特許第5679513号(P5679513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679513
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】ガラス基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20150212BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20150212BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20150212BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20150212BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20150212BHJP
   H01L 51/50 20060101ALN20150212BHJP
   H05B 33/02 20060101ALN20150212BHJP
【FI】
   C03C15/00 A
   C03C3/085
   C03C3/087
   C03C3/091
   G02F1/1333 500
   !H05B33/14 A
   !H05B33/02
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-518182(P2010-518182)
(86)(22)【出願日】2010年5月7日
(86)【国際出願番号】JP2010057799
(87)【国際公開番号】WO2010128673
(87)【国際公開日】20101111
【審査請求日】2012年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2009-112435(P2009-112435)
(32)【優先日】2009年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】三和 晋吉
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 智基
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−255478(JP,A)
【文献】 特開2008−308343(JP,A)
【文献】 特開平05−279876(JP,A)
【文献】 特開2003−019433(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/019376(WO,A2)
【文献】 特開2005−097018(JP,A)
【文献】 特開2004−127660(JP,A)
【文献】 特開2009−076290(JP,A)
【文献】 特開2006−216853(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/044681(WO,A1)
【文献】 特開2008−120638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00〜23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の表面と第二の表面を有するガラス基板の製造方法において、
第一の表面の平均表面粗さRaを0.2nm以下とし、第二の表面の平均表面粗さRaが0.3〜1.5nmになるように、少なくとも第二の表面を大気圧プラズマプロセスで化学処理し、該大気圧プラズマプロセスは、Fを含有するガスと、H2Oと、プラズマとを反応させて、HF系ガスを含有するプラズマを発生させるプロセスと、該HF系ガスを含有するプラズマにより少なくとも第二の表面を化学処理するプロセスとを有することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記大気圧プラズマプロセスは、更に、前記Fを含有するガスとキャリアガスとを混合させるプロセスを有することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも第二の表面を化学処理するプロセスの処理速度を0.5〜10m/分にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
化学処理前の第二の表面の平均表面粗さRaが0.2nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板の第一の表面および第二の表面の面積がそれぞれ0.2m2を超えることを特徴する請求項1〜4の何れかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス基板の板厚が0.5mm以下であることを特徴する請求項1〜5の何れかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス基板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO2 50〜70%、Al23 10〜20%、B23 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 