【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
以下の(a)、(b)、(c)または(d)に示すDNA、および以下の(e)、(f)、(g)または(h)に示すDNAを保有し、フタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生産する能力を有する微生物を用いて、水溶液中でフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させた後に、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を4−ヒドロキシフタル酸に変換して、該水溶液中に4−ヒドロキシフタル酸を生成、蓄積させ、該水溶液から4−ヒドロキシフタル酸を採取することを特徴とする4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA。
(d)配列番号1に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(f)配列番号4に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号3に示される塩基配列からなるDNA。
(h)配列番号3に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
前記微生物を用いて、水溶液中でフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程が、前記微生物菌体を含む培養液にフタル酸を添加し、該培養液中に4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程である、請求項1記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
前記微生物を用いて、水溶液中でフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程が、前記微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物およびフタル酸を水性媒体中に存在せしめ、該媒体中に4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程である、請求項1記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を4−ヒドロキシフタル酸に変換する工程が、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を含む水溶液のpHと温度をそれぞれpH6.8以下かつ60℃以上にする、または該溶液のpHと温度をそれぞれpH11.5以上かつ20℃以上にする工程である、請求項1〜3のいずれか一項記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
前記微生物が4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素活性が欠損または減弱している微生物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
前記微生物が、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素活性を欠損または減弱している宿主微生物に、前記(a)、(b)、(c)または(d)に示すDNA、および前記の(e)、(f)、(g)または(h)に示すDNAを形質転換法により導入して得られることを特徴とする、請求項5記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造方法。
前記微生物が下記(m)、(n)、(o)または(p)に示すDNAを導入することによりフタル酸トランスポーター活性が増強している微生物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
(m)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(n)配列番号8に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号7に示される塩基配列からなるDNA。
(p)配列番号7に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNA。
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法により4−ヒドロキシフタル酸を生成させた後、4−ヒドロキシフタル酸に以下の(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換し、該水溶液から3−ヒドロキシ安息香酸を採取することを特徴とする3−ヒドロキシ安息香酸の製造法。
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(j)配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつ4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号5に示される塩基配列からなるDNA。
(l)配列番号5に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
前記4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物が(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAを形質転換法により導入して得られたことを特徴とする、請求項8記載の3−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法により4−ヒドロキシフタル酸を生成させた後、(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAに加えて、3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を4−ヒドロキシフタル酸に混合することにより、該水溶液中にゲンチジン酸を生成、蓄積させ、該水溶液からゲンチジン酸を採取することを特徴とするゲンチジン酸の製造法。
前記4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物が、(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAに加えて、3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを形質転換法により導入して得られたことを特徴とする、請求項10記載のゲンチジン酸の製造方法。
前記4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物の菌体を含む培養液、もしくは該微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を含む水性媒体の中に、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法により得られた4−ヒドロキシフタル酸を添加し、混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸をゲンチジン酸に転換し、該培養液または該媒体からゲンチジン酸を採取することを特徴とする請求項10または11記載のゲンチジン酸の製造法。
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、廃棄ポリエステルの分解によっても得られる安価なフタル酸を原料として4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸およびゲンチジン酸を生産するための方法を提供することにある。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、バークホルデリア・マルチボランス(
Burkholderia multivorans)ATCC17616株(バークホルデリア・セパシアDBO1株と同じ菌株)のフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質とフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質とから成るフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼによりフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させた後に、該溶液のpHと温度をそれぞれpH6.8以下かつ60℃以上にする、または該溶液のpHと温度をそれぞれpH11.5以上かつ温度を20℃以上にすることにより、より好ましくは、該溶液のpHと温度をそれぞれpH5.3以下かつ温度を80℃以上にする、または該溶液のpHと温度をそれぞれpH13以上かつ温度を40℃以上にすることにより、該水溶液中に4−ヒドロキシフタル酸を生成、蓄積できることを見出した(
図1参照)。
【0010】
続いて、バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株の4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素をクローニングし、大腸菌で発現させ、上記で調製した4−ヒドロキシフタル酸を混合したところ、本酵素は4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換する活性、すなわち4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を保有しており、3−ヒドロキシ安息香酸を効率よく生産できることを見出した(
図1参照)。さらに、コリネバクテリウム・グルタミカム(
Corynebacterium glutamicum)ATCC 13032株とポラロモナス・ナフタレニボランス(
Polaromonas naphthalenivorans)CJ2株から3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼをクローニングし、4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素とともに大腸菌で発現させ、上記で調製した4−ヒドロキシフタル酸を混合したところ、ゲンチジン酸を効率よく生産できることを見出し(
図1参照)、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)に関する。
【0012】
(1)以下の(a)、(b)、(c)または(d)に示すDNA、および以下の(e)、(f)、(g)または(h)に示すDNAを保有し、フタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生産する能力を有する微生物を用いて、水溶液中でフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させた後に、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を4−ヒドロキシフタル酸に変換して、該水溶液中に4−ヒドロキシフタル酸を生成、蓄積させ、該水溶液から4−ヒドロキシフタル酸を採取することを特徴とする4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるDNA。
(d)配列番号1に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(e)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(f)配列番号4に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
