【実施例】
【0041】
(調製例1:アポラクトフェリンの製造)
マイクローザUFラボテスト機(LX−22001;旭化成ケミカルズ株式会社)に、同社製のUFモジュールであるLOV(中空糸モジュール:膜内径0.8mm、有効膜面積41m
2、膜素材:ポリアクリロニトリル、公称分画分子量:50,000)を組み込んだ限外濾過装置を用いて、以下のようにアポラクトフェリンを製造した。
【0042】
50mg/mLのラクトフェリン(タツア酪農協同組合株式会社製;鉄結合度は約20%)溶液を10kg用いた。アポラクトフェリンの製造工程において、ラクトフェリンを0.1Mクエン酸で処理した。まず、上記ラクトフェリン溶液を装置の供給タンクに投入し、10分間循環させた後、5秒間逆方向に循環させて、溶液を濃縮した。このとき、UF膜の入口および出口の圧力、循環液流量を、それぞれ0.12MPa、0.08MPa、15L/分と設定した。この操作を非透過の濃縮液が半減するまで繰り返した(これを1ラウンドとする)。次いで、ラクトフェリン溶液の代わりにクエン酸溶液をタンクに投入し、上と同様の操作を2ラウンド行った。次いで、8MΩ・cm以上の純水をタンクに投入し、上記の操作を5ラウンド行い、非透過の濃縮液中に残存する酸を除去した。なお、循環液の温度は、製造工程を通して10〜28℃の範囲内であり、pHは2〜3であった。
【0043】
上記製造工程により、40kgの濃縮液を得た。次いで、濃縮液を凍結乾燥し、9.5gの白色粉末を得た。
【0044】
各酸処理により得られた粉末がアポラクトフェリンであることおよびアポラクトフェリンの純度を、粉末を純水に溶解後、BIOXYTECH(登録商標)Lacto f EIA
TM(OXIS International Inc. 米国・オレゴン)を用いて抗体定量を行うことにより決定した。
【0045】
アポラクトフェリン粉末の鉄結合度は2.70%であった。鉄結合度は、粉末を純水に1w/v%の濃度になるように溶解し、次いで、アポラクトフェリンに結合している鉄量を470nmの吸光度で測定することにより決定した。ここで、鉄結合度は、鉄結合度(%)=(1w/v%溶液中の鉄モル数/1w/v%溶液中のアポラクトフェリンモル数)×100によって算出した。
【0046】
この鉄結合度2.70%のアポラクトフェリンの総陽イオン濃度は3.2mMであった。総陽イオン濃度を以下のように測定した。アポラクトフェリンの凍結乾燥粉末に0.1N塩酸を加え、0.1w/v%アポラクトフェリン溶液を調製し、原子吸光光度法によってNa、K、Ca、Mg、およびCuについて測定することにより、これらの各陽イオンの濃度を求め、合計したものを総陽イオン濃度と換算した。
【0047】
(調製例2:アーモンド抽出物)
株式会社デルタ・インターナショナル(東京)から購入したカリフォルニア産アーモンドの種皮および仁を一緒に細かく裁断し凍結乾燥機で乾燥させ、十分に乾燥を終えた後、粉砕機で粉砕した。粉砕サンプル1gを100mLのビーカーに測り取り、20〜25℃の超純水20mLを入れ、超音波で約5分処理した後、4℃にて一晩攪拌した。撹拌後の液状物を、4℃にて20分間、3000rpmで遠心分離し、上清を回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの超純水で洗い、もう一度、同条件で遠心分離を行い、上清を回収した。回収した2つの上清を合わせて凍結乾燥、粉末化した(以下、「アーモンド水抽出物」)。
【0048】
抽出のために、20〜25℃の超純水の代わりに95℃の熱水を用いたことおよび撹拌時間を一晩ではなく1時間にしたこと以外は、同様にして、アーモンド熱水抽出物を調製した。
【0049】
(調製例3:摘果ぶどう抽出物)
摘果ぶどう(品種:巨峰)を福岡県久留米市のぶどう園にて採取し、実および皮部分を一緒に細かく裁断し凍結乾燥機で乾燥させ、十分に乾燥を終えた後、粉砕機で粉砕した。粉砕サンプル1gを100mLのビーカーに測り取り、20〜25℃の超純水20mLを入れ、超音波で約5分処理した後、4℃にて一晩攪拌した。攪拌後の液状物を、4℃にて20分間、3000rpmで遠心分離し、上清を回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの超純水で洗い、もう一度、同条件で遠心分離を行い、上清を回収した。回収した2つの上清を合わせて凍結乾燥、粉末化した(以下、「摘果ぶどう(実)水抽出物」)。
