(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678360
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20150212BHJP
【FI】
C12N5/00 202H
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2009-222981(P2009-222981)
(22)【出願日】2009年9月28日
(65)【公開番号】特開2011-67175(P2011-67175A)
(43)【公開日】2011年4月7日
【審査請求日】2012年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
(73)【特許権者】
【識別番号】503328193
【氏名又は名称】株式会社ツーセル
(74)【代理人】
【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】坂井 裕大
(72)【発明者】
【氏名】山中 克之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】大倉 知久
(72)【発明者】
【氏名】辻 紘一郎
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−217845(JP,A)
【文献】
特開2007−175008(JP,A)
【文献】
特開2008−188021(JP,A)
【文献】
特開2004−129549(JP,A)
【文献】
特開2006−129734(JP,A)
【文献】
医学のあゆみ,2009.08.22, Vol.230, No.8, pp.554-555
【文献】
FEBS letters,2007, Vol.581, pp.4645-4650
【文献】
日本農芸化学会大会講演要旨集,2003, p.7, #2A03a12
【文献】
現代医療,2000, Vol.32, No.11, pp.2581-2588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄液、臍帯血、末梢血の一者以上を、容器内に満たされた37℃において比重が1.06〜1.10g/mlである水を主成分とする液体培地に播種し、その容器の天井面で、37±2℃の温度で培養を行うことを特徴とする間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項2】
液体培地の比重が、ポリビニルピロリドンで被覆したシリカ微細粉末,ショ糖とエピクロロヒドリンとの水溶性共重合体,トリヨード芳香環を含む水溶性化合物から選ばれる少なくとも一つを用いて調節されている請求項1に記載の間葉系幹細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、専門の分離機器と煩雑な分離操作を必要とすることなく、間葉系幹細胞を効率良く増殖させることが可能な間葉系幹細胞の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨髄液や臍帯血や末梢血等に含まれている間葉系幹細胞は、骨,軟骨,脂肪等多種類の細胞へ分化可能な多分化能を有しているため、細胞治療や再生医療の細胞源として注目を集めている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら間葉系幹細胞は、例えば骨髄液中に存在する細胞中に成人で10
4〜10
6個に1個程度と非常に存在頻度が少なく、臨床治療に用いる場合には、生体組織から集めた間葉系幹細胞を培養して増殖させて用いる必要がある。
【0003】
間葉系幹細胞を再生医療の細胞源として用いるには、特に初代培養(生体から取り出して、最初の植え替えを行うまでの培養)時に効率の高い方法で間葉系幹細胞を確保し、継代培養(培養された細胞を新たな培養容器へと移し変えて増殖、維持する培養)へと移行することが重要である。例えば、良好な治療成績を得るには一定数以上の間葉系幹細胞を移植する必要があり、同量の大元の骨髄液や臍帯血や末梢血等からの細胞培養の効率が高く、初代培養にて得られる細胞数が多ければ有利である。
