと車両ステアリング角δとを用いて、式〔数2〕に従い、ヨーレート推定値r
ESTを算出する。下位処理工程S1023では、RLSEを用いて、ルックアップ値αを算出する。
【0030】
同じ車両をμが大きい路面(アスファルト)とμが小さい路面(雪)との双方で運転した場合の、夫々のα及びμの推定値を、
図2と
図3とに示している。μが大きい路面での試験では(
図2)、モデル車両とヨーレート測定値とが適切な相互関係にあるため、αが1に近いところにある。実際のμと推定値のμとがとても近く、αがμにとても近い。μが小さい路面では(
図3)、コーナリング中の車両のアンダーステアリングの要因となる、タイヤ/路面間の小さい摩擦係数により、αが0.6に略等しい。本推定法の再帰的な性質は、αがμとの適切な相互関係へと迅速に調整されることを可能にする。再帰的なロジックはバッチ式の解析よりも使用メモリが小さく、そして、式を計算的に解く必要がないため、μは合理的な時間内に非常に正確に推定される。上記の例では、125秒以内に、μを非常に正確に推定した。
【0031】
図4は、車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の、別のリアルタイム推定方法を示している。この方法は、処理工程S201、S202、S203を含んでいる。
図4に示されているように、処理工程S201では、いくつかの車両パラメータ、すなわち、車両速度V
X、ヨーレートr、車両ステアリング角δ、及び、横加速度a
yを、好ましくは適切な車両センサによりリアルタイムで検出する。
【0032】
次に、処理工程S202では、検出した値を用いてルックアップ値βを算出する。βは、前後輪の正規化された横力を車両ステアリング角で割った偏導関数として定義される。すなわち、
【数32】
となる。上式のψは正規化された横力
【数33】
であり、上式において、V
Xは車両速度、a
yは車両横加速度、mは車両質量、rは車両ヨーレート、F
fは前輪の横力、そして、F
rは後輪の横力である。
【0033】
μが大きい路面で車両が運転された場合、βは大きくなる。μが小さい路面では、車両がタイヤに大きな横力を生み出すことが不可能になる。従って、摩擦係数が小さくなると、βが小さくなる。
【0034】
上記と同様に、βはRLSEスキーム
【数34】
【数35】
【数36】
【数37】
を用いて推定することができる。上式において、β(m)は時間mでの推定スカラー値βを表わし、ψ
mは式〔数32〕に従って算出した時間mでの正規化された横力を示し、δ
mは時間mでの車両ステアリング角の測定値を示し、β^(m)は時間mでの中間ベクトルを表わし、H
mは時間mでの中間行ベクトルであり、K
mは時間mでの推定ゲイン行列であり、そして、P
mは時間mでの推定エラー分散行列である。本推定法の全体的な安定性を向上させるために、次の基準が満たされる場合のみ、RLSEの計算が可能とする。
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
上式において、a
y,MIN及びa
y,MAXは横加速度の予め定めた最小値及び最大値、V
x,MIN及びV
x,MAXは車両速度V
xの予め定めた最小値及び最大値、δ
MIN及びδ
MAXはステアリング角δの予め定めた最小値及び最大値、そして、r
MIN及びr
MAXはヨーレートrの予め定めた最小値及び最大値である。式〔数38〕〜〔数41〕は、タイヤが望ましい直線的な範囲内で作動することと、車両がβの推定に十分なほど駆動されることとの保証に役立つものである。
【0035】
特に、処理工程S202は、
図4に示されているような複数の下位処理工程を通して実行される。下位処理工程S2021では、車両速度V
x、車両ステアリング角δ、ヨーレート測定値
r、及び、横加速度a
yが、式〔数38〕〜〔数41〕を満たしているか否かをチェックする。式〔数38〕〜〔数41〕が満たされている場合(YES)、本方法は下位処理工程S2022(S2023)に移行し、そうでない場合(NO)、本方法は戻って再度処理工程S201から始める。下位処理工程S2022では、検出した車両速度V
x、ヨーレートr、横加速度a
yを用いて、式〔数33〕に従い、正規化された横力ψを算出する。下位処理工程S2023では、前述のRLSEを用いて、ルックアップ値βを算出する。
【0036】
最後の処理工程S203では、ルックアップ表を用いて、βからμ値を推定する。ルックアップ表は、μとβとの関係に基づいて、実験によって事前に準備する。
【0037】
