(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679170
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】衛星信号受信機
(51)【国際特許分類】
G01S 19/30 20100101AFI20150212BHJP
G01S 19/37 20100101ALI20150212BHJP
【FI】
G01S19/30
G01S19/37
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-238328(P2010-238328)
(22)【出願日】2010年10月25日
(65)【公開番号】特開2012-93106(P2012-93106A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】由井 勝男
【審査官】
堀 圭史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−235762(JP,A)
【文献】
特開2008−111684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00−14,19/00−55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航法衛星からの衛星信号を捕捉するための衛星信号受信機において、
安定追尾が行われ周波数変化が所定値以下の場合に、当該衛星の周波数変化を演算する周波数変化演算器と、
安定追尾が行われている場合に、前記周波数変化演算器による周波数変化だけ前回周波数を更新した周波数と、現在の追尾周波数との差分をフィルタリングすることで、現在周波数を推定する周波数推定演算器と、
信号が中断された場合に、前記周波数変化演算器および前記周波数推定演算器の演算結果に基づいて、中断中の周波数を予測する周波数予測演算器と、
複数の周波数候補を発生可能な周波数変換装置と、
複数のコード位相候補を発生可能な衛星信号発生器と、
前記周波数変換装置による周波数信号と前記衛星信号発生器によるコード位相との相関を、相関時間を長くして高感度に行う相関器と、
前記周波数変換装置で複数の周波数を発生させるか、前記衛星信号発生器で複数のコード位相を発生させるかを選択する選択手段と、
前記選択手段で複数のコード位相を発生させることが選択された場合には、前記周波数予測演算器による周波数を前記周波数変換装置への基準周波数とし、前記選択手段で複数の周波数を発生させることが選択された場合には、追尾周波数を前記周波数変換装置への基準周波数とする周波数発生器と、
を有する高感度サーチ追尾部を、複数チャンネル分備えることを特徴とする衛星信号受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、携帯電話機等の移動端末に内蔵され、あるいは自動車等の移動体に設置されて用いられ、GPS(Global Positioning System)等の航法衛星からの衛星信号を捕捉するための衛星信号受信機に関し、特に、信号レベルが極めて弱い衛星信号を効果的に再捕捉することが可能な衛星信号受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーナビゲーション等のGPSを利用した装置が広く用いられてきている。GPS衛星からの衛星信号は、所定の周波数の搬送波がBPSK(二位相偏移変調:Binary Phase−Shift Keying)に変調され、さらに、衛星毎に定められたスペクトラム拡散符号によりスペクトラム拡散された信号上に、送信時刻や詳細軌道情報等を示すデータを含んでいる。このような信号を追尾するには、搬送波と同じ周波数にて、スペクトラム拡散された信号と同じコード位相にする必要がある。
【0003】
すなわち、
図4に示すように、衛星信号受信機は、各衛星の周波数に同期するための回路と、コード位相誤差を検出しコード位相に同期するための回路とを含む基本追尾部を、追尾可能なチャンネル数分だけ保有している。ここで、図中、符号101、102−1〜102−3は、2信号の乗算器である。また、図中の衛星信号を得るには、衛星信号受信アンテナおよびOCXO(恒温槽付水晶発振器:Oven Controlled Xtal Oscillator)を含むRFコンバータなどが必要であるが、図示を省略している。同様に、周波数同期などを行うには、90度位相が異なる2つのローカル信号との相関がすべての相関演算で必要であるが、図示を省略している。
