(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678430
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】触媒の調製方法および前記触媒からのポリオレフィンの重合方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/658 20060101AFI20150212BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20150212BHJP
【FI】
C08F4/658
C08F10/00 510
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2009-536662(P2009-536662)
(86)(22)【出願日】2007年11月16日
(65)【公表番号】特表2010-510334(P2010-510334A)
(43)【公表日】2010年4月2日
(86)【国際出願番号】EP2007009917
(87)【国際公開番号】WO2008058749
(87)【国際公開日】20080522
【審査請求日】2010年11月5日
(31)【優先権主張番号】2006140557
(32)【優先日】2006年11月16日
(33)【優先権主張国】RU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100094318
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 行一
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】キッド, ティモシー, ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】キローガ, ノーラムブエナ, ヴィクター, フィデル
(72)【発明者】
【氏名】ミケナス, タチアナ ボリソヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ニキーチン, ヴァレンティン エヴゲニエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ザハロフ, ウラジーミル アレクサンドロヴィチ
【審査官】
藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−041514(JP,A)
【文献】
特開昭63−039902(JP,A)
【文献】
特表2003−510425(JP,A)
【文献】
特開2001−342214(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/097322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4/60−4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機マグネシウム化合物溶液とケイ素混合物または化合物との反応によって得られるマグネシウム化合物と、ハロゲン化された4族金属化合物とを接触させることによって、オレフィンの重合に適した触媒を調製するための方法であって、
(a)前記有機マグネシウム化合物溶液が、金属マグネシウムMgと、芳香族ハロゲン化物RXおよびエーテルR0(式中、Rは6〜20個の炭素を含有する芳香族基であり、Xはハロゲン化物である)とを接触させることによって得られることと、
(b)前記ケイ素混合物または化合物が、ハロゲン化ヒドロカルビルシランと、アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物との混合または反応によって得られる生成物であり、アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物に対するハロゲン化ヒドロカルビルシランのモル比が5〜100の間であることと
