【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0042】
以下の実施例において用いたチャフロサイドAとBの前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイトとビテキシン2”−サルフェイト)は、前記特許文献3に記載の方法で、それぞれ、イソビテキシン、ビテキシンから合成した。
【0043】
本発明におけるチャフロサイド類及びその前駆体の定量は、特開2009−131161号公報記載のHPLC−MS/MS分析法で行い、HPLC−MS/MS分析には、商品名「Agilent 1100」及び「API 2000」(Applied Bio社製)を併用した。HPLC用のカラムとしては、インタクト株式会社製のC18カラムを用い、特定の溶媒を用いる「Cadenza CD−C18のHPLC−MS/MS分析法」で行った。
【0044】
チャフロサイドAとB、及びチャフロサイドAとBの前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイトとビテキシン2”−サルフェイト)の検量線の作成は次のようにして行った。すなわち、予め合成したチャフロサイドAとB、及びチャフロサイドAとBの前駆体から、それぞれ5.0ng/ml、50ng/ml、500ng/ml及び5000ng/mlの標準溶液を調製した。HPLC分析においては、これらの各標準溶液10μlを使用し、カラムには商品名「Cadenza CD−C18」(3×150mm)を用い、溶出展開はH
2O−CH
3CNの混合溶媒を用いて20分かけて15〜50%とするグラジエント法を使用した。得られたクロマトグラムの各化合物のピーク面積より検量線を作成した。該検量線をもとに、実施例における各サンプル中の上記化合物の定量分析を行った。
【0045】
以下の各実施例においては、特記しない限り、チャフロサイド類の前駆体を所定の濃度になるように水に溶解し、次いで、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物を加えて所定のpHに調整した。例えば、クエン酸−リン酸緩衝液を用いて、チャフロサイドA前駆体濃度が1510ng/mlであるpH6.6の試験溶液を調整する場合の典型例は次のようである:蒸留水を用いて、チャフロサイドA前駆体の濃度が3020ng/mlである水溶液を作る。一方で、0.1Mクエン酸水溶液13.6mlと、0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液36.4mlを混合する(合計50ml)。この混合液に、チャフロサイドA前駆体濃度が3020ng/mlである前記の水溶液50mlを加えて混合することにより、チャフロサイドA前駆体濃度が1510ng/mlであるpH6.6の試験溶液を得ることが出来る。通常、pHは6.6から外れることはないが、もしも少し外れた値になったら、0.1Mクエン酸水溶液または0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液を少量ずつ添加し、pHを6.6に合わせる。
【0046】
チャフロサイド類の前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト、ビテキシン2”−サルフェイト)の濃縮混合物は次のようにして調製した。茶葉(1kg、品種:鳳凰水仙)を蒸留水(5000ml)に浸漬し、80℃で30分間攪拌した。不溶物を濾去した後、水抽出液体積の約半量のn−BuOHを加え、液液分配を行った。この操作を2回行い、得られた水画分を、希塩酸を用いてpH4.0とした後にSepabeas
SP825(mitsubishi chemical)カラムクロマトグラフィーに付し、水、20%MeOH、50%MeOH、100%MeOHで順次溶出した。次いで、チャフロサイド類の前駆体を含む50%MeOH溶出部(160g)をCHCl
3−MeOH−H
2O(60:40:8)を展開溶媒とするSiO
2カラムクロマトグラフィーに付し、チャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物(22g)を得た。本濃縮混合物中の両前駆体の合計含有量は約10%で、その割合は、チャフロサイドA前駆体:B前駆体=1:1.1であった。さらに、この濃縮混合物をODSカラムクロマトグラフィーに付して精製することにより、チャフロサイドA前駆体0.96gとチャフロサイドB前駆体1.04gを得た。
【0047】
本参考例において用いた茶抽出物は次のようにして調製した。すなわち、市販の各茶葉を粉砕器(イワタニミルサー、岩谷産業株式会社製)で粉砕し、各25gに蒸留水1000mlを加え、80℃で30分間抽出した。その茶抽出液に含まれるチャフロサイドAの前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)とチャフロサイドAの含有量を定量した。これらの抽出液を必要に応じて蒸留水で希釈し、所定の濃度、所定のpHに調整して用いた。
