(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶化工程において、前記加熱炉内の温度が120℃〜260℃であり、かつ、加熱時間が10秒〜30分である、請求項1または2に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明にかかる透明導電性フィルムの構成について説明する。
図1(b)に示すように、透明導電性フィルム10は、透明フィルム基材1上に、結晶質のインジウム系複合酸化物膜4が形成された構成を有する。透明フィルム基材1と結晶質インジウム系複合酸化物膜4との間には、基材とインジウム系複合酸化物膜との密着性の向上や、屈折率による反射特性の制御等を目的として、アンカー層2,3が設けられていてもよい。
【0020】
結晶質インジウム系複合酸化物膜4は、まず基材1上に非晶質のインジウム系複合酸化物膜4’が形成され、該非晶質膜が基材とともに加熱され、結晶化されことによって形成される。従来、この結晶化工程は、枚葉体がバッチ式で加熱されることにより行われていたが、本発明においては、長尺状のフィルムが搬送されながら加熱・結晶化が行われるため、長尺状の透明導電性フィルム10の巻回体が得られる。
【0021】
なお、本明細書においては、基材上にインジウム系複合酸化物膜が形成された積層体に関して、インジウム系複合酸化物膜が結晶化前のものを「非晶質積層体」と表記し、インジウム系複合酸化物膜が結晶化された後のものを「結晶質積層体」と表記する場合がある。
【0022】
以下、長尺状透明導電性フィルムの製造方法の各工程を順に説明する。まず、透明フィルム基材1上に非晶質インジウム系複合酸化物膜4’が形成された長尺状の非晶質積層体20が形成される(非晶質積層体形成工程)。非晶質積層体形成工程において、基材1上に、必要に応じてアンカー層2,3が設けられ、その上に非晶質インジウム系複合酸化物膜4’が形成される。
【0023】
(透明フィルム基材)
透明フィルム基材1は、可撓性および透明性を有するものであれば、その材質に特に限定はなく、適宜なものを使用することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特に好ましいものは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などである。
【0024】
透明フィルム基材1の厚みは、2〜300μm程度であることが好ましく、6〜200μmであることがより好ましい。基材の厚みが過度に小さいと、フィルム搬送時の応力によってフィルムが変形しやすくなるために、その上に形成された透明導電層の膜質を悪化させる場合がある。一方、基材の厚みが過度に大きいと、タッチパネル等が搭載されたデバイスの厚みが大きくなる等の問題を生じる。
【0025】
インジウム系複合酸化物膜が形成されたフィルムが所定張力付与下に搬送されながら加熱・結晶化が行われる際の寸法変化を抑制する観点からは、基材のガラス転移温度は高い方が好ましい。一方で、特開2000−127272号公報に開示されているように、基材のガラス転移温度が高い場合には、インジウム系複合酸化物膜の結晶化が進行し難くなる傾向があり、ロール・トゥー・ロールによる結晶化に適さなくなる場合がある。かかる観点から、基材のガラス転移温度は、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましい。
【0026】
ガラス転移温度を上記範囲としながら、結晶化時の加熱によるフィルムの伸びを抑制する観点からは、透明フィルム基材1として結晶質のポリマーを含有するフィルムが用いられることが好ましい。非晶質ポリマーフィルムは、ガラス転移温度付近まで加熱されるとヤング率が急激に低下するとともに、塑性変形を生じる。そのため、非晶質ポリマーフィルムは搬送張力付与下でガラス転移温度付近まで加熱されると、伸びを生じ易い。これに対して、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)のように、部分的に結晶化された結晶質のポリマーフィルムは、ガラス転移温度以上に加熱されても、非晶質ポリマーのように急激な変形を生じ難い。そのため、後述するように所定張力付与下でフィルムが搬送されながらインジウム系複合酸化物膜が結晶化される場合には、結晶質ポリマーを含有するフィルムが透明フィルム基材1として好適に用いられる。
【0027】
なお、透明フィルム基材1として非晶質ポリマーフィルムが用いられ場合、例えば延伸されたフィルムが用いられることによって、加熱時の伸びが抑制され得る。すなわち、延伸された非晶質ポリマーフィルムは、ガラス転移温度付近まで加熱されると、分子の配向が緩和されるために収縮する傾向がある。この熱収縮とフィルム搬送張力による伸びとをバランスさせることによって、インジウム系複合酸化物膜が結晶化される際の基材の変形が抑制される。
【0028】
(アンカー層)
透明フィルム基材1のインジウム系複合酸化物膜4’が製膜される側の主面には、基材とインジウム系複合酸化物膜との密着性の向上や、反射特性の制御等を目的としてアンカー層2,3が設けられていてもよい。アンカー層は1層でもよいし、
図2に示すように2層あるいはそれ以上設けられていてもよい。アンカー層は、無機物、有機物、あるいは無機物と有機物との混合物により形成される。アンカー層を形成するための材料としては、例えば、無機物として、SiO
2、MgF
2、Al
2O
3などが好ましく用いられる。また有機物としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーなどの有機物が挙げられる。特に、有機物として、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用することが好ましい。アンカー層は、上記の材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗工法などにより形成できる。
