【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例等によって詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。(なお、以下の含有割合で、単に「%」と記載されているところは、「質量%」を表す。)
【0025】
<実施例1> マウスを用いたMFGMの経皮水分蒸散量低下効果
MFGMによる経皮水分蒸散量の低下効果を以下の要領で検証した。
(1)MFGMの調製
まず、MFGMは以下の方法で調製した。すなわち、‘濃縮バターミルク’(よつ葉乳業社製 全固形分30%)を温水で全固形分が6%になるように希釈し、50℃に保持した。その後、0.8μmの精密ろ過膜を有する精密ろ過機(MFS-1:日本テトラパック社製)で精密ろ過を行い、得られた保持液を凍結乾燥して、‘MFGM粉末’を調製した。
この‘MFGM粉末’は、全固形当たりタンパク質を86%、脂質を6%、糖質を1%、灰分を7%含有していた。MFGMは水に難溶性であるため、混入している可溶性タンパク質(主としてホエイタンパク質)の量を定量すれば、MFGMのタンパク質成分の重量が推定でき、MFGMの純度が算出できる。この‘MFGM粉末’に含まれる可溶性タンパク質含量は50%であったため、MFGMの純度はおよそ50%であった。
また、対照物として脱脂粉乳(よつ葉乳業社製)から糖質を除去した‘乳タンパク質’を用いた。この乳タンパク質には、全固形当たりタンパク質を86%、脂質を2%、糖質を5%、灰分を7%含有していた。
【0026】
(2)経皮水分蒸散量の測定
これらの試料を用いて、以下に示す経皮水分蒸散量測定系により、MFGMの水分蒸散量低下効果を、乳タンパク質と比較した。
4週齢のHos:HR-1雄性マウス(以下、HR-1と略)を株式会社星野試験動物飼育所より75匹購入した。このマウスは特殊飼料としてHR-AD用精製飼料(日本農産工業社製)を与えると、皮膚の経皮水分蒸散量が上昇し、アトピー様の皮膚炎を発症することが知られている。
予備飼育及び実験期間を通じ、温度22±3℃、湿度50±20%、換気回数13〜17回/時間、照明12時間(8:00〜20:00)の環境下で、ステンレスラックにポリカーボネート製ケージを設置し、個別に収容した。飼料は予備飼育及び実験期間を通じてポリカーボネート製ドーム型給餌器カバーを装着したステンレス製給餌器により自由に与えた。水はポリサルフォン製給水器(先管ステンレス製)により水道水を自由に与えた。動物入荷日の翌日にすべての動物について体重を測定した。検疫・馴化期間においてはすべての動物に普通飼料を与えた。
普通飼料として、ラボMRストック粉末(日本農産工業社製)を用い、予備飼育期間中の全ての群および群分け後の無処置群について与えた。また、マウスの経皮水分蒸散量を上昇させるために、特殊飼料としてHR-AD用精製飼料(日本農産工業社製)を群分け後の無処置群を除く全ての動物に、それぞれ被験物質を所定の量で混合して、混餌として与えた。成分表は以下の表1に示す通りである。
【0027】
【表1】
【0028】
検疫・馴化期間終了日に、5週齢のHR-1マウスの体重及び背部皮膚の経皮水分蒸散量(以下、TEWLと略称する場合がある。)を測定した。TEWLの測定には、Tewameter TM300(Courage+Khazaka社製)を用いた。さらに体重も測定した。
検疫・馴化期間中の体重増加及び一般状態観察により健康とみなされた動物について、測定したTEWLの値を指標にして層別連続無作為化法により、表1の群構成表に基づき群分けを行った。
群分け翌日より、無処置群を除き、所定の量で投与物質が混合された特殊飼料の摂取を開始し、動物の安楽死及び皮膚摘出日まで自由に摂取させた。無処置群は引き続き普通飼料で飼育した。特殊飼料摂取開始後1回/週の割合で、体重、摂餌量及び背部皮膚のTEWLを測定した。
【0029】
得られた数値は、各群で平均値及び標準誤差を算出した。