同じ車両をμが大きい路面(アスファルト)とμが小さい路面(雪)との双方で運転した場合の、夫々のμ及びβの推定値を、
図5と
図6とに示している。再度、明らかにした推定法を利用して、μが大きいシナリオにおいてμを適切に推定し、推定値が実際の値にとても近くなるようにする。μが小さい状況では、μの推定値がμの実際の値に迅速に近くなる。すなわち、再帰的なロジックはバッチ式の解析よりも使用メモリが小さく、そして、式を計算的に解く必要がないため、μは合理的な時間内に非常に正確に推定される。上記の例では、約125秒以内に、βが実際の路面摩擦係数と適切な相互関係になった。
【0038】
上記に示した路面摩擦係数のリアルタイム推定法の手順は、車両に適用することができ、コンピュータで読み取り可能な装置中の処理命令に含ませることができる。このような車両は、動力伝達装置、燃料系統、送電経路、エンジン、車輪、或いは、アクスルと共に適切に配置された、センサとアクチュエータとを有していてもよい。又、コンピュータで読み取り可能な装置は、ダッシュボード・エレクトロニクスシステムや、他の車載コンピュータシステムの一部であってもよい。集積チップを有するコンピュータシステムも考えられる。最低でも、この装置は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、DIMM、或いは、暫定的ではない同等品のうちの、1つ以上を備えているべきである。又、この装置は、1つ以上のコアを有するプロセッサによるアクセスに対して、互換性があるべきである。
【0039】
一定のデータとコマンドとを、センサ、CPU、車両の他の部位の間で、データバス等の電気回路機構を通して、或いは、無線により送信できるが、推定法のプログラムと補助データとは、コンピュータで読み取り可能な1つ以上の実体的な記憶装置に記憶されることになる。プログラムとデータとは、記憶装置からプロセッサへ読み取ることができる。データとアルゴリズムとは、更なる処理と車両制御とに用いることが可能な処理結果を作成するために、プロセッサの中で使用することができる。この処理結果は、特にプログラムが忘却因子λを適用する処理工程を含んでいる場合に、同様の又は異なる実体的な記憶装置に記憶させることができる。更に、収集したデータは、記憶装置に記憶することができるが、検出手段からプロセッサへ流すこともできる。
【0040】
図7は、車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の、リアルタイム推定装置を示している。この装置は、検出手段301と、ルックアップ値計算手段302と、ルックアップ手段303とを含んでいる。検出手段は、1つ以上の速度センサと、ステアリング角度センサと、ヨーレートセンサと
、横加速度センサとを含んでおり、これらは、車両速度、ステアリング角、ヨーレート、横加速度をリアルタイムで検出するために用いられる。
【0041】
これらのセンサは、例えば、アクセルペダルに接続された圧力センサ、タイヤ或いはステアリングホイールに接続された相対運動センサ、車両フレーム或いは車体上の相対角度センサ、燃料経路中の燃料消費量センサ、エンジンのRPMセンサ等で構成されていてもよい。ヨーと横加速度とは、慣性計測装置(IMU)で検知できる。車輪速度は、アクスルの端部に取り付けられたホール効果センサで測定できる。ステアリング角は、実際のステアリングホイール角を測定する、ハンドル軸に取り付けられたセンサを用いて測定できる。速度センサは、車両の各車輪にセンサがあるような、複数の車輪センサで構成されていてもよい。これは、乗用車やピックアップトラックについては、4つの車輪の夫々に対して1つの車輪センサがあることを意味する。アクスル毎に2つより多くの車輪、又は、2つより多くのアクスルを備えた車両は、別の配置形態が必要になる。
【0042】
各センサは、ルックアップ値計算手段302に信号を送信するための、適切な電気通信機能を有しており、これは、車載コンピュータやCPU304としてのチップの、一部であってもよい。CPU304は、収集データの処理に必要なアルゴリズムを格納し、かつ、μの推定に必要なデータを格納及び利用するための、電気回路機構、記憶装置、プロセッサを少なくとも備えている。CPU304は、安定性制御システム305に割り当てられた記憶装置及びプロセッサを備えるか、或いは、その両者と通信することができる。すなわち、記憶装置は、共用のものであってもよく、或いは、推定や制御の各機能専用のものであってもよい。同様に、プロセッサは、専用或いは共用のものであってよい。専用の場合は、ハードウェアの追加が必要となり、他方、共用の場合は、適切な割り当てプログラム及び電気回路機構が必要になる。いずれの場合も、格納されたデータとアルゴリズムとは、計算処理のためにプロセッサに送られることとなる。
