(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
特定の間隔を空けて並列設置された複数の結晶切断用ワイヤーを用いて2面以上の切削を一度に行うことにより板状結晶を製造することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2〜4に記載されるような従来法にしたがって結晶切断用ワイヤーで結晶を切削すると、得られる板状結晶にクラックが生じたり、反りが大きくなったりするといった問題が生じる。また、製造効率を上げようとして切削速度を上げると、クラックが増え、反りも大きくなってしまうという問題もあった。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、結晶切断用ワイヤーを用いて反りが小さい六方晶系半導体板状結晶を効率良く製造する方法を提供することを本発明の目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、六方晶系半導体板状結晶に対して特定の方向に結晶切断用ワイヤーを移動させて切削することにより、上記の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
[1] 結晶切断用ワイヤーにより六方晶系半導体結晶を切削して板状結晶を製造する方法であって、
前記六方晶系半導体結晶に対して下記式(A)および(B)の条件を満たすように前記結晶切断用ワイヤーを移動させて切削することを特徴とする六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
25°< α ≦ 90° 式(A)
β = 90°±5° 式(B)
[上式において、αは六方晶系半導体結晶のc軸とワイヤーにより切り出される結晶面の法線とがなす角度であり、βは六方晶系半導体結晶のc軸をワイヤーにより切り出される結晶面上に垂直投影した基準軸と切削方向とがなす角度である。]
[2] 前記切削用ワイヤーの切削方向への移動速度(切削速度)が1mm/h(時間)以上であることを特徴とする[1]に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
[3] 下記式(C)の条件を満たすように前記結晶切断用ワイヤーを移動させて切削することを特徴とする[1]または[2]に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
0°≦ γ < 75° 式(C)
[上式において、γは前記結晶切断用ワイヤーの伸長方向と前記基準軸とのなす角度である。]
[4] 前記板状結晶の反り量が1.0μm/mm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
[5] 前記板状結晶の最大径が10mm以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
[6] 特定の間隔を空けて並列設置された複数の結晶切断用ワイヤーを用いて2面以上の切削を一度に行うことにより板状結晶を製造することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
[7] 前記切削後に切削により生じた面を研磨することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
[8] 前記六方晶系半導体結晶がIII族窒化物半導体結晶であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
[9] 前記六方晶系半導体結晶が窒化ガリウム結晶であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の六方晶系半導体板状結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、反りが小さい六方晶系半導体板状結晶を効率良く得ることができる。特に、従来よりも高速で切削しても、得られる板状結晶にクラックが入ったり反りが大きくなったりする問題が生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の六方晶系半導体板状結晶の製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の製造方法は、六方晶系半導体結晶に対して式(A)および(B)の条件を満たすように前記結晶切断用ワイヤーを移動させて切削することを特徴とする。なお、ここでいう「移動」は、六方晶系半導体結晶を基準にして結晶切断用ワイヤーの位置を相対的に規定することを前提として述べているものであり、本発明は結晶切断用ワイヤーに向かって六方晶系半導体結晶を移動する態様も包含するものである。
