【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用 博覧会名:自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2010」 主催者名:社団法人自動車技術会 開催日:平成22年5月19日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負荷状態判定部は、燃料噴射量が、排気ガス温度から算出された燃料噴射量閾値以上であるとき、高負荷運転状態であると判定し、燃料噴射量が前記燃料噴射量閾値未満であるとき、低負荷運転状態であると判定するようにされる請求項1記載のSCRシステム。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガス中のNOxを浄化するための排ガス浄化システムとして、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択還元触媒)装置を用いたSCRシステムが開発されている。
【0003】
このSCRシステムは、尿素水をSCR装置の排気ガス上流に供給し、排気ガスの熱でアンモニアを生成し、このアンモニアによって、SCR触媒上でNOxを還元して浄化するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4に示すように、尿素水は、沸点以上の温度になると、その水分が蒸発を開始し、融解物を経てガスが生成される。生成されたガスは、温度を上昇させると結晶化し、固形物が生成される。生成された固形物が昇華するとアンモニアが生成される。また、生成された融解物やガスの一部は水蒸気と共に加水分解して、アンモニアと炭酸ガスが生成される。
【0005】
ところで、尿素水は、SCR装置の上流側に設けられたドージングバルブ(尿素噴射装置、ドージングモジュール)から噴射される。
【0006】
図5(a)に示すように、ドージングバルブ104は、高圧の尿素水Lが満たされたシリンダ51に噴口52が設けられ、その噴口52を塞ぐ弁体53がプランジャ54に取り付けられた構造となっており、コイル(図示せず)に通電することによりプランジャ54を引き上げることで弁体53を噴口52から離間させて尿素水Lを噴射するようになっている。コイルへの通電を止めると、内部のバネ力によりプランジャ54が引き下げられて弁体53が噴口52を塞ぐので尿素水Lの噴射が停止される。
【0007】
ドージングバルブ104は、高温の排気ガスが流れるエンジンの排気管に設けられる。ドージングバルブ104が高温となると、ドージングバルブ104内の尿素水Lも高温となり、
図5(b)に示すように、ドージングバルブ104内の尿素水Lが結晶化してプランジャが固着してしまったり、あるいは、
図5(c)に示すように、尿素水Lが結晶化した固体が弁体53とシリンダ51(弁座)との間に挟まって、尿素水Lの噴射が停止できなくなってしまったりして、ドージングバルブ104が動作不良となり適正な尿素水噴射制御が行えなくなるという不具合が生じる。
【0008】
また、尿素水からアンモニアを生成する過程で、腐食性の中間生成物(カルバミン酸アンモニウム)が生じ、ドージングバルブの内部を腐食させてしまうといった不具合も発生する。さらには、ドージングバルブ内の尿素水が高温となると、ドージングバルブに用いているゴムや樹脂製の部品が破損する不具合も発生する。本明細書では、このような不具合をまとめて熱害と呼称する。
【0009】
このような熱害を防止するため、エンジンを冷却する冷却水をドージングバルブに通し、冷却水によりドージングバルブを冷却することが行われている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
まず、車両に搭載されるSCRシステムについて説明する。
【0021】
図1(a)に示すように、SCRシステム100は、エンジンEの排気管102に設けられたSCR装置103と、SCR装置103の上流側(排気ガスの上流側)で尿素水を噴射するドージングバルブ(尿素噴射装置、ドージングモジュール)104と、尿素水を貯留する尿素タンク105と、尿素タンク105に貯留された尿素水をドージングバルブ104に供給するサプライモジュール106と、ドージングバルブ104やサプライモジュール106等を制御するDCU(Dosing Control Unit)126とを主に備える。
【0022】
エンジンEの排気管102には、排気ガスの上流側から下流側にかけて、DOC(Diesel Oxidation Catalyst;酸化触媒)107、DPF(Diesel Particulate Filter)108、SCR装置103が順次配置される。DOC107は、エンジンEから排気される排気ガス中のNOを酸化してNO
