【0008】
本発明の実施形態にかかる最適な構成である、呼吸波形に基づく睡眠評価システム(以下、本システム、睡眠評価システムともいう)を以下、各図面とともに説明する。
なお本実施形態の睡眠評価装置は、被験者の呼吸波形に基づいて波形情報を生成出力し、医療者がこの波形情報に基づいて診断を行うことを主な目的としている。
また、以下の説明では、各変形例を含めて、呼吸波形の解析目的に特化した一実施形態としての睡眠評価装置に傾注するが、ここに開示された技術的な特徴、効果は呼吸波形の解析目的に何ら限定されるものではない。他の人体の生理データの解析に用いることが可能であるし、以下の説明における呼吸波形の周期という計測値とは別に、他の生理データの周期あるいは振幅およびその他の計測値について本実施形態の構成を適用することが出来る。それら応用構成の具体的な構成は本実施形態の記載から十分に理解することが出来る。
また、呼吸波形など生理データを用いて、被験者の身体の状態を観察したり、装置が自動評価をしたり、あるいは自動評価の結果を用いて医療機器などを自動制御する際に、睡眠中の被験者の生理データを用いる構成とする点は、最も重要であるものの、様々な実施形態における一つの例示に過ぎない。日中あるいは夜間に、覚醒状態にある被験者の生理データを用いた場合においても、以下の各実施例に示す本発明に特徴的な効果が示されうるものである。
〔呼吸波形に基づく睡眠評価装置の構成〕
本睡眠評価システム1は、
図1の構成図に示すように、可搬型呼吸波形記録計2と、呼吸波形解析装置3とを備えている。
可搬型呼吸波形記録計2は、持ち運びが可能な呼吸波計を記録できる装置であって、典型的には医療機関から被験者に貸与され、被験者が帰宅後に一晩の睡眠において連続的に記録波形を記録保持し、その後医療機関へ搬送される形態が好適である。例えば、生体情報モニター「モルフェウス(登録商標)Rセット」(製造販売 帝人ファーマ、医療機器承認番号 21300BZY00123000、クラス分類管理医療機器、特定保守管理医療機器)は、気流・いびきの検出に圧センサ(鼻カニューラ)を採用し、無呼吸、低呼吸、いびきをきめ細かに検出できるよう構成されているので、これを用いてもよい。
なお、呼吸波形の記録を医療機関内で行っても勿論よいし、記録波形のデータは、フラッシュメモリや、磁気ディスク、光ディスク等の記録媒体に記録して輸送されたり、通信路経由で伝送されることで解析を行うべき装置へ送達されても勿論よい。通信路とは、例えばインターネット通信網、専用通信回線、ダイヤルアップ電話回線等が挙げられ、有線・無線を問わない。
上記の機能を実現するために可搬型呼吸波形記録計2は、被験者の鼻腔付近の皮膚面に貼付する呼吸気流センサ2−1、呼吸波形検出増幅部2−2、A/D変換部2−3、デジタル信号として呼吸波形を記録保持するメモリー部2−4、メモリー部2−4からのデジタル呼吸波形データを外部へ出力するための出力端子2−5を有している。
上記の呼吸気流センサ2−1は、被験者の鼻腔付近に貼り付けて、例えば、呼吸気流の温度とその他の外気の温度とを判別して測定検知することにより、この被験者の呼吸による気流の有無、強弱を測定するためのサーマルセンサである。
なお、被験者の呼吸気流を測定するための構成としては、上記のサーマルセンサーの他に、短冊状部材の呼吸気流による変形に起因する抵抗変化方式、風車構造の気流による回転を利用したものなど、呼吸気流の有無と強度を検知できるものであれば使用が可能である。
特に、呼吸を検出する圧力センサーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)圧電フィルムなどを備える圧感知呼吸センサーを用いることは望ましい態様である。
更に、呼吸気流を直接測定するのではなく、被験者の胸や腹に巻かれたバンドが呼吸動作で伸長されるテンションを測定したり、被験者の下に敷くマットに感圧センサーを設けたりするなどして、被験者の呼吸動作(換気運動)を測定記録してもよい。
これら様々な呼吸センサーは、患者の呼吸気流あるいは患者の呼吸努力(換気運動)を検知するために患者の所定部に装着されるものであって、その装着方法は検査に先立って医療機関などから患者へ指導されるべきものである。しかし、心電図を測定するための電極を患者の胸部表皮の特定の位置に貼り付けることと比べると、その呼吸センサーを装着する位置、方向などの許容度が、心電図用センサーと比較して大きく、医療機関の指導に従い患者あるいは患者家族がこれらセンサーを装着し、正しい計測値を得ることは容易である。
更に、近年、上記のような被験者に何らかのセンシング手段を装着して呼吸動作を検知するのではなく、電磁波を離れた位置から被験者に照射し、反射波を解析することで被験者の体動や、呼吸動作を検知する、非接触式の呼吸センサーが多数提案されてきている。
