特許第5679364号(P5679364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5679364オレフィンの部分酸化用触媒、その製造方法およびアルキレンオキサイドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679364
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】オレフィンの部分酸化用触媒、その製造方法およびアルキレンオキサイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/66 20060101AFI20150212BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20150212BHJP
   C07D 301/10 20060101ALI20150212BHJP
   C07D 303/04 20060101ALI20150212BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150212BHJP
【FI】
   B01J23/66 Z
   B01J37/08
   C07D301/10
   C07D303/04
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-96447(P2013-96447)
(22)【出願日】2013年5月1日
(62)【分割の表示】特願2008-514471(P2008-514471)の分割
【原出願日】2007年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-215727(P2013-215727A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2013年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2006-128104(P2006-128104)
(32)【優先日】2006年5月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】島 昌秀
(72)【発明者】
【氏名】杉尾 暢文
(72)【発明者】
【氏名】川端 竜也
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−144932(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/023418(WO,A1)
【文献】 特開昭58−070838(JP,A)
【文献】 特開昭58−119344(JP,A)
【文献】 特開平02−048040(JP,A)
【文献】 特開平05−329368(JP,A)
【文献】 特開平09−057064(JP,A)
【文献】 特開平02−194839(JP,A)
【文献】 特開平04−346835(JP,A)
【文献】 特表平10−503709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07D 301/10
C07D 303/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀または銀酸化物およびアルカリ金属またはその化合物を、ケイ素またはその化合物を含み、ジルコニウム化合物を含まないα−アルミナ担体に担持させてなる触媒であって、該ケイ素またはその化合物が偏在し、該ケイ素またはその化合物の存在位置と、該アルカリ金属またはその化合物の微粒子の存在位置とがほぼ同じであり、
FE−TEMのEDS画像の中で、単位面積当りのSiとアルカリ金属の重複する面積/単位面積当りのSiの面積×100で表されるケイ素またはその化合物に対するアルカリ金属またはその化合物の局在化頻度が60〜99.9%であり、
銀の微粒子が(a)ケイ素またはその化合物および(b)アルカリ金属またはその化合物の微粒子の存在位置とは異なる位置に存在し、
SiO2として換算した(a)ケイ素またはその化合物の含有量が担体全量に対して0.01〜6質量%であり、かつ(b)アルカリ金属またはその化合物(M2Oとして換算、ただし、Mはアルカリ金属である。)および(c)銀の担持量がα−アルミナに対してそれぞれ0.01〜5質量%および1〜45質量%である、オレフィンの部分酸化用触媒。
【請求項2】
SiO2として換算した(a)ケイ素またはその化合物の含有量がα−アルミナに対して0.1〜5質量%であり、かつ(b)アルカリ金属またはその化合物(M2Oとして換算、ただし、Mはアルカリ金属である。)および(c)銀の担持量がα−アルミナに対してそれぞれ0.1〜1質量%および5〜20質量%である請求項に記載の触媒。
【請求項3】