初代培養にて得られた間葉系幹細胞は増殖・分裂を繰り返すことにより一定数以上に到達するが、その過程においては一様に細胞の老化現象が見られる。老化が進むと細胞の組織への分化能が低下していくことが知られている。移植細胞の分化能が低いと、組織再生能力が低下してしまい、治療効果が低下してしまう。初期に得られた細胞数が少ないと、余計に増殖・分裂させる必要があるため、一定数以上に到達した際に余計に老化が進んでしまい、リスクとなってしまう。
また、老化により、増殖能力が低下することも知られている。初代培養で得られた細胞数が少ないことで、余計に増殖分裂させなくてはいけないにも拘らず、更に増殖能力が低下すると培養期間がかなり長期化してしまう。将来的に細胞移植による治療を成り立たせるためには、コストにも考慮する必要がある。培養期間が長くなると、治療に掛かるコストが嵩むことになってしまう。
また、初代培養の効率を向上させると、患者から採取する骨髄の量を減らすことができ、患者への侵襲や負担の軽減につながるばかりでなく、細胞が多く得られるため、治療に余った細胞を凍結保存し、将来の疾患に備えることが可能になる。
【0004】
間葉系幹細胞は線維芽細胞様の紡錘形の接着細胞であり、この接着細胞である間葉系幹細胞を培養するには、先ず培養用プラスティックディッシュの底面に接着させる必要がある。その後、試料中に混在していた血球成分等の未接着成分を除去することで体液中から間葉系幹細胞を分離する。このとき、赤血球,好中球,リンパ球,好塩基球,好酸球等の血球成分の比重は間葉系幹細胞の比重よりも重く早く沈降し且つ培養液中で血球成分はその数も間葉系幹細胞より多いので、培養用プラスティックディッシュの底面の大半が血球成分により覆われてしまう。その結果、間葉系幹細胞に必要な接着するためのスペースは必然的に少なくなってしまい、初代培養で充分な量を得ることができなかった。
【0005】
また、生体から採取する試料が顎骨の骨髄液や臍帯血や末梢血等の組織である場合、腸骨や大腿骨等の骨髄液と比較して赤血球等の血球成分の存在比率が大きいため、間葉系幹細胞の培養密度を上げようとして試料の播種量を増やすと、それに比例して赤血球等の血球成分の密度も高まってしまい、より間葉系幹細胞の接着が阻害されてしまう問題があった。
【0006】
そこで、培養前に間葉系幹細胞を赤血球等の血球成分から分離する方法が従来から行われている。この方法によれば単核球画分にある間葉系幹細胞を高い純度で調製することが可能であるが、遠心分離された層の中から特定密度の画分を狙って抽出することは専門の機器と煩雑な操作とを必要とするだけでなく、知識と熟練の技術とを要するため商業的に行うのは困難であった。また、遠心分離された層の中から間葉系幹細胞を取り出すには何度もの洗浄操作が必要であり、この過程で間葉系幹細胞も洗い流されてしまい、効率良く間葉系幹細胞を分離することができない。
【0007】
また、特定の密度と繊維径を有するフィルター状の幹細胞分離デバイスを用いて幹細胞を分離・回収する方法も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法は、分離試薬を添加する必要も遠心分離操作も必要なく、骨髄液から幹細胞を分離・回収することが可能な方法であるが、分離材に幹細胞が残存してしまうためロスが多く効率的でない。
【0008】
また、これまでに間葉系幹細胞に特徴的な表面抗原を標的にした分離方法も存在する(例えば、非特許文献1参照。)。表面抗原に対する抗体を結合させた磁性を持つマイクロビーズを採取した骨髄などの試料に添加することで、標的細胞である間葉系幹細胞を標識可能となる。磁場内に置いた分離カラムに試料を適応すると、磁性で標識された間葉系幹細胞はカラム内に留まり、その他の不要な細胞はカラムから流出させることができ、これにより目的細胞を分離可能である。カラムを磁場から取り出すことで、カラムから間葉系幹細胞を洗い出すことが可能となる
(例えば、特許文献3参照。)。この方法は、抗体を使用していることから、より選択的に間葉系幹細胞を得ることが可能な方法である。しかしながら、この方法はその後の洗浄工程ではロスが大きい。また、抗体が結合した間葉系幹細胞をそのまま臨床に応用されることに対する影響などが危惧される。また、特別な抗体や磁性ビーズ、磁場を提供するシステムとカラムなど専用の機具なども必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO01/83709号公報
【特許文献2】国際公開WO02/46501号公報
