【実施例】
【0025】
本発明の実施例である鋏型手動利器(以下、実施例鋏体X。)、グリップアタッチメント(以下、実施例アタッチメントY。)及びグリップ被覆構造(以下、実施例被覆構造Z。)についてそれぞれ添付図面を参照して以下詳細説明する。
【0026】
(実施例1)
図1は、実施例鋏体Xの正面視説明図であって、把握体12(1)に一体成形した被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)を覆装したストレート&ロングカバーグリップの構成例を示し、かつ、そのグリップ被覆構造(Z)が複合被覆であることを部分断面視で示している。
【0027】
図示した実施例鋏体Xは4本指で均等的に力を発揮できるようにした剪定鋏の一例である。その特徴的形状は、刃体11(1)から把握体12(1)へ移行する部分がほぼ直角であり、把握体12(1)の直線部分を長く造形してストレート&ロングカバーグリップを形成した点にある。
【0028】
図1に示すように、実施例鋏体Xは、鋏半体要素1の把握体12(1)のそれぞれに複数の軟質弾性材料からなる被覆体2(10)を覆装している。かつまた、把握体12(1)の自由端部(交差部軸支点14からの遠位端部に同じ)の各内面に、複数の軟質弾性材料からなる緩衝部材3(10)をそれぞれ設け、かつ、切断操作時に弾性的に衝合可能に対向形成している。
【0029】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものとされ、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 であり、それぞれ最外層の構成素材はいずれもシリコン樹脂22;32 である。図示のとおり、被覆体2及び緩衝部材3は一体成形したもの(緩衝部付被覆体10)を示している。
【0030】
この構成によって特に制振性を増補し、切断操作時に衝突部13(又はストッパ)同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃をより効果的に緩和する。
【0031】
最内層の構成素材として好適な軟質弾性材料は制振ゴム21;31 である。
【0032】
なお、この種の制振ゴムは、有機溶剤に耐性が小さく、水で膨潤する欠点があるため最内層として使用し、最外層には以下に述べる耐候性等環境適性に優れたシリコン樹脂を使用する。
【0033】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)の最外層の構成素材として好適な弾性樹脂はシリコン樹脂22;32 である。シリコン樹脂は、撥水性、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れるため、農作業や園芸作業など屋外での作業に適する。
【0034】
ここで、被覆体2(10)の最外層のシリコン樹脂22の表面硬さは、ショアA硬さ15〜50範囲(至適には30〜41)とするのが好ましい。一方、緩衝部材3(10)〔衝合面33〕の最外層のシリコン樹脂32の表面硬さは、ショアA硬さ15〜70範囲とするのが好ましい。断面肉厚はいずれも2mm以上であるのが好ましい。
【0035】
この好適範囲は実験的事実に基づくものであり、弾性効果により手指への圧迫を緩和し、手指筋の筋肉ポンプ作用(筋収縮弛緩による血流改善作用)を促進して筋血流を改善することを確認しており、鋏を用いた長時間の反復作業に適するものである。
【0036】
なお、上記推奨の制振ゴムの衝撃吸収率は刮目に価するものであるが、有機溶剤への耐性が劣り、水で膨潤する欠点があるため最内層として使用し、最外層には耐候性等環境適性に優れたシリコン樹脂を使用する。
【0037】
実施例鋏体の効果を実証するために、以下の実験をおこない結果を評価した。
【0038】
<痛み及び手指負担自覚症状の比較実験>
切断時の衝撃力が強い剪定鋏(実施例鋏体に同じ)について、20代の健康な学生10名を被験者にして、従来品と、シリコン樹脂のみを被覆した先願発明の実施製品(ソフトグリップ)と、シリコン樹脂と制振ゴムを複合被覆した本発明構成品(制振グリップ)を使用して、42分間にわたり角材のカット作業を行わせ、衝撃による上肢の自覚症状及び手指負担に関する評価を比較した。
【0039】
表1に上記3種類のグリップ被覆構造の異なる剪定鋏による母指及び2−5指(示指、中指、薬指及び小指)の痛み自覚症状に関する検査結果を示す。痛み自覚症状検査には「Borgスケールの10点法」を採用している。得点が高いほど、痛みを発症していることとなる。なお、数値データは平均値である。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果、複合被覆〔シリコン+制振ゴム〕を施した制振グリップ(本発明構成品)が痛みを発症しにくく、衝撃緩和効果が顕著であることが確認された。
【0042】
表2は、被検者に上記3種類の剪定鋏について手指負担の少ない順にランク(1−5)を付けさせたものである。なお、数値データは平均ランクを示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果、痛み自覚症状と同様に、複合被覆〔シリコン+制振ゴム〕を施した制振グリップ(本発明構成品)が手指負担が少ないと評価された。
【0045】
<衝撃緩和効果の比較実験>
切断時の衝撃力が強い剪定鋏(実施例鋏体に同じ)について、シリコン樹脂のみを被覆した先願発明の実施製品(ソフトグリップ)と、シリコン樹脂と制振ゴムを複合被覆した本発明構成品(制振グリップ)を使用して、衝撃緩和効果を比較した。
