(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678361
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】人工骨材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/00 20060101AFI20150212BHJP
【FI】
A61L27/00 F
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-115215(P2010-115215)
(22)【出願日】2010年5月19日
(65)【公開番号】特開2011-239978(P2011-239978A)
(43)【公開日】2011年12月1日
【審査請求日】2013年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】本島 怜
(72)【発明者】
【氏名】井上 晃
(72)【発明者】
【氏名】高見 公彰
(72)【発明者】
【氏名】小松 希
【審査官】
牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−509583(JP,A)
【文献】
特開2000−211978(JP,A)
【文献】
Biomaterials, Vol.22 No.8 p.847-854 (2001)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00− 33/00
A61F 2/00− 2/97
C04B 37/00− 37/04
CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内のリン酸ナトリウムカルシウム粉末と、αリン酸三カルシウムと、βリン酸三カルシウムとを含み、
前記リン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径が、300μm以下であり、
前記αリン酸三カルシウムが、平均粒径5以上15μm未満の粉末である人工骨材料。
【請求項2】
前記リン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径が、300μmである請求項1に記載の人工骨材料。
【請求項3】
前記βリン酸三カルシウムが、平均粒径300以上500μm未満の粉末である請求項1または請求項2に記載の人工骨材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工骨材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸ナトリウムカルシウムとクエン酸塩硬化剤とを含むセメントが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このセメントによれば高い生体適合性を有し、硬化前に整形可能なペーストが形成され取り扱い容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平9−509583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のセメントは、体液等の液中にて硬化させる用途においては十分な強度が得られないという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、液中で硬化させる用途においても高い強度を得ることができる人工骨材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内のリン酸ナトリウムカルシウム粉末と、αリン酸三カルシウムと、βリン酸三カルシウムとを含み、前記リン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径が、300μm以下であ
り、前記αリン酸三カルシウムが、平均粒径5以上15μm未満の粉末である人工骨材料を提供する。
【0006】
本発明によれば、適量の蒸留水とともに混練して整形可能なペーストを形成し、整形直後に生理食塩水等の液中に浸漬して養生した後においても、骨として必要とされる最低限の強度である5MPaより大きな強度を得ることができる。すなわち、液中で硬化させる用途に適用しても骨として十分に機能させ得る高い強度を得ることができる。
特に、上記発明においては、リン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径を300μmとすることにより、上記カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内において15MPaの圧縮強度を達成でき、液中においても皮質骨として十分に機能させ得る高い強度を得ることができる。
【0007】
上記発明においては、前記αリン酸三カルシウムが、平均粒径5以上15μm未満の粉末であ
る。
このようにすることで、上記カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内において15MPaの圧縮強度を達成でき、液中においても皮質骨として十分に機能させ得る高い強度を得ることができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記βリン酸三カルシウムが、平均粒径300以上500μm未満の粉末であることが好ましい。