無処置群及び対照群間の有意差は、F検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentの、不等分散の場合はAspin-Welchのt検定を行った。
対照群〜皮膚機能改善組成物群間の有意差は、Bartlett法により等分散性の検定を行った。等分散の場合には一元配置分散分析を行い、有意な場合はDunnett法により平均値の比較を行った。不等分散の場合はKruskal-WallisのH検定を行い、有意な場合はDunnett法により平均順位の比較を行った。F検定、Bartlett法、一元配置分散分析及びKruskal-WallisのH検定については有意水準を危険率5%、t検定及びDunnett法については有意水準を危険率10%、5%及び1%とした。
【0030】
6週間の飼育において、体重、摂餌量は群間の差異は認められなかった。TEWL量の変化を以下の表2に示す。なお、それぞれの数値は、12例の平均値±標準誤差を示す。
各MFGM投与群において、「##」はP<0.01、「#」はP<0.05で、対照群(HR−AD用精製飼料のみを投与)と比較してDunnettの多重比較検定で有意差があるものを示す。
対照群において、「**」は、P<0.01で無処置群(普通飼料のみを投与)と比較してt検定で有意差があるものを示す。
【0031】
【表2】
【0032】
その結果、‘対照群’(HR-AD用精製飼料のみを投与)では、2週経過後から6週経過後にかけてTEWLは顕著な上昇を示し、無処置群と比較して、2週経過後以降の全てのポイントにおいて有意に高い値を示した。このことから、特殊飼料を摂取することによりHR-1マウスの背部皮膚の保湿能低下が誘発されたことが示された。
それに対して、‘1.5%MFGM投与群’は4週経過後、5週経過後及び6週経過後において、‘0.0125%MFGM投与群’は5週経過後及び6週経過後において、‘0.00415%MFGM投与群’は6週経過後において、それぞれ対照群と比較して有意に低い値を示した。
MFGMを摂取した群が示した値は、投与量に依存していた。これらのことから、MFGMはHR-1マウスの背部皮膚の経皮水分蒸散量の上昇を抑制し、保湿能低下を改善することが示された。
【0033】
<実施例2> マウスを用いたMFGMの皮膚肥厚抑制効果
MFGMにより経皮水分蒸散量が低下することが、実施例1において明らかとなった。そこで、経過週数6週目に背部皮膚の摘出を行った。得られた背部皮膚の一部は、定法に従って10%中性緩衝ホルマリンで固定した後にHematoxylin eosin染色を行い、病理組織学的検査を行った。病理組織学的検査により得られた病理組織像より、各動物における背部皮膚の表皮厚および真皮厚を測定した。また、皮膚の厚さは表皮厚と真皮厚の和とした。
背部皮膚の皮膚厚、真皮厚および皮膚の厚さを以下の表3に示す。なお、それぞれの数値は、12例の平均値±標準誤差を示す。
また、各MFGM投与群において、「##」はP<0.01で、対照群(HR-AD用精製飼料のみを投与)と比較してDunnettの多重比較検定で有意差があるものを示す。なお、対照群において、「**」は、P<0.01で無処置群(普通飼料のみを投与)と比較してt検定で有意差があるものを示す。
【0034】
【表3】
【0035】
その結果、‘対照群’(HR-AD用精製飼料のみを投与)では、表皮厚は56.3±2.8μm、真皮厚は379.6±14.8μmで、皮膚の厚さは0.44±0.02mmであり、表皮、真皮および皮膚の厚さのそれぞれについて無処置群と比較して有意に高い値を示したことから、対照群では皮膚肥厚が誘導されていると認められた。
それに対して、‘1.5%MFGM投与群’では、表皮厚は25.0±2.3μm、真皮厚は292.9±12.5μmで、皮膚の厚さは0.32±0.01mmであった。
また、‘0.0125%MFGM投与群’および‘0.00415%MFGM投与群’では、それぞれの表皮厚は41.7±2.1μmおよび46.7±2.2μm、真皮厚は318.3±13.0μmおよび332.1±10.9μmで、皮膚の厚さは0.36±0.01mmおよび0.38±0.01mmであった。
