特許第5679148号(P5679148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5679148外壁構造の施工方法およびモルタル製ボード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679148
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】外壁構造の施工方法およびモルタル製ボード
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/04 20060101AFI20150212BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20150212BHJP
【FI】
   E04F13/04 107
   E04F13/04 108A
   E04F13/04 108B
   E04F13/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-21532(P2010-21532)
(22)【出願日】2010年2月2日
(65)【公開番号】特開2011-157768(P2011-157768A)
(43)【公開日】2011年8月18日
【審査請求日】2012年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】397064405
【氏名又は名称】有限会社小川節夫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】左海 正
【審査官】 小林 俊久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−055659(JP,A)
【文献】 特開昭60−119860(JP,A)
【文献】 特開平04−143361(JP,A)
【文献】 実開昭51−154019(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/02 − 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の相互に独立した凸部、または、複数個の相互に独立した凹部を有するモルタル製ボードを準備して、該モルタル製ボードの前記凸部または前記凹部上にラス網を載せて、ラス網の上から綴針で前記モルタル製ボード上の突出部を挟み込み、モルタル製ボードを貫通させて壁躯体に打設する手段により、該ラス網の上から前記モルタル製ボードの凸部または凹部を有する面と反対側の面を壁躯体に固定する工程と、
前記モルタル製ボードの前記凸部または前記凹部を埋設して形成されるセメントおよび砂を含むモルタル層において、モルタル層の底部から上部にかけて連続して砂の含有量は、セメント1に対して下塗り層が2.1〜2.8、中塗り層が2.8〜3.3、上塗り層が3.3〜3.7の割合で増加する表面平滑なモルタル層を1回のモルタル塗工で形成する湿式工法により形成する工程とを有することを特徴とする外壁構造の施工方法。
【請求項2】
請求項1記載の施工方法に用いられるモルタル製ボードであって、
このボードの一方の主面に、相互に独立した同一高さの凸部、または、相互に独立した同一深さの凹部を有することを特徴とするモルタル製ボード。
【請求項3】
前記凸部または凹部は、前記モルタル製ボードの一方の主面に対して直角かつ同一幅の断面形状であることを特徴とする請求項2記載のモルタル製ボード。
【請求項4】
前記モルタル製ボードの裏面にラス網、防水紙、ネットおよび金属板から選ばれた少なくとも1つを有することを特徴とする請求項2または請求項3記載のモルタル製ボード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物の外壁構造の施工方法およびその施工に用いられるモルタル製ボードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の外壁構造の施工方法を図7に示す。図7は、従来の外壁構造の施工方法を示す断面図である。
図7(c)は、施工成後の外壁構造断面を示す。従来は、壁躯体9に、ラス網10、12を挟み込んで、その上にモルタル層11を20mm以上形成してモルタル外壁8を施工している。
