(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679085
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】水晶体超音波乳化吸引術用チップ
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20150212BHJP
【FI】
A61F9/007 130B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-205309(P2014-205309)
(22)【出願日】2014年10月4日
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3185238号
【原出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-3266(P2015-3266A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2014年10月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513133907
【氏名又は名称】JMR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513133918
【氏名又は名称】大▲がんな▼ 晋也
(74)【代理人】
【識別番号】100140394
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 康次
(72)【発明者】
【氏名】笹崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】大▲がんな▼ 晋也
【審査官】
寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第5451229(US,A)
【文献】
米国特許第6283974(US,B1)
【文献】
特開平8−38541(JP,A)
【文献】
米国特許第6074396(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1・第2の端を有したシャフトと、
前記シャフトの第1の端に配置されかつ開口部を有した末端部と、
前記末端部の前記開口部から前記シャフトの第2の端まで延びた吸引通路と、
を備え、かつ、
前記吸引通路は、前記末端部において、前記開口部から前記シャフトに向かって螺旋状に細くされていることを特徴とする水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
【請求項2】
第1・第2の端を有したシャフトと、
前記シャフトの第1の端に配置されかつ開口部を有した末端部と、
前記末端部の前記開口部から前記シャフトの第2の端まで延びた吸引通路と、
を備え、かつ、
前記吸引通路は、前記末端部において、前記開口部側に設けられた第1の区間と、前記シャフトの第1の端側に設けられた第2の区間とを有し、
前記吸引通路は、第1の区間において前記シャフトに向かって階段状に細くされ、
前記吸引通路は、第2の区間において前記シャフトに向かって螺旋状に細くされていることを特徴とする水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
【請求項3】
第1・第2の端を有したシャフトと、
前記シャフトの第1の端に配置されかつ開口部を有した末端部と、
前記末端部の前記開口部から前記シャフトの第2の端まで延びた吸引通路と、
を備え、かつ、
前記吸引通路は、前記末端部において、前記開口部側に設けられた第1の区間と、前記シャフトの第1の端側に設けられた第2の区間とを有し、
前記吸引通路は、第1の区間において前記シャフトに向かって螺旋状に細くされ、
前記吸引通路は、第2の区間において前記シャフトに向かって階段状に細くされていることを特徴とする水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
【請求項4】
前記吸引通路の内壁には、前記開口部から前記シャフトに向かう案内溝が一本又は複数本、さらに形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科手術の一種である水晶体超音波乳化吸引術に使用可能なチップに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術においては、患者の白濁した水晶体を除去するために水晶体超音波乳化吸引術と呼ばれる外科手術が一般に施される。この手術方法は、専用のチップを水晶体に挿入し、灌流液を供給しながらこのチップを超音波振動させることによって水晶体を破砕乳化し、破砕乳化された水晶体を灌流液とともにチップ内の吸引通路を介して体外に吸引排除するものである。
【0003】
公知の水晶体超音波乳化吸引術用チップ(以下、単に「チップ」とも呼ぶ。)として、例えば、特許文献1及び2に開示されるような構造が提案されている。
【0004】
しかしながら、チップの更なる性能向上(破砕力の増強や破砕効率の向上)が望まれており、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−000644号公報
【特許文献2】特開2006−247392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みて提案されたものであり、水晶体を効率的かつ円滑に破砕吸引する能力に優れた水晶体超音波乳化吸引術用チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水晶体を効率的かつ円滑に破砕吸引するには末端部の形状や構造が極めて重要であることを認識しつつ試作試験を繰り返し検討した結果、上述の目的の実現に適したチップを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、次の構成・特徴を採用するものである。