(g)配列番号3に示される塩基配列からなるDNA。
(h)配列番号3に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をコードするDNA。
【0013】
(2)前記微生物を用いて、水溶液中でフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程が、前記微生物菌体を含む培養液にフタル酸を添加し、該培養液中に4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程である、前記(1)記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
【0014】
(3)前記微生物を用いて、水溶液中でフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程が、前記微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物およびフタル酸を水性媒体中に存在せしめ、該媒体中に4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させる工程である、前記(1)記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
【0015】
(4)4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を4−ヒドロキシフタル酸に変換する工程が、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を含む水溶液のpHと温度をそれぞれpH6.8以下かつ60℃以上にする、または該溶液のpHと温度をそれぞれpH11.5以上かつ20℃以上にする工程である、前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
【0016】
(5)前記微生物が4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素活性が欠損または減弱している微生物であることを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれか1項に記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
【0017】
(6)前記微生物が、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素活性を欠損または減弱している宿主微生物に、前記(a)、(b)、(c)または(d)に示すDNA、および前記の(e)、(f)、(g)または(h)に示すDNAを形質転換法により導入して得られることを特徴とする、(5)記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造方法。
【0018】
(7)前記微生物が下記(m)、(n)、(o)または(p)に示すDNAを導入することによりフタル酸トランスポーター活性が増強している微生物であることを特徴とする、(1)から(6)のいずれか一項記載の4−ヒドロキシフタル酸の製造法。
(m)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(n)配列番号8に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号7に示される塩基配列からなるDNA。
(p)配列番号7に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0019】
(8)(1)から(7)のいずれか1項に記載の方法により4−ヒドロキシフタル酸を生成させた後、4−ヒドロキシフタル酸に以下の(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換し、該水溶液から3−ヒドロキシ安息香酸を採取することを特徴とする3−ヒドロキシ安息香酸の製造法。
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(j)配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつ4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(k)配列番号5に示される塩基配列からなるDNA。
(l)配列番号5に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0020】
(9)前記4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物が(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAを形質転換法により導入して得られたことを特徴とする、(8)記載の3−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
【0021】
(10)前記4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物の菌体を含む培養液、もしくは該微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を含む水性媒体の中に、(1)から(7)のいずれか1項に記載の方法により得られた4−ヒドロキシフタル酸を添加し、混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換し、該培養液または該媒体から3−ヒドロキシ安息香酸を採取することを特徴とする3−ヒドロキシ安息香酸の製造法。
【0022】
(11)(1)から(7)のいずれか1項に記載の方法により4−ヒドロキシフタル酸を生成させた後、(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAに加えて、3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物の培養物または該培養物の処理物を4−ヒドロキシフタル酸に混合することにより、該水溶液中にゲンチジン酸を生成、蓄積させ、該水溶液からゲンチジン酸を採取することを特徴とするゲンチジン酸の製造法。
【0023】
(12)前記4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物が、(i)、(j)、(k)または(l)に示すDNAに加えて、3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを形質転換法により導入して得られたことを特徴とする、(11)記載のゲンチジン酸の製造方法。
【0024】
(13)前記4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物の菌体を含む培養液、もしくは該微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を含む水性媒体の中に、(1)から(7)のいずれか1項に記載の方法により得られた4−ヒドロキシフタル酸を添加し、混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸をゲンチジン酸に転換し、該培養液または該媒体からゲンチジン酸を採取することを特徴とする(11)または(12)記載のゲンチジン酸の製造法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明で用いられるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質としては、例えば、配列番号2で表される、バークホルデリア・マルチボランスATCC17616
株由来のアミノ酸配列を有するタンパク質があげられる。本菌株はアメリカ・タイプ・カルチャー・コレクション(以下、必要に応じてATCCと略記する)から入手することができる。また、本発明で用いられるフタル酸ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質としては、配列番号2のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をあげることができる。また、該タンパク質として、配列番号2のアミノ酸配列
と90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をあげることができる。ここで、「フタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能」とはフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質とともにフタル酸と反応させたときに4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成しうる機能を意味する。
【0028】
本発明で用いられるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質としては、例えば、配列番号4で表される、バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株
由来のアミノ酸配列を有するタンパク質があげられる。また、本発明で用いられるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質としては、配列番号4のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をあげることができる。また、該タンパク質として、配列番号4のアミノ酸配列
と90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸への転換に関わる機能を有するタンパク質をあげることができる。ここで、「フタル酸から4,5−シス−ジヒドロ
ジオールフタル酸への転換に関わる機能」とはフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質とともにフタル酸と反応させたときに4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成しうる機能を意味する。
【0029】
本発明で用いられる4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質としては、例えば、配列番号6で表される、バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株
由来のアミノ酸配列を有する4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素タンパク質があげられる。また、本発明で用いられる4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質としては、配列番号6のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつ4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をあげることができる。また、該タンパク質として、配列番号6のアミノ酸配列
と90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をあげることができる。ここで、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性とは、4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換する活性を意味する。
【0030】
本発明で用いられる3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(
