(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5678878
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】車両接近通報装置
(51)【国際特許分類】
B60Q 5/00 20060101AFI20150212BHJP
【FI】
B60Q5/00 650A
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 640C
B60Q5/00 660Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-276000(P2011-276000)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-126781(P2013-126781A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】390001812
【氏名又は名称】アンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都築 治幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勉
(72)【発明者】
【氏名】坂本 仁史
【審査官】
川内野 真介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−182587(JP,A)
【文献】
特開平09−158799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発音する接近通報音データを記憶したメモリ手段と、前記メモリ手段から前記接近通報音データを読み出すと共に、前記接近通報音データに基づいて発音を行う車両接近通報音を表す接近通報音電圧波形信号を生成する信号生成部とを有するマイコン(21)を有し、前記マイコン(21)が出力する発音出力に基づいて発音体(3)から車両接近通報音を発生させることで、車両の接近を通報する車両接近通報装置において、
前記マイコン(21)は、
前記発音体(3)の温度である発音体温度を取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した発音体温度が高くなるほど、前記信号生成部が生成する前記接近通報音電圧波形信号の電圧レベルが大きくなるように補正する音圧補正手段と、を有し、
前記音圧補正手段による補正後の接近通報音電圧波形信号を前記信号生成部より出力させていると共に、
前記音圧補正手段は、前記取得手段で取得した発音体温度が高くなるほど大きな値となる振幅係数(k)を演算し、補正前の前記接近通報音電圧波形信号に対して前記振幅係数(k)を掛け合わせることで、補正後の前記接近通報音電圧波形信号を演算し、前記信号生成部より出力させており、
さらに、前記取得手段は、車両走行状態を取得し、
前記信号生成部は、前記取得手段が取得した車両走行状態に基づいて前記接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを変化させ、
前記音圧補正手段は、前記発音体温度の変化に対して、前記発音体(3)から実際に出力される前記車両接近通報音の電圧レベルが、前記車両走行状態と前記接近通報音電圧波形信号の電圧レベルとが一定の関係となる値として前記振幅係数(k)を演算することを特徴とする車両接近通報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両から音声を発生させることにより、車両が接近していることを周囲に通報する車両接近通報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車)などでは、その構造的に発生騒音が小さく、これらの車両の接近を歩行者が気付き難いということから、歩行者などの周囲に車両が近くにいるという認知度を上げるために擬似走行音を発生させる車両接近通報装置が搭載されつつある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両接近通報装置では、スピーカを介して擬似走行音などの接近通報音を発音しているが、スピーカ出力音圧については、大きければ通報性はあがるが騒音性が問題になり、逆に、小さければ騒音性は満足するが通報性が下がってしまうという問題がある。このため、通報性と騒音性の双方を満足できるレベルでスピーカ出力音圧が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−35195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両接近通報装置は、車両に搭載されるものであり、スピーカが車両の環境温度に応じた影響を受けることになる。具体的には、スピーカは車室外、例えばエンジンルーム内に搭載されることになり、そのエンジンルーム内の使用温度範囲が−40〜110℃といった広い温度範囲(150℃幅)となり、スピーカが受ける影響が大きくなる。例えば、スピーカのボイスコイル材料は銅であり、銅の抵抗率の温度係数が約4000ppm/℃となるため、ボイスコイルインピーダンスは、150℃幅で約60%変化することになる。すなわち、スピーカ出力音圧は、次式で表されることになるため、温度上昇に伴って低下し、150℃幅だと温度変化の影響だけで単純に4dB低下してしまう。
【0006】
(数1)
[1/スピーカインピーダンス]∝[スピーカ電流]∝[スピーカ出力音圧]