1〜25%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%含有することを特徴する請求項1〜6の何れかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記第一の表面が電極線や各種デバイスが形成される面であり、且つ前記第二の表面が電極線や各種デバイスが形成されない面であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触剥離しても静電気の帯電を引き起こし難いガラス基板及びその製造方法、或いはガラス基板同士の接触やプレート(定盤、ステージ)等の部材と接触しても、はり付き難いガラス基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネルディスプレイの基板として広く使用されている。また、フラットパネルディスプレイ、特にLCDや有機ELディスプレイ(OLED)には、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しない無アルカリガラス基板が用いられる。
【0003】
上記したような用途において、無アルカリガラス基板は以下の特性が要求される。(1)耐薬品性に優れていること、具体的にはフォトリソ−エッチング工程で使用される種々の酸、アルカリ等の薬液に対する耐性に優れていること、(2)ガラス基板が熱収縮しないように歪点が高いこと、具体的には歪点が600℃以上であること。
【0004】
フラットパネルディスプレイの製膜、アニール等の工程で、ガラス基板は数百℃に加熱される。現在の多結晶シリコンTFT−LCDは、その工程温度が約400〜600℃である。この場合、ガラス基板は、高歪点、具体的には600℃以上の歪点が要求される。
【0005】
大面積で板厚が小さい無アルカリガラス基板を効率良く製造するために、以下の特性も必要になる。(3)ガラス中に泡、ぶつ、脈理等の溶融欠陥が発生し難いように、溶融性に優れていること、(4)溶融、或いは成形中に発生する異物がガラス基板中に混入しないように、耐失透性に優れていること。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−343632号公報
【特許文献2】特開2002−72922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、無アルカリガラス基板は、静電気の帯電が問題になることが多い。もともと絶縁体であるガラスは非常に帯電しやすいが、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しない無アルカリガラスはその中でも特に帯電しやすく、一旦帯電した静電気が逃げずに維持される傾向がある。LCDやOLED等の製造工程において、ガラス基板の帯電は様々な工程で引き起こされる。特に、製膜工程等における金属や絶縁体のプレートとの接触剥離で起こるいわゆる剥離帯電が大きな問題となっている。ガラス基板とプレートの接触、剥離による帯電は常圧の大気中の工程はもちろんのこと、ガラス基板の表面に薄膜のエッチングを行う工程、製膜工程等の真空工程でも発生し問題となる。これらの工程中で帯電したガラス基板に導電性の物質が近づくと放電が起こる。帯電している静電気の電圧は数10kVにも達するため、放電によってガラス基板の表面上の素子や電極線、或いは場合によってはガラスそのものの破壊(絶縁破壊または静電破壊)が起こり、表示不良の原因となる。LCDの中でもTFT−LCDに代表されるアクティブマトリクスタイプのLCDは、ガラス基板の表面に薄膜トランジスタ等の微細な半導体素子や電子回路が形成されるが、この素子や回路は静電破壊に非常に弱いため特に問題となる。また、帯電したガラス基板は、環境中に存在するダストを引き寄せるため、ガラス基板の表面汚染の原因にもなる。
【0008】
更に、副次的な問題として、表面が平滑なガラス基板は金属やセラミックスのプレートにはり付きやすく、これを引き剥がす際に、ガラス基板が破損する等の問題が発生することがある。ガラス基板やプレートの帯電もこのはり付きに影響を与える。
【0009】
ガラス基板の帯電防止策として、イオナイザを用いて電荷を中和する、或いは環境中の湿度を上げ、貯まった電荷を空中に放電させる方法等がよく用いられている。しかし、これらの帯電防止策は、コストアップの要因になる他、工程中に帯電を引き起こす場所が多岐に亘るため、効果的な対策を講じることが難しいという問題が残る。さらに、これらの帯電防止策は、プラズマエッチング工程や製膜工程等の真空工程では適用することができない。よって、LCD、OLED等のフラットパネルディスプレイ用途には、真空工程でも帯電し難いガラス基板が強く求められている(特許文献1、2参照)。
【0010】
一方、各種プレートと接触しない側のガラス基板の表面は、高い表面精度が望まれる。この表面は、一般的にガラス基板の優先保証面、または単に「おもて面」と呼ばれる。例えば、薄膜トランジスタタイプのLCDの製造工程において、各種の配線膜や画素を駆動するデバイスが薄膜でガラス基板の優先保証面に形成される。仮にガラス基板の優先保証面にキズや汚れがあったり、表面の凹凸が大きいと、配線膜の断線やTFTの形成不良等が発生し、表示不良の原因となる。このため、TV用の広視野角技術として着目されているIPS方式や超高精細のLCDは、ガラス基板の優先保証面のキズや汚れに対する要求基準が非常に厳しい。また、次世代のディスプレイとして注目されているOLEDでは、低温p−Si(LTPS)を用いた高精細な駆動回路がガラス基板の優先保証面上に形成されるため、ガラス基板の優先保証面の平滑性は非常に重要になってきている。