【特許文献3】特開2004−254519号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ishimura, D., et al., Differentiation of adipose-derived stromal vascular fraction culture cells into chondrocytes using the method of cell sorting with a mesenchymal stem cell marker. Tohoku J Exp Med, 2008. 216(2): p. 149-56.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消し、専門の分離機器と煩雑な分離操作を必要とすることなく、間葉系幹細胞を効率良く選択して増殖させることが可能な間葉系幹細胞の培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、間葉系幹細胞の比重は赤血球等の血球成分の比重より軽いことに着目し、間葉系幹細胞が浮上し且つ赤血球等の血球成分等の接着阻害因子が沈降する比重の水を主成分とする液体培地が完全に満たされた容器内で間葉系幹細胞の培養を行うと、間葉系幹細胞は浮上し容器天井面に接着する一方で、赤血球等の血球成分等の接着阻害因子とは容器底面に沈降するので、間葉系幹細胞は赤血球等の血球成分等の接着阻害因子に接着を阻害されることなく容器天井面に接着して天井面で増殖可能であることを見出して本発明を完成した。
【0013】
即ち本発明は、骨髄液、臍帯血、末梢
血の一者以上を、容器内に満たされた37℃において比重が1.06〜1.10g/mlである水を主成分とする液体培地に播種し、その容器の天井面で、37±2℃の温度で培養を行うことを特徴とする間葉系幹細胞の培養方法であり、その液体培地の比重が、ポリビニルピロリドンで被覆したシリカ微細粉末,ショ糖とエピクロロヒドリンとの水溶性共重合体,トリヨード芳香環を含む水溶性化合物から選ばれる少なくとも一つを用いて調節されていることが好ましい間葉系幹細胞の培養方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る間葉系幹細胞の培養方法は、煩雑な分離操作や専門の分離装置を必要とせず、短時間で簡単に実施することが可能であり、貴重な間葉系細胞の減損も少ない優れた間葉系幹細胞の培養方法であり、特に間葉系幹細胞よりも比重が大きい血球系の細胞により培養が阻害される系において大きな威力を発揮する。腸骨や長管骨由来の骨髄からの間葉系幹細胞培養については数倍〜10倍程度の培養効率が向上する。近年実施されている、自己由来間葉系幹細胞の移植による再生療法の臨床研究等では、主に腸骨の骨髄を採取してそこから間葉系幹細胞を培養しているが、本発明に係る培養方法を用いることで、骨髄からの培養でより多くの間葉系幹細胞を得ることが可能となるため、患者から採取する骨髄量を低減することが可能となる。つまり、患者の負担を軽減することが可能となるのである。
また、接着阻害因子となる血球細胞を多量に含んだり、間葉系幹細胞の存在量が少ない等の理由により培養が困難とされている顎骨骨髄や臍帯血や末梢血由来の間葉系幹細胞の培養に有用となる。顎骨骨髄からの培養は歯科完結型の間葉系幹細胞治療に大きな意義を持ち、また、多くの場合、医療廃棄物として廃棄されている臍帯血を宝の山に変えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る間葉系幹細胞の培養方法において、培養しようとする細胞は接着依存性の間葉系幹細胞である。接着依存性細胞は、一旦容器の内面に付着した後でなければ増殖できないが、本発明方法を実施することにより赤血球等の血球成分によって接着を阻害されることなく効率良く選択及び増殖をさせることができる。
【0016】
本発明においては、液体培地の比重を調節する方法は特に制限はないが、間葉系幹細胞に対して不活性で、その浸透圧を大きく変化させることなく、37℃において比重が1.06〜1.10g/mlとなるように調節できる物質を水を主成分とする液体培地に存在させる方法等が挙げられる。前述の間葉系幹細胞の浸透圧を変化させることなく比重を調節できる物質の具体例としては、パーコール(商品名、GEヘルスケア社製)等のポリビニルピロリドンで被覆したシリカ微粉末、フィコール(商品名、GEヘルスケア社製)、フィコール・コンレイ、フィコール・ハイパック(いずれも商品名、GEヘルスケア社製)等のショ糖とエピクロロヒドリンとの水溶性共重合体等が挙げられる。