2とし、排気ガス中のNOとNO
2の比率を制御してSCR装置103における脱硝効率を高めるためのものである。また、DPF108は、排気ガス中のPM(Particulate Matter)を捕集するためのものである。
【0023】
SCR装置103の上流側の排気管102には、ドージングバルブ104が設けられる。ドージングバルブ104は、高圧の尿素水が満たされたシリンダに噴口が設けられ、その噴口を塞ぐ弁体がプランジャに取り付けられた構造となっており、コイルに通電することによりプランジャを引き上げることで弁体を噴口から離間させて尿素水を噴射するようになっている。コイルへの通電を止めると、内部のバネ力によりプランジャが引き下げられて弁体が噴口を塞ぐので尿素水の噴射が停止される。
【0024】
ドージングバルブ104の上流側の排気管102には、SCR装置103の入口における排気ガスの温度(SCR入口温度)を測定する排気温度センサ109が設けられる。また、SCR装置103の上流側(ここでは排気温度センサ109の上流側)には、SCR装置103の上流側でのNOx濃度を検出する上流側NOxセンサ110が設けられ、SCR装置103の下流側には、SCR装置103の下流側でのNOx濃度を検出する下流側NOxセンサ111が設けられる。
【0025】
サプライモジュール106は、尿素水を圧送するSMポンプ112と、サプライモジュール106の温度(サプライモジュール106を流れる尿素水の温度)を測定するSM温度センサ113と、サプライモジュール106内における尿素水の圧力(SMポンプ112の吐出側の圧力)を測定する尿素水圧力センサ114と、尿素水の流路を切り替えることにより、尿素タンク105からの尿素水をドージングバルブ104に供給するか、あるいはドージングバルブ104内の尿素水を尿素タンク105に戻すかを切り替えるリバーティングバルブ115とを備えている。ここでは、リバーティングバルブ115がOFFのとき、尿素タンク105からの尿素水をドージングバルブ104に供給するようにし、リバーティングバルブ115がONのとき、ドージングバルブ104内の尿素水を尿素タンク105に戻すようにした。
【0026】
リバーティングバルブ115が尿素水をドージングバルブ104に供給するように切り替えられている場合、サプライモジュール106は、そのSMポンプ112にて、尿素タンク105内の尿素水を送液ライン(サクションライン)116を通して吸い上げ、圧送ライン(プレッシャーライン)117を通してドージングバルブ104に供給するようにされ、余剰の尿素水を、回収ライン(バックライン)118を通して尿素タンク105に戻すようにされる。
【0027】
尿素タンク105には、SCRセンサ119が設けられる。SCRセンサ119は、尿素タンク105内の尿素水の液面高さ(レベル)を測定するレベルセンサ120と、尿素タンク105内の尿素水の温度を測定する温度センサ121と、尿素タンク105内の尿素水の品質を測定する品質センサ122とを備えている。品質センサ122は、例えば、超音波の伝播速度や電気伝導度から、尿素水の濃度や尿素水に異種混合物が混合されているか否かを検出し、尿素タンク105内の尿素水の品質を検出するものである。
【0028】
尿素タンク105とサプライモジュール106には、エンジンEを冷却するための冷却水を循環する冷却ライン123が接続される。冷却ライン123は、尿素タンク105内を通り、冷却ライン123を流れる冷却水と尿素タンク105内の尿素水との間で熱交換するようにされる。同様に、冷却ライン123は、サプライモジュール106内を通り、冷却ライン123を流れる冷却水とサプライモジュール106内の尿素水との間で熱交換するようにされる。
【0029】
冷却ライン123には、尿素タンク105とサプライモジュール106に冷却水を供給するか否かを切り替えるタンクヒーターバルブ(クーラントバルブ)124が設けられる。なお、ドージングバルブ104にも冷却ライン123が接続されるが、ドージングバルブ104には、タンクヒーターバルブ124の開閉に拘わらず、冷却水が供給されるように構成されている。なお、
図1(a)では図を簡略化しており示されていないが、冷却ライン123は、尿素水が通る送液ライン116、圧送ライン117、回収ライン118に沿って配設される。
【0030】
図2に、DCU126の入出力構成図を示す。
【0031】
図2に示すように、DCU126には、上流側NOxセンサ110、下流側NOxセンサ111、SCRセンサ119(レベルセンサ120、温度センサ121、品質センサ122)、排気温度センサ109、サプライモジュール106のSM温度センサ113と尿素水圧力センサ114、およびエンジンEを制御するECM(Engine Control Module)125からの入力信号線が接続されている。ECM125からは、外気温、エンジンパラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量、排気ガス流量、冷却水温度など)の信号が入力される。