25°< α ≦ 90° 式(A)
β = 90°±5° 式(B)
【0012】
<式(A)>
式(A)におけるαは、六方晶系半導体結晶のc軸とワイヤーにより切り出される結晶面の法線がなす角度である。本発明では、式(A)を満足する結晶面であれば、どのような結晶面を切り出してもよい。αを適宜調整することによって、得られる板状結晶の主面を特定の面方位とすることが可能となる。たとえば、αが61.9°の場合には主面が{10−11}である板状結晶を得ることができ、αが75.1°の場合には主面が{20−21}である板状結晶を得ることができ、αが43.2°の場合には主面が{10−12}である板状結晶を得ることができる。得られる板状結晶の主面の面方位は、用途などに合わせて任意に決定することができる。ここで「主面」とは、板状結晶におけるもっとも広い面を指し、通常ワイヤーによって切り出される結晶面と一致する。
【0013】
切削する六方晶系半導体結晶のc軸とワイヤーにより切り出される結晶面の法線がなす角度αは、本発明の効果が顕著にみられることから好ましくは
25°< α < 90° 式(A−1)
であり、より好ましくは
25°< α <85° 式(A−2)
であり、さらに好ましくは
25°< α <75° 式(A−3)
であり、特に好ましくは
25°< α <60° 式(A−4)
である。式(A−1)の範囲に設定することにより、得られる板状結晶の反りを一段と効果的に抑えることができる。また、式(A−2)、式(A−3)、式(A−4)の範囲に設定して行くことにより、順により本発明の効果をより顕著に発揮することが可能である。
【0014】
<式(B)>
式(B)におけるβは六方晶系半導体結晶のc軸をワイヤーにより切り出される結晶面上に垂直投影した基準軸と切削方向がなす角度である。ここでいう垂直投影とは、ワイヤーにより切り出される結晶面に対して垂直な方向への投影を意味する。
図1に、ワイヤーにより切り出される結晶面が(10−11)面であるときのc軸と基準軸の関係を示す。切削方向が
図1のP1で示す方向(基準軸と平行な方向)であるときβは0°となる。また、切削方向が
図1のP2で示す方向(基準軸と垂直な方向)であるときβは90°となる。
式(B)を満たすことによって、六方晶系半導体結晶の切削する際に直線的に切断することが可能となり得られる板状結晶の反りを抑えることができる。この作用機構については明確ではないが、得られる六方晶系半導体板状結晶のへき開性や極性などが関係することが推察される。
例えば、GaN結晶の場合には{11−20}面に比べて{1−100}面でのへき開性が高いと考えられており、切削の過程でへき開性が高い面に近づいた場合にはワイヤーの進行が直進方向からずれてしまうために、得られるGaN板状結晶が反ってしまうことが推察される。
【0015】
また、例えばGaN板状結晶では主面の最表面に表出する原子がGaであるかNであるかによって極性が異なる。すなわち、切削によって得られるGaN板状結晶の表面に存在するGaとNの割合によってGaN板状結晶の表裏の極性が異なることが予測される。結晶面の極性が異なると化学的安定性の違いから硬度が異なることが知られており、このような表裏の硬度の差により、切削時の加工負荷に応じて硬度の低い側へワイヤーが逃げてしまうために、得られるGaN板状結晶が反ってしまうことが推察される。
これらの問題点を、本発明のように特定の方向から切削を行うことによって回避することができるものと予測される。上記では、GaN結晶を具体例として説明したが、六方晶系半導体結晶では同様の結晶構造を有するため、同様に本発明の効果が得られる。
【0016】
本発明において「切削方向」とは、結晶切断用ワイヤーの直線状部の中央点が結晶に対して移動する方向を意味する。ここでいう直線状部とは、結晶を切削するために直線状に張られたワイヤーの当該直線部分を指す。通常は、