しかし、このモルタル層11は、壁躯体9を底面として、上表面に近づくにつれて、乾燥、収縮に伴うモルタル層11に含まれる水分の蒸発により、亀裂や剥離が発生しやすいという問題がある。この亀裂や剥離を防止する方法として、モルタル層11の上表面に近づくにつれて大きくなる乾燥・収縮に対する柔軟性を確保するために、モルタル中の砂の含有量をモルタル層11の上表面に近づくにつれて多くする方法が用いられている。すなわち、モルタル層11を図7(a)に示すように、砂11dの少ないモルタルを用いて下塗り層11aを形成し、乾燥・硬化させる。その後、図7(b)に示すように、下塗り層11aに用いたモルタルより砂11dの多いモルタルを用いて中塗り層11bを形成し、乾燥・硬化させる。最後に、図7(c)に示すように、中塗り層11bに用いたモルタルより砂11dの多いモルタルを用いて上塗り層11cを形成する方法である。一般的には、下塗り層11aにおいては容量比でモルタル1に対して砂2.5、中塗り層11bにおいては容量比でモルタル1に対して砂3、上塗り層11cにおいては容量比でモルタル1に対して砂3.5の混合比が用いられている。
【0003】
しかしながら、図7に示す従来の外壁構造は、モルタル層11を下塗り層11a、中塗り層11b、上塗り層11cに分けて塗工する必要があり、また下塗り層11a、中塗り層11b、上塗り層11cの塗工の都度、乾燥・硬化のための養生期間がそれぞれ10日〜14日間必要であり、施工方法に手間がかかる上に施工日数を要するという問題があった。また、図7(d)に示すように、中塗り層11bに対する接着力の低下する上塗り層11cは、経時による収縮に伴う剥離が生じる問題があった。
【0004】
図7(c)において、上塗り層11cに内設するラス網12は、壁の耐震性補強のためにはテンションをかけた状態でモルタルを塗工する必要がある。
図8は、従来工法におけるラス網12の状態を示す断面図である。図8(b)に示すように上塗り層11cの下層のモルタルを塗工した後、ラス網12を載せ、その上に上層のモルタルを塗工する前に、ラス網12にテンションをかけようとして図8(a)に示すように綴針6を打ち込もうとすると、下層のモルタルが軟らかいため、ラス網12が中塗り層11bの上表面まで沈み込むとともに、中塗り層11bの硬化したモルタルに阻まれて綴針6が打ち込めない。このため、やむを得ず図8(c)に示すようにテンションのかかっていない状態のラス網12をコテ13を用いる鏝塗り等で下層のモルタルになじませながらモルタル上層を塗工せざるを得ない。結果として、上塗り層11cに挟み込まれるラス網12は、図7(c)においてテンションのかかった直線で示したラス網12ではなく、図8(c)に示すようなテンションのかかっていない状態で上塗り層11cに挟み込まれることになり、耐震性強度が得られないという問題があった。
【0005】
一方、モルタル層の剥離を防止する方法として、壁躯体あるいは下地モルタルの表面にモルタルの接着性を高めるために微小繊維が混合されたプライマーを塗布したもの(特許文献1)、ラス付けモルタルとして、非加水状態を基準にセメント100重量部に対し、単糸繊度4〜40dtex、繊維長10〜25mmのポリアミド系繊維を0.1〜1重量部と、所要量の砂および水とを混合した繊維補強モルタルを用いることを特徴とするラス下地モルタル塗工法(特許文献2)や、裏地を持たないラス網であるエキスパンドメタルまたは金網を施工壁面に設着し、ラス網上に直接繊維含有モルタルを塗工する施工方法(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−310418号公報
【特許文献2】特開2003−49522号公報
【特許文献3】特開2002−356971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3のような下地材とモルタルとの接着が強固ではなく、ラス網を用いるものであっても、モルタルとラス網の接着が強固ではないため、外壁を形成するモルタル層の長期的な剥離や亀裂の防止が困難である、また防火、耐水性能が劣るという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、施工が容易であり、施工後の表面モルタル層に剥離や亀裂が生じることのない、耐震性、耐久性、防火、耐水性に優れた建築物の外壁構造の施工方法およびこの施工方法に用いられるモルタル製ボードの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の外壁構造の施工方法は、複数個の相互に独立した凸部、または、複数個の相互に独立した凹部を有するモルタル製ボードを準備して、該モルタル製ボードの上記凸部または上記凹部上にラス網を載せて、ラス網の上から綴針で上記モルタル製ボード上の突出部を挟み込み、モルタル製ボードを貫通させて壁躯体に打設する手段により、該ラス網の上から上記モルタル製ボードの凸部または凹部を有する面と反対側の面を壁躯体に固定する工程と、
