【実施例】
【0028】
図1は、本願発明の実施の形態に係る検量線生成システム1の概要を示したブロック図である。検量線生成システム1は、界面活性剤又は試料を用いた計測処理を行う計測装置3(本願請求項の「計測装置」の一例)と、計測装置3における既知濃度の界面活性剤を用いた計測処理による計測値に基づいて検量線を示すパラメータ及びオフセット値を生成する自動検量線生成器5(本願請求項の「検量線生成装置」の一例)を含む。
【0029】
計測装置3は、界面活性剤又は試料を用いた計測処理を行う計測データ収集部11(本願請求項の「計測データ収集手段」の一例)と、検量線作成処理を行うか否かを判定する判定部13と、検量線作成処理を行う場合に、自動検量線生成器5に対して、既知濃度及び計測値の組み合わせを送信する計測値送信部15(本願請求項の「計測値送信手段」の一例)と、自動検量線生成器5が生成したパラメータ及びオフセット値を受信するパラメータ受信部17(本願請求項の「パラメータ受信手段」の一例)と、検量線作成処理を行わない場合に、パラメータ及びオフセット値に基づく検量線を用いて、計測値に対応する試料の濃度を求める試料濃度推定部19(本願請求項の「試料濃度計測手段」の一例)を有する。以下では、既知濃度に対する計測処理に得られる既知濃度及び計測値の組み合わせの数をJ(Jは、3以上の自然数)とする。濃度は、対数値で表わされ、x
j(jは、J以下の自然数)と表わす。計測値は、y
jと表わす。なお、本願発明においては、濃度は、対数値に限らず、そのままの値でもよく、また、他の処理により得られた値でもよい。また、計測値もそのままの値に限らず、特定の処理後に得られた値であってもよい。
【0030】
自動検量線生成器5は、計測値送信部15が送信した既知濃度の対数値x
jと計測値y
jの組み合わせを受信する計測値受信部21(本願請求項の「計測値受信手段」の一例)と、J組の既知濃度の対数値x
jと計測値y
jの組み合わせを収集する計測データ収集部23と、所定のロジスティック式に対するパラメータ及びオフセット値を推定する曲線演算部25(本願請求項の「パラメータ推定手段」の一例)と、計測装置3に対してパラメータ及びオフセット値を送信するパラメータ送信部27を有する。
【0031】
ここで、ロジスティック式は、一般的には、計測値yについて、濃度xに対する関数y=f(x,β)として表わされるものである。ここで、βは、n個(nは3以上の自然数)のパラメータp
i(iはn以下の自然数)のベクトルとする。関数f(x,β)は、単調増加又は単調減少の関数であり、xが無限大となる場合に一定の値に収束し、xがマイナス無限大となる場合にも一定の値に収束するものである。
【0032】
以下では、パラメータは3個であり、a,b及びcとする。そして、ロジスティック式の一例として、y=a/(1+b×exp(−c×x))の場合について説明する。また、濃度xに対するオフセット値をX_Offsetとする。計測値yに対するオフセット値をY_Offsetとする。
【0033】
続いて、
図2のフロー図を参照して、
図1の検量線生成システム1の動作の一例を説明する。計測データ収集部11は、既知濃度の界面活性剤に対して計測処理を行うことにより、J個の既知濃度と計測値の組み合わせを収集する(ステップSTP1)。そして、計測値送信部15は、計測値受信部21に対して、J個の既知濃度と計測値の組み合わせを送信する(ステップSTP2)。
【0034】
本実施例が想定する計測処理においては、ロジスティック式は、c<0となり、一般的に、単調減少となる(
図3参照)。そのため、ロジスティック式は、xが無限大の場合、ゼロに収束する。そのため、曲線演算部25は、Y_Offsetの初期値を、既知濃度が最も小さい値に対する計測値とする。また、ロジスティック式は、ほぼ点対称な形状となる。そのため、曲線演算部25は、X_Offsetの初期値を、既知濃度の対数値及び計測値について正負で対称となるように決定する。例えば、曲線演算部25は、X_Offsetの初期値を、既知濃度の対数値x
