特許第5679181号(P5679181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679181
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】筒型電池用ガスケット、筒型電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/08 20060101AFI20150212BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20150212BHJP
【FI】
   H01M2/08 C
   H01M2/12 101
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-4416(P2011-4416)
(22)【出願日】2011年1月12日
(65)【公開番号】特開2011-192636(P2011-192636A)
(43)【公開日】2011年9月29日
【審査請求日】2013年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-36716(P2010-36716)
(32)【優先日】2010年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503025395
【氏名又は名称】FDKエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 龍也
(72)【発明者】
【氏名】村上 秀二
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀典
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−509632(JP,A)
【文献】 特開2007−048730(JP,A)
【文献】 特開2006−202637(JP,A)
【文献】 特開2009−224342(JP,A)
【文献】 特開2009−295401(JP,A)
【文献】 特開2000−003698(JP,A)
【文献】 特開2011−249168(JP,A)
【文献】 特開2010−232071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/08、2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池缶の開口部を封口するために設けられる筒型電池用ガスケットであって、
負極集電子が挿通される孔を有するボス部と、
前記電池缶の封口時に前記開口部の内周面に接触した状態で固定される缶接触部と、
前記ボス部と前記缶接触部とを連結すべく前記ボス部の外周面から径方向に延びるように設けられた円盤状部と、
屈曲した形状を有し、前記電池缶の封口時にてガスケット径方向の変形を吸収すべく前記円盤状部の途中に設けられた応力緩衝部と
を備え、
前記応力緩衝部は、前記電池缶の内側に凸形状となるように鋭角的に屈曲した第1の屈曲部と、前記第1の屈曲部よりもガスケット外周側に位置し、前記電池缶の内側に凹形状となるように鋭角的に屈曲した第2の屈曲部とを有し、前記電池缶への装着時に正極合剤よりも電池缶中心側となる領域に設けられており、
前記応力緩衝部において前記第1の屈曲部と前記第2の屈曲部とをつなぐ部位は補強部として定義され、前記補強部の厚さは、前記第1の屈曲部よりもガスケット中心側の位置における第1の厚さ及び前記第2の屈曲部よりもガスケット外周側の位置における第2の厚さに比べて大きい
ことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【請求項2】
前記電池缶への装着時において、前記第2の屈曲部の凹側には、セパレータの開口端が当接した状態で配置されることを特徴とする請求項に記載の筒型電池用ガスケット。
【請求項3】
前記補強部の厚さは、前記第1の厚さ及び前記第2の厚さのうち値の小さいものの1.20倍以上2.13倍以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の筒型電池用ガスケット。
【請求項4】
前記ボス部と前記円盤状部との連結部分には、破断誘起用の環状薄肉部が設置され、
前記ボス部において前記環状薄肉部が連結されている部位を第1部位とし、前記第1部位よりも前記電池缶の開口部側に設けられた小径の部位を第2部位としたとき、前記第1部位の外径に対する前記第2部位の外径の比率が0.63倍以上0.90倍以下である
