(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5679392
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】安全弁
(51)【国際特許分類】
F16K 17/38 20060101AFI20150212BHJP
【FI】
F16K17/38 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-209772(P2014-209772)
(22)【出願日】2014年10月14日
【審査請求日】2014年12月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102452
【氏名又は名称】エスアールエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090310
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 正俊
(72)【発明者】
【氏名】世良 和也
(72)【発明者】
【氏名】萩原 敏治
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 幸伸
【審査官】
柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−132475(JP,A)
【文献】
特開2002−181298(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0276992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に連通した高圧流体用の流体通路を内部に有する本体と、
前記本体内に設けられ、前記流体通路を開閉可能な流体遮断体と、
前記流体通路の閉状態を前記高圧流体の圧力に抗して固体状態で保持し、少なくとも前記本体の温度上昇に伴って融解し、当該融解状態で前記本体の外部に流出して前記流体遮断体が前記流体通路を開放するように、前記本体内に設けられた第1の可溶材と、
固体状態において前記融解した第1の可溶材の前記本体外部への流出を阻止するように前記本体に単独で設けられた第2の可溶材とを、
有し、前記第2の可溶材は、前記第1の可溶材が融解する温度よりも高い温度で融解を開始し、前記本体から少なくとも一部が離れたとき、前記融解した第1の可溶材と伴に前記本体の外部に流出する安全弁。
【請求項2】
請求項1記載の安全弁において、前記第2の可溶材は、融解した前記第1の可溶材から圧力を受ける面を固体状態において有し、この面の周囲に周面を有し、その周面が前記本体側に設けた取付面に接触している安全弁。
【請求項3】
請求項1または2記載の安全弁において、前記第1及び第2の可溶材は低融点合金であり、前記第1の可溶材と前記第2の可溶材との間に両者の接触を阻止する接触阻止体を設けた安全弁。
【請求項4】
外部に連通した高圧流体用の流体通路を内部に有する本体と、
前記本体内に設けられ、前記流体通路を開閉可能な流体遮断体と、
固体状態において前記流体遮断体が前記流体通路を閉状態とするように設けられ、すくなくとも前記本体の温度上昇に伴って前記固体状態から融解して、前記遮断体に前記流体通路を開状態とさせる可溶材とを、
有する安全弁において、
前記流体遮断体による前記流体通路の閉状態を前記高圧流体の圧力に抗して保持する保持体を、前記本体内に設け、前記保持体は、前記可溶材が融解を開始した状態において液状であって、この液状状態において前記遮断体に前記流体通路を開状態とさせるように前記本体の外部に流出可能に設けられ、
前記可溶材は、非融解時に、前記高圧流体の圧力を受けている液状の前記保持体の外部流出を阻止するように、かつ融解開始によって前記本体から少なくとも一部が離れたとき、前記本体の外部に前記液状の保持体と伴に流出可能に、前記本体に単独で設けられた安全弁。
【請求項5】
請求項4記載の安全弁において、前記可溶材は、前記液状の保持体の外部への流出を阻止する位置に設けられ、前記可溶材は、前記液状の保持体の圧力を受ける面を有し、この面の周囲に周面を有し、その周面が前記本体側に設けた取付面に接触している安全弁。
【請求項6】
請求項4記載の安全弁において、前記保持体と前記可溶材とは連絡通路を介して連通し、前記連絡通路内に前記保持体と前記可溶材との分離体が設けられている安全弁。
【請求項7】