jの平均値として決定してもよい。また、計測値の変化が最も大きい濃度として決定してもよい。さらに、ロジスティック式は、無限大又はマイナス無限大の濃度に対して、計測値y
jの最大値又は最小値に収束することが予想される。そのため、曲線演算部25は、X_Offsetの初期値を、計測値y
jの最大値及び最小値の平均値を基準として、この値よりも大きい計測値と小さい計測値を区別可能な濃度により決定してもよい。
【0035】
パラメータa,b及びcの初期値は、予め定められたものでもよい。また、例えば、ロジスティック式は、xがマイナス無限大の場合、aに収束する。そのため、パラメータaの初期値を、計測値y
jの最大値からY_Offsetの値を引いた値とするようにしてもよい。このように、既知濃度及び計測値に基づいて計算により求めてもよい。
【0036】
曲線演算部25は、例えば、非線形最小二乗法(Levenberg-Marquardt法。以下、「LM法」という。)に基づいて各パラメータ及び各オフセット値を推定する。LM法の概要について説明する。LM法は、パラメータのベクトルをβとして、ロジスティック式f(x,β)に対して、式(1)で表わされる偏差の二乗の和S(β)を最小化する問題の解法の一つである。その解法は、f(x,β)におけるβを、新たな推定値β+δにより置き換える。そして、式(2)にあるように、各x
jにおいて線形近似を行うことにより、δを決定する。ここで、G
jは、式(3)で表わされるように、βに関するfの勾配(gradient)である(ステップSTP3)。この勾配は、予め計算することが可能である。そのため、ボードコンピュータ等によって実現が可能である。なお、ここでは、ベクトルβには、パラメータが含まれる場合について説明している。しかし、本願発明においては、ベクトルβは、パラメータa,b及びcだけでなく、オフセット値X_Offset又は/及びY_Offsetを含め、各パラメータ及び各オフセット値を推定するものであってもよい。ステップSTP3において、特に、最初の推定値を求める処理は、ロジスティック式に対して、各パラメータの初期値の近傍で偏微分によるテイラー展開を行い、線形近似することにより、前記新たなパラメータ及びオフセット値の推定値を計算することと表現されるものである。
【0037】
【数1】
【0038】
式(2)において、最小化されると、δに関するSの勾配は0となる。そのため、曲線演算部25は、収束したか否かの判断を行う(ステップSTP4)。勾配が一定の範囲内にあり収束していると判断される場合には、ステップSTP5の処理に進む。収束していないと判断される場合には、所定の反復回数を超えたときは、収束は困難であると判断し、ステップSTP5の処理に進む。所定の反復回数は、通常、100回程度で収束することから、それ以上の数(例えば200回)を設定する。所定の反復回数を超えていない場合には、再度ステップSTP3の処理を行い、近似精度を高める。
【0039】
パラメータ送信部27は、パラメータ及びオフセット値を計測装置に送信する。また、曲線演算部25が収束困難と判断した場合には、その旨を計測装置に通知する(ステップSTP5)。
【0040】
計測装置3では、パラメータ及びオフセット値が推定された場合、計測データ収集部11は、濃度が不明な試料に対して計測処理を行う(ステップSTP6)。そして、試料濃度推定部19は、計測値に対して、パラメータ及びオフセット値に基づく検量線を用いて、濃度推定処理を行う(ステップSTP7)。
【0041】
図3は、自動検量線生成器5により推定された検量線の一例を示すグラフである。表1に示されるように、既知濃度と計測値の組み合わせはP0〜P4の5点である。検量線Lは、推定されたものである。検量線Lを用いることにより、例えば、所要濃度と計算推定値の組み合わせとして、所要濃度0.02に対して計算推定値0.122145、0.05に対して0.122137、2に対して0.115221、5に対して0.097613、100に対して0.060431などの値を得ることができる。
【0042】
【表1】
【0043】
さらに、
図4を参照して、