Corynebacterium glutamicum)ATCC13032株のGenBank(以下、GenBankをGBと略す)アクセッション番号NP_602220のタンパク質、コリネバクテリウム・エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)YS-314株のGBアクセッション番号ZP_05751298のタンパク質、ロドコッカス・ジョスティ(
Rhodococcus jostii)RHA1株のGBアクセッション番号YP_701838のタンパク質、ポラロモナス・ナフタレニボランス(
Polaromonas napHthalenivorans)CJ2株のGBアクセッション番号ABM38442のタンパク質、ラストニア・ユートロファ(
Ralstonia eutropHa)H16株のGBアクセッション番号YP_729033のタンパク質、バークホルデリア・マルチボランス(
Burkholderia multivorans)ATCC17616株のGBアクセッション番号YP_001584411のタンパク質があげられる。これらの菌株は、ATCC、独立行政法人製品基盤技術基盤機構・生物遺伝資源部門(以下、必要に応じてNBRCと略記する)、または独立行政法人理化学研究 筑波研究所・バイオリソースセンターなどから入手することができる。
【0031】
上記のフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質、フタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質、または3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、各々の目的酵素活性を有するタンパク質は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、Nucleic Acids Res., 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Res., 13, 4431 (1985)、Proc.Natl. Acad. Sci., USA, 82, 488 (1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、各タンパク質において特定の位置に欠失、置換もしくは付加が導入されるようにDNAに部位特異的変異を導入することにより取得することができる。欠失、置換または付加される1または数個というアミノ酸の数は、個々の酵素活性が維持される限り特に限定されないが、元のアミノ酸配列との違いの個数以内であることが望ましく、1〜20個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個が特に好ましい。
【0032】
本発明で用いられるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号1で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
【0033】
本発明で用いられるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号3で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
【0034】
本発明で用いられる4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号5で表される塩基配列を有するDNAがあげられる。
【0035】
本発明で用いられる3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAとしては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のGBアクセッション番号NP_602220のタンパク質をコードするDNA(配列番号44)、コリネバクテリウム・エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)YS-314株のGBアクセッション番号ZP_05751298のタンパク質をコードするDNA、ロドコッカス・ジョスティ(
Rhodococcus jostii)RHA1株のGBアクセッション番号YP_701838のタンパク質をコードするDNA、ポラロモナス・ナフタレニヴォランス(
Polaromonas napHthalenivorans)CJ2株のGBアクセッション番号ABM38442のタンパク質をコードするDNA(配列番号46)、ラストニア・ユートロファ(
Ralstonia eutropHa)H16株のGBアクセッション番号YP_729033のタンパク質をコードするDNA、バークホルデリア・マルチボランス(
Burkholderia multivorans)ATCC17616株のGBアクセッション番号YP_001584411のタンパク質をコードするDNAがあげられる。
【0036】
本発明のDNAには、各DNAがコードするタンパク質が本発明の目的の酵素活性を失わない範囲内で置換変異、欠失変異、挿入変異などの変異が導入されたDNA、例えば、配列番号1、3または5に表わされるDNAの全部もしくは一部をプローブとして、ハイブリダイゼーション法によってストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも包含する。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとは、具体的には、DNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0 MのNaClの存在下で65℃でハイブリダイゼーションを行った後
、0.1倍濃度のSSC溶液(1倍濃度
のSSC溶液の組成は、150 mM NaCl、15 mM クエン酸ナトリウムである)の中、65℃でフィルターを洗浄することにより同
定できるDNAを意味する。なお、ハイブリダイゼーションの実験法は、モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning, A laboratory manual)、第2版〔サンブルック(Sambrook)、フリッチ(Fritsch) 、マニアチス(Maniatis)編集、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press) 、1989年刊〕に記載されている。
【0037】
4−ヒドロキシフタル酸の生産に用いられる本発明の微生物としては、上記フタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質をコードするDNAおよびフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質をコードするDNAを保有し、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生産する能力を有する微生物であれば、いずれの微生物を用いることができる。すなわち前記(1)記載のDNAを保有し、かつフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生産する能力を有する微生物を用いることができる。このような性質を有する微生物は、前記(1)に記載したDNAのうち1つ以上のDNAを組換え技術を用いて宿主細胞に導入して得た形質転換体であってもよい。
【0038】
また、4−ヒドロキシフタル酸の生産に用いられる微生物としては、4,5−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素が存在すると、生成した4,5−ジヒドロジオールフタル酸が4,5−ジヒドロキシフタル酸に変換する可能性があることから、4,5−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素活性を失った、または減弱した微生物であることが望ましい。したがって、4,5−ジヒドロジオールフタル酸・ジヒドロゲナーゼ活性を有する微生物については、組換え技術などを用いて4,5−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素タンパク質(例えば、GBアクセッション番号BAG45582やYP_001948118)をコードするDNAに変異や欠失を導入することにより、4,5−ジヒドロジオールフタル酸・ジヒドロゲナーゼ活性を失った、または減弱した菌株を用いることが望ましい。または組換え技術などを用いて、4,5−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素タンパク質をコードするDNAの転写に関わるプロモーターへの変異導入、または当該タンパク質の翻訳開始領域への変異導入、またはアンチセンスRNA法により、当該タンパク質の発現を欠損させた、または減弱させた菌株を用いることが望ましい。
【0039】
4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸の生産に用いられる本発明の微生物としては、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを保有し、かつ4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物であれば、いずれの微生物を用いることができる。すなわち前記(7)記載のDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を生産する能力を有する微生物を用いることができる。このような性質を有する微生物は、前記(8)に記載したDNAを組換え技術を用いて宿主細胞に導入して得た形質転換体であってもよい。
【0040】
4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸の生産に用いられる本発明の微生物としては、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAに加えて、3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを保有し、かつ4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物であれば、いずれの微生物を用いることができる。すなわち前記(10)記載のDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物を用いることができる。このような性質を有する微生物は、前記(11)に記載したDNAを組換え技術を用いて宿主細胞に導入して得た形質転換体であってもよい。
【0041】
以下に、DNAのクローニングと形質転換株の作製方法について詳しく述べる。
【0042】
上述したバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株、コリネバクテリウム・エフィシェンスYS-314株、ロドコッカス・ジョスティRHA1株、ポラロモナス・ナフタレニヴォランスCJ2株、ラストニア・ユートロファH16株などの細菌は、上記の微生物分譲機関が推奨する培養条件または通常用いられる公知の方法により培養する。培養後、公知の方法(例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーに記載の方法)により、該微生物の染色体DNAを単離し精製する。この染色体DNAから合成DNAを用いて、ハイブリダイゼイション法またはPCR法などにより、目的のタンパク質をコードするDNAを含む断片を取得することができる。
【0043】