請求項4記載の安全弁において、前記流体遮断体は、前記流体通路の長さ方向に沿って摺動可能に設けられ、前記流体通路に侵入して前記流体通路を閉塞する状態と、前記流体通路から後退して前記流体通路を開放する状態とをとる弁体であり、前記保持体は、前記弁体を挟んで前記流体通路と反対側に設けた収容室内に充満することにより、前記弁体を前記流体通路内に侵入させ、前記収容室は、連絡通路を介して前記本体の外部に連通し、前記連絡通路を前記可溶材が封止し、前記連絡通路の縦断面積は、前記可溶材の受圧面積が前記収容室の受圧面積よりも小さくなるように構成されている安全弁。
【請求項8】
請求項4乃至7いずれか記載の安全弁において、前記保持体は、液体である安全弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全弁に関し、特に、高圧流体を収容している高圧設備に取り付けられ、少なくとも安全弁の本体が温度上昇したときに、高圧流体を外部に放出する安全弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安全弁としては、特許文献1に開示されているようなものがある。特許文献1の安全弁では、筒状のハウジングの一側端に入口穴を形成し、他側端に出口穴を形成している。前記ハウジング内に形成した可溶材収容室に可溶材を収容している。入口穴を開放及び封止可能なピストンをハウジング内のピストン室に設け、ピストンにおける入口穴と反対側にバックアップ面を形成し、バックアップ面を合金収容室内の低融点合金に支持させ、これによりピストンが入口穴を封止した状態を保持する。可溶材収容室には可溶材排出路が設けられている。ハウジング内における可溶材収容室の周囲に連通路が形成され、この連通路を介してピストン室を出口路に連通している。温度上昇によって可溶材が融解して、可溶材排出路から排出されると、ピストンによる入口穴の封止が解除され、入口穴から連通路を介して出口穴に高圧流体が排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−322267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安全弁が設置されている容器が火災等によって温度上昇する際、その温度上昇は様々であり、例えば火災の火元に近い位置に容器がある場合には、安全弁の温度上昇は急激であるが、容器が火元から離れている場合には、安全弁の温度上昇は緩やかである。特許文献1の安全弁では、温度上昇が緩やかな場合、可溶材の外周囲部分の温度が最初に融解温度近くになり、この外周囲部分から可溶材の融解が開始される。しかし、可溶材の内部はまだ融解しておらず、融解した外周囲部分から可溶材が可溶材排出路に出ていくので、ピストンはゆっくりとしか移動できない。しかも、融解熱により融解し始めた可溶材の部分は、周囲の熱を吸収するので、高温となっている外周囲部分から離れた場所にある可溶材の内部が融解温度に達するまで時間が必要である。さらに、可溶材が溶け始めたことにより、ピストンがゆっくりと移動し、入口穴が少し開口すると、高圧流体が少し開口した入口穴からピストン室内に放出されたことにより、可溶材の外周囲の温度も低下し、可溶材の融解が停止し、ガス放出通路は充分な通路面積が構成されない状態となる。そのため、安全弁において可溶材が溶け始めても、流体を一気に放出することができない。
【0005】
本発明は、安全弁の温度上昇が緩やかな場合でも、可溶材が溶け始めると、一気に高圧流体を放出できる安全弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による安全弁は、本体を有している。本体は、外部に連通した高圧流体用の流体通路を内部に有している。流体通路は、本体内に直線状に設けることもできるし、途中で屈曲したものとすることもできる。高圧流体としては、高圧気体または高圧液体を使用することもできる。前記本体内に流体遮断体が設けられている。この流体遮断体は、前記流体通路を開閉可能なものである。前記流体通路の閉状態を前記高圧流体の圧力に抗して第1の可溶材が固体状態で保持している。第1の可溶材は、少なくとも前記本体の温度上昇に伴って融解し、当該融解状態で前記本体の外部に流出して前記流体遮断体が前記流体通路を開放するように、前記本体内に設けられている。前記融解した第1の可溶材の前記本体外部への流出を第2の可溶材が固体状態で阻止する。前記第2の可溶材が融解を開始する温度は、前記第1の可溶材が融解する温度よりも高い。この温度になって第2の可溶材が融解を開始し、前記本体から少なくとも一部が離れたとき、第2の可溶材は前記本体の外部に前記融解した第1の可溶材と伴に流出可能に、前記本体に単独で設けられている。単独に設けられているとは、例えば第2の可溶材は、基材に含浸されたような状態ではなく、第2の可溶材のみで存在し、完全に第2の可溶材が融解したときに第2の可溶材以外に残存物を存在しないように設けられている。