該担体のα−アルミナの含有量が89〜99.9質量%である請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
該アルカリ金属がセシウムである請求項1〜のいずれか一つに記載の触媒。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒の存在下に、分子状酸素含有ガスによりオレフィンを気相酸化することよりなるオレフィンオキサイドの製造方法。
【請求項6】
該オレフィンはエチレンである請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの部分酸化用触媒、その製造方法および該触媒の存在下にオレフィンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化してアルキレンオキサイドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エチレンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化してエチレンオキサイドを製造するための触媒およびその担体については、数多くの文献が紹介されている。
例えば、JP−A−55−145,677には、アルミナ、シリカおよびチタニアの合計含有量が99重量%以上であり、かつ、周期律表のVa、VIa、VIII、IbおよびIIbの各族の金属含有量が金属酸化物の合計量として0.1重量%未満であり、かつpKaが+4.8のメチルレッドにより酸性色を呈しない非酸性担体に、銀および必要に応じてさらにアルカリ金属成分またはアルカリ土類金属成分を担持してなる銀触媒を使用することよりなるエチレンオキサイドの製造方法が開示されている。また、α−アルミナ担体の表面に非晶質シリカの被覆層を設けた担体に、触媒成分として銀とセシウムとを担持したエチレンオキサイド製造用触媒(US5,077,256およびUS5,395,812)が提案されている。
【発明の概要】
【0003】
上記US5,077,256やUS5,395,812に記載の触媒は、触媒性能にある程度満足し得るものである。しかしながら、エチレンオキサイドの生産は大きいので、選択率が僅かに1%向上するだけでも、原料エチレンを著しく節約できるので、より優れた触媒性能を有するエチレンオキサイド製造用触媒、その製造方法およびこの触媒を用いたエチレンオキサイドの製造方法が望まれる。
【0004】
上記諸目的は、下記(1)〜(11)により達成される。
【0005】
(1)銀または銀酸化物およびアルカリ金属またはその化合物を、ケイ素またはその化合物を含むα−アルミナ担体に担持させてなる触媒であって、該ケイ素またはその化合物の存在位置と、該アルカリ金属またはその化合物の微粒子の存在位置とがほぼ同じであるオレフィンの部分酸化用触媒。
【0006】
(2)銀の微粒子が(a)ケイ素またはその化合物および/または(b)アルカリ金属またはその化合物の微粒子の存在位置とは異なる位置に存在してなる前記(1)に記載の触媒。
【0007】
(3)SiOとして換算した(a)ケイ素またはその化合物の含有量が担体全量に対して0.01〜6質量%であり、かつ(b)アルカリ金属またはその化合物(MOとして換算、ただし、Mはアルカリ金属である。)および(c)銀の担持量がα−アルミナに対してそれぞれ0.01〜5質量%および1〜45質量%である前記(1)または(2)に記載の触媒。
【0008】
(4)SiOとして換算した(a)ケイ素またはその化合物の含有量がα−アルミナに対して0.1〜5質量%であり、かつ(b)アルカリ金属またはその化合物(MOとして換算、ただし、Mはアルカリ金属である。)および(c)銀の担持量がα−アルミナに対してそれぞれ0.1〜1質量%および5〜20質量%である前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の触媒。
【0009】
(5)該担体のα−アルミナの含有量が89〜99.9質量%である前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の触媒。
【0010】
(6)該アルカリ金属がセシウムである前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の触媒。
【0011】
(7)ケイ素またはその化合物を含むα−アルミナ担体に、銀化合物およびアルカリ金属化合物を含有する水溶液を含浸させたのち、乾燥し、ついで150〜250℃の温度で酸化性雰囲気中で0.1〜10時間焼成し、さらに250〜450℃の温度で酸化性雰囲気中で0.1〜10時間焼成し、かつ450〜700℃の温度で不活性ガス雰囲気中で0.1〜10時間加熱処理することよりなるオレフィンの部分酸化用触媒の製造方法。
【0012】
(8)該担体のα−アルミナ含有量が89〜99.9質量%であり、かつケイ素またはその化合物の含有量がSiO換算で0.01〜6質量%である前記(7)に記載の方法。
