(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
−−−第1の実施の形態−−−
図1〜5を参照して、本発明によるメンテナンス情報管理装置および作業機械の第1の実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態に係るメンテナンス情報管理装置が適用される作業機械の一例であるクレーンの外観側面図である。クレーンは、走行体1と、旋回輪2を介して走行体上に旋回可能に設けられた旋回体3と、旋回体3に回動可能に軸支されたブーム4とを有する。旋回体3には巻上ドラム5と起伏ドラム6が搭載されている。巻上ドラム5には巻上ロープ5aが巻回され、巻上ドラム5の駆動により巻上ロープ5aが巻き取りまたは繰り出され、フック7が昇降する。起伏ドラム6には起伏ロープ6aが巻回され、起伏ドラム6の駆動により起伏ロープ6aが巻き取りまたは繰り出され、ブーム4が起伏する。
【0009】
巻上ドラム5は巻上用油圧モータにより駆動され、起伏ドラム6は起伏用油圧モータにより駆動される。これら油圧モータの回転は不図示のブレーキ装置によって制動可能である。巻上用油圧モータを駆動する油圧回路と、起伏用油圧モータを駆動する油圧回路とは構成が同様であるので、以下の説明では、巻上用油圧モータを駆動する油圧回路について説明し、起伏用油圧モータを駆動する油圧回路についての説明を省略する。
図2は、巻上用油圧モータを駆動するための油圧回路を示す図である。
【0010】
図2に示すように、この油圧回路には、エンジン10で駆動されるメインポンプ11と、メインポンプ11から供給される圧油により回転する巻上用油圧モータ12と、この油圧モータ12で駆動される巻上ドラム5と、メインポンプ11から油圧モータ12への圧油の流れを制御する制御弁13と、巻き下げ時の戻り管路L1に設けられたカウンタバランス弁14とが設けられている。この油圧回路には、制御弁13を駆動するために操作される操作レバー15と、操作レバー15の操作量に応じたパイロット圧P16を発生させるパイロット弁16a,16bと、パイロット弁16a,16bに圧油を供給するパイロットポンプ17と、制御弁13の巻上側および巻下側パイロットポートへ供給されるパイロット圧P18,P19をそれぞれ制御する電磁比例弁18,19とが設けられている。
【0011】
この油圧回路には、パイロット弁16aによって制御されるパイロット圧を検出する巻上リモコン圧力センサ31と、パイロット弁16bによって制御されるパイロット圧を検出する巻下リモコン圧力センサ32と、メインポンプ11の吐出圧力を検出するポンプ吐出圧力センサ33とが設けられている。また、この油圧回路には、巻き上げ時に油圧モータ12に供給される圧油の圧力検出する巻上圧力センサ(モータ保持圧力センサ)34と、巻き下げ時に油圧モータ12に供給される圧油の圧力検出する巻下圧力センサ35とが設けられている。なお、この油圧回路には、
図2において図示しない各種センサが設けられているが、これらについては後述する。
【0012】
また、巻上ドラム5と油圧モータ12との間には図示しないウインチの減速機が設けられており、この油圧モータ12内部には、巻上ドラム5を停止させるための図示しないネガブレーキ装置が設けられている。ネガブレーキ装置は、ブレーキ解除のための圧油(ブレーキ解除圧油)が供給されてブレーキ解除圧が上昇するとブレーキを解除し、ブレーキ解除圧が低下するとブレーキを作動させる。ブレーキ解除圧油は、パイロットポンプ17から不図示のブレーキ解除電磁弁を介して供給される。
【0013】
制御弁13は、巻上側および巻下側パイロットポートへ供給されるパイロット圧P18,P19に応じて切換量が制御される。パイロット圧P18,P19は、操作レバー15の操作量に応じたパイロット圧P16と、電磁比例弁18,19の減圧度とに応じて決定される。なお、詳細な説明は省略するが、電磁比例弁18,19の減圧度は、たとえば、巻上ドラム5(油圧モータ12)を緩停止させる際に、後述するコントローラ20からの制御信号によって制御される。
【0014】
図3は、本発明によるメンテナンス情報管理装置の構成を示す図である。コントローラ20は、クレーンの各部を制御する制御回路である。なお、