【0007】
このように構成された安全弁では、第2の可溶材が融解を開始する温度よりも低い温度であって、第2の可溶材がまだ融解を開始していないとき、第1の可溶材は液状状態または固体状態である。この液状状態または固体状態の第1の可溶材を介して高圧流体の圧力が第2の可溶材に印加されるが、第2の可溶材自体は固体状態で、本体に設けられているので、高圧流体の圧力に耐えて本体外部に流出せず、流体遮断体は流体通路を閉じている。火災等の異常が発生し、少なくとも本体の温度が上昇して第2の可溶材が融解を開始する温度となると、第1の可溶材は完全に液状化している。そして、第2の可溶材の少なくとも一部が融解し、本体から外れ、外部に流出可能となり、高圧流体の圧力が液状状態の第1の可溶材を介して第2の可溶材に印加されることによって、第2の可溶材は外部に押しだされる。その結果、液状の第1の可溶材も一気に外部に放出され、流体遮断体が流体通路を完全に開く。従って、温度上昇が緩やかで、たとえ第2の可溶材の一部しか融解していなくても、一気に高圧流体を一気に放出することができる。
【0008】
前記第2の可溶材は、融解した前記第1の可溶材の圧力を受ける面を固体状態において有するものとすることができる。この面の周囲に第2の可溶材は周面を有し、その周面が前記本体側に設けた取付面に接触している。取付面は、本体に直接に設けることもできるし、本体とは別個に形成した取付部に取付面を構成し、この取付部を本体に設置することもできる。
【0009】
このように構成すると、温度が上昇していない状態では、第2の可溶材は、取付面との引っかかりや摩擦等の影響を受けており、第2の可溶材は第1の可溶材を介して高圧流体の圧力を受けても、取付面から容易に外れることはない。温度が上昇して、第2の可溶材の周面が融解を開始すると、第2の可溶材は取付面から外れ、第1の可溶材を介しての高圧流体の圧力によって一気に本体の外部に放出される。
【0010】
前記第1及び第2の可溶材を低融点合金とすることができる。この場合、前記第1の可溶材と前記第2の可溶材との間に両者の接触を阻止する接触阻止体を設ける。
【0011】
液状化した第1の可溶材が第2の可溶材に接触した場合、両者の間で合金化が生じ、第2の可溶材の融解を開始する温度が本来の融解を開始する温度と異なったものになることがある。これを放置すると、本来、安全弁が動作すべき温度になっても、安全弁が動作しなかったり、安全弁が動作すべき温度よりも低い温度で安全弁が動作する可能性がある。このような合金化を阻止するために、接触阻止体を設けてある。接触阻止体は、第1及び第2の可溶材の間に両者を分離するように配置することもできる。或いは、第1の可溶材と第2の可溶材との間に、箔を配置することによって接触阻止体を構成することもできるし、第2の可溶材にめっきや塗装を施して第2の可溶材に薄膜を形成することによって接触阻止体を構成することもできる。
【0012】
本発明の別の態様の安全弁も、上記の態様と同様に、本体と、流体遮断体とを有している。固体状態において前記流体遮断体が前記流体通路を閉状態とするように、可溶材が設けられている。可溶材は、この安全弁が取り付けられている少なくとも前記本体の温度上昇に伴って固体状態から融解して、前記遮断体に前記流体通路を開状態とさせる。前記流体遮断体による前記流体通路の閉状態を前記高圧流体の圧力に抗して保持する保持体を、前記本体内に設けてある。前記保持体は、前記可溶材が融解を開始した状態において液状である。可溶材は、液状状態において前記遮断体に前記流体通路を開状態とさせるように前記本体の外部に流出可能に設けられている。前記可溶材は、非融解時に、前記高圧流体の圧力を受けている液状の前記保持体の外部流出を阻止するように、かつ融解開始によって前記本体から少なくとも一部が離れたとき、前記本体の外部に前記液状の保持体と伴に流出可能に、前記本体に単独で設けられている。単独に設けられているとは、例えば可溶材は、基材に含浸されたような状態ではなく、可溶材のみで存在し、完全に可溶材が融解したときに可溶材以外に残存物が存在しないように設けられている。
【0013】