【0013】
(9)前記(1)〜(6)に記載の触媒の存在下に、分子状酸素含有ガスによりオレフィンを気相酸化することよりなるオレフィンオキサイドの製造方法。
【0014】
(10)該オレフィンはエチレンである前記(10)に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1における触媒の同一部分についてFE−TEMおよびEDSにより銀、ケイ素およびセシウムを測定したものであり、触媒表面の銀の分布を示すものあり、白い部分が銀である。
図2】同様に同一部分におけるケイ素の分布を示すものであり、白い部分がケイ素である。
図3】同様に同一部分におけるセシウムの分布を示すものであり、白い部分がセシウムである。
図4】比較例1における実施例1を同様の方法で測定した、触媒表面の銀の分布を示すものであり、白い部分が銀である。
図5】比較例1における実施例1を同様の方法で測定した、触媒表面のケイ素の分布を示すものであり、白い部分がケイ素である。
図6】比較例1における実施例1を同様の方法で測定した、触媒表面のセシウムの分布を示すものであり、白い部分がセシウムである。
図7】EXAFSのフーリエ変換の結果得られるα−アルミナ担持触媒および参照試料の距離と吸収強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による触媒は、前記のように銀または銀酸化物およびアルカリ金属またはその化合物を、ケイ素またはその化合物を含むα−アルミナ担体に担持させてなる触媒であって、該ケイ素、またはその化合物の存在位置と、該アルカリ金属またはその化合物の微粒子の存在位置とがほぼ同じであるオレフィンの部分酸化用触媒である。
【0017】
<担体>
本発明にかかる担体は、ケイ素の含有を必須とするα−アルミナであり、通常触媒担体用に用いられる成分、例えば、アルミニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属等を適宜用いることができる。これらの元素は、通常、酸化物、複合酸化物等の状態で存在する。
【0018】
前記担体におけるアルミニウムとしては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ−アルミナ等の形で存在し、α−アルミナが好適であるが、α−アルミナ以外のアルミニウム化合物を添加してもよい。α−アルミナそれ自体には特に制限はなく、一般にα−アルミナとして用いられるものであれば、いずれも使用することができる。該α−アルミナとしては、水酸化アルミニウム、β−アルミナ、γ−アルミナ等のα−アルミナ前駆体を熱処理することにより得られるが、特にバイヤー法焼成によるα−アルミナが好適に用いられ、Al含有量が89質量%以上、好ましくは97質量%以上、より好ましくは、99質量%以上が好適である。
【0019】
本発明で使用される担体にかかるケイ素またはケイ素化合物としては、ケイ素自体またはその他のケイ素化合物を含むものであればいずれも使用でき、例えば、ケイ素を、カルシウム化合物、カリウム化合物、鉄化合物等とともに焼成することにより、シリカ−カルシウム−カリウム−鉄の非晶質層を形成し得るものも使用することができる。その代表例としては、シリカ、長石、粘土、窒化ケイ素、炭化ケイ素、シラン、ケイ酸塩等を挙げることができる。
【0020】
その他、シリカ−アルミナ、ムライト等のアルミノケイ酸塩等も挙げることができる。これらは単独でも、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、合成品でも、天然物でもよい。ケイ素化合物の形態についても特に制限はなく、粉体、ゾル、溶液等のいずれの形態で添加してもよい。
【0021】
これらのケイ素またはケイ素化合物が粉体の場合、1〜300nm、好ましくは1〜20nmの平均粒径を有するものが好適に用いられる。これらのケイ素またはケイ素化合物のなかでも、1〜300nm、好ましくは1〜20nmの平均粒径を有するコロイド状のシリカが好適に用いられる。このコロイド状のシリカは、水溶液として用いるのが分散の容易さから好ましい。コロイド状のシリカは、ケイ酸ナトリウム水溶液を酸で中和して、一旦ゲルとしたのちに解膠する方法、ケイ酸ナトリウム水溶液をイオン交換により脱ナトリウム化する方法等によって得ることができる。
【0022】
ケイ素含量は、SiO換算で、担体全量に対して0.01〜6質量%、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。すなわちケイ素含量が上記範囲未満あるいは上記範囲を越えると、エチレンオキサイドへの選択率および/または触媒活性が低下し、好ましくないからである。
【0023】