【0004】
また、衛星信号受信機においてコード位相誤差に関しては、
図4に示すように、E−L相関値を用いたDLL(コード追尾制御ループ:Delay Lock Loop)制御にて、コード同期が行われる。すなわち、追尾点であるP(Punctual)位相より位相の進んでいるE(Early)信号と、P位相より位相が遅れているL(Late)信号との差を示すE−Lがゼロとなるように制御する。しかしながら、追尾時以外では、E−L相関値は利用されず無意味であるため、再サーチ時には、追尾回路のみでも信号サーチが可能なように、スイッチ103を切り替えることで、P相関値、L相関値が出力できるようになっている。なお、E相関値を出力しないのは、受信機内部のハードウエアの小型化のためであり、サーチ専用部が別途存在するためである。
【0005】
上記のような基本追尾部のみでは、信号レベルが極めて弱い衛星信号を正しく追尾することができない。このため、基本追尾部で追尾している周波数近傍の周波数に関しても相関を行い、現在の追尾周波数を補正する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術は、
図5に示すような高感度周波数誤差測定部を各チャンネル数分だけ保有している。この高感度周波数誤差測定部は、コード位相については、基本追尾部と同じP信号のみであるが、周波数については、周波数変換装置および相関器111−1〜111−kにより、k候補分の周波数に対して同時に相関を行い、周波数ずれの検出を可能にしている。しかしながら、この測定部は、サーチ時には全く使用されず、サーチにおいては効率的とはなっていない。
【0006】
ここで、図中、符号112−1〜112−kは、2信号の乗算器であり、「M回NC加算器」は、M回のノンコヒーレント加算器を意味する。また、周波数ずれを正しく検出するために、GPS衛星の場合には、エッジ反転がない20msの間コヒーレント加算し、さらにM回のノンコヒーレント加算した後の相関値を比較している。
【0007】
また、最近では、最小限のハードウエアで高感度かつ高速に信号を捕捉するために、
図6に示すような高感度サーチ部を1チャンネル分だけ保有し、時分割で複数の衛星をサーチすることが行われている。この高感度サーチ部は、例えばGPSの場合、衛星信号候補数r=1023×2であり、全コード位相候補が同時に相関でき、サーチ候補選別器において、演算結果をパワー順に並べて、最も高いパワーから複数個の候補を選別・抽出する。また、周波数の引き込みも早くするために、周波数スキャンも同時に行えるように、FFT相関演算も行い、再サーチのように予測周波数誤差が1kHz未満であれば、周波数範囲の全域を同時に相関できるようになっている。ここで、図中、符号121、122−1〜112−rは、2信号の乗算器であり、符号C1〜Crは、衛星信号発生器からのコード信号(サーチ用)である。
【0008】
このような高感度サーチ部を利用した場合、信号レベルが十分強い場合には、個々の衛星のサーチ時間が短いため、複数のチャンネルを時分割で行っても、時間的な問題が生じない。また、この高感度サーチ部において、候補数rを数十程度に少なくし、さらに、Nms相関演算器の相関結果のみを用いることで、再サーチを高速化する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−111684号公報
【特許文献2】特開2000−252864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、1チャンネル分だけの高感度サーチ部を利用した再サーチでは、信号レベルが極めて弱い衛星が多い場合、個々の衛星のサーチ時間が数秒以上と長くなり、複数の衛星をサーチすると、サーチ時間が数十秒と長くなる、という問題が生じる。そこで、基本追尾部の再サーチ用のP相関値およびL相関値を用いて並行サーチすることも行われているが、中断時間が長くなった場合、コード位相のサーチ範囲が広くなり、1つのP相関値、L相関値では、サーチすることができない。このため、時分割によってサーチ範囲を広げることも行われるが、時間的に同時ではないため、誤捕捉・誤サーチする場合もあり、さらに、サーチ時間も長くなる。