【0029】
なお、インジウム系複合酸化物膜4’の形成に際しては、事前に基材あるいはアンカー層の表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の適宜な接着処理を施して、インジウム系複合酸化物の密着性を高めることもできる。
【0030】
(非晶質膜の形成)
透明フィルム基材上に気相法により非晶質インジウム系複合酸化物膜4’が形成される。気相法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等があげられるが、均一な薄膜が得られる点からスパッタ法が好ましく、DCマグネトロンスパッタ法が好適に採用される。なお、「非晶質インジウム系複合酸化物」とは、完全に非晶質であるものに限られず、少量の結晶成分を有していてもよい。インジウム系複合酸化物が非晶質であるか否かの判定は、基材上にインジウム系複合酸化物膜が形成された積層体を濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定することによりおこなわれる。非晶質インジウム系複合酸化物膜は塩酸によりエッチングされて消失するために、塩酸への浸漬により抵抗が増大する。本明細書においては、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超える場合に、インジウム系複合酸化物膜が非晶質であるものとする。
【0031】
長尺状の非晶質積層体20を得る観点から、非晶質インジウム系複合酸化物膜4’の製膜は、例えばロール・トウー・ロール法のように、基材を搬送させながら行われることが好ましい。ロール・トゥー・ロール法による非晶質膜の形成は、例えば、巻取式スパッタ装置を用い、長尺の基材の巻回体から基材を繰り出して連続走行させながら、スパッタ製膜を行い、非晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された基材がロール状に巻回されることによって行われる。
【0032】
本発明において、基材上に形成される非晶質インジウム系複合酸化物膜4’は、短時間の加熱で結晶化されるものであることが好ましい。具体的には180℃で加熱された場合に60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは20分以内に結晶化が完了し得るものであることが好ましい。結晶化が完了しているか否かは、非晶質の判定と同様に塩酸への浸漬・水洗・乾燥を行い、15mm間の端子間抵抗から判断し得る。端子間抵抗が10kΩ以内であれば、結晶質インジウム系複合酸化物へ転化しているものと判断される。
【0033】
このように、短時間の加熱で結晶化され得る非晶質インジウム系複合酸化物膜は、例えばスパッタに用いるターゲットの種類や、スパッタ時の到達真空度、スパッタ時の導入ガス流量等により調節することができる。
【0034】
スパッタターゲットとしては、金属ターゲット(インジウム−4価金属ターゲット)または金属酸化物ターゲット(In
2O
3−4価金属酸化物ターゲット)が好適に用いられる。金属酸化物ターゲットが用いられる場合、該金属酸化物ターゲット中の4価金属酸化物の量が、In
2O
3 と4価金属酸化物とを加えた重さに対し、0を超え15重量%であることが好ましく、1重量%〜12重量%であることがより好ましく、6〜12重量%であることがさらに好ましく、7〜12重量%であることがなおさらに好ましく、8〜12重量%であることがなお好ましく、9〜12重量%であることがさらに好ましく、9〜10重量%であることが特に好ましい。In−4価金属ターゲットが用いられる反応性スパッタの場合、該金属ターゲット中の4価金属原子の量が、In原子と4価金属原子とを加えた重さに対し、0を超え15重量%であることが好ましく、1重量%〜12重量%であることがより好ましく、6〜12重量%であることがさらに好ましく、7〜12重量%であることがなおさらに好ましく、8〜12重量%であることがなお好ましく、9〜12重量%であることがさらに好ましく、9〜10重量%であることが特に好ましい。ターゲット中の4価金属あるいは4価金属酸化物の量が少なすぎると、インジウム系複合酸化物膜が耐久性に劣る場合がある。また、4価金属あるいは4価金属酸化物の量が多すぎると、結晶化に要する時間が長くなる傾向がある。すなわち、4価金属はIn
2 O
3 結晶格子に取り込まれる量以外は不純物的な働きをするために、インジウム系複合酸化物の結晶化を妨げる傾向がある。そのため、4価金属あるいは4価金属酸化物の量は上記範囲内とすることが好ましい。
【0035】
インジウム系複合酸化物を構成する前記4価金属としては、Sn,Si,Ge,Pb等の14族元素、Zr、Hf,Ti等の4族元素、Ce等のランタノイドが挙げられる。これらの中でも、インジウム系複合酸化物膜を低抵抗とする観点から、Sn,Zr,Ce,Hf,Tiが好ましく、材料コストや製膜性の観点からはSnが最も好ましい。
【0036】
このようなターゲットを用いたスパッタ製膜にあたり、まず、スパッタ装置内の真空度(到達真空度)を好ましくは1×10
−3Pa以下、より好ましくは1×10
−4Pa以下となるまで排気して、スパッタ装置内の水分や基板から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。水分や有機ガスの存在は、スパッタ製膜中に発生するダングリングボンドを終結させ、インジウム系複合酸化物の結晶成長を妨げるからである。また、到達真空度を高める(圧力を下げる)ことにより、4価金属の含有量が高い(例えば、6重量%以上)場合であっても、インジウム系複合酸化物を良好に結晶化させることができる。