【0011】
そこで、本発明の技術的課題は、各種ディスプレイの製造工程において、帯電を引き起こし難いとともに、プレートにはり付き難く、しかも配線膜の断線やTFTの形成不良等が発生し難いガラス基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討の結果、端面を除いたガラス基板の両表面の平均表面粗さRaを所定範囲に規制するとともに、ガラス基板の一方の表面を大気圧プラズマプロセスで化学処理することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラス基板は、第一の表面と第二の表面を有するガラス基板において、第一の表面の平均表面粗さRaが0.2nm以下であり、少なくとも第二の表面が大気圧プラズマプロセスで化学処理されており、且つ平均表面粗さRaが0.3〜1.5nmであることを特徴とする。なお、「第一の表面」は、端面を除いたガラス基板の一方の面を指し、「第二の表面」は端面を除いたガラス基板の他方の面を指す。
【0013】
ガラス基板の帯電、特に剥離帯電やプレートとのはり付きを減少させる方法として、微視的にガラス基板とプレートの接触面積を減少させる方法が最も効果的である。ガラス基板とプレートが強い力で接触すると、両者の界面で電子のやり取りが起こる。次いで両者が引き剥がされると、帯電が生じる。そこで、ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaを適正範囲に規制することにより、ガラス基板とプレートの接触面積を減少させることができ、その結果、帯電量を低減することができる。また、帯電しやすく、且つ表面平滑性が非常に高いガラス基板は、プレートに吸着する際、プレートに非常にはり付きやすい特徴を有している。そこで、ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaを適正範囲に規制することにより、ガラス基板とプレートの接触面積を減少させることができ、その結果、ガラス基板のはり付きを防止することができる。
【0014】
ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaが大きい程、接触剥離による帯電、プレートとのはり付きを防止しやすくなる。しかし、ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaが大き過ぎると、ガラス基板の面強度が損なわれるおそれがある他、各種ディスプレイの製造工程内の薬液処理工程で更にガラス基板の表面が侵食され、その結果、各種ディスプレイの表示に不具合が発生するおそれがある。また、ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaが大き過ぎると、化学処理のプロセスコストが高騰する上、ガラス基板の汚染等の副次的な不具合が生じやすくなる。そこで、ガラス基板の第二の平均表面粗さRaを0.3〜1.5nmを規制すれば、剥離帯電やガラス基板のはり付き等を効果的に防止しながら、プロセスコストを不当に高騰させずに、ガラス基板の強度等の低下を抑制することができる。ここで、「平均表面粗さRa」は、ガラス基板の第二の表面の内、70%以上が所定の平均表面粗さRaを有していればよく、ガラス基板の面内の複数個所の平均値であることが望ましい。つまり、ガラス基板の表面の特定箇所(例えば、ガラス基板の周辺部やコーナー部等)が1.5nmより大きかったり、逆に0.3nmより小さくても、ガラス基板の第二(または第一)の表面の内、70%以上、好ましくは80%以上が所定の平均表面粗さRaであれば、本発明の主旨に沿い、本発明の効果を得ることができる。
【0015】
本発明のガラス基板は、ガラス基板の表面を大気圧プラズマプロセスで化学処理することを特徴とする。ガラス基板の表面を荒らす方法として、大気圧プラズマプロセス以外にもフッ酸等の薬液で化学処理する方法等が考えられる。この化学処理は、比較的低コスト、簡単なプロセスで化学処理が可能であるが、化学処理時に薬液の飛散等によるガラス基板の優先保障面への影響や作業環境の安全上の問題について注意する必要がある。また、近年、LCD用ガラス基板のサイズは2m角を超えるようになってきている。しかし、薬液処理等のウェットプロセスは、大面積のガラス基板を均一に化学処理することが非常に困難である。一方、大気圧プラズマプロセスは、ドライプロセスであるため、装置のイニシャルコストが高くなる可能性があるが、大面積、且つ薄肉のガラス基板を均一、且つ効率良く化学処理することができ、このようなガラス基板に最適なプロセスである。また、大気圧プラズマプロセスは、化学処理時に薬液の飛散等によるガラス基板の優先保障面への影響を軽減できるとともに、作業環境の安全上の問題を解消することができる。なお、一般的な物理研磨は、ガラス基板の表面の平均表面粗さRaが大きくなるだけでなく、ガラス基板の表面に潜傷と呼ばれる微細なクラックが発生し、これが断線の原因となったり、ガラス基板の強度低下の原因となるが、大気圧プラズマプロセスでは、このような問題が生じないため、ガラス基板の強度低下を可及的に防止することができる。
【0016】
本発明のガラス基板は、第一の表面の平均表面粗さRaを0.2nm以下に規制している。このようにすれば、ガラス基板の表面に、各種の配線膜や画素を駆動するデバイスを高精度に形成することができ、その結果、薄膜配線膜の断線やTFTの形成不良等を的確に防止することができる。