(態様1)
第1・第2の端を有したシャフトと、
前記シャフトの第1の端に配置されかつ開口部を有した末端部と、
前記末端部の前記開口部から前記シャフトの第2の端まで延びた吸引通路と、
を備え、かつ、
前記吸引通路
は、前記末端部において、前記開口部から前記シャフトに向かって
螺旋状に細くされていることを特徴とする水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
(態様2)
第1・第2の端を有したシャフトと、
前記シャフトの第1の端に配置されかつ開口部を有した末端部と、
前記末端部の前記開口部から前記シャフトの第2の端まで延びた吸引通路と、
を備え、かつ、
前記吸引通路は、前記末端部において、前記開口部側に設けられた第1の区間と、前記シャフトの第1の端側に設けられた第2の区間とを有し、
前記吸引通路は、第1の区間において前記シャフトに向かって階段状に細くされ、
前記吸引通路は、第2の区間において前記シャフトに向かって螺旋状に細くされていることを特徴とする水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
(態様3)
第1・第2の端を有したシャフトと、
前記シャフトの第1の端に配置されかつ開口部を有した末端部と、
前記末端部の前記開口部から前記シャフトの第2の端まで延びた吸引通路と、
を備え、かつ、
前記吸引通路は、前記末端部において、前記開口部側に設けられた第1の区間と、前記シャフトの第1の端側に設けられた第2の区間とを有し、
前記吸引通路は、第1の区間において前記シャフトに向かって螺旋状に細くされ、
前記吸引通路は、第2の区間において前記シャフトに向かって階段状に細くされていることを特徴とする水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
(態様4)
前記吸引通路の内壁には、前記開口部から前記シャフトに向かう案内溝が一本又は複数本、さらに形成されていることを特徴とする態様
1〜3のいずれかに記載の水晶体超音波乳化吸引術用チップ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチップによれば、吸引通路は、末端部における開口部からシャフトに向かって階段状又は/及び螺旋状に細くされた構造を成すため、開口部から吸引された水晶体破砕物は、上記構造に衝突することでさらに細かく破砕され、チップの破砕効率が格段に向上する。
【0010】
また、本発明のチップによれば、上記構造を成す吸引通路の内壁には開口部からシャフトに向かう案内溝がさらに配設されているために、上記構造に衝突した水晶体破砕物を含んだ流体は、上記構造付近に滞留することなく、円滑に下流側に流れ出るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のチップを示した斜視図及び断面図である。
【
図2】実施例1の末端部を示した拡大断面図及び側面図である。
【
図3】実施例2の末端部を示した拡大断面図及び側面図並びに実施例3の末端部を示した拡大断面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施例に何等限定されるものではない。なお、各図において同一又は対応する要素には同一符号を用いる。
【実施例1】
【0013】
(末端部側の吸引通路に階段状段差構造及び案内溝を配設したチップ)
図1及び
図2を参照しながら、実施例1のチップ1について説明する。
図1(a)及び(b)は、実施例1のチップ1を示した斜視図及び断面図である。なお、
図1(c)は、後述する実施例1の変形例を示す。さらに、
図2(a)及び(b)は、実施例1の末端部3を示した拡大断面図及び側面図である。
【0014】
実施例1のチップ1は、公知のチップの構成と同様に、第1・第2の端21,22を有したシャフト2と、シャフト2の第1の端21に配置されかつ開口部4を有した末端部3と、末端部3の開口部4からシャフト2の第2の端22まで延びた吸引通路5と、を備える。なお、末端部3の開口部4は、
図2(a)に示すように、傾斜角θを有するように斜めに切断されていてもよい。好適な傾斜角θは0°≦θ≦45°である。θの角度が大きい程、水晶体を破壊し易くなる。一方、θの角度が小さい程、水晶体をやや破壊しにくくなるが水晶体を捕まえ易くなるといった利点がある。
【0015】
(チップの材質)
なお、チップ1の材料として、延性、靭性、機械的強度、加工性、及び溶接性などの面から、Ti−6Al−4V等のチタン合金が好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、その他の金属や樹脂を用いてもよい。
【0016】
(チップと他の装置との取り付け)
また、チップ1は、ハンドピース(図示せず)とともに、水晶体乳化装置の構成要素の一つであり、ハンドピース内の超音波装置(図示せず)に着脱可能なねじ部6と、上述のねじ部6とシャフト2とを接続するハブ7とをさらに備える(
図1の各図を参照)。このねじ部6の端面には開口部8が設けられ、ねじ部6及びハブ7には、開口部8と吸引通路5とを連通する連絡通路9が設けられており、末端部3の開口部4から吸引通路5へ吸引された水晶体破砕物を含んだ灌流液(以下、単に「流体」とも呼ぶ。)はハンドピースを通って、水晶体乳化装置の外へ排出される。
【0017】
(吸引通路の吸引構造)
ここで、実施例1においては、