【0037】
つぎに、このように排気したスパッタ装置内に、Ar等の不活性ガスとともに、必要に応じて、反応性ガスである酸素ガスが導入されて、スパッタ製膜が行われる。不活性ガスに対する酸素の導入量は0.1体積%〜15体積%であることが好ましく、0.1体積%〜10体積%であることがより好ましい。また、製膜時の圧力は0.05Pa〜1.0Paであることが好ましく、0.1Pa〜0.7Paであることがより好ましい。製膜圧力が高すぎると製膜速度が低下する傾向があり、逆に圧力が低すぎると放電が不安定となる傾向がある。スパッタ製膜時の温度は40℃〜190℃であることが好ましく、80℃〜180℃であることがより好ましい。製膜温度が高すぎると熱しわによる外観不良や、基材フィルムの熱劣化を生じる場合がある。逆に製膜温度が低すぎると、透明導電膜の透明性等の膜質が低下する場合がある。
【0038】
インジウム系複合酸化物膜の膜厚は、結晶化後のインジウム系複合酸化物膜が所望の抵抗を有するように適宜に調製し得るが、例えば10〜300nmであることが好ましく、15〜100nmであることがより好ましい。インジウム系複合酸化物膜の膜厚が小さいと、結晶化に要する時間が長くなる傾向があり、インジウム系複合酸化物膜の膜厚が大きいと、結晶化後の比抵抗が下がりすぎたり、透明性が低下する等、タッチパネル用の透明導電性フィルムとしての品質に劣る場合がある。
【0039】
このようにして、基材上に非晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された非晶質積層体20は、そのまま引き続いて結晶化工程に供されてもよいし、一旦所定の径を有する巻芯を中心に所定の張力でロール状に巻回されて巻回体が形成されもよい。
【0040】
このようにして得られた非晶質積層体は結晶化工程に供され、非晶質インジウム系複合酸化物膜4’は加熱されることにより結晶化される。非晶質積層体が巻回されずにそのまま結晶化工程に供される場合は、基材上への非晶質インジウム系複合酸化物膜の形成と結晶化工程は、連続した一連の工程として行われる。非晶質積層体が一旦巻回される場合は、その巻回体から長尺状の非晶質積層体が連続的に繰り出される工程(フィルム繰出工程)と、巻回体から繰り出された非晶質積層体20が搬送されながら加熱されてインジウム系複合酸化物膜が結晶化される工程(結晶化工程)とが一連の工程として行われる。
【0041】
結晶化工程において、非晶質積層体は所定張力付与下に搬送されながら加熱されて、インジウム系複合酸化物膜が結晶化される。低抵抗かつ加熱信頼性に優れる結晶質インジウム系複合酸化物膜4を得る観点からは、結晶化工程におけるフィルムの寸法変化を抑制することが好ましい。具体的には、結晶化工程におけるフィルムの長さの変化率が、+2.5%以下であることが好ましく、+2.0%以下であることがより好ましく、+1.5%以下であることがさらに好ましく、+1.0%以下であることが特に好ましい。なお、「フィルム長さ」とは、フィルム搬送方向(MD方向)の長さを指す。結晶化工程におけるフィルムの寸法変化とは、結晶化工程前のフィルム長さを基準として、結晶化工程中でのフィルム長さの変化率の最大値により求められる。
【0042】
本発明者らは、前述のようなスパッタ条件により、二軸延伸PETフィルム上に、短時間で結晶化が完了し得る非晶質インジウム系複合酸化物膜を形成し、この非晶質積層体を用いて、ロール・トゥー・ロール法によるインジウム系複合酸化物膜の結晶化を試みた。加熱温度200℃、加熱時間1分となるようにフィルムの搬送速度を調整して、非晶質インジウム系複合酸化物としてインジウム−スズ複合酸化物(ITO)が用いられた非晶質積層体の加熱を行ったところ、透過率の増加がみられ、ITOが結晶化されていた。このように、結晶化され易いインジウム系複合酸化物膜を用いれば、高温短時間の加熱でインジウム系複合酸化物膜が結晶化される。ロール・トゥー・ロール法のように、フィルムを搬送させながら加熱を行う方法によって、連続的に結晶化を行い得ることが確認された。
【0043】
一方で、このような条件で結晶化されたインジウム系複合酸化物膜は、枚葉体がバッチ式で加熱されて結晶化されたインジウム系複合酸化物膜に比して、抵抗が大幅に増加していたり、加熱信頼性が十分でない場合があることが判明した。これらの原因について検討の結果、インジウム系複合酸化物膜が加熱結晶化される際の、透明導電性積層体の搬送張力と結晶質インジウム系複合酸化物膜の加熱信頼性との間に一定の相関がみられ、搬送張力を小さくすることで、より加熱信頼性の高い、すなわち、加熱によっても抵抗値の変化が少ない結晶質インジウム系複合酸化物膜が得られることがわかった。さらに、張力と抵抗値や加熱信頼性との間の相関について詳細に検討の結果、加熱結晶化の際に、搬送張力に起因して、フィルム搬送方向に伸びが生じていることが、抵抗増加や加熱信頼性の低下の原因であると推定された。
【0044】
フィルムの伸びとインジウム系複合酸化物膜の品質との関連について検討するために、非晶質ITOが形成された透明導電性積層体の引張試験を室温にて行ったところ、ITO膜の伸び率が2.5%を超える場合に、ITO膜の抵抗が急激に上昇することが判明した。これは、伸び率が大きいことに起因してインジウム系複合酸化物膜の膜破壊が生じたためであると考えられる。一方、ロール・トゥー・ロール法によりITO膜の結晶化が行われた場合に、抵抗値が3000Ωに上昇していたもの(後述の実施例8)と同様の条件となるように、加重を調整してTMAによる加熱試験を行ったところ、3.0%の伸びが生じていた。このように、後述の実施例8では、結晶化工程において透明導電性積層体に付与される応力に起因するフィルムの伸びが2.5%を超えていたために、インジウム系複合酸化物膜に膜破壊が生じたものと考えられた。
【0045】