目的のタンパク質をコードするDNAは化学合成することによっても得ることができる。該合成DNAは、たとえばバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株由来のフタル酸4,5ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質をコードするDNAの配列番号1で表される塩基配列、およびバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株由来のフタル酸4,5ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質をコードするDNAの配列番号3で表される塩基配列、およびバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株由来の4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAの配列番号5で表される塩基配列に基づいて設計することができる。また、3−ヒドロキシ安息香酸−6−ヒドロキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする合成DNAとしては、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のGBアクセッション番号NP_602220のタンパク質をコードするDNAの塩基配列、コリネバクテリウム・エフィシェンスYS-314株のGBアクセッション番号ZP_05751298のタンパク質をコードするDNAの塩基配列、ロドコッカス・ジョスティRHA1株のGBアクセッション番号YP_701838のタンパク質をコードするDNAの塩基配列、ポラロモナス・ナフタレニヴォランスCJ2株のGBアクセッション番号ABM38442のタンパク質をコードするDNAの塩基配列、ラストニア・ユートロファH16株のGBアクセッション番号YP_729033のタンパク質をコードするDNAの塩基配列、バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株のGBアクセッション番号YP_001584411のタンパク質をコードするDNAの塩基配列に基づいて設計することができる。
【0044】
上記DNAを連結するベクターとしては、エシェリヒア・コリK12株などにおいて自立複製可能なベクターであればプラスミドベクター、ファージベクター等いずれも使用可能であるが、具体的には、pUC19〔Gene, 33, 103 (1985)〕、pUC18、pBR322、pHelix1(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、ZAP Express〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 58 (1992)〕、pBluescript II SK(+)〔ストラタジーン社製、Nucleic Acids Res., 17, 9494 (1989)〕、pUC118(タカラバイオ社製)等を用いることができる。
【0045】
該ベクターに上記で取得したDNAを連結して得られる組換えDNAの宿主に用いるエシェリヒア・コリは、エシェリヒア・コリに属する微生物であればいずれでも用いることができるが、具体的には、エシェリヒア・コリ(
Escherichia coli) XL1-Blue MRF'〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 81 (1992)〕、エシェリヒア・コリC600〔Genetics, 39, 440 (1954)〕、エシェリヒア・コリY1088〔Science, 222,778 (1983)〕、エシェリヒア・コリY1090〔Science, 222, 778 (1983)〕、エシェリヒア・コリNM522〔J. Mol. Biol., 166, 1 (1983)〕、エシェリヒア・コリK802〔J. Mol. Biol., 16, 118 (1966)〕、エシェリヒア・コリJM105〔Gene, 38, 275 (1985)〕、エシェリヒア・コリJM109、エシェリヒア・コリBL21等をあげることができる。
【0046】
ロドコッカス(
Rhodococcus)属、コマモナス(
Comamonas)属、コリネバクテリウム(
Corynebacterium)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属、ポラロモナス(
Polaromonas)属、ラルストニア(
Ralstonia)属またはバークホルデリア(
Burkholderia属)に属する微生物の中に、上記DNAを導入するときは、これら微生物の中で自立複製可能なベクターを用いる。好ましくは、該微生物のいずれかとエシェリヒア・コリK12株の両方の微生物の中で自立複製可能なシャトル・ベクターを用いて、組換えDNAを宿主となる該微生物に導入することができる。
【0047】
組換えDNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)〕、エレクトロポレーション法〔Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)〕等をあげることができる。
【0048】
上記のようにして得られた形質転換体から組換えDNAを抽出し、該組換えDNAに含まれる本発明のDNAの塩基配列を決定することができる。塩基配列の決定には、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばジデオキシ法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463 (1977)〕または3730xl型DNAアナライザー(アプライド・バイオシステムズ社製)等の塩基配列分析装置を用いることができる。
【0049】
また、上記において決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等を用いて化学合成することによっても目的とするDNAを調製することもできる。
【0050】
上記のフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質、フタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質および/または3−ヒドロキシ安息香酸−6−ヒドロキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を発現する形質転換体は、下記の方法を用いて上記のDNAを宿主細胞中で発現させることによって得られる。
【0051】
上記タンパク質をコードするDNAを用いる際には、必要に応じて、本発明のタンパク質をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製することができる。また、該タンパク質をコードする部分の塩基配列を、宿主の発現に最適なコドンとなるように、塩基を置換することにより、該タンパク質の生産率を向上させることもできる。本発明のDNAを発現する形質転換体は、上記DNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えDNAを作製し、該組換えDNAを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより取得することができる。
【0052】
本発明のタンパク質を発現させる宿主としては、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。好ましくは、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の代謝能を有していない微生物を用いることができる。より好ましくは、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の代謝能を有していないエシェリヒア属(
Escherichia)、ロドコッカス(
Rhodococcus)属、コマモナス(
Comamonas)属、コリネバクテリウム(
Corynebacterium)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属、ポラロモナス(
Polaromonas)属、ラルストニア(
Ralstonia)属またはバークホルデリア(
Burkholderia属)の細菌をあげることができる。さらに好ましくは、エシェリヒア・コリ(
Escherichia coli)K-12株をあげることができる。
【0053】
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明のDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
【0054】
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合は、本発明のDNAを含有してなる組換えDNAは原核生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列、より構成された組換えDNAであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0055】
本発明のタンパク質、または、該タンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを大腸菌などの微生物に導入し、発現するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、ColE1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミドあるいはその誘導体が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、塩基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位などによってプラスミドに改変を施したものを意味する。なお、ここでいう改変とは、変異剤やUV照射などによる変異処理、あるいは自然変異などによる改変をも含む。より具体的には、ベクターとしては、例えば、pUC19〔Gene, 33, 103 (1985)〕、pUC18、pBR322、pHelix1(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)、pKK233-2(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pET-3(ノバジェン社製)pBluescriptII SK(+)、pBluescript II KS(+)(ストラタジーン社製)、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUC118(タカラバイオ社製)等を用いることができる。
【0056】
プロモーターとしては、大腸菌(エシェリヒア・コリ)等の宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター等の、T7プロモーターなどの大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、およびtacプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等、およびシュードモナス・プチダのTOLプラスミドのXylSタンパク質により制御されるPmプロモータを用いることができる。
【0057】
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば5〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。本発明の組換えDNAにおいては、本発明のDNAの発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0058】
組換えDNAの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69, 2110 (1972) 〕、エレクトロポレーション法〔Nucleic Acids Res., 16, 6127 (1988)〕、接合伝達法〔J. G. C. Ottow, Ann. Rev.Microbiol., Vol.29, p.80 (1975)〕、細胞融合法〔M.H. Gabor, J. Bacteriol., Vol.137, p.1346 (1979)〕等をあげることができる。
【0059】