図2(a)の符号51に示すように、吸引通路5が、開口部4からシャフト2に向かって階段状に細くされていることに留意されたい。なお、図示の例では、吸引通路5には、内径が異なる(順に小さくなる)中空円筒状の流路が4つ形成され、断面視で四段の階段状構造51が形成されている。
【0018】
これにより、開口部4から吸引された水晶体破砕物(図示せず)は、上記階段状構造51(によって生ずる段差)に衝突することでさらに細かく破砕され、チップ1の破砕効率が格段に向上するのである。
【0019】
また、吸引通路5の内壁には、開口部4からシャフト2に向かう案内溝52が一本又は複数本(図示の例では四本)、さらに形成されていることにも留意されたい。これにより、上記階段状構造51に衝突した水晶体破砕物を含んだ流体は、上記構造51付近に滞留することなく、極めてスムーズに下流側(吸引通路5、連絡通路9)へ流れ出るようになる。
【0020】
なお、案内溝52は、内壁の外周を均等に分割するように複数本、形成されていることが好ましい。図示の例では、各溝は、外周(円周)を4つに分割するように90°おきに配置されている。
【0021】
(末端部の変形例)
上述の実施例1においては、末端部3がシャフト2の軸と同じ軸上に並ぶように配置された構成を前提としたが、必ずしもこれに限定されない。例えば、
図1(c)に示すように、シャフト2に対して末端部3が反ったように傾斜させた構成(図示せず)を採用してもよく、上述した本発明の作用効果は同様に得られる。
【実施例2】
【0022】
(末端部側の吸引通路に螺旋状構造を配設したチップ)
図3(a)及び(b)を参照しながら、実施例2のチップ1について説明する。実施例2のチップ1は、後述するように、実施例1とは異なる構造の吸引通路5を有するが、その他の構成要素については、実施例1で説明した構成要素とほぼ同様の特徴や機能を有するため、ここでは説明を省略する。
【0023】
ここで、実施例2においては、
図3(a)及び(b)の符号53に示すように、吸引通路5が、開口部4からシャフト2に向かって螺旋状に細くされていることに留意されたい。なお、図示の例では、吸引通路5には、末端部3の区間において、内径が徐々に小さくなる円錐流路が形成され、その円錐流路の内壁面に螺旋溝が設けられることで螺旋状構造53が形成されている。
【0024】
これにより、開口部4から吸引された水晶体破砕物(図示せず)は、上記螺旋状構造53に衝突することでさらに細かく破砕され、チップ1の破砕効率が格段に向上するのである。また、この螺旋状構造53を形作る螺旋溝55に沿って水晶体破砕物を含んだ流体が下流側へ導かれるために、上記螺旋状構造53に衝突した流体は、上記構造53付近に滞留することなく、極めてスムーズに下流側(吸引通路5、連絡通路9)へ流れ出るようになる。
【実施例3】
【0025】
(末端部側の吸引通路に螺旋状構造及び案内溝を配設したチップ)
実施例3のチップ1は、実施例2のチップ1とほぼ同様の螺旋状構造53を有するが、実施例1で説明したような案内溝52を有する(
図3(c)及び(d)を参照)。これにより、吸引通路5への流体の吸引と、吸引通路5からの流体の排出がさらに促進され、チップ1としての破砕効率も向上するのである。
【実施例4】
【0026】
(末端部側の吸引通路に螺旋状構造及び案内溝を配設したチップ)
実施例4として、図示しないが、実施例1で例示したような階段状構造51と、実施例2,3で例示したような螺旋状構造53と、を組み合わせた吸引通路5を有するチップ1が挙げられる。
【0027】
具体的には、吸引通路5は、末端部3において、開口部4側に設けられた第1の区間(つまり吸入側区間、図示せず)と、シャフト2の第1の端21側に設けられた第2の区間(つまり排出側区間、図示せず)とを有するようにしたものである。そして、この第1の区間においては、吸引通路5の流路形状がシャフト2に向かって階段状に細くされている。一方、第2の区間においては、吸引通路5の流路形状がシャフト2に向かって螺旋状に細くされている。
【0028】
このように構成することにより、開口部4から吸引された水晶体破砕物(図示せず)は、階段状構造51及び螺旋状構造53の壁面に次々と衝突することでさらに細かく破砕され、チップ1の破砕効率が格段に向上するのである。また、螺旋溝によって破砕物を含有した流体は吸引通路5の下流側へ円滑に流れるように導かれる。
【実施例5】
【0029】
また、実施例5は実施例4の変形例であり、図示しないが、実施例4で説明した上述の第1の区間の流路形状を螺旋状に細くし、一方、第2の区間においては、吸引通路5の流路形状がシャフト2に向かって階段状に細くされている。即ち、実施例5は、実施例4における階段状流路と螺旋状流路との設置順序を異なる(逆になる)ように構成したものである。
【0030】
実施例4又は実施例5のチップ1は、実施例1,3で説明したような案内溝52を配設してもよい。これにより、吸引通路5への流体の吸引と、吸引通路5からの流体の排出がさらに促進され、チップ1としての破砕効率もさらに向上するからである。
【0031】
また、案内溝52の本数は各実施例の設置数に限定されず、少なくとも一本を配設してもよい。また、図示の案内溝52は、吸引通路5の軸と平行に走る水平溝を例示したが、必ずしもこれに限定されず、例えば、当該軸に傾斜した溝であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明してきたように、本発明に係る水晶体超音波乳化吸引術用チップ1は、従来品に比べ、水晶体を効率的かつ円滑に破砕吸引する能力に優れており、産業上の利用価値及び産業上の利用可能性が非常に高い。
【符号の説明】
【0033】
1 水晶体超音波乳化吸引術用チップ
2 シャフト
3 末端部
4 末端部の開口部
5 吸引通路
6 ねじ部
7 ハブ
8 ねじ部の開口部
9 連絡通路
21 シャフトの第1の端
22 シャフトの第2の端
51 階段状構造
52 案内溝
53 螺旋状構造