したがって、結晶化工程におけるいずれかの段階でフィルムの伸びが2.5%を超えると、非晶質インジウム系複合酸化物膜あるいは結晶質インジウム系複合酸化物膜が2.5%以上伸びた状態が発生し、これが膜破壊に繋がると考えられる。
【0046】
さらに、フィルムの伸びとインジウム系複合酸化物膜の品質との関連について検討するために、TMAによる伸び率と結晶質インジウム系複合酸化物膜の抵抗変化との関係を調べた。
図2は、非晶質積層体が、熱機械分析(TMA)装置により所定加重下で加熱された場合の寸法変化率の最大値と、TMAと同一の張力および温度条件にて加熱結晶化が行われたインジウム系複合酸化物膜の抵抗変化とをプロットしたものである。非晶質積層体としては、厚み23μmの二軸延伸PETフィルム上に、膜厚20nmの非晶質ITO膜(酸化インジウムと酸化スズの重量比97:3)が形成されたものを用いた。TMAの昇温条件は、10℃/分とし、室温から200℃まで加熱を行った。抵抗変化は、TMA装置内で加熱・結晶化されたITO膜の表面抵抗値R
0と、さらに150℃で90分間加熱された後のITO膜の表面抵抗値Rとの比R/R
0である。
図2から明らかなように、TMAによる加熱時の最大伸び率とインジウム系複合酸化物膜の抵抗変化R/R
0との間には線形的な関係がみられ、伸び率が大きいほど抵抗変化が大きくなる傾向がある。
【0047】
上記の結果から、結晶質インジウム系複合酸化物膜の抵抗値の上昇を抑止する観点において、結晶化工程では、加熱前のフィルム長さに対する加熱後のフィルム長さの変化率を、+2.5%以下とすることが好ましく、+2.0%以下であることがより好ましい。フィルム長さの変化率が+2.5%以下であれば、結晶質インジウム系複合酸化物膜の150℃で90分間加熱時の抵抗変化R/R
0を1.5以下として、加熱信頼性を高めることができる。
【0048】
なお、フィルムが張力付与下に搬送され加熱される結晶化工程において、基材の熱膨張、熱収縮、応力による弾性変形および塑性変形により、フィルムの長さが変化するが、結晶化工程後に、フィルムの温度が低下することや搬送張力に起因する応力が開放されることによって、熱膨張や応力による弾性変形に起因する伸びは元に戻る傾向がある。そのため、結晶化工程におけるフィルムの長さの変化率を評価するには、例えば加熱炉の上流側のフィルム搬送ロールと加熱炉の下流側のフィルム搬送ロールとの周速比から求めることが好ましい。また、ロールの周速比に代えて、TMA測定により、フィルム長さの変化率を算出することもできる。TMAによるフィルム長さの変化率は、短冊状に切り出された非晶質積層体を用い、結晶化工程における搬送張力と同様の応力が付与されるように加重を調整してTMAにより測定できる。
【0049】
また、結晶化工程におけるフィルム長さの変化率に代えて、結晶化工程に供される前の非晶質積層体が150℃で60分加熱された際の寸法変化率H
0と、結晶化後の透明導電性積層体が150℃で60分加熱された際の寸法変化率H
1との差ΔH=(H
1−H
0)から、結晶化工程での熱変形履歴を評価することもできる。寸法変化率H
0およびH
1は、MD方向を長辺とする100mm×10mmの短冊状に切り出されたサンプルに、MD方向に約80mmの間隔で2点の標点(傷)を形成し、加熱前の2点間の距離L
0と、加熱後の2点間の距離L
1から、寸法変化率(%)=100×(L
1−L
0)/L
0 により求められる。
【0050】
ΔHが小さく負の値である場合は、結晶化工程での加熱によるフィルムの伸びが大きいことを意味する。そのため、ΔHと結晶化工程における伸び率には相関があると考えられる。これを検証するために、加熱時の搬送張力を変更してロール・トゥー・ロール法によりITO膜の結晶化を行い、結晶化前後での寸法変化率の差ΔHを求めた。結晶化後のITO膜の表面抵抗値R
0と、さらに150℃で90分間加熱された後のITO膜の表面抵抗値Rとの比R/R
0をΔHに対してプロットしたものを
図3に示す。
図3から、ΔHとR/R
0との間にも線形的な関係があることがわかる。
【0051】
また、前述の
図2の場合と同様に加重を調整してTMAによる加熱試験測定を行った際の寸法変化率の最大値と、ΔHとの関係をプロットしたものを
図4に示す。
図4から、ΔHとTMAによる寸法変化率の最大値との間にも線形的な関係があることがわかる。すなわち、
図2〜
図4を総合すると、結晶化前後での寸法変化率の差ΔH、結晶化工程と同様の応力条件にて行われたTMA加熱試験における寸法変化率の最大値、および結晶質インジウム系複合酸化物膜の加熱前後での抵抗変化R/R
0の間には、相互に線形関係があることがわかる。したがって、ΔHの値から、結晶化工程におけるフィルムの長さの変化率を見積もることができ、透明導電性フィルムの加熱時の抵抗変化R/R
0を予測可能であることがわかる。
【0052】
上記のようなΔHとR/R
0の相関関係を考慮すると、結晶化工程に供される前の非晶質積層体が150℃で60分加熱された際の寸法変化率H
0と、結晶化後の透明導電性積層体が150℃で60分加熱された際の寸法変化率H
1との差ΔH=(H
1−H
0)は、−0.4%〜+1.5%であることが好ましく、−0.25%〜+1.3%であることがより好ましく、0%〜+1%であることがさらに好ましい。ΔHが小さいことは、結晶化工程におけるフィルムの伸び率が大きいことを意味している。ΔHが−0.4%より小さいと、結晶質インジウム系複合酸化物膜の抵抗値が大きくなったり、加熱信頼性が低下する傾向がある。一方、ΔHが+1.5%より大きいと、フィルムの搬送が不安定になる等に起因して熱シワが発生しやすくなる傾向があり、透明導電性フィルムの外観が低下する場合がある。
【0053】