【0011】
また、上記特許文献2の技術では、信号積算(コヒーレント加算)のみで高感度化されていないため、信号レベルが極めて弱い衛星信号を再捕捉することはできないが、上記
図5に示すように、相関部分を変更することで、高感度化は可能である。しかしながら、高感度化させた場合であっても、信号中断時の周波数を予測しないため、瞬断のように周波数が殆ど変わらない場合にしか、有効でない、という問題が残る。
【0012】
そこでこの発明は、信号レベルが極めて弱い衛星信号を効果的・効率的に再捕捉することが可能な衛星信号受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この発明は、航法衛星からの衛星信号を捕捉するための衛星信号受信機において、
安定追尾が行われ周波数変化が所定値以下の場合に、当該衛星の周波数変化を演算する周波数変化演算器と、
安定追尾が行われている場合に、前記周波数変化演算器による周波数変化だけ前回周波数を更新した周波数と、現在の追尾周波数との差分をフィルタリングすることで、現在周波数を推定する周波数推定演算器と、
信号が中断された場合に、前記周波数変化演算器および前記周波数推定演算器の演算結果に基づいて、
中断中の周波数を予測する周波数予測演算器と、
複数の周波数候補を発生可能な周波数変換装置と、
複数のコード位相候補を発生可能な衛星信号発生器と、
前記周波数変換装置による周波数信号と前記衛星信号発生器によるコード位相との相関を、相関時間を長くして高感度に行う相関器と、
前記周波数変換装置で複数の周波数を発生させるか、前記衛星信号発生器で複数のコード位相を発生させるかを選択する選択手段と、
前記選択手段で複数のコード位相を発生させることが選択された場合には、前記周波数予測演算器による周波数を前記周波数変換装置への基準周波数とし、前記選択手段で複数の周波数を発生させることが選択された場合には、追尾周波数を前記周波数変換装置への基準周波数とする周波数発生器と、
を有する高感度サーチ追尾部を、複数チャンネル分備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、各チャンネル(衛星)において、安定追尾が行われ周波数変化が所定値以下の場合には、周波数変化演算器によって当該衛星の周波数変化が演算されるとともに、周波数推定演算器によって周波数変化と現在の追尾周波数とに基づく現在周波数が推定される。そして、追尾中には、周波数変換装置で複数の周波数を発生させることが、選択手段によって選択され、周波数発生器によって追尾周波数が周波数変換装置への基準周波数とされ、この基準周波数に基づいて周波数変換装置から複数の周波数候補が発生される。一方、信号が中断されると、周波数変化演算器と周波数推定演算器の演算結果に基づいて周波数予測演算器によって中断時の周波数が予測されるとともに、衛星信号発生器で複数のコード位相を発生させることが、選択手段によって選択される。そして、周波数発生器によって周波数予測演算器による周波数が周波数変換装置への基準周波数とされ、この基準周波数が周波数変換装置から出力される。続いて、周波数変換装置による周波数信号と衛星信号発生器によるコード位相との相関が、相関器によって行われる。
【発明の効果】
【0015】
このような発明によれば、信号が中断された再サーチ時には、周波数変化と現在周波数とに基づいて予測された、最も可能性が高い予測周波数に基づいて、追尾回路で複数のコード位相を同時に並行サーチするため、信号レベルが極めて弱い衛星信号の再補足を、極めて効果的に行うことが可能となる。しかも、このような高感度サーチ追尾部を複数チャンネル備えるため、複数の衛星に対して短時間に再補足を行うことが可能となる。また、従来は追尾時のみにしか使われなかった高感度周波数誤差測定部の一部を拡張するのみで、高感度サーチ追尾部を構築することができるため、ハードウエアの増加を最小限に抑えながら、サーチ時にも高感度周波数誤差測定部を有効的に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の実施の形態に係る衛星信号受信機を示す構成ブロック図である。
【
図2】この発明の実施の形態における周波数予測の概念を説明するための図である。
【
図3】