上記モルタル製ボードの上記凸部または上記凹部を埋設して形成されるセメントおよび砂を含むモルタル層において、モルタル層の底部から上部にかけて連続して砂の含有量は、セメント1に対して下塗り層が2.1〜2.8、中塗り層が2.8〜3.3、上塗り層が3.3〜3.7の割合で増加する表面平滑なモルタル層を1回のモルタル塗工で形成する湿式工法により形成する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のモルタル製ボードは、上記外壁構造の施工方法に使用されるボードであって、このボードの一方の主面に、相互に独立した同一高さの凸部、または、相互に独立した同一深さの凹部を有することを特徴とする。
また、モルタル製ボードの裏面にラス網、ネットまたは金属板、紙、防水紙を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の外壁構造の施工方法は、複数個の相互に独立した凸部、または、複数個の相互に独立した凹部を有するモルタル製ボードを壁躯体に固定して、この凸部または上記凹部を埋設して、仕上げ表面が平滑となるようにモルタル層を湿式工法により形成するので、1回のモルタル塗工で外壁構造を施工できる。
そのため、従来工法に比べて作業時間を20分の1以下に短縮できる。
また、モルタル製ボードは、複数個の相互に独立した凸部または凹部自体がモルタルで作られているので、この上から新たにモルタル塗工をおこなうと、塗工モルタルの水分が複数個の凸部の表面から吸収される。その結果、摩擦抵抗が大きくなり流動性が低下する大きな粒子の石などが凸部の上部表面に固定されるとともに、塗工モルタル中の流動性のよいセメントノロまたは微粒子の砂などがボードの凸部周囲の凹部、または複数個の相互に独立した凹部自体へ流れ込むので、従来工法における下塗り層、中塗り層、上塗り層にて区切って調整していた砂の含有量を1回のモルタル塗工で、モルタル層の底部から上部にかけて連続的に増加させることができる。
【0012】
本発明の外壁構造の施工方法は、モルタル製ボードを壁躯体に固定した後に該モルタル製ボードの複数の凸部または凹部上にラス網を載せて、該ラス網の上からモルタル製ボードを壁躯体に固定する手段を有するので、特に、ラス網の上から綴針で複数のそれぞれの突出部を挟み込み、モルタル製ボードを貫通させて壁躯体に打設する手段であるので、ラス網を緊張した状態で固定できる。その結果、ラス網の反りや変形が抑制され、ラス網にテンションがかかった状態でモルタル塗工することが可能となり、表面モルタルの剥離防止および壁面の耐震強度の向上に寄与できる。
【0013】
また、ラス網を予めボードの突出部上に固定するので、このラス網によるモルタルの濾過作用で砂の含有量が少なく粘度の低いモルタルがモルタル層の底部に浸透し、砂の含有量が多く粘度の高いモルタルが表面に停滞するために、砂の含有量をモルタル層の底部から上部にかけて連続的に確実に増加させることができる。
さらに、塗工されたモルタルのうちラス網より下層のモルタルは、突出部の周囲に留まるので、モルタルの剥離や亀裂を防止でき、また、塗工されたモルタルの乾燥に伴い蒸発する水分が、突出部の周囲に吸収されるので、突出部の周囲の凹部に塗工されたモルタルから上表面へ蒸発する水分の通過による、該凹部よりも上層部のモルタルの亀裂や剥離を防止できるとともに、該凹部内における収縮も該凹部単位で区切られることで、モルタル全体の亀裂や剥離を防止できる。
このため、表面モルタルが剥離や亀裂を生じることない外壁構造を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の外壁構造の施工方法を示す断面図である。
図2】凸部間の拡大断面図である。
図3】施工後の外壁構造を示す断面図である。
図4】モルタル製ボードの斜視図である。
図5】凸部の断面図である。
図6】凹部を有するモルタル製ボードを示す斜視図である。
図7】従来の外壁構造の施工方法を示す断面図である。