なお、上記の寸法変化率の測定やTMAによる測定は、インジウム系複合酸化物膜が形成された透明導電性積層体を用いる代わりに、インジウム系複合酸化物膜形成前の基材単体で行うこともできる。このような測定によって、ロール・トゥー・ロール法によるインジウム系複合酸化物膜の結晶化を実際に行わずとも、結晶化工程に適した張力条件を事前に見積もることもできる。すなわち、一般の透明導電性積層体は、厚み数十μm〜100μm程度の基材上に、厚み数nm〜数十nmのインジウム系複合酸化物膜が形成されている。両者の厚みの比率を考慮すると、積層体の熱変形挙動は、基材の熱変形挙動が支配的となり、インジウム系複合酸化物膜の有無は熱変形挙動にほとんど影響を与えない。そのため、基材のTMA試験をおこなったり、基材を所定の応力付与下で加熱して、その前後での寸法変化率の差ΔHを求めることによって、基材の熱変形挙動を評価すれば、結晶化工程に適した張力条件を見積もることが可能である。
【0054】
以下、結晶化工程の概要について、長尺状の非晶質積層体10が一旦巻回されて非晶質巻回体21が形成され、その巻回体から長尺状の非晶質積層体を連続的に繰り出される工程(フィルム繰出工程)と、巻回体から繰り出された長尺状の非晶質積層体20が搬送されながら加熱されてインジウム系複合酸化物膜が結晶化される工程(結晶化工程)とが、ロール・トゥー・ロール法によって一連の工程として行われる場合を例として説明する。
【0055】
図5は、ロール・トゥー・ロール法によって結晶化を行うための製造システムの一例を示しており、インジウム系複合酸化物膜の結晶化を行う工程を概念的に説明するものである。
【0056】
透明フィルム基材上に非晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された非晶質積層体の巻回体21は、フィルム繰出部50とフィルム巻取部60との間に加熱炉100を有するフィルム搬送・加熱装置のフィルム繰出架台51にセットされる。インジウム系複合酸化物膜の結晶化は、非晶質積層体の巻回体21から長尺状の非晶質積層多が連続的に繰り出される工程(フィルム繰出工程)、巻回体21から繰り出された長尺状の非晶質積層体20が搬送されながら加熱されてインジウム系複合酸化物膜が結晶化される工程(結晶化工程)、および結晶化後の結晶質積層体10がロール状に巻回される工程(巻回工程)を一連に行うことで、ロール・ツゥ―・ロール法により行われる。
【0057】
図5の装置において、繰出部50の繰出架台51にセットされた非晶質積層体の巻回体21から、長尺状の非晶質積層体20が連続的に繰り出される(フィルム繰出工程)。巻回体から繰り出された非晶質積層体は搬送されながら、フィルム搬送経路に設けられた加熱炉100によって加熱されることで、非晶質インジウム系複合酸化物膜が結晶化される(結晶化工程)。加熱・結晶化後の結晶質積層体10は、巻取部60でロール状に巻回され、透明導電性フィルムの巻回体11が形成される(巻回工程)。
【0058】
繰出部50と巻取部60との間のフィルム搬送経路には、フィルム搬送経路を構成するために複数のロールが設けられている。これらのロールの一部をモーター等と連動した適宜の駆動ロール81a、82aとすることで、その回転力に伴ってフィルムに張力が付与され、フィルムが連続的に搬送される。なお、
図5において、駆動ロール81aおよび82aは、それぞれロール81bおよび82bとニップロール対81および82を形成しているが、駆動ロールはニップロール対を構成するものである必要はない。
【0059】
搬送経路上には、例えばテンションピックアップロール71〜73のような、適宜の張力検出手段を有していることが好ましい。好ましくは、張力検出手段により検出される搬送張力が所定値となるように、適宜の張力制御機構により、駆動ロール81a、82aの回転数(周速)や、巻取架台61の回転トルクが制御される。張力検出手段としては、テンションピックアップロールの他、例えばダンサーロールとシリンダの組み合わせ等の適宜の手段を採用し得る。
【0060】
前述のごとく、結晶化工程におけるフィルム長さの変化率は、+2.5%以下であることが好ましい。フィルム長さの変化率は、例えば加熱炉の上流側に設けられたニップロール81と、加熱炉の下流側に設けられたニップロール82の周速の比率から求めることができる。フィルム長さの変化率を前記範囲とするためには、例えば、加熱炉の上流側のロールと加熱炉の下流側のロールの周速比が前記範囲となるように、ロールの駆動を制御すればよい。一方で、ロールの周速比が一定となるように制御をおこなうこともできるが、その場合、加熱炉100内でのフィルムの熱膨張により、搬送中のフィルムがばたついたり、炉内でフィルムが弛む等の不具合を生じる場合がある。
【0061】
フィルムの搬送を安定させる観点からは、適宜の張力制御機構により、炉内での張力が一定となるように、加熱炉の下流側に設けられた駆動ロール82aの周速を制御する方法を採用することもできる。張力制御機構は、テンションピックアップロール72等の適宜の張力検出手段によって検出された張力が、設定値よりも高い場合には、駆動ロール82aの周速を小さくし、張力が設定値よりも大きい場合には、駆動ロール82aの周速を大きくするように、フィードバックを行う機構である。なお、
図5においては、加熱炉100の上流側に、張力検出手段としてのテンションピックアップロール72が設けられた形態が図示されているが、張力制御手段は、加熱炉の下流側に配置されていてもよいし、加熱炉100の上流・下流の両方に配置されていてもよい。
【0062】
なお、このような製造システムとして、従来公知のフィルム乾燥装置や、フィルム延伸装置のように、フィルムを搬送しながら加熱する機構を備えているものをそのまま転用することもできる。あるいは、フィルム乾燥装置や、フィルム延伸装置等に用いられる各種の構成要素を転用して製造システムを構成することもできる。
【0063】