図3では、メンテナンス情報管理装置に関する構成を図示し、その他のクレーン各部の制御に関する構成についての図示を省略する。コントローラ20には、巻上リモコン圧力センサ31と、巻下リモコン圧力センサ32と、ポンプ吐出圧力センサ33と、巻上圧力センサ34と、巻下圧力センサ35とが接続されている。また、コントローラ20には、メインポンプ11の吐出流量を検出するポンプ吐出流量センサ36と、油圧モータ12に流れる圧油の流量を検出するモータ流量センサ37とが接続されている。コントローラ20には、これら各センサからの信号が入力される。
【0015】
なお、クレーンには、エンジン10の制御を行う公知のECU27と、公知のモーメントリミッタ装置28とが設けられている。コントローラ20には、ECU27からのエンジン出力トルクおよびエンジン出力回転数の情報と、モーメントリミッタ装置28からのウインチ出力トルク、吊り荷重、および吊り荷移動速度の情報が入力される。
【0016】
コントローラ20は、電磁比例弁18,19、および不図示のブレーキ解除電磁弁に制御信号を出力して、これらの電磁弁を制御する。また、コントローラ20は、後述するように、メンテナンスに関する情報をオペレータに報知するよう、表示装置25にメンテナンス情報の表示を行わせるための制御信号を表示装置25に出力可能である。なお、表示装置25は、クレーンの各部の動作状態や、モーメントリミッタ装置の動作状態など各種情報を表示するための表示装置である。
【0017】
このように構成されるクレーンでは、オペレータによって操作レバー15が巻き上げ方向に操作されると、巻上ドラム5が巻き上げ方向に回動されて、巻上ロープ5aが巻き取られ、フック7が上昇する。オペレータによって操作レバー15が巻き下げ方向に操作されると、巻上ドラム5が巻き下げ方向に回動されて、巻上ロープ5aが繰り出され、フック7が下降する。具体的には、クレーンの各部は次のように操作する。すなわち、オペレータによって操作レバー15が巻き上げ方向に操作されると、パイロット弁16aが操作レバー15の操作量に応じたパイロット圧P16でパイロット圧油を電磁比例弁18に供給する。このパイロット圧油は、電磁比例弁18を介して制御弁13の巻上側パイロットポートへ供給される。これにより、制御弁13のスプールが起動されて、油圧モータ12が巻上ドラム5を巻き上げ方向に回動させるように、メインポンプ11からの圧油が油圧モータ12へ供給される。
【0018】
これと略同期して、コントローラ20から不図示のブレーキ解除電磁弁へブレーキを解除するように制御信号が出力される。これにより、ブレーキ解除電磁弁を介してブレーキ解除圧油が不図示のネガブレーキ装置に供給され、ブレーキが解除される。このように、油圧モータ12の回動開始のタイミングに合わせてブレーキを解除することで、巻上ドラム5がスムーズに回転を始める。オペレータによって操作レバー15が巻き下げ方向に操作された場合も同様である。
【0019】
−−−本実施の形態の油圧システムにおけるエネルギ変換について−−−
図4は、クレーンの油圧システムでエネルギ変換がどのように行われているかを示す図である。エンジン10から出力される回転運動エネルギは、メインポンプ11で流体運動エネルギに変換される。メインポンプ11から出力される流体運動エネルギは、油圧モータ12で回転運動エネルギに変換される。油圧モータ12から出力される回転運動エネルギは、巻上ドラム5(ウインチ)で直線運動エネルギに変換される。巻上ドラム5(ウインチ)から出力される直線運動エネルギは、吊り荷の位置エネルギに変換される。
【0020】
エンジン10から出力される回転運動エネルギの仕事率Leは、次式で表される。
Le=2×π×Te×ne/60000 [kW] ・・・(1)
ここで、Teはエンジン10の出力トルクであり、neはエンジン10の出力回転数である。
【0021】
メインポンプ11から出力される流体運動エネルギの仕事率Lpは、次式で表される。
Lp=Pp×Qp/60 [kW] ・・・(2)
ここで、Ppはメインポンプ11の吐出圧力であり、Qpはメインポンプ11の吐出流量である。
【0022】