図1の衛星信号受信機の周波数推定演算器で周波数変化を考慮しない場合(a)と考慮した場合(b)の現在周波数の推定結果を示す図である。
【
図4】従来の基本追尾部を示す構成ブロック図である。
【
図5】従来の高感度周波数誤差測定部を示す構成ブロック図である。
【
図6】従来の高感度サーチ部を示す構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0018】
図1は、この発明の実施の形態に係る衛星信号受信機を示す構成ブロック図である。この衛星信号受信機は、航法衛星からの衛星信号を捕捉するための受信機であり、従来の基本追尾部(
図4)および高感度サーチ部(
図6)のほかに、高感度サーチ追尾部1を複数チャンネル分、すなわち全衛星数分(全追尾チャンネル分)備えている。ここで、図中の衛星信号を得るには、衛星信号受信アンテナおよびOCXOを含むRFコンバータなどが必要であるが、図示を省略している。同様に、周波数同期などを行うには、90度位相が異なる2つのローカル信号との相関が、すべての相関演算で必要であるが、図示を省略している。
【0019】
各高感度サーチ追尾部1は、主として、周波数変化推定演算器(周波数変化演算器)21と、周波数推定演算器22と、周波数予測演算器23と、周波数変換装置31と、周波数発生器32と、衛星信号発生器4と、20ms相関演算器(相関器)51と、M回NC加算器(相関器)52と、CPU(判断、選択手段)6とを備えている。
【0020】
CPU6は、例えば、追尾中の衛星の信号レベル観測値が所定閾値以上であれば動作モードを追尾モードに設定し、閾値未満であれば動作モードを再サーチモードに設定する。そして、そのモードに基づいて、相関結果(M回NC加算器出力52−1〜52−k)を処理して、追尾または再サーチを行う。その処理については、従来と同等なため、説明を省略する。
【0021】
周波数変化推定演算器21は、動作モードが追尾モードの時(安定追尾が行われ周波数変化が所定値以下の場合)に、当該衛星の周波数変化を演算する演算器である。すなわち、
図2に加減速区間として示したように追尾周波数の変化が大きい場合を除いて、ほぼ一定速度とみなせる状態において、周波数変化を観測し、それをLPF(Low Pass Filter)して周波数変化を演算・推定する。具体的には、単位時間(例えば、1秒)あたりの周波数変化量Fr0を演算する。
【0022】
周波数推定演算器22は、動作モードが追尾モードの時(安定追尾が行われている場合)に、周波数変化推定演算器21で演算された周波数変化だけ前回周波数を更新した周波数と、現在の追尾周波数との差分をLPF演算(フィルタリング)することで、現在周波数を推定する演算器である。具体的には、まず、次式によって現在周波数予測値を演算する。
【0023】
現在周波数予測値=前回周波数(決定値)+周波数変化
次に、次式によって推定現在周波数Fn0をLPF演算する。
現在周波数=現在周波数予測値
+LPF係数×(周波数観測値−現在周波数予測値)
(周波数観測値=追尾周波数)
【0024】
このように、LPF演算する前に現在周波数予測値を演算しているのは、次の理由による。すなわち、単にLPF演算したのみでは、
図3(a)に示すように、LPF時定数分だけ演算結果である現在周波数に遅れが生じるのに対して、予め周波数変化を加算することで、
図3(b)に示すように、現在周波数に遅れが生じないためである。
【0025】
周波数予測演算器23は、動作モードが追尾モードの時(信号が中断していない状態)では、周波数変化推定演算器21からの周波数変化量Fr0および周波数推定演算器22からの推定現在周波数Fn0を記憶する。一方、動作モードが再サーチモードの時(信号が中断された場合)には、記憶された周波数変化量Fr0および推定現在周波数Fn0に基づいて、中断時の周波数を予測する。すなわち、単位時間あたり周波数変化量Fr0だけ推定現在周波数Fn0を更新、積算して、予測周波数Fp0を演算する。これにより、信号が中断して周波数推定演算器22による周波数推定が行われない場合でも、中断前(直前)の推定現在周波数Fn0および周波数変化量Fr0に基づいて、中断中の予測周波数Fp0が推定される。このような予測周波数Fp0は、信号中断中に
図2に示すような加減速があった場合には、適正値とは言えない。しかしながら、本衛星信号受信機が搭載された移動端末などは、ほぼ等速運動している場合が殆どであるため、この予測周波数Fp0が、中断時の周波数として最も可能性が高い周波数であると言える。