図8】従来工法におけるラス網の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の外壁構造の施工方法を図面に基づき説明する。図1(a)〜(d)は、複数個の相互に独立した凸部を有するボードを用いた、本発明の外壁構造の施工方法における各工程を示す断面図である。図1(a)、(b)に示すように、本発明の外壁構造1は、建築物の壁を形成する例えば合板表面に防水シートなどを貼付した壁躯体2に、複数個の相互に独立したボード表面から突出する凸部3cを有するモルタル製ボード3を準備して、このボード3の凸部3cを有する面と反対側の面3dを壁躯体2に固定する。
モルタル製ボード3には、基部3eの裏面にボードを補強するためのラス網4が配されている。
【0016】
壁躯体2とモルタル製ボード3との固定方法は、建築物の外壁に固定できる方法であれば、特に制限はない。本発明の施工方法では、図1(c)に示すように、モルタル製ボード3の突出部となる凸部3c上に張られるラス網5を同時に固定できることから、綴針6で複数のそれぞれの凸部3cを挟み込み、モルタル製ボード3の底部3aを貫通させて壁躯体2に綴針6を打設する手段であることが好ましい。
綴針6で凸部3cの側面に沿って壁躯体2にボード3を固定することで、ラス網5に張力がかかった状態でモルタル塗工することが可能となり、ラス網5の反りや変形が抑制される。その結果、モルタル塗工後の表面モルタルの剥離防止および壁面の耐震強度の向上に寄与できる。
また、ラス網5がフィルタの役割を果たし、モルタル製ボード3の底部3a付近に砂の含有量が少ないモルタル層が形成され、ラス網5上部、すなわち外壁構造1の表面には大きい径の砂が残りやすくなる。
【0017】
ラス網5を形成後、図1(d)に示すように、モルタル製ボード2の複数個の凸部3cおよびその周囲の凹部3a、3bを覆って、仕上げ表面が平滑となるようにモルタル層7を湿式工法により1回の塗工で形成する。
本発明に使用する塗工用モルタル、またはモルタル製ボードに使用しているモルタルは、軽量骨材、弾性骨材、ポリマー、木片、繊維、無機混和剤、有機混和剤等配合することができるが、通常、容量比でセメントが1の割合に対して、砂が3の割合を有することが好ましい。この配合比のモルタルを用いることで、塗工されたモルタル7は、ラス網5のラス目をくぐり抜けて、モルタル製凸部ボード3の最深部である底部3aに到達することができる。
最深部に到達できるモルタル7は、セメント7aの含有量の多い粘度の低いモルタル7であり、モルタル製凸部ボード3の底部3a側の凹部に強固に固着することができる。一方、モルタル7の上層部分は、径の大きな砂7bの含有量の多い粘度の高いモルタル7となる。
【0018】
また、塗工用モルタルは、塗工用モルタル全体に対して、含水率10〜50重量%であることが好ましい。この範囲であれば図1(d)において、塗工されたモルタル7の乾燥に伴う体積収縮を、凸部3c、3c間の凹部単位で区切ることで、剥離や亀裂を抑制することができる。また、このモルタル7の乾燥に伴う水分の蒸発も凹部単位で凸部底部3a、凸部側面3bに吸収され、モルタル層7の上層部分を通過する蒸発水分も減少することから、モルタル全体として剥離や亀裂を防止できる。モルタルの含水率が10重量%未満であると、強度が不足し、流動性が低下し、モルタル製ボード3への固着が不十分になり、50重量%をこえると、乾燥後の体積収縮が大きくなり、外壁構造表面にひびやクラックが生じやすくなる。
【0019】
モルタル製ボード3に形成される凸部3cの作用について図2により説明する。図2(a)、(b)は、モルタル層を湿式工法により形成するときの凸部3c、3c間の拡大断面図である。
図2(a)に示すように、モルタル塗工を開始すると、塗工モルタルに含まれている水分Mが凸部3cの表面から急速に吸収される。この吸収過程は非常に短時間で行なわれるので、凸部3c表面の塗工モルタルは流動性が急速に失われて、凸部3cの表面に固定される。特に、径の大きな砂7bが表面に固定される結果、凸部3c、3c間の開口部の距離t1は狭くなる。
【0020】
この状態でモルタル塗工を続行すると、図2(b)に示すように、上記狭くなった開口部より、塗工モルタル中の流動性のよいセメントノロまたは微粒子の砂などがボードの凸部周囲の凹部へ図中矢符Nで示すような経路で流れ込む。
その結果、従来工法における下塗り層、中塗り層、上塗り層にて区切って調整していた砂の含有量を1回のモルタル塗工で、図1(d)のA、B、C層で示すように、モルタル層の底部から上部にかけて連続的に増加させることができる。
この作用は、フィルタ作用のあるラス網5を設けることで、より顕著になる。
【0021】
