(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術に係る自動溶接システムでは、芯出し作業は必須であり、作業時間短縮を妨げる一因となっていた。
【0009】
そこで、本発明では、位置検出センサを付加し、検出位置に基づき、溶接トーチが適切な溶接位置にくるように、溶接トーチシフト装置を制御することで、芯出し作業を不要とし、作業時間短縮を図っている(詳細後述)。
【0010】
しかし、回転テーブルの中心と溶接対象ワークの中心とが一致しない場合、下記のような新たな課題が生じる。
【0011】
従来技術のように、回転テーブルの中心と溶接対象ワークの中心とが一致する場合、回転テーブルの中心から溶接位置までの距離は一定であり、溶接ワイヤの送給速度一定および回転テーブルの回転数一定であれば、1パスにおける溶接ビード断面は均一となる。
【0012】
一方、回転テーブルの中心と溶接対象ワークの中心とが一致しない場合、回転テーブルの中心から溶接位置までの距離は従来技術に比べ長くなったり短くなったりするため、溶接ワイヤの送給速度一定および回転テーブルの回転数一定であると、1パスにおける溶接ビード断面は不均一となる。すなわち、肉盛過剰部と肉盛不足部が生じる。
【0013】
1パスにおける溶接ビード断面が不均一であると、溶接品質が低下する。複数層の溶接を繰り返すたび、溶接品質は更に低下する。
【0014】
本発明の目的は、作業時間の短縮を図るとともに、溶接品質を維持することのできる自動溶接システムおよび自動溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、内包関係にある2つ以上の円筒状部材同士を周方向に溶接する自動溶接システムにおいて、前記円筒状部材を載置した状態で回転する回転テーブルと、前記回転テーブルが回転することにより、円筒状部材同士を周方向に溶接する溶接トーチを含む溶接装置と、前記溶接トーチに溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、前記溶接トーチを前記回転テーブルの径方向に移動する溶接トーチシフト装置と、前記回転テーブルの回転角度ごとに前記円筒状部材の検出基準位置を検出する位置検出センサと、前記位置検出センサによる検出基準位置に基づき、前記溶接トーチが適切な溶接位置にくるように、前記溶接トーチシフト装置を制御する溶接トーチシフト制御機能部を有する制御装置とを備える。
【0016】
検出基準位置に基づき、溶接トーチが適切な溶接位置にくるように制御することにより、従来技術では必須であった芯出し作業を省略できる。これにより、作業時間短縮を図ることができる。
【0017】
さらに、円筒状部材の成型精度に依らず、良好な溶接品質を維持できる。また、円筒状部材の平面形状は真円に限定されず、例えば、楕円や長円等にも適用できる。
【0018】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記回転テーブルの全回転角度で、1パスにおける溶接ビード断面が均一になるように、前記溶接位置と前記回転テーブルの中心との距離に基づき、前記回転テーブルの回転数と前記ワイヤ送給装置のワイヤ送給速度の少なくてもいずれかを制御する溶接ビード断面均一維持制御機能部を有する。
【0019】
芯出し作業を省略すると、溶接ビード断面は不均一となり、溶接品質劣化のおそれがある。溶接ビード断面均一維持制御をおこなうことで、芯出し作業を省略しても、溶接ビード断面を均一に維持でき、溶接品質を維持できる。
【0020】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記溶接ビード断面均一維持制御機能部は、前記ワイヤ送給装置のワイヤ送給速度/前記回転テーブルの回転数が、前記溶接位置と回転テーブル中心との距離に比例するように、前記回転テーブルの回転数および前記ワイヤ送給装置のワイヤ送給速度を制御する。
【0021】
(4)上記(2)において、好ましくは、前記溶接ビード断面均一維持制御機能部は、前記ワイヤ送給装置のワイヤ送給速度を一定に制御し、前記溶接位置と回転テーブル中心との距離に反比例するように、前記回転テーブルの回転数を制御する。