特に、スピーカ搭載位置がエンジンルーム内であった場合、車両の走行前後にエンジンルーム内の温度が大きく上昇するため、スピーカからの発音の音圧が低下し、通報性を低下させるという問題がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、温度変化に伴うスピーカ等の発音体での発音の音圧の変化を抑制し、通報性を低下させることを抑制できる車両接近通報装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、発音する接近通報音データを記憶したメモリ手段と、メモリ手段から接近通報音データを読み出すと共に、接近通報音データに基づいて発音を行う車両接近通報音を表す接近通報音電圧波形信号を生成する信号生成部とを有するマイコン(21)を有し、マイコン(21)が出力する発音出力に基づいて発音体(3)から車両接近通報音を発生させることで、車両の接近を通報する車両接近通報装置において、マイコン(21)は、発音体(3)の温度である発音体温度を取得する取得手段と、取得手段で取得した発音体温度が高くなるほど、信号生成部が生成する接近通報音電圧波形信号の電圧レベルが大きくなるように補正する音圧補正手段と、を有し、音圧補正手段による補正後の接近通報音電圧波形信号を信号生成部より出力させることを特徴としている。
【0009】
このように、発音体温度に応じて接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを補正し、実際に発音体(3)から出力された車両接近通報音の音圧レベルが一定値となるようにしている。したがって、温度変化に伴う発音体(3)の発音の音圧の変化を抑制でき、通報性を低下させることを抑制することが可能となる。これにより、発音体(3)の温度変化があっても通報性と騒音性を両方共に満たすことが可能となる。
【0010】
具体的には、請求項
1に記載
の発明では、音圧補正手段にて、取得手段で取得した発音体温度が高くなるほど大きな値となる振幅係数(k)を演算し、補正前の接近通報音電圧波形信号に対して振幅係数(k)を掛け合わせることで、補正後の接近通報音電圧波形信号を演算し、信号生成部より出力させるようにすることで、接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを補正
して、温度変化に伴う発音体(3)の発音の音圧の変化を抑制
している。
【0012】
また、請求項
1に記載の発明
では、取得手段にて車両走行状態を取得し、信号生成部にて取得手段が取得した車両走行状態に基づいて接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを変化させ
ている。この場合、音圧補正手段では、発音体温度の変化に対して、発音体(3)から実際に出力される車両接近通報音の電圧レベルが、車両走行状態と接近通報音電圧波形信号の電圧レベルとが一定の関係となる値として振幅係数(k)を演算することができる。
【0013】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。
【
図2】スピーカボイスコイルの抵抗率の温度特性を示した図である。
【
図3】温度と音圧レベルとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。この図を参照して、本実施形態にかかる車両用接近通報装置を含む車両接近通報システムについて説明する。
【0017】
図1に示すように、車両接近通報システムは、各種センサ1a、1bと車両接近通報装置2およびスピーカ3とを有した構成とされている。車両接近通報システムでは、車両接近通報装置2が各種センサ1a、1bから伝えられる走行状態検知信号に基づいて、ロードノイズが小さな低速走行時に発音体であるスピーカ3から擬似走行音を発音することで、車両の接近を周囲の歩行者などに通報する。なお、ここでは、車両接近通報装置2をスピーカ3と別体としているが、スピーカ3を車両接近通報装置2と一体化した構成としても良い。
【0018】
各種センサ1a、1bは、車速センサ1aおよびスピーカ温度センサ1bにて構成されている。車速センサ1aは、車両の車速検知信号を出力し、スピーカ温度センサ1bは、例えばスピーカ3のボイスコイルの近傍に取り付けられ、スピーカ3の温度を示す温度検知信号を出力する。車両接近通報装置2は、これら車速センサ1aやスピーカ温度センサ1bから車速やスピーカ温度を示す検知信号を入力し、車速やスピーカ温度に応じて発音の制御を行う。
【0019】
車両接近通報装置2は、マイコン21とローパスフィルタ(以下、LPFという)22およびパワーアンプ(以下、AMPという)23を有している。
【0020】
マイコン21は、図示しないメモリ手段に相当するメモリや演算部を有していると共に、接近通報音電圧波形信号を生成する信号生成部を有した構成とされている。メモリには、PCMデータなどの接近通報音データ、スピーカ温度に対応付けた補正演算プログラムを含む車両接近通報音の発音の制御プログラムなどが記憶されている。この記憶内容を用いて、マイコン21は、演算部にて、車速検知信号が示す車速に基づいて発音を行うか否かの判定行うと共に、所定の再生速度で接近通報音データを読み出す。そして、それに対応する接近通報音電圧波形信号を信号生成部から出力する。
【0021】
具体的には、マイコン21に備えられた演算部には、車速およびスピーカ温度を取得する取得手段、スピーカ温度の変化に対して音圧レベルを一定にするために接近通報音電圧波形信号の補正を行い、補正後の接近通報音電圧波形信号で車両接近通報音の発音を行わせる音圧補正手段が備えられている。
【0022】
取得手段では、車速センサ1aによる車速検知信号やスピーカ温度センサ1bによる温度検知信号を入力し、これらに基づいて車速やスピーカ温度を取得する。音圧補正手段は、取得手段にて取得した車速が所定速度(例えば20km/h)未満のときに、スピーカ温度に応じて接近通報音電圧波形信号の電圧レベルの補正を行う。具体的には、後述するように、接近通報音電圧波形信号の振幅係数kを演算している。そして、音圧補正手段は、演算された振幅係数kを接近通報音電圧波形信号に掛け合わせることで、補正後の接近通報音電圧波形信号を生成し、それを信号生成部から出力させる。
【0023】
具体的には、温度補正手段は、メモリに記憶された演算式もしくはマップを用いて、取得手段で取得されたスピーカ温度に対応する振幅係数kを演算している。メモリには、スピーカ3が搭載される場所の温度変化として想定される温度範囲内における温度と音圧レベルとの関係を示した演算式もしくはマップを記憶してあり、その演算式にスピーカ温度を代入して振幅係数kを演算したり、マップからスピーカ温度に対応する振幅係数kを選択している。
【0024】