【0032】
また、DCU126には、タンクヒーターバルブ124、サプライモジュール106のSMポンプ112とリバーティングバルブ115、ドージングバルブ104、上流側NOxセンサ110のヒータ、下流側NOxセンサ111のヒータ、への出力信号線が接続される。なお、DCU126と各部材との信号の入出力に関しては、個別の信号線を介した入出力、CAN(Controller Area Network)を介した入出力のどちらであってもよい。
【0033】
図1(b)に示すように、DCU126には、エンジンEから排出されるNOx量に応じて尿素水の噴射量を制御する尿素水噴射制御部127が搭載される。尿素水噴射制御部127は、ECM125からのエンジンパラメータの信号と、排気温度センサ109からの排気ガス温度とを基に、排気ガス中のNOx量(エンジンEから排出されるNOx量)を推定すると共に、推定した排気ガス中のNOx量を基にドージングバルブ104から噴射する尿素水量を決定するようにされ、さらに、ドージングバルブ104にて決定した尿素水量で噴射したとき、上流側NOxセンサ110の検出値に基づいてドージングバルブ104を制御して、ドージングバルブ104から噴射する尿素水量を調整するようにされる。
【0034】
さて、本実施の形態に係るSCRシステム100は、ドージングバルブ104の温度が所定温度以上(例えばSCR触媒の活性化温度以上)であるとき、ドージングバルブ104の温度に応じた最低噴射量を設定する最低噴射量設定部128をさらに備えている。本実施の形態では、ドージングバルブ104に専用の温度センサを設けるのは経済的でないため、従来用いられている排気温度センサ109の検出値(排気ガス温度、SCR入口温度)を、ドージングバルブ104の温度として用いることとする。
【0035】
また、SCRシステム100では、尿素水噴射制御部127は、エンジンEから排出されるNOx量に応じた尿素水の噴射量が、最低噴射量設定部128が設定した最低噴射量よりも小さいとき、尿素水の噴射量を最低噴射量に制御するように構成される。このとき、尿素水噴射制御部127は、最低噴射量の尿素水を連続して噴射するように制御を行う。
【0036】
最低噴射量設定部128は、エンジンEの運転状態が、高負荷運転状態であるか低負荷運転状態であるかを判定する負荷状態判定部129と、高負荷時用の最低噴射量を設定する高負荷時最低噴射量設定部130と、低負荷時用の最低噴射量を設定する低負荷時最低噴射量設定部131と、を備えている。
【0037】
負荷状態判定部129は、燃料噴射量が、排気ガス温度から算出された燃料噴射量閾値以上であるとき、高負荷運転状態であると判定し、燃料噴射量が燃料噴射量閾値未満であるとき、低負荷運転状態であると判定するようにされる。
【0038】
なお、本実施の形態では、負荷状態判定部129にて、燃料噴射量によりエンジンEの負荷状態を判定するようにしているが、これに限らず、例えば、排気ガス流量によりエンジンEの負荷状態を判定するようにしてもよい。この場合、負荷状態判定部129は、排気ガス流量が所定の閾値以上であるとき、高負荷運転状態であると判定し、排気ガス流量が所定の閾値未満であるとき、低負荷運転状態であると判定することになる。なお、排気ガス流量については、エンジンの吸気管に設けた流量センサ(MAFセンサ)で測定される吸気流量を用いてもよい。
【0039】
高負荷時最低噴射量設定部130は、負荷状態判定部129が高負荷運転状態であると判定したとき、下式(1)
x
4≧(y
0−ax
1−bx
2−cx
3−e)/d ・・・(1)
但し、x
1:排気ガス流量
x
2:排気ガス温度
x
3:冷却水温度
y
0:不具合が発生しない尿素水温度
a〜e:係数
を満足するように高負荷時用の最低噴射量を設定するようにされる。式(1)における係数a〜e、および不具合が発生しない尿素水温度y
0は、実験等により適宜決定される。不具合が発生しない尿素水温度y
0は、例えば尿素水の沸点温度以下の値に設定すればよい。
【0040】
本実施の形態では、高負荷時用の最低噴射量を、下式(2)
x
4=(y
0−ax
1−bx
2−cx
3−e)/d ・・・(2)
により求めるようにしたが、高負荷時用の最低噴射量は、(y
0−ax
1−bx
2−cx
3−e)/d以上であればよく、最低噴射量が大きくなりすぎてアンモニアスリップが発生しないよう、適宜設定すればよい。なお、アンモニアスリップとは、尿素水から生成されたアンモニアをSCR触媒で吸蔵しきれずに、SCR装置103の下流側にアンモニアが流出してしまう現象のことである。
【0041】