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物が、テトラエトキシシランSi(OEt)4である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化ヒドロカルビルシランが、組成R1kSiX4−k(式中、R1=(C1〜C6)アルキル、または(C6〜C18)アリール、X=ハロゲン原子、そしてk=0〜2である)を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機マグネシウム化合物と、前記ケイ素混合物または化合物との反応が、−10〜60℃の範囲の温度で実行される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物/Mgのモル比が、0.02〜1.0の範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ハロゲン化ヒドロカルビルシラン/Mgのモル比が、1.0〜2.5の範囲である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記オレフィンがエチレンであり、前記ハロゲン化された4族金属化合物が四塩化チタンであり、前記芳香族ハロゲン化物がクロロベンゼンであり、前記エーテルがジ−n−ブチルエーテルまたはジイソアミルエーテルであり、前記ハロゲン化ヒドロカルビルシランが組成R1kSiCl4−k(式中、R1=メチルまたはフェニル、そしてk=0〜1である)を有し、前記アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物がテトラエトキシシランSi(OEt)4であり、そしてアルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物に対するハロゲン化ヒドロカルビルシランのモル比が4〜60の間である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる触媒。
【請求項9】
ポリオレフィンの調製における請求項8に記載の触媒の使用。
【請求項10】
前記ポリオレフィンが、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
組成:Mg(C6H5)2・nMgCl2・mR2O(式中、n=0.37〜0.7、m=2であり、R2Oはエーテルであり、R=i−Am、n−Buである)の有機マグネシウム化合物溶液と、ケイ素化合物との反応によって得られるマグネシウム含有担体上のチタン化合物を含む、炭化水素溶媒中の懸濁状態で超高分子量ポリエチレンを合成するための担持触媒の製造方法であって、
使用されるケイ素化合物が、組成R1kSiCl4−k(式中、R1=メチルまたはフェニルであり、k=0〜1である)の化合物と、シリコンテトラエトキシドSi(OEt)4とを、R1xSiCl4−x/Si(OEt)4=6〜40のモル比で反応させることによって得られる生成物であることを特徴とする方法。
【請求項12】
有機マグネシウム化合物と、上記組成のケイ素化合物との反応が、10〜30℃の温度で実行されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Si(OEt)4/Mg=0.05〜0.3、およびR1xSiCl4−x/Mg=1.6〜2.0の比率であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
マグネシウム含有担体上のチタン化合物を含む組成の触媒の存在下、炭化水素溶媒中の懸濁状態でのエチレンの重合方法であって、
請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法に従って調製される触媒が、トリアルキルアルミニウム共触媒と併用されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、マグネシウム含有担体上のチタン化合物を含む組成の担持触媒の製造方法に関し、炭化水素溶媒中のエチレンの懸濁重合によって高バルク密度を有する超高分子量ポリエチレンを合成することが意図される。
【0002】
懸濁法によって超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を製造するために、様々な方法で得ることができる塩化チタンおよび塩化マグネシウムを含むチーグラー型の担持触媒を使用することが可能である。この場合、1・10
6g/molよりも大きい分子量を有するPE(135℃においてデカリン中で決定される固有粘度は10dl/gよりも大きい)を製造するために、エチレンの重合は70℃以下の重合温度で水素を存在させずに実行される。重合は、共触媒のトリアルキルアルミニウムの存在下で実行される。UHMWPEの合成のための触媒に課せられる重要な必要条件は、200μm未満の平均粒径、狭い粒径分布および高いバルク密度(>0.4g/cm
3)を有するUHMWPE粉末の製造の可能性である。このためには、8μm未満の平均粒径、狭い粒径分布および低い多孔率を有する担持触媒を使用することが必要である。
【0003】
UHMWPEは、方法[特開昭59−53511号公報、B01J31/32、1986年]によって製造される触媒の存在下で合成することができる。この触媒は、電子供与体化合物(安息香酸エチル、アニス酸エチルなど)の存在下で、炭化水素希釈剤中の化合物MgCl
2・3i−C
8H
17OHの溶液と、TiCl