【0043】
適切なBUSや他の電気回路機構は、記憶装置に少なくともルックアップ表(LUT)等の計算機データ構造を備えた、ルックアップ手段303と通信できる。ルックアップ手段303は、CPU304の共用の記憶装置及びプロセッサの一部であってもよく、或いは、ルックアップ手段303を、専用の記憶装置及びプロセッサに関係させてもよい。
【0044】
ルックアップ値計算手段302は、上述した式〔数1〕及び〔数2〕に定義したような推定値αを計算する。この計算手段は、3つの部位、すなわち、ヨーレート推定部3021、制御部3022、RLSE部3023を備えている。ヨーレート推定部3021は、検出手段301の、速度センサとステアリング角度センサとに接続されており、センサが検出した車両速度V
xと車両ステアリング角δとを受信し、上述した式〔数2〕に従って、ヨーレート推定値r
ESTを算出する。制御部3022は、速度センサ、ステアリング角度センサ、ヨーレートセンサに接続されており、センサにより検出した、車両速度V
x、車両ステアリング角δ、ヨーレートr、横加速度a
yを受信する。制御部3022は、V
x,MIN、V
x,MAX、δ
MIN、δ
MAX、r
MIN、r
MAX、a
y,MIN、及び、a
y,MAXの、予め定めた値を格納し、これらの値と、V
x、δ、
r、a
yとを夫々比較して、V
x、δ、
r、a
yが、上記の式〔数28〕〜〔数31〕を満たしているか否かをチェックする。式〔数28〕〜〔数31〕が満たされている場合、制御部3022は、RLSE部3023に対し、RLSEの計算を許可するイネーブル信号を出力する。RLSE部3023は、ヨーレート推定部と制御部とに接続され、ヨーレート推定部3021により算出したヨーレート推定値r
ESTを受信することができ、又、イネーブル信号と同様にヨーレート検出値
rを、制御部3022から受信することができる。制御部3022からイネーブル信号を受信すると、RLSE部3023は、上述した式〔数24〕〜〔数27〕に従い、RLSE法でルックアップ値αを算出する。
【0045】
ルックアップ手段303は、αからμを推定する際にルックアップ表を用いる。ルックアップ表は、μとαとの関係に基づいて、実験によって事前に準備する。ルックアップ表は、プロセッサと相互使用するための記憶装置に記憶されている。
【0046】
一度μを推定すれば、ヨー制御パラメータのような車両調整を計算及び実行するように構成された、安定性制御システム305でμを使用することができる。車両306は、安定性制御システム305から、ヨーを補正するような命令を受信することができる。他の補正を、オーバーステアリング、アンダーステアリング、ABS(アンチロックブレーキ)のために実行することとしてもよい。
【0047】
図8は、車両の安定性制御に係る路面摩擦係数の、別のリアルタイム推定装置を示している。上記と同様に、この装置は、検出手段401と、ルックアップ値計算手段402と、ルックアップ手段403とを含んでいる。検出手段は、速度センサ、ステアリング角度センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサを含んでおり、これらは夫々、車両の、速度、ステアリング角、ヨーレート、横加速度を、リアルタイムで検出するために用いられる。上述のように、速度センサは、車両の種類に合わせて適切に、複数の車輪センサで構成されていてもよい。
【0048】
上述のように、これらのセンサは、例えば、アクセルペダルに接続された圧力センサ、タイヤ或いはステアリングホイールに接続された相対運動センサ、車両フレーム或いは車体上の相対角度センサ、燃料経路中の燃料消費量センサ、エンジンのRPMセンサ等で構成されていてもよい。追加の例として、ヨーと横加速度とは、慣性計測装置(IMU)で検知できる。車輪速度は、アクスルの端部に取り付けられたホール効果センサで測定でき、そして、ステアリング角は、実際のステアリングホイール角を測定する、ハンドル軸に取り付けられたセンサを用いて測定できる。
【0049】