即ち、すべてのMFGM投与群は、表皮、真皮および皮膚の厚さのそれぞれについて対照群と比較して有意に低い値を示し、また投与量に依存してより低値を示した。
これらのことから、MFGMはHR-1マウスの背部皮膚の肥厚化を抑制し、正常な皮膚へと改善することが示された。
【0036】
<実施例3> MFGMにより経皮水分蒸散量の低下および皮膚肥厚が抑制されたマウスの遺伝子解析
MFGMにより経皮水分蒸散量の低下および皮膚肥厚の抑制が、実施例1および実施例2において明らかとなった。この際にマウスの皮膚で発現しているIvl遺伝子とSprr遺伝子群の発現量を、リアルタイムPCRによって解析した。
まず、実施例1の試験とほぼ同様の方法により、マウスの投与飼育を行った。但し、1群6匹として3群、すなわち‘無処置群’、‘対照群’および‘1.5%MFGM投与群’を設定した。
そして、経過週数4週を経過した時点で、マウスの背部皮膚から定法に従ってRNAの抽出を行った。経過週数4週時の経皮水分蒸散量の値は表2とほぼ同様の値を示した。得られたRNAを、PrimeScript(R) RT reagent Kit (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いて逆転写反応してcDNAを得た。角質層の周辺帯の構成成分であるインボルクリンをコードする遺伝子(「Ivl」)と、Small proline-rich proteinをコードする遺伝子群(「Sprr1b」、「Sprr2a」、「Sprr2d」、「Sprr2e」、「Sprr2f」、「Sprr2g」および「Sprr2h」)を標的とし、リアルタイムPCRを行った。
リアルタイムPCR反応は、SYBR(R) Premix EX TaqTMII (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を使用し、PCR装置と検出器はDNA Engine OpticonTM System <PTC−200 DNA EngineTM Cycler, CFD-3200 OpticonTM Detector>(MJ Research社製)を使用した。
各遺伝子の発現量は、グルクロニダーゼ−β遺伝子(Gusb、内部標準遺伝子)に対する量を求め、無処置群の発現量を1とした相対値で比較した。
発現解析した遺伝子と用いたプライマー配列(下記配列表の配列番号)との関係を表4に示す。
得られた結果に対して各群間の有意差は、F検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentの、不等分散の場合はWelchのt検定を実施した。
【0037】
【表4】
【0038】
得られた発現量を表5および
図1に示す。なお、表5および
図1における遺伝子発現量の比較において、「**」はP<0.01、「*」はP<0.05で、それぞれ無処置群に対して対照群を比較してt検定で有意差があることを示し、「##」はP<0.01、「#」はP<0.05で、それぞれ対照群(HR-AD用精製飼料のみを投与)に対して1.5%MFGM投与群を比較して、t検定で有意差があるものを示す。
【0039】
【表5】
【0040】
表5および
図1が示すように、Ivl遺伝子とSprr遺伝子群の発現量に有意に差異が認められた。
‘対照群’(アトピー様の皮膚炎を発症するHR-AD用精製飼料を摂取し、経皮水分蒸散量が上昇した群)では、すべての遺伝子の発現量が、通常食を摂取した‘無処置群’(通常食を摂取した群)と比較して有意に亢進していた。
一方、‘1.5%MFGM投与群’(HR-AD用精製飼料に1.5%のMFGMを添加し経皮水分蒸散量が無処置群と同程度であった群)においては、Sprr2fを除く他の全てSprr遺伝子群とIvl遺伝子の発現量が‘対照群’と比較して有意に低下し、‘無処置群’の発現量に近づいていた。また、有意差は無いものの、Sprr2fも他の遺伝子同様の挙動を示した。