4とを反応させることによって得られる塩化マグネシウムを担体として含有する。この方法で得られる触媒は、5〜10μmの粒径を特徴とし、かなり高い活性(35kg/gPE.g.Ti.h.atmC
2H
4まで)を有し、狭い粒径分布および高いバルク密度を有するポリエチレン粉末の製造を可能にする。この触媒の欠点は、その製造における低温(−20℃まで)の使用、反応媒体としての大量の液体TiCl
4の使用、そして触媒合成中のかなりの量の塩化水素の発生である。
【0004】
組成RMgR’・nAlR”
3・mDのマグネシウム−アルミニウム−アルキル化合物を塩化炭化水素と反応させ、次に得られた固体生成物(担体)をハロゲン化チタンと反応させることによって得られる、エチレン重合のための既知の担持触媒が存在する[独国特許発明第3626060号明細書、B01J31/32、1987年]。使用される有機マグネシウム化合物RMgR’は、炭化水素に可溶性の(n−Bu)Mg(i−Bu)または(n−Bu)Mg(Oct)であり、塩化炭化水素としてtert−BuClを使用することが好ましい。この方法で調製される触媒の主な欠点は、これらがエチレンの懸濁重合において十分に高い活性を有さないことと、大きい粒径(10μmよりも大きい)を有することである。
【0005】
マグネシウム含有担体上の四塩化チタンを含有する担持チタン−マグネシウム触媒の既知の調製方法が存在し、これは、組成MgPh
2・nMgCl
2・mR
2O(式中、Ph=フェニル、R
2O=エーテルであり、R=ブチルまたはi−アミルであり、n=0.37〜0.7、m=1〜2である)の有機マグネシウム化合物(OMC)の溶液と、四塩化炭素とを反応させ、次に得られたマグネシウム含有担体を四塩化チタンで処理することによって得られる(露国特許第2064836号明細書、B01J31/38、1996年8月10日)。この方法は、30〜3μmの範囲の制御可能な粒径を有する触媒を与える。しかしながら、UHMWPEの製造のために好ましいような10〜3μmの範囲の粒径を有する触媒を製造するためには、OMCとCCl
4の反応は低温(−5℃〜−15℃)で実行されなければならず、さらに、OMCとCCl
4の反応方法は、特に装置の大きさおよび製造される触媒の量を増大させると制御するのが困難になる。さらに、CCl
4の使用は、その毒性に関連する問題を有する。
【0006】
最も近い従来技術は、露国特許第2257263号明細書、B01J31/38、2005年7月27日に記載される担持チタン−マグネシウム触媒の調製方法であり、マグネシウム含有担体は、組成MgPh
2・nMgCl
2・mR
2O(式中、Ph=フェニル、R
2O=エーテルであり、R=ブチルまたはi−アミルであり、n=0.37〜0.7、m=1〜2である)の有機マグネシウム化合物(OMC)の溶液と、アルキルクロロシランR
xSiCl
4−x(式中、R=アルキル、フェニル、x=1〜2)との反応によって得られる。
【0007】
既知の方法によって得られる触媒の主な欠点は、比較的低いバルク密度のUHMWPEが製造されることである。
【0008】
本発明の目的は、必要とされる粒径を有するポリオレフィン触媒が得られ、その結果、現存の触媒系と比較して増大されたバルク密度を有するポリオレフィンが得られる、UHMWPEなどのポリオレフィンの製造のための担持触媒を提供することである。
【0009】
本発明は、高バルク密度および高収率を有する超高分子量ポリエチレンUHMWPEなどのポリオレフィンの懸濁重合によって、合成のための担持触媒を製造する問題を解決する。
【0010】
本発明の1つの実施形態では、有機マグネシウム化合物溶液とケイ素混合物または化合物との反応によって得られるマグネシウム化合物と、ハロゲン化された4族または5族金属化合物とを接触させることによって、オレフィンの重合に適した触媒を調製するための方法であって、
(a)有機マグネシウム化合物溶液が、金属マグネシウムMgと、芳香族ハロゲン化物RXおよびエーテルR
0(式中、Rは6〜20個の炭素を含有する芳香族基であり、Xはハロゲン化物である)とを接触させることによって得られることと、
(b)ケイ素混合物または化合物が、ハロゲン化ヒドロカルビルシランと、アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物との混合または反応によって得られる生成物であり、アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物に対するハロゲン化ヒドロカルビルシランのモル比が5〜100の間であることと
を特徴とする方法が提供される。
【0011】
予想外に、この処方は、当該技術分野において既知の従来の触媒と比較して高バルク密度および高収率を示す触媒を提供する。
【0012】
アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物に対するハロゲン化ヒドロカルビルシランのモル比は、好ましくは5.5〜60の範囲であり、より好ましくは6〜40の範囲、さらにより好ましくは10〜35の範囲である。これらの好ましい範囲内のモル比は、バルク密度が増大したポリオレフィンの形成を促進する。触媒収率も考慮される場合には、アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物に対するハロゲン化ヒドロカルビルシランのモル比の下限は、好ましくは少なくとも5であり、より好ましくは少なくとも10、そして最も好ましくは少なくとも15であり、モル比の上限は、好ましくは60以下、より好ましくは40以下である。
【0013】
好ましくは、オレフィンはエチレンであり、得られるポリオレフィンはUHMWPEである。
【0014】
有機マグネシウム化合物の調製方法における第1のステップは、金属マグネシウムと芳香族ハロゲン化物RXとを接触させることによって実行される。金属マグネシウムとして全ての形態の金属マグネシウムを使用することができるが、好ましくは、微粉化された金属マグネシウム、例えばマグネシウム粉末が使用される。
【0015】
芳香族ハロゲン化物RXにおいて、Rは、好ましくは6〜18個の炭素原子を含有する芳香族基であり、Xは、好ましくは塩素、臭素またはヨウ素である。好ましい芳香族ハロゲン化物は、クロロベンゼン、ブロモベンゼンおよびヨードベンゼンを含む。
【0016】
マグネシウムおよび芳香族ハロゲン化物RXは、好ましくは、不活性分散剤およびエーテルの存在下で互いに接触させられる。分散剤の例としては、4〜10個の炭素原子を含有する脂肪族、脂環式または芳香族溶媒が挙げられる。好ましくは、クロロベンゼンは不活性分散剤としても使用される。
【0017】
エーテルは、式ROR、Ar−O−ArまたはR−O−Arを有する一般的な化合物であり、式中Rはアルキルであり、Arはアリールである。エーテルの例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−tert−ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)およびアニソールが挙げられるが、これらに限定されない。ジ−n−ブチルエーテルおよび/またはジイソアミルエーテルを使用するのが好ましい。
【0018】
芳香族ハロゲン化物/エーテル比は、活性な触媒の獲得に関して重要である。芳香族ハロゲン化物/エーテル(例えば、クロロベンゼン/ジブチルエーテル)の体積比は、例えば、5:1〜1:2の間で変わり得る。芳香族ハロゲン化物/エーテル比が小さくなると、触媒を用いて調製されるポリオレフィン粉末のバルク密度が低くなり、芳香族ハロゲン化物/エーテルが大きくなると、溶解される反応生成物の量が少なくなる。従って、芳香族ハロゲン化物/エーテルの体積比が4:1〜3:1の間である場合に、特に良好な結果が得られる。ハロゲン化アルキルの例は、塩化ブチル、臭化ブチルおよび1,2−ジブロモエタンである。ステップaの反応温度は、普通は20〜150℃の間であり、反応時間は0.5〜20時間の間である。
【0019】
アルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラ(p−メチルフェノキシ)シラン、テトラベンジルオキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ブチルトリフェノキシシラン、イソブチルトリイソブトキシシラン、ビニルトリエチルオキシシラン、アリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ベンジルトリフェノキシシラン、エチルトリアリルオキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロピルオキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジメチルジヘキシルオキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソブトキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、ジブチルジイソプロピルオキシシラン、ジブチルジブトキシシラン、ジブチルジフェノキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、ジイソブチルジイソブトキシシラン、ジフェニルメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、ジベンジルジエトキシシラン、ジビニルジフェノキシシラン、ジアリルジプロポキシシラン、ジフェニルジアリルオキシシラン、メチルフェニルジメトキシシランおよびクロロフェニルジエトキシシランが含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