【0050】
摘果ぶどうの実および皮部分の代わりに枝部分を用いたこと以外は、同様にして、摘果ぶどう(枝)水抽出物を調製した。
【0051】
抽出のために、20〜25℃の超純水の代わりに95℃の熱水を用いたことおよび撹拌時間を一晩ではなく1時間にしたこと以外は、同様にして、摘果ぶどう(実)熱水抽出物および摘果ぶどう(枝)熱水抽出物を調製した。
【0052】
(実施例1:アポラクトフェリンと花粉との結合)
日本スギ花粉(生化学バイオビジネス株式会社から購入)、すなわち、日本スギ(Cryptomeria japonica)の成熟雄花から採取した花粉を、分子間相互作用定量水晶天秤(QCM)装置「AFFINIXQ」(型番:QCM2000;株式会社イニシアム)の専用センサーチップに、100μg/mL濃度で1μL滴下し、十分に風乾した後に、超純水でチップを洗浄した。日本スギ花粉を固定したチップを上記装置に装着し、8mLの超純水、あるいは50mM、100mM、150mM、200mM、250mMのNaClあるいはCaCl
2の水溶液を入れた試験容器に挿入した。次いで、調製例1で製造したアポラクトフェリンの凍結乾燥物を超純水で1mg/mLとしたアポラクトフェリン溶液8μLを、試験容器に添加した。装置のディスプレイ上でチップ上のスギ花粉とアポラクトフェリンとの結合が安定になったことを確認し、上記アポラクトフェリン溶液8μLを更に添加した。この操作を更に3回繰り返し、日本スギ花粉とアポラクトフェリンとの相互作用を示す平衡曲線(吸着曲線)を作成した。次に、上記測定過程において、花粉を結合させていない当該専用センサーチップについて同様の測定を行い、ブランクとして先の測定値より差し引いた。結果は、装置に内蔵した専用測定解析ソフトウェアで解析し、解離定数の逆数として結合定数を算出した。
【0053】
図1および
図2はそれぞれ、NaClを添加した場合のアポラクトフェリンのスギ花粉に対する結合定数、CaCl
2を添加した場合のアポラクトフェリンのスギ花粉に対する結合定数を示すグラフである。いずれの図とも、縦軸に結合定数(1/M)を示し、横軸に塩添加濃度(mM)を示す。
【0054】
これらの結果より、アポラクトフェリンは、スギ花粉と十分な結合性を有することが分かった。さらに、塩類(電解質)を溶液中に溶解して共存させることで、結合性が増強され得ることが観察された。
【0055】
(実施例2:アポラクトフェリンと花粉抗原との結合)
専用センサーチップに、日本スギ花粉の代わりに、スギ花粉抗原SBP(生化学バイオビジネス株式会社から購入)を固定し、そしてアポラクトフェリン溶液を添加する前の試験容器には超純水を入れたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。スギ花粉抗原SBPは、日本スギ(Cryptomeria japonica)花粉を炭酸水素ナトリウム溶液により抽出および精製して得られる糖タンパク質で主要アレルゲンである、Cryj 1およびCryj 2を含む。実施例1の8mLの超純水を試験容器に入れた場合のスギ花粉の結果を比較に用いた。
【0056】
この結果を以下の表1に示す。アポラクトフェリンが、スギ花粉の抗原タンパク質と結合していることが分かった。
【0057】
【表1】
【0058】
(実施例3)
不織布マスク(ディスポーザーマスク;ケンコーコム社製;ポリプロピレン100%;W175×H94)を集塵機(株式会社千代田テクノル社製;MODEL: TH-D5101)の吸入口に固定した。吸入口を被覆する部分(被覆部)以外にはガムテープで目張りした。不織布マスクを固定した集塵機を、日本スギ花粉(生化学バイオビジネス株式会社から購入)1gを入れた1m×1m×1mの6面体アクリルボックスに入れ、電源コード部分を除いて密閉した。集塵機を30分間稼働した。稼動終了後、被覆部上に付着したスギ花粉をマスクから振動によるふるい落としで回収し、秤量した。付着していた花粉量(質量)をアクリルボックスに入れた1gで除して、花粉捕捉率とした。なお、マスクから回収したスギ花粉にマスクの繊維が混入していないかを、回収プレート上の無作為に抽出した3箇所について、顕微鏡下で確認を行った。