【0022】
(5)上記(2)において、好ましくは、前記溶接ビード断面均一維持制御機能部は、前記回転テーブルの回転数を一定に制御し、前記溶接位置と回転テーブル中心との距離に比例するように、前記ワイヤ送給装置のワイヤ送給速度を制御する。
【0023】
上記(3)〜(5)に係る構成により、溶接ビード断面を均一に維持できる。
【0024】
(6)上記(1)において、前記溶接装置は、第1溶接位置および第2溶接位置を含む径方向の複数の溶接位置を同時溶接できるように、第1溶接位置を溶接する第1溶接トーチと、この第1溶接トーチの外側に配置され第2溶接位置を溶接する第2溶接トーチを含み、前記制御装置は、前記第1溶接位置および第2溶接位置においてそれぞれ所望の溶接ビード断面となるように、前記第1溶接トーチおよび第2溶接トーチに送給するワイヤのワイヤ径を選定する内外調整機能部を有する。
【0025】
複数の溶接を同時に行うことにより、更なる作業時間短縮を図ることができる。また、溶接歪による変形を軽減できる。
【0026】
さらに、内外調整制御をおこなうことにより、何れかの溶接位置において肉盛過剰や肉盛不足が生じることを防止できる。
【0027】
(7)上記目的を達成するために、本発明は、 内包関係にある2つ以上の円筒状部材同士を周方向に溶接する自動溶接方法において、前記円筒状部材を回転テーブルに載置する載置ステップと、前記回転テーブルの回転角度ごとに前記円筒状部材の検出基準位置を検出する位置検出ステップと、この検出基準位置に基づき、溶接トーチが適切な溶接位置にくるように、前記溶接トーチを前記回転テーブルの径方向に移動する溶接トーチシフトステップと、前記回転テーブルの全回転角度で、溶接ビード断面が均一になるように、前記溶接位置と前記回転テーブルの中心との距離に基づき、前記回転テーブルの回転数と前記溶接トーチに送給する溶接ワイヤのワイヤ送給速度の少なくてもいずれかを制御する溶接ビード断面均一制御ステップと、前記溶接トーチが適切な溶接位置にあり、溶接ビード断面が均一になる状態で、前記回転テーブルが回転することにより、円筒状部材同士を周方向に溶接する溶接ステップとを備える。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、回転テーブルの回転数やワイヤ送給装置のワイヤ送給速度を制御することにより、1パスにおける溶接ビード断面は均一となる。これにより、溶接品質を維持しながら、芯出し作業を不要にでき、作業時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0031】
〜基本構成〜
図1は本実施形態の自動溶接システムの平面図であり、
図2は本実施形態の自動溶接システムの側面図(一部、断面図を含む)である。本実施形態の自動溶接システムは、溶接対象ワーク1(接合前の内輪2、静翼リング3、外輪4が内包状態で配置されたもの)を載置した状態で回転する回転テーブル11と、略クロス状に配置される2本のアーム51,52と回動軸となるコラム53を有するベース装置50と、内輪2と静翼リング3とを溶接する溶接トーチ21と、静翼リング3と外輪4とを溶接する溶接トーチ31と、溶接トーチ21に溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置22と、溶接トーチ31に溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置32と、コイル状の溶接ワイヤが設置されワイヤ送給装置22に溶接ワイヤを供給する溶接ワイヤ供給装置23と、コイル状の溶接ワイヤが設置されワイヤ送給装置32に溶接ワイヤを供給する溶接ワイヤ供給装置33と、溶接トーチ21を回転テーブル11の径方向に移動する溶接トーチシフト装置24と、溶接トーチ31を回転テーブル11の径方向に移動する溶接トーチシフト装置34と、溶接トーチ21を上下に移動する溶接トーチ駆動装置25と、溶接トーチ31を上下に移動する溶接トーチ駆動装置35と、溶接トーチ21を介してワイヤに電力を付加する溶接電源装置26と、溶接トーチ31を介してワイヤに電力を付加する溶接電源装置36と、溶接対象ワークに予熱を与える電気炉17と、回転テーブル11の回転角度ごとに外輪4に設けられた検出基準位置を検出する位置検出センサ18と、入力端末19と、これらの装置を制御する制御装置40とを備える。
