(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の電極は、前記AはLaを少なくとも含んで、Sr、Mg、Ca及びBaから選択される1種又は2種以上を表す前記ペロブスカイト型酸化物を主体とする窒素酸化物分解触媒相を含む、請求項1に記載のセンサ。
さらに、前記電気化学セルの温度を前記固体電解質におけるイオン伝導性を確保可能な温度以上であって750℃以下の所定の温度に制御する温度制御手段を備える、請求項1〜5のいずれかに記載のセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、NOxを酸素等に対して選択的に分解するNOx分解用材料(以下、単に分解用材料という。)を利用したNOxセンサ及びこのNOxセンサを用いたNOxの検出方法等に関する。本分解用材料によれば、高い酸素濃度下でもNOxを高度に選択的に分解し検出することができるため、実用的な直接検知型NOxセンサを提供することができる。また、本分解用材料によれば、還元雰囲気下でも、NOxを選択的に分解できるため、より耐久性の高いNOxセンサ等を提供できる。また、本明細書に開示されるNOxの検出方法によれば、NOxを高い酸素濃度下でも測定できるため、被検出ガスの酸素濃度の制御を必ずしも必要としないで、NOxを検知し測定でき、還元雰囲気下でも安定的にNOxを検知測定できる。また、本発明のNOx検出方法によれば、NOxを比較的低温でも高い酸素濃度下で検知し測定できる。このため、被検出ガス中のNOxを直接検知する形態の他、限界電流を検出する態様や混成電位を検出する態様であっても、耐久性よく良好な検出感度と精度でNOxを検出することができる。
【0016】
以下、本明細書の開示の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
図1には、本開示のNOxセンサの一例の概略を示し、
図2には、直接検知型センサの一例の概略を示し、
図3には、被検出ガスの測定状態の一例を示す。
【0017】
(NOxセンサ)
本開示のNOxセンサ2は、
図1に示す電気化学セル10を備えている。電気化学セル10は、固体電解質12と固体電解質12を挟んで対向する少なくとも一組の第1の電極16と第2の電極18とを備えている。
【0018】
本NOxセンサが検出対象とするNOxは、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素)(N
2O)、三酸化二窒素(N
2O
3)、四酸化二窒素 (N
2O
4)、五酸化二窒素(N
2O
5)など窒素酸化物を包含している。なかでも、本NOxセンサは、一酸化窒素及び二酸化窒素の少なくとも一方、好ましくは双方を検出対象とすることが好ましい。
【0019】
本NOxセンサに適用される被検出ガスは、NOxを含んでいれば足り、各種の燃焼ガス等を対象とすることができる。なかでも、大気汚染物質の主たる原因の一つと考えられている自動車等の車両の排気ガスを被検出ガスとすることが好ましい。
【0020】
(電気化学セル)
(固体電解質)
固体電解質12は、酸素イオン伝導性を有するものであれば特に制限なく使用することができる。固体電解質12としては、例えば、ジルコニア系固体電解質(典型的にはZrO
2−M
2O
3固溶体又はZrO
2−MO固溶体:ここでMはY,Yb,Gd,Ca又はMgであることが好ましい)、セリア系固体電解質(典型的にはCeO
2−M
2O
3固溶体又はCeO
2−M固溶体:ここでMはY又はSmであることが好ましい)、酸化ビスマス系固体電解質(典型的にはBi
2O
3−WO
3固溶体)、あるいはぺロブスカイト型構造のLaGaO
3系化合物が挙げられる。自動車等の内燃機関(エンジン)からの排ガスを被検出ガスとした場合の安定性と酸素イオン伝導性の観点からジルコニア系固体電解質が好ましい。なかでも、全体の3〜10mol%となる量のイットリア、マグネシア又はカルシアが固溶した安定化ジルコニアが特に好ましい。
【0021】
(第1の電極)