油圧モータ12に入力される流体運動エネルギの仕事率Lmは、次式で表される。
Lm=Pm×Qm/60 [kW] ・・・(3)
ここで、Pmは油圧モータ12の有効圧力であり、Qmは油圧モータ12の吸入流量である。
【0023】
巻上ドラム5における回転運動エネルギの仕事率(ウインチの仕事率)Lwは、次式で表される。
Lw=2×π×Tw×nw/60000 [kW] ・・・(4)
ここで、Twはウインチの出力トルクであり、nwはウインチの出力回転数である。
【0024】
吊り荷の移動に係る運動エネルギの仕事率Llは、次式で表される。
Ll=F×V [kW] ・・・(5)
ここで、Fは吊り荷重であり、Vは吊り荷の移動速度である。
【0025】
−−−メンテナンス情報の管理について−−−
従来技術による装置として、作業機械の主要部品や消耗品のメンテナンスに関する情報を管理する装置が知られている。この従来技術の装置では、特定の作業の作業時に検出された、消耗品の負荷を代表させる代表値を累積して記憶し、記憶した代表値に基づいて、消耗品のメンテナンス時期に関する情報を導出している。この装置では、たとえば、クレーンにおける作業半径および吊り荷重の積であるモーメントと、作業時間に基づくモーメント時間との累積値で、吊り作業またはブーム起伏作業によって負荷の掛かる油圧ホース類のメンテナンス時期に関する情報を提供する。
【0026】
たとえば、上述した従来技術による装置では、吊り荷がない場合には、負荷の代表値であるモーメントがゼロとなる。しかし、クレーンにはブームの自重があるので、ブームを起伏する圧油が流れる油圧ホース類には吊り荷がなくても圧力が作用している。そして、ブームの長さや重量がブーム毎に異なることがあるため、吊り荷がないときに当該油圧ホース類に作用する圧力がブーム毎に異なることがある。また、ブーム吊り荷の荷重および作業半径が同じであれば、負荷の代表値であるモーメントが同じ値となるが、ブームの重量が異なると、当該油圧ホース類に作用する圧力は、ブームの重量の差に起因して異なることとなる。したがって、消耗品の負荷を代表させる代表値に基づいて消耗品のメンテナンス時期に関する情報を導出すると、消耗品のメンテナンス時期に関する情報を正しく導出できないおそれがある。
【0027】
クレーンを構成する各部(各機器、ユニット)は、作業に際してエネルギを伝達している。したがって、各ユニットが伝達するエネルギに関する情報に基づいてメンテナンス時期を推定することが考えられる。たとえば、各ユニットはエネルギを伝達すれば、エネルギの伝達分だけ仕事をしている。そのため、各ユニットは、伝達したエネルギに応じて消耗が進行しているものと考えられる。したがって、各ユニットで伝達したエネルギ(仕事量)を積算して管理すれば、各ユニットの消耗度合いを推定することができる。
【0028】
そこで、本実施の形態では、クレーンを構成する各部(各機器、ユニット)毎に、各ユニットが行った仕事量の累積値(積算値)に基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するようにしている。具体的には、コントローラ20が次の(1−1)〜(1−4)で述べるように、クレーンの各部のメンテナンスに関する情報を算出し、交換が必要な場合にはオペレータにその旨を報知するよう各部を制御する。コントローラ20は、次の(1−1)〜(1−4)で述べる処理を繰り返し実行する。なお、ここでユニットとは、たとえばエンジン10、メインポンプ11、油圧アクチュエータ(たとえば油圧モータ12)、巻上ドラム5や不図示の減速機を含むウインチ、巻き上げロープ5aやフック7といった吊り作業機などが挙げられる。
【0029】
(1−1) まず、コントローラ20は、各ユニットにおける仕事率を以下の(1−1−a)〜(1−1−e)のようにして算出する。
(1−1−a) エンジン10の仕事率は、上述した仕事率Leで表される。コントローラ20は、エンジン10の出力トルクTe、およびエンジン10の出力回転数neをECU27から取得して、上述した(1)式で仕事率Leを算出する。
【0030】