図1の計測データ収集部11について、磁気ビーズによる化学発光イムノアッセイ計測を行う場合の一例として、フローコントローラ55を用いた計測システム51の構成について説明する。
【0044】
計測システム51は、光電子を数えて計測処理を行う化学発光検出器53と、化学発光検出器53に対して計測対象となる液体を排出するフローコントローラ55を備える。化学発光検出器53とフローコントローラ55はケーブル61で接続されており、化学発光検出器53及びフローコントローラ55の動作は、制御装置59により制御されている。制御装置59は、例えば、パーソナルコンピュータや、タッチパネルを用いたユーザインタフェースを備えたシステムに組み込まれたコンピュータなどを用いて実現されるものである。
【0045】
化学発光検出器53は、フローコントローラ55により計測対象64が与えられるフローセル63と、フローセル63において磁気ビーズの上昇及び下降を制御するための電磁石65と、レンズ68を用いて検出された光電子を数えて計測処理を行う光電子カウンティング装置67を有する。計測対象64は、計測処理後に、回収部69に排出される。
【0046】
フローコントローラ55は、液体の吸入及び排出を行うために、12個のバルブ77
1,・・・,77
12(本願請求項の「バルブ」の一例)から1つのバルブを選択するバルブセレクタ75(本願請求項の「バルブセレクタ」の一例)を有する。バルブセレクタ75の12個のバルブの接続関係は以下のとおりである。バルブ77
1(本願請求項の「磁気ビーズバルブ」の一例)は、抗体を固定するための磁気ビーズを保持する磁気ビーズ貯液部81に接続される。バルブ77
2(本願請求項の「抗原バルブ」の一例)は、酵素標識抗原を保持する抗原貯液部83に接続される。バルブ77
3,・・・,77
6(本願請求項の「界面活性剤・試料バルブ」の一例)は、それぞれ、異なる濃度の界面活性剤又は異なる種類の試料を保持する界面活性剤・試料貯液部85
1,・・・,85
4に接続される。バルブ77
7(本願請求項の「ルミノールバルブ」の一例)は、ルミノールを保持するルミノール貯液部89に接続される。バルブ77
8(本願請求項の「廃液バルブ」の一例)は、廃液を保持するための廃液貯液部91に接続される。バルブ77
9,・・・,77
11(本願請求項の「攪拌バルブ」の一例)は、それぞれ、攪拌する液体を保持するための攪拌貯液部87
1,・・・,87
3に接続される。バルブ77
12(本願請求項の「検出器バルブ」の一例)は、化学発光検出器53のフローセル63に接続される。
【0047】
バルブセレクタ75は、保持コイル73及びシリンジポンプ71を経由してバッファ液を保持するバッファ液貯液部57と接続されている。フローコントローラ55は、計測処理を行うにあたり、予め、バッファ液を充填されている。フローコントローラ55は、バルブセレクタ75により選択されたバルブに接続された貯液部から、制御装置59により指定された容量の液体を指定された流速で液体を吸入し、又は、バルブセレクタ75により選択されたバルブに接続された貯液部若しくは化学発光検出器53に対して、制御装置59により指定された容量の液体を指定された流速で液体を排出する。
【0048】
続いて、
図5を参照して、
図4の計測システム51の動作について、界面活性剤・試料貯液部85
1(以下、
図5の説明において「試料貯液部85
1」という。)に試料が保持されており、試料貯液部85
1に保持された試料について、攪拌貯液部87
1を用いて攪拌処理を行い、試料計測処理を行う場合を例として説明する。
【0049】
制御装置59は、化学発光検出器53及びフローコントローラ55の洗浄処理を行う(ステップST1)。ここでは、例えば、フローコントローラ55において、計測処理に使う磁気ビーズ貯液部81、抗原貯液部83、試料貯液部85
1、ルミノール貯液部89に接続されるバルブを選択させて吸入処理を行うことにより、各バルブから各貯液部に至るルートでの空気を除く処理、バルブ77
8を選択してバッファ液を廃液してフローコントローラ55内にバッファ液を充填する処理、バルブ77