第1の電極14は、固体電解質12に接して(密着して)備えられている。第1の電極14は、NOxを検出するための検知極として機能する。第1の電極14は、酸素イオン伝導性と電子伝導性との双方を有し、かつ、NOx分解触媒活性を有している1種又は2種以上の材料からなる窒素酸化物分解触媒相16(以下、単に触媒相16という。)を有している。第1の電極は、好ましくは触媒相16からなり、被検出ガスに暴露される表層に何ら被覆層を有しない。こうした触媒相16は、例えば、2種類以上の材料を用いて構成してもよいが、好ましくは、単一材料でこれらを充足する材料を用いて構成する。このような材料を用いることで、高選択的でかつ高い応答性でNOxを検出できる。すなわち、触媒相16は、例えば、酸素イオン導電性材料と電子伝導性材料とNOx分解触媒活性材料とから形成されていてもよいが、好ましくはペロブスカイト型酸化物を有し、より好ましくは、ペロブスカイト型酸化物を主体とし、さらに好ましくは実質的にペロブスカイト型酸化物からなる。かかるペロブスカイト型酸化物は、酸素イオン伝導性と電子伝導性との双方を有し、かつ、NOx分解触媒活性を有している。第1の電極14がこうしたペロブスカイト型酸化物を含む触媒相16を有していることで、第1の電極14がNOxを含む被検出ガスに暴露され、電気化学セル2に電圧が印加され第1の電極14に電子が流入されるとき、
図1に示すように、以下の事象が生じる。
【0022】
(1)外部回路から第1の電極14に電子が流入されることで、ペロブスカイト型酸化物の触媒相16に電子が拡散される。
(2)被検出ガスに暴露された触媒相16は吸着しているNOxを優先的に電子と反応させ還元(分解)させる。この還元によって生じたO
2-は触媒相16を拡散し、さらに、酸素イオン導電性の固体電解質12に到達し、拡散し、第2の電極18に到達する。
【0023】
上記事象はペロブスカイト型酸化物に共通するものと考えられ、本センサにおける触媒相16の材料としてペロブスカイト型酸化物を適用できる。ペロブスカイト型酸化物の触媒活性によるNOの分解にはペロブスカイト構造に存在する酸素空孔が寄与していると考えられている。したがって電気化学的なNOxの分解においても、この酸素空孔がNOxの還元反応に寄与しているものと考えられる。また、ペロブスカイト型酸化物は、酸素イオン伝導性と電子伝導性との双方を有し、しかも、NOx分解触媒活性を有していることから、上記事象が高い酸素濃度下でもNOxに対して高い選択性で生じると考えられる。この結果、高い酸素濃度下でも十分な検出感度と応答速度とを確保できると考えられる。
【0024】
ペロブスカイト型酸化物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ペロブスカイト型酸化物は、ABO
3で表され、Aは、それぞれ希土類元素、アルカリ土類金属元素及びアルカリ金属元素から選択される2種以上の元素を表す。センサ機能に寄与する酸素空孔の形成を考慮すると、前記AはLaのほか、Sr、Mg、Ca及びBaから選択される1種又は2種以上を表していることが好ましい。酸素空孔の安定性を考慮すると、前記Aは、La、Sr及びMgから選択されることが好ましい。また、酸素空孔量を考慮すると、Aとして価数の異なる元素を2種類含むことが好ましい。例えば、価数の大きな元素のモル%が価数の小さい元素のモル%よりも大きいことが好ましい。より具体的には、Aがより価数の大きな元素A1とより価数の小さい元素A2で表されるペロブスカイト型酸化物A1pA2qBO
3であるとき、pは0.6以上0.8以下であることが好ましく、qは0.2以上0.4以下であることが好ましい。A1は好ましくは、価数3の金属元素であり、典型的にLaである。また、A2は価数2の金属元素であり、典型的にはSr及びMgである。
【0025】
前記Bは、Al、Ni、Fe、Co、Mn、Cr、Cu,Rh及びVからなる群から少なくともAlを含んで選択される1種又は2種以上を表すことが好ましい。Bは、Alのみであってもよいし、AlとAl以外の他の元素との組み合わせであってもよい。AlをB元素として含むことで、例えば、750℃近傍の高温でかつ還元雰囲気下での構造安定性を維持でき、NOx分解触媒能を維持できる。
【0026】
Bとして2種類以上の元素を有するペロブスカイト型酸化物においては、これらの元素の組み合わせは、耐久性や酸素イオン伝導性や電子伝導性、触媒活性を考慮して決定されるが、Alは、50モル%以上100モル%以下であることが好ましい。Al以外の1種又は2種以上の元素は、触媒活性の観点からCo及びMnとすることが好ましい。その場合、Alは、含まれる元素のモル%(y)は60モル%以上100モル%未満であることが好ましく、また、残余の元素の総モル%(1−y)は、好ましくは、0モル%超40モル%以下である。
【0027】
こうしたペロブスカイト型酸化物は、典型的には、La−Sr−Al−Oペロブスカイト型酸化物を含む、La−Sr−Al−C−Oペロブスカイト酸化物を含むペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xAl