【0017】
本発明方法は、間葉系幹細胞が浮上し、且つ赤血球等の血球成分等の接着阻害因子が沈降する比重の液体培地で培養容器が満たされた状態で培養を行う方法である。「間葉系幹細胞が浮上し、かつ、赤血球等の血球成分等の接着阻害因子が沈降する比重の水を主成分とする液体培地」とは、具体的には比重が1.06g/ml以上であることが必要であり、1.06〜1.10g/mlが好ましく、特に好ましくは1.070〜1.095g/mlである。比重が1.06g/ml未満であると間葉系幹細胞が浮上し難く分離が難しくなる。1.10g/mlを超えると比重が重い赤血球等の血球成分までもが浮上してしまい、間葉系幹細胞のみを容器の天井面に接着させることができないばかりでなく、細胞培養自体にも害を及ぼすために使用できない。
【0018】
なお、これらの液体培地は、ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リン,塩素,アミノ酸,ビタミン,ホルモン,抗生物質,脂肪酸,糖等の化学成分を加えて細胞増殖効果を高めるため、血清や細胞増殖因子(サイトカイン)のような生体成分を含有することもできる。細胞増殖因子としては、具体的には血小板由来増殖因子(PDGF),線維芽細胞増殖因子(FGF),インターロイキン-6(IL−6)等が挙げられ、その濃度は常法の細胞培養で使用される濃度(0.01〜20ng/ml)で使用される。
【0019】
本発明方法において使用される培養容器は、液体培地を満たしてその天井面で培養を行うことができる構造であれば特に制限はないが、培養フラスコが最適である。一般的に用いられる培養容器は、細胞が通常接着する培養面に表面処理が施されて細胞が接着し易いようになっており、本発明方法においては、この表面処理が施された面が天井側となるように培養容器を静置することが好ましい。播種直後に培養容器を遠心機にかけ予め分離を促進した後に静置培養してもよい。インキュベーション温度は、通常の哺乳類細胞のインキュベーション温度と同様でよく、35〜39℃が好ましく、37℃がより好ましい。
【0020】
間葉系幹細胞が培養容器の天井側の培養面にしっかりと接着するまで(1日〜14日間)温度が37±2℃で静置培養した後、通常の培地を用いて最初の培地交換を行う。培地交換後は間葉系幹細胞が接着した天井の培養面(表面処理が施された面)が床側となるように静置して通法に従い培養を継続し、間葉系幹細胞が所望の量に至るまで増殖したら剥がして他の容器に移して通常の培養方法で増殖させることも可能である。天井側の培養面に間葉系幹細胞がしっかりと接着した後は、培養面を天井側にしたまま、比重を調節した培養液で継代培養することも可能である。そして、骨や軟骨の欠損修復や組織再生、増生もしくは血管新生、臓器再生、免疫寛容性を利用して移植片対宿主病(GVHD)の患者等への移植に利用できる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明方法を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1 イヌ腸骨骨髄由来間葉系幹細胞
<骨髄液の準備>
5歳雌HBDイヌ腸骨より吸引して骨髄を採取した。採取した骨髄中の白血球(WBC)濃度、及び
赤血球(RBC)濃度を自動血球計数器 (商品名:MEK-5150セルタック 日本光電社製)を用いて測定したところ、採取した骨髄中の白血球(WBC)数は12.92×10
4 cells/μl、赤血球(RBC)数は556×10
4 cells/μlであった。WBC数は、間葉系幹細胞を含む母集団として、骨髄由来の有核細胞(NC)数として初代培養時の播種に用いた。また、本発明に係る初代培養法によって得られた細胞の骨分化能をアリザリンレッドS染色にて確認したところ、赤く染色した。
【0023】
<培養液の調整>
Percoll PLUS(商品名、GEヘルスケア社製)を用いてその比重を表1に示す値に調整したαMEM培地(いずれの培地も1%ペニシリンストレプトマイシン、10%ウシ胎児血清含有、アスコルビン酸ナトリウム50μg/ml添加)を培養には用いた。なお、Percoll PLUSを含まない通常のαMEM培地(
この培地も1%ペニシリンストレプトマイシン、10%ウシ胎児血清含有、アスコルビン酸ナトリウム50μg/ml添加)をコントロール培養液とした。
【0024】
<培養手順>
手順1:上記の如く調整した培養液で満たされた培養フラスコ(商品名:Lab-Tekスライドフラスコ ナルジェ ヌンク インターナショナル株式会社、培養面積10cm