(1−1−b) メインポンプ11の仕事率は、上述した仕事率Lpで表される。コントローラ20は、メインポンプ11の吐出圧力Ppをポンプ吐出圧力センサ33から、メインポンプ11の吐出流量Qpをポンプ吐出流量センサ36からそれぞれ取得して、上述した(2)式で仕事率Lpを算出する。
【0031】
(1−1−c) 油圧モータ12の仕事率は、上述した仕事率Lmで表される。コントローラ20は、油圧モータ12の上流および下流の圧力を巻上圧力センサ34および巻下圧力センサ35からそれぞれ取得し、その差圧を有効圧力Pmとして算出する。また、コントローラ20は、油圧モータ12の吸入流量Qmをモータ流量センサ37から取得して、上述した(3)式で仕事率Lmを算出する。
【0032】
(1−1−d) 巻上ドラム5の仕事率(ウインチの仕事率)は、上述した仕事率Lwで表される。コントローラ20は、ウインチの出力トルクTw、およびウインチの出力回転数neをモーメントリミッタ装置28から取得して、上述した(4)式で仕事率Lwを算出する。
【0033】
(1−1−e) 巻上ロープ5aやフック7の仕事率は、上述した仕事率Llで表される。コントローラ20は、吊り荷重F、および吊り荷の移動速度Vをモーメントリミッタ装置28から取得して、上述した(5)式で仕事率Llを算出する。
【0034】
(1−2) 次に、コントローラ20は、上述のようにして算出した各仕事率に関してそれぞれ経過時間で積算して、各ユニットの仕事量を算出する。すなわち、コントローラ20は、上述した仕事率を、たとえば1秒毎に算出および積算することで仕事量(積算仕事量)[J]を算出して記憶する。
【0035】
(1−3) コントローラ20では、各ユニットに設けられている、交換を促す基準となる仕事量である交換基準仕事量をあらかじめ記憶している。コントローラ20は、上述した(1−2)で算出した積算仕事量と、交換基準仕事量とを比較して、交換を促す必要があるか否かをユニット毎に判断する。
【0036】
(1−4) 上述した(1−3)において、交換を促す必要があると判断されたユニットについて、交換を促す旨の表示を表示装置25に表示させるよう、コントローラ20は各部を制御する。
【0037】
−−−フローチャート−−−
図5は、上述したメンテナンス情報の管理に関する処理の動作を示したフローチャートである。本実施の形態のクレーンの不図示のイグニッションスイッチがオンされると、
図5に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ20で実行される。ステップS1において、上述した(1−1)で述べたように、各ユニットにおける仕事率を算出してステップS3へ進む。ステップS3において、ステップS1で算出した各ユニットの仕事率に基づいて、仕事量(積算仕事量)を算出して記憶し、ステップS5へ進む。
【0038】
ステップS5において、ステップS3で算出した積算仕事量が、交換基準値、すなわちあらかじめ記憶している交換基準仕事量を超えたか否かを各ユニット毎に判断する。ステップS5が肯定判断されるとステップS7へ進み、ステップS3で算出した積算仕事量が、あらかじめ記憶している交換基準仕事量を超えたとステップS5で判断されたユニットに関して、メンテナンス情報として、交換を促す旨の表示を表示装置25に表示させてステップS9へ進む。
【0039】
ステップS9において、メンテナンス情報の管理を終了するように指示されたか否かを判断する。具体的には、イグニッションスイッチがオフされるような場合である。
【0040】
ステップS9が否定判断されると、ステップS1へ戻る。ステップS9が肯定判断されると、本プログラムを終了する。ステップS5が否定判断されるとステップS9へ進む。
【0041】
第1の実施の形態のメンテナンス情報管理装置では、次の作用効果を奏する。
(1) 各ユニットのエネルギに関する情報、すなわち、各ユニットが伝達するエネルギに関する情報に基づいてメンテナンス時期を推定するように構成した。これにより、従来技術のように、消耗品の負荷を代表させる代表値に基づいて消耗品のメンテナンス時期に関する情報を導出する場合と比べて、メンテナンス時期に関する情報を正しく導出できるようになる。したがって、各ユニットのメンテナンスを効率的に行うことができるようになる。
【0042】