【0048】
本参考例で用いた茶エキスneat物質は次のようにして調製した。すなわち、茶葉をミルサー(岩谷産業株式会社製)で粉砕後、粉砕物1g/溶媒100mlの割合になるように水または50%メタノールを加え、80℃で30分間、攪拌下抽出した。次いで、上記チャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物を添加し、チャフロサイドA及びBの前駆体の高含有茶水溶液、及びチャフロサイドA及びBの前駆体高含有50%メタノールを作成した。チャフロサイドA及びBの前駆体高含有50%メタノール溶液を濃縮乾固し、エキスneat物質として用いた。
【0049】
本実施例における加熱処理には、加熱装置付き油浴(Nissin社製NWB−120N)、マイクロウェーブ加熱装置(Biotage社製Initiator8)、あるいはプレート型熱交換器(日阪製作所製)を使用した。
実施例1
【0050】
チャフロサイドA前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)を所定量溶かした水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を加え、前駆体濃度が1040ng/ml、pHが10.6となるように調整した。本pH調整済水溶液を、マイクロウェーブ加熱装置を用いて、100℃〜150℃の範囲(10℃間隔)で2分間加熱した(実施例1)。比較例1として、チャフロサイドA前駆体を水溶液とすることなくneat状のまま、油浴中、100℃〜150℃の範囲(10℃間隔)で4分間加熱した。また、比較例2として、チャフロサイドA前駆体の水溶液をpH調整することなく、油浴中、130℃〜150℃の範囲(10℃間隔)で4分間加熱した。参考例1として、茶(品種:蜜蘭香)エキスneat物質をneat状のまま、油浴中、130℃で2分〜16分間加熱した。また、参考例2として、茶(品種:水仙)エキスneat物質をneat状のまま、油浴中で4分間、参考例3として、茶(品種:水仙)抽出物の水溶液をpH未調整のまま(未調整でpH5.2)、マイクロウェーブ加熱で2分間、それぞれ100℃〜150℃の範囲(10℃間隔)で加熱した。得られた各サンプルをHPLC−MS/MS分析に付し、原料のイソビテキシン2”−サルフェイトと生成物であるチャフロサイドAの含有量を定量した。結果を表1に記す。
【0051】
【表1】
【0052】
なお、表中記載の「前A」、「A」は、それぞれイソビテキシン2”−サルフェイト、チャフロサイドAを表し、「MW」は、マイクロウェーブ加熱であることを示す。「−」は未実施を示す。また、表中に示される各化合物の定量値の単位は、ng/mlである。以下同様。
【0053】
表1においては、外部から何も加えることなく、neat状のまま、あるいは水溶液で加熱した場合の反応性と、外部から塩を添加した水溶液で反応した場合の比較結果を示す。茶エキスneat物質をneat状のまま、油浴中、130℃で加熱した参考例1においては、チャフロサイドAの定量値は若干増えているものの、原料である前駆体の量が事実上減少していないことから、チャフロサイドAの数値変化は、neat物質のどの部分を定量に用いたかによる測定誤差の範囲であると思われる。すなわち、何も添加しないで加熱した場合には、少なくとも加熱時間16分の範囲ではチャフロサイドAが実質生成しないことが明らかとなった。次に、品種は異なるが同じく茶エキスneat物質をneat状のまま、油浴中で4分間、今度は加熱温度を100℃〜150℃の範囲で変化させ、その影響を調べた(参考例2)。130℃〜140℃では、前駆体の減少量に対応する分だけ僅かにチャフロサイドAが増加しており、このくらいの温度から反応が進行することが判る。150℃における反応収率(チャフロサイドA生成モル数/前駆体初期モル数)は約6.8%であった(この場合の収率を具体的計算例として示すと、チャフロサイドA前駆体の分子量は512、チャフロサイドAの分子量は414なので、{(95−59)/414}/(650/512)=0.087/1.270=6.8%となる。以下同様)。この結果から、neat物質をneat状のまま無添加で反応しても、反応温度が150℃以上になれば反応が進行することが判る。一方、水溶液にした場合の反応性を調べたのが参考例3である。水溶液での反応も、基本的にはneat状での反応結果と同じで、150℃以上で反応が進行するようになり、150℃の収率は4.6%であった。次に、茶抽出物ではなく、前駆体イソビテキシン2”−サルフェイトを用い、無添加、neat状態で、油浴中4分間の加熱を行った(比較例1)。結果は上記参考例2とほぼ同じで、150℃で収率12%を示した。また、前駆体の水溶液をpH未調整のまま加熱した場合(比較例2)の結果も、比較例1と同じパターンを示した(150℃で収率11%)。以上から、neat状であれ水溶液状であれ、外部からの添加物なしの条件では、150℃未満の温度では事実上反応は進行しない、若しくは極めて進行し難く、2〜4分間の加熱では10数%以下の収率しか得られなかった。
【0054】