【0026】
周波数変換装置31は、複数の周波数候補を発生可能な装置であり、動作モードが追尾モードの時には、周波数発生器32からの基準周波数f0に基づいて、複数の周波数f1、f2、・・・fkを生成する。そして、生成された各周波数f1、f2、・・・fkと衛星信号とは、2信号の乗算器71−1、71−2、・・・71−kで乗算・相関される。一方、動作モードが再サーチモードの時には、基準周波数f0をそのまま出力する。
【0027】
周波数発生器32は、周波数変換装置31に対して基準周波数f0を出力するものである。具体的には、動作モードが再サーチモードの時(CPU6で複数のコード位相を発生させることが選択された場合)には、周波数予測演算器23による予測周波数Fp0を基準周波数f0として出力する。一方、動作モードが追尾モードの時(CPU6で複数の周波数を発生させることが選択された場合)、追尾周波数F0を基準周波数f0として出力する。
【0028】
衛星信号発生器4は、複数のコード位相候補を発生可能な機器であり、動作モードが追尾モードの時には、CPU6からの追尾コード位相C0をそのまま出力する。一方、動作モードが再サーチモードの時には、後述するCPU6からの指示により、CPU6からの追尾コード位相C0に基づいて、複数のコード位相候補C1、C2、・・・Ckを生成する。具体的には、中断前のコードチップに、中断前のコード周波数分の時間補正を行った値などである、コードチップ予測値がCPU6から送られ、このコードチップ予測値の近傍の数チップが同時にサーチできるように、コード位相候補C1、C2、・・・Ckを決定して出力する。そして、生成された各コード位相候補C1、C2、・・・Ckと、各乗算器71−1、71−2、・・・71−kによる演算結果とは、2信号の乗算器72−1、72−2、・・・72−kで乗算・相関される。
【0029】
20ms相関演算器51とM回NC加算器52とは、周波数変換装置31による周波数信号と衛星信号発生器4によるコード位相との相関を、相関時間を長くして高感度に行う相関器・演算器である。すなわち、相関を高感度に行うためには、相関時間を長くする必要があり、20ms相関演算器51では、コヒーレント時間を長くするために、GPSの信号仕様の都合上最長である20msをコヒーレント時間として、コヒーレント加算を行う。つまり、I(搬送波正位相)相関信号とQ(搬送波90°移相)相関信号とを、それぞれそのまま加算する。また、M回NC加算器52では、ノンコヒーレント回数を増やすために、できるだけ多数であるM回のノンコヒーレント加算(信号パワーP=I×I+Q×Qの累積加算)を行う。
【0030】
CPU6は、後述するようにして追尾および再サーチを行うとともに、周波数変換装置31で複数の周波数を発生させるか、衛星信号発生器4で複数のコード位相を発生させるかを選択する。すなわち、追尾時には、周波数変換装置31から複数の周波数f1、f2、・・・fkを生成させ、衛星信号発生器4からは追尾コード位相C0のみを出力させる。一方、再サーチ時には、周波数変換装置31からは基準周波数f0をそのまま出力させ、衛星信号発生器4から複数のコード位相候補C1、C2、・・・Ckを生成させる。
【0031】
同様に、CPU6は、追尾時と再サーチ時との切り替え時に、周波数予測演算器23および周波数発生器32に対して動作モードの変更指示を送る。これにより、後述するように、周波数予測演算器23において周波数変化量Fr0等の記憶や予測周波数Fp0の演算が行われ、周波数発生器32において出力する基準周波数f0の変更が行われる。
【0032】
次に、このような構成の衛星信号受信機の作用などについて説明する。
【0033】
まず、信号レベルが所定値以上である追尾時には、各高感度サーチ追尾部1に対してCPU6は、動作モードを追尾モードに設定する。これにより、周波数予測演算器23において上記の周波数変化量Fr0および推定現在周波数Fn0が記憶され、周波数発生器32から周波数変換装置31に追尾周波数F0が基準周波数f0として出力される。同時に、周波数変換装置31から複数の周波数f1、f2、・・・fkが生成されるとともに、衛星信号発生器4から追尾コード位相C0が出力される。そして、各高感度サーチ追尾部1において、従来の高感度周波数誤差測定部(