12を選択して化学発光検出器53にバッファ液を排出して洗浄する処理などを行う。
【0050】
続いて、制御装置59は、電磁石65を制御して、フローセル63において磁気ビーズが上昇する状態とする(ステップST2)。そして、制御装置59は、フローコントローラ55に対して、バルブ77
1を選択して磁気ビーズを吸入し(ステップST3)、バルブ77
12を選択して化学発光検出器のフローセル63に排出して、化学発光検出器に吸入した磁気ビーズの一部を捕捉させる(ステップST4)。
【0051】
続いて、制御装置59は、フローコントローラ55に対して、バルブ77
2を選択して酵素標識抗原を吸入し(ステップST5)、バルブ77
9を選択して排出して、吸入した酵素標識抗原の一部を攪拌貯液部87
1に保持させ(ステップST6)、バルブ77
3を選択して試料を吸入し(ステップST7)、バルブ77
9を選択して排出して、吸入した試料の一部を攪拌貯液部87
1に保持させる(ステップST8)。続いて、攪拌貯液部87
1に保持された液体の一部について、同量の液体について、吸入(ステップST9)及び排出(ステップST10)を所定の回数(例えば3回など)繰り返して攪拌処理を行い(ステップST11)、攪拌後の液体を攪拌貯液部87
1から吸入する(ステップST12)。そして、バルブ77
12を選択して攪拌後の液体を化学発光検出器53のフローセル63に排出する(ステップST13)。
【0052】
続いて、制御装置59は、化学発光検出器53に対して、光量計測を開始させる(ステップST14)。そして、制御装置59は、フローコントローラ55に対して、バルブ77
7を選択してルミノールを吸入し(ステップST15)、バルブ77
12を選択して化学発光検出器53に排出して、化学発光検出器53における化学発光イムノアッセイ計測を行わせる(ステップST16)。計測処理の終了後、制御装置59は、化学発光検出器53に対して、光量計測を停止させる(ステップST17)。そして、制御装置59は、電磁石65を制御して、フローセル63において磁気ビーズが下降する状態とする(ステップST18)。
【0053】
続いて、制御装置59は、化学発光検出器53及びフローコントローラ55の洗浄処理を行う(ステップST19)。ここでは、例えば、フローコントローラ55において、バルブ77
8を選択して廃液してフローコントローラ55内にバッファ液を充填する処理、バルブ79
9を選択して攪拌貯液部87
1に所定量のバッファ液を排出して攪拌貯液部87
1が保持する液体を吸入することにより攪拌貯液部87
1を洗浄する処理、バルブ77
12を選択して化学発光検出器53にバッファ液を排出してフローセル63を洗浄する処理などを行う。
【0054】
図4の計測システム51において、複数種類の酵素標識抗原が存在する場合には、各種類の抗原に対応してする抗原貯液部を複数設け、各抗原貯液部に対して複数のバルブを割り当てる。また、複数種類の試料を計測する場合には、各試料を界面活性剤・試料貯液部85
1,・・・,85
4に保持させ、各試料について同様の処理を行うことにより、各試料の計測処理を行うことができる。ここで、攪拌貯液部87
1,・・・,87
3は、各資料の計測処理後に洗浄処理を行うことができることから、界面活性剤・試料貯液部85
1,・・・,85
4と同数又は少ない数とし、割り当てるバルブは、界面活性剤・試料貯液部85
1,・・・,85
4に接続しうる予備として用意しておくことが望ましい。
【0055】
また、検量線作成処理についても、各界面活性剤・試料貯液部85
1,・・・,85
4に異なる濃度の界面活性剤を保持させ(例えば、1ppm、100ppb、10ppb、1ppbなど)、各濃度の界面活性剤について同様の処理を行うことにより、実現することが可能である。
【0056】
なお、
図5において、ステップST16の計測処理の前に光量計測が開始(ステップST14)されていればよく、光量計測を開始する前にルミノール吸入処理(ステップST15)を行うようにしてもよい。