yC
1-yO
3(Cは、Ni、Fe、Co、Mn、Cr、Cu,Rh及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を表し、0<x<1、0<y≦1)が挙げられる。このペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xAl
yC
1-yO
3において、0.6≦x≦0.8であり、0.6≦y≦1であることがより好ましく、さらに好ましくは0.6≦y≦0.8である。
【0028】
また、こうしたペロブスカイト型酸化物としては、こうしたAl系のほか、La−Sr−Ni−Oペロブスカイト酸化物、La−Sr−Fe−Oペロブスカイト酸化物の他、La−Sr−Co−Oペロブスカイト酸化物、La−Sr−Mn−Oペロブスカイト酸化物、La−Sr−Co−Mn−Oペロブスカイト酸化物を含むペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xCo
yMn
1-yO
3(0<x<1、0≦y≦1)が挙げられる。このペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xCo
yMn
1-yO
3において、0.6≦x≦0.8であり、0.6≦y≦1であることがより好ましい。このペロブスカイト型酸化物La
xSr
1-xCo
yMn
1-yO
3によれば、酸素濃度が5%以上20%程度において、50ppmレベルのNOxを検出することができる。さらに、10ppmであっても、NOxを検出することができる。
【0029】
このようなペロブスカイト型酸化物は、常法に従って合成することができる。例えば、La及びSrのそれぞれの塩(酢酸塩又は硝酸塩等)の水溶液とともに、Bサイトの元素の塩の水溶液を混合して均一混合した上で乾燥し、焼成する方法が挙げられる。合成法は特に限定しないが、例えば、噴霧熱分解法が挙げられる。
【0030】
なお、第1の電極14は、触媒相16のみから構成されていてもよいし、少なくとも触媒相16が連続相として含まれる限り、該触媒相16をマトリックス(母相)又は分散相として有していてもよい。
【0031】
なお、第1の電極14は、触媒相16による、選択的NOx分解及び検出能を損なわない範囲で、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、及びロジウム(Rh)等の貴金属を含んでいてもよい。
【0032】
(第2の電極)
第2の電極18は、固体電解質12を介して第1の電極14と対向するように固体電解質12に接して(密着して)備えられている。第2の電極18は、検知極としての第1の電極14の対極であり、基準電極又は参照電極として機能する。第2の電極18は、電子伝導性であれば足り、その構成材料は特に限定されない。電子伝導性材料としては、白金族元素に属する貴金属(典型的にはPt、Pd、Rh)、それ以外の貴金属(典型的にはAu、Ag)、高導電性の卑金属(例えばNi)が挙げられる。また、それらのいずれかの金属をベースとする合金(例えばPt−Rh、Pt−Irなど)が挙げられる。さらに、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、ランタンマンガンナイト、ランタンコバルタイト、ランタンクロマイト等の金属酸化物も挙げられる。第2の電極18は、こうした電子伝導性材料の1種又は2種以上を含むことができる。また、第2の電極18は、酸素イオン伝導性材料を含んでいてもよい。酸素イオン伝導材料としては、固体電解質12に使用するのと同様の材料を使用することができる。例えば、イットリア又は酸化スカンジウムで安定化したジルコニアや酸化ガドリニウム又は酸化サマリウムで安定化したセリア、ランタンガレイト等が挙げられる。第2の電極18の電子伝導性や固体電解質12との密着性とのバランス等を考慮すると、第2の電極18の酸素イオン伝導性材料は、当該極18の全体の質量の0質量%超10質量%以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0033】
(電気化学セルの作製)
電気化学セル10は、固体電解質12、第1の電極14及び第2の電極18から常法に従い作製される。例えば、電気化学セル10は、電解質支持型あるいは電極支持型等とすることができる。電解質支持型の場合、典型的には、焼成後あるいは焼成前の固体電解質12上の一方の面に、それぞれ第1の電極14用の組成物をスクリーン印刷等により付与した上で、焼成することで、固体電解質12と第1の電極14との積層体を形成することができる。同様にして、第2の電極18等を固体電解質12に対して形成できる。電気化学セル10は、NOxセンサの態様に応じて、種々の態様で使用されるが、いずれの態様においても、第1の電極14は、NOxを検出しようとする被検出ガスに暴露されるように構成される。