図2に示すように2つのローラーR1,R2の間にワイヤーWを走行させることによってワイヤーの直線状部を形成する。ワイヤー直線状部の中央点は、直線状部とローラーR1,R2との最初の接点C1,C2の中点Tに相当する。結晶を切削している間、固定されている結晶に対して中点Tが移動する場合と、固定されている中点Tに対して結晶が移動する場合と、結晶と中点Tがともに移動しながら切削が進む場合の合計3つの態様がありうるが、本発明ではそのいずれの態様であってもよい。いずれの態様であっても、切り出される結晶面上を移動した中点Tの軌跡を確認することにより、切削方向を決定することができる。なお、
図2において、結晶が左右に揺動しながら切削が進行する場合や、ローラーR1,R2が左右に揺動しながら切削が進行する場合のように、結晶に対して相対的に中点Tが細かく揺動する場合は、単位時間あたりに細かく揺動する中点Tの軌跡の中心点をその時間の「中点」とみなして、結晶からみた相対的な「中点」が時間経過に伴って移動する軌跡を確認することによって切削方向を決定することができる。
【0017】
本発明の製造方法では、中点Tの切削方向への移動速度(結晶切断用ワイヤーの切削方向への移動速度で、切削速度に相当する)は、通常0.7mm/h以上に設定し、1mm/h以上に設定することが好ましく、3mm/h以上に設定することがより好ましく、5mm/h以上に設定することがさらに好ましい。また、中点Tの移動速度(結晶切断用ワイヤーの移動速度)は、通常50mm/h以下に設定し、40mm/h以下に設定することが好ましく、35mm/h以下に設定することがより好ましく、30mm/h以下に設定することがさらに好ましい。0.7mm/h以上であると、切削にかかる時間が短縮されて生産性が向上するため好ましく、50mm/h以下であると、切削して得られる結晶面に傷が生じにくく、クラック発生の可能性も低減できるため好ましい。本発明の製造方法では、従来法ではクラックや反りが大きくなってしまうような30mm/h以上という高速度で移動させた場合であってもクラックを抑え、反りを小さくすることができるという利点がある。
【0018】
本発明の製造方法では、結晶を切削している間、常にβが一定の角度を保ちながら切削を進行させることが好ましい。
【0019】
六方晶系半導体結晶のc軸と切削方向がなす角度βは、好ましくは
β = 90°±4° 式(B−1)
であり、より好ましくは
β = 90°±3° 式(B−2)
であり、さらに好ましくは
β = 90°±2° 式(B−3)
であり、特に好ましくは
β = 90°±1° 式(B−4)
である。
式(B−1)、式(B−2)、式(B−3)、式(B−4)の範囲に設定して行くことにより、得られる板状結晶の反りが一段と小さくなる。
【0020】
<式(C)>
本発明の製造方法では、式(C)の条件を満たすように結晶切断用ワイヤーを移動させて六方晶系半導体結晶を切削することが好ましい。
0°≦ γ < 75° 式(C)
【0021】
式(C)において、γは結晶切断用ワイヤーの伸長方向と切り出す結晶面の基準軸とのなす角度である。結晶切断用ワイヤーの伸長方向とは、結晶を切削する際に用いるワイヤー直線状部のワイヤーの向きを意味する。通常は、ワイヤーを直線状に走行させながら結晶を切削するため、ワイヤーの走行方向が本発明でいうワイヤーの伸長方向に相当する。例えば、
図2でいうC1からC2に向かう方向が結晶切断用ワイヤーの伸長方向となる。ワイヤー直線状部は、切り出す結晶面上を移動するため、
図1の(10−11)面を切り出す場合を想定すると、γは
図3で示す角度となる。
【0022】
結晶切断用ワイヤーの伸長方向と切り出す結晶面の基準軸とのなす角度γは、好ましくは
0°≦ γ < 75° 式(C−1)
であり、より好ましくは
0°≦ γ < 45° 式(C−2)
であり、さらに好ましくは
0°≦ γ < 15° 式(C−3)
であり、特に好ましくは
0°≦ γ < 5° 式(C−4)
である。
式(C−1)、式(C−2)、式(C−3)、式(C−4)の範囲に設定して行くことにより、得られる板状結晶の反りが一段と小さくなる。
【0023】
<結晶切断用ワイヤー>
本発明の製造方法で用いる結晶切断用ワイヤーは、六方晶系半導体結晶を切削することが可能なものであれば、特にその種類は制限されない。通常は、走行するワイヤーを六方晶系半導体結晶に押し当てることにより切削する機構を備えた装置を用いる。走行する方向は一方向でもよいし、正逆両方向でもよい。両方向に走行させる場合は、一方向に一定速度で走行させる時間と、その逆方向に一定速度で走行させる時間を確保することが好ましい。一方向に走行する場合の走行速度や、正逆両方向に走行させながら一定速度で走行させる場合の走行速度は、100m/min以上にすることが好ましく、300m/min以上にすることがより好ましく、400m/min以上にすることがさらに好ましい。また、一方向に走行する場合の走行速度や、正逆両方向に走行させながら一定速度で走行させる場合の走行速度は、1500m/min以下にすることが好ましく、1000m/min以下にすることがより好ましい。