(2) 各ユニットが伝達するエネルギに関する情報として、各ユニットが行った仕事量の積算値に基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するように構成した。これにより、正確なメンテナンス時期に関する情報を容易に導出できる。
【0043】
−−−第2の実施の形態−−−
図6を参照して、本発明によるメンテナンス情報管理装置および作業機械の第2の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、各ユニットが伝達するエネルギに関する情報として、各ユニットにおけるエネルギの伝達効率に基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するように構成した点で、第1の実施の形態と異なる。
【0044】
各ユニットにおける入力側の仕事率と、出力側の仕事率との比を算出することで、各ユニットにおけるエネルギ伝達の効率(以下、単に伝達効率と呼ぶ)が求まる。各ユニットが仕事をすると、作動油の劣化や各部の摩耗等によって伝達効率が低下する。したがって、各ユニットの伝達効率を管理することで、メンテナンス時期を推定することが考えられる。
【0045】
そこで、本実施の形態では、クレーンを構成する各部(ユニット)毎に、各ユニットの伝達効率に基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するようにしている。具体的には、コントローラ20が次の(2−1)〜(2−4)で述べるように、クレーンの各部のメンテナンスに関する情報を算出し、交換が必要な場合にはオペレータにその旨を報知するよう各部を制御する。コントローラ20は、次の(2−1)〜(2−4)で述べる処理を繰り返し実行する。
【0046】
(2−1) まず、コントローラ20は、各ユニットにおける仕事率を第1の実施の形態で述べた(1−1−a)〜(1−1−e)のようにして算出する。
【0047】
(2−2) 次に、コントローラ20は、上述のようにして算出した各仕事率に基づいて、各ユニットにおける伝達効率を以下の(2−2−a)〜(2−2−d)のようにして算出する。
(2−2−a) メインポンプ11の伝達効率ηpは、メインポンプ11の仕事率Lpをエンジン1の仕事率Leで除して求める。
ηp=Lp/Le ・・・(6)
【0048】
(2−2−b) メインポンプ11から油圧モータ12までの配管における伝達効率ηhは、油圧モータ12に入力される流体運動エネルギの仕事率Lmをメインポンプ11の仕事率Lpで除して求める。
ηh=Lm/Lp ・・・(7)
【0049】
(2−2−c) 油圧モータ12、減速機および巻上ドラム5における伝達効率(ウインチの伝達効率)ηwは、ウインチの仕事率Lwを油圧モータ12に入力される流体運動エネルギの仕事率Lmで除して求める。
ηw=Lw/Lm ・・・(8)
【0050】
(2−2−d) 巻上ロープ5aやフック7における伝達効率(吊り作業機の伝達効率)ηlは、巻上ロープ5aやフック7の仕事率の仕事率(吊り荷の移動に係る運動エネルギの仕事率)Llをウインチの仕事率Lwで除して求める。
ηl=Ll/Lw ・・・(9)
【0051】
(2−3) コントローラ20では、各ユニットに設けられている、交換を促す基準となる伝達効率である交換基準伝達効率をあらかじめ記憶している。コントローラ20は、上述した(2−2)で算出した伝達効率と、交換基準伝達効率とを比較して、交換を促す必要があるか否かをユニット毎に判断する。
【0052】
(2−4) 上述した(2−3)において、交換を促す必要があると判断されたユニットについて、交換を促す旨の表示を表示装置25に表示させるよう、コントローラ20は各部を制御する。
【0053】
−−−フローチャート−−−
図6は、上述した第2の実施の形態のメンテナンス情報の管理に関する処理の動作を示したフローチャートである。本実施の形態のクレーンの不図示のイグニッションスイッチがオンされると、
図6に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ20で実行される。ステップS1は、