本発明で使用される担体中のアルカリ金属含量は、安定な酸化物で換算で担体全量に対して0.01〜5質量%、好ましくは、0.05〜3質量%より好ましくは、0.1〜1質量%である。すなわち、アルカリ金属含有量が上記下限未満あるいは上記上限を越えると、エチレンオキサイドへの選択率が低下し、好ましくない。
【0024】
本発明の触媒に用いられる担体の製造方法は、一例を挙げれば粉末状のα―アルミナまたはα―アルミナ前駆体に、ケイ素化合物、カルシウム化合物、カリウム化合物、鉄化合物および有機結合剤を水または水溶液に加えて得られるスラッジを成形し、乾燥後、1000〜2000℃の温度で焼成することにより行われる。
【0025】
すなわち、具体的には、例えば、粉末状α−アルミナに所定量のケイ素化合物、および必要によりカルシウム化合物、カリウム化合物、鉄化合物等、および有機結合剤を添加し、さらに必要により水を加えてニーダー等の混練機を用いて充分混合したのち、押出成形法、その他の方法で造粒し、80〜900℃、好ましくは、90〜200℃の温度で0.01〜100時間、より好ましくは、0.1〜30時間乾燥し、ついで1000〜2000℃、好ましくは1200〜1700℃、より好ましくは1300〜1700℃の温度で酸化性雰囲気中で0.1〜100時間、好ましくは、1〜30時間焼成する。ついで0.1〜100℃/min、好ましくは10〜90℃/minの冷却速度で空気及び/又はN雰囲気下で900℃まで冷却した後、常温まで冷却する。なお、上記乾燥は、場合によっては省略することもできる。
【0026】
このように焼成および常温までの冷却に供された担体は、洗浄に供される。該洗浄は、脱イオン水による煮沸洗浄が好ましく、その洗浄後の洗浄液の比抵抗が10,000Ωcm(25℃)以上、好ましくは5,000〜1,000,000Ωcm(25℃)となるように洗浄することが好適であるが、場合によっては省略することもできる。
【0027】
有機結合剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、コーンスターチ等があり、担体形成材料に対して、0.1〜100質量%、好ましくは、1〜50質量%用いられる。また、該有機結合剤とともに、桃、杏、クルミ等の殻、種子等を均一粒径に揃えたもの、あるいは粒子径が均一で焼成により消失する物質等を気孔形成剤として一緒に用いてもよい。
【0028】
粉末状α−アルミナまたはα−アルミナ前駆体としては、粒径0.1〜200μm、好ましくは1〜100μmのものが用いられる。
【0029】
本発明触媒の担体の形状には特に制限はなく、通常、球状、ペレット状、リング状等の粒状で用いられる。また、その大きさについては、その平均相当直径は、通常3〜20mmであり、好ましくは5〜10mmである。
【0030】
担体のBET(Brunaer−Emett−Teller)比表面積は、0.03〜10m/g、好ましくは0.1〜5m/g、より好ましくは0.3〜2m/gである。すなわち、該比表面積が上記下限未満では、充分な吸水率が得られず、一方、上記上限を越える場合には、細孔径が小さくなり、該担体を用いて製造される触媒を使用しての反応生成物であるエチレンオキサイドの逐次酸化が促進されるので好ましくない。
【0031】
担体の吸水率は、通常、10〜70%、好ましくは20〜60%、より好ましくは30〜50%である。すなわち、吸水率が上記下限未満では、吸水率が低すぎて触媒成分の担持が困難になり、逆に上記上限を越えると、充分な圧壊強度が得られ難い。
【0032】
担体の平均細孔径は、通常、0.1〜5μm、好ましくは0.2〜3μm、より好ましくは0.3〜0.9μmである。すなわち、平均細孔径が上記上限を越えると、該担体を用いて製造された触媒の活性が低下し、一方、上記下限未満では、ガスの滞留により生成物であるエチレンオキサイドの逐次酸化反応が促進される。また、担体の気孔率は、通常、40〜80%であり、好ましくは50〜70%である。気孔率が上記下限より低すぎると、担体比重が過度に大きくなり、一方、上記上限を越えると、担体の充分な圧壊強度が得られ難い。
【0033】
<触媒調製>
本発明によるオレフィンの部分酸化用触媒は、上記担体に銀およびアルカリ金属またはアルカリ金属化合物を担持することにより調製することができる。担体に担持する触媒成分は、銀および反応促進剤としてのアルカリ金属またはアルカリ金属化合物である。
【0034】
好ましくは、例えば、銀を形成させるための銀化合物単独または銀化合物および銀錯体を形成するための錯化剤および反応促進剤であるアルカリ金属化合物を含む水溶液を調製し、これに担体を含浸させたのち、乾燥し、焼成する。この乾燥は、空気、酸素ガス等の酸化性ガス、または窒素等の不活性ガス雰囲気中、好ましくは、空気雰囲気中で80〜100℃の温度で行うのが好ましい。
【0035】