【0032】
回転テーブル11には回転テーブル11の回転角度および回転数を検出する回転数検出センサ12が設けられている。回転数検出センサ12は、回転角度を検出し、単位時間当たりの回転角度に基づき回転数を検出する。
【0033】
ベース装置50はコラム53を中心に回動可能であり、溶接時にはアーム51が回転テーブル11上に位置するように、位置検出時にはアーム52が回転テーブル11上に位置するように制御される。アーム51の側面にはレール54が設けられ、溶接トーチシフト装置24,34により溶接ワイヤ供給装置23,33がレール上を移動することで、溶接トーチ21,31は回転テーブル11の径方向に移動する。アーム52には位置検出センサ18が固定される。
【0034】
〜基本動作〜
自動溶接システムの基本動作について説明する。
図3は、内輪2と静翼リング3との溶接箇所(第1溶接位置)である開先形状および静翼リング3と外輪4との溶接箇所(第2溶接位置)である開先形状を示す断面図である。この開先形状は、ルートギャップ、開先角度、開先深さにより設計段階で決められている。
【0035】
第1溶接位置における溶接について説明する。溶接トーチ21を径方向に移動するとともに、上下方向にも移動する。上下方向の位置は、各パス(各層)のビード高およびアーク長に基づき設定される。径方向の位置は、開先角度に基づき各層毎に設定される。
【0036】
コイル状の溶接ワイヤはワイヤ供給装置23に設置され、ワイヤ供給装置23からワイヤ送給装置22に供給され、ワイヤ送給装置22を介して所定の送給速度で溶接トーチ21を通過する。このとき、溶接電源装置26から溶接トーチ21を介して溶接ワイヤに電力を付加すると、アーク放電により溶接ワイヤは溶融し、所定のビード断面が形成される。
【0037】
この状態で回転テーブル11が回転すると、周方向に連続するビードが形成され、1層目(1パス目)の溶接が完了する。その後、2層目の溶接に適した位置に溶接トーチ21を移動し、2層目(2パス目)の溶接を行なう。このように複数層の溶接を繰り返して開先深さまで埋めることにより、内輪2と静翼リング3とを接合する。
【0038】
第2溶接位置においても、第1溶接位置での溶接と連動して同様な溶接をおこない、静翼リング3と外輪4とを接合する。
【0039】
〜制御装置〜
図4は、制御装置40の機能ブロック図である。制御装置40は、演算処理機能41と記憶部42と駆動系制御機能43と電源制御機能44とを有する。
【0040】
演算処理機能41は、回転数検出センサ12や位置検出センサ18や入力端末19からの入力情報や記憶部42に記憶されている開先形状などの情報に基づき演算処理を行う。
【0041】
駆動系制御機能43は、演算処理機能41の演算処理結果に基づき、ワイヤ送給装置22,32や溶接ワイヤ供給装置23,33や溶接トーチシフト装置24,34や溶接トーチ駆動装置25,35の駆動や回転テーブル11の駆動(回転数)を制御する。溶接トーチの径方向位置制御は、駆動系制御機能43の一機能である。
【0042】
電源制御機能44は、演算処理機能41の演算処理結果に基づき、溶接電源装置26,36を制御することで、アーク長やワイヤ送給速度を制御する。
【0043】
制御装置40は更に特徴的構成として、溶接ビード断面均一維持制御機能45と内外調整機能46とを有している(後述)。
【0044】
〜特徴的動作〜
自動溶接システムの特徴的な動作について説明する。
【0045】
まず、予め、内輪2,静翼リング3,外輪4の形状、第1溶接位置の開先形状、第2溶接位置の開先形状や溶接ワイヤに係る情報を入力端末19を介して制御装置40の記憶部42に記憶する。演算処理機能41は、これらの情報に基づいて、各層毎のトーチ基準位置(
図3参照)を演算する。
【0046】
溶接対象ワーク1(接合前の内輪2、静翼リング3、外輪4が内包状態で配置されたもの)を回転テーブル11に載置する。このとき、従来技術では必須であった芯出し作業を省略する。
【0047】