このように構成された安全弁では、可溶材が融解を開始する温度よりも低い温度であって、可溶材がまだ融解していないとき、保持体は液状状態または固体状態である。この液状状態または固体状態の保持体を介して高圧流体の圧力が可溶材に印加されるが、可溶材自体は固体状態であるので、高圧流体の圧力に耐えて本体外部に流出せず、流体遮断体は流体通路を閉じている。火災等の異常が発生し、温度が上昇して可溶材の融解が開始される温度になったとき、保持体は液状状態であり、少なくとも可溶材の一部が融解する。その結果、可溶材は外部に流出可能となり、高圧流体の圧力が液状状態の保持体を介して可溶材に印加されることによって、可溶材は外部に押しだされ、液状の保持体も一気に外部に放出され、流体遮断体が流体通路を完全に開く。従って、温度上昇が緩やかで、たとえ可溶材の一部しか融解していなくても、高圧流体を一気に放出することができる。
【0014】
前記可溶材は、前記液状の保持体の外部への流出を阻止する位置に設けることができる。この場合、前記可溶材は、前記液状の保持体の圧力を受ける面を有し、この面の周囲に周面を有し、その周面が前記本体側に設けた取付面に接触している。取付面は、本体に直接に設けることもできるし、本体とは別個に形成した取付部に取付面を構成し、この取付部を本体に設置することもできる。
【0015】
このように構成すると、温度が上昇していない状態では、可溶材は、取付面との引っかかりや摩擦等の影響を受けて、保持体を介して高圧流体の圧力を受けても、取付面から容易に外れることはない。温度が上昇して、可溶材の周面が融解すると、可溶材は取付面から外れ、保持体からの圧力によって一気に本体の外部に放出される。
【0016】
前記保持体と前記可溶材とは連絡通路を介して連通しているものとすることができる。前記連絡通路内には、前記保持体と前記可溶材との分離体が設けられている。
【0017】
このように構成された安全弁では、可溶材と保持体とが、連絡通路中に設けた分離体によって分離されており、保持体が液状化していていも、保持体が可溶材側に漏れることが無く、流体遮断体が、わずかでも流体通路を開くことはない。
【0018】
前記流体遮断体は、前記流体通路の長さ方向に沿って摺動可能に設けられた弁体とすることができる。弁体は、前記流体通路に侵入して前記流体通路を閉塞する状態と、前記流体通路から後退して前記流体通路を開放する状態とをとる。前記保持体は、前記弁体を挟んで前記流体通路と反対側に設けた収容室内に充満することによって前記弁体を前記流体通路内に侵入させている。前記収容室は、連絡通路を介して前記本体の外部に連通している。この連絡通路を前記可溶材が封止している。前記連絡通路の縦断面積は、前記可溶材の受圧面積が前記収容室の受圧面積よりも小さくなるように構成されている。
【0019】
このように構成すると、可溶材の受圧面積が小さくなり、不用意に可溶材が外れることを防止できる上に、可溶材がクリープを生じにくくできる。
【0020】
また、保持体としては、例えば油や水のような液体を使用することもできる。液体を保持体として使用すると、可溶材が融解し始めたとき、保持体は絶対に液状状態にあり、可溶材と共に確実に外部に放出される。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の上記一態様によれば第2可溶材が融解し始めたとき、また本発明の上記別の態様によれば可溶材が融解し始めたとき、直ちに高圧流体を放出することができるので、安全弁の信頼性及び安全弁の作動の確実性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態の安全弁における高圧流体を閉塞した状態の縦断面図である。
【
図2】
図1の安全弁における高圧流体を開放した状態の縦断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態の安全弁における高圧流体を閉塞した状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1実施形態の安全弁は、
図1及び
図2に仮想線で示す高圧設備、例えば高圧ガス容器2に設けられるもので、本体4を有している。本体4は、基部6を有し、基部6は平板状、例えば円板状に形成され、その一方の主表面、例えば下面中央に円筒状に形成した雄ねじ部8を有し、その外周面に雄ねじ10が形成されている。この雄ねじ10が、高圧ガス容器2に外部に連通するように形成した通路12の内周面に形成した雌ねじ14にガスケット5を介して螺合している。
【0024】
この雄ねじ部8の通路12側の端の中央から、基部6の他方の主表面、例えば上面まで貫通するように、例えば円孔状の高圧流体通路16が形成されている。この高圧流体通路16は、通路12側から基部6に向かう途中で、その直径が拡大され、段が形成されている。
【0025】
基部6の上面に筒状部、例えば円筒状部18が高圧流体路16と同心に形成されている。この円筒状部18は、基部6の上面から上方に向かって伸び、その上端が開放されている。この円筒状部18に本体4の胴部20が被せられている。これら基部6及び胴部20は、いずれも熱伝導が良好な材質、例えば金属製である。