このことから、経口的に摂取したMFGMは、皮膚炎によって肌の恒常性が失われた結果、経皮水分蒸散量が上昇した皮膚において、過剰に発現したIvl遺伝子やSprr遺伝子群の発現量を通常の状態へと戻す作用を有していることが明らかとなった。
この結果は、角質層の成熟が阻害された皮膚において、角質層の構造を通常の状態へ回復させることによって角質層の機能を回復させ、経皮水分蒸散量の上昇を抑制していることを示唆している。
MFGMがIvl遺伝子やSprr遺伝子群に対してこのような働きを持つことは従来知られていない。
【0041】
<実施例4> MFGMを含有するヨーグルトの調製
MFGMを含有するヨーグルトを以下の要領で調製した。
すなわち、MFGMを2.5%(w/w)になるように水に懸濁して40℃に加温後、カッターミキサーを使用して10分間10,000rpmで溶解させた。以下に示す‘低脂肪ヨーグルト’(表6)および‘無脂肪ヨーグルト’(表7)の処方に基づいて原料を調合して(MFGMの終濃度0.5%)、60℃に加温した。
ホモジナイザーを用いて150kg/cm
2で均質化した後、90℃、10分の殺菌工程を経て、43℃に冷却した。
スターター(Yo-MIX 499)を0.15DCU/kgで植菌し、100g/容器になるよう充填を行い、43℃で培養を行った。pHが4.7以下になった時点で10℃以下にまで冷却を行い、冷蔵した。
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
その結果、低脂肪や無脂肪タイプにおいても風味が非常に良好な試作物を得ることができた。
このようにして調製されたヨーグルトは、肌の潤いを保つための経皮水分蒸散量を低減させ、皮膚の乾燥状態を改善して、荒れ肌の改善や皮膚のバリア機能を向上させる効果が期待できる。
【0045】
<実施例5>MFGMを含有するサプリメントの調製
MFGMを含有するサプリメントを以下の要領で調製した。
すなわち、以下に示す配合表(表8)に基づいて原材料を混合し、ロータリー型打錠機で打錠物を調製した。
【0046】
【表8】
【0047】
このようにして調製されたサプリメントは、肌の潤いを保つための経皮水分蒸散量を低減させ、皮膚の乾燥状態を改善して、荒れ肌の改善や皮膚のバリア機能を向上させる効果が期待できる。
【0048】
<実施例6>MFGMのヒトの肌に対する改善効果
(1)MFGM含有食品の摂取試験
日常的に肌の乾燥を自覚している、肌の測定、理学的検査、医師診察および血液尿検査等に問題の無い20〜40歳の健康な男女40名を被験者とした。なお、本試験は、治験審査委員会の承認後、被験者の同意取得および試験全般においてヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および試験計画書を遵守して実施した。
試験食品は、実施例5に記載の配合で調製したMFGMサプリメントを被験食品とし、対照食品として、50%MFGM粉末を脱脂粉乳で置き換えたものを用意した。
【0049】
試験はダブルブラインド法で試験を行った。まず、40人の被験者を2群に分けた。なお、試験開始初日(0週目)においては、以下に述べるすべての測定項目において群間に有意な差は認められなかった。
試験食品を朝5錠、昼5錠、夜6錠、28日間(2009年2月4日から2009年3月4日もしくは2009年2月5日から2009年3月5日)連日摂取させた上で、摂取初日(0週目)、2週目および4週目に検査測定を行った。検査項目は以下の通りである。
【0050】
・A)医師診察(スクリーニング時、0、2、4週目)
医師による問診、聴打診を行った。
・B)理学的検査(スクリーニング時、4週目)
身長(スクリーニング時のみ)、体重、体脂肪率、BMI、体温、血圧および脈拍を測定した。
・C)血液学的検査(スクリーニング時、0、2、4週目)