組換えDNA技術などを用いて、上記いずれか1つ以上のタンパク質の生産量が野生株と比較して増強した微生物を作製し、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸の生産量をあげることができる。具体的には、上記いずれかのタンパク質をコードする遺伝子を発現させるためのプロモーターとして天然のプロモーターよりも転写活性が強いプロモーターを用いる、あるいは該タンパク質をコードする遺伝子の転写を終結するためのターミネーターとして天然のターミネーターよりも転写終結活性が強いターミネーターを用いる、あるいは発現ベクターとして高コピー数ベクターを利用すること、相同組換えで染色体上に組み込むことなどがあげられる。
【0060】
以上のようにして得られるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質とフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質を発現している微生物を用いることにより、フタル酸から4−ヒドロキシフタル酸を製造することができる。すなわち当該微生物を液体培地で培養し、培養液中に0.1 mM〜1 Mのフタル酸を加えることにより、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させた後、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を4−ヒドロキシフタル酸に変換する操作、例えば、該培養液中のpHを硫酸や塩酸などの酸の添加によりpH6.8以下、好ましくはpH5.3以下にし、さらに該培養液中の温度を60℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上にして、一定時間、好ましくは1時間以上放置することにより、該培養液中に4−ヒドロキシフタル酸を生成、蓄積させることができる。該培養液中への酸の添加の代わりに、アンモニア水や水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液の添加によりpH11.5以上、好ましくはpH13以上にした後、該培養液中の温度を20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上にして一定時間放置することによっても、該培養液中に4−ヒドロキシフタル酸を生成、蓄積させ、該培養液から4−ヒドロキシフタル酸を採取することもできる。本発明の微生物を培地に培養する方法は、微生物の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0061】
上記の微生物を培養した後、フタル酸を含む水性媒体中に、該微生物の培養菌体もしくは該培養菌体の処理物を加えることにより、該媒体中に4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成、蓄積させた後、上述のように、該溶液のpHと温度をpH6.8以下かつ温度を60℃以上にする、またはpH11.5以上かつ温度を20℃以上にすることにより、該水溶液中に4−ヒドロキシフタル酸を生成、蓄積させ、該媒体から4−ヒドロキシフタル酸を採取することもできる。
【0062】
また、このような微生物を増殖させて、フタル酸を細胞内に取り込ませて4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸と4−ヒドロキシフタル酸を製造する場合には、フタル酸の輸送能を有する微生物を用いることが好ましい。野生型微生物のフタル酸の輸送能が小さい、または野生型微生物がフタル酸の輸送能を有していない場合には、フタル酸の輸送に関わるトランスポータータンパク質を組換えDNA技術などを用いて導入した微生物を用いることができる。フタル酸の輸送に関わるトランスポータータンパク質としては、フタル酸輸送活性を示すトランスポータータンパク質であれば、いずれも用いることができるが、バークホルデリア・マルチボランスATCC17616のフタル酸トランスポーター遺伝子ophD〔J. Bacterol. 181, 6197 (1999)〕を用いることが好ましい。該フタル酸トランスポーター遺伝子を宿主細胞に発現させることにより、フタル酸の輸送能を野生株と比較して増強することができる。フタル酸トランスポーター遺伝子としては以下のようなDNAが包含される。
(m)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
(n)配列番号8に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された配列を含み、かつフタル酸トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(o)配列番号7に示される塩基配列からなるDNA。
(p)配列番号7に示される塩基配列の全部もしくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつフタル酸トランスポーター活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0063】
上記の4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質を発現している微生物を用いることにより、4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸を製造することができる。すなわち上記の方法により4−ヒドロキシフタル酸を水溶液中に蓄積させた後、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質を発現している微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換し、該水溶液中から3−ヒドロキシ安息香酸を採取することができる。
【0064】
上記の4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質を発現している微生物の菌体を含む培養液、もしくは該微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を含む水性媒体の中に、上記の方法により採取した4−ヒドロキシフタル酸を添加し、混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸を3−ヒドロキシ安息香酸に転換し、該培養液または該媒体から3−ヒドロキシ安息香酸を採取することができる。
【0065】
上記の方法により4−ヒドロキシフタル酸を水溶液中に蓄積させた後、4−ヒドロキシフタル酸1−脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAに加えて、3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを保有し、4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸を生産する能力を有する微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を混合することにより、該水溶液中にゲンチジン酸を生成、蓄積させ、該水溶液からゲンチジン酸を採取することができる。
【0066】
上記の微生物の菌体を含む培養液、もしくは該微生物の培養菌体または該培養菌体の処理物を含む水性媒体の中に、上記の方法により採取した4−ヒドロキシフタル酸を添加し、混合することにより、4−ヒドロキシフタル酸をゲンチジン酸に転換し、該培養液または該媒体からゲンチジン酸を採取することができる。
【0067】
本発明の微生物の培養は、炭素源、窒素源、無機塩、各種ビタミン等を含む通常の栄養培地で行うことができ、炭素源としては、例えばブドウ糖、ショ糖、果糖等の糖類、エタノール、メタノール等のアルコール類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸類、廃糖蜜等が用いられる。窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等がそれぞれ単独または混合して用いられる。また、無機塩としては、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸マグネシウム等が用いられる。この他にペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンステイープリカー、カザミノ酸、ビオチン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することができる。4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸を生産するための原料としては、フタル酸を添加する。添加するフタル酸は、無水フタル酸でも、フタル酸ナトリウムなどのフタル酸塩でもよい。
【0068】
培養は、通常、通気攪拌、振とう等の好気条件下で行う。培養温度は、本発明の微生物が生育し得る温度であれば特に制限はなく、また、培養途中のpHについても本発明の微生物が生育し得るpHであれば特に制限はない。培養中のpH調整は、酸またはアルカリを添加して行うことができる。
【0069】
該培養菌体の処理物として、本発明の微生物を担体に固定化したものを用いてもよい。その場合には、培養物から回収されたまま、あるいは適当な緩衝液、例えば0.02〜0.2 M程度のリン酸緩衝液(pH6〜10)等で洗浄された菌体を使用することができる。また、培養物から回収された菌体を、超音波、圧搾等の手段で破砕して得られる破砕物、該破砕物を水等で抽出して得られる本発明のタンパク質を含有する抽出物、該抽出物をさらに硫安塩析、カラムクロマトグラフィー等の処理を行って得られる本発明のタンパク質の部分精製成分等を担体に固定化したものも、本発明の4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸およびゲンチジン酸の製造に使用することができる。
【0070】
これら菌体、菌体破砕物、抽出物または精製酵素の固定化は、それ自体既知の通常用いられている方法に従い、アクリルアミドモノマー、アルギン酸、またはカラギーナン等の適当な担体に菌体等を固定化させる方法により行うことができる。
【0071】
反応に用いる水性媒体は、フタル酸を含有する水溶液または適当な緩衝液、例えば0.02〜0.2 M程度のリン酸緩衝液(pH6〜10)とすることができる。この水性媒体には、さらに菌体の細胞膜の物質透過性を高める必要のあるときには、トルエン、キシレン、非イオン性界面活性剤等を0.05〜2.0%(w/v)添加することもできる。
【0072】
水性媒体中の反応原料となるフタル酸の濃度は、0.1 mM〜1 M程度が適当である。上記の水性媒体における酵素反応温度およびpHは特に限定されないが、通常10〜60℃、好ましくは15〜50℃が適当であり、反応液中のpHは5〜10、好ましくは6〜9付近とすることができる。また、pHの調整は、酸またはアルカリを添加して行うことができる。発明で使用する酵素は、菌体抽出液をそのまま、またはそれから遠心分離、濾過等で集め、これを水または緩衝液に懸濁して得ることができる。このようにして得られた酵素をフタル酸の存在下、反応させるが、反応液中のフタル酸の濃度は酵素の活性を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利である。反応は静置、攪拌、振盪のいずれの方法で行ってもよい。また、酵素を適当な支持体に固定化してカラムに充填し、フタル酸を含む溶液を流す方法も利用できる。反応は、通常10〜60℃、好ましくは15〜50℃、pH5〜9、好ましくはpH6〜9で行う。
【0073】
また、上記水性媒体に、反応時に抗酸化剤または還元剤を添加すると、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸の生成収率が一層向上する場合がある。抗酸化剤/還元剤としては、アスコルビン酸、イソアルコルビン酸、システイン、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリムなどのチオ硫酸塩が挙げられる。添加濃度は、抗酸化剤/還元剤の種類によって異なるが、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸の生成を阻害しない濃度で加えることが望ましく、通常0.001〜5%(w/v)、好ましくは0.005〜1%である。