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の筒型電池用ガスケット。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の筒型電池用ガスケットを備えたことを特徴とする筒型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池缶の開口部を封口するための筒型電池用ガスケット及びそれを備えた筒型電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、筒型アルカリ電池は、有底筒状の正極缶と、その正極缶内に収納されるリング状の正極合剤と、正極缶の中心部に配置されるゲル状負極合剤と、正極合剤とゲル状負極合剤との間に介在される有底筒状のセパレータと、正極缶の開口部に装着される集電体とを備えている。集電体は、負極端子板、負極集電子、及び封口ガスケットを含んで構成されている。負極端子板は、封口ガスケットを介して正極缶の開口部を封止している。
【0003】
図6は、筒型アルカリ電池に用いられる封口ガスケット40の従来例を示している。図3に示されるように、封口ガスケット40は、ボス部42、缶接触部43、円盤状部44、破断誘起用の環状薄肉部45を備えている。ボス部42は、負極集電子が挿通される中央孔41を有している。缶接触部43は、電池缶の内周面に接触した状態で固定されている。円盤状部44は、ボス部42と缶接触部43とを連結すべく、ボス部42の外周面から径方向に延びるように設けられている。破断誘起用の環状薄肉部45は、ボス部42と円盤状部44との連結部分において環状に設けられている。アルカリ電池内でのガスの発生により内圧が高まった場合には、その圧力上昇により封口ガスケット40の環状薄肉部45を破断させてガスを外部に放出する。この結果、アルカリ電池の破裂が防止される。
【0004】
また、封口ガスケット40の円盤状部44において、外周側の缶接触部43寄りの位置には、応力緩衝部47が形成されている。応力緩衝部47は、ガスケット40の裏面側(図6では下側)に突出するように屈曲した形状を有する。この応力緩衝部47は、正極缶の開口部を封口する際に径方向に変形して、環状薄肉部45に加わる応力を吸収する役割を果たす。従って、応力緩衝部47は、応力吸収を行うために撓やかに形成する必要があり、板厚が薄く設定されている。なお、このような構成の封口ガスケット40は、例えば特許文献1に開示されている。また、図6の封口ガスケット40において、応力緩衝部47はコ字状に屈曲した断面形状を有する。このほか、S字状に屈曲した断面形状を有するガスケットも従来存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−80574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルカリ電池において、封口ガスケット40の外側(図6では上側)には、負極端子板などの他の部品が設けられている。このため、従来の封口ガスケット40において、応力緩衝部47は、電池の内側(図6では下側)の方向に突出するように設ける必要がある。また、封口時の径方向の変形を確実に吸収するためには、一定の高さ寸法を確保しなければならない。しかしながら、応力緩衝部47を電池の内側方向に延ばすと、以下のような問題が生じる。即ち、従来の封口ガスケット40では、応力緩衝部47は外周側の缶接触部43寄りの位置に設けられている。そのため、応力緩衝部47を長くすると、正極合剤の設置位置と重なってしまう。この場合、応力緩衝部47と接触しないようにサイズの小さな正極合剤を用いる必要があり、このことが正極活物質の容積増加の妨げにつながってしまう。ゆえに、電池の放電性能の向上を妨げる結果となる。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、封口時において径方向に加わる応力を吸収する機能を低下させることなく、電池内容積を十分に確保することができる筒型電池用ガスケットを提供することにある。また、上記筒型電池用ガスケットを用いて電池内容積を確保することにより、放電性能の高い筒型電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段[1]〜[]を以下に列挙する。
【0009】
[1]電池缶の開口部を封口するために設けられる筒型電池用ガスケットであって、負極集電子が挿通される孔を有するボス部と、前記電池缶の封口時に前記開口部の内周面に接触した状態で固定される缶接触部と、前記ボス部と前記缶接触部とを連結すべく前記ボス部の外周面から径方向に延びるように設けられた円盤状部と、屈曲した形状を有し、前記電池缶の封口時にてガスケット径方向の変形を吸収すべく前記円盤状部の途中に設けられた応力緩衝部とを備え、前記応力緩衝部は、前記電池缶の内側に凸形状となるように鋭角的に屈曲した第1の屈曲部と、前記第1の屈曲部よりもガスケット外周側に位置し、前記電池缶の内側に凹形状となるように鋭角的に屈曲した第2の屈曲部とを有し、前記電池缶への装着時に正極合剤よりも電池缶中心側となる領域に設けられており、前記応力緩衝部において前記第1の屈曲部と前記第2の屈曲部とをつなぐ部位は補強部として定義され、前記補強部の厚さは、前記第1の屈曲部よりもガスケット中心側の位置における第1の厚さ及び前記第2の屈曲部よりもガスケット外周側の位置における第2の厚さに比べて大きいことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0010】