白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数を測定した。測定には、多項目自動血球分析装置(SE9000)、多項目自動血球分析装置(XE2100:Sysmex社製)を使用した。
・D)血液生化学的検査(スクリーニング時、0、2、4週目)
総蛋白、A/G、アルブミン、総ビリルビン、AST、ALT、LDH、γ−GTP、ALP、尿素窒素、尿酸、クレアチニン、Na、K、Cl、空腹時血糖、総コレステロール、HDL‐コレステロール、中性脂肪を測定した。
空腹時血糖値のみ自動分析装置JCA-BM9030(日本電子株式会社製)を使用して測定し、その他項目は自動分析装置JCA-BM8060(日本電子株式会社製)を使用した。
・E)尿検査(スクリーニング時、0、2、4週目)
糖、蛋白、潜血、ウロビリノーゲン、pH、比重を測定した。測定には、全自動尿分析装置 AUTION MAX AX-4280(アークレイ株式会社製)を使用した。
・F)顔の経皮水分蒸散変化量の測定(スクリーニング時、0、2、4週目)
経皮水分蒸散量を測定した。測定には、Tewameter TM300(Courage+Khazaka社製)を使用し、24±2℃、55±5%の恒温恒湿度室で20分以上馴化を行い、測定部位は左目の下1cmとした。
そして、試験食品摂取前の経皮水分蒸散量を0として、経時的に変化した量を蒸散量変化量とした。
・G)アンケート調査(0、1、2、3、4週目)
顔の皮膚に関して、乾燥、肌荒れ、はり、しっとり感、色つや、しわ、透明感、化粧のり(女性のみ)についてのアンケートを行った。
顔の肌の状態を、摂取前を0として、良くなった場合は2、やや良くなった場合は1、変化なしの場合は0、やや悪くなった場合は−1および悪くなった場合は−2として、1週間ごとに体感性を調査した。
・H)摂取記録
試験食品と健康食品や薬の利用および飲酒量(アルコールの種類や量)に関し、試験期間中毎日記入した。
【0051】
試験開始後における被験者の除外基準として、試験食品の摂取率が9割を下回る者、禁忌食品・医薬品を摂取した者、測定日前日に明らかに普段の食生活からはずれた暴飲暴食を行った者は除外することとしたところ、対照食品群の男性、女性各1名、被験食品群の女性1名が禁忌医薬品を摂取していたことが判明した。そこで本試験では、3名の全データを除外して解析した。
摂取率は、対照食品群で100%、被験食品群で99.4%(最高100%、最低92.9%)であった。
そして、各項目の検査値については、群ごとに平均値±標準偏差で示した。各項目の試験食品間の比較については、F検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合にはStudentのt検定を、不等分散の場合はAspin-Welchのt検定を行うことにより評価した。各群の摂取前に対する各摂取週との比較については、Paired t検定で評価した。有意水準はF検定では両側5%、t検定では両側5%および1%とした。
【0052】
(2)結果
試験の結果、経皮水分蒸散量の変化量と肌アンケートの結果において、両群(被験食品群と対照食品群)で有意な差違が認められた。
なお、理学的検査、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査および医師診察所見の結果から、MFGMに由来する有害事象に相当するものは認められなかった。
【0053】
まず、経皮水分蒸散量の変化量の結果を表9に示す。
なお、変化量の値が大きいと皮膚の水分がより逃げやすい皮膚へと変化していることを示し、逆に小さい場合は水分を保持する能力が一定、もしくは改善して肌の潤いを保つことができると考えられる。