【0026】
胴部20も、筒状、例えば円筒状に形成されている。この胴部20の内部には、基部6側の端、即ち下端から、その反対側に、即ち上端側に向かって途中まで円筒状部18を包囲する円形の大凹所22が形成されている。この大凹所22の基部6の上端から胴部20の上端に向かって途中まで円形の中凹所24が形成されている。この中凹所24は、大凹所22と同心に形成され、大凹所22よりも小径で、例えば円筒状部18の内径にほぼ一致する径を有している。この中凹所24の上端から胴部20の上端に向かって途中まで円形の小凹所26が形成されている。この小凹所26も、大凹所22と同心に形成され、中凹所24よりも小径である。この小凹所26の上端と胴部20の上端との間に、流体通路16の出口28が形成されている。出口28と高圧流体通路16とは、大凹所22、中凹所24、小凹所26を介して連通している。
【0027】
中凹所24内には、流体遮断体、例えばピストン30の円環状の基部32の外周面が接触している。基部32の一方の主表面、例えば下面からピストン30の円筒状の胴部34が本体4の基部6側、即ち下方に向かって伸延している。この胴部34の下端には、流体通路16内に侵入し、これを閉塞可能な弁体36が形成されている。ピストン30は、中凹所24内をピストン室として、その長さ方向に沿って摺動可能である。弁体36が
図1に示すように下降したとき流体通路16を閉塞し、
図2に示すよう弁体36が上昇したとき、流体通路16を開放する。
【0028】
ピストン30の内部は、基部32側で開口した空洞に形成され、その空洞の内周面には、小凹所26から中凹所24を経て大凹所22の上端付近まで伸延させたガイド38の外周面が接触している。ピストン30が摺動するとき、ガイド38がピストン30を案内する。ガイド38は上下両端が開口された管状である。ピストン30の胴部34の下端周縁には、所定の角度を隔てて複数の窓40が形成されている。従って、
図2に示すように、ピストン30が中凹所24の上端まで上昇して、弁体36が流体通路16を開放したとき、流体通路16は、窓40、ピストン30の内部、ガイド38の内部を介して出口28に直線状に連通する。
【0029】
弁体36が流体通路16内に侵入した状態では、ピストン30の基部32の後方にある中凹所24の部分には空間がある。この空間に保持体、例えば第1の可溶材42が収容されている。第1の可溶材42は、ガイド38に挿通された環状のもので、この安全弁の通常使用温度、例えば摂氏85度よりも高い温度、例えば摂氏90度で融解が開始され、摂氏100度では完全に液状化するものである。摂氏90度よりも低い温度では第1の可溶材42は固体である。第1の可溶材42としては、例えば低融点合金を使用することができる。第1の可溶材42としては、共晶合金を使用することもできるが、必ずしも共晶合金である必要は無い。この第1の可溶材42が収容されている部分が収容室43である。
【0030】
この第1の可溶材42側にピストン30を押圧するように、円筒状部18内には、付勢手段、例えばコイルバネ44が配置されている。コイルバネ44は、円筒状部18の内側にある基部6の上面と、ピストン30の基部32の下面の間に設けられている。これによって、上述した予め定めた温度よりも低い温度では、弁体36が流体通路16を閉塞している状態が維持されている。また、コイルバネ44を設けたことにより、ピストン30のがたつきが防止され、更に、第1の可溶材42が液状化して膨張しても、弁体36が下方に移動することが阻止され、後述するように第1の可溶材42が液状化して、放出される際に、ピストン30の上昇が補助される。
【0031】
中凹所24の上端の側方には、連絡通路46が設けられている。連絡通路46は、上下方向に非平行、例えば上下方向に直交して設けられた円管状のもので、その直径は、第1の可溶材42の上下方向の長さと比較して小さい。この連絡通路46の先端は、本体4の胴部20の凹所48に連通している。この凹所48は、本体4の胴部20の側方外面から連絡通路46の先端に連絡するように形成されている。従って、連絡通路46を介して可溶材42の収容室43が本体4の外部に連通している。
【0032】
凹所48内には、連絡通路46の先端を閉塞するように分離体、例えばボール50が配置されている。このボール50は、例えばゴム製で、連絡通路46の直径よりも直径が大きい。このボール50を保持するために環状のボール保持体52が凹所48の内奥に配置されている。ボール保持体52は、その中央に連絡通路46の長さ方向に貫通した貫通孔54を有し、この貫通孔54が連絡通路46と同心となるようにボール保持体52が凹所48の底に配置されている。この貫通孔54の直径は、ボール50の直径よりわずかに小さく、貫通孔54内にボール50が挿入されている。