ここで、式(1)の根拠を説明しておく。
【0042】
ドージングバルブ104内の尿素水温度yは、排気ガス流量x
1と、排気ガス温度x
2と、冷却水温度x
3と、尿素水噴射量x
4の4つのパラメータにより影響される。よって、尿素水温度yは、これら4つのパラメータx
1〜x
4を用いて、下式(3)
y=ax
1+bx
2+cx
3+dx
4+e ・・・(3)
で表される回帰式で示すことができる。
【0043】
ここで、尿素水温度yに不具合が発生しない尿素水温度y
0を代入し、式(3)を変形すると、上述の式(2)が得られる。式(2)で得られる尿素水噴射量x
4は、不具合(ドージングバルブ104の動作不良や腐食などの熱害)を発生させないために最低限確保すべき尿素水噴射量を表すことになる。よって、最低噴射量を、式(2)で得られる尿素水噴射量x
4以上とする(すなわち式(1)の条件を満足するように最低噴射量を設定する)ことにより、不具合の発生を防止することが可能となる。
【0044】
他方、低負荷時最低噴射量設定部131は、負荷状態判定部129が低負荷運転状態であると判定したとき、排気ガス流量と排気ガス温度ごとに低負荷時用の最低噴射量が与えられた低負荷時用最低噴射量マップ132を参照して、低負荷時用の最低噴射量を設定するようにされる。なお、無負荷時には、NOxが排出されないので、通常は尿素水の噴射は停止されるが、本実施の形態では、排気ガス温度(ドージングバルブ104の温度)が所定温度以上であれば、低負荷時最低噴射量設定部131が設定した低負荷時用の最低噴射量で、尿素水を噴射することになる。
【0045】
ここで、低負荷時用の最低噴射量は、高負荷時用の最低噴射量よりも小さい値に設定される。これは、低負荷時(あるいは無負荷時)には、排気ガス流量が低下するために、多量の尿素水を噴射すると、尿素水がアンモニアに分解されずに排気管102に付着し、排気管102を腐食させるなどの不具合が発生するおそれがあるためである。このような不具合を防止するために、本実施の形態では、高負荷時と低負荷時で異なる最低噴射量を設定するようにしている。
【0046】
また、本実施の形態では、低負荷時用最低噴射量マップ132を、所定の温度未満の領域では最低噴射量が0(ゼロ)となるように設定している。これは、低負荷時(あるいは無負荷時)には排気ガス流量が低下するため、排気ガス温度が十分に高くないと、尿素水をアンモニアに分解できず、排気管102を腐食させるなどの不具合が発生するおそれがあるためである。
【0047】
さらに、本実施の形態に係るSCRシステム100は、以下に示す(1)〜(4)の最低噴射量設定条件のいずれかが成立しているときのみ、最低噴射量設定部128による最低噴射量の設定を許容する最低噴射量設定条件判定部133をさらに備えている。最低噴射量設定部128は、最低噴射量の設定が許容されていない場合、最低噴射量を0(ゼロ)に設定する(つまり最低噴射量を設定しない)ようにされる。
(1)低負荷時
(2)DPF再生時
(3)アンモニアスリップを抑制するために、尿素水の噴射量を、エンジンEから排出されるNOx量に応じた噴射量より減らしているとき
(4)尿素水の噴射量が、排気温度から算出される尿素水噴射量閾値より小さいとき
【0048】
上述の(1)〜(4)の最低噴射量設定条件は、いずれもドージングバルブ104内の尿素水が高温となり不具合が発生しやすい条件を示しており、最低噴射量設定部128による最低噴射量の設定を適用するシチュエーションを限定したものである。例えば、(1)の低負荷時には、尿素水の噴射量が低くなり、ドージングバルブ104に供給される尿素水の量が低減するため、ドージングバルブ104に供給される尿素水による冷却効果が低下し、(2)のDPF再生時には、排気ガス温度が高くなってドージングバルブ104内の尿素水が高温になりやすくなる。
【0049】
(3),(4)の最低噴射量設定条件に該当する場合、尿素水の噴射量が低いために、ドージングバルブ104に供給される尿素水による冷却効果が低下する。なお、尿素水噴射制御部127は、冷却水の温度が高いあるいは低いとき、大気圧が低いとき、NOx量(NOx流量)が高いとき、EGR(Exhaust Gas Recirculation;排気再循環)量が低下しているときなどは、アンモニアスリップを抑制するために尿素水の噴射量を減らす制御を行うが、このような場合は、(3)の最低噴射量設定条件に該当することになる。
【0050】
最低噴射量設定条件を設定しない場合、排気ガス温度(ドージングバルブ104の温度)が所定温度以上であれば常に尿素水が噴射されることとなり、運転条件や環境条件によってはアンモニアスリップが発生してしまうおそれが生じるが、最低噴射量設定条件を設定して、最低噴射量の設定を適用するシチュエーションを限定することにより、アンモニアスリップの発生を抑制することが可能になる。なお、最低噴射量設定条件については、上述の(1)〜(4)に限らず、適宜設定可能である。