【0017】
第二に、本発明のガラス基板は、大気圧プラズマプロセスのソースがFを含有するガスであることを特徴とする。このようにすれば、HF系ガスを含有したプラズマを発生させることができ、このプラズマによりガラス基板の表面をエッチングすることができる。
【0018】
第三に、本発明のガラス基板は、ダウンドロー法で成形されてなることを特徴とする。
【0019】
第四に、本発明のガラス基板は、第一の表面の面積および第二の表面の面積が0.2mを超えることを特徴とする。
【0020】
第五に、本発明のガラス基板は、板厚が0.5mm以下であることを特徴とする。
【0021】
第六に、本発明のガラス基板は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 10〜20%、B 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 1〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%含有し、且つ実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にアルカリ金属酸化物を含有しない」とは、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0022】
第七に、本発明のガラス基板は、第一の表面が電極線や各種デバイスが形成される面であり、且つ第二の表面が電極線や各種デバイスが形成されない面であることを特徴とする。このようにすれば、工程中での帯電、或いはプレートとのはり付きを防止しつつ、ガラス基板の表面に各種の配線膜や画素を駆動するデバイスを高精度に形成することができる。
【0023】
第八に、本発明のガラス基板の製造方法は、第一の表面と第二の表面を有するガラス基板の製造方法において、第一の表面の平均表面粗さRaを0.2nm以下とし、第二の表面の平均表面粗さRaが0.3〜1.5nmになるように、第二の表面を大気圧プラズマプロセスで化学処理することを特徴とする。
【0024】
第九に、本発明のガラス基板の製造方法は、大気圧プラズマプロセスのソースとして、Fを含有するガスを用いることを特徴とする。このようにすれば、HF系ガスを含有したプラズマを発生させることができ、このプラズマによりガラス基板の表面をエッチングすることができる。
【0025】
第十に、本発明のガラス基板の製造方法は、Fを含有するガスとして、CFガスまたはSFガスを用いることを特徴とする。このようにすれば、HF系ガスを含有したプラズマを効率良く発生させることができ、このプラズマによりガラス基板の表面を適正にエッチングすることができる。
【0026】
第十一に、本発明のガラス基板の製造方法は、大気圧プラズマプロセスの処理速度を0.5〜10m/分にすることを特徴とする。このようにすれば、ガラス基板の第二の表面を適正に化学処理しつつ、ガラス基板の製造効率を高めることができる。
【0027】
第十二に、本発明のガラス基板の製造方法は、化学処理前の第二の表面の平均表面粗さRaが0.2nm以下であることを特徴とする。このようにすれば、ガラス基板の第二の表面を均一に化学処理することができる。
【0028】
第十三に、本発明のガラス基板の製造方法は、第一の表面が電極線や各種デバイスが形成される面であり、且つ第二の表面が電極線や各種デバイスが形成されない面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明のガラス基板は、剥離帯電量が低く、LCDやOLED等の製造工程で生じる静電気の帯電を抑制することができるため、ガラス基板上の素子や配線の破壊を防ぐことができ、その結果、LCDやOLED等の製造効率を高めることができる。また、本発明のガラス基板は、LCDやOLED等の製造工程でガラス基板がプレートにはり付き難く、ガラス基板が破損する不具合を回避することができる。したがって、本発明のガラス基板は、LCD、OLED等のフラットパネルディスプレイ用基板等の各種電子機器用基板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1(a)】剥離帯電量の測定に用いる装置にガラス基板を載置した状態を示す説明図である。
図1(b)】剥離帯電量の測定に用いる装置において、ガラス基板とプレートを密着させた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のガラス基板において、ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaは0.3〜1.5nm、好ましくは0.4〜1.2nm、より好ましくは0.5〜1.0nm、更に好ましくは0.5〜0.8nm未満である。ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaが大きい程、帯電量が小さくなる傾向にあるが、平均表面粗さRaが大き過ぎると、ガラス基板の表面に大きな欠陥が発生しやすくなり、ガラス基板の強度が低下しやすくなる。また、平均表面粗さRaが大きい程、化学処理にコストや時間がかかり、ガラス基板の製造コストが高騰してしまう。よって、ガラス基板の第二の表面の平均表面粗さRaを適正範囲に規制し、ガラス基板の強度低下を防止した上で、生産性を低下させることなく、ガラス基板の帯電やはり付きを防止する必要がある。