【0033】
このボール保持体52は、その外面側に設けた環状の取付具56によって、凹所48における連絡通路46が開口している面に接触した状態で、取り付けられている。取付具56は、それの凹所48側にある面から外側に向かって形成した凹所58にボール保持体52が嵌められ、取付具56の周面が凹所48の周面に取り付けられている。取付具56の外側の端は、本体4の胴部20よりも幾分外部に突出している。これらボール保持体52は、例えば樹脂製で、取付具56は、例えば金属製である。
【0034】
取付具56のボール保持具52の先端側から取付具56の先端側まで徐々に径が縮小する円錐台状の貫通孔59が、貫通孔54と同心状に形成されている。この貫通孔59に、可溶材、例えば第2の可溶材60が取り付けられ、その先端面が外部に露出している。第2の可溶材60は、第1の可溶材42が液状化している温度でも固体状態を維持し、この固体状態において貫通孔59に対応する円錐台状に形成され、その外周面が、取付面、例えば貫通孔59の周面59aに接触して取付具56に取り付けられている。第2の可溶材60は、第2の可溶材60が固体状態において、ボール50及び液状化された第1の可溶材42が外部に放出されるのを防止している。
【0035】
なお、第2の可溶材60及び貫通孔59は、取付具56の先端側に向かうに従って、径が縮小するように形成されているので、第2の可溶材60が固体状態ではボール50及び液状化された第1の可溶材42から力が加わっても、第2の可溶材60が取付具56から外れることはない。即ち、第2の可溶材60は貫通孔59の周面に機械的に拘束されて、移動が阻止されている。また、第2の可溶材60は、第1の可溶材42が完全に液状化している温度、例えば摂氏105度くらいで融解を開始し、温度が摂氏107度くらいでは、第2の可溶材60の外周面は、取付具56の貫通孔59の周面から離れて、第2の可溶材60の外周面は、取付具56の貫通孔59の周面から離れて、機械的拘束から解放されている。従って、ボール50及び液状化された第1の可溶材42から力が加わると、第2の可溶材60は、取付具56から外部に飛び出す。また、第2の可溶材60の固体状態での体積は、固体状態の第1の可溶材42よりも小さい。第2の可溶材60としても例えば第1の可溶材42とは異なる低融点合金単体を使用する。
【0036】
また、第2の可溶材60に共晶合金を使用することができるが、必ずしも共晶合金である必要は無い。第2の可溶材60は、上述したような低融点合金単独で構成されており、第1の可溶材42が液状化する温度よりも高い温度で、第2の可溶材60は、融解を開始し、液状化して流出した後に残存物を残さない単独のものである。例えば、多孔質のベース部材に、これら孔を閉塞するように低融点合金を含浸させたものを第2の可溶材60として使用すると、低融点合金が融解した後も、ベース部分が取付具56の貫通孔59内に残存して、ボール50や液状化した第1の可溶材42の放出を妨げる。従って、単独の第2の可溶材60を使用している。
【0037】
この安全弁では、第1の可溶材42が融解し始める温度よりも低い温度では、高圧ガス容器2内の高圧ガスの圧力が弁体36に印加され、ピストン30は上方に押圧されている。しかし、第1の可溶材42が融解しておらず、高圧ガスによる押圧力は第1の可溶材42によって受けられ、弁体36は流体通路16の閉塞状態を維持している。
【0038】
例えば高圧ガス容器2近傍での火災等によって安全弁の温度が上昇し、第1の可溶材42が融解する温度より高く、第2の可溶材60が融解を開始する温度よりも低い温度に、少なくとも本体4がなると、第1の可溶材42は液状化している。このとき、ガス圧力も上昇しており、このガス圧力とコイルバネ44のバネ力がピストン30、液状化した第1の可溶材42、連絡通路46、ボール50を介して第2の可溶材60に印加される。しかし、第2の可溶材60が融解し始める温度以下の温度であるので、第2の可溶材60は固体状態を維持し、外部に流出していない。従って、弁体36は流体通路16の閉塞状態を維持している。なお、連絡通路42の直径が収容室43の上下方向の長さよりもかなり小さいので、即ち、連絡通路42の縦断面積は、第1の可溶材42の受圧面積より小さいので、ボール50を介しての第2の可溶材の受圧面積は第1の可溶材42の受圧面積よりも小さく、第2の可溶材60が受ける力は小さい。
【0039】