アーム52が回転テーブル11上に位置するようにベース装置50を回動制御する。
図5は位置検出時の自動溶接システムの状態図(平面図)であり、
図6はその詳細図(断面図)である。検出基準位置は外輪4の内側面に設けられている。位置検出センサ18はアーム52に固定されており、位置検出センサ18と検出基準位置との距離を検出することで、回転テーブル中心と検出基準位置との距離R0を検出する。
【0048】
この状態で、回転テーブル11を一回転させ、回転数検出センサ12により回転角度を検出しながら、回転角度0〜360°に対応する距離R0(θ)を検出し、位置検出情報を記憶部42に記憶する。演算処理機能41は、開先形状(
図3参照)等に基づき第1溶接位置における距離R1i(θ)および第1溶接位置における距離R2i(θ)を演算する。iは層番号を示す。つまり各層毎に距離R1(θ),距離R2(θ)を演算する。
図7は、任意の層における位置検出情報を示す図である。
【0049】
位置検出終了後、アーム51が回転テーブル11上に位置するようにベース装置50を回動制御する(
図1参照)。溶接トーチ21,31を径方向および上下方向に移動し、トーチ基準位置に配置する。電気炉17は溶接対象ワーク1に予熱を与える。溶接準備が完了すると回転テーブル11を回転させ溶接を開始する。
【0050】
駆動系制御機能43は距離R1(θ)に基づき溶接トーチ21を径方向に移動し、距離R2(θ)に基づき溶接トーチ31を径方向に移動する。これにより、溶接トーチ21は常に第1溶接位置に維持され、溶接トーチ31は常に第2溶接位置に維持される。
【0051】
回転テーブル11が一回転すると、1層目の溶接が完了し、2層目の溶接を開始する。
【0052】
〜効果〜
自動溶接システムの位置検出に係る効果について説明する。
【0053】
上記構成により、本実施形態の自動溶接システムは従来技術では必須であった芯出し作業を省略できる。これにより、作業時間短縮を図ることができる。
【0054】
自動溶接システムの芯出し不要に係る更なる効果について説明する。
【0055】
芯出し作業を伴う従来技術では、精度よく芯出しを行なったとしても、溶接対象ワーク1の成型精度が劣ると、溶接位置がずれるため溶接品質が劣る。
【0056】
本実施形態の自動溶接システムは、位置検出を行なうため、溶接対象ワーク1の成型精度に依らず、良好な溶接品質を維持できる。
【0057】
芯出し作業を伴う従来技術では、溶接対象ワーク1の平面形状は真円に限定される。
【0058】
本実施形態の自動溶接システムは、位置検出を行なうため、溶接対象ワーク1の平面形状は真円に限定されず、例えば、楕円や長円等にも適用できる。
【0059】
自動溶接システムの複数同時溶接に係る効果について説明する。
【0060】
従来技術では、1つの溶接装置により第1溶接位置における溶接を行い、溶接完了後、第2溶接位置における溶接を行うことが一般的である。
【0061】
本実施形態の自動溶接システムは、第1溶接位置における溶接と第2溶接位置における溶接を同時に行うため、更なる作業時間短縮を図ることができる。
【0062】
第1溶接位置における溶接を行った後に第2溶接位置における溶接を行う従来技術では、第2溶接位置における溶接時には、第1溶接位置では放熱が開始しているため、第1溶接位置と第2溶接位置の間で、溶接歪による変形が生じるおそれがある。
【0063】
本実施形態の自動溶接システムは、第1溶接位置における溶接と第2溶接位置における溶接を同時に行うため、溶接歪による変形を軽減できる。
【0064】
〜芯出しをしないことによる課題〜
上述のように本実施形態の自動溶接システムは、芯出し不要に係る構成を特徴としている。しかし、回転テーブル11の中心と溶接対象ワーク1の中心とが一致しない場合、下記のような新たな課題が生じる。
【0065】
従来技術のように、回転テーブル11の中心と溶接対象ワーク1の中心とが一致する場合、回転テーブル1の中心から溶接位置までの距離は一定(溶接対象ワーク1の半径)であり、溶接ワイヤの送給速度一定および回転テーブルの回転数一定であれば、1パスにおける溶接ビード断面は均一となる。
【0066】
一方、回転テーブル11の中心と溶接対象ワーク1の中心とが一致しない場合、回転テーブルの中心から溶接位置までの距離は従来技術に比べ長くなったり短くなったりするため(