加熱炉100の炉内温度は、非晶質インジウム系複合酸化物膜を結晶化するのに適した温度、例えば120℃〜260℃、好ましくは150℃〜220℃、より好ましくは170℃〜220℃に調整される。炉内温度が低すぎると、結晶化が進行しなかったり、あるいは結晶化に長時間を要するために、生産性に劣る傾向がある。一方、炉内温度が高すぎると、基材の弾性率(ヤング率)が低下するとともに塑性変形が生じ易くなるために、張力によるフィルムの伸びが生じ易くなる傾向がある。炉内温度は、熱風又は冷風が循環する空気循環式垣温オーブン、マイクロ波又は遠赤外線を利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、ヒートパイプロール等の適宜の加熱手段により調整され得る。
【0064】
加熱温度は、炉内で一定である必要はなく、段階的に昇温あるいは降温するような温度プロファイルを持たせてもよい。例えば、炉内を複数のゾーンに分割して、各ゾーンごとに設定温度を変えることもできる。また、加熱炉の入口や出口での温度変化によってフィルムが急激に寸法変化して、シワを生じたり、搬送不良を生じたりすることを抑止する観点から、加熱炉の入口および出口付近での温度変化が緩やかになるように、予備加熱ゾーンや冷却ゾーンを設けることもできる。
【0065】
炉内での加熱時間は、前記炉内温度で非晶質膜を結晶化するのに適した時間、例えば10秒〜30分、好ましくは25秒〜20分、より好ましくは30秒〜15分に調整される。加熱時間が長すぎると、生産性に劣るほか、フィルムに伸びを生じ易くなる場合がある。一方、加熱時間が短かすぎると、結晶化が不十分となる場合がある。加熱時間は、加熱炉中のフィルム搬送経路の長さ(炉長)や、フィルムの搬送速度によって調整することができる。
【0066】
加熱炉内でのフィルムの搬送方法としては、ロール搬送法、フロート搬送法、テンター搬送法等の適宜の搬送方法が採用される。炉内での擦れによるインジウム系複合酸化物膜の傷付きを防止する観点からは、非接触の搬送方式であるフロート搬送法やテンター搬送法が好適に採用される。
図5においては、フィルム搬送経路の上下に熱風吹き出しノズル(フローティングノズル)111〜115および121〜124が交互に配置された、フロート搬送式の加熱炉が図示されている。
【0067】
加熱炉内でのフィルムの搬送にフロート搬送法が採用される場合、炉内の搬送張力が過度に小さいと、フィルムのバタツキや、フィルムの自重による弛みに起因して、フィルムがノズルと擦れるために、インジウム系複合酸化物膜表面に傷付きを生じる場合がある。このような傷付きを防止するために、熱風の吹き出し風量や、搬送張力を制御することが好ましい。
【0068】
ロール搬送法、フロート搬送法のように、MD方向に搬送張力が付与されてフィルムが搬送される方式が採用される場合、搬送張力は、フィルムの伸び率が前記範囲となるように調整されることが好ましい。搬送張力の好ましい範囲は、基材の厚み、ヤング率、線膨張係数等によって異なるが、例えば基材として二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられる場合、フィルムの単位幅あたりの搬送張力は25N/m〜300N/mであることが好ましく30N/m〜200N/mであることがより好ましく、35N/m〜150N/mであることがさらに好ましい。また、搬送時のフィルムに付与される応力は、1.1MPa〜13MPaであることが好ましく、1.1MPa〜8.7MPaであることがより好ましく、1.1MPa〜6.0MPaであることがさらに好ましい。
【0069】
加熱炉内でのフィルムの搬送にテンター搬送法が採用される場合、ピンテンター方式・クリップテンター方式のいずれも採用され得る。テンター搬送法はフィルムの搬送方向に張力を付与することなくフィルムを搬送できる方法であるため、結晶化工程における寸法変化を抑制する観点からは好適な搬送法であるといえる。一方、加熱によるフィルムの膨張が生じる場合、幅方向のクリップ間距離(またはピン間距離)を拡張させて、弛みを吸収させてもよい。ただし、クリップ間距離を過度に拡げると、フィルムが幅方向に延伸されることによって、結晶質インジウム系複合酸化物膜の抵抗が上昇したり、加熱信頼性に劣る場合がある。かかる観点からは、クリップ間距離は、幅方向(TD)のフィルムの伸び率が、好ましくは+2.5%以下、より好ましくは+2.0%以下、さらに好ましくは+1.5%以下、特に好ましくは+1.0%以下となるように調整されることが好ましい。
【0070】
加熱炉内での加熱によりインジウム系複合酸化物膜が結晶化された結晶質積層体10は、巻取部60に搬送される。巻取部60の巻取架台61には、所定の径を有する巻芯がセットされており、結晶質積層体10はこの巻芯を中心として、所定の張力でロール状に巻回され、透明導電性フィルムの巻回体11が得られる。巻芯に巻回する際にフィルムに付与される張力(巻付け張力)は、20N/m以上であることが好ましく、30N/m以上であることがより好ましい。巻付張力が小さすぎると、巻芯に対して良好に巻回することができない場合や、巻きズレにより、フィルムに傷付きを生じる場合がある。
【0071】
一般に、上記の好ましい巻き付け張力の範囲は、結晶化工程において、フィルムの伸びを抑制するためのフィルム搬送張力に比して大きい場合が多い。フィルム搬送張力よりも巻き付け張力を大きくする観点からは、加熱炉100と巻取部60との間の搬送経路中に、テンションカット手段を有することが好ましい。テンションカット手段としては、
図5に示されるようなニップロール82の他、サクションロール、あるいは、フィルム搬送経路がS字状となるように配置されたロール群等を用いることができる。また、テンションカット手段と巻取部60との間には、テンションピックアップロール72のような張力検出手段が配置され、適宜の張力制御機構によって巻取張力が一定となるように適宜の張力制御手段によって、巻取架台61の回転トルクが調整されることが好ましい。
【0072】