図5で説明した第1の実施の形態のフローチャートにおけるステップS1と同じである。ステップS1が実行されるとステップS13へ進む。ステップS13において、ステップS1で算出した各ユニットの仕事率に基づいて、各ユニットの伝達効率を算出して記憶し、ステップS15へ進む。
【0054】
ステップS15において、ステップS13で算出した伝達効率が、交換基準値、すなわちあらかじめ記憶している交換基準伝達効率を下回ったか否かをユニット毎に判断する。ステップS15が肯定判断されるとステップS17へ進み、ステップS13で算出した伝達効率が、あらかじめ記憶している交換基準伝達効率を下回ったとステップS15で判断されたユニットに関して、メンテナンス情報として、交換を促す旨の表示を表示装置25に表示させてステップS9へ進む。
【0055】
ステップS9は、
図5で説明した第1の実施の形態のフローチャートにおけるステップS9と同じである。ステップS9が否定判断されると、ステップS1へ戻る。ステップS9が肯定判断されると、本プログラムを終了する。ステップS15が否定判断されるとステップS9へ進む。
【0056】
第2の実施の形態のメンテナンス情報管理装置では、第1の実施の形態の作用効果に加えて、次の作用効果を奏する。
(1) 各ユニットの現在の伝達効率を算出し、交換基準値と比較することによって、メンテナンスに関する情報を管理するように構成した。これにより、クレーンの各ユニットの実態(消耗度合い、伝達効率の低下)に基づいた正確なメンテナンス時期に関する情報を容易に導出できる。
【0057】
−−−第3の実施の形態−−−
図7を参照して、本発明によるメンテナンス情報管理装置および作業機械の第3の実施の形態を説明する。以下の説明では、第1および第2の実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、第1または第2の実施の形態と同じである。本実施の形態では、主に、各ユニットが伝達するエネルギに関する情報として、各ユニットにおけるエネルギ負荷振幅およびエネルギ印加回数に基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するように構成した点で、第1および第2の実施の形態と異なる。
【0058】
構造物の疲労による寿命推定方法として、負荷振幅と負荷回数の積から推定する方法が知られている。クレーンの各ユニットのように、エネルギを伝達する機器の場合、エネルギ負荷振幅と、エネルギを印加した回数とに基づいて、メンテナンス時期を推定することが考えられる。
【0059】
そこで、本実施の形態では、クレーンを構成する各部(ユニット)毎に、各ユニットにおけるエネルギ負荷振幅と、エネルギを印加した回数とに基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するようにしている。具体的には、コントローラ20が次の(3−1)〜(3−6)で述べるように、クレーンの各部のメンテナンスに関する情報を算出し、交換が必要な場合にはオペレータにその旨を報知するよう各部を制御する。コントローラ20は、次の(3−1)〜(3−6)で述べる処理を繰り返し実行する。
【0060】
(3−1) まず、コントローラ20は、各ユニットにおける仕事率を第1の実施の形態で述べた(1−1−a)〜(1−1−e)のようにして算出する。
(3−2) コントローラ20は、巻上リモコン圧力センサ31、および巻下リモコン圧力センサ32で検出される圧力に基づいて、操作レバー15の操作状態を検出する。
【0061】
(3−3) コントローラ20は、上述した(3−1)、(3−2)の演算結果に基づいて、操作レバー15の操作の前後での各ユニットの仕事率の変化量、すなわちエネルギ負荷振幅を算出する。本実施の形態では、操作レバー15の操作の前の各ユニットの仕事率を、操作レバー15が操作されるたとえば1秒前の時点での仕事量とする。また、操作レバー15の操作の後の各ユニットの仕事率を、操作レバー15の操作完了のたとえば3秒後、すなわち、操作レバー15が操作されて、ある一定の操作量に略固定された状態からたとえば3秒後の時点での仕事量とする。
【0062】