このようにすることで、上記カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内において15MPaの圧縮強度を達成でき、液中においても皮質骨として十分に機能させ得る高い強度を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液中で硬化させる用途においても高い強度を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る人工骨材料を構成するリン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径(目開き)をパラメータとした、カルシウム/ナトリウム比率と圧縮強度との関係のグラフを示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る人工骨材料を構成するαリン酸三カルシウム粉末の平均粒径(目開き)をパラメータとした、カルシウム/ナトリウム比率と圧縮強度との関係のグラフを示す図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る人工骨材料を構成するβリン酸三カルシウム粉末の平均粒径(目開き)をパラメータとした、カルシウム/ナトリウム比率と圧縮強度との関係のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態に係る人工骨材料について、
図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る人工骨材料は、カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内のリン酸ナトリウムカルシウム粉末を含み、αリン酸三カルシウム(以下、α−TCP)および、βリン酸三カルシウム(以下、β−TCP)を含んでいる。また、本実施形態に係る人工骨材料は、リン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径が300μmである。
【0012】
図1は、メカノケミカル法を用いて合成されたリン酸カルシウムナトリウム(CSP)におけるカルシウム/ナトリウム比率(Ca/Na)を変化させたときの圧縮強度を、含有するリン酸ナトリウムカルシウム粉末の平均粒径をパラメータとして棒グラフで表示した図である。
【0013】
ここで、CSP1〜7のカルシウム/ナトリウム比率は以下の通りである。
CSP1 Ca/Na=4/1
CSP2 Ca/Na=3/1
CSP3 Ca/Na=5/2
CSP4 Ca/Na=2/1
CSP5 Ca/Na=702/465
CSP6 Ca/Na=23/20
CSP7 Ca/Na=1/1
【0014】
各CSPは、1100℃で10時間焼成し、得られたCSP粉末を粉砕し、目開き(平均粒径)が106μm、300μm、500μmの3種類に篩い分けた。
各平均粒径のCSPをそれぞれ0.7g、α−TCPを0.3g、β−TCPを0.1g量り取り、さらに無水クエン酸を0.2g加えて混合した。そして、0.2mLの練和液(例えば、蒸留水)を添加して混練することによりセメントを作成し、作成後、5分以内にセメントを直径7mm、高さ10mmの円柱状に整形し、整形後、直ちに生理食塩水中に浸漬して100時間養生させた。
圧縮強度の測定は、生理食塩水中での養生後に行った。
【0015】
図1によれば、カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内であれば、平均粒径が300μm以下の場合、すなわち、目開き106μmおよび300μmの場合に、5MPa以上の圧縮強度を得ることができ、目開き300μmの場合に、15MPa以上の圧縮強度を得ることができた。すなわち、これらの条件を満たす本実施形態に係る人工骨材料CSP2〜CSP7によれば、骨として機能させるための5MPa以上の圧縮強度および皮質骨として機能させるための15MPa以上の圧縮強度を達成できるという利点がある。
【0016】
そして、このように構成された本実施形態に係る人工骨材料によれば、液中において硬化させる用途、例えば、体液で満たされている骨欠損部等に補填する場合においても、骨として機能し得る十分な圧縮強度を発揮することができるという利点がある。
【0017】
次に、本発明の第2の実施形態に係る人工骨材料について、
図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る人工骨材料は、α−TCP粉末の平均粒径が5μm以上15μm未満である点で、第1の実施形態に係る人工骨材料と相違している。
【0018】
α−TCP粉末として、平均粒径5μm未満、5μm以上15μm未満および15μm以上の3種類を用意し、上記と同様にして混練、整形したセメントの圧縮強度測定を行った。
その結果、
図2に示されるように、α−TCP粉末の平均粒径が5μm以上15μm未満である本実施形態に係る人工骨材料によれば、カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内であれば、15MPa以上の圧縮強度を得ることができた。
【0019】
このように構成された本実施形態に係る人工骨材料によれば、液中において硬化させる用途、例えば、体液で満たされている骨欠損部等に補填する場合においても、皮質骨として機能し得る十分な圧縮強度を発揮することができるという利点がある。
【0020】
次に、本発明の第3の実施形態に係る人工骨材料について、
図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る人工骨材料は、β−TCP粉末の平均粒径が300μm以上500μm未満である点で、第1の実施形態に係る人工骨材料と相違している。
【0021】
β−TCP粉末として、平均粒径300μm未満、300μm以上500μm未満および500μm以上の3種類を用意し、上記と同様にして混練、整形したセメントの圧縮強度測定を行った。
その結果、
図3に示されるように、β−TCP粉末の平均粒径が300μm以上500μm未満である本実施形態に係る人工骨材料によれば、カルシウム/ナトリウム比率が1/1以上3/1以下の範囲内であれば、15MPa以上の圧縮強度を得ることができた。
【0022】
このように構成された本実施形態に係る人工骨材料によれば、液中において硬化させる用途、例えば、体液で満たされている骨欠損部等に補填する場合においても、皮質骨として機能し得る十分な圧縮強度を発揮することができるという利点がある。