摂取前値と比較し、摂取2週後において、両群で蒸散量変化量が有意に上昇した。摂取4週後には対照食品群で蒸散量変化量が有意に上昇した。これは、実施期間が真冬であったことにより経皮水分蒸散量が上昇する季節要因が原因であることが考えられた。しかし、被験食品群では対照食品群と比較し、摂取4週後における蒸散量変化量が有意に低値を示した。つまり、脱脂粉乳を含有する対照食品では季節要因で経皮水分蒸散量が上昇し続けたのに対して、MFGMを含有する被験食品では、摂取4週間後の経皮水分蒸散量が減少に転じたことは、MFGMはヒトにおいても経皮水分蒸散量を低下させる作用があることを示している。
この結果で、MFGMを含有する被験食品を4週間摂取すると、水分蒸散量の上昇を抑制しうることが示され、特に肌が乾燥しやすく、肌荒れが気になる冬季において、肌を正常に保ち得ることが示された。
【0054】
【表9】
対照食品=18名,被験食品=19名
*,**: 摂取前と比較して有意差あり(それぞれp < 0.05,0.01)(Paired-t)
#: 対照食品と比較して有意差あり(p <0.05)(t 検定)
【0055】
次に、肌アンケート結果を表10に示す。
「摂取前」と比較し、摂取1週後に対照食品群で顔の乾燥が、被験食品群で顔の透明感以外の全項目が、摂取2週後に対照食品群で顔の乾燥、顔の荒れが、被験食品群で顔の乾燥、顔の荒れおよび化粧のりが、摂取3週後に対照食品群で顔の乾燥が、被験食品群で顔の透明感以外の全項目が、摂取4週後に対照食品群で顔の乾燥が、被験食品群で全項目が、それぞれ有意に上昇した。
また、「対照食品群」と比較し、被験食品群で摂取3週後における顔の荒れ、顔の色つや、および化粧のりが、摂取4週後において全項目がそれぞれ有意な高値を示した。
この結果から、MFGMの摂取によって、肌の乾燥に由来する肌質悪化への改善効果が実感できることが示された。
【0056】
【表10】
対照食品=18名(女性13名),被験食品=19名(女性12名)
平均値±標準偏差
摂取前を「0」とし,「よくなった:2」,「やや良くなった:1」,「変化なし:0」,「やや悪くなった:-1」,「悪くなった:-2」として計算した
*,**:摂取前と比較して有意差あり(それぞれp < 0.05,0.01)(Paired-t)
#,##:対照食品と比較して有意差あり(それぞれp <0.05, 0.01)(t 検定)
【0057】
<実施例7> ヒトケラチノサイトに対するMFGMの効果
(1)脱脂酵素分解MFGMの調製
実施例1と同様に調製したMFGM粉末4.23gを、160mlの水に加え、ポリトロンホモジナイザーで十分に懸濁(19,500rpm、5分)した。そして、400mlのメタノール、200mlのクロロホルムを加えてさらにポリトロンホモジナイザーで懸濁(19,500rpm、10分)した。
次いで、懸濁液を分液ロートに移し、160mlの水と200mlのクロロホルムを加え、十分に倒置混和の後、一昼夜放置した。有機溶媒層を除去した後、水層に対して200mlのクロロホルムを加え、十分に倒置混和して一昼夜放置した。得られた水層を凍結乾燥してMFGMのタンパク質画分(脱脂MFGM粉末)を得た。
得られた脱脂MFGM粉末は難水溶性であるためにタンパク質加水分解酵素で分解することで、タンパク質をペプチドにして溶解性を向上させなければ、以下の試験に供することが出来ない。そこで、30mlの水に3gの脱脂MFGM粉末を加え、ポリトロンホモジナイザーで十分に懸濁(19,500rpm、5分)した。懸濁液に対して1%(v/v)のスミチームFLAVOR(新日本化学工業社製)、1%(w/w)のスミチームTP(新日本化学工業社製)および1%(w/w)のProtamex(novozymes社製)を加え、55℃で1時間反応させた。反応終了後、沸騰水浴中で5分間保持して酵素を失活させた。なお、コントロールとして、脱脂MFGM粉末を加えずに同様の操作を行ったものも同時に調製した。
なお、当該‘脱脂酵素分解MFGM’を、ペプチドPAGEに供したところ、含有されるタンパク質の平均分子量は、約1,000であることが明らかになった。
【0058】
(2)ヒトケラチノサイト(HEK)の培養