(3−4) コントローラ20は、操作レバー15の操作がなされる毎に、上述した(3−3)で算出したエネルギ負荷振幅を積算して記憶するとともに、操作回数、すなわち印加回数を1回加算して記憶する。
【0063】
(3−5) コントローラ20では、各ユニット毎に設けられている、交換を促す基準となる交換基準疲労閾値をあらかじめ記憶している。この交換基準疲労閾値は、積算(累積)したエネルギ負荷振幅と、エネルギを印加した回数との積である。コントローラ20は、上述した(3−4)で算出したエネルギ負荷振幅を積算した値および操作回数の合計値の積と、交換基準疲労閾値とを比較して、交換を促す必要があるか否かを各ユニット毎に判断する。
【0064】
(3−6) 上述した(3−5)において、交換を促す必要があると判断されたユニットについて、交換を促す旨の表示を表示装置25に表示させるよう、コントローラ20は各部を制御する。
【0065】
−−−フローチャート−−−
図7は、上述した第3の実施の形態のメンテナンス情報の管理に関する処理の動作を示したフローチャートである。本実施の形態のクレーンの不図示のイグニッションスイッチがオンされると、
図7に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ20で実行される。ステップS21において、上述した(3−1)で述べたように、各ユニットにおける仕事率を算出し、算出した仕事率を一時的に記憶してステップS23へ進む。ステップS23において、巻上リモコン圧力センサ31、および巻下リモコン圧力センサ32で検出される圧力に基づいて、操作レバー15が操作されたか否かを判断する。
【0066】
ステップS23が否定判断されると、ステップS21へ戻る。ステップS23が肯定判断されるとステップS25へ進み、巻上リモコン圧力センサ31、および巻下リモコン圧力センサ32で検出される圧力に基づいて、操作レバー15の操作が完了するまで、すなわち、操作レバー15が操作されて、ある一定の操作量に略固定されるまで待機する。ステップS25が肯定判断されるとステップS27へ進み、上述した(3−1)で述べたように、各ユニットにおける仕事率を算出してステップS29へ進む。ステップS29において、操作レバー15の操作が完了してから所定時間T(たとえば3秒)が経過したか否かを判断する。
【0067】
ステップS29が否定判断されるとステップS27へ戻る。ステップS29が肯定判断されるとステップS31へ進み、ステップS21で記憶している、操作レバー15が操作されるたとえば1秒前の時点での仕事量と、ステップS27で算出した、操作レバー15の操作が完了してから所定時間T(たとえば3秒)が経過後の仕事量との差をエネルギ負荷振幅として算出する。ステップS31が実行されるとステップS33へ進み、ステップS31で算出したエネルギ負荷振幅を積算して記憶するとともに、印加回数を1回加算して記憶してステップS35へ進む。
【0068】
ステップS35において、ステップS33で算出したエネルギ負荷振幅の積算値と印加回数とを乗じ、この値が交換基準疲労閾値を超えたか否かをユニット毎に判断する。ステップS35が肯定判断されるとステップS37へ進み、エネルギ負荷振幅の積算値と印加回数との積が、交換基準疲労閾値を超えたとステップS35で判断されたユニットに関して、メンテナンス情報として、交換を促す旨の表示を表示装置25に表示させてステップS9へ進む。
【0069】
ステップS9は、
図5で説明した第1の実施の形態のフローチャートにおけるステップS9と同じである。ステップS9が否定判断されると、ステップS21へ戻る。ステップS9が肯定判断されると、本プログラムを終了する。ステップS35が否定判断されるとステップS9へ進む。
【0070】
第3の実施の形態のメンテナンス情報管理装置では、第1および第2の実施の形態の作用効果に加えて、次の作用効果を奏する。
(1) 各ユニットにおけるエネルギ負荷振幅およびエネルギ印加回数に基づいて、メンテナンスに関する情報を管理するように構成した。これにより、クレーンの各ユニットのうち、疲労が問題となる部材や部位に関して、正確なメンテナンス時期に関する情報を容易に導出できる。