焼成は、空気、酸素ガス等の酸化性ガスまたは窒素等の不活性ガス雰囲気中で150〜700℃の温度で行うのが好ましい。なお、この焼成は、1段階または2段階以上で行ってもよい。なかでも、好ましくは、1段階目を酸化雰囲気中で150〜350℃、好ましくは180〜250℃の温度で0.01〜10時間、好ましくは0.1〜5時間、2段階目を酸素ガスを含有する酸化性雰囲気中で250〜500℃、好ましくは280〜450℃の温度で0.01〜10時間、好ましくは0.1〜5時間処理したものが好適である。さらに好ましくは、3段階目を窒素、ヘリウムおよびアルゴンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の不活性ガスの雰囲気、または水素、一酸化炭素等の還元性ガス雰囲気、あるいは該不活性ガスと該還元性ガスとの混合物雰囲気中、好ましくは不活性ガス雰囲気中で450〜700℃、好ましくは500〜650℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜8時間処理したものが好ましい。
【0036】
上記銀化合物の代表例としては、硝酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀、酢酸銀、プロピオン酸銀、乳酸銀、クエン酸銀、ネオデカン酸銀等を挙げることができる。錯化剤の代表例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどを挙げることができる。反応促進剤の代表例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、好ましくはセシウムである。また、必要によりタリウム、硫黄、クロム、モリブデン、タングステン等を併用することができる。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
銀の担持量は、金属銀換算で担体に対して1〜45質量%、好ましくは5〜25質量%である。また、触媒調製時に担持されるアルカリ金属の担持量は、MO(ただし、Mはアルカリ金属)換算で担体に対して0.0001〜3質量%、好ましくは0.001〜2質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
【0038】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等があり、好ましくはセシウムである。
【0039】
このようにして得られる本発明の触媒は、ケイ素またはその化合物を含有するα−アルミナ担体の細孔部およびその他の部分の表面に存在するケイ素またはその化合物、例えばSiOのごときケイ素酸化物の微粒子が必ずしも均一に分布存在するわけではなく、ある領域に偏在し、その存在位置付近にアルカリ金属酸化物〔MO(ただし、Mはアルカリ金属)〕、例えばCsOの微粒子が存在するのである。
【0040】
一方、銀またはその酸化物の微粒子は、前記ケイ素化合物粒子およびアルカリ金属化合物粒子が主として存在する部位ではなく、むしろそれ以外の領域に主として存在し、その平均直径は、10〜500nm、好ましくは30〜300nmである。
【0041】
これらの現象は、本発明により得られる触媒の同一個所について、FE/TEMおよびXAFSにより銀、アルカリ金属およびケイ素を測定し、各々の成分の分布を調べ、その結果、得られる写真から銀またはその酸化物粒子の分布(図1)、ケイ素またはその化合物をの分布(図2)およびアルカリ金属またはその酸化物の分布(図3)が明らかとなり、ケイ素とアルカリ金属はほぼ同一個所に存在することがわかる。しかして、ケイ素またはその化合物に対するアルカリ金属またはその化合物の局在化頻度は60〜99.9%、好ましくは80〜99%である。なお、ここに局在化頻度とは、FE−TEMのEDS画像の中で、単位面積当りのSiとCsの重複する面積/単位面積当りのSiの面積×100で表すことができる。一方、銀は、ケイ素およびアルカリ金属とは異なった部分に存在することがわかる。
【0042】
これに対し、従来の触媒においては、図4(銀粒子)、図5(ケイ素化合物粒子)および図6(アルカリ金属酸化物粒子)に示すように、銀ないし酸化銀粒子の粒径は大きくかつ独立しておらず、またケイ素ないしケイ素化合物(例えばシリカ)微粒子は偏在せず、かつアルカリ金属酸化物微粒子は、ケイ素化合物の存在位置とは一致しないのである。
【0043】
また、試料A(1質量%のAgOを担持したα−アルミナ−SiO担体(SiO2質量%含有))触媒および組成以外は後述の実施例1と同様の方法で調製した試料B(1質量%のAgOおよび0.1質量%を担持したα−アルミナ−SiO担体(SiO2質量%含有)−0.1%Cs)触媒の2種をめのう乳鉢ですりつぶした後プレス成形し、これらを厚さ80μmのポリエチレンフィルムに密封して触媒を調製した。参照用にAg、AgOおよびAgOも同様に調製した。
【0044】
これらをSpring−8のBL19B2ラインで、Si(111)モノクロメータを使用し、イオンチャンバー検出器で、透過法により測定した。
【0045】