これに対し、チャフロサイドA前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)の水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を加え、pH10.6に調整し、マイクロウェーブを用いて2分間加熱した場合、実施例1の結果から明らかなように、反応は100℃、2分間でも僅かに進行し(収率5.1%)、140℃で最高収率73%という結果を得ることが出来た。ただし、pH10.6という強塩基性条件では、原料、生成物ともに分解が起こりやすく、140℃でも20〜30%の分解が起こることも判明した(分解率は、どちらの化合物がどれだけ分解したか不明なため正確な計算はできないので、目安として、重量基準での分解率を示した。以下同様)。
【0055】
以上、表1の結果から、製造過程における操作性を考慮して水溶液状態での反応を試みたが、neat状であれ水溶液状であれ、外部からの添加物なしの条件では、150℃未満の温度では事実上反応は進行しない、若しくは極めて進行し難かった。しかしながら、実施例1では炭酸ナトリウムを用いたが、反応水溶液に酸、塩基、塩を添加するこることにより反応速度が大幅に促進され、100℃〜150℃、とりわけ、130℃〜150℃では十分な反応収率が得られ、分解を考えなければ、加熱温度が高いほど反応速度が大きくなることを見出した。
実施例2〜7
【0056】
チャフロサイドA前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)を所定量溶かした水溶液に酢酸緩衝液、あるいはクエン酸−リン酸緩衝液を加えてそれぞれのpHを5.8(実施例2〜4)、あるいは7.0(実施礼5〜7)に調整した。これらpH調整済水溶液を、マイクロウェーブ加熱装置を用いて、110℃〜130℃の範囲(10℃間隔)で1〜16分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、原料のイソビテキシン2”−サルフェイトと生成物であるチャフロサイドAの含有量を定量した。結果を表2に記す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例2〜4及び実施例5〜7においては、外部からの酸、塩基、あるいは塩が、実施例1のような塩でない場合でも、チャフロサイド前駆体からチャフロサイドへの変換が上手く進行するか否かを調べた。すなわち、添加物の種類とpHの影響について比較検討した。表2から110〜130℃、pH5.8〜7.0の条件では、反応温度が高いほど、そして反応時間が長いほど反応収率が向上すること(130℃、16分では若干の分解が起こっているが)、そしてpHが高いほど反応速度が大きいことが一目瞭然である。具体的には、実施例2〜4におけるpH5.8、加熱時間16分の結果を比較するに、反応収率は110℃では24%、120℃では51%、130℃では80%と反応温度依存的に収率が上がっている。また、この130℃、16分では分解も少なく僅か7%弱に過ぎない。この結果から推定するに、もしも更に反応時間を16分延長すれば、計算上は、{(427−2)+183×0.80}}×0.93=531ng/mlのチャフロサイドAが生成することになる。この場合の推定収率は、(531/414)/(651/512)=100%という数字になる。同様にしてpH7.0における実施例5〜7では、pH5.8に比べ、反応速度が大きく、分解が起こり難い条件下では3〜4倍速い速度で反応が進行している。そして、加熱時間16分の反応収率は、110℃では68%、120℃では88%、そして130℃では分解のため収率が落ち77%(加熱8分で収率90%を達成)となっている。120℃、16分、あるいは、130℃、8分ではいくらかの分解が起こっていることを考えれば極めて高い収率であると言える。
【0059】
以上、表2の結果から、外部から添加する物質は、実施例1における炭酸ナトリウムのような塩である必要は無く、酸と塩の組み合わせでもよく、その酸と塩は通常使用する酸、塩であれば種類には無関係であり、また、水溶液の液性は塩基性である必要は無く、酸性でも中性でもよく、pH値が高いほど反応速度が大きいこと、そして、加熱時間16分以内に収率80%以上を達成できることが明らかになった。
実施例8〜17
【0060】
チャフロサイドA前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)を所定量溶かした水溶液に各種緩衝液、塩又は塩基を加え、それぞれのpHを2.4〜11.7に調整した。これらpH調整済水溶液を、マイクロウェーブ加熱装置を用いて、100℃〜190℃、若しくは80℃〜180℃(又は170℃)の範囲(10℃間隔)で2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、原料のイソビテキシン2”−サルフェイトと生成物であるチャフロサイドAの含有量を定量した。結果を表3に記す。
【0061】
【表3-1】
【0062】
【表3-2】
【0063】
