特許第5679807号(P5679807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5679807
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】プーリ
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20150212BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20150212BHJP
【FI】
   F16H55/36 H
   F16F15/12 S
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-293243(P2010-293243)
(22)【出願日】2010年12月28日
(65)【公開番号】特開2012-141002(P2012-141002A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 欣幸
(72)【発明者】
【氏名】小谷 実
(72)【発明者】
【氏名】石濱 洋之
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−526733(JP,A)
【文献】 特開平09−014303(JP,A)
【文献】 実開平05−067848(JP,U)
【文献】 実開平05−067859(JP,U)
【文献】 特開2002−340143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/12
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に嵌着される取付孔を中心に備える円板部と、円板部の周囲に設けられてベルト掛部を外周面に備える円筒部とを有してなるプーリにおいて、
円板部の中心まわりの複数位置のそれぞれに開孔を設け、各開孔の内面に凹凸状の質量調整部を形成してなり、
前記各開孔が円板部の中心を通る直径線に関して線対称状をなし、該直径線上の内径側に頂部を配置し、該直径線の両側に該頂部から外方に向かって拡開する両側縁部を配置し、該直径線上の外径側に位置する外縁部の中央に質量調整部を配置してなることを特徴とするプーリ。
【請求項2】
前記各開孔の内面に突き出る凸状の質量調整部を形成することにより、固有振動数を下げる請求項に記載のプーリ。
【請求項3】
前記各開孔の内面をへこませた凹状の質量調整部を形成することにより、固有振動数を上げる請求項に記載のプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベーンポンプ等のポンプの回転軸に回転力を伝達するために回転軸に取付けられるプーリとして、特許文献1〜3に記載の如く、回転軸に嵌着される取付孔を中心に備える円板部と、円板部の周囲に設けられてベルト掛部を外周面に備える円筒部とを有してなるものが用いられている。
【0003】
これらのプーリは、特許文献1に記載の如く、鉄板等の金属板をプレス加工(例えば絞り加工)して有底円筒体を形成し、その底部を円板部とし、その筒部を円筒部としている。このとき、円板部の中心まわりの周方向に等間隔をなす複数位置のそれぞれに三角形、円形等の同形同サイズの開孔を設けている。開孔は、プーリの軽量を図るととともに、プーリの回転制止手段が係脱してその空転を制止する等のために用いられる。
【0004】
他方、プーリにあっては、プーリの回転数が該プーリの固有振動数(共振周波数)に一致すると、プーリが共振して大きな振動や異音を生ずる。
【0005】
そこで、特許文献1に記載のプーリは、円筒部の外周面のベルト掛部に円周方向に沿う複数のV溝を形成する複数条のV山部を設けるとともに、円筒部の内周面に該円筒部の軸心と平行な突条部を設けた。これによって、直交するV山部と突条部により、円筒部の振動を抑え、プーリの共振を回避しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-303536
【特許文献2】特開平8-270755
【特許文献3】実公平7-40760
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術(特許文献1)では、プーリの共振を回避するために、円筒部の内周面に突条部を設ける加工工数が余分になる。
【0008】
尚、プーリの共振を回避するために、円板部で周方向に相隣る開孔と開孔の間隔(リブ幅)を小さくし、円板部の剛性(k)を低下することにより、プーリの固有振動数を下げることも考えられる。ところが、この場合には、円板部の強度が低下するという不都合を生じて妥当でない。
【0009】
本発明の課題は、プーリの強度を低下せずに、簡易に、プーリの固有振動数を調整可能にし、プーリの共振を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、回転軸に嵌着される取付孔を中心に備える円板部と、円板部の周囲に設けられてベルト掛部を外周面に備える円筒部とを有してなるプーリにおいて、円板部の中心まわりの複数位置のそれぞれに開孔を設け、各開孔の内面に凹凸状の質量調整部を形成してなり、前記各開孔が円板部の中心を通る直径線に関して線対称状をなし、該直径線上の内径側に頂部を配置し、該直径線の両側に該頂部から外方に向かって拡開する両側縁部を配置し、該直径線上の外径側に位置する外縁部の中央に質量調整部を配置してなるようにしたものである。
【0012】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明において更に、前記各開孔の内面に突き出る凸状の質量調整部を形成することにより、固有振動数を下げるようにしたものである。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明において更に、前記各開孔の内面をへこませた凹状の質量調整部を形成することにより、固有振動数を上げるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
(請求項1、
(a)プーリにおいて、円板部の中心まわりの複数位置のそれぞれに開孔を設け、各開孔の内面に凹凸状の質量調整部を形成した。