また、図7に示すように、EXAFS(extended X−ray absorption fine structure:広域X線吸収微細構造)のフーリエ変換の結果から、試料AおよびB共に、参照Agと同様のピーク形態となっており、触媒中のAg周囲には、他の元素の痕跡は認められなかった。なお、同図において、曲線Aは試料Aのものであり、曲線Bは試料Bのものであり、曲線CはAg箔のものであり、曲線DはAgOのものであり、また曲線EはAgOのものである。
【0046】
EXAFSから得られる情報は、田中庸裕および山下弘巳編「固体表面キャラクタリゼーションの実態」(2005年2月10日 株式会社講談社発行)第42〜48頁に記載されており、吸収端から〜1000eVまでに見られる振動構造は、EXAFSとよばれる構造である。この振動構造は、基本的には吸収端直後の複雑なバンドと同じ性質の電子遷移に起因する。しかし吸収端から離れているために、励起して放出された自由電子のエネルギーが高く、隣接原子を通り越す前方散乱(front scattering)の確率と、180度後方向にはね返される後方散乱(back scattering)の確率が圧倒的に高くなり、多重散乱が起こる率はきわめて少なくなる。したがって、EXAFS振動は、隣接原子に一回散乱(single scattering)され原子核位置に戻ってくる電子が作る波の干渉によるものである。一回散乱を仮定すると、この振動の振幅は、散乱電子の運動量kに対して隣接原子の配位数、原子間距離をパラメーターとした簡単な表式として求めることができ、スペクトルからは隣接原子の配位数、原子間距離を見積もることが可能である。
【0047】
XAFSの測定法
X線吸収スペクトルの測定法には、一般的な透過法、蛍光X線を利用する蛍光法(励起スペクトル法)、Auger電子およびそれに関連する二次電子をモニターする電子収量法などがある。遷移金属、希土類などの測定には透過率の高い硬X線が利用されるため、測定試料を高真空におく必要はなく、ガス雰囲気下での測定もできることから、厳密な意味でのin situ測定が可能である。またX線吸収スペクトルは、上記のようにX線吸収による電子遷移を調べる手法であるために、対象となる試料の相(固、アモルファス、液、気)に無関係である。
【0048】
このようにして得られる触媒は、オレフィン分子状酸素含有ガスによる気相部分酸化によるアルキレンオキサイドの製造に使用される。このようなオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブデン類、ブタジエン等があり、特にエチレンからエチレンオキサイド、1,3−ブタジエンから3,4−エポキシ−ブテンなどの製造に用いられる。
【0049】
ここに、分子状酸素含有ガスとしては、空気、純酸素、純酸素と不活性ガスとの混合物、酸素富化ガス等がある。
【0050】
酸化反応は、従来公知のオレフィンの気相酸化反応に使用できる反応器を使用することができる。具体的には、オレフィンと分子状酸素含有ガス、後記する希釈ガスや反応調節剤を含む供給原料の全圧は0.01〜10MPa、好ましくは0.01〜4MPa、より好ましくは0.02〜3MPaである。
【0051】
本発明の触媒を充填した反応器には、分子状酸素含有ガスとオレフィンとに加え、希釈ガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、アルカンなどの1種または2種以上を混合して共に供給することができる。これらのガス分圧は爆発限界外のガス組成で反応器内に供給することが必要である。
【0052】
原料ガスには、反応調節剤を配合することもできる。このような反応調節剤としては、ハロゲンを含む化合物であって、例えば、塩素化エチレン、塩化ビニル、塩化メチル、塩化t−ブチルなどの炭素数1〜6の塩素化アルケン、ジクロロメタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、クロロホルム、塩素化ビフェニル、モノクロロベンゼンなどの塩素化ベンゼン、ジクロロプロパン、ジブロモプロパン、ジクロロプロペン、ジブロモプロペン、クロロブタン、ブロモブタン、ジクロロブタン、ジブロモブタン、クロロブテン、ジブロモエチレン、トリブロモエチレン、臭素化エチレン、臭化ビニル、臭化メチル、臭化t−ブチルなどの炭素数1〜6の臭素化アルケン、ジブロモメタン、テトラブロモメタン、臭素化ビフェニル、モノブロモベンゼンなどの臭素化ベンゼン等が例示でき、これらの1種または2種以上を併用して使用することができる。これらの中でも、塩化ビニル、塩素化エチレンを使用することが好ましい。これらの反応調節剤の濃度は、原料ガスの容積基準で、0.01〜1000容量ppm、より好ましくは0.1〜100容量ppm、特には1〜50容量ppmである。
【0053】
原料ガス組成としては、オレフィン0.5〜40容量%、好ましくは10〜30容量%、酸素3〜10容量%、好ましくは6〜9容量%、炭酸ガス1〜30容量%、好ましくは2〜7容量%、残部が窒素、アルゴン、水蒸気等の不活性ガスおよびメタン、エタン等の低級炭化水素類、さらに反応調節剤よりなる混合ガスがある。