例えば、ワールドワイドウェブ上に掲示されて閲覧可能である文書「評価用マイクロ波呼吸センサー」(http://www3.ocn.ne.jp/
〜mwlhp/kokyu.PDF)には、「微弱なマイクロ波インパルスが高利得指向性アンテナから被検者に向けて発信されます。寝具及び着衣をとうして被検者の皮膚表面で反射されたマイクロ波インパルスは微動反射信号としてゲート時間中にわたって高感度受信器で受信されます。シャープなアンテナ指向性と距離ゲート受信により検知空間を特定することで外乱の影響を受けずに微動センサーの高感度化が可能となります。評価用デモ機では検知距離約2mで直径60cm程度の円状となっていますが、アンテナ設計によりベッド幅をカバーする楕円形の検知面とすることが可能です。」、「免許が不要な微弱無線規格取得が可能なマイクロ波微動センサーですので商品化に関して免許取得などの問題は有りません。また、微弱無線マイクロ波の放射電界強度は衛星放送の電界強度以下ですので人体に無害です。寝具布団、着衣の影響を受けず皮膚表面の微動を非接触に検知しますので被検者にまったく負担をかけません。石膏ボードなどマイクロ波の通過損失の少ない天井材では天井裏に設置可能なため被検者に心理的負担を与えません。ドップラー方式微動検出方法に比較して検知距離と検知範囲を特定することにより外乱の影響を受けずに高感度化が可能となり、また複数台の近接設置によっても相互に干渉しません。」と、構成、原理、効果が説明された、マイクロ波を用いた非接触式呼吸センサーが開示されている。
同様に、公知文献である特開2002−71825号公報「マイクロ波利用人体検知装置」には、トイレ、洗面所、キッチン、風呂、シャワー、等の生活シーンで、マイクロ波を送信波とし、マイクロ波を受信する単一のアンテナと、前記アンテナで受信されたマイクロ波を検波する検波手段と、変化成分検出手段の出力を所定位置と比較する比較手段と、前記比較手段からの信号により、人の存在と、人の生体情報を検出する手段とを有するマイクロ波利用人体検出装置や、前記検波手段は、送信に対する反射波のドップラーシフトを検出するドップラーセンサーを備えることを特徴とする上記のマイクロ波利用人体検知装置や、前記検波手段と比較手段によって得られる信号は、人間の脈拍に同期した信号であることを特徴とする上記のマイクロ波利用人体検知装置や、前記検波手段と比較手段によって得られる信号は、人間の呼吸動作に同期した信号であることを特徴とする上記のマイクロ波利用人体検知装置が開示されている。
同様に、公知文献である特開2005−237569号公報「携帯型測定機器、健康管理システム及び健康管理方法」には、「
図2に示すマイクロ波ドップラーセンサ10aの送信部11aが、利用者Pa(
図1参照)に向けてマイクロ波を送信する。ここで、送信部11aが、利用者Pa(
図1参照)の心臓付近に向けてマイクロ波を送信する。なお、マイクロ波は、利用者Pa(
図1参照)の衣服の材料である木綿やナイロンなどを透過し、体表面や金属などで反射する性質を持っている。受信部12aが、反射波を受信する。ここで、反射波が、利用者Pa(
図1参照)の心臓付近の体表面でマイクロ波が反射したものである。増幅部15aが、マイクロ波の信号を、送信部11aから受け取る。増幅部15aが、反射波の信号を、受信部12aから受け取る。増幅部15aが、マイクロ波の信号及び反射波の信号を増幅する。演算部16aが、マイクロ波に関する信号を、処理部13a経由で増幅部15aから受け取る。ここで、マイクロ波に関する信号は、マイクロ波の信号を増幅した信号である。演算部16aが、反射波に関する信号を、処理部13a経由で増幅部15aから受け取る。ここで、反射波に関する信号は、反射波の信号を増幅した信号である。演算部16aが、変化情報(
図7参照)を演算する。変化情報(
図7参照)が、マイクロ波に関する信号に対する反射波に関する信号の変化に関する情報である。抽出部14aが、変化情報(
図7参照)を、処理部13a経由で演算部16aから受け取る。抽出部14aが、変化情報(
図7参照)に基づいて、帯域情報を抽出する。帯域情報は、所定の周波数帯域(
図7のP1〜P4参照)の情報である。分析部17aが、帯域情報(
図7のP1〜P4参照)を、処理部13a経由で抽出部14aから受け取る。分析部17aが、帯域情報(
図7のP1〜P4参照)に基づいて、利用者Pa(
図1参照)の心拍による微弱な体動を分析する。これにより、分析部17aが、帯域情報(
図7のP1〜P4参照)に基づいて、心拍情報(
図8参照)を分析する。ここで、心拍情報(