もう1つの実施形態では、ハロゲン化ヒドロカルビルシランは式R
1kSiX
4−Kを有し、式中、R
1=(C
1〜C
6)アルキルまたは(C
6〜C
18)アリール、X=ハロゲン原子、そしてk=0〜2である。好ましくは、X=Cl、R
1=メチルまたはフェニル、そしてk=0〜1(例えば、PhSiCl
3またはMeSiCl
3)である。
【0021】
好ましくは、有機マグネシウム化合物は、分散剤として前述の溶媒などの不活性炭化水素溶媒の存在下でケイ素混合物または化合物と接触させられる。好ましくは、攪拌またはかき混ぜを用いて、有機マグネシウム化合物とケイ素化合物を混ぜ合わせてこれらの間の反応を促進させる。反応の生成物は不活性炭化水素溶媒ですすぎまたは洗浄され、次に触媒の調製のために使用される。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、芳香族ハロゲン化物RXはクロロベンゼンであり、有機マグネシウム化合物溶液は式Mg(C
6H
5)
2・nMgCl
2・mR
2Oを有する化合物を含み、式中、n=0.37〜0.7、m>1であり、R
2Oはエーテルであり、R=i−Am(ジイソアミルエーテル)、n−Bu(ジ−n−ブチルエーテル)である。理論的には、有機マグネシウム化合物はMg(C
6H
5)
2・0.5MgCl
2・2R
2O(すなわち、nは好ましくは約0.5であり、mは好ましくは約2である)であるが、MgCl
2とエーテルの比率は、溶液中の化合物のキャラクタリゼーション方法(例えば、固体または溶液NMRによる)に応じて変動し得る。有機マグネシウム溶液中の有機マグネシウム化合物の実験式は、NMRおよび元素分析(例えば、ICP−AES)によって決定することができる。
【0023】
Mgに対するアルコキシ基またはアリールオキシ基含有シラン化合物のモル比は、好ましくは0.02〜1.0であり、より好ましくは0.05〜0.3である。より高い比率はより大きい触媒粒径をもたらし、分子量が低下されたポリマーが得られ、これは通常望ましくない。
【0024】
Mgに対するハロゲン化ヒドロカルビルシランのモル比は1〜2.5であり、より好ましくは1.6〜2.0である。これらの好ましい範囲の比率は、収率の増大をもたらす。
【0025】
好ましくは、有機マグネシウム化合物とケイ素混合物または化合物との反応は、−10〜60℃の範囲の温度、より好ましくは10〜30℃の間の温度で実行される。この範囲内の温度は、小さい触媒粒径(例えば、10μmまたはそれ以下)を生じる傾向がある。
【0026】
好ましい実施形態では、触媒は上記のような有機マグネシウム溶液およびケイ素化合物を用いて得られ、ケイ素化合物としては、10〜30℃の好ましい温度で、モル比R
1xSiCl
4−x/Si(OEt)
4=6〜40で、好ましくは0.05〜0.3のSi(OEt)
4/Mgのモル比で、そして好ましくは1.6〜2.0のR
1xSiCl
4−x/Mgのモル比で、組成R
1kSiCl
4−k(式中、R
1=メチルまたはフェニル、k=0〜1)の化合物と、シリコンテトラエトキシドSi(OEt)
4とを反応または混合することによって得られる生成物が使用される。
【0027】
従来の方法を用いて、触媒担体は次にハロゲン化された4族または5族金属と混ぜ合わせられる。4族または5族金属は、好ましくは、TiまたはVであり、より好ましくはTiである。1つの特別な実施形態では、ハロゲン化された4族または5族金属は、Ti(OEt)
2Cl
2またはTi(OEt)
3Clのようにアルコキシ基またはアリールオキシ基を含む。
【0028】
ハロゲン化された4族または5族金属(例えば、TiCl
4)で処理された後の触媒担体は適切な溶媒(例えば、ヘプタン)で洗浄され、触媒が得られる。
【0029】
提案される触媒の製造方法は、高収率および高バルク密度(好ましくは0.38〜0.55g/cm
3の範囲、より好ましくは0.39〜0.45の範囲)のポリエチレンの製造を提供する。特別な実施形態では、バルク密度は好ましくは0.39よりも大きく、より好ましくは0.42よりも大きく、さらにより好ましくは0.45よりも大きく、そして最も好ましくは0.48g/cm
3よりも大きい(ステアリン酸カルシウムなどのバルク密度の加工助剤の不在下で達成される)。
【0030】
触媒収率は、触媒1グラムあたり、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも9、さらにより好ましくは少なくとも12、そして最も好ましくは少なくとも15kgのポリマーである。
【0031】