【0034】
また、第1の電極14及び第2の電極18には、それぞれ必要に応じて金属等の導電性材料からなる集電体が付与され、外部から電圧が印加可能に構成される。本発明のNOxセンサは、第1の電極14と第2の電極18との間に電圧を印加した状態で使用されることが好ましい。電圧印加状態で、電極間に流れる電流値を検出することで、NOxを高感度選択的に検出することができる。したがって、本発明のNOxセンサの好ましい使用態様は、直接検知型NOxセンサや限界電流型NOxセンサのような電流検出型NOxセンサである。電解を印加可能な構成は、特に限定されないが、例えば、
図2に示すように、第1の電極14の表面の一部にPt等からなる集電体が付与されて、リード線により外部電源に接続される。同様に、第2の電極18にもリード線が接続される。なお、第2の電極18が金属等のみで形成される場合には、必ずしも集電体を形成する必要はない。
【0035】
第1の電極14は、特に限定しないで、白金(Pt)、Au(金)、Ag(銀)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)などの貴金属のほか、卑金属から選択される1種又は2種以上を主体とする集電体を備えることができる。このような場合、固体電解質12をPtなどの集電体から遮断するように備えられていることが好ましい。こうすることで、固体電解質12、Ptなどの集電体及び被検出ガスの三相界面で生じうるO
2の還元反応を抑制又は回避して、NOxの選択的分解反応を維持することができる。好ましくは、集電体が付与されるべき領域において第1の電極14が連続して固体電解質12を被検出ガスから遮断するように設けられる。具体的には、集電体付与時に集電体が固体電解質12に到達して接触することが回避される程度の厚み及び/又は連続性で、第1の電極14が固体電解質12の被検出ガス側を被覆するように構成される。
【0036】
(NOxセンサの態様)
本発明のNOxセンサ2は、種々の使用態様を採り得る。すなわち、公知の限界電流型NOxセンサ、混成電位型NOxセンサ及び直接検知型NOxセンサ等の態様を採り得る。なかでも、本発明のNOxセンサ2は、第1の電極14と第2の電極18に電圧を印加したとき発生する電流を検出する電流検出型センサに用いることが好ましい。
【0037】
本発明のNOxセンサ2は、高酸素濃度下でもNOxを検出できることから、直接検知型NOxセンサとして用いることが好ましい。直接検知型NOxセンサは、高い酸素濃度下でもNOxを検知するため、通常、予め酸素濃度が所定範囲に制御されていない被検出ガスに暴露される構成を備えている。直接検知型のNOxセンサにおける第1の電極14が暴露される被検出ガスの酸素濃度は特に限定しないが、本発明のNOxセンサ2によれば、高い酸素濃度下でも良好にNOxを検知できることから、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。さらに、5%以上とすることができる。より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。また、上限も特に限定しないが、大気中の酸素濃度である21%以下であることが好ましい。
【0038】
直接検知型のNOxセンサ2は、典型的には、第1の電極14は、NOxを検出しようとする被検出ガスに直接暴露されるように構成され、第2の電極18は、第1の電極14が暴露される被検出ガスとは遮断された状態又は遮断可能な状態に構成される。電気化学セル10の第1の電極14等と被検出ガスとの適切な接触形態は、こうした接触形態を確保するための被検出ガスの流路を形成可能なように必要な隔壁を形成することにより得ることができる。隔壁は、NOxセンサ2の使用温度域において十分な絶縁性及び耐熱性を有する材料が使用されることが好ましい。例えば、アルミナ、マグネシア、ムライト、コーディエライト等のセラミックス材料が挙げられる。
【0039】
直接検知型のNOxセンサ2の一例を
図2に示す。
図2に示す態様では、固体電解質12の第2の電極18の側に第2の電極18を要する空間と第1の電極14を要する空間とを区画するための隔壁が形成されている。なお、第1の電極14と第2の電極18との遮断状態は、これに限定するものではなく、隔壁が第1の電極14側に形成されていてもよい。