従って、第1の可溶材42と比較して第2の可溶材60は少量であるが、貫通孔58から外れることはないし、第2の可溶材60にクリープが生じにくい。また、ボール50及びボール保持体52が存在しているので、液状化した第1の可溶材42が凹所48側に漏れることもない。また、第1の可溶材42が漏れることがないので、液状化した第1の可溶材42が第2の可溶材60と接触することはない。その結果、第2の可溶材60が、本来の融解し始める温度と異なった融解し始める温度を持つ合金に変化することもない。このようにボール50は、第1の可溶材42が第2の可溶材60に接触することを阻止する接触阻止体としても機能している。
【0040】
安全弁の温度が摂氏105度くらいに達すると、第2の可溶材60の周面が融解し始める。そして、摂氏107度くらいの温度になると、第2の可溶材60の周面は、貫通孔59の内周面とは非接触の状態となる。この状態では、既に液状化されている第1の可溶材42にピストン30を介して印加されているガス圧力を、第2の可溶材60は阻止できず、液状状態の第1の可溶材42、ボール50と伴に、第2の可溶材60が、急速に安全弁の外部に放出される。その結果、
図2に示すように、ピストン30が急速に上昇し、弁体36が流体通路16を急速に開放する。高圧ガス容器2内の高圧ガスは、
図2に破線で示すように、流体通路16、窓40、ピストン30の内部、ガイド38の内部、出口28を介して安全弁の外部に放出される。従って、徐々に安全弁の温度が上昇したとしても、摂氏107度くらいの温度になって第2の可溶材60の一部が融解すると、一気に高圧ガス容器2内の高圧ガスが安全弁の外部に放出される。
【0041】
第2の可溶材60が融解を開始したが、まだ貫通孔59の内周面に機械的に拘束されている状態では、第2の可溶材60の受圧面積が小さいので、たとえ高圧ガスの圧力が上昇して、第1の可溶材42に加わる圧力が大きくなっていても、第2の可溶材60が外部に押し出されることはなく、第1の可溶材42及びボール50は、現在の位置を維持し、ピストン30は上昇しない。従って、小さい面積のガス放出通路さえ形成されることはなく、高圧ガスのわずかな放出が行われることもない。第2の可溶材60の周面が融解して、貫通孔59の内周面から離れたときに、液状状態の第1の可溶材42及びボール50が、一部が融解した第2の可溶材60と共に一気に安全弁の外部に放出され、高速にピストン30が上昇し、弁体36が流体通路16から一気に完全に抜けて、高圧ガスの放出通路面積が充分に構成される。その結果、一旦、高圧ガスの放出が開始されると、短時間で高圧ガスが放出される。
【0042】
なお、連絡通路46は、収容室43の上端に設けられているので、ピストン30の基部32が収容室43の上端に到達したとき、第1の可溶材42は完全に外部に放出される。従って、放出中の液状状態の第1可溶材42が高圧ガスによって冷却される時間的余裕が無く、第1の可溶材42が固化することはない。これらによって、ピストン30の円滑な上昇が確保される。
【0043】
第2の実施形態の安全弁を
図3に示す。この実施形態では、第1の実施形態の安全弁で使用したボール保持具52及び取付具56を使用せずに、本体4の胴部20内にボール50と第2の可溶材60とを収容したものである。即ち、
図3に示すように、胴部20には、連絡通路46に連なって、これと同心状に貫通孔62が形成されている。この貫通孔62は、ボール50の直径よりわずかに小さい直径の管状で、その内部にボール50が挿通されている。この貫通孔62の先端から胴部20の外面まで、第2の可溶材収容室64が、ボール収容室62と同心状に形成されている。第2の可溶材収容室64は、胴部20の外面側で開口し、奥側で収容孔62と連通した例えば円筒状の凹所で、貫通孔62よりもその直径が大きい。この第2の可溶材収容室64内に円柱状の第2の可溶材60aが収容され、その周面が、第2の可溶材収容室64の取付面、例えば内周面64aに接触し、先端が外部に露出している。他の構成は、第1の実施形態の安全弁と同様であるので、対応する部分には、同一符号を付して、その説明を省略する。
【0044】
この安全弁も第1の実施形態の安全弁と同様に動作する。なお、第2の可溶材60aが円柱状であるので、第2可溶材収容室64の内周面との摩擦だけでは、第2の可溶材60aが固体状態のときに、ボール50や液状化した第1の可溶材42からの力によって、第2の可溶材60aの外周面が収容室64から外れる可能性がある場合には、可溶材60aの拘束手段を設ければよい。例えば第2の可溶材60aと収容室64の内周面とに互いに螺合するねじを形成してもよいし、第2可溶材の収容室64の先端の周囲に第2可溶材60の移動拘束用の突起を形成してもよい。なお、第1の実施形態においても、貫通孔59と第2の可溶材60とに互いに螺合するねじを形成してもよい。