【0074】
また、上記水性媒体に、反応時に酸化剤を添加すると、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸の生成収率が一層向上する場合がある。酸化剤としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の硝酸塩、塩化第二鉄や硫酸第二鉄等の金属塩、ハロゲン、ペルオクソ酸等が挙げられ、好ましくは、亜硝酸ナトリウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄が挙げられる。添加濃度は、酸化剤の種類によって異なるが、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸の生成を阻害しない濃度で加えることが望ましく、通常0.001〜0.05%(w/v)、好ましくは0.005〜0.02%である。
【0075】
培養終了後の培養液または反応液中からの4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸は、酢酸エチル等の有機溶剤によって抽出することにより単離・精製することができる。また、必要に応じて遠心分離等により該培養液から菌体等の不溶成分を除いた後、例えば、活性炭を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法、結晶化法、沈殿法等の方法を単独でまたは組み合わせることによって4−ヒドロキシフタル酸、3−ヒドロキシ安息香酸またはゲンチジン酸を採取することができる。
【0076】
以下に本発明の方法を実施例により具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
実施例1.培養菌体を用いたフタル酸からの4−ヒドロキシフタル酸の生産
フタル酸代謝に関わるフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼとフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼの2種類のタンパク質をコードするDNAを以下のようにして取得するとともに、これら2種類のタンパク質を発現する菌株を用いてフタル酸から4−ヒドロキシフタル酸の生産を行った。
1.フタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質とフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質のクローニング
(1)ポリシストロン型発現プラスミドの構築
大腸菌 MG1655株、大腸菌 JM109株、大腸菌 JM109(DE3)株や大腸菌 BL21(DE3)株で上記遺伝子を各遺伝子の転写・翻訳効率に依存しない効率よい発現を行うために、目的遺伝子の転写は疑似遺伝子に依存し、疑似遺伝子の翻訳効率を維持した状態で目的遺伝子も翻訳される発現系の構築を行った。より具体的にはpUC19(タカラバイオ社製)にターミネーター配列を挿入するため、配列番号9〜14で表される6本の合成DNAを合成した。これら合成DNAをpUC19制限酵素KpnI部位と制限酵素EcoRI部位の間に挿入したプラスミドpUC1LT1を構築した。次いで、pUC1LT1の制限酵素PvuII部位と制限酵素HindIII部位間を削除したpULTDL1を構築した。pULTDL1にT7プロモーター配列と疑似遺伝子及び目的遺伝子を連結するための制限酵素PacI部位を挿入するために、配列番号15〜20で表される6本の合成DNAを合成した。これら合成DNAをpULTDL1の制限酵素SpHI部位と制限酵素SalI部位の間に挿入した発現プラスミドpUTPELT19を構築した。次いでpUTPELT19の制限酵素BglII部位と制限酵素と制限酵素PacI部位間を配列番号21で表される配列にPCR法を用いて変更した発現プラスミドpUTPEaLT19を構築した。
さらにXylS-Pmプロモーターを利用した誘導発現系を構築するため、XylS-Pmプロモーター領域のDNAを取得することにした。XylS-Pmプロモーター領域は国立遺伝学研究所から入手したプラスミドpJB866を鋳型として、配列番号22と23で表される配列を有するDNAプライマーを用いて、XylS-Pmプロモーターの全領域をPrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。Taq DNAポリメラーゼによって増幅DNA断片の3'末端にA残基を付加した後、増幅DNA断片をゲル電気泳動法により精製し、pT7BlueのTベクターに組み込むことにより、XylS-Pmプロモーターの全領域を保持するプラスミドpT7-xylS_Pmを構築した。pT7-xylS_Pmから制限酵素SbfI部位と制限酵素BamHIによりXylS-Pmプロモーターの領域を切り出し、pUTPEaLT19の制限酵素SbfI部位と制限酵素BglII部位(BamHIとBglIIは突出末端が対合する)に組み込むことにより、pUXPEaLT19を造成した。
【0078】
(2)フタル酸ジオキシゲナーゼ遺伝子のクローニング
バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株のフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼophA2とフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼophA1をコードするDNAを得ることにした。ophA2遺伝子とophA1遺伝子の塩基配列については、ナショナル・センター・フォア・バイオテクノロジー・インフォメーション(以下、NCBIと略記する)のジェンバンク(GenBank)データベースから、GBアクセッション番号NC_010805における塩基番号548114〜546783と539662〜538694の配列(配列番号1と3)として得た。バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株の染色体DNAは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(以下、ATCCと略記する)から入手した。該染色体DNA(100 ng)を鋳型として、ophA2遺伝子は配列番号24と25、ophA1遺伝子は配列番号26と27で表される配列を有するDNAプライマーを用いて、配列番号2と4に示されるアミノ酸配列を有するフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼとフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼタンパク質をコードしているophA2遺伝子とophA1遺伝子の全領域をPrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。増幅DNA断片をQIAquick PCR精製キット(キアゲン社製)を用いて回収した。ophA1遺伝子を制限酵素PacI部位と制限酵素NotIによりPCR産物から切り出し、上記(1)で造成した発現ベクターpUXPEaLT19に組込むことにより、pUXPEaLT_ophA1を造成した。pUXPEaLT_ophA1の制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位に制限酵素SwaI部位と制限酵素NotIによりPCR産物から切り出したophA2遺伝子を挿入したpUXPEaLT_ophA1A2を構築した。
【0079】
(3)フタル酸トランスポーターのクローニング
大腸菌K-12株のフタル酸取り込み能が弱いことがわかったので、フタル酸の取り込みを促進するフタル酸トランスポーターを発現させることにより、フタル酸取り込み能を強化することを試みた。具体的には、フタル酸からの菌体内へのフタル酸の取り込みを促進させる効果があるバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株のフタル酸トランスポーターophDをコードするDNAを得ることにした。ophD遺伝子の塩基配列については、NCBIのGBデータベースから、アクセッション番号NC_010805における塩基番号539901〜541247の配列(配列番号7)として得た。ATCCから入手したバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株の染色体DNA(100 ng)を鋳型として、配列番号28と配列番号29で表される配列を有する2種類のDNAプライマーを用いて、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するフタル酸トランスポータータンパク質をコードしているophD遺伝子の全領域をPrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。Taq DNAポリメラーゼによって増幅DNA断片の3'末端にA残基を付加した後、増幅DNA断片をゲル電気泳動法により精製し、pT7BlueのTベクターに組み込むことにより、ophD遺伝子の全領域を保持するプラスミドpTOPHD1を構築した。さらに配列番号30と31に示す1対の合成DNA、および配列番号32と33で表される1対の合成DNAを用いたPCR法によりophD遺伝子内部に2箇所ある制限酵素NotI部位を破壊したプラスミドpTOPHD_dNABを造成した。pTOPHD_dNABから制限酵素PacIと制限酵素NotIによりophD遺伝子を切り出し、大腸菌中で発現ベクターpUXPEaLT19と共存可能な発現ベクターpRTCKMの制限酵素PacIと制限酵素NotIに組み込むことでプラスミドpRTCKM_ophDおよびpRTCRK_ophDを造成した。プラスミドpRTCKM_ophDにおいては、挿入したophD遺伝子の発現は、制限酵素PacIサイトの上流にあるカナマイシン耐性遺伝子のプロモーターの制御下にある。また、pRTCRK_ophDにおいてはコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032株由来のrplK遺伝子プロモーターの制御下にある。
発現ベクターpRTCKMは、プラスミドベクターpRTC_SfiIのSfiIサイトに配列番号34に示す配列を有する合成DNA由来のDNAが挿入されたプラスミドである。なお、配列番号34に示したDNAの配列は、その両末端にpRTC_SfiI由来のSfiIサイトの配列も含んでいる。上述のプラスミドpRTCKM_ophDの造成に用いた制限酵素PacI部位と制限酵素NotI部位は、配列番号7に示す配列においては、それぞれ塩基番号227と塩基番号245に存在する。
また、プラスミドベクターpRTC_SfiIは、プラスミドベクターpREP4(インビトロジェン社から製品番号V004-50として入手可能)をもとに下記の手順で造成した。pREP4を制限酵素HindIIIで切断した後、平滑末端化して連結、pREP4DHを造成した。さらにpREP4DHを制限酵素XbaIで切断した後、平滑末端化して連結し、pREP4DHXを造成した。pREP4DHXを鋳型に配列番号35と36で表される1組の合成DNAを用いたPCR法により、末端に制限酵素SfiI部位を導入したPCR増幅断片を得た。得られた断片を制限酵素BamHIで消化・連結することで、pRTC_SfiIを造成した。
発現ベクターpRTCRKは、以下のようにして、pRTCKMの制限酵素SbfI部位と制限酵素BglII部位にコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032株のrplK遺伝子プロモーター領域を挿入して構築した。すなわち、まずrplK遺伝子プロモーター領域の塩基配列をNCBIのGBデータベースからアクセッション番号NC_006958における塩基番号498398〜498577の配列(配列番号37)として得た。続いて、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032株の染色体DNA(100 ng)を鋳型として、配列番号38、39で表される配列を有するDNAプライマーを用い、PrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。増幅DNA断片をQIAquick PCR精製キット(キアゲン社製)を用いて回収した。制限酵素SbfI部位と制限酵素BglIIによりPCR産物から切り出し、上記で造成した発現ベクターpRTCKMに組込むことにより、pRTCRKを造成した。