従って、手段1に記載の発明によれば、筒型電池用ガスケットにおける応力緩衝部が、鋭角的に屈曲する2つ以上の屈曲部を有した構造となっている。このため、電池缶の封口時には、ガスケット径方向に変形して応力を吸収することができる。また、電池缶への装着時に正極合剤よりも電池缶中心側となる領域に、応力緩衝部が設けられている。このため、従来技術のように缶接触部寄りの位置に応力緩衝部を設ける場合と比較して、正極合剤の収容スペースをより多く確保することができる。
【0012】
また、上記手段1に記載の発明では、応力緩衝部は、第1の屈曲部よりもガスケット外周側に位置する第2の屈曲部が電池缶の内側に凹形状となるように屈曲している。このため、電池缶の封口時に応力緩衝部が変形した場合でも、第2の屈曲部が正極合剤に接触しない。従って、本発明のガスケットを用いれば、電池缶内における正極合剤の収容スペースを従来以上の大きさで確保することができる。また、応力緩衝部は2箇所の屈曲部で形成されており、比較的シンプルな形状となる。さらに、従来技術と比較して応力緩衝部の肉厚を厚くすることで、ガスケット成形時の樹脂流動が安定する。ゆえに、成形上の不具合を低減することができる
ここで、応力緩衝部における2つの屈曲部は撓むことで応力を吸収する。ただし、屈曲部の厚さを厚くしすぎると、屈曲部が撓みにくくなり、応力吸収機能が十分に発揮されなくなるおそれがある。それゆえ、屈曲部を有効に機能させるために、屈曲部の厚さは一定の制約を受けることになる。しかし、内圧が急激に上昇したときには、応力緩衝部の強度不足によって、稀に屈曲部が伸びてしまう。従って、ボス部と円盤状部との連結部分に、例えば安全弁として機能する環状薄肉部を設けた場合、その薄肉部の破断時に隙間が生じたとしても、その隙間が塞がれてしまう可能性がある。その点、上記手段1に記載の発明によれば、応力緩衝部において第1の屈曲部と第2の屈曲部とをつなぐ部位が補強されているため、内圧が急激に上昇したときでも屈曲部が伸びにくい。よって、薄肉部の破断時に生じる隙間が塞がれにくく、内圧を確実に解放することができる。
【0013】
]手段において、前記電池缶への装着時において、前記第2の屈曲部の凹側には、セパレータの開口端が当接した状態で配置されることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0014】
従って、手段に記載の発明によれば、電池缶への装着時において、第2の屈曲部の凹側にセパレータの開口端が確実に固定される。よって、ガスケットとセパレータとがずれにくくなり、セパレータ内のゲル状の負極合剤が外側に漏れることを防止することができる。
【0017】
]手段1または2において、前記補強部の厚さは、前記第1の厚さ及び前記第2の厚さのうち値の小さいものの1.20倍以上2.13倍以下であることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0018】
従って、手段に記載の発明によれば、前記補強部の厚さを上記の好適範囲に設定しているため、安全弁作動圧の規格を満たしつつ、内圧の急激な上昇時における電池の破裂を確実に防止することができる。
【0019】
]手段1乃至のいずれか1項において、前記ボス部と前記円盤状部との連結部分には、破断誘起用の環状薄肉部が設置され、前記ボス部において前記環状薄肉部が連結されている部位を第1部位とし、前記第1部位よりも前記電池缶の開口部側に設けられた小径の部位を第2部位としたとき、前記第1部位の外径に対する前記第2部位の外径の比率が0.63倍以上0.90倍以下であることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0020】
内圧の急激な上昇時に破断誘起用の環状薄肉部が破断する(即ち安全弁が作動する)と、正極合剤や負極合剤などといった電池内容物を伴ってガスが開放される。しかし、ボス部の外径がどの部位においても均等であると、環状薄肉部の破断により生じる隙間(即ちガス抜き経路)が狭くなる。この場合、その隙間に内容物が詰まって塞いでしまう可能性が高くなる。その点、手段に記載の発明によれば、ボス部において環状薄肉部が連結されている部位(即ち第1部位)よりも、電池缶の開口部側に設けられた部位(即ち第2部位)を適度に小径としている。そのため、環状薄肉部の破断により生じる隙間が比較的大きくなり、電池内容物による隙間の詰まりが起こりにくい。ゆえに、内圧を確実に解放することができ、電池の破裂を確実に防止することができる。また、第1部位の外径に対する第2部位の外径の比率を所定範囲に設定しているため、ボス部の強度低下を伴うことなく安定した内圧解放を実現することができる。