【0045】
上記の両実施形態では、高圧ガス容器2に本発明による安全弁を使用したが、これに限ったものではなく、他の高圧気体や液体を使用する高圧設備に本発明による安全弁を実施することができる。
【0046】
また、上記の両実施形態では、保持体として第1の可溶材42を使用したが、第2の可溶材60、60aが融解を開始し始めたとき液体であるもの、例えば油や水を保持体として使用することもできるし、或いは熱可塑性の合成樹脂を保持体として使用することもできる。
【0047】
上記の両実施形態では、出口28を本体4の胴部の上端に設けたが、これに代えて、胴部20の円筒状部18に対応する部分に単数または複数の出口を形成することもできる。この場合、窓40は不要である。この場合、第1の実施形態の安全弁では、連絡通路46、ボール50、ボール保持具52、取付具56は、
図1、
図2に示すように胴部20の側方に設けることも可能であるが、この他に、本体4の胴部20の上端にボール保持具52及び取付具56を設け、ボール保持具52の貫通孔54に連通するように連絡通路46を収容室43の上端から上方に向かって形成することもできる。同様に、第2の実施形態の安全弁の場合も、
図1、
図2に示すように胴部20の側方に、連絡通路46、収容孔62、ボール50、第2の可溶材収容室64及び第2の可溶材60aを設けることも可能であるが、この他に、本体4の胴部20の上端に第2の可溶材収容室64を設け、これに連ねて上下方向に収容孔62を形成し、この収容孔62と連通するように連絡通路46を収容室43の上端から上方に向かって形成することもできる。
【0048】
上記の両実施形態では、第1の可溶材42と第2の可溶材60との間に接触阻止体としてボール50を設けたが、これに代えて、第2の可溶材60に第1の可溶材42と直接に接触するのを防止するために例えば箔を配置することもできるし、第2の可溶材60の表面に塗装やめっきを施して、薄膜を形成することもできる。このように構成した場合、第2の可溶材60や第1の可溶材42と伴に、箔、塗装またはめっきも安全弁の外部に放出されるので、箔、塗装またはめっき自体は、放出時に破壊されても、破壊されなくてもよい。また、第1の可溶材42に上述したように液体を使用する場合には、液体によって第2の可溶材60が別の合金になる可能性が無いので、箔、塗装またはめっきは不要である。
【0049】
また、第1の可溶材42と第2の可溶材60との合金化を厭わなければ、ボール50を除去することも可能である。その場合、第1の実施形態では、ボール保持具52も不要で、連絡通路46の先端に第2可溶材60が接触するように取付具56の形状及び貫通孔58の形状を変更すればよい。或いは連絡通路42も除去して、直接に第1及び第2の可溶材42、60を接触させることも可能である。また、ボール50を接触阻止体又は分離体として使用したが、これに代えて第1及び第2の実施形態の貫通孔54、62内をその長さ方向に沿って摺動可能なピストンを使用することもできる。
【0050】
第1の実施形態では、取付具56の貫通孔59に取り付けられた第2の可溶材60の先端面を外部に露出させ、第2の実施形態では、第2の可溶材収容室64内に収容された第2の可溶材60aの先端面を外部に露出させたが、第2の可溶材60、60aの劣化を防止するために、例えば露出部分に劣化防止の膜を形成することもできる。無論、この膜も第2の可溶材60、60aが外部に流出するとき、外部に流出する。
【符号の説明】
【0051】
2 高圧タンク(高圧設備)
4 本体
16 流体通路
30 ピストン(流体通路遮断体)
42 第1の可溶材(保持体)
60 第2の可溶材(可溶材)
【要約】
【課題】 安全弁の温度上昇が緩やかな場合でも、第2の可溶材が溶け始めると、一気に高圧流体を放出する。
【解決手段】 本体4は外部に連通した高圧ガス用の流体通路16を内部に有している。本体4内に流体通路16を開閉可能なピストン30が設けられている。ピストン30による流体通路16の遮断状態を高圧ガスの圧力に抗して第1の可溶材42が保持している。第1の可溶材42は液状状態のとき本体4内に外部に流出可能で、流出したとき、ピストン30が流体通路16を開放する。第2の可溶材60が、融解時に本体4の外部に流出可能に設けられている。第2の可溶材60が融解を開始する温度では、第1の可溶材42は液化している。第2の可溶材60は、非融解時に第1の可溶材42が本体4の外部に流出することを阻止し、融解時に、本体4の外部に液状の第1の可溶材42と伴に流出可能に、本体4に単独で設けられている。
【選択図】
図1