【0080】
2.フタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・オキシゲナーゼ・タンパク質とフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼ・レダクターゼ・タンパク質の大腸菌内での発現
上記1の(2)で造成したpUXPEaLT_ophA1A2の制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位に上記(3)で造成したプラスミドpRTCRK_ophDのrplKプロモーター領域とフタル酸トランスポーター遺伝子ophDを含む制限酵素SwaI部位から制限酵素NotI部位を挿入してpUXP_ophA1A2-RKP_ophDを構築した。本プラスミドを大腸菌JM109に形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109(pUXP_ophA1A2-RKP_ophD)を造成した。この形質転換体は、宿主である大腸菌JM109が4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素を欠損しており、かつプラスミド上にも4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素遺伝子を保有していないので、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸脱水素酵素活性を完全に欠損している。この形質転換体を、2 mlのLB液体培地(10 g/l トリプトン(Difco社製)、5 g/l 乾燥酵母エキス(Difco社製)、10 g/l 塩化ナトリウム)で一晩培養し、前培養とした。プラスミドを維持するためにアンピシリンを最終濃度100 mg/lになるように加えた。20 mlのLB培地にアンピシリンを最終濃度100 mg/lになる様に加えた後、前培養液を3/100容量接種し、37℃で培養し対数増殖期にm−トルイル酸を終濃度1 mMになるように添加して30℃で3時間タンパク質生産誘導を行った。
【0081】
3.4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の生産
上記実施例1の2でフタル酸4,5−ジオキシゲナーゼを誘導発現させた組換え大腸菌JM109(pUXP_ophA1A2-RKP_ophD)を用いて、フタル酸からの4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の生産を試みた。フタル酸4,5−ジオキシゲナーゼを誘導発現させた菌体を集菌し、1%グルコースを含む50 mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.8)で洗浄した後、菌体を吸光度600 nmで5.0になるように50 mM リン酸カリウム緩衝液に懸濁した。この菌体懸濁液に対してフタル酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社より購入)を終濃度で30 mMになるように添加し、30℃、290 rpmの条件で48時間反応させた。反応開始後0、24、48時間の反応液から2μl採取し、5μlの1 N HCl と0.6 mlの酢酸エチルを加え、激しく5分間懸濁し、遠心にかけた。二層に分かれた上層(酢酸エチル層)を200μlとり、新しい1.5 mlチューブに移し、遠心乾燥機にかけた。乾固したサンプルを4μlのアセトニトリルで激しく懸濁し、196μlの水で希釈した。孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、LC−TOF型質量分析計(Waters社、LCT Premier XE)による分析に供した。4−ヒドロキシフタル酸の同定は、標品の4−ヒドロキシフタル酸(和光純薬工業株式会社より購入)と比較して、高速液体クロマトグラフィーの保持時間と質量分析計からの精密質量値を合わせて行った。一方、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の同定は、質量分析計からの精密質量値をもとに同定した。
【表1】
LC−TOF型質量分析計を用いて、表1に示すHPLC分離条件で組換え大腸菌の変換産物の分析を行った結果、反応48時間で添加したフタル酸の約98%が消失し、4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸に転換することがわかった。さらに、少量の4−ヒドロキシフタル酸も生成することが判明した。
【0082】
4.4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸から4−ヒドロキシフタル酸への転換
(1)80℃と90℃での転換実験
上述の実施例1の3で得られた4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を含む溶液を50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)で6倍に希釈した。希釈後の4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の濃度は、フタル酸の消失量と4−ヒドロキシフタル酸の濃度から約4.7mMと推測された。この4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸溶液50μlに対して、硫酸を終濃度で5%、塩酸を終濃度で1 N、水酸化ナトリウムを終濃度で1 Nになるようにそれぞれ加えて、80℃または90℃で1時間反応させた。反応0時間および1時間の反応溶液から10μlを採取した。続いて、硫酸および塩酸を添加した場合には5μlの1 N HCl 、または水酸化ナトリウムを添加した場合には25μlの1 N HCl を加えた後、0.25 mlの酢酸エチルを加えて、激しく1分間懸濁した。遠心後、二層に分かれた上層(酢酸エチル層)を200μl採取し、新しい1.5 mlチューブに移し、遠心乾燥機にかけた。乾固したサンプルを4μlのアセトニトリルに懸濁し、196μlの水で希釈した。続いて、孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、LC−TOF型質量分析計(Waters社、LCT Premier XE)による分析に供した。
LC−TOF型質量分析計を用いて、表1に示すHPLC分離条件で組換え大腸菌の代謝産物の分析を行った結果、硫酸、塩酸、水酸化ナトリウムのいずれの添加においても4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸の96.5〜99.8%が消失し、3.79〜4.3 mMの4−ヒドロキシフタル酸が検出された。
【0083】
5.4−ヒドロキシフタル酸の生産の効率化
(1)pHと温度の検討
上述のように、酸性またはアルカリ性の条件で加熱することにより、4−ヒドロキシフタル酸が生成することがわかったので、反応溶液のpHを2.5、3.4、5.3、6.8、8.1、10.2、11.5、13.0にし、温度を20℃から100℃までの10℃刻みで変化させ、反応1時間での4-ヒドロキシフタル酸の生成量を調べた。具体的には、上記実施例1の3と同じ条件で調製した菌体懸濁液に対してフタル酸を終濃度で30 mMになるように添加し、30℃、290 rpmの条件で48時間反応させた。反応後、50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)で6倍に希釈した。続いて、反応溶液のpHは95% 硫酸もしくは10 N NaOHを加えることにより調節した後、4−ヒドロキシフタル酸への転換反応(全量50μl)を、反応中の蒸発を抑制するために、サーマルサイクラーを用いて行った。なお、各反応温度の条件はサーマルサイクラーにより調節を行った。反応0時間および1時間の反応溶液から10μlを採取した。続いて、硫酸および塩酸を添加した場合には5μlの1 N HCl 、または水酸化ナトリウムを添加した場合には25μlの1 N HCl を加えた後、0.25 mlの酢酸エチルを加えて、激しく1分間懸濁した。遠心後、二層に分かれた上層(酢酸エチル層)を200μl採取し、新しい1.5 mlチューブに移し、遠心乾燥機にかけた。乾固したサンプルを4μlのアセトニトリルに懸濁し、196μlの水で希釈した。続いて、孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、LC−TOF型質量分析計(Waters社、LCT Premier XE)による分析に供した。
LC−TOF型質量分析計を用いて、表1に示すHPLC分離条件で各サンプルの分析を行った。表2に生成した4−ヒドロキシフタル酸の量(mM)を示した。
【表2】
表2に示すように、酸性条件では、反応溶液のpHと温度をそれぞれpH6.8以下かつ60℃以上にすることにより、4-ヒドロキシフタル酸の生成量が増加することがわかった。さらに、アルカリ性条件では、反応溶液のpHと温度をそれぞれpH11.5以上かつ20℃以上にすることにより、4-ヒドロキシフタル酸の生成量が増加することがわかった。より好ましくは、該溶液のpHと温度をそれぞれpH5.3以下かつ温度を80℃以上にする、または該溶液のpHと温度をそれぞれpH13以上かつ温度を40℃以上にすることにより、該反応液中に著量の4−ヒドロキシフタル酸が生成し蓄積することを見出した。
【0084】
6. 4−ヒドロキシフタル酸の生産
上記5の結果を基に、上記3での本培養を20 mlから1Lに変更して30 mMのフタル酸から4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸を生成させた。4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸溶液195 mlに硫酸を添加してpHを5.3に調整した後、90℃で120分間保温した。加熱処理後、塩酸を加えてpH1.5に調整した。酢酸エチル200 mlを加えて激しく懸濁し、上層(酢酸エチル層)の分取を3回行い、酢酸エチル層590mlを得た。これをロータリーエバポレーターで乾固した。残渣を超純水 15 mlに懸濁し、pH7.0になるように水酸化ナトリウムで調整した。得られた4-ヒドロキシフタル酸溶液1μlを12μlのアセトニトリルで激しく懸濁し、587μlの水で希釈した。孔径0.2μmのフィルターで濾過した後、LC−TOF型質量分析計(Waters社、LCT Premier XE)による分析に供した。
LC−TOF型質量分析計を用いて、表1に示すHPLC分離条件で変換産物の分析を行った結果、得られた溶液中の4−ヒドロキシフタル酸濃度は216.9 mMであり、また4,5−シス−ジヒドロジオールフタル酸は検出限界以下であった。
【0085】
実施例2.培養菌体を用いた4−ヒドロキシフタル酸からの3−ヒドロキシ安息香酸の生産
1.4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素遺伝子のクローニング