【0024】
結晶切断用ワイヤーによる結晶切削方式としては、例えば、結晶切断用ワイヤーと六方晶系半導体結晶との接触部に水や油などと砥粒とを混合したスラリーを供給することによって一種の研磨切断を行う方式(遊離砥粒方式)や、表面にダイヤモンドなどからなる砥粒を固定した結晶切断用ワイヤーを高速走行させながら六方晶系半導体結晶に押し当てて切削する方式(固定砥粒方式)などが挙げられ、いずれも採用可能である。本発明では、切削速度が速くて洗浄の手間がかからない点で、固定砥粒方式の結晶切断用ワイヤーを用いることが好ましい。
【0025】
固定砥粒方式の結晶切断用ワイヤー表面への砥粒の固定は、例えば電着により行うことができる。砥粒を電着固定した後の砥石切削により、異常突出砥粒または砥粒鋭角部分が除去されて形直しされているものを用いれば、六方晶系半導体結晶に切削によるクラックが入りにくくなるため好ましい。そのために、結晶切断用ワイヤーの走行経路にツルーイング用砥石を配置しておき、そのツルーイング用砥石を走行した後に六方晶系半導体結晶を切削するようにしておく態様などを採用することができる。ワイヤーを一方向にだけ走行させる場合は六方晶系半導体結晶の手前にツルーイング用砥石を設置しておけばよいが、両方向に交互に走行させる場合は六方晶系半導体結晶の両脇にツルーイング用砥石を設置しておくことが好ましい。砥石の砥粒としては、例えばアランダム(A)、ホワイトアランダム(WA)、ピンクアランダム(PA)、解体型アルミナ(HA)、人造エメリー(AE)、アルミナジルコニア(AZ)、カーボランダム(C)、グリーンカーボランダム(GC)、立方晶窒化ホウ素(CBN)、ダイヤモンドなどを挙げることができる。砥粒の粒径は5μm以上であることが好ましい。また、砥粒の粒径は60μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。
【0026】
固定砥粒ワイヤーは、特定の素線径のワイヤーと粒径の中心値が特定の範囲にある砥粒を組み合わせて作ることができる。
本発明に用いられる固定砥粒ワイヤーの素線径は、70μm以上であることが好ましく、より好ましくは120μm以上、さらに好ましくは140μm以上、それより好ましくは160μm以上、特に好ましくは170μm以上、最も好ましくは180μm以上であって、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは190μm以下である。比較的大きな素線径のワイヤーを用いると、ワイヤー自身の破断強度が高いため、切削時に十分な張力をかけることが可能となるので好ましい。
【0027】
本発明に用いられる砥粒の平均粒径は5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であって、60μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、それより好ましくは25μm以下、特に好ましくは20μm以下である。比較的小さな平均粒径の砥粒を用いると、異常突出した表面形状を示す砥粒が少なくなる傾向にあり、被削材への衝撃を小さくすることができ、また被削材の表面粗さを小さく抑えることが可能となるので好ましい。
上記のような好ましい範囲の平均粒径を有する砥粒としては、例えば一般に入手可能な固定砥粒ワイヤーの粒度表示で3000メッシュ以下であることが好ましく、より好ましくは1500メッシュ以下であって、230メッシュ以上であることが好ましく、より好ましくは325メッシュ以上、さらに好ましくは400メッシュ以上、それより好ましくは600メッシュ以上、特に好ましくは800メッシュ以上である。
上記の好ましい範囲に設定することによって、得られる板状結晶の反りが一段と小さくなる。
【0028】
本発明の製造方法で用いる結晶切断用ワイヤーは、
図4(a)に示すように、六方晶系半導体結晶に対してワイヤー直線状部が常に一定の方向を向いているものであってもよいし、
図4(b)に示すように六方晶系半導体結晶に対してワイヤー直線状部が揺動するものであってもよい。揺動は、ワイヤー直線状部を画定するローラーR1,R2の位置を上下に移動させることにより実施することができる。すなわち、