【0015】
プーリにおいて、各開孔の内面に突き出る凸状の質量調整部を形成することにより、円板部の質量(m)を大きくし、結果としてプーリの固有振動数を下げることができる。
【0016】
プーリにおいて、各開孔の内面をへこませた凹状の質量調整部を形成することにより、円板部の質量(m)を小さくし、結果としてプーリの固有振動数を上げることができる。
【0017】
これらにより、プーリの固有振動数をプーリの回転数に一致しない値に設定することにより、プーリの共振を回避し、その回転に伴なう振動や異音を低減できる。
【0018】
このとき、プーリの円板部に設ける開孔に凹凸状の質量調整部を形成することは、プーリの例えばプレス成形時における打抜き加工により簡易に設けることができるし、相隣る開孔のリブ幅を小さくして剛性(k)を低下することによる強度の低下も招かない。
【0019】
(請求項
(b)プーリにおいて、各開孔が円板部の中心を通る直径線に関して線対称状をなし、該直径線上の内径側に頂部を配置し、該直径線の両側に該頂部から外方に向かって拡開する両側縁部を配置し、該直径線上の外径側に位置する外縁部の中央に質量調整部を配置する。従って、質量調整部による質量(m)の変化がプーリの固有振動数に及ぼす影響を大きくし、プーリの固有振動数を効果的に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は実施例1のプーリを示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図、(C)は開孔の形状を示す模式図である。
図2図2は実施例2のプーリを示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図、(C)は開孔の形状を示す模式図である。
図3図3は実施例3のプーリを示し、(A)は正面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図、(C)は開孔の形状を示す模式図である。
図4図4は従来例に係るプーリの固有振動数を示す模式図である。
図5図5は本発明例に係るプーリの固有振動数を示す模式図である。
図6図6は本発明例に係るプーリの固有振動数を示す模式図である。
図7図7は比較例に係るプーリの固有振動数を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施例1)(図1
図1に示すプーリ10は、ベーンポンプ等のポンプの回転軸に回転力を伝達するために回転軸に取付けられて用いられる。
【0022】
プーリ10は、鉄板等の金属板をプレス加工(例えば絞り加工)して有底円筒体を形成し、その底部を円板部11とし、円板部11の周囲の筒部を円筒部12とするものである。即ち、プーリ10は、回転軸に嵌着される取付孔11Aを中心に備える円板部11と、円板部11の周囲に設けられてベルト掛部12Aを外周面に備える円筒部12とを有する。
【0023】
プーリ10は、円板部11の中心まわりの周方向に等間隔をなす複数位置(本実施例では6位置)のそれぞれに概ね三角形状をなす同形同サイズの開孔13を設ける。開孔13は、プーリ10の軽量化を図るとともに、プーリ10の回転制止手段が係脱してその空転を制止する等のために用いられる。
【0024】
しかるに、プーリ10にあっては、円板部11に設けた各開孔13の内面に突き出る丸形凸状の質量調整部14(ウエイト)を形成することにより、プーリ10の固有振動数を下げる。即ち、プーリ10の固有振動数が
【0025】
【数1】
で表わされるとき、凸状の質量調整部14は円板部11の質量mを大きくし、結果としてプーリ10の固有振動数を下げるものになる。
【0026】
各開孔13は、図1(C)に示す如く、円板部11の中心cを通る直径線dに関して線対称状をなす。そして、各開孔13は、直径線d上の内径側に頂部13Aを配置し、直径線dの両側に頂部13Aから外方に向かって拡開する両側縁部13B、13Bを配置し、直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの一部である中央にだけ丸形凸状の質量調整部14を配置している。
【0027】
本実施例のプーリ10によれば以下の作用効果を奏する。
(a)プーリ10において、各開孔13の内面に突き出る凸状の質量調整部14を形成することにより、円板部11の質量(m)を大きくし、結果としてプーリ10の固有振動数を下げることができる。
【0028】
これにより、プーリ10の固有振動数をプーリ10の回転数に一致しない値に設定することにより、プーリ10の共振を回避し、その回転に伴なう振動や異音を低減できる。
【0029】
このとき、プーリ10の円板部11に設ける開孔13に凹凸状の質量調整部14を形成することは、プーリ10の例えばプレス成形時における打抜き加工により簡易に設けることができるし、相隣る開孔13のリブ幅を小さくして剛性(k)を低下することによる強度の低下も招かない。
【0030】
(b)プーリ10において、各開孔13が円板部11の中心cを通る直径線dに関して線対称状をなし、該直径線d上の内径側に頂部13Aを配置し、該直径線dの両側に該頂部13Aから外方に向かって拡開する両側縁部13B、13Bを配置し、該直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの中央に質量調整部14を配置する。従って、質量調整部14による質量(m)の変化がプーリ10の固有振動数に及ぼす影響を大きくし、プーリ10の固有振動数を効果的に調整できる。
【0031】
尚、各開孔13の内面に突き出る凸状の質量調整部14は、丸形凸状に限らず、三角形凸状(図5(B))、四角形凸状(図5(C))等であっても良い。
【0032】
(実施例2)(図2
図2に示す実施例2のプーリ10が実施例1におけると異なる点は、円板部11に設けた各開孔13の内面に形成される質量調整部14を、各開孔13の内面に突き出る皿形凸状の質量調整部14としたことにある。即ち、各開孔13において、直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの一部である中央にだけ皿形凸状の質量調整部14を配置した。
【0033】