【0021】
]手段1乃至のいずれかに記載の筒型電池用ガスケットを備えたことを特徴とする筒型電池。
【0022】
従って、手段に記載の発明によれば、上記の好適な形状のガスケットを使用することにより、電池内容積を増やすことができる。このため、放電性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上詳述したように、手段1〜に記載の発明によると、封口時において径方向に加わる応力を吸収する機能を低下させることなく、電池内容積を従来よりも多く確保することができる筒型電池用ガスケットを提供することができる。また、手段に記載の発明によると、電池内容積を確保することにより、放電性能の高い筒型電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態のアルカリ電池の概略構成を示す断面図。
図2】一実施形態の封口ガスケットを示す断面図。
図3】別の実施形態のアルカリ電池の概略構成を示す部分断面図。
図4】別の実施形態の形態の封口ガスケットを示す断面図。
図5図4の封口ガスケットの要部を示す拡大断面図。
図6】従来の封口ガスケットを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態におけるアルカリ電池10(筒型電池)の概略構成を示す断面図である。なお、本実施の形態のアルカリ電池10は、LR6タイプ(単3形)の電池である。
【0026】
図1に示されるように、アルカリ電池10は、有底筒状の正極缶11(電池缶)と、その正極缶11の内面に沿って嵌着されたリング状の正極合剤12と、正極合剤12の内側に挿入される有底筒状のセパレータ13と、正極缶11の中心部となるセパレータ13の中空部に配置されるゲル状負極合剤14と、正極缶11の開口部11aに装着される集電体16とを備える。
【0027】
正極缶11は、ニッケルメッキ鋼板を有底筒状にプレス成形することで作製され、その底部の中央に正極端子18が突設されている。また、正極合剤12は、電解二酸化マンガン、黒鉛、水酸化カリウム、及びバインダーを混合した正極合剤粉を整粒した後、円筒状にプレス成形することで作製される。
【0028】
セパレータ13は、ビニロン・レーヨン不織布やポリオレフィン・レーヨン不織布などのセパレータ原紙を円筒状に巻回し、重なり合う部分を熱融着させることで作製される。
【0029】
ゲル状負極合剤14は、水と酸化亜鉛と水酸化カリウムとを混ぜて溶解し、ポリアクリル酸などのゲル化剤と亜鉛粉とを混合することで作製される。
【0030】
集電体16は、負極端子板21、負極集電子22、及び封口ガスケット23(筒型電池用ガスケット)を含んで構成されている。正極缶11の開口部11a付近には、集電体16を載置するためのビード部24が形成されている。そして、そのビード部24上に集電体16を載置した状態で、正極缶11の開口部11aにカール及び絞り加工を施すことにより、正極缶11が封口されている。つまり、本実施の形態において、正極缶11は、開口部11aを径方向(横方向)に収縮させてかしめること(横締め方式)により封口されている。
【0031】
集電体16は、真鍮を用いて棒状に形成された負極集電子22をその基端側の頭部で負極端子板21に抵抗溶接するとともに、負極集電子22の首部に封口ガスケット23を嵌着することで、形成されている。そして、負極集電子22の先端側がゲル状負極合剤14に挿入されている。
【0032】
負極端子板21は、正極缶11と同じくニッケルメッキ鋼板をプレス成形することで作製され、封口ガスケット23を介して正極缶11の開口部11aを封口している。封口ガスケット23は、樹脂材料を用いて射出成形された樹脂成形品である。封口ガスケット23の形成材料としては、6,12ナイロン樹脂、6,10ナイロン樹脂、6,6ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂が好適である。
【0033】
図1及び図2に示されるように、封口ガスケット23は、ボス部32、缶接触部33、円盤状部34、破断誘起用の環状薄肉部35、応力緩衝部37を備えている。また、ボス部32、缶接触部33、円盤状部34、環状薄肉部35及び応力緩衝部37は、同心状に一体形成されている。ボス部32は、負極集電子22が挿通される中央孔31を有している。缶接触部33は、正極缶11の内周面に接触した状態で固定される部分である。円盤状部34は、ボス部32と缶接触部33とを連結すべく、ボス部32の外周面から径方向に延びるように設けられている。破断誘起用の環状薄肉部35は、ボス部32と円盤状部34との連結部分において環状に設けられている。応力緩衝部37は、円盤状部34の途中に設けられ、屈曲した形状を有している。
【0034】