実施例8〜17(及び実施例2)においては、これまでの結果を踏まえ、マイクロウェーブを用いた2分間の加熱条件における好ましいpHの設定範囲と加熱時間との関係について検証した。すなわち、反応に付す水溶液のpHを、pH2.4の強酸性条件から、pH11.7の強塩基性条件まで振り、主として各pHにおける100〜150℃における反応収率を確認した。以下、各実施例の結果について触れる。実施例8及び9の結果から、pH5未満においては事実上チャフロサイドAが生成しないこと、また、pH2.4では反応温度の上昇に伴い原料が減少、とりわけ160℃以上では急激に減少するが、これは原料の脱硫酸化が起こり、対応する脱硫酸化体(イソビテキシン)が生じていることを確認した(データ未開示)。一方、pH4.0以上においてはこのような脱硫酸化が事実上起こっていないことも確認した。実施例9のpH4.0においても160℃以上では脱硫酸化とは異なる分解が起こるものの、温度が上がるに従って収率は向上し、190℃では収率42%になった。さらにpHを上げ、pH5.0以上になると反応性は大きく向上してくる。具体的には、pH5.0(実施例10)、5.8(実施例11)、6.6(実施例12)の酸性側においては、pHが上がるにしたがって最高収率が得られる反応温度は、170℃、160℃、150℃と低くなり、反応収率もそれに合わせて、72%、82%、88%と向上した。反応温度150℃での収率も当然pHに合わせて上昇し、32%、77%、88%であった。実施例13〜16のグリシン/水酸化ナトリウムを用いたpH7.5〜10.0の系においては少々様相が変化し、pH7.5、pH8.3における150℃の反応収率は、それぞれ10%、41%と大きく低下した。このような結果となった理由は定かではないが、両性物質であるグリシンを用いたことに一因があるようにも思われる。ちなみに、茶エキスを原料として用いた場合の結果ではあるが、リン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウムを用いたpH7.8、140℃、2分での収率は73%、あるいは炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウムを用いたpH8.6、130℃、2分では収率67%であった。グリシン/水酸化ナトリウムを用いてpH調整した場合でも、更に高いpH領域においては十分な収率が得られた。すなわち、加熱温度150℃における収率は、pH9.0では79%(実施例15)、pH10.0では92%(実施例16)であった。さらにpHが高い場合として、炭酸ナトリウムを添加したpH10.6の水溶液(実施例2)、水酸化ナトリウムを添加したpH11.7の水溶液(実施例17)での反応性と収率を見るに、100℃以下の温度における目的物の増加量から、これらの強塩基性pH条件では反応速度は更に促進されていると思われる。そして、150℃以下の温度においても分解が顕著であるにも拘らず、pH10.6、140℃では、反応収率73%という数字が出ている。また、pH11.7では、さらに低い温度の100℃で収率15%、120℃で収率46%であった。
【0064】
表3の結果は総じてこれまでの結果を追認するものであるが、反応温度が上がると反応速度も上昇するが、一方では分解反応も起こり易くなり、結果的に反応収率を下げる結果となる場合もあることを示している。とりわけ、pHが10を越えると、150℃以下においても分解が顕著になり、反応収率の低下に繋がることが明らかとなった。
実施例18
【0065】
チャフロサイドA前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)を所定量溶かした水溶液(1ml)に、水酸化ナトリウム水溶液(濃度20mg/ml)を各々25μl、50μl、l00μl加えた。この際の各水溶液のpHは、pHメーターの測定範囲(pH12)を超えていて測定できないため、不明である。これらの水溶液を、マイクロウェーブ加熱装置を用いて、110℃で2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、原料のイソビテキシン2”−サルフェイトと生成物であるチャフロサイドAの含有量を定量した。結果を表4に記す。
【0066】
【表4】
【0067】
実施例18においては、反応水溶液のpH値の上限を確認するために実施したものである。結果的には、水酸化ナトリウム水溶液(濃度20mg/ml)の25μl添加においても、重量基準で約50%の分解が起こっており、反応収率は37%であった。それ以上濃い水酸化ナトリウムの存在下では、更に分解速度が速く、反応収率はさらに低いものとなった(50μl添加では収率28%、100μl添加では収率4%)。反応溶液の取扱の容易さや、グラスライニングの反応釜を使用し難いこと、あるいは中和に大量の酸を要すること等を考慮するに、反応条件としては必ずしも好ましいものではないといえる。
実施例19
【0068】