バークホルデリア・マルチボランスATCC17616株の4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素が4−ヒドロキシフタル酸の1位のカルボキシル基に作用して脱炭酸反応を行うことは知られていないが、この脱炭酸反応の可能性を調べるために、当該脱炭酸酵素の遺伝子ophCをコードするDNAを得ることにした。ophC遺伝子の塩基配列については、NCBIのGBデータベースから、アクセッション番号NC_010805における塩基番号541294〜542286の配列(配列番号5)として得た。ATCCから入手したバークホルデリア・マルチボランスATCC17616株の染色体DNA(100 ng)を鋳型として、配列番号40と41で表される配列を有するDNAプライマーを用いて、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素タンパク質をコードしているophC遺伝子の全領域をPrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。Taq DNAポリメラーゼによって増幅DNA断片の3'末端にA残基を付加した後、増幅DNA断片をゲル電気泳動法により精製し、pT7BlueのTベクターに組み込むことにより、ophC遺伝子の全領域を保持するプラスミドpTOPHC1を構築した。さらに配列番号42と43に示す1対の合成DNAを用いたPCR法によりophC遺伝子内部に1箇所ある制限酵素NotI部位を破壊したプラスミドpTOPHCdNを造成した。pTOPHCdNから制限酵素PacIと制限酵素NotIによりophC遺伝子を切り出し、上記実施例1の1(1)で造成した発現ベクターpUXPEaLT19に組込むことにより、pUXPEaLT_ophCdNを造成した。
【0086】
2.4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素タンパク質の大腸菌内での発現
上記実施例1の1で造成したpUXPEaLT_ophCdNを上記実施例1の3で造成したプラスミドpRTCKM_ophDを保持する大腸菌JM109株に形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109(pUXPEaLT_ophCdN, pRTCKM_ophD)を造成した。この形質転換体を、プラスミドを維持するためにアンピシリンを最終濃度100 mg/l、カナマイシンを最終濃度50 mg/l を添加した2 mlのLB液体培地で一晩培養した。この培養液をアンピシリンを最終濃度100 mg/l、カナマイシンを最終濃度50 mg/l を添加した3 mlのLB培地に3%接種し、37℃で培養した後、対数増殖期にm−トルイル酸を終濃度1 mMになるように添加し、さらに30℃で3時間培養を続けることにより、4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素タンパク質を発現させた。
【0087】
3.4−ヒドロキシフタル酸からの3−ヒドロキシ安息香酸の生産
上記2で4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素を誘導発現させた形質転換体JM109(pUXPEaLT_ophCdN, pRTCKM_ophD)を用いて、4−ヒドロキシフタル酸から3−ヒドロキシ安息香酸の生産を行った。誘導発現処理を行った菌体を集菌し、50 mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8)で洗浄した後、吸光度600 nmで5.0になるように50 mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8、1% グルコース含有)に懸濁した。この菌体懸濁液を30℃、290 rpmで5分間保温した後、購入品または上記実施例1−6の調製品である4−ヒドロキシフタル酸を終濃度で30 mMになるように添加し、30℃、1000 rpmで反応させた。反応0、2、18、24時間の反応溶液から2 μlをとり、5 μlの1N HCl と0.6 mlの酢酸エチルを加え、激しく5分間懸濁し、遠心に供した。二層に分かれた上層(酢酸エチル層)を200 μlとり、新しい1.5 mlチューブに移し、遠心乾燥機にかけた。乾固したサンプルを4 μlのアセトニトリルで激しく懸濁し、196 μlの水で希釈した。孔径0.2 μmのフィルターで濾過した後、LC−TOF型質量分析計(Waters社、LCT Premier XE)による分析に供した。4−ヒドロキシフタル酸と3−ヒドロキシ安息香酸の同定は、標品の4−ヒドロキシフタル酸または3−ヒドロキシ安息香酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社より購入)と比較して、高速液体クロマトグラフィーの保持時間と質量分析計からの精密質量値を合わせて行った。
LC−TOF型質量分析計を用いて、表1に示すHPLC分離条件で組換え大腸菌の代謝産物の分析を行った。分析の結果、投入した4−ヒドロキシフタル酸は購入品および上記実施例1−6での調製品の区別なく、反応24時間で99.9%が消失し、28.3 mM(購入品の場合)と29.8 mM(上記実施例1−6の調製品の場合)の3−ヒドロキシ安息香酸の生産が確認された。
【0088】
実施例4.培養菌体を用いた4−ヒドロキシフタル酸からのゲンチジン酸の生産
1.3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ遺伝子のクローニング
3−ヒドロキシ安息香酸からゲンチジン酸への水酸化を触媒する3-ヒドロキシ安息香酸6-ヒドロキシラーゼをコードするDNAとして、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032株のcg3354(NC_006958における塩基番号3202427〜3203755、配列番号44)とポラロモナス・ナフタレニボランス(
Polaromonas naphthalenivorans) CJ2株の3-ヒドロキシ安息香酸 6-ヒドロキシラーゼ遺伝子nagX(NCBIのGBアクセッション番号NC_008781における塩基番号3338173〜3339375、配列番号46)を得ることにした。これら菌株はNBRCおよびATCCから入手した。ATCC 13032株の染色体DNA(100 ng)を鋳型として、配列番号48、49で表される配列を有するDNAプライマーを用いて、配列番号45に示されるアミノ酸配列を有する3-ヒドロキシ安息香酸6-ヒドロキシラーゼ・タンパク質をコードしているcg3354遺伝子の全領域を、CJ2株の染色体DNA(100 ng)を鋳型として、配列番号50、51で表される配列を有するDNAプライマーを用いて、配列番号47に示されるアミノ酸配列を有する3-ヒドロキシ安息香酸6-ヒドロキシラーゼ・タンパク質をコードしているnagX遺伝子の全領域をPrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。増幅DNA断片をQIAquick PCR精製キット(キアゲン社製)を用いて回収した。cg3354遺伝子とnagX遺伝子を制限酵素PacI部位と制限酵素NotIによりPCR産物から切り出し、上記(実施例1−1)で造成した発現ベクターpUXPEaLT19に組込むことにより、pUXPEaLT_cg3354及びpUXPEaLT_nagXを造成した。
上記実施例3−1で造成したpTOPHCdN(10 ng)を鋳型として、配列番号52、41で表される配列を有するDNAプライマーを用いてophC遺伝子の上流に制限酵素SwaI部位を付加した配列番号53で表されるDNA配列を、PrimeSTAR DNAポリメラーゼを用いたPCR反応により増幅させた。増幅DNA断片をQIAquick PCR精製キット(キアゲン社製)を用いて回収した。上記で造成したpUXPEaLT_cg3354およびpUXPEaLT_nagXの制限酵素PmeI部位と制限酵素NotI部位との間に、PCR産物から制限酵素SwaIと制限酵素NotIにより切り出したophC遺伝子を挿入してpUXPEaLT_cg3354ophCおよびpUXPEaLT_nagXophCを構築した。
【0089】
2.4−ヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素タンパク質と3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼ・タンパク質の大腸菌内での発現
実施例1−1で造成したpUXPEaLT_cg3354ophCもしくはpUXPEaLT_nagXophCを実施例1−3で造成したプラスミドpRTCKM_ophDを保持する大腸菌JM109株に形質転換法により導入し、組換え大腸菌JM109(pUXPEaLT_cg3354ophC, pRTCKM_ophD)およびJM109(pUXPEaLT_nagXophC, pRTCKM_ophD)を造成した。これら
形質転換体を、2 mlのLB液体培地〔10 g/l トリプトン(Difco社製)、5 g/l 乾燥酵母エキス(Difco社製)、10 g/l 塩化ナトリウム〕で一晩培養した。プラスミドを維持するためにアンピシリンを最終濃度100 mg/l、カナマイシンを最終濃度50 mg/lになるように加えた。3 mlのLB培地にアンピシリンを最終濃度100 mg/l、カナマイシンを最終濃度50 mg/l加えた後、3/100容量接種し、37℃、290 rpmで培養を行った。対数増殖期にm−トルイル酸を終濃度1 mMになるように添加し、30℃で3時間タンパク質の生産誘導を行った。
【0090】
3.4−ヒドロキシフタル酸からのゲンチジン酸の生産
上記2で4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素と3−ヒドロキシ安息香酸6−ヒドロキシラーゼを誘導発現させた組換え大腸菌JM109(pUXPEaLT_cg3354ophC, pRTCKM_ophD)およびJM109(pUXPEaLT_nagXophC, pRTCKM_ophD)を用いて、4−ヒドロキシフタル酸からゲンチジン酸の生産を行った。これらの菌体を集菌し、50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)で洗浄した後、吸光度600 nmで5.0になるように50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.8、1% グルコース含有)に懸濁した。この菌体懸濁液を30℃、1000 rpmで5分間保温した後、購入品または上記実施例1−6の調製品である4−ヒドロキシフタル酸を終濃度で30 mMになるように添加し、30℃、1000 rpmで反応させた。反応0、2、18、24時間の反応溶液から2 μlをとり、5μlの1 N HCl と0.6 mlの酢酸エチルを加え、激しく5分間懸濁し、遠心にかけた。二層に分かれた上層(酢酸エチル層)を200 μlとり、新しい1.5 mlチューブに移し、遠心乾燥機にかけた。乾固したサンプルを4 μlのアセトニトリルで激しく懸濁し、196 μlの水で希釈した。孔径0.2 μmのフィルターで濾過した後、LC−TOF型質量分析計(Waters社、LCT Premier XE)による分析に供した。4−ヒドロキシフタル酸とゲンチジン酸の同定は、標品の4−ヒドロキシフタル酸またはゲンチジン酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社より購入)と比較して、高速液体クロマトグラフィーの保持時間と質量分析計からの精密質量値を合わせて行った。
LC−TOF型質量分析計を用いて、表1に示すHPLC分離条件で組換え大腸菌の代謝産物の分析を行った。組換え大腸菌JM109(pUXPEaLT_cg3354ophC, pRTCKM_ophD)を用いてゲンチジン酸の生産を行った場合、投入した4−ヒドロキシフタル酸は購入品および上記実施例1−6の調製品ともに、反応24時間で99.9%が消失し、30.0 mM(購入品の場合)と29.4 mM(上記実施例1−6の調製品の場合)のゲンチジン酸の生産が確認された。4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素のみが作用して生成する3-ヒドロキシ安息香酸は検出限界以下であった。一方、JM109(pUXPEaLT_nagXophC, pRTCKM_ophD)を用いた場合、反応24時間で4−ヒドロキシフタル酸の96.6%(購入品の場合)と55.4%(上記実施例1−6の調製品の場合)が消失し、それぞれ23.7 mM(購入品の場合)と14.2 mM(上記実施例1−6の調製品の場合)のゲンチジン酸が生産された。なお、4,5−ジヒドロキシフタル酸脱炭酸酵素のみが作用して生成する3−ヒドロキシ安息香酸は4.2 mM(購入品の場合)と1.1 mM(上記実施例1−6の調製品の場合)が検出された。