上記施工方法で得られる外壁構造は、容量比でセメントが1の割合に対して砂が3の割合で配合されたモルタル(含水率10〜50容量%)を用いて、1回のモルタル塗工であっても、上記A層は、セメント1に対して砂が2.3〜2.8の割合であり、上記B層は、セメント1に対して砂が2.8〜3.3の割合であり、上記C層は、セメント1に対して砂が3.3〜3.7の割合である。
なお、砂の粒子は、セメントの粒子径よりも大きく目の粗さ5mmの篩を通過できる大きさであれば使用できる。
本発明の施工方法は、1回のモルタル塗工で壁面から表面になるほど砂の割合が多くなる富調合となるので、モルタル塗工表面の亀裂や剥離が生じない。
また、1回のモルタル塗工であるので施工日数は約1日であった。これは、従来、養生期間を含めて約28日間の施工日数を要するのに対して、施工期間が20分の1以下である。
【0022】
上記施工方法で得られる外壁構造に曲げ応力などの外力が印加された場合の状況を図3に示す。図3(a)は施工後の外壁構造を、図3(b)は外部応力が印加されたときの状態を示す断面図である。
本発明の施工方法で得られる外壁構造1は、図3(a)に示すように、壁躯体2に綴針6で固定されたモルタル製ボード3と、このモルタル製ボード3の表面に湿式法で塗工されたモルタル層7とから構成されている。4および5はそれぞれラス網である。
この外壁構造1に、図3(b)に示すように、壁躯体2が外側に曲げられる外部応力が印加されたとき、モルタル製ボード3とモルタル層7との境界7c部分で接着の乖離が生じ易くなる。これは、完全に硬化した後のモルタル製ボード3の表面に新たにモルタル層を形成するため、上記境界7c部分での接着強度がモルタル層内部の引張強度より弱くなるためである。
その結果、モルタル製ボード3とモルタル層7とは境界7c部分がズレてモルタル製ボード3の曲げ応力をモルタル層7に伝えにくくする。つまり、応力を分散させて壁躯体2に固定されているモルタル製ボード3の歪が生じたとしても、その歪が直接伝達されてクラックが生じる従来のモルタル工法に比較して、本願発明の工法は、モルタル層7のクラックを防止できる。
【0023】
本発明に使用されるモルタル製ボード3の斜視図を図4に示す。図4(a)は胴縁状凸部3cを有する例であり、図4(b)は独立した凸部3cを有する例である。これらの凸部3cは水分を吸収できるモルタル製であると共に、凸部上に張られるラス網5のスペーサとして機能できる機械的強度を有するものであればよい。複数の凸部3cの高さt2は、ラス網5を張設し易くなるので、同一高さの凸部であることが好ましい。凸部3cの高さt2としては、1〜50mmであることが好ましい。
また、モルタル製ボード3全体の厚さtは2〜100mmであることが好ましい。
【0024】
凸部3cの断面例を図5に示す。図5に示すように、凸部3cの断面は、胴縁状凸部であっても、独立した凸部であっても、同一幅の断面3b1、またはモルタル製ボード3の基部3e方向に対して、凸部3cの表面積を小さくするようにテーパーを有する凸部側面3b2、円形の窪みを有する凸部側面3b3とすることができる。特に、テーパーや窪みを有することにより、塗工された表面モルタルの剥離防止をより図ることができる。凸部3cはこれら凸部側面3bの組み合わせとすることができ、例えば、両側面が断面3b1である凸部3c1、一方の側面が断面3b1であり、他の側面が3b2である凸部3c2、両側面が断面3b2である凸部3c3、両側面が断面3b3である凸部3c4等が挙げられる。
【0025】
モルタル製ボード3の基部3e上に設けられる複数の凸部は、モルタル製ボード3の平面視で凸部3cの面積が、モルタル製ボードの全面積に対して、20〜80%であり、好ましくは30〜70%である。また、凸部3cは胴縁状凸部の場合、20〜100個/m2あり、独立した凸部3cの場合、100〜10000個/m2ある。この範囲であると図1(d)のA、B、C層で示すように、モルタル層の底部から上部にかけて連続的に大きな径の砂などの量を増加させることができる。
【0026】
図6は、複数個の相互に独立した凹部を有するモルタル製ボードを用いた外壁構造の施工方法を示す斜視図である。
モルタル製ボード3’は、複数個の相互に独立した凹部3'aを有している。この凹部3'aは、側面3'bと、底面3'cとからなり、側面3'bの深さt'2はボード3’の厚さt'よりも小さく設定されている。(t'−t'2)の厚さを有する背面の基部にボードを補強するためのラス網4が内設されている。
ここで、t'は凸部3cを有するボード3のtに、t'1は同ボード3のt1に、t'2は同ボード3のt2にそれぞれ対応している。