【0040】
本発明のNOxセンサ2は、限界電流型NOxセンサであってもよい。本発明のNOxセンサ2は、NOxに対して高い選択性を有しているため、予め酸素濃度が低く制御された被検出ガスであっても良好な感度でNOxを検出できる。限界電流型NOxセンサでは、第1の電極14を予め酸素濃度が所定範囲に調節された被検出ガスに暴露されるように構成される。典型的には、限界電流型NOxセンサは、酸素ポンプ機能を備えて被検出ガスの酸素濃度を予め調節するための第1のキャビティと、酸素濃度が調節された被検出ガスが流入され、当該被検出ガス中のNOxを検知するための第2のキャビティを備えている。第1の電極14は、第2のキャビティにおいて被検出ガスに暴露される。なお、第2の電極18は、第1の電極14が暴露される被検出ガスからは遮断された状態に構成される。
【0041】
本発明のNOxセンサ2は、電気化学セル10の温度を制御する温度制御手段を備えることができる。温度制御手段を備えることにより、固体電解質12のイオン伝導性及び第1の電極14ないし電気化学セル10におけるNOx(例えば、NO
2)のO
2に対する選択率を適切に調節することができる。温度制御手段は、例えば、電気化学セル10又はその近傍を加熱又は冷却するための加熱(又は冷却)手段あるいはこれらの双方と、電気化学セル10又はその近傍の温度を検出するための温度センサと、温度センサからの信号に基づき電気化学セル10等の温度を制御するための制御信号を出力する制御回路とを備えている。加熱手段(ヒーター)は、例えば、
図3に示すように、電気化学セル10及び電気化学セル10に到達する被検出ガスを含んだ領域を加熱するように構成することができる。
【0042】
温度制御手段は、特に限定されないで、各種公知の手段を用いることができる。温度制御手段による温度制御は、NOxを検知できる限り、特に限定されない。本発明のNOxセンサ2の電気化学セル10は、750℃近傍の高温でも劣化しないで安定に作動できるため、750℃以上から800℃以下程度であってもよい。なお、NOx選択率を考慮すると、電気化学セル10又はその近傍の温度を750℃以下に制御するものであることが好ましい。より好ましくは700℃以下であり、さらに好ましくは600℃以下である。600℃以下であると、NOx選択率を70%以上とすることができる。さらに、NOx選択率を考慮するとより好ましくは550℃以下であり、さらに好ましくは500℃以下であり、一層好ましくは450℃以下である。一方、固体電解質12のイオン伝導性を考慮すると、450℃以上とすることが好ましく、より好ましくは500℃以上である。また、好ましい温度範囲は、450℃以上700℃以下であり、さらに好ましくは、450℃以上600℃以下である。
【0043】
電気化学セル10は、還元雰囲気下でも、触媒相16のペロブスカイト型酸化物の構造を安定に維持でき、NOx検出能を発揮できる。還元雰囲気とは、還元性ガスを主体とする雰囲気をいう。還元性ガスは、SO
2、H
2S、CO、NO、CO等が挙げられる。典型的には、一酸化炭素(CO)、炭化水素類(HCs)を主体として含む雰囲気が挙げられる。また、電気化学セル10は、750℃近傍の高温の還元雰囲気においても、その構造を安定的に維持できる。こうした還元雰囲気は、例えば、自動車など移動体のエンジンなどにおいて発生しうる環境である。また、こうした還元雰囲気は、空燃比が燃料リッチな状態において発生しやすい。したがって、本NOxセンサ2は、移動体のエンジンの排ガスセンサなどのセンサ等に好ましく適用できる。
【0044】
本発明のNOxセンサ2は、第1の電極14及び第2の電極18の間に電圧を印加する電圧印加手段20を備えることができる。具体的には、第1の電極14に電子が流入するような外部回路を備えることができる。電圧印加手段20は、既に説明したように電極14、18に付設されるリード線等を介して電気化学セル10に備えられる。なお、電圧印加手段20には、電圧を一定値に保つためのポテンショスタットなどを備えることもできる。本発明のNOxセンサ2は、第1の電極14及び第2の電極18の間に流れる電流を計測するための電流計などの電流検出手段を備えることもできる。
【0045】
(NOxの検出方法)
本発明のNOxの検出方法は、本発明のNOxセンサを用いる以下のNOx検知工程を備えることができる。すなわち、電気化学セル10の第1の電極14を被検出ガスに暴露させた状態で、第1の電極14及び第2の電極18に所定の電圧を印加したとき発生する電流値に基づいて被検出ガス中のNOxを検知する検知工程、を備えることができる。