【0032】
本発明のガラス基板において、大気圧プラズマプロセスはCFガス、SFガス等のFを含有するガスをソースに用いることが好ましい。このようにすれば、ガラス基板の平均表面粗さRaを所定範囲に規制しやすくなる。大気圧プラズマプロセスは、有機フィルムの表面改質やディスプレイ用ガラス基板等の表面の有機汚れの除去等に用いられているが、従来の大気圧プラズマプロセスはArガスやNガスをソースとして用いており、ガラス基板の平均表面粗さRaを大きくすることは不可能であった。しかし、ソースとしてCFガス、SFガス等のFを含有するガスを用い、これらのガスとHOを混合し、プラズマと反応させると、HF系ガスを含有したプラズマが発生し、このプラズマによりガラス基板の表面を化学処理することができ、その結果、ガラス基板の平均表面粗さRaを大きくすることができる。なお、大気圧プラズマプロセスは、実生産上、これらのFを含有するガスをAr等のキャリアガスと混合させて、処理ガス(+プラズマ)として用いることが好ましい。
【0033】
大気圧プラズマプロセスの処理時間は0.5秒以上5分以内が望ましく、処理速度は0.5〜10m/分が好ましい。このようにすれば、ガラス基板の平均表面粗さRaを短時間で所定範囲にしやすくなる。
【0034】
本発明のガラス基板は、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、大面積で表面精度が良好なガラス基板を効率良く成形することができる。また、本発明のガラス基板は、ガラス基板の第一の表面および化学処理前の第二の表面がアズフォーム面(火造り面)であることが好ましい。このようにすれば、ガラス基板の製造工程を簡略化することができ、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。現在、ダウンドロー法の内、上記観点から最も好適な方法はオーバーフローダウンドロー法である。その他の成形方法、例えばフロート法では、ガラス基板の表面が溶融スズによって汚染されるとともに、うねりと呼ばれる微小な表面の凹凸がTFT−LCDの表示性能を低下させるため、優先保証面を研磨しなければ製品にならない。一方、オーバーフローダウンドロー法は、上記不具合が生じ難いため、研磨工程を省略することができ、その結果、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。
【0035】
本発明のガラス基板は、面積が大きい程、その効果が大きくなる。なぜなら大面積のガラス基板は、静電気を貯めやすく、帯電を引き起こしやすい上、吸着によりプレートにはり付いた場合に、その後のリフトアップ等の工程でガラス基板が破損しやすいからである。よって、本発明のガラス基板において、第一の表面の面積および第二の表面の面積は0.2m以上、0.5m以上、0.6m以上、特に1.0m以上が好ましい。
【0036】
本発明のガラス基板は、板厚が小さい程、その効果が大きくなる。なぜなら板厚が小さいガラス基板は、吸着によりガラス基板がプレートにはり付いた場合に、その後のリフトアップ等の工程でガラス基板が破損しやすいからである。よって、本発明のガラス基板において、板厚は0.7mm以下、0.6mm以下、0.5mm以下、特に0.4mm以下が好ましい。
【0037】
本発明のガラス基板は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 50〜70%、Al 10〜20%、B 0〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO 1〜25%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことが好ましい。ガラス組成中の各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に示す。
【0038】
SiOの含有量は50〜70%、好ましくは55〜65%である。SiOの含有量が少ないと、耐熱性、耐酸性等が低下する。一方、SiOの含有量が多いと、高温粘度が高くなり、溶融性が低下することに加えて、ガラス中に失透結晶(クリストバライト)等の欠陥が生じやすくなる。
【0039】
Alの含有量は10〜25%、好ましくは12%〜23%、より好ましくは13%〜20%である。Alの含有量が10%より少ないと、耐熱性を高めることが困難になる。また、Alにはヤング率、比ヤング率を高める働きがあるが、Alの含有量が10%より少ないと、ヤング率、比ヤング率が低下しやすくなる。なお、比ヤング率が低下すると、ガラス基板の撓み量が大きくなり、特に大面積のガラス基板の撓み量が顕著に大きくなる。一方、Alの含有量が25%より多いと、大気圧プラズマプロセスにより、ガラス基板の表面に反応生成物が生じやすくなり、その結果、大気圧プラズマプロセスを行う際に、ガラス基板の表面に粗さのばらつきが発生しやすくなる。
【0040】
は、融剤として働き、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは1〜13%である。Bの含有量が少ないと、融剤としての働きが不十分になり、また高温粘性が高くなり、ガラス基板の泡品位が低下しやすくなる。一方、Bの含有量が多いと、大気圧プラズマプロセスによりガラス基板の表面を化学処理し難くなる。また、Bの含有量が多いと、耐熱性、ヤング率が低下する。
【0041】