【0027】
モルタル製ボード3’は、背面の壁躯体2に綴針6で固定されている。また、綴針6は、モルタル製ボード3'表面上に張力をかけた状態でラス網5を固定する。その後、ラス網5に張力がかかった状態でモルタル7を塗工する。
複数個の相互に独立した凹部3'aを有するボード3’を用いることにより、1回のモルタル塗工で壁面から表面になるほど砂の割合が多くなる富調合とすることができる。
【0028】
モルタル製ボード3および3’の基部の裏面にはラス網4、金属板、防水紙、またはネットを有することが好ましい。
ラス網4、5は、メタルラス、金網等の金属系材質、ガラス、炭素、ジルコニア、アルミナ等の無機系材質、ビニロン、ポリアミド、パルプ、ポリプロピレン、ABS、AES等の有機系材質を単体または複合して、ネット状、板状、穴あき板状、糸状、不織布状、織物状等の形状で用いることができる。不織布状、織物状を用いる場合は、モルタルがボード内部に入る程度の目の粗さを有していることが好ましい。また、ラス網4に金属板を用いる場合、綴針が貫通できる厚さであることが好ましい。
【実施例】
【0029】
実施例1〜実施例4
表1に示す構造のモルタル製ボードを準備した。ボードの全厚さtまたはt’は約15mm、であり、t1またはt'1は約30mmであり、t2またはt'2は約10mmである。モルタル製ボードのモルタルの配合を表1に併記する。
このモルタル製ボードを壁躯体に取り外しできるように綴針で固定した。別に表1に示すモルタルをポットミキサーで混合し塗工用モルタルとした。この塗工用モルタルを、上記モルタル製ボード上にモルタルの厚さが15〜20mmになるまで湿式工法である左官工法により塗布してモルタル層を形成した。モルタル製ボードを壁躯体に取り外して外壁構造体の試験片を得た。試験片の大きさは幅10cm、長さ1mである。
なお、モルタル製ボードおよび塗工用モルタルに用いた材料は、セメントとしてはポルトランドセメントを、砂としてはFM2.8の砂を、パーライトとしては三井金属社製パーライトを、ポリマー溶液としては日本合成社製ポリマー溶液を、無機混和剤としてはフライアッシュを、発泡スチロールおよびMCは汎用品をそれぞれ用いた。
【0030】
得られた外壁構造体の試験片を用いて以下の評価をした。結果を表1に併記する。
(a)塗工用モルタル層に含まれる砂の割合
試験片の下層部(図1(d)のA層)、中層部(図1(d)のB層)、上層部(図1(d)のC層)からまだ固まっていないモルタルをサンプリングして、モルタル層に含まれる砂の割合(容量%)を5箇所より100mlのモルタルをサンプリングしてセメント分を清浄、除去して残留砂の容量を測定した。なおA層は6mm未満であり、B層は6mm以上、15mm未満であり、C層は15mm以上である。
【0031】
(b)寸法安定性
寸法安定性は、収縮率および「そり」で測定した。寸法安定性は表面の初期長さに対して12ヶ月後の長さの変化率により、そりは試料片の長さ方向断面図において、両端部を結ぶ直線に対する最大高さ、すなわち最大歪を測定した。
(c)機械的強度
機械的強度は試験片を曲げたとき、破断曲げ角度と、ヘアークラックの発生状況により評価した。破断曲げ角度は曲げ角度測定機により、発生状況はブルーインク吸着試験により測定した。
(d)接着試験
12ヶ月後のモルタル製ボードと塗布されたモルタル層との接着力を建研式引張試験機で測定した。なお、比較例での接着力はモルタル層間の接着力である。
【0032】
比較例1および比較例2
各実施例で用いたモルタル製ボードを使用することなく、壁躯体となるアクリル板の表面に従来工法で、比較例1はラス網の上から3回塗布で、比較例2は3回の塗布でネットを伏込みながら塗布した。上記アクリル板を取り外して試験片とした。
得られた外壁構造体の試験片を用いて実施例1と同一の方法で評価をした。結果を表1に併記する。
【0033】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の外壁構造の施工方法は、1回の塗工ですむため施工が容易であり施工後の表面モルタル層に剥離や亀裂の生じることのない、耐久性に優れた外壁構造が得られるので、建築物の外壁に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 外壁構造
2 壁躯体
3 モルタル製ボード
4、5 ラス網
6 綴針
7 モルタル層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8