各センサは、ルックアップ値計算手段402に信号を送信するための、適切な電気通信機能を有しており、これは、車載コンピュータやCPU404としてのチップの、一部であってもよい。CPU404は、収集データの処理に必要なアルゴリズムを格納し、かつ、βの推定に必要なデータを格納及び利用するための、電気回路機構、記憶装置、プロセッサを少なくとも備えている。CPU404は、安定性制御システム405に割り当てられた記憶装置及びプロセッサを備えるか、或いは、その両者と通信することができる。すなわち、記憶装置は、共用のものであってもよく、或いは、推定や制御の各機能専用のものであってもよい。同様に、プロセッサは、専用或いは共用のものであってよい。専用の場合は、ハードウェアの追加が必要となり、他方、共用の場合は、適切な割り当てプログラムが必要になる。いずれの場合も、格納されたデータとアルゴリズムとは、計算処理のためにプロセッサに送られることとなる。
【0050】
適切なBUSや他の電気回路機構は、記憶装置にルックアップ表(LUT)等の計算機データ構造を備えた、ルックアップ手段403と通信できる。ルックアップ手段403は、CPU404の共用の記憶装置及びプロセッサの一部であってもよく、或いは、ルックアップ手段403は、専用の記憶装置及びプロセッサを含んでいてもよい。
【0051】
ルックアップ値計算手段402は、上述した式〔数32〕及び〔数33〕に定義したような推定値βを計算する。この計算手段は、3つの部位、すなわち、正規化横力推定部4021、制御部4022、RLSE部4023を備えている。推定部4021は、検出手段のセンサが検出した、車両の、車両速度V
x、ヨーレート
r、横加速度a
yを受信し、式〔数33〕に従って、正規化された横力ψを算出する。制御部4022は、速度センサ、ステアリング角度センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサに接続されており、センサにより検出した、車両速度V
x、車両ステアリング角δ、ヨーレート
r、横加速度a
yを受信する。制御部4022は、V
x,MIN、V
x,MAX、δ
MIN、δ
MAX、r
MIN、r
MAX、a
y,MIN、及び、a
y,MAXの、予め定めた値を格納し、これらの値と、V
x、δ、
r、a
yとを夫々比較して、V
x、δ、
r、a
yが、上記の式〔数38〕〜〔数41〕を満たしているか否かをチェックする。式〔数38〕〜〔数41〕が満たされている場合、制御部4022は、RLSE部4023に対し、RLSEの計算を許可するイネーブル信号を出力する。RLSE部4023は、正規化横力推定部4021と制御部4022とに接続され、推定部4021により算出した正規化された横力ψを受信することができ、又、イネーブル信号と同様にステアリング角の検出値δを、制御部4022から受信することができる。制御部4022からイネーブル信号を受信すると、RLSE部4023は、上述した式〔数34〕〜〔数37〕に従い、RLSE法でルックアップ値βを算出する。
【0052】
ルックアップ手段403は、βからμを推定する際にルックアップ表を用いる。ルックアップ表は、μとβとの関係に基づいて、実験によって事前に準備する。ルックアップ表は、プロセッサと相互使用するための記憶装置に記憶されている。
【0053】
一度βを推定すれば、ヨー制御パラメータのような車両調整を計算及び実行するように構成された、安定性制御システム405でβを使用することができる。車両406は、安定性制御システム405から、ヨーを補正するような命令を受信することができる。他の補正を、オーバーステアリング、アンダーステアリング、ABS(アンチロックブレーキ)のために実行することとしてもよい。
【0054】
上記の記載では、添付図面に関して様々な教旨について説明してきた。しかしながら、それらに対して、続くクレームのより広い範囲から外れずに、他の様々な修正及び変更が可能なことは明白であろう。本明細書及び図面は、適宜、限定的ではなく説明的な観念で考慮されることになる。
【0055】
例えば、上述した第1及び第2の方法において、ルックアップ値には、夫々、α(ヨーレート測定値をヨーレート推定値で割った偏導関数)又はβ(前後輪の正規化された横力を車両ステアリング角で割った偏導関数)を設定しているが、一例として横加速度等の、他のルックアップ値を用いてもよい。
【0056】
他の具体例については、本明細書の考察と開示された教旨の実施とから、当業者には明白であろう。本説明と実施例とが好適な例として考慮されることが意図されており、本発明の真の範囲と本質とは、続くクレームに示されている。
【符号の説明】
【0057】
3021:ヨーレート推定部、3022、4022:制御部、3023、4023:RLSE部、4021:正規化横力推定部、305、405:安定性制御システム、306、406:車両