図7参照)、溶接ワイヤの送給速度一定および回転テーブルの回転数一定であると、1パスにおける溶接ビード断面は不均一となる。すなわち、肉盛過剰部と肉盛不足部が生じる。
【0067】
上記課題について詳細に説明する。
図8は、各諸元を説明する図である。溶接対象ワーク1の内径をD1(m)とし、外径をD2(m)とする。回転テーブル中心と第1溶接位置との距離をR1(m)とし、回転テーブル中心と第2溶接位置との距離をR2(m)とする。回転テーブル11の基準位置からの変位を回転角度θ(deg)とし、回転テーブル11の回転数をn(rpm)とする。なお、dθ/dt=2πnの関係がある。また、溶接ワイヤ送給装置22の溶接ワイヤ送給速度をWS1(m/min)とし、このワイヤの断面積をWA1(m2)とする。溶接ワイヤ送給装置32の溶接ワイヤ送給速度をWS2(m/min)とし、このワイヤの断面積をWA2(m2)とする。一方、第1溶接位置におけるビード幅をBW1とし、ビード高をBH1とする。第2溶接位置におけるビード幅をBW2とし、ビード高をBH2とする。
【0068】
ここで、単位時間当たりの溶接ワイヤ供給量とビード体積の関係は以下のように表される。
第1溶接位置において
WS1×WA1=BW1×BH1×2π×R1×n(m3/min)
第2溶接位置において
WS2×WA2=BW2×BH2×2π×R2×n(m3/min)
第1溶接位置の関係式を変形すると、ビード断面積は以下のように表される。
BW1×BH1=(WS1×WA1/2πn)×(1/R1)(m2)
すなわち、WS1,WA1,nが一定の条件の下では、ビード断面積はR1に反比例する。一方、R1(θ)は
図7のように、回転角度θに依り変動する。従って、R1が長くなるとビード断面積は小さくなり、R1が短くなるとビード断面積は大きくなる。
【0069】
図9は、上記課題を説明する概念図である。従来技術と同様に、R1=D1であれば、所望の溶接ビード断面が得られる。しかし、R1>D1である場合は、肉盛不足になる。一方、R1<D1である場合は、肉盛過剰になる。溶接ビード断面が不均一であると、溶接品質が低下する。複数層の溶接を繰返すたび、溶接品質は更に低下する。
【0070】
第2溶接位置においても同様な課題が生じる。
【0071】
〜溶接ビード断面均一維持制御〜
制御装置40は更に特徴的構成として、溶接ビード断面均一維持制御機能45を有している(
図4参照)。溶接ビード断面均一維持制御機能45について詳しく説明する。
【0072】
第1溶接位置の関係式を更に変形すると、ワイヤ送給速度/テーブル回転数は以下のように表される。
WS1×/n=(2π×BW1×BH1/WA1)×R1(m)
すなわち、WS1×/nがR1に比例する場合、溶接ビード断面均一となる。
【0073】
溶接ビード断面均一維持制御機能45は、記憶部42から位置検出情報を入力し、演算処理機能41にR1(θ)に対応するWS1(θ)およびn(θ)を演算させる。さらに、WS2×/nがR2に比例するように、演算処理機能41にR2(θ)に対応するWS2(θ)を演算させる。
【0074】
溶接ビード断面均一維持制御機能45は、演算処理結果に基づき、駆動系制御機能43に回転テーブル11の回転数nを制御させるとともに、電源制御機能44にワイヤ送給速度WS1,WS2を制御させる。
【0075】
なお、ワイヤ送給速度WS1,WS2を一定に制御し、テーブル回転数nがR1,R2に反比例するように、テーブル回転数nを制御してもよい。
図10は、テーブル回転数情報を示す図である。駆動系制御機能43はテーブル回転数情報に基づき、回転角度ごとにテーブル回転数を制御する。
【0076】
また、テーブル回転数nを一定に制御し、ワイヤ送給速度WS1がR1に比例し、かつ、ワイヤ送給速度WS2がR2に比例するように、ワイヤ送給速度WS1,WS2を制御してもよい。
図11は、ワイヤ送給速度情報を示す図である。電源制御機能44はワイヤ送給速度情報に基づき、回転角度ごとにワイヤ送給速度を制御する。
【0077】
溶接ビード断面均一維持制御機能45が作動することにより、芯出し作業を省略しても、溶接ビード断面を均一に維持できる。これにより溶接品質を維持できる。