ボス部32は略円筒状に形成されている。本実施の形態では、ボス部32における中央孔31の内径は1.25mmである。缶接触部33は、上側に延びるよう形成されたリング状の外周部であって、正極缶11の封口時に正極缶11の内周面に接触する外周面33aを有している。
【0035】
環状薄肉部35は、円盤状部34における下面側(正極缶11の内面側)を凹ませた形状であり、本実施の形態ではその厚さが0.13mm〜0.20mmとなるよう薄く形成されている。環状薄肉部35は、正極缶11内にてガスが発生したときにそのガスの圧力で破断して外部にガスを逃がすための安全弁として機能する。本実施の形態では、ボス部32の外周面と円盤状部34との連結部分において、正極缶11の内側となる面(図2では円盤状部34の下面)と正極缶中心軸線とのなす角度が鋭角である。
【0036】
円盤状部34において、正極合剤12と対応する外周側の部分には、缶接触部33の内面33bと直交する平坦面34aが形成されている。そして、円盤状部34においてその平坦面34aよりも正極缶中心側の位置に応力緩衝部37が設けられている。
【0037】
応力緩衝部37は、正極缶11の封口時にてガスケット径方向の変形を吸収する部位であり、正極缶11への装着時に正極合剤12(セパレータ13の設置箇所)よりも正極缶中心側となる領域に設けられている。本実施の形態の応力緩衝部37は、鋭角的に屈曲する2つの屈曲部37a,37bを有している。正極缶中心側に位置する第1の屈曲部37aは正極缶11の内側に凸形状となるよう屈曲し、第1の屈曲部37aよりもガスケット外周側に位置する第2の屈曲部37bは正極缶11の内側に凹形状となるよう屈曲している。そして、応力緩衝部37の第2の屈曲部37bにおける凹側には、セパレータ13の開口端が当接した状態で配置されている。
【0038】
応力緩衝部37の厚さは、円盤状部34における最大肉厚部の厚さの70%以上100%未満であり、従来技術の応力緩衝部47(図3参照)と比較して厚く形成されている。また、応力緩衝部37における第1の屈曲部37aの凹側の角度θ1は88°であり、第2の屈曲部37bの凹側の角度θ2は62°である。つまり、本実施の形態では、第1の屈曲部37aの凹側の角度θ1が第2の屈曲部37bの凹側の角度θ2よりも大きくなるよう応力緩衝部37が形成されている。なお、応力緩衝部37における各屈曲部37a,37bの凹側の角度θ1,θ2は適宜変更してもよい。ただし、封口時の応力吸収を確実に行うためには、ともに60°〜89°の範囲内とすることが好ましい。
【0039】
上記のように形成した封口ガスケット23を用いると、電池内容積を増やすことができる。具体的には、本実施の形態において封口ガスケット23の外表面で囲まれた空間の体積は0.38cmとなり、図3に示す従来の封口ガスケット40(同体積0.43cm)に比べて13%小さくなり、この体積の減少分だけ電池内容積を増大させることができた。
【0040】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0041】
(1)本実施の形態のアルカリ電池10において、封口ガスケット23の応力緩衝部37は、鋭角的に屈曲する2つの屈曲部37a,37bを有している。このようにすると、狭いスペースで応力緩衝部37を形成することができ、正極缶11の封口時にてガスケット23の径方向の変形を確実に吸収することができる。また、応力緩衝部37は、正極缶11への装着時に正極合剤12よりも正極缶中心側となる領域に設けられているので、従来の封口ガスケット40(図3参照)のように缶接触部43寄りの位置に応力緩衝部47を設ける場合と比較して電池内容積が増し、正極缶11内における正極合剤12の収容スペースを十分に確保することができる。この結果、アルカリ電池10の放電性能を向上させることができる。
【0042】
(2)本実施の形態では、封口ガスケット23の応力緩衝部37は、第1の屈曲部37aよりもガスケット外周側に位置する第2の屈曲部37bが正極缶11の内側に凹形状となるように屈曲している。このようにすると、正極缶11の封口時に応力緩衝部37が変形した場合でも、正極合剤12に接触することはない。従って、封口ガスケット23を用いれば、正極缶11内における正極合剤12の収容スペースを従来以上に確保することができる。また、応力緩衝部37は2箇所の屈曲部37a,37bで形成されており比較的シンプルな形状となる。さらに、応力緩衝部37の厚さは、円盤状部34における最大肉厚部の厚さの70%以上であり、従来技術と比較して当該部分を厚くすることで、ガスケット成形時の樹脂流動が安定し、成形上の不具合を低減することができる。
【0043】
(3)本実施の形態の封口ガスケット23において、第2の屈曲部37bの凹側には、セパレータ13の開口端が当接した状態で配置されている。このようにすると、セパレータ13の開口端を確実に固定することができ、セパレータ13内のゲル状負極合剤14が外側に漏れることを防止することができる。