本発明の触媒は、触媒および元素の周期律の1族、2族、12族または13族からの金属を含有する有機金属化合物の存在下でオレフィンを重合させることによるポリオレフィンの調製のために適している(Handbook of Chemistry and Physics、第70版、CRC Press、1989−1990)。好ましくは、有機金属化合物は有機アルミニウム化合物である。有機アルミニウム化合物として、式R
nAlX
3−nを有する化合物が使用され、式中、Xはハロゲン原子、アルコキシ基または水素原子であり、Rはアルキル基またはアリール基であり、そして1<n<3である。有機アルミニウム化合物の例は、トリアルキルアルミニウム(例えば、トリイソブチルアルミニウムまたはトリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム)、塩化ジメチルアルミニウム、塩化ジエチルアルミニウム、ヨウ化ジエチルアルミニウム、塩化ジイソブチルアルミニウム、二塩化メチルアルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、二臭化エチルアルミニウム、二塩化イソブチルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジメチルアルミニウムヒドリドおよびジエチルアルミニウムヒドリドである。
【0032】
本発明のもう1つの実施形態では、マグネシウム含有担体上の4族または5族金属(例えば、Ti)化合物を含む組成の触媒の存在下、炭化水素溶媒中の懸濁状態でのエチレンの重合方法であって、触媒が前述の方法のいずれかに従って調製され、トリアルキルアルミニウム共触媒と併用されることを特徴とする方法が提供される。
【0033】
好ましい実施形態では、重合は、トリアルキルアルミニウム(トリイソブチルアルミニウムまたはトリエチルアルミニウム)などの共触媒の存在下、1バール以上のエチレン圧力において、炭化水素溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン)中、30℃〜85℃の温度、より好ましくは40〜70℃の温度の懸濁状態で実行される。
【0034】
本発明に従って製造される超高分子量ポリエチレンは好ましくは以下の特性を含む:
− 0.39g/cm
3よりも大きい、好ましくは0.42g/cm
3よりも大きい、より好ましくは0.45g/cm
3よりも大きい、そして最も好ましくは0.48g/cm
3よりも大きいバルク密度(ステアリン酸カルシウムなどのバルク密度の増加剤の不在下で達成される)、
− 200μm未満、好ましくは180μm未満の粒径、
− 1.0未満、好ましくは0.8未満のスパン(span)、および/または
− 5ppm未満、好ましくは2ppm未満、そして最も好ましくは1ppm未満の残留4族または5族金属含量。
【0035】
好ましくは、UHMWPEは、上記の4つの特性のうちの少なくとも3つを含む。より好ましくは、UHMWPEは上記の特性を全て含む。さらにより好ましくは、UHMWPEは、上記の特性を全てその最も好ましい範囲で含む。
【0036】
上記特性の組み合わせは、加工性と機械特性との間の優れたバランスを有するUHMWPEを提供し、UHMWPEはそれ自体、繊維およびテープの製造において使用することができる。さらに、残留金属含量が低いことにより、材料は生物医学的用途などの特殊な用途に適切とされる。触媒残渣などの微量成分をUHMWPEから除去する商業的な方法は利用できない。そのため、不純物レベル制御および低減は特に調製方法に左右される。
【0037】
特別な実施形態では、ケイ素化合物として、10〜30℃の温度でR
1xSiCl
4−x/Si(OEt)
4=6〜40のモル比、Si(OEt)
4/Mg=0.05〜0.3の比、そしてR
1xSiCl
4−x/Mg=1.6〜2.0における、組成R
1kSiCl
4−k(式中、R
1=メチルまたはフェニル、k=0〜1である)の化合物と、シリコンテトラエトキシドSi(OEt)
4との反応によって得られる生成物を用いて、担持チタン−マグネシウム触媒のための担体が、組成Mg(C
6H
5)
2・nMgCl
2・mR
2O(式中、n=0.37〜0.7、m=2であり、R
2Oはエーテルであり、R=i−Am(ジイソアミルエーテル)、n−Bu(ジ−n−ブチルエーテル)である)の有機マグネシウム化合物の溶液と、ケイ素化合物との反応によって得られるという点で問題は解決される。
【0038】
本発明のこの特別な実施形態では、組成:Mg(C
6H
5)
2・nMgCl
2・mR
2O(式中、n=0.37〜0.7、m=2であり、R
2Oはエーテルであり、R=i−Am、n−Buである)の有機マグネシウム化合物溶液と、ケイ素化合物との反応によって得られるマグネシウム含有担体上のチタン化合物を含む、炭化水素溶媒中の懸濁状態での超高分子量ポリエチレンの合成のための担持触媒の製造方法であって、使用されるケイ素化合物が、モル比R