【0078】
〜内外間における課題〜
上述のように本実施形態の自動溶接システムは、複数同時溶接に係る構成を特徴としている。しかし、内側にある第1溶接位置における溶接長は、外側にある第2溶接位置における溶接長に比べて、短くなる。仮に、ワイヤ送給速度WS1,WS2が同一、ワイヤの断面積をWA1,WA2が同一の条件の下では、第1溶接位置では第2溶接位置に比べて肉盛過剰となり、第2溶接位置では第1溶接位置に比べて肉盛不足となる。従って、内外間において肉盛量を調整する必要がある。
【0079】
電源制御機能44は、ワイヤ送給速度WS1とWS2を独立に制御できる。たとえば、D1/D2=WS1/WS2を満たすようにワイヤ送給速度を制御することで、上記内外間における課題を解決できる。
【0080】
しかし、ワイヤ送給速度の制御だけでは対応できない場合もある。たとえば、電流値を大きくすればワイヤ送給速度を速くすることができるが、溶接電源装置26,36の電力供給能力に制限され電流値を大きくできない場合もある。
【0081】
〜内外調整〜
制御装置40は更に特徴的構成として、内外調整機能46を有している(
図4参照)。内外調整機能46について詳しく説明する。
【0082】
上記〜基本動作〜および〜動作〜において述べたように、演算処理機能41は溶接開始前に開先形状等の情報に基づいて各層毎のトーチ基準位置を演算する。このとき、基準となるワイヤ送給速度も演算する。
【0083】
内外調整機能46は、ワイヤ送給速度の制御のみで内外間の調整ができるかを判断し、調整可能であると判断すると、次のステップに進み、自動溶接システムは溶接を開始する。
【0084】
一方、調整不可能であると判断すると、入力端末19のモニタ部に調整不可能である旨および、推奨する溶接ワイヤの断面積(またはワイヤ径)、ワイヤ材質を表示する。
【0085】
第1溶接位置では第2溶接位置に比べて肉盛過剰となりやすいため、内外調整機能46は、ワイヤ断面積WA1<WA2となるような溶接ワイヤを選定する。また、電流値同一の条件の下ではワイヤ断面積が小さくなるとワイヤ送給速度が速くなる。
【0086】
また、耐熱材やSUS鋼の溶接ワイヤは、一般鋼に比べてより多くの電力を必要とする。つまり、電流値同一の条件の下ではワイヤ送給速度が遅くなる。
【0087】
モニタ部の表示に基づき、ワイヤ供給装置23またはワイヤ供給装置33または両方に新しい溶接ワイヤを設置するとともに、新しい溶接ワイヤに係る情報(断面積、径、材質)を入力端末19を介して入力する。
【0088】
内外調整機能46は新たな情報に基づいて再度内外間の調整ができるかを判断し、調整可能であると判断すると、自動溶接システムは溶接を開始する。
【0089】
内外調整機能46が作動することにより、ワイヤ送給速度の制御のみで内外間の調整が対応できない場合でも、第1溶接位置にて肉盛過剰となることなく、第2溶接位置にて肉盛不足となることなく、溶接できる。
【0090】
〜変形例〜
本発明は、本実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。いくつかの変形例を説明する。
【0091】
(1)本実施形態では、芯出し不要に係る特徴と、複数同時溶接に係る特徴について説明したが、どちらか一方の特徴を有するものでもよい。
図12は第1変形例に係る構成を示す図であり、芯出し不要に係る特徴のみを有する。
【0092】
すなわち、第1変形例の自動溶接システムは、回転テーブル11と、回転数検出センサ12と、2本のアーム51,52とコラム53を有するベース装置50と、溶接トーチ21と、ワイヤ送給装置22と、溶接ワイヤ供給装置23と、溶接トーチシフト装置24と、溶接トーチ駆動装置25と、溶接電源装置26と、溶接対象ワークに予熱を与える電気炉17と、位置検出センサ18と、入力端末19と、これらの装置を制御する制御装置40とを備える(一部図示省略、
図1参照)。
【0093】
第1変形例に係る自動溶接システムの動作について説明する。
【0094】
まず、予め、開先形状等に係る情報を記憶する。演算処理機能41は、これらの情報に基づいて、各層毎のトーチ基準位置や基準供給電力等を演算する。