2)中に、有核細胞500×10
4 cellsの骨髄を播種し、培養フラスコの通常培養に使用される面を天井側にして37℃の温度にて静置培養した。
手順2:培養開始から3日間の静置培養の後、培養フラスコ中の培地を除去した。培養フラスコを逆さまにした後(天井面を下面にして通常に培養に使用される面を床側にした後)コントロール培養液を2ml加えて更に2日間培養した。その後、培養液をすべて除去し、10mlのリン酸緩衝液にて培養面を5回洗浄した。十分な洗浄の後、培養面への接着細胞を1mlのトリプシン-EDTAで剥離し、その数をコールターカウンター(商品名:Z1S型 ベックマンコールター社)を用いて計測した。結果を表1に纏めて示す。
なお、手順1においてコントロール培養液を用い、培養フラスコの通常培養に使用される面を床側にして37℃の温度にて静置培養した後に手順2を施したものをコントロール培養とした。
【0025】
【表1】
【0026】
表1から明らかなように、実施例においては、天井側に設定した培養面に良好な細胞接着が得られた。しかしながら、培養液の比重が1.06未満のもの(比較例1、2)については細胞が浮上しないため天井側の培養面に細胞接着が少なかった。逆に比重を大きくした場合(比較例3)、接着阻害因子等も同時に浮上するためか、天井側の培養面への接着細胞が少なかった。天井面に接着した細胞はいずれも良好な増殖性を示した。
また、本発明に係る培養法によって得られた細胞を骨,軟骨,脂肪分化培養したところ、骨分化能はアリザリンレッドS染色、軟骨分化能はアルシアンブルー染色、脂肪分化能はオイルレッド-O染色にてそれぞれ確認され、本発明方法によって間葉系幹細胞が確実に得られていたことが確認できた。
【0027】
実施例2 イヌ顎骨骨髄由来間葉系幹細胞の培養
<骨髄液の準備>
5歳雌HBDイヌ下顎大臼歯根分岐部下の顎骨より吸引して骨髄を採取した。採取した骨髄中の白血球(WBC)濃度、及び赤血球(RBC)濃度を自動血球計数機(商品名:MEK-5150セルタック 日本光電社製)を用いて測定したところ、採取した骨髄中のWBC数は64×10
2 cells/μl、RBC数は423×10
4 cells/μlであった。WBC数は、間葉系幹細胞を含む母集団として、骨髄由来の有核細胞(NC)数として初代培養時の播種に用いた。
【0028】
<培養液の調製>
Percoll PLUS (商品名、GEヘルスケア社製)を用いてその比重を1.075に調製したαMEM培地(1%ペニシリンストレプトマイシン、10%ウシ胎児血清含有、アスコルビン酸ナトリウム50μg/ml添加)を培養には用いた。なお、Percoll PLUSを含まない通常のαMEM培地(1%ペニシリンストレプトマイシン、10%ウシ胎児血清含有、アスコルビン酸ナトリウム50μg/ml添加)をコントロール培養液とした。
【0029】
<培養手順>
手順1:上記の如く調製した培養液約20mlで満たされた培養フラスコ(商品名:Lab-Tekスライドフラスコ ナルジェ ヌンク インターナショナル株式会社、培養面積10cm
2)中に、有核細胞100×10
4 cellsの骨髄を播種し、培養フラスコの培養面を天井側にして37℃の温度にて静置培養した。
手順2:培養開始から7日間の静置培養の後、培養フラスコ中の培地を除去した。培養フラスコを逆さまにした後(培養面を床側にした後)コントロール培養液で通常の培養を行った(培養液約2ml)。その後、1週間に3回の培地交換を実施して通常の方法で継続培養した。培養容器の培養面が接着細胞の増殖によりコンフルエントに達したとき、培養液をすべて除去し、0.4mlのトリプシン-EDTAで剥離して継代培養を継続した。各継代時、コールターカウンター(商品名:Z1S型 ベックマンコールター社製)を用いて細胞数を計測したところ初代培養では培養フラスコ1個当たり33.7×10
4 個、更にこれを継代培養して3継代後には培養フラスコ1個当たり4×10
7 個の間葉系細胞を得ることができた。
【0030】
比較例4
比重を調製していないコントロール培養液約20mlで満たされた培養フラスコ(商品名:Lab-Tekスライドフラスコ ナルジェ ヌンク インターナショナル株式会社、培養面積10cm
2)中に、有核細胞100×10
4 cellsの骨髄を播種し、培養フラスコの培養面を天井側にして37℃の温度にて静置培養した。しかしながら、コントロール培養からは増殖良好な間葉系幹細胞を得ることができなかった。