【0071】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、メインポンプ11の吐出流量Qpをポンプ吐出流量センサ36で検出し、油圧モータ12の吸入流量Qmをモータ流量センサ37で検出するように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、メインポンプ11の吐出流量Qpや油圧モータ12の吸入流量Qmを、コントローラ20がメインポンプ11や油圧モータ12の傾転位置と回転数から算出するように構成してもよい。また、コントローラ20には、ECU27からのエンジン出力トルクおよびエンジン出力回転数の情報と、モーメントリミッタ装置28からのウインチ出力トルク、吊り荷重、および吊り荷移動速度の情報が入力されるように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、これらの情報を得るために設けられている各種センサ等からの検出素信号を直接コントローラ20で受信することで、これらの情報を得るように構成してもよい。
【0072】
(2) 上述した第1の実施の形態では、各ユニットが行った仕事量の積算値として、各ユニットの出力した仕事量の積算値を用いているが、各ユニットへ入力された仕事量の積算値を用いてもよい。
【0073】
(3) 上述した第2の実施の形態では、各ユニットの伝達効率を常時算出して、メンテナンスに関する情報を管理するように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、油圧回路が特定の状態となったときに各ユニットの伝達効率を算出するように構成してもよい。油圧回路の特定の状態として、たとえば、エンジン1の回転数が800rpmであり、かつ、メインポンプ11の吐出流量Qpが最大流量となり、かつ、油圧モータ12の傾転位置が最大傾転となったときとしてもよい。このように、油圧回路が特定の状態となったときに各ユニットの伝達効率を算出するように構成することで、各ユニットの伝達効率を常時算出しなくても済むので、コントローラ20の演算負荷を抑制できる。また、伝達効率を算出する際の油圧回路の条件が一定となるので、算出された伝達効率の精度、信頼性が向上し、メンテナンス時期に関する情報の信頼性が向上する。
【0074】
(4) 上述した第2の実施の形態において、1つのユニットに対する交換基準伝達効率を複数設けてもよい。たとえば、巻上ドラム5の巻き上げと巻き下げとで交換基準伝達効率を異なる値としてもよい。また、たとえば、作動油温度によって交換基準伝達効率が異なる値を採るようにしてもよい。このように、1つのユニットに対する交換基準伝達効率を複数設けることで、交換を促す必要があるか否かの判断精度が向上し、メンテナンス時期に関する情報の信頼性が向上する。
【0075】
(5) 上述した第2の実施の形態において、交換基準伝達効率として、各ユニットを事前にテストして得られた結果に基づく値を採用してもよく、あらかじめ計算によって求めた値を採用してもよい。
【0076】
(6) 上述した第3の実施の形態では、操作レバー15の操作の後の各ユニットの仕事率を、操作レバー15の操作完了のたとえば3秒後の時点での仕事量としたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、操作レバー15の操作の後の各ユニットの仕事率を、操作レバー15の操作が完了してからたとえば3秒の間、すなわち、操作レバー15が操作されて、ある一定の操作量に略固定された状態となってからたとえば3秒の間の仕事量の最大値としてもよい。
(7) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、作業機械のメンテナンスに関する情報を管理する装置であって、作業機械のエンジン、メインポンプ、
油圧モータ、および、巻上ドラムの積算仕事量を演算する積算仕事量演算手段と、積算仕事量演算手段で演算した
それぞれの積算仕事量に基づいて、演算した
それぞれの積算仕事量に係る機器のメンテナンスの時期に関する情報を算出する算出手段とを備えることを特徴とする各種構造のメンテナンス情報管理装置、および、このメンテナンス情報管理装置を備える各種構造の作業機械を含むものである。