図4(c)に示す状態と
図4(d)に示す状態を交互にとることができるように、ローラーR1,R2の位置を上下に連動することにより揺動させることができる。
図4(c)に示す状態から
図4(d)に示す状態に移行するときには、ローラーR1の位置を下降させながらローラーR2の位置を上昇させる。
図4(d)に示す状態から
図4(c)に示す状態に移行するときには、ローラーR1の位置を上昇させながらローラーR2の位置を下降させる。このように操作することによって、ワイヤー直線状部の中点が揺動しないようにすることができる。
【0029】
図4(b)〜(d)に示す揺動方式は適宜アレンジすることが可能である。例えば、特開2008−229752号公報に記載されるように揺動中心軸を中心として2つのローラーが同じ円周方向に同じ量だけ移動する態様を好ましく採用することができる(特に同公報の実施例および
図1参照)。
【0030】
結晶切断用ワイヤーを揺動させる場合の最大振れ角度φは、10°以下であることが好ましい。また、結晶切断用ワイヤーを揺動させる場合の最大振れ角度φは、1°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、7°以上であることがさらに好ましい。結晶切削中は、最大振れ角度φを一定に維持しても、変化させてもよい。好ましいのは一定に維持する場合である。ワイヤーの揺動周期は、1000回/min以下であることが好ましい。また、ワイヤーの揺動周期は、200回/min以上であることが好ましく、400回/min以上であることがより好ましく、700回/min以上であることがさらに好ましい。
【0031】
<切削の態様>
本発明の製造方法では、式(A)および(B)の条件を満たす切削により切削面を少なくとも1面形成することによって板状結晶を製造する。
式(A)および(B)の条件を満たす切削により切削面を1面だけ形成することによって板状結晶を製造する態様として、例えば、結晶塊の端部を式(A)および(B)の条件を満たすように切削する態様を挙げることができる。また、あらかじめ従来法で切削した後に、その切削面とほぼ平行に式(A)および(B)の条件を満たすように切削することによって板状結晶を製造してもよい。さらに、先に式(A)および(B)の条件を満たすように切削した後に、その切削面とほぼ平行に従来法で切削してもよい。
【0032】
好ましいのは、式(A)および(B)の条件を満たす切削により切削面を2面以上形成することによって、板状結晶を製造する態様である。このとき、切削を同時に行うことによって2面以上の切削面を一度に形成してもよいし、切削を順次行うことによって2面以上の切削面を逐次形成してもよい。好ましいのは、切削を同時に行うことによって2面以上の切削面を一度に形成する場合である。切削を同時に行う場合は、並列設置されていて一体的に作動する複数の結晶切断用ワイヤーからなるワイヤー列を用いて、一度に2面以上を同時に形成することが好ましい。特に好ましいのは、複数のワイヤーが一定の間隔を空けて短冊状に配列されているワイヤー列を用いる場合である。このようなワイヤー列を用いれば、厚みが等しい板状結晶を効率良く製造することができる。
切削面を2面以上形成して板状結晶を製造する場合は、第1の切削面と第2の切削面は必ずしも平行でなくても構わない。2つの切削面のなす角度は、ほぼ平行にする。本発明において「ほぼ平行」とは、10°以下であることを意味する。2つの切削面のなす角度は、5°以下であることが好ましく、2°以下であることがより好ましく、1°以下であることがさらに好ましく、0°(平行)であることが最も好ましい。
【0033】
板状結晶を結晶塊のどの部分から切り出すかは、取得したい板状結晶のサイズ、主面、厚みや、結晶塊の形状、転位密度の濃淡、不純物濃度の濃淡などを考慮して決定する。また、結晶塊を台座に固定する際の固定のしやすさなども考慮することができる。
【0034】
六方晶系半導体結晶は、切削に適した方向を向けて台座に固定し、その台座を結晶切断用ワイヤーに向けて移動させることにより切削することが好ましい。例えばβ=90°の場合は
図5に示すように、円盤状の六方晶系半導体結晶1の円形の主面が水平方向を向くように台座2に接着剤で固定し、これを結晶切断用ワイヤーWへ向けて下から上へ移動させる(あるいは台座2に固定した六方晶系半導体結晶1に向けて結晶切断用ワイヤーWを上から下へ移動させる)ことにより切削する態様を挙げることができる。このとき、ワイヤー伸長方向と六方晶系半導体結晶の角度α’が上記αと等しくなるようにして切削する。