MgO+CaO+SrO+BaOは、液相温度を下げ、ガラス中に結晶異物を生じさせ難くする成分であり、また溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は1〜25%、好ましくは5〜20%、より好ましくは10〜20%である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少ないと、大気圧プラズマプロセスによりガラス基板の表面を化学処理し難くなり、また融剤としての働きを十分に発揮できず、溶融性が低下する。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度が上昇し、比ヤング率が低下する。
【0042】
MgOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であり、またアルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%、より好ましくは0〜6%、更に好ましくは0〜5%、最も好ましくは0〜3%である。しかし、MgOの含有量が多いと、液相温度が上昇し、耐失透性が低下しやすくなる。
【0043】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を顕著に高める成分であるとともに、本発明に係るガラス組成系において、失透を抑制する効果が高く、且つアルカリ土類金属酸化物の中で、その含有量を相対的に増加させると、低密度化を図りやすくなる。CaOの含有量が多いと、熱膨張係数や密度が上昇し過ぎたり、ガラス組成のバランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下しやすくなる。よって、CaOの含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは1〜10%である。
【0044】
SrO、BaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であるが、SrO、BaOの含有量が多いと、密度や熱膨張係数が高くなりやすい。SrO含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%である。また、BaOの含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%である。
【0045】
上記成分以外にも、他の成分を合量で10%、好ましくは5%までガラス組成中に添加することができる。
【0046】
ZrOは、ヤング率を高める成分であり、その含有量は0〜5%、0〜3%、0〜0.5%、特に0〜0.2%が好ましい。ZrOの含有量が多いと、液相温度が上昇し、ジルコンの失透結晶が析出しやすくなる。
【0047】
TiOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であるとともに、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラスが着色し、透過率が低下する。よって、TiOの含有量は0〜5%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.02%が好ましい。
【0048】
は、耐失透性を高める成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラス中に分相、乳白が生じることに加えて、耐水性が著しく低下する。よって、Pの含有量は0〜5%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
【0049】
、NbおよびLaは、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、これらの成分の含有量が5%より多いと、密度が上昇しやすくなる。
【0050】
清澄剤として、SnO、F、Cl、SO、C、或いはAlやSi等の金属粉末を2%程度まで添加することができる。また、清澄剤として、CeO等も2%程度まで添加することができる。
【0051】
F、Cl等のハロゲンは、無アルカリガラスの溶融を促進する効果があり、これらの成分を添加すれば、溶融温度を低温化できるとともに、清澄剤の作用を促進し、結果として、ガラスの溶融コストを低廉化しつつ、ガラス製造窯の長寿命化を図ることができる。
【0052】
本発明のガラス基板の製造方法は、第一の表面と第二の表面を有するガラス基板の製造方法において、第一の表面の表面粗さRaを0.2nm以下とし、第二の表面の表面粗さRaが0.3〜1.5nmになるように、第二の表面を大気圧プラズマプロセスで化学処理することを特徴とする。なお、本発明のガラス基板の製造方法の技術的特徴(好適な態様)は、本発明のガラス基板の説明の欄に記載されているため、ここでは、その記載を省略する。
【実施例】
【0053】
[試料の調製]
本発明のガラス基板として、好適なガラス組成およびその特性を表1に示す。表中の各試料を次のようにして作製した。まず表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1600℃−24時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出し、平板形状に成形した。得られたガラスについて、表中の特性を評価した。
【0054】
【表1】