【0054】
反応温度は、原料となるオレフィンの種類により適宜選択することができるが、稼動時の反応器温度としては150〜300℃、好ましくは170〜250℃である。
【0055】
反応器内に供給する原料ガスの空間速度は、100〜30,000hr−1、より好ましくは200〜20,000hr−1、さらに好ましくは1,000〜10,000hr−1である。反応は、原料オレフィンの0.1〜75モル%、より好ましくは1〜60モル%、特に好ましくは1〜50モル%が転化すればよく、非転化のオレフィンは、反応器に適当に再循環させればよい。即ち、原料供給速度が、100hr−1を下回ると生産効率が低下し、その一方30,000hr−1を越えると転化率が低下するため好ましくない。なお、所望の転化レベルを達成するために必要な実際の接触時間は、供給する原料ガスの種類や対酸素比、触媒への助触媒あるいは反応促進剤の担持量、触媒の銀の担持量、反応ガス中に存在する反応調節剤の量、反応温度及び反応圧力などの要因に依存して広い範囲内で変えることができる。
【0056】
つぎに、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0057】
なお、実施例および比較例に記載する変化率および選択率は次式により算出されたものである。
【0058】
【数1】
【0059】
【数2】
【0060】
実施例1
市販のアルミナ粉体(α−アルミナ平均1次粒子径1〜2μm、平均2次粒子径50〜60μm、平均BET比表面積2.3m/g)の95重量部と有機結合剤(カルボキシメチルセルロ−ス)10重量部をニ−ダに投入し、十分に混合した後、平均粒径15nmのアルミナゾル4重量部(Al含有量として)、平均粒径2〜20nmのコロイド状シリカ1重量部(SiO含有量として)および平均0.5mmのアプリコット粉末を加え、これに水30重量部をニ−ダに投入し、十分に混合したアルミナ混合物を押し出し成形した後、平均相当直径8mmに造粒し、120℃の温度で2時間乾燥し、ついで、1500℃の温度で2時間焼成した。ついで、焼成処理後の担体を10℃/minの冷却速度で900℃にまで冷却し、その後常温まで冷却して担体Aを得た。得られた担体は、BET比表面積2.0m/g、見掛気孔率59%、細孔容積39cc/g、吸水率39%のα−アルミナ粉体の担体であった。
【0061】
このようにして得られたα−アルミナを主成分とした担体54.4gにシュウ酸銀15g、硝酸セシウム0.2g、エチレンジアミン8mlおよび水12gからなる銀含有液を含浸させた後、120℃で3時間乾燥して液体成分を除去した。この銀を担持した触媒前駆体を、予め250℃に予熱された空気流中で30分間加熱し、予め450℃に予熱された空気流中で30分間加熱した後、550℃で予熱された窒素気流中で8時間加熱して、触媒(a)を得た。触媒(a)は、図1から図3に示されるように、担体のSiO成分にCが局在化していることをFE−TEM及びEDS分析で確認した。
【0062】
触媒(a)を、粉砕し、600〜850メッシュに篩分け、その1.2gを内径3mm、管長600mmのステンレス鋼製の反応管に充填し、これに下記条件下にてエチレンの気相酸化を行った。エチレン転化率が原料エチレンに対し10%の場合の120時間後のエチレンオキサイド選択率は82.2%、反応温度は237℃であった。
【0063】
<反応条件>
空間速度:5,500/hr
反応圧力:2.1MPa
原料ガス: エチレン20容量%、酸素7.5容量%、二酸化炭素6容量%、メタン50容量%、アルゴン14容量%、窒素2.2容量%、エタン0.3容量%、エチルクロライド6容量ppm。
【0064】
比較例1
α−アルミナを主成分とした担体(比表面積2.2m/g、吸水率46%)54.4gにシュウ酸銀15g、硝酸セシウム0.4g、エチレンジアミン8mlおよび水12gからなる銀含有液を含浸させた後、120℃で3時間乾燥して液体成分を除去した。この銀を担持した触媒前駆体を、空気気流中で280℃で48時間加熱処理して、触媒(b)を得た。
【0065】
触媒(b)は、図4から図6に示されるように、担体のSiO成分にCが局在化していないことをFE−TEMおよびEDS分析で確認した。担体のSiO成分にCが高分散した触媒(b)を実施例1と同様に反応した場合、エチレンオキサイド選択率は80.7%、反応温度は243℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明による触媒は、オレフィンの分子状酸素含有ガスによる気相酸化によるアルキレンオキサイド、特にエチレンの酸化によるエチレンオキシサイドおよび1,3−ブタジエンの酸化による3,4−エポキシブテンの製造に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7