また、別の態様として、例えばβ=85°のようにβが90°ではない場合は、
図6および
図7に示すように傾斜角β’の台座斜面上に六方晶系半導体結晶21,31を固定し、これを結晶切断用ワイヤーWへ向けて下から上へ移動させる(あるいは台座22,32に固定した六方晶系半導体結晶21,31に向けて結晶切断用ワイヤーWを上から下へ移動させる)ことにより切削することができる。このとき、台座の斜面の傾斜角β’が上記βと等しくなるように配置して切削する。換言すれば、結晶の鉛直方向からの傾斜角θを90−βになるように配置して切削する。
図6のようにワイヤー伸長方向を結晶の主面である(0001)面に対して直角(
図6(b)に示す角度α’が90°で結晶と交差するよう)に配置することにより、M面を切り出すことができる。ここでいうM面とは、{1−100}面と等価な面であり、具体的には(1−100)面、(−1100)面、(01−10面)、(0−110)面、(10−10)面、(−1010)面を意味する。また、
図7のようにワイヤー伸長方向が角度α’で結晶と交差するようにして切削すれば、例えば(20−21)面などを切り出すことができる。このとき、α’は上記αと等しくなるようにする。このように、
図6および
図7の態様を採用する場合は、台座へ接着する六方晶系半導体結晶の結晶面と台座斜面の角度や、結晶とワイヤー伸長方向の角度を、本発明の条件を満たすように適切に選択して切削を行う。台座への固定には、エポキシ樹脂などの接着剤を適宜選択して使用することができる。また、結晶方位の測定にはX線回折法などを用いることができる。なお、切削する六方晶系半導体結晶の形状は特に制限されず、円盤状、直方体状、長方体状、六角柱状、これらの主面がドーム状に膨れているもの、塊状などのいずれであってもよい。
【0035】
<切削後の処理>
本発明にしたがって切削した後に形成される面に対しては、切削によって得られた面に対して通常なされる処理を適宜選択して行うことができる。例えば、研磨、酸水溶液または塩基水溶液を用いたエッチングなどを行うことができる。研磨する場合には、例えばラッピング処理、酸性コロイダルシリカを用いる研磨などを挙げることができる。
【0036】
<六方晶系半導体結晶>
本発明の製造方法で製造する六方晶系半導体結晶の種類は特に制限されず、例えばSiC、ZnO、GaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AllnGaNなどが挙げられる。好ましくはGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AllnGaNなどIII族窒化物半導体結晶を挙げることができる。より好ましいのはGaN、AlN、AlGaN、AllnGaNであり、さらに好ましいのはGaNである。なお、本明細書の説明では、六方晶系半導体結晶としてGaN(窒化ガリウム)結晶を例として説明している場合があるが、本発明で採用することができる六方晶系半導体結晶はこれに限定されるものではない。
【0037】
本発明の製造方法によって切り出す結晶面は、本発明の製造方法によって原理的に切り出すことが可能な結晶面であれば特に制限されない。具体的な結晶面として、(10−11)面、(20−21)面、(10−12)面、(11−21)面、(11−22)面などを典型例として挙げることができる。
【0038】
本発明の製造方法によって得られる「板状結晶」とは、結晶の最大径に対して厚みが薄い結晶を意味する。板状であれば、その具体的な形状の詳細は特に制限されない。本発明の製造方法によって得られる板状結晶の最大径は、通常10mm以上である。本発明の効果がより顕著に現れることから、好ましくは20mm以上のものを製造する場合であり、より好ましくは25mm以上のものを製造する場合である。なお、ここでいう「最大径」とは、板状結晶の主面における最長径の長さを意味する。
【0039】
本発明の製造方法によって得られる板状結晶の反り量は、通常は3μm/mm以下であり、1.0μm/mm以下であることが好ましく、0.8μm/mm以下であることがより好ましく、0.5μm/mm以下であることがさらに好ましく、0.3μm/mm以下であることが特に好ましい。ここでいう反り量は、本発明の製造方法にしたがって切削した後の板状結晶の反り量であり、研磨などの後処理を行う前の測定量である。具体的には、板状結晶の主面の中心を通る特定長さあたりの反りの大きさを1mmあたりに換算した値を意味しており、実施例に記載される方法の通り、JIS B 0601(1994年)(関連規格JIS B 0610(1987年))に規定されるろ波うねりWCMを評価長さで除したものと定義する。ここで板状結晶の反り量とは