【0051】
次に、SCRシステム100の動作を
図3を用いて説明する。SCRシステム100では、
図3の制御フローを繰返し実行するようにされる。
【0052】
図3に示すように、まず、ステップS1にて、最低噴射量設定部128が、排気ガス温度(ドージングバルブ104の温度)が所定温度以上であるかを判定する。ステップS1にてNOと判定された場合、最低噴射量設定部128が最低噴射量を0に設定し(ステップS8)、制御を終了する。
【0053】
ステップS1にてYESと判定された場合、ステップS2にて、最低噴射量設定条件判定部133が、上述の(1)〜(4)の最低噴射量設定条件のいずれかが成立しているかを判定する。ステップS2にてNOと判定された場合、最低噴射量設定部128が最低噴射量を0に設定し(ステップS8)、制御を終了する。
【0054】
ステップS2にてYESと判定された場合、ステップS3にて、負荷状態判定部129が、エンジンEの運転状態が高負荷運転状態であるかを判定する。
【0055】
ステップS3にてYESと判定された場合、高負荷運転状態であるから、ステップS4にて、高負荷時最低噴射量設定部130が、上述の式(2)を用いて高負荷時用の最低噴射量を設定する。その後、ステップS6に進む。
【0056】
ステップS3にてNOと判定された場合、低負荷運転状態であるから、ステップS5にて、低負荷時最低噴射量設定部131が、排気ガス流量と排気ガス温度で低負荷時用最低噴射量マップ132を参照して、低負荷時用の最低噴射量を設定する。その後、ステップS6に進む。
【0057】
ステップS6では、尿素水噴射制御部127が、エンジンEから排出されるNOx量に応じた尿素水の噴射量が、ステップS4あるいはステップS5で設定した最低噴射量よりも小さいかを判定する。ステップS6にてNOと判定された場合、十分な尿素水の噴射量が確保できていることになるので、そのまま制御を終了する。
【0058】
ステップS6にてYESと判定された場合、ステップS7にて、尿素水噴射制御部127が、尿素水の噴射量を、ステップS4あるいはステップS5で設定した最低噴射量に設定(変更)する。その後、制御を終了する。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態に係るSCRシステム100では、ドージングバルブ104の温度が所定温度以上であるとき、ドージングバルブ104の温度に応じた最低噴射量を設定する最低噴射量設定部128を備え、尿素水噴射制御部127を、エンジンEから排出されるNOx量に応じた尿素水の噴射量が、最低噴射量設定部128が設定した最低噴射量よりも小さいとき、尿素水の噴射量を最低噴射量に制御するように構成している。
【0060】
これにより、ドージングバルブ104の温度に応じた尿素水の最低噴射量を確保することが可能となり、ドージングバルブ104内の尿素水の温度を低く維持することが可能になる。よって、ドージングバルブ104の動作不良や腐食などの熱害を抑制し、適正な尿素水噴射制御を行うことが可能となる。
【0061】
また、SCRシステム100では、高負荷時と低負荷時とで最低噴射量を異ならせているため、低負荷時に尿素水の噴射量が多くなって排気管102が腐食するなどの不具合を防止できる。
【0062】
さらに、SCRシステム100では、上述の(1)〜(4)の最低噴射量設定条件のうちいずれかが成立しているときのみ、最低噴射量設定部128による最低噴射量の設定を許容するようにしているため、最低噴射量の設定を適用するシチュエーションを限定し、常に尿素水が噴射されることによるアンモニアスリップの発生を抑制できる。
【0063】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0064】
例えば、上記実施の形態では、高負荷時の最低噴射量を式(1)を満足するように設定する場合を説明したが、これに限らず、高負荷時の最低噴射量は、少なくともドージングバルブ104の温度(排気ガス温度)に応じて設定すれば足りる。例えば、排気ガス温度と排気ガス流量とから算出された基本噴射量に、エンジン回転数と燃料噴射量に応じた補正を行うことで、高負荷時の最低噴射量を算出するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施の形態では、設定された最低噴射量の尿素水を連続して噴射する場合を説明したが、これに限らず、所定時間(例えば30秒)尿素水を噴射した後、所定時間(例えば60秒)尿素水の噴射を停止することを繰り返し、間欠的に尿素水の噴射を行うようにしてもよい。これにより、噴射される尿素水の量を減らすことができるので、アンモニアスリップをより確実に抑制できる。