1xSiCl
4−x/Si(OEt)
4=6〜40における組成R
1kSiCl
4−k(式中、R
1=メチルまたはフェニル、k=0〜1である)の化合物と、シリコンテトラエトキシドSi(OEt)
4との反応によって得られる生成物であることを特徴とする方法が提供される。
【0039】
好ましくは、有機マグネシウム化合物と上記の組成のケイ素化合物との反応は、10〜30℃の温度で実行される。
【0040】
好ましくは、比率Si(OEt)
4/Mg=0.05〜0.3であり、R
1xSiCl
4−x/Mg=1.6〜2.0である。
【0041】
本発明は、マグネシウム含有担体上のチタン化合物を含む組成の触媒の存在下、炭化水素溶媒中の懸濁状態でのエチレンの重合方法であって、触媒が前述のように調製され、トリアルキルアルミニウム共触媒と併用されることを特徴とする方法にも関する。
【0042】
本発明の特徴は以下の実施例によって説明される。
【0043】
[試験方法]
バルク密度は、23℃/50%の相対湿度でISO60に従って決定される。
【0044】
ポリマーの平均粒径は、Malvern
TMLLD粒径分析器を用いて、ISO13320−2に従って決定される。
【0045】
触媒の平均サイズは、Malvern
TMLLD粒径分析器を用いて決定される。
【0046】
ポリマーのスパンは、(D90−D10)/D50であると定義され、Malvern
TMLLD粒径分析器を用いて決定される。
【0047】
[実施例1]
[(A)有機マグネシウム化合物溶液の調製]
撹拌器およびサーモスタットを備えた1lの容積のガラス反応器に、450mlのクロロベンゼン(4.4mol)中の29.2gのマグネシウム粉末(1.2mol)、203mlのジブチルエーテル(DBE)(1.2mol)、および3mlの塩化ブチル中の0.05gのヨウ素の溶液を含む活性化剤を入れる。好ましくは、80〜100℃の温度で10時間、不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴン)中で反応を実行する。反応の最後に、得られた反応混合物を放置し、液相を沈降物から分離する。液相は、1.0molMg/lの濃度の組成MgPh
2・0.49MgCl
2・2(Bu)
2Oの有機マグネシウム化合物のクロロベンゼン溶液である。
【0048】
[(B)担体の合成]
得られた200mlの溶液(0.2molのMg)を撹拌した容器に入れ、15℃の温度で2.3時間、モル比40:1のPhSiCl
3(64ml)およびSi(OEt)
4(2.2ml)の混合物の溶液(Si(OEt)
4/Mg=0.05、PhSiCl
3/Mg=2.0)を反応器に供給する。次に、反応混合物を30分で60℃に加熱し、この温度で1時間保持する。母液を除去した後、20℃の温度において、形成した沈降物をヘプタンで4回(毎回250ml)洗浄する。ヘプタン中の懸濁液の形態で33gの粉状マグネシウム含有担体が得られる。
【0049】
22mlのTiCl
4を150mlのヘプタン中のマグネシウム含有担体の懸濁液(TiCl
4/Mg=1)に添加する。反応混合物を60℃に加熱して撹拌しながら2時間保持し、次に固体沈殿物を沈降させて、60〜70℃の温度のヘプタン(5×200ml)で洗浄する。1.2重量%のチタン含量を有する担持触媒が得られる。
【0050】
エチレンの重合は、撹拌器およびサーモスタット制御のためのジャケットを備えた0.8lの容積の鋼反応器内で実行される。重合のために使用される溶媒はヘプタン(250ml)であり、共触媒は1.4mmol/lの濃度のトリエチルアルミニウム(AlEt
3)である。重合は、60℃の温度、エチレン圧力4atmで3時間実行される。重合結果は表に示される。
【0051】
[実施例2]
モル比18:1におけるPhSiCl
3およびSi(OEt)
4の混合物(Si(OEt)
4/Mg=0.1、PhSiCl
3/Mg=1.8)の使用を除いて、触媒は実施例1の条件下で得られる。触媒は、1.2重量%のチタンを含有する。重合温度が70℃であり、重合時間が3.5時間であることを除いて、エチレンの重合は実施例1の条件下で実行される。重合結果は表に示される。
【0052】
[実施例3]
PhSiCl
3およびSi(OEt)
4の混合物と有機マグネシウム化合物との反応の温度が10℃であることを除いて、触媒は実施例2の条件下で得られる。触媒は、1.6重量%のチタンを含有する。初めに1atmの圧力で5分間、重合のためにエチレンおよび5体積%のプロピレンの混合物を用い、次に重合が3atmのエチレン圧力で3時間実行されることを除いて、エチレンの重合は実施例2の条件下で実行される。重合結果は表に示される。
【0053】
[実施例4]
モル比6:1のPhSiCl
3およびSi(OEt)