以上、ロール・トゥー・ロール法により、インジウム系複合酸化物膜の結晶化が行われる場合を例として説明したが、本発明はかかる工程に限定されず、前述のように、非晶質積層体の形成と結晶化とが一連の工程として行われてもよい。また、結晶化工程後、巻回体11を形成する前に、結晶質積層体にさらに他の層を形成する等、他の工程が設けわれていてもよい。
【0073】
以上のように、本発明によれば、短時間の加熱で結晶化が完了し得る非晶質インジウム系複合酸化物膜が形成される。そのため、結晶化に要する時間が短縮され、インジウム系複合酸化物膜の結晶化をロール・トゥー・ロール法により行うことが可能となり、結晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された長尺状の透明導電性フィルムの巻回体が得られる。また、結晶化工程におけるフィルムの伸びが抑制されることにより、抵抗が小さく、かつ加熱信頼性に優れる結晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された透明導電性フィルムとすることができる。なお、透明導電性フィルムを150℃で90分間加熱する前後でのインジウム系複合酸化物膜の表面抵抗値Rとの比R/R
0は、1.0以上、1.5以下であることが好ましい。R/R
0は1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
【0074】
このようにして製造される透明導電性フィルムは、各種装置の透明電極や、タッチパネルの形成に好適に用いられる。本発明によれば、結晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された長尺状の透明導電性フィルムの巻回体が得られるため、その後のタッチパネル等の形成工程においても、ロール・トゥー・ロール法による金属層等の積層や加工が可能となる。そのため、本発明によれば、透明導電性フィルム自体の生産性が向上されるのみならず、その後のタッチパネル等の生産性の向上を図ることもできる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[評価方法]
実施例での評価は、以下の方法によりおこなったものである。
<抵抗>
表面抵抗は、JIS K7194(1994年)に準じて四端子法により測定した。結晶化後の透明導電性フィルムからフィルム片を切り出して、150℃の加熱槽内で90分間加熱して、加熱前の表面抵抗(R
0)と加熱後の表面抵抗(R)との比R/R
0を求めた。
【0077】
<寸法変化率>
結晶化工程に供される前の非晶質積層体を、MD方向を長辺とする100mm×10mmの短冊状の試験片に切り出し、MD方向に約80mmの間隔で2点の標点(傷)を形成して、標点間の距離L
0を三次元測長機により測定した。その後、150℃の加熱槽内で90分間試験片の加熱を行い、加熱後の標点間距離L
1を測定した。L
0およびL
1から寸法変化率H
0(%)=100×(L
1−L
0)/L
0 を算出した。結晶化後の結晶質積層体についても同様にして寸法変化率H
1を求め、これらの寸法変化率の差から、結晶化前後での寸法変化率の差ΔH=(H
1−H
0)を算出した。
【0078】
<透過率>
ヘイズメーター(スガ試験機製)を用いて、JIS K-7105に準じ、全光線透過率を測定した。
【0079】
<結晶化の確認>
基材上に非晶質インジウム系複合酸化物膜が形成された積層体を180℃の加熱オーブン中に投入し、投入後2分、10分、30分、60分後のそれぞれの積層体について、塩酸に浸漬後の抵抗値をテスタで測定することにより、結晶化の完了を判断した。
【0080】
<張力および伸び率>
結晶化工程における張力は、フィルム搬送経路中の加熱炉の上流に設けられたテンションピックアップロールにより検出された張力の値を用いた。また、その張力およびフィルムの厚みから、フィルムに付与される応力を算出した。結晶化工程でのフィルムの伸び率は、フィルム搬送経路中の加熱炉の上流に設けられた駆動式のニップロールと、加熱炉の下流側に設けられた駆動式のニップロールとの周速比から算出した。
【0081】
[実施例1]
(アンカー層の形成)
ロール・トゥー・ロール法により、厚み23μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂製 商品名「ダイアホイル」、ガラス転移温度80℃、屈折率1.66)上に、2層のアンダーコート層を形成した。まず、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物を、固形分で2:2:1の重量比で含む熱硬化型樹脂組成物を、固形分濃度が8重量%となるようにメチルエチルケトンで希釈した。この溶液を、PETフィルムの一方主面に塗布し、150℃で2分間加熱硬化させ、膜厚150nm、屈折率1.54の第1アンダーコート層を形成した。
【0082】
シロキサン系熱硬化型樹脂(コルコート製 商品名「コルコートP」)を、固形分濃度が1重量%となるようにメチルエチルケトンで希釈した。この溶液を前記の第1アンダーコート層上に塗布し、150℃で1分間加熱硬化させ、膜厚30nm、屈折率1.45のSiO
2薄膜(第2アンダーコート層)を形成した。
【0083】
(非晶質ITO膜の形成)
平行平板型の巻き取り式マグネトロンスパッタ装置に、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを97:3の重量比で含有する焼結体を装着した。2層のアンダーコート層が形成されたPETフィルム基材を搬送しながら、脱水、脱ガスを行い、5×10
−3Paとなるまで排気した。この状態で、基材の加熱温度を120℃とし、圧力が4×10