【0046】
実験対象は、表3に被験者のプロフィールを示すように、健康な成人10名(男性8名、女性2名)を対象に切断実験を行ったものである。
【0047】
【表3】
【0048】
実験方法は、被験者の右手の橈骨の茎状突起部に加速度センサーを運動用テープで装着して、直径3mmの竹ひごを、上記2種類の剪定鋏を使用して3秒に1回のペースで、繰り返し10回切断させ、切断時の跳ね返り(反動)の衝撃を測定したものである。
【0049】
切断実験に際しては、各鋏とも5回程度練習をさせて実行した。切断順は、2つの鋏が均等な順番になるよう実施した。2つの鋏の実験の間には、2分間の休憩を挟んだ。表4に衝撃のピーク値(G)をそれぞれ示す。
【0050】
【表4】
【0051】
実験の結果、制振グリップとソフトグリップの衝撃の平均値は、それぞれ8.95Gと19.40Gであリ、制振グリップがソフトグリップに比して衝撃のピーク値が有意に低下していた。その衝撃緩和効果は、ソフトグリップに比して、制振グリップでは、衝撃が平均46.1%に低下していた。この結果は、制振グリップに大きな衝撃緩和効果があることを示している。
【0052】
(実施例2)
図2は、実施例アタッチメントYの正面視説明図であって、把握体12(1)に一体成形した被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)からなる緩衝部付被覆体10を覆装したショートカバーグリップの構成例を示し、かつ、そのグリップ被覆構造(Z)が複合被覆であることを部分断面視で示している。
【0053】
図2に示すように、実施例アタッチメントYは、刃体11(作用部)と把握体12(操作部)を有した鋏半体要素1からなる対部材を交差させ、交差部(14)を軸支して回動可能又は開閉可能に結合し、鋏半体要素1の一部にそれぞれ衝突部13(又はストッパ)を対向形成してなる鋏型手動利器本体に付加装着され、把握体12(1)上で把持圧力の分散を増補するとともに、切断操作時に衝突部13(又はストッパ)同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃を緩和するために、把握体12(1)のそれぞれに覆装可能に形成した軟質弾性材料からなる被覆体構成部20(10)と、把握体の自由端部の各内面に対設され、切断操作時に弾性的に衝合可能に形成した軟質弾性材料からなる緩衝部材構成部30(10)からなり、被覆体構成部20(10)と緩衝部材構成部30(10)とを、それぞれ別体形成し組み合わせて付加装着するか、又は複合的に一体成形して付加装着するようにしたものである。
【0054】
図示の実施例アタッチメントYは一体成形したショートカバーグリップ(緩衝部付被覆体10)の構成例を示している。
【0055】
ここで、被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものであり、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 である。
【0056】
また、被覆体構成部20(10)の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂22その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、ショアA硬さ15〜50範囲の表面硬さを有するものとしている。
【0057】
また、緩衝部材構成部30(10)の最外層の構成素材はゴム、シリコン樹脂32その他の弾性樹脂であって、2mm以上の断面肉厚を有し、かつ、衝合面をショアA硬さ15〜70範囲の表面硬さを有するものとしている。
【0058】
被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)の構成素材の詳細はそれぞれ実施例鋏体Xにおける場合と同様である。
【0059】
(実施例3)
図3は、実施例被覆構造Zを示す断面視説明図である。ここで、(a)は
図1における被覆体2(10)のA−A視左片側断面であり、(b)は
図1における緩衝部材3(10)のB−B視左片側断面である。右片側断面はいずれも対称にあらわれるので省略した。
【0060】
実施例被覆構造Zは、実施例鋏体X(
図1)において、鋏半体要素1の把握体12(1)のそれぞれに複数の軟質弾性材料からなる被覆体2(10)を覆装している。かつまた、把握体12(1)の自由端部(交差部軸支点14からの遠位端部に同じ)の各内面に、複数の軟質弾性材料からなる緩衝部材3(10)をそれぞれ設け、かつ、切断操作時に弾性的に衝合可能に対向形成している。
【0061】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)は、いずれも2種類又はそれ以上の物性特性の異なる軟質弾性素材を積層して内外層を複合形成したものとされ、それぞれ最内層の構成素材はいずれも衝撃吸収率80%以上の制振ゴム21;31 であり、それぞれ最外層の構成素材はいずれもシリコン樹脂22;32 である。
【0062】
被覆体2(10)及び緩衝部材3(10)の構成素材の詳細はそれぞれ実施例鋏体Xにおける場合と同様である。
【0063】
実施例アタッチメントY(
図2)においても 被覆体構成部20(10)及び緩衝部材構成部30(10)ついて適用される。
【0064】
この構成によって特に制振性を増補し、切断操作時に衝突部13(又はストッパ)同士の撃力の発生を無化又は減弱して手指への衝撃をより効果的に緩和する。