図5)と同様な動作により、信号追尾が行われる。
【0034】
次に、信号レベルが所定値未満である場合、各高感度サーチ追尾部1に対して、CPU6は、動作モードを再サーチモードに設定する。これにより、周波数予測演算器23において、上記のようにして、最も可能性が高い予測周波数Fp0が演算され、これを受けて、周波数発生器32から周波数変換装置31に予測周波数Fp0が基準周波数f0として出力される。同時に、衛星信号発生器4から複数のコード位相候補C1、C2、・・・Ckが生成されるとともに、周波数変換装置31からは、基準周波数f0(予測周波数Fp0)が出力される。
【0035】
そして、各20ms相関演算器51およびM回NC加算器52において、各コード位相候補C1、C2、・・・Ckに対する相関が高感度に行われ、CPU6において、これらの演算結果をパワー順に並べて、最も高いパワーから候補を選別・抽出することで、信号が再捕捉される。
【0036】
以上のように、この衛星信号受信機によれば、最も可能性が高い予測周波数Fp0に基づいて、複数のコード位相候補C1、C2、・・・Ckを同時に並行サーチし、しかも、20ms相関演算器51およびM回NC加算器52において高感度な相関が行われる。このため、信号レベルが極めて弱い衛星信号の再補足を、極めて効果的に行うことが可能となる。すなわち、高感度化のためには、上記のように20ms相関演算器51が必要であるが、コヒーレント加算のため、周波数ずれの影響を受けやすく、周波数のずれがあると、SN比が劣化して再サーチ性能が劣ってしまう。このため、周波数変化推定演算器21、周波数推定演算器22および周波数予測演算器23によって、最も可能性が高い予測周波数Fp0を演算し、この予測周波数Fp0に基づいて並行サーチすることで、信号レベルが極めて弱い衛星信号を再補足することが可能となる。
【0037】
また、上記のように、予測周波数Fp0の推定精度が高いため、数十秒以上の長い信号中断時であっても、信号レベルが極めて弱い衛星信号を極めて効果的に再補足することが可能となる。しかも、このような高感度サーチ追尾部1を全衛星数分備えるため、すべての衛星に対して短時間に再補足を行うことが可能となる。すなわち、従来のようにサーチ回路を1回路しか備えない場合、信号レベルが極めて弱い衛星が複数存在すると、全衛星のサーチに長時間を要するのに対して、全追尾チャンネルで同時にサーチすることで、全衛星を短時間にサーチすることができる。さらに、従来の高感度周波数誤差測定部の一部を拡張するのみで、高感度サーチ追尾部1を構築することができるため、ハードウエアの増加を最小限に抑えながら、サーチ時にも高感度周波数誤差測定部を有効的に活用することができる。
【0038】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、高感度サーチ追尾部1を全衛星数分備えているが、衛星信号受信機の可型化などのために、全衛星数よりも少ない数だけ高感度サーチ追尾部1を備えてもよい。例えば、可視衛星が8つで、3つの衛星の信号レベルが強く、残りの5つの衛星の信号レベルが弱い場合には、5チャンネル分の高感度サーチ追尾部1を備えればよい。また、測位していない場合、エフェメリスデータが得られていない場合などを考慮して、追尾周波数に基づいて周波数予測を行っているが、測位部によってより正確な予測周波数が得られている場合には、この周波数および周波数変化を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上では、GPSを例として説明しているが、この発明は、測位システムGNSS(Global Navigation Satellite System)全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 高感度サーチ追尾部
21 周波数変化推定演算器(周波数変化演算器)
22 周波数推定演算器
23 周波数予測演算器
31 周波数変換装置
32 周波数発生器
4 衛星信号発生器
51 20ms相関演算器(相関器)
52 M回NC加算器(相関器)
6 CPU(選択手段)
71、72 2信号の乗算器
Fn0 推定現在周波数
Fr0 周波数変化量
Fp0 予測周波数
F0 追尾周波数
f0 基準周波数
C0 追尾コード位相
f1、f2、・・・fk 周波数候補
C1、C2、・・・Ck コード位相候補