【0046】
NOx検知工程において、第1の電極14は、被検出ガスに暴露される。既に説明したように、NOxセンサ2の態様によって、被検出ガスにおける酸素濃度は相違することがある。本発明のNOxセンサ2を直接検知型NOxセンサの態様で用いる場合には、5%以上であってもよいし、15%以上であってもよい。また、限界電流型NOxセンサの態様で用いる場合には、0.01%以下であってもよい。
【0047】
なお、第1の電極14が暴露される被検出ガスは、酸素濃度が所定濃度範囲に制御されたものであってもよい。第1の電極14が暴露される被検出ガスのNOx濃度、すなわち、1種又は2種類以上の各種の窒素酸化物ガスの総濃度は、1000ppm以下であってもよく、少なくとも10ppm以上であることが好ましい。
【0048】
検知工程は、電気化学セル10を固体電解質12のイオン伝導性を確保可能な温度以上で実施する。NOx選択率の観点からは、既に説明したような温度にて実施することが好ましい。すなわち、好ましくは750℃以下であり、より好ましくは700℃以下である。700℃以下であると、NOx選択率が50%以上を確保できるからである。NOx選択率を考慮すると、より好ましくは600℃以下である。さらに好ましくは550℃以下であり、一層好ましくは500℃以下である。最も好ましくは450℃以下である。
【0049】
検知工程では、第1の電極14及び第2の電極18に電圧を印加する。具体的には第1の電極14に電子を供給するように外部回路から電圧を印加する。印加電圧の大きさ(絶対値)は特に限定しないが、例えば、1V以下程度の電圧とすることができる。より好ましくは、−100mV以上0mV以下とすることができる。
【0050】
検知工程を実施することで、被検出ガス中のNOxを検知し、電流値として計測し、そのNOx濃度を測定することができる。電気化学セル10の構成によれば、大過剰の酸素に対して高い選択性でNOxを検知することができるので、酸素濃度の影響を抑制又は回避してNOxを正確に、精度よく、しかも再現性よく測定できる。また、電気化学セル10の構成によれば、600℃以下で高いNOx選択率でNOxを検出できるため、従来に比べて低温で良好なNOx検知が可能となる。さらに、直接検知型センサの態様で検知工程を実施するときには、簡易な構成を採用することができ、複雑な酸素濃度制御を回避することもできる。
【0051】
以下、発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。
【実施例1】
【0052】
(La-Al系ペロブスカイト型酸化物の合成)
La-Al系ペロブスカイト型酸化物であるLa
0.8Sr
0.2AlO
3を、噴霧熱分解法用いて合成した。すなわち意図したペロブスカイト型酸化物における元素比となるように調整したLa(NO3)
3・6H
2O、Sr(NO
3)
2、Al(NO
3)
3・9H
2Oからなる水溶液を出発原料として、超音波発生器を用いてミスト化後、管状電気炉に導入、熱分解した。なお、噴霧熱分解装置においては、分解炉においては4つのヒーターをガス移動方向に沿って配置されているが、各ヒーターの温度は、ミストの入り口から200℃、400℃、600℃及び800℃とした。得られた粉末を大気中800℃で2時間熱処理することで目的のペロブスカイト型酸化物La
0.8Sr
0.2AlO
3を得た。
【0053】
噴霧熱分解法で合成したペロブスカイト型酸化物につき、回転式電気炉(ロータリーキルン)を用いて、4%H2(+N
2)雰囲気にて750℃、2時間の還元処理を行った。処理前後のXRDパターンを比較することで安定性を評価した。なお、対照として、Bサイトとして、Coのみを含有するペロブスカイト型酸化物であるLa
0.8Sr
0.2CoO
3についても同様に操作した。結果を
図4A及び
図4Bに示す。
図4AにはLa
0.8Sr
0.2CoO
3、
図4BにはLa
0.8Sr
0.2AlO
3のXRDパターンを示す。
【0054】
図4に示すように、La
0.8Sr
0.2CoO
3は還元処理によって構造が維持できていないのに対して、La
0.8Sr
0.2AlO
3は処理前後のXRDパターンに変化がなく、良好な高温還元雰囲気耐性を示すことが分かった。
【実施例2】
【0055】