図9に示すZ部分を測定している。
例えば、5mm〜10mm四方の板状結晶の評価長さ5mmあたりの反りの大きさは、通常15μm未満であり、好ましくは10μm未満であり、さらに好ましくは5μm未満である。また、直径2インチの円盤状の板状結晶の評価長さ50mmあたりの反りの大きさは、通常40μm未満であり、好ましくは30μm未満であり、さらに好ましくは20μm未満である。
【0040】
本発明の製造方法により製造される六方晶系半導体板状結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。また、本発明の製造方法により製造した六方晶系半導体板状結晶をシードとして用いて、さらに大きな六方晶系半導体結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、
図5および
図8には、技術内容を把握しやすくするために円盤状の結晶サンプルを記載しているが、以下の実施例と比較例では半円盤状の結晶サンプルを用いている。
【0042】
(実施例1)
直径50mm、厚み7mmの円盤状の(0001)面を主面とする窒化ガリウム結晶を均等に2分割して、半円盤状の結晶サンプルを用意した。得られた半円盤状の結晶サンプルを、
図5に示す場合と同様に台座上にエポキシ系接着剤を用いて固定した。このとき、結晶サンプルは表1に記載されるα、β、γの条件を満たす切削を行うことができる向きに固定した。
結晶切断用ワイヤーとして、表1に記載される平均粒径を有するダイヤモンド砥粒を表面に電着したワイヤーを70本並列に配置した装置を用意した。このうち、実施例1では35本が窒化ガリウム結晶の切削に寄与した。並列に配置したワイヤーは同じタイミングで揺動しながら正逆両方向に走行するように制御した。このとき、ワイヤー直線状部の中点は揺動しないように設定した。揺動の最大振れ角度φは10°であり、ワイヤーの最大走行速度は330m/minであり、ワイヤーの揺動周期は800回/minに制御した。
【0043】
このように制御した結晶切断用ワイヤーを用いて、表1に記載されるα、β、γの条件を満たすように結晶サンプルを切削した。具体的には、ワイヤー伸長方向と結晶の角度α’が61.9°となるようにワイヤーWと結晶サンプル1を配置して切削した。また、切削は、走行する結晶切断用ワイヤーWへ向けて、台座上に固定した結晶サンプル1を表1に記載される速度で移動させることにより行い、両面が結晶切断用ワイヤーで切削された板状結晶を得た。
得られた板状結晶は長辺が50mmの主面が略矩形の結晶である。ここでいう長辺は、
図5においてワイヤーが横切った主面の長さに等しい。板状結晶の反りの評価は、JIS B 0601(1994年)(関連規格JIS B 0610(1987年))にしたがってろ波最大うねりWCMを測定することにより行った。測定に際しては(株)東京精密製surfcom 130Aを使用し、測定モードをろ波うねり測定(JIS’94)にして測定した(測定速度:0.6mm/s、カットオフ値:0.8mm、フィルタ種別:ガウシアン、測定レンジ:±400μm、傾斜補正:直線)。このとき、板状結晶の主面の中心から短辺方向に±2.5mm伸長する全長5mmの範囲について反りの大きさを測定した(
図9)。得られた板状結晶のうち3枚の結晶それぞれについて測定を行った後、その平均を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例11、比較例1〜4、11)
表1に記載される条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面が結晶切断用ワイヤーで切削された板状結晶を得た。実施例11では、実施例1と同様に
図5に示すように台座2上に結晶サンプル1を固定して、ワイヤー伸長方向と結晶の角度α’が75.1°となるようにワイヤーWと結晶サンプル1を配置して切削した。比較例1〜4および11では、
図8に示すように傾斜角δが28.1°である台座の斜面上に結晶サンプルを固定して直線状の切削を試みたが、結晶サンプル中では切削は直線状にならなかった。
実施例1と同様に、切削後に得られた各板状結晶のろ波うねり測定を行った結果を表1に示す。
【0045】
【表1】