【0044】
(4)本実施の形態の封口ガスケット23では、第1の屈曲部37aにおける凹側の角度θ1(=88°)は、第2の屈曲部37bにおける凹側の角度θ2(=62°)よりも大きくなるよう応力緩衝部37を形成している。このような応力緩衝部37を形成することにより、正極缶11の封口時にて応力緩衝部37が確実に変形して、環状薄肉部35に加わる応力を吸収することができる。
【0045】
次に、本発明を具体化した別の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図3は、本実施形態におけるアルカリ電池10A(筒型電池)の概略構成を示す部分断面図である。図4は、封口ガスケット23Aを示す断面図である。図5は、図4の封口ガスケット23Aの要部を示す拡大断面図である。なお、本実施形態においては、上記実施形態と共通する部分の説明は省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0046】
図3図4に示されるように、この封口ガスケット23Aも、上記実施形態のものと同様に、ボス部32、缶接触部33、円盤状部34、破断誘起用の環状薄肉部35、応力緩衝部37を備えている。また、応力緩衝部37は、鋭角的に屈曲する、第1の屈曲部37a及び第2の屈曲部37bを有している。上記実施形態では、第1の屈曲部37a、第2の屈曲部37b、及びそれらをつなぐ部位の厚さは等しく設定されていた。それに対して、本実施形態の封口ガスケット23Aの場合、応力緩衝部37において第1の屈曲部37aと第2の屈曲部37bとをつなぐ部位が、補強部39となっている。
【0047】
ここで、図5に示されるように、補強部39の厚さを「T3」とする。また、第1の屈曲部37aよりもガスケット中心側の位置における厚さを「第1の厚さT1」と定義する。第2の屈曲部37bよりもガスケット外周側の位置における厚さを「第2の厚さT2」と定義する。そして本実施形態では、補強部39の厚さT3が、第1の厚さT1及び第2の厚さT2に比べていくぶん大きくなっている。ちなみに、図5のものは、第1の厚さT1及び第2の厚さT2が等しくなっている。
【0048】
補強部39の厚さT3は、第1の厚さT1及び第2の厚さT2のうち値の小さいものの1.20倍以上2.13倍以下に設定されている。厚さT3が厚さT1,T2の1.20倍未満であると、補強部39が十分に補強されないため、急激な内圧の上昇時における屈曲部37a、37bの伸びを防止できなくなるおそれがある。逆に、厚さT3が厚さT1,T2の2.13倍超であると、補強部39が十分に補強される一方で、環状薄肉部35が破断するのに要する圧力、つまり安全弁作動圧が上昇する。その結果、安全弁作動圧が所定の規格から外れてしまうおそれがある。
【0049】
ここで、封口ガスケット23Aのボス部32において、環状薄肉部35が連結されている部位を「第1部位32a」と定義し、第1部位32aよりも正極缶11の開口部11a側に設けられた小径の部位を「第2部位32b」と定義する。この場合、第1部位32aの外径D1に対する第2部位32bの外径D2の比率(=D2/D1)が、0.63倍以上0.90倍以下となるように設定されている。当該比率が0.90倍超であると、環状薄肉部35の破断により生じる隙間がそれほど大きくならないので、電池内容物により隙間が詰まる可能性がある。よって、この場合には安定した内圧解放が実現しにくくなるおそれがある。逆に、当該比率が0.63倍未満であると、第2部位32bの肉厚の減少によってボス部32の機械的強度が低下しやすくなる。
【0050】
以下、実施例について説明する。ここでは、基本的に上記構造の封口ガスケット23,23Aを用いて実際にアルカリ電池10、10A(LR6タイプ)を数種類試作した。その際、応力緩衝部37の各部の厚さT1,T2,T3を変更するとともに、ボス部32の各部の外径D1,D2を変更し、ナンバー1〜10のサンプルを得た。ちなみに、ナンバー1は封口ガスケット23の構造的特徴を有し、ナンバー2〜10は封口ガスケット23Aの構造的特徴を有している。これら10種のサンプルについて、以下の3つの試験(ショート試験、ボス割れ試験、安全弁作動圧確認試験)を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
ここで行ったショート試験は、いわゆる「4直1逆ショート試験」と呼ばれるものである。この試験では、4本の電池を直列接続するにあたり1本を逆接続としてショートを意図的に起こし、破裂したものの数を調査した(試験サンプル数=60)。
【0052】
ボス割れ試験では、ボス部32に負極集電子22よりも太い本試験用専用ピンを圧入したときに割れが生じたものの数を調査した(試験サンプル数=320)。
【0053】