【0059】
次に、0.1gのアポラクトフェリンを3mLの純水で溶解し、外部環境と接する側のマスク表面上を均一に塗布し、乾燥機で50℃にて3時間乾燥させた。比較のために、0.1gの小麦粉(薄力粉;ニップン社製)を3mLの純水で溶解したものを同様に塗布および乾燥することで処理したマスクもまた用いた。これらのアポラクトフェリン処理マスクおよび小麦粉処理マスクも同様にして、上記の花粉試験に供した。
【0060】
それぞれの花粉捕捉率は、未処理(塗布なし)マスク 10.3%;アポラクトフェリン処理マスク 31.5%;および小麦粉処理マスク 19.2%であった。アポラクトフェリン処理マスクにはスギ花粉の捕捉効果があることが観察された。
【0061】
(実施例4:アポラクトフェリンと抗原との結合)
専用センサーチップに、日本スギ花粉の代わりに、スギ花粉抗原SBP(Purified Sugi Basic Protein;Japanese Cedar Pollen Allergen;生化学バイオビジネス株式会社から購入)、ブタクサ花粉(Ragweed pollen;株式会社ビオスタから購入)、イヌアレルゲン粗抽出物(株式会社東京環境アレルギー研究所から購入)、ネコ粗抽出物(株式会社東京環境アレルギー研究所から購入)、およびダニ(Dp)粗抽出物(株式会社東京環境アレルギー研究所から購入)のいずれかを50μg/ml(スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉)または10μg/ml(イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物、およびダニ粗抽出物)で固定し、そしてアポラクトフェリン溶液を添加する前の試験容器には超純水を入れたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0062】
この結果を以下の表2に示す。アポラクトフェリンが、スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物およびダニ粗抽出物との十分な結合能を有していることが分かった。
【0063】
【表2】
【0064】
(比較例1:各種乳由来タンパク質と抗原との結合)
アポラクトフェリン溶液の代わりに、カルシウムカゼネート(株式会社アップウェルより購入)、ラクトペルオキシダーゼ(タツア・ジャパン株式会社より購入)、カゼインタンパク質加水分解物(HCP105:軽度に加水分解したカゼインタンパク質;分子量10000-20000が30-40%;タツア・ジャパン株式会社より購入)を超純水で1mg/mLとした溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。
【0065】
この結果を以下の表3〜5に示す。各種乳由来タンパク質が、スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物およびダニ粗抽出物との結合能を有していることが分かった。しかし、アポラクトフェリンよりも結合能は低かった。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
(比較例2:アーモンド抽出物または摘果ぶどう抽出物と抗原との結合)
アポラクトフェリン溶液の代わりに、調製例2で調製したアーモンド抽出物(水抽出物または熱水抽出物)あるいは調製例3で調製した摘果ぶどう(実または枝)抽出物(水抽出物または熱水抽出物)を超純水で1mg/mLとした溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様の操作を行った。
【0070】
この結果を以下の表6〜11に示す。アーモンド抽出物または摘果ぶどう抽出物は、スギ花粉抗原SBP、ブタクサ花粉、イヌアレルゲン粗抽出物、ネコ粗抽出物、およびダニ粗抽出物との結合能を有していないことが分かった。
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
【表8】
【0074】
【表9】
【0075】
【表10】
【0076】
【表11】