以下の実施例では、電気化学セルを作製し直接検知型NOxセンサを作製した。作製したNOxセンサを用いて各種条件下でNOx濃度を測定した。すなわち、実施例1で合成したペロブスカイト型酸化物を検知極に用いた電気化学セルを作製して、このセルを電気炉付きのガラス管の中に導入し、以下の表に示すガスを流通し、ポテンシオスタットを用いて検知極と対極との間に電位差を印加し電流値を読み取って、NOx濃度を測定した。なお、Alを含まないペロブスカイト型酸化物についても同様に電気化学セルを作製し、同様にしてNOx濃度を測定した。なお、電気化学セルは以下のようにして作製した。
【0056】
(1)YSZペレットの作製
YSZ粉末(8mol%のY
2O
3を固溶させたジルコニア、東ソー株式会社製)を直径10mmの錠剤成型器を用いて一軸加圧成形後、冷間等方圧加圧(CIP)し、大気雰囲気下1530℃で2時間焼成することで直径約9mm、厚さ1mmのペレットを作製した。
【0057】
(2)検知極と対極の作製
次いで、作製したペレットの片面にα−テルピネオールにペロブスカイト型酸化物(La
0.8Sr
0.2AlO
3)を混ぜ込んだペーストを直径7mmのスクリーンを用いて印刷した。また、ペレット反対面には白金ペースト(TR7095、田中貴金属株式会社製)を直径3mmのスクリーンを用いて印刷した。この後、これを大気中1000℃で2時間焼成し、検知極(第1の電極)及び対極(第2の電極)を形成し、電気化学セルとした。
【0058】
(3)集電体取り付け
得られた電気化学セルの検知極表面に、
図2に示す態様でPt線をPtペースト(TR7905、田中貴金属株式会社製)で接合し、大気中、1000℃で2時間焼き付け、集電体及びリード線を付設した。
【0059】
(4)マグネシア管の取り付け
検知極と対極とを被検出ガスに対して区画するための隔壁としてマグネシア管(MgO、外径×内径×長さ=6mm×4mm×350mm)を用いた。マグネシア管を、
図2に例示するような形態で、検知極と対極とが異なるガス雰囲気にさらされるように無機系接着剤を用いて電気化学セルに接合し、直接検知型NOxセンサとした。
【0060】
(5)被検出ガスの準備
表1に示す各種の組成のガスa、bを被検出ガスとしてそれぞれ準備した。すなわち、ガスa及びbは、純酸素(O
2)、純窒素(N
2)、1000ppm二酸化窒素(NO
2、純窒素と1000ppm(0.1%)のNO
2の混合ガス)のガスボンベを用いてマスフローメーターを用い、それぞれのボンベ流量を調整することで濃度を調節して準備した。
【0061】
【表1】
【0062】
(6)測定方法
作製したNOxセンサを、
図3に例示する態様で、フランジ付きのガラス管の中に入れ、表1で調節したガスa、bをそれぞれ流通し、ポテンシオスタットを用いて検知極と対極との間に電位差を印加し、電流値を読み取った。なお、測定はヒーターを用いて600℃に昇温し、流速はマスフローメーターを用いて100cm
3/分、印加電位差は0〜−300mVとした。
【0063】
(7)酸素が大過剰にある雰囲気下でのNOxの選択的検出能の評価
NOxの選択的検出能を評価するために、ベースガス(ガスa)及び500ppmNO
2(ガスb)の各雰囲気中での分極曲線を作成した。すなわち、ベースガス(21vol%O
2)雰囲気中において、検知極と対極間の電位が安定したことを確かめてから、検知極と対極間に電位差を与え電位と電流値の関係を、横軸を電圧、縦軸を電流値として記録、プロットした。また、同様にして、酸素大過剰500ppmNO
2雰囲気中での分極曲線測定を測定した。これらの結果を
図5に示す。なお、
図5においては、還元電流は負の電流値で示されている。
【0064】
図5において、ガスaによる電流値は、O
2還元だけに関する電流値であり、ガスbによる電流値は、O
2還元とNO
2還元に関する電流値を示している。したがって、ガスbの電流値からガスaの電流値を差し引いた電流値がガス4中のNO
2還元に関連する電流値となる。
図5に示すように、La
0.8Sr
0.2AlOを検知極に用いたセンサにおいては、NO
2によって電流応答値が増大しており、NOxセンサ用検知極材料として機能することが分かった。
【実施例3】
【0065】
本実施例では、ペロブスカイト型酸化物(La
0.6Sr
0.4Co
0.98Mn
0.02O
3)について、実施例2と同様にして電気化学セル及びセンサを構築して、表2に示す各種ガスを実施例2と同様の手法にて調製して評価に供した。NOxの選択的検出能を評価するために、ベースガス(ガス1)及び500ppmNO
2(ガス4)の各雰囲気中での分極曲線を作成した。結果を
図6に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