−1Paとなるように、98%:2%の流量比でアルゴンガスおよび酸素ガスを導入して、DCスパッタ法により製膜を行い、基材上に厚み20nmの非晶質ITO膜を形成した。非晶質ITO膜が形成された基材は、連続的に巻芯に巻取られ、非晶質積層体の巻回体が形成された。この非晶質ITO膜の表面抵抗は、450Ω/□であった。非晶質ITO膜の加熱試験を行ったところ、180℃で10分間の加熱後に結晶化が完了していることが確認された。
【0084】
(ITOの結晶化)
図5に示すようなフロート搬送式の加熱炉を有するフィルム加熱・搬送装置を用いて、前記の非晶質積層体の巻回体から、積層体を連続的に繰出し、搬送しながら加熱炉内で加熱することでITO膜の結晶化を行った。結晶化後の積層体を再度巻芯に巻取られ、結晶ITO膜が形成された透明導電性フィルムの巻回体が形成された。
【0085】
結晶化工程において、加熱炉の炉長は20mであり、加熱温度は200℃、フィルムの搬送速度は20m/分(炉内通過の際の加熱時間:1分)であった。炉内での搬送張力は、フィルムの単位幅あたりの張力が28N/mとなるように設定された。得られた透明導電性フィルムは、加熱前の非晶質ITO膜に比して透過率が上昇しており、結晶化していることが確認された。また、塩酸に浸漬後の抵抗値から、結晶化が完了していることが確認された。
【0086】
[実施例2]
実施例2においては、実施例1と同様にして、結晶ITO膜が形成された透明導電性フィルムの巻回体が形成されたが、結晶化工程における炉内での単位幅あたりの搬送張力が51N/mに設定された点のみにおいて、実施例1とは異なっていた。
【0087】
[実施例3]
実施例3においては、実施例1と同様にして、結晶ITO膜が形成された透明導電性フィルムの巻回体が形成されたが、結晶化工程における炉内での単位幅あたりの搬送張力が65N/mに設定された点のみにおいて、実施例1とは異なっていた。
【0088】
[実施例4]
実施例4においては、実施例1と同様にして、結晶ITO膜が形成された透明導電性フィルムの巻回体が形成されたが、結晶化工程における炉内での単位幅あたりの搬送張力が101N/mに設定された点のみにおいて、実施例1とは異なっていた。
【0089】
[実施例5]
実施例5においては、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを90:10の重量比で含有する焼結体を用い、スパッタ製膜を行う前の脱水、脱ガス時に5×10
−4Paとなるまで排気をおこなった以外は実施例1と同様のスパッタ条件により、アンダーコート層が形成された二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に非晶質ITO膜が形成された透明導電性積層体を得た。この非晶質ITO膜の表面抵抗は、450Ω/□であった。非晶質ITO膜の加熱試験を行ったところ、180℃で30分間の加熱後に結晶化が完了していることが確認された。
【0090】
この非晶質積層体を用いて、実施例1と同様にロール・トゥー・ロール法でITOの結晶化がおこなわれたが、フィルムの搬送速度が6.7m/分(炉内通過の際の加熱時間:3分)に変更され、搬送張力が65N/mに設定された点において実施例1とは結晶化工程の条件が異なっていた。得られた透明導電性フィルムは、加熱前の非晶質積層体に比して透過率が上昇しており、結晶化していることが確認された。また、塩酸に浸漬後の抵抗値から、結晶化が完了していることが確認された。
【0091】
[実施例6]
実施例6においては、スパッタ製膜を行う前の脱水、脱ガス時に5×10
−4Paとなるまで排気をおこなった以外は、実施例1と同様のスパッタ条件により、アンダーコート層が形成された二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に非晶質ITO膜が形成された透明導電性積層体を得た。この非晶質ITO膜の表面抵抗は、450Ω/□であった。非晶質ITO膜の加熱試験を行ったところ、180℃で2分間の加熱後に結晶化が完了していることが確認された。
【0092】
この非晶質積層体を用いて、実施例1と同様にロール・トゥー・ロール法でITOの結晶化がおこなわれたが、搬送張力が101N/mに設定された点において実施例1とは結晶化工程の条件が異なっていた。得られた透明導電性フィルムは、加熱前の非晶質積層体に比して透過率が上昇しており、結晶化していることが確認された。
【0093】
[実施例7]
実施例7においては、実施例6と同様にして、結晶ITO膜が形成された透明導電性フィルムの巻回体が形成されたが、結晶化工程における炉内での単位幅あたりの搬送張力が120N/mに設定された点のみにおいて、実施例6とは異なっていた。
【0094】
[実施例8]
実施例8においては、実施例1と同様にして、結晶ITO膜が形成された透明導電性フィルムの巻回体が形成されたが、結晶化工程における炉内での単位幅あたりの搬送張力が138N/mに設定された点のみにおいて、実施例1とは異なっていた。
【0095】
以上の各実施例の製造条件および透明導電性フィルムの評価結果の一覧を表1に示す。なお、実施例1〜8においては、巻回体の内周部(巻芯付近)と外周部とで、結晶化後の透明導電性フィルムの特性は同等であった。
【0096】
【表1】
【0097】
以上のように、実施例1〜8においては、フィルムが搬送されながら加熱されることにより、インジウム系複合酸化物膜の結晶化が行なわれ得ることがわかる。
【0098】
また、各実施例を対比すると、結晶化工程における張力(応力)を小さくすることで、工程中の伸びが抑制され、それとともに加熱試験における抵抗値の変化(R/R
0)が小さくなっていることがわかる。特に、スパッタ条件として、4価金属含有量の小さいターゲットが用いられ、あるいは到達真空度が高められる(真空に近付ける)ことで、より結晶化され易い非晶質ITO膜が得られ、これにより結晶化工程の加熱時間が短縮されて、生産性が向上され得ることがわかる。