安全弁作動圧確認試験では、環状薄肉部35が破断するのに必要な内圧が所定値を超えているか否かを調査し、超えていなければ「規格内」、超えていれば「規格外」と判定した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、ナンバー1のサンプルでは、ボス割れは認められず、安全弁作動圧も規格内であったが、破裂を起こすものがあった。そして、この破裂は、ゲル状負極合剤14の詰まりによるものと、応力緩衝部37の異常変形(即ち屈曲部37a,37bの伸び)によるものの両方に起因していた。ちなみに、ナンバー2のサンプルでは応力緩衝部37の異常変形、ナンバー6のサンプルではゲル状負極合剤14の詰まりが、それぞれ破裂の原因となっていた。ナンバー10のサンプルでは、ボス部32の肉厚が薄いため、強度低下によって割れてしまった。これに対して、ナンバー3〜5,8,9のサンプルでは、破裂もボス割れも認められず、安全弁作動圧も規格内であった。以上の結果より、補強部39の厚さT3を第1の厚さT1及び第2の厚さT2の1.20倍以上2.13倍以下に設定すること、第1部位32aの外径D1に対する第2部位32bの外径D2の比率(=D2/D1)を0.63倍以上0.90倍以下に設定すること、が好適であることがわかった。
【0056】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0057】
・上記実施の形態において、鋭角的に屈曲する2つの屈曲部37a,37bにて応力緩衝部37を構成していたが、これに限定されるものではなく、鋭角的に屈曲する3つ以上の屈曲部にて応力緩衝部を構成してもよい。
【0058】
・上記実施の形態では、本発明をアルカリ電池10,10Aの封口ガスケット23,23Aに具体化するものであったが、アルカリ電池以外の筒型電池の封口ガスケットに具体化してもよい。また、上記実施の形態では、LR6タイプ(単3形)のアルカリ電池10に具体化したが、LR20タイプ(単1形)、LR14タイプ(単2形)、LR03タイプ(単4形)等の他の電池に具体化してもよい。
【0059】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0060】
(1)手段1乃至6のいずれか1項において、前記電池缶は、前記開口部を径方向に収縮させてかしめることにより封口されることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(2)手段1乃至6のいずれか1項において、前記応力緩衝部は、セパレータの配置箇所よりも電池缶中心側に位置するように形成されることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(3)手段4乃至6のいずれか1項において、前記第1の厚さ及び前記第2の厚さは、前記円盤状部における最大肉厚部の厚さの70%以上100%未満であることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(4)手段1乃至6のいずれか1項において、前記円盤状部において前記正極合剤に対応する外周側の部分には、前記缶接触部の内面と直交する平坦面が形成されていることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(5)手段2乃至6のいずれか1項において、前記第1の屈曲部における凹側の角度は、前記第2の屈曲部における凹側の角度よりも大きいことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(6)手段2乃至6のいずれか1項において、前記第1の屈曲部における凹側の角度及び前記第2の屈曲部における凹側の角度は、ともに60°以上89°以下であることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(7)手段4乃至6のいずれか1項において、前記第1の厚さと前記第2の厚さとが等しいことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
(8)手段1乃至6のいずれか1項において、前記ボス部の外周面と前記円盤状部の連結部分において、電池缶中心軸線と前記電池缶の内側となる面とがなす角度が鋭角であることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【符号の説明】
【0061】
10,10A…筒型電池としてのアルカリ電池
11…電池缶としての正極缶
11a…開口部
22…負極集電子
23,23A…筒型電池用ガスケットとしての封口ガスケット
31…孔としての中央孔
32…ボス部
32a…第1部位
32b…第2部位
33…缶接触部
34…円盤状部
35…環状薄肉部
37…応力緩衝部
37a…第1の屈曲部
37b…第2の屈曲部
39…補強部
T1…第1の厚さ
T2…第2の厚さ
T3…(補強部の)厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6