4の混合物(Si(OEt)
4/Mg=0.3、PhSiCl
3/Mg=1.8)が使用されることを除いて、触媒は実施例1の条件下で得られる。触媒は、2.1重量%のチタンを含有する。エチレンの重合は実施例3の条件下で4時間実行される。重合結果は表に示される。
【0054】
[実施例5]
組成MgPh
2・0.49MgCl
2・2(i−Am)
2Oの有機マグネシウム化合物が0.9molMg/lの濃度で使用されることを除いて、触媒の合成は実施例2と同様に実行される。触媒は、1.8重量%のチタンを含有する。重合温度が60℃であることを除いてエチレンの重合は実施例3の条件下で実行される。重合結果は表に示される。
【0055】
[実施例6]
PhSiCl
3の代わりにMeSiCl
3が使用され、有機マグネシウム化合物とMeSiCl
3/Si(OEt)
4混合物との反応が20℃の温度で実行されることを除いて、触媒の合成は実施例5と同様に実行される。触媒は2.4重量%のチタンを含有する。エチレンの重合は実施例3の条件下で1.2時間実行される。重合結果は表に示される。
【0056】
[実施例7]
有機マグネシウム化合物とPhSiCl
3/Si(OEt)
4混合物との反応が30℃の温度で実行され、PhSiCl
3およびSi(OEt)
4の混合物が16:1のモル比で使用される(Si(OEt)
4/Mg=0.1、PhSiCl
3/Mg=1.6)ことを除いて、触媒の合成は実施例2と同様に実行される。触媒は、2.0重量%のチタンを含有する。エチレンの重合は実施例3の条件下で3.3時間実行される。重合結果は表に示される。
【0057】
[実施例8および9]
触媒の合成は実施例5と同様に実行される。実施例8および9の触媒はそれぞれ、2.5重量%および1.7重量%のチタンを含有する。エチレン圧力が4atmであり、重合が、撹拌器およびサーモスタット制御のためのジャケットを備えた10lの容積の鋼反応器内で実行されることを除いて、エチレンの重合は実施例5の条件下で実行される。重合のために使用される溶媒はヘプタン(4.5l)であり、共触媒は、1.02mmol/lの濃度のトリエチルアルミニウム(AlEt3)である。重合結果は表に示される。
【0058】
[実施例10]
有機マグネシウム化合物とPhSiCl
3/Si(OEt)
4混合物との反応が10℃の温度で実行され、PhSiCl
3およびSi(OEt)
4の混合物が59:1のモル比で使用されることを除いて、触媒の合成は実施例2と同様に実行される。触媒は、5.0重量%のチタンを含有する。重合は実施例9に従って実施した。重合結果は表に示される。
【0059】
[実施例11]
ハロゲン化された4族または5族金属化合物はTiCl
4とSi(OEt)
4(モル比1:1)の相互作用によって調製され、NMRで決定されるようにTi(OEt)
2Cl
2が生じる。担体は実施例9に従って調製され、続いて塩化ジエチルアルミニウム(DEAC)で処理される(Al/Mg=1.5、50℃、1時間)。その後、この担体をヘプタンで洗浄し、Ti(OEt)
2Cl
2(この成分の量は担体重量の2.5重量%のTiに相当する)を担体に添加した(60℃、1時間)。重合は、重合時間を3時間に短縮したことを除いて実施例9に従って実施した。
【0060】
[実施例12]
DBEがOMC中のエーテルであることを除いて、触媒の合成は実施例9と同様に実行される。重合時間を4.5時間に増加し、5atmのエチレンを用い、プロピレンのコモノマー(0.3重量%)を重合中に反応容器に添加したことを除いて、重合は実施例9に従って実施した。
【0061】
[実施例13]
DIAEがOMC中のエーテルであり、重合ステップにおいてより高い温度(71℃)、より短い重合時間(4時間)およびより高いエチレン圧力が使用されることを除いて、触媒の合成は実施例12と同様に実行される。
【0062】
[比較実験A]
触媒は、担体の製造中、有機マグネシウム化合物との反応のためにSi/Mg=1.8の比率のPhSiCl
3が使用されることを除いて、実施例5の条件下で特許RF第2257263号に従って得られる。触媒は、1.0重量%のチタンを含有する。エチレンの重合は実施例5の条件下で2時間実行される。重合結果は表に示される。
【0063】
実施例における残留Ti含量は、通常2ppm未満であり、いくつかの実施例では1ppm未満であると決定された。
【0064】
上記の実施例および表から、本発明で提案される方法に従って調製された触媒を用いると、従来技術に従って調製された触媒(塩素化剤としてPhSiCl
3、テトラエトキシシランの添加なし、比較実験A)と比較して、高いバルク密度PE≧0.39g/cm
3を有するUHMPEを得ることが可能であると分かる。後者の場合、得られたポリマーは、より低いバルク密度を有する(同一の重合条件下で実行される実施例5および比較実験Aの比較)。