また、酸素濃度がNOx検出能に与える影響を確認するために、酸素濃度が5%、10%及び21%であるガス1〜3の分極曲線と酸素濃度が5%、10%及び21%であって500ppmNO
2であるガス4〜6のについての分極曲線とを合わせてグラフを作成した。結果を
図7に示す。また、印加電圧が−50mVのときであって、酸素濃度が21%のときのNOx還元に相当する電流値([NOx+O
2還元時の電流値]−[O
2還元時の電流値])を100%としたときの酸素濃度5%時及び10%時のNOx還元に相当する電流値を比較した。結果を
図8に示す。
【0068】
図7に示すように、印加電圧を大きくすると、ガス1もガス4の電流値も増大したが、21%(210000ppm)という高い分圧下でも、500ppmのNOxを測定できることがわかった。また、
図7に示す−50mV電位印加時の電流値から、NO
2選択率を計算した結果は、表3に示すように約70%であり、高い選択性を有していることがわかった。
【0069】
【表3】
【0070】
図8に示すように、いずれの電圧印加時においても、高い酸素濃度下でNOxを検出することができた。特に、50mVより小さい電圧印加時において、酸素濃度の影響が小さいことがわかった。
図8に示すように、O
221%濃度時のNOx還元電流値を100とすると、O
25%濃度時のNOx還元電流値は126%、O
210%濃度時のNOx還元電流値は113%であり、大過剰であっても酸素濃度の影響が抑制されていることがわかった。
【実施例4】
【0071】
以下の実施例では、表2に示すガス1とガス4とに関し、ヒーター設定温度を450℃〜700℃とし、流速を、マスフローメーターを用いて100cm
3/分とし、印加電位差を−50mVとする以外は、実施例1に準じて同様に操作して、各分極曲線を得た。得られた分極曲線からのNOx選択率を算出した。結果を
図9に示す。
【0072】
図9に示すように、700℃以下でも良好なNOx選択率を示すとともに、温度を低下することでより一層高い選択率が得られることがわかった。600℃で75%、550℃で85%、500℃で95%、450℃でほぼ100%のNOx選択率が得られた。
【実施例5】
【0073】
本実施例では、固体電解質に対する集電体Ptの接触状態の違いによるNOx選択的応答性について評価した。すなわち、本実施例では、ペロブスカイト型酸化物としてLa
0.8Sr
0.2CoO
3を用いて、実施例1に準じて、
図10に示すように、集電体と固体電解質との接触状態が異なる2種類のセンサを作製した。
図10左側のセンサ(a)は、集電体と固体電解質とが接触した状態のセルを備えるセンサであり、固体電解質に対する検知極材料をスピンコートにて膜厚が1μm未満(数百nm程度)となるように作製した。
図10右側のセンサ(b)は、集電体と固体電解質との接触が検知極より遮断された状態のセンサであり、遮断状態を確保するために検知極材料をスクリーン印刷により数μm程度の膜厚としてなるように作製した。
【0074】
これらの2種のセンサ(a)(b)に対して、実施例1に準じてべースガス(ガス1)及び500ppm NO
2(ガス2)の各雰囲気中での分極曲線を測定した結果を
図11に示す。また、表4にセンサ(a)(b)の場合の印加電位−50mVにおけるベースガス、NO
2雰囲気中で得られる電流値をまとめて示す。
【0075】
【表4】
【0076】
図11に示すように、センサ(a)はベースガス雰囲気中での電流値(印加電位が−50mV)がセンサ(b)の場合の約10倍となっており、NO
2の選択的な検出を困難にしていることが分かる。また、表4に示すように、その選択率を比較すると、センサ(a)では、13.9%であったのに対し、センサ(b)では、72.8%であった。これは、Ptなどの集電体が固体電解質に接触すると、YSZ、Pt及びガスとの三相界面でのガス中のO
2の還元反応も生じる結果O
2−が発生して、NOxの還元反応によるO
2−の発生によるNOx検出の選択性を低下させているものと考えられた。
【0077】
以上の実施例から、本発明のNOxセンサによれば、大過剰の酸素存在下でも、その影響をよく抑制してNOxを検知できることがわかった。また、700℃以下などの低い温度でも、高い選択率でNOxを検知できることがわかった。また、固体電解質と集電体との接触を抑制することで、高いNOx選択率を維持できることもわかった。さらに、Alを含むペロブスカイト型酸化物を用いることで、還元雰囲気などの過酷な雰囲気下でも安定的にペロブスカイト構造を維持でき、NOx選択的反応性を維持できることがわかった。