鳳凰水仙由来のチャフロサイドA及びBの前駆体の濃縮混合物(混合比1:1.1)を用い、水溶液中の両前駆体の濃度が2倍公比となるように調整した。添加物としてクエン酸/リン酸水素二ナトリウムを用い、各pHを7.0とし、マイクロウェーブで、130℃、2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表5に記す。
【0069】
【表5】
【0070】
なお、表中記載の「前A」、「前B」、「A」、「B」は、それぞれイソビテキシン2”−サルフェイト、ビテキシン2”−サルフェイト、チャフロサイドA、チャフロサイドBを表す。
【0071】
実施例19においては、チャフロサイドA及びB前駆体の濃縮混合物を用い、希薄溶液から高濃度溶液まで反応液中の原料濃度をふり、前駆体濃度が変換効率に与える影響について検討した。併せて、チャフロサイドB前駆体においても、チャフロサイドA前駆体の場合と同様に反応が進行するか否かを検討した。また、本検討を行うことによって、反応液中に不純物として存在する供雑物(この場合は各種の抽出成分)の、反応効率に与える影響についても同時に確認した。検討した両前駆体の合計最高濃度は40.32μg/mlで、前記実施例の約25〜60倍の濃度に相当する。表5から明らかなように、2倍公比で濃度を高めて行っても、それに比例してチャフロサイドA及びBの濃度が上昇し、変換効率が減じることは全く無いことが明らかになった。すなわち、数10μg/ml程度の濃度であれば全く変換効率に影響せず、さらには数1000μg/mlでも大きな問題は生じないであろうことが推測される。また、チャフロサイドBの前駆体(ビテキシン2”−サルフェイト)からは25%の収率でチャフロサイドBが得られることが確認できた。この条件では化合物の分解は事実上起こっていないことから、さらに反応時間を延ばせばチャフロサイドBの収率が上がることが見込まれる。更には、反応溶液中に各種の不純物が共存しても、反応効率に事実上大きな影響を与えないことが判った。
実施例20
【0072】
鳳凰水仙の茶葉5gを、pH6.4のクエン酸緩衝液を用いてクエン酸/クエン酸ナトリウムの合計濃度が0.625、2.5及び10mMとなるように調整した水溶液各1Lを用い、各々常法により抽出した。得られた各抽出液を、プレート式熱交換器を用いて、140℃で1分間加熱した。各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、各成分を定量した。結果を表6に記す。
【0073】
【表6】
【0074】
実施例19において、反応液中に各種供雑物が存在する場合においても反応が進行することを確認できたので、実施例20においては、このような供雑物存在下における、添加物の濃度の影響を検証した。すなわち、実施例19と同様に、出発物質としてチャフロサイドA及びBの前駆体を含有する茶葉抽出液を用いて加熱反応を行った。表6から明らかなように、添加物の終濃度10ミリモルにおけるチャフロサイドA及びBの収率は、それぞれ56%、19%であり、0.625ミリモルという低濃度においても15%、6%という収率を示した。これまでの実施例の結果から、pH6.4、140℃という加熱条件では分解が起こりにくいことから、さらに反応時間を延ばせば、90%以上の高収率で目的物が得られるであろうことは容易に推察できる。
実施例21
【0075】
反応液中のチャフロサイドA前駆体(イソビテキシン2”−サルフェイト)の濃度が、1μg/mlから12.8mg/mlとなるように、所定量の水およびクエン酸−リン酸緩衝液を用いてpHを6.6に調整した。これらpH調整済水溶液を、マイクロウェーブ加熱装置を用いて、130℃で2分間加熱した。得られた各サンプルを、HPLC−MS/MS分析に付し、原料のイソビテキシン2”−サルフェイトと生成物であるチャフロサイドAの含有量を定量した。結果を表7に記す。
【0076】
【表7】
【0077】
実施例21は、本発明の製造方法がどのくらい濃い濃度の溶液にまで適用できるのかを確認するために行ったものである。表7から明らかなように、比較的薄い濃度では、原料として用いた仕込み量の増加率と、チャフロサイドAの生成量の増加率は 必ずしも比例していないが、128μg/ml以上の10倍公比濃度においては、両者の間にきれいな比例関係が成立している。ちなみに、本条件下での最高濃度12800μg/mlでの反応収率は71%であった。したがって、試みた最高濃度は12.8mg/ml(1.28%)であるが、さらに高い濃度、例えば、チャフロサイド類前駆体の10〜20%溶液、あるいはそれよりも高い濃度であっても同様の収率で反応が進行することが十分に予想される。
【0078】
以上の実施例の結果から、チャフロサイド類の前駆体である硫酸化体の水溶液を、酸、塩基、塩のいずれか、若しくはそれらの混合物の存在下、pH5〜12の範囲において、100〜150℃で加熱処理することにより、チャフロサイド類を操作性よく、効率的かつ簡便に製造する方法を明らかにすることが出来た。そして、本発明における加熱条件については上記以上に特に限定される必要は無く、設備条件、目的に応じて適宜選択する余地が十分にあること、また、反応条件を選べば、90%以上の極めて高い反応収率が得られることが明らかとなった。