図2は、スピーカボイスコイルの抵抗率の温度特性を示した図であり、
図3は、温度と音圧レベルとの関係を示した図である。
【0025】
図2に示すように、例えば、スピーカ3のボイスコイル材料は銅であり、銅の抵抗率の温度係数が約4000ppm/℃となるため、ボイスコイルインピーダンスは、150℃幅で約60%変化することになる。
【0026】
このため、
図3の破線で示したように、温度変化に伴って接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを変更しなかった場合、実際にスピーカ3から出力される車両接近通報音の音圧レベルは温度上昇に伴って低下する。例えば、−40〜110℃に変化した場合のように、150℃幅だと温度変化の影響だけで単純に4dB低下してしまう。したがって、温度補正手段にてスピーカ温度に応じた振幅係数kを演算し、その振幅係数kを接近通報音電圧波形信号に掛け合わせることでスピーカ3での発音の音圧レベルを補正でき、スピーカ3から車両接近通報音を発音したときに、その音圧レベルが一定値となるようにする。
【0027】
具体的には、スピーカ温度が高くなるほど振幅係数kが大きくなるような値とすることで接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを補正している。例えば、スピーカ3での発音の音圧レベルが常温(25℃程度)を基準として設定されていて、その基準となる温度での音圧レベルが通報性も騒音性も両方共に満足する値に設定してある場合には、その温度を基準として、その温度以下であれば振幅係数kをk<1として接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを下げ、その温度以上であれば振幅係数kをk>1として接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを上げるようにしている。これにより、スピーカ3での発音の音圧レベルが
図3中の破線で示した温度特性となるのに対して
図3中の実線で示すような一定値となるようにできる。
【0028】
なお、スピーカ3からの発音の音圧レベルを一定値としているが、一定値とは、必ずしも全く同じ固定の音圧レベルである必要はなく、ある程度幅を持たせた値、例えば使用温度範囲における音圧レベルの変化が所定範囲(例えば2dB)以内となるようにしても良い。
【0029】
LPF22は、フィルタ手段に相当し、マイコン21の信号生成部から出力された接近通報音電圧波形信号を入力し、高周波のノイズ成分を除去して、ノイズ成分除去後の接近通報音電圧波形信号を発生させる。例えば、LPF22は、内蔵のコンデンサに電圧制御部22の出力に対応する電圧を蓄え、それをAMP23に出力している。
【0030】
AMP23は、図示しない定電圧源からの電圧印加に基づいてLPF22の出力と対応する電流をスピーカ3に流す。スピーカ3が発音する音圧は、AMP23から供給される電流の大きさ(振幅)に応じて決まり、AMP23から供給される電流の大きさは、PWM出力に対応するLPF22の出力波形によって決まる。このため、スピーカ温度に基づく補正によって電圧レベル(振幅)が補正された接近通報音電圧波形信号に基づいてAMP23が流す電流を変化させられる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態にかかる車両接近通報装置では、スピーカ温度に応じて接近通報音電圧波形信号の電圧レベルを補正し、実際にスピーカ3から出力された車両接近通報音の音圧レベルが一定となるようにしている。したがって、温度変化に伴うスピーカ3の発音の音圧の変化を抑制でき、通報性を低下させることを抑制することが可能となる。これにより、スピーカ3の温度変化があっても通報性と騒音性を両方共に満たすことが可能となる。
【0032】
(他の実施形態)
上記実施形態では、スピーカ3で実際に発音されたときの車両接近通報音の音圧レベルが固定値もしくは所定範囲内となるようにする場合について説明したが、車速やアクセル開度などの車両走行状態に応じて車両接近通報音の音圧レベルを変化させることがある。例えば、車速もしくはアクセル開度が大きくなるほど、車両接近通報音の音圧レベルを大きくすることで、歩行者により車両の接近が速いことや車両の加速量が大きいことを認識させるようにしている。
【0033】
このような場合には、基本的には車両状態と車両接近通報音の音圧レベルとが一定の関係となるが、スピーカ温度が変化すると、その関係も変化させられることになる。このため、この場合にもスピーカ温度に基づいて接近通報音波形信号の振幅係数kを演算し、接近通報音波形信号を補正すれば、車両状態と車両接近通報音の音圧レベルとが一定の関係となるようにすることができる。
【0034】
また、上記実施形態では、マイコン21に備えられた信号生成部から出力される接近通報音波形信号自体が既に補正後の信号となるようにしているが、マイコン21の外部で接近通報音波形信号の電圧レベルを補正することもできる。例えば、マイコン21の外部に電圧制御部を設け、この電圧制御部に対して補正前の接近通報音波形信号を入力すると共に、マイコン21から振幅定数kに応じた制御信号を出力する。このようにすれば、電圧制御部にて、制御信号に基づいて接近通報音波形信号の電圧レベルを補正することができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
なお、上記実施形態で説明したように、車両接近通報装置2をスピーカ3と別体としても、スピーカ3を車両接近通報装置2と一体化した機電一体タイプとしても良い。ただし、機電一体タイプの場合、スピーカ3スピーカ温度センサの配線が短くなることから、温度検出誤差を低減することができるため、望ましい。
【0036】
また、上記実施形態では、発音体としてスピーカ3を例に挙げ、スピーカ温度に基づいてスピーカ3で実際に発音される車両接近通報音の音圧レベルが一定となるようにしたが、他の発音体を用い、発音体温度に基づいて同様のことを行っても良い。
【符号の説明】
【0037】
1a 車速センサ
1b スピーカ温度センサ
2 車両接近通報装置
3 スピーカ
21 マイコン
22 LPF
23 AMP