CELL APLLICATIONS, INC.から48歳・白色人種・女性・顔 から採取した同一ロットのヒトケラチノサイト(HEK)を購入した。凍結保存されたHEKを、定法に従って取り扱い、0.05mMカルシウムを含有する増殖培地(Ca低含有)を用いて、5,000cells/cm
2となるよう35mmディッシュに播種した。なお、増殖培地としては、KERATINOCYTE CALCIUM-FREE MEDIUM(CELL APLLICATIONS, INC.社製)を用い、培地のカルシウム源としては、滅菌済みの塩化カルシウム溶液を用いた。
【0059】
群分けは、前記増殖培地に、終濃度で100μMになるように上記‘脱脂酵素分解MFGM’を加えて培養した群(MFGM群)と、;MFGMを加えない酵素処理液(上記コントロール)を同量加えて培養した群(対照群)、;の2群とした。
両群とも、37℃、5%CO
2、湿潤状態でのインキュベーターで静置して培養し、隔日で培地交換を行った。
60%コンフルエント程度に達したところで、分化誘導培地(カルシウムを2mM含有する上記増殖培地)に交換した。その後、0、6、24時間経過時の細胞を回収し、以下の試験に供した。
【0060】
(3)リアルタイムPCRによる遺伝子発現量の確認
分化誘導培地への交換後の各時間経過したHEKから、定法に従ってRNAの抽出を行い、実施例3と同様にして、角質層の周辺帯の構成成分であるインボルクリンをコードする遺伝子(「Ivl」)と、Small proline-rich proteinをコードする遺伝子群(「Sprr1a」、「Sprr1b」、「Sprr2a」、「Sprr2b」、「Sprr2c」、「Sprr2d」、「Sprr2e」、「Sprr2f」、「Sprr2g」、「Sprr3」および「Sprr4」)を標的とし、リアルタイムPCRを行った。
各遺伝子の発現量は、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素遺伝子(Gapdh、内部標準遺伝子)に対する量を求め、対照群の発現量を1とした相対値で比較した。
発現解析した遺伝子と用いたプライマー配列(下記配列表の配列番号)との関係を表11に示す。
得られた結果に対して各群間の有意差は、F検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合はStudentの、不等分散の場合はWelchのt検定を実施した。
【0061】
【表11】
【0062】
得られた発現量を表12に示す。有意差が認められたのはSprr3とSprr4であったため、この2遺伝子の結果を示した。なお、遺伝子発現量の比較において、「*」はP<0.05で対照群に対してt検定で有意差があることを示す。
【0063】
【表12】
【0064】
その結果、分化誘導培地への交換直後(0時間)において、MFGM群では対照群と比較してSprr3とSprr4の両遺伝子の発現量は、有意差は認められなかったものの、約半分の発現量であった。
また、分化誘導培地への交換後、対照群ではSprr3とSprr4の両遺伝子の発現量が上昇し続けるのに対して、MFGM群では6時間で一旦発現量が上昇するものの、24時間経過後では、対照群よりも有意に低くなった。詳しくは、Sprr3の発現量は対照群の約0.37倍に、Sprr4の発現量は約0.48倍になった。
以上の結果から、脱脂したMFGMに由来するペプチドは、HEKにおけるSprr遺伝子群の発現量を抑制する作用を有していることが明らかとなった。この様な知見は従来知られていない。
【0065】
<実施例8> 高純度MFGMの調製
MFGMを以下の方法で調製した。すなわち、‘濃縮バターミルク’(よつ葉乳業社製 全固形分30%)を温水で全固形分が6%になるように希釈し、50℃に保持した。その後、0.8μmの精密ろ過膜を有する精密ろ過機(MFS-1:日本テトラパック社製)で精密ろ過を行い、得られた保持液をASM100型円筒型連続遠心分離機(巴工業社製)で沈殿物を得た。
得られた沈殿物を2%固形分になるよう再懸濁後、凍結乾燥して、高純度の‘MFGM粉末’を調製した。