【0095】
溶接対象ワーク1を回転テーブル11に載置する。回転テーブル11を一回転させ、位置検出センサ18により、回転角度0〜360°に対応する距離R0(θ)を検出し、第1溶接位置における距離R1(θ)および第1溶接位置における距離R2(θ)を演算する。
【0096】
位置検出終了後、溶接トーチ21を径方向および上下方向に移動し、第1溶接位置におけるトーチ基準位置に配置する。回転テーブル11を回転させ、距離R1(θ)に基づいた径方向位置制御および溶接ビード断面均一維持制御をおこないながら溶接する。
【0097】
回転テーブル11が一回転すると、1層目の溶接が完了し、2層目の溶接を開始する。このように複数層の溶接を繰り返して開先深さまで埋まることにより、内輪2と静翼リング3とを接合する。
【0098】
第1溶接位置における溶接完了後、溶接トーチ21を径方向および上下方向に移動し、第2溶接位置におけるトーチ基準位置に配置する。回転テーブル11を回転させ、距離R2(θ)に基づいた径方向位置制御および溶接ビード断面均一維持制御をおこないながら溶接する。
【0099】
回転テーブル11が一回転すると、1層目の溶接が完了し、2層目の溶接を開始する。このように複数層の溶接を繰り返して開先深さまで埋まることにより、静翼リング3と外輪4とを接合する。
【0100】
芯出し作業を省略することにより、作業時間短縮を図ることができる。また、芯出し作業を省略しても、溶接ビード断面を均一に維持でき、溶接品質を維持できる。
【0101】
(2)本実施形態では、ベース装置50は回動可能であり、自動溶接システムは位置検出後、溶接を開始したが、位置検出と溶接を同時におこなう構成でも良い。
図13は第2変形例に係る構成を示す図である。
【0102】
第2変形例のベース装置50には、アーム51とアーム55が固定されている。アーム51の側面にはレール54が設けられ、溶接トーチシフト装置24,34により溶接ワイヤ供給装置23,33がレール上を移動することで、溶接トーチ21,31は回転テーブル11の径方向に移動する。アーム55には位置検出センサ18が固定される。位置検出センサ18は、回転テーブル11の回転角度ごとに外輪4に設けられた検出基準位置を検出する。
【0103】
このとき、位置検出センサ18が第1溶接位置および第2溶接位置に対して位相90°前の検出基準位置を検出できるように、位置検出センサ18およびアーム55は設置されている。
【0104】
第2変形例に係る自動溶接システムの動作について説明する。
【0105】
まず、予め、開先形状等に係る情報を記憶する。演算処理機能41は、これらの情報に基づいて、各層毎のトーチ基準位置や基準供給電力等を演算する。
【0106】
溶接対象ワーク1を回転テーブル11に載置する。回転テーブル11を回転させ、位置検出センサ18により、回転角度0〜360°に対応する距離R0(θ)を検出し、第1溶接位置における距離R1(θ)および第2溶接位置における距離R2(θ)を演算する。
【0107】
これと同時に、溶接トーチ21,31を径方向および上下方向に移動し、第1溶接位置,第2溶接位置におけるトーチ基準位置に配置する。回転テーブル11を位相90°回転させ、距離R1(θ),距離R2(θ)に基づいた径方向位置制御および溶接ビード断面均一維持制御をおこないながら溶接を開始する。
【0108】
回転テーブル11が一回転すると、1層目の溶接が完了し、2層目の溶接を開始する。2パス目(2層目)以降において、再度、位置検出を行なってもよい。
【0109】
第2変形例に係る自動溶接システムでは、本実施形態で述べた効果と同じ効果が得られる。
【0110】
さらに、本実施形態において、位置検出後、溶接を開始するのに対し、第2変形例においては、位置検出と溶接を同時に行うため、更なる作業時間短縮を図ることができる。
【0111】
また、本実施形態において、位置検出後、2パス目以降、最初の位置検出情報に基づいて距離R1(θ),距離R2(θ)を演算するのに対し、第2変形例においては、各パス毎の位置検出情報に基づいて距離R1(θ),距離R2(θ)を演算するため、より精度のよい制御ができる。このとき、位置検出と溶接を同時に行うため、作業時間が延長するといった問題は生じない。