【0055】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0056】
熱膨張係数は、ディラトメーターで測定した値であり、30〜380℃の温度範囲における平均値である。
【0057】
歪点は、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0058】
軟化点は、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0059】
高温粘度102.5dPa・sに相当する温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0060】
ヤング率は、共振法で測定した値である。
【0061】
液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0062】
液相粘度は、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0063】
次に、表1の試料No.3について、実生産の製造設備で溶融し、オーバーフローダウンドロー法で厚さ0.4mmの平板形状に成形し、得られたガラスを400−500mmサイズに切断、洗浄して、LCD用ガラス基板として適切な品位のガラス基板を得た。このガラス基板を剥離帯電評価およびはり付き性評価に用いた。
【0064】
剥離帯電評価およびはり付き性評価の結果を表2に示す。なお、表2の試料No.3−1〜3−6の表面は両面(第一の表面および第二の表面)とも火造り面であり、平均表面粗さRaは0.15nmであった。
【0065】
【表2】
【0066】
次に、試料No.3−2〜3−6について、ガラス基板の一方の表面(第二の表面)をCFガスまたはSFガスを用いた大気圧プラズマプロセスにより化学処理した。化学処理の条件は表中の通りである。化学処理後の試料No.3−2〜3−6を純水にて洗浄、乾燥して、以下の評価に用いた。なお、試料No.3−2〜3−6の他方の面(第一の表面)は火造り面のままであり、平均表面粗さRaは0.15nmであった。
[平均表面粗さRaの測定]
AFM(Veeco社製D3000、カンチレバー:Si)を用いて、10μm角の範囲を測定し、面内の平均表面粗さRaを算出した。具体的には、ガラス基板内の中央部と周辺部(基板端部から50mm内側)の9ヶ所について、表面粗さRaを測定し、その平均値を算出した。
[剥離帯電評価]
剥離帯電評価には、図1に示すような装置を用いた。この装置は以下の構成を有している。
【0067】
ガラス基板Gの支持台1は、ガラス基板4隅を支持するテフロン(登録商標)製のパッド2を備えている。また、支持台1には、昇降自在な金属アルミニウム製のプレート3が設けられており、プレート3を上下させることによって、ガラス基板Gとプレート3を接触、剥離させ、ガラス基板Gを帯電させることができる。なお、プレート3はアースされている。また、プレート3には孔(図示せず)が形成されており、この孔がダイアフラム型の真空ポンプ(図示せず)に接続されている。真空ポンプを駆動させると、プレート3の孔から空気が吸引され、これによってガラス基板Gをプレート3に真空吸着させることができる。また、ガラス基板Gの上方10mmの位置には表面電位計4が設置され、これによってガラス基板G中央部に発生する帯電量を連続測定することができる。また、ガラス基板Gの上方にはイオナイザ付きエアーガン5が設置されており、これによってガラス基板Gの帯電を徐電することができる。なお、この装置のプレートのサイズは350−450mmである。
【0068】
この装置を用いて剥離帯電量を測定する方法を説明する。なお、実験は20℃±1℃、湿度40%±1%の環境で行う。この帯電量は雰囲気、特に大気中の湿度の影響を受けて大きく変化するので、特に湿度の管理に留意する必要がある。
(1)ガラス基板の化学処理面を下側にして支持台1に載置する。
(2)イオナイザ付きエアーガン5により、ガラス基板を10V以下に除電する。
(3)プレートを上昇させてガラス基板に接触させるとともに真空吸着させて、プレートとガラス基板を30秒間密着させる。
(4)プレートを下降させることでガラス基板を剥離し、ガラス基板中央部に発生する帯電量を表面電位計で連続的に測定する。
(5)(3)と(4)を繰り返し、計5回の剥離帯電評価を連続して行う。
(6)各測定における最大帯電量を求め、これらを積算して剥離帯電量とする。
[はり付き性評価]
未化学処理のガラス基板(試料No.3−1と同等品)と化学処理後のガラス基板(試料No.3−2〜3−6)について、未化学処理面と化学処理面が向かい合うようにして重ね合わせた後、平坦なプレートの上に載置して10kgの加重を均等にかけ、30分放置した。また、比較のために、試料No.3−1についても同様の方法で評価を行った。次に、両ガラス基板を引き剥がし、すぐに剥がれたものを「○」、剥がれ難かったものを「△」、ガラス基板の破損なしに剥がすことができなかったものを「×」とした。
[評価結果]
表2から明らかなように、試料No.3−2〜3−6は、ガラス基板の一方の表面(第一の表面)の平均表面粗さRaが0.5〜1.0nmであるため、剥離帯電量が低く、はり付き性評価でガラス基板が破損しなかった。一方、試料No.3−1は、剥離帯電量が高く、はり付き性評価でガラス基板が破損した。なお、今回は、表1のNo.3の試料を用いて、各種評価を行ったが、その他の試料(No.1、2、4〜8)でも同様の評価結果が得られると考えられる。
図1(a)】
図1(b)】