実施例2のプーリ10においても、実施例1のプーリ10におけると同様の作用効果を奏する。
【0034】
(実施例3)(図3
図3に示す実施例3のプーリ10が実施例1におけると異なる点は、円板部11に設けた各開孔13の内面に形成される質量調整部14を、各開孔13の内面をへこませた四角形凹状の質量調整部14としたことにある。即ち、各開孔13において、直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの一部である中央にだけ四角形凹状の質量調整部14を形成した。
【0035】
本実施例のプーリ10によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)プーリ10において、各開孔13の内面をへこませた凹状の質量調整部14を形成することにより、円板部11の質量(m)を小さくし、結果としてプーリ10の固有振動数を上げることができる。
【0036】
これにより、プーリ10の固有振動数をプーリ10の回転数に一致しない値に設定することにより、プーリ10の共振を回避し、その回転に伴なう振動や異音を低減できる。
【0037】
このとき、プーリ10の円板部11に設ける開孔13に凹凸状の質量調整部14を形成することは、プーリ10の例えばプレス成形時における打抜き加工により簡易に設けることができるし、相隣る開孔13のリブ幅を小さくして剛性(k)を低下することによる強度の低下も招かない。
【0038】
(b)プーリ10において、各開孔13が円板部11の中心cを通る直径線dに関して線対称状をなし、該直径線d上の内径側に頂部13Aを配置し、該直径線dの両側に該頂部13Aから外方に向かって拡開する両側縁部13B、13Bを配置し、該直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの中央に質量調整部14を配置する。従って、質量調整部14による質量(m)の変化がプーリ10の固有振動数に及ぼす影響を大きくし、プーリ10の固有振動数を効果的に調整できる。
【0039】
尚、各開孔13の内面にへこませた凹状の質量調整部14は、四角形凹状に限らず、丸形凹状、三角形凹状、皿形凹状等であっても良い。
【0040】
以下、本発明の具体的効果について説明する。
図4は、従来例のプーリ10を示し、三角形状の各開孔13の内面に質量調整部14を形成していない。このプーリ10の固有振動数はf=600Hz(以下、基準固有振動数と言う)、質量m=519g(以下、基準質量という)であった。
【0041】
図5は、本発明例のプーリ10を示し、三角形状の各開孔13の内面で、直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの一部である中央にだけ、丸形凸状の質量調整部14(図5(A))、三角形凸状の質量調整部14(図5(B))、四角形凸状の質量調整部14(図5(C))を形成したものである。
【0042】
丸形凸状の質量調整部14(図5(A))を形成したプーリ10の固有振動数f=593.8Hzで、基準固有振動数fに比して−6.2Hz、質量m=536gで、基準質量mに比して+17gになる。
【0043】
三角形凸状の質量調整部14(図5(B))を形成したプーリ10の固有振動数f=593.5Hzで、基準固有振動数fに比して−6.5Hz、質量m=538gで、基準質量mに比して+19gになる。
【0044】
四角形凸状の質量調整部14(図5(C))を形成したプーリ10の固有振動数f=593.1Hzで、基準固有振動数fに比して−6.9Hz、質量m=539gで、基準質量mに比して+20gになる。
【0045】
これらによれば、プーリ10において、各開孔13の内面に凸状の質量調整部14を形成することにより、円板部11の質量(m)は大きく、プーリ10の固有振動数fは下がることが認められる。
【0046】
図6は、本発明例のプーリ10を示し、三角形状の各開孔13の内面で、直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの一部である中央にだけ、四角形凹状の質量調整部14を形成したものである。
【0047】
四角形凹状の質量調整部14を形成したプーリ10の固有振動数f=607.0Hzで、基準固有振動数fに比して+7.0Hz、質量m=501gで、基準質量mに比して−18gになる。
【0048】
これによれば、プーリ10において、各開孔13の内面に凹状の質量調整部14を形成することにより、円板部11の質量(m)は小さく、プーリ10の固有振動数fは上がることが認められる。
【0049】
図7は、比較例のプーリ10を示し、三角形状の各開孔13の内面で、直径線d上の外径側に位置する外縁部13Cの全域に、質量調整部14を形成したものである。このとき、プーリ10の固有振動数はf=615.2Hzで、基準固有振動数fに比して+15.2Hz、質量m=576gで、基準質量mに比して+57gになる。
【0050】
これによれば、プーリ10において、各開孔13の外縁部13Cの全域に質量調整部14を形成してしまうと、円板部11の質量(m)を大きくしたことによる固有振動数fの低減効果がなくなる。円板部11の剛性(k)が上がり、固有振動数fが上がる。これに対し、図5に示した本発明例では、円板部11の質量(m)を大きくしたことにより、円板部11の剛性(k)を変えずに、固有振動数fを低減できる。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、回転軸に嵌着される取付孔を中心に備える円板部と、円板部の周囲に設けられてベルト掛部を外周面に備える円筒部とを有してなるプーリにおいて、円板部の中心まわりの複数位置のそれぞれに開孔を設け、各開孔の内面に凹凸状の質量調整部を形成した。これにより、プーリの強度を低下せずに、簡易に、プーリの固有振動数を調整可能にし、プーリの共振を回避することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 プーリ
11 円板部
11A 取付孔
12 円筒部
12A ベルト掛部
13 開孔
13A 頂部
13B 側縁部
13C 外縁部
14 質量調整部
c 中心
d 直径線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7