図8参照)は、ストレス度に関する情報である。判定部18aが、心拍情報(
図8参照)を、処理部13a経由で分析部17aから受け取る。判定部18aが、心拍情報(
図8参照)に基づいて、利用者Pa(
図1参照)の異常を判定する。利用者Pa(
図1参照)に異常があると判定部18aが判定した場合、処理部13aが、心拍情報(
図8参照)を、分析部17aから受け取り、出力装置20aへ渡す。それとともに、処理部13aが、記憶装置40aを参照し、識別情報41aを記憶装置40aから受け取り、識別情報41aを出力装置20aへ渡す。利用者Pa(
図1参照)に異常がないと判定部18aが判定した場合、処理部13aが、何の情報も出力装置20aへ渡さない。出力装置20aの送信出力部21aが、心拍情報(
図8参照)と識別情報41aとをマイクロ波ドップラーセンサ10aから受け取る。送信出力部21aが、心拍情報(
図8参照)と識別情報41aとを、無線電話回線経由で管理センタ60へ送信する。他の携帯電話機50b,・・・も、携帯電話機50aと同様である。」との開示があり、この構成を用いて、心拍動作にかえて呼吸動作から呼吸検知を行ってもよい。
同様に、公知文献である、特開2005−270570公報「生体情報モニタ装置」には、「生体の表面変位の情報を非接触で取得することで該生体の情報をモニタする装置であって、高周波の電磁波を発生して空間に放射する手段と、生体の表面で散乱した該電磁波を検出する手段と、該電磁波の伝播状況から該生体表面の位置変位の時間変動を演算する手段とを備え、該時間変動から脈、呼吸などの振動している特性量を生体情報として演算する手段を備えていることを特徴とする生体情報モニタ装置、前記生体情報は、脈拍、脈波、呼吸、心電波、血圧あるいはこれらから解析により得られるものであることを特徴とする上記の生体情報モニタ装置、上記の高周波の電磁波は、ミリ波からテラヘルツ帯(30GHz〜30THz)であり、有機繊維などで構成された衣服を透過して生体表面の情報を取得することを特徴とする上記の生体情報モニタ装置、上記の高周波の電磁波は繰り返し発生される短パルスであり、パルスの半値幅が33psec以下であることを特徴とする上記のいずれか記載の生体情報モニタ装置、上記の電磁波により該生体表面の位置変位の時間変動を演算する手段により、生体における複数箇所の位置変位の時間変動を同時に演算し、該時間変動から演算した特性量が生体内で伝播していく様子を検出できることを特徴とする上記の生体情報モニタ装置、生体情報モニタ装置には記憶手段をさらに備え、予め記憶させた特性量と、前記生体情報を演算する手段から得られた出力信号を持続的に記憶させた特性量と、生体情報を演算する手段から出力される実際の信号を用いて生体の心身状態を判定することを特徴とする上記の生体情報モニタ装置、前記判定する心身状態は、脈の振動解析と呼吸の振動解析より得られた、血圧、動脈硬化度などの健康状態であることを特徴とし、判定結果を直接文字または音声で表示するか、ネットワークを介した端末上に提示することを特徴とする上記の生体情報モニタ装置、前記判定する心身状態は、脈の振動解析と呼吸の振動解析より得られた、リラックス度、ストレス度、喜怒哀楽などの感情状態であることを特徴とし、判定結果を機械装置または電子機器にフィードバックさせて該機械装置または電子機器を操作するインターフェースの制御信号として利用することを特徴とする上記の生体情報モニタ装置、前記生体情報モニタ装置は、洗面台、トイレ、椅子等の人間が一定時間留まる個所に内蔵され、該個所において非装着、リモートで生体情報を取得することを特徴とする上記の生体情報モニタ装置。」が開示されているので、これらの構成を利用してもよい。これら非接触型呼吸センサーを利用した構成が本発明の範囲に含まれることは、全ての実施例について同様である。
同じく本睡眠評価システム1を構成する呼吸波形解析装置3は、典型的には表示画面やプリンターを含むパーソナルコンピュータシステムと、そのコンピュータにインストールされて動作を行うコンピュータプログラムにより実現されるもので、医療機関などに設置され、被験者からの呼吸波形取得が終了した携帯型呼吸波形記録計2が接続され、その呼吸波形データが転送されて、後に説明するような手順に従い、上記の呼吸波形データを用いた演算を実行するものである。更にこれらの呼吸波形や、呼吸波形に基づいて演算を行った結果である波形の時間的(経時的)推移を時系列的に表示画面に表示したり、プリンターにより印刷したり、あるいはその両方を実行し、その結果、画面表示や印刷結果を観察する医療者が睡眠評価を行うことを可能とするものである。
これらの機能を実現するために呼吸波形解析装置3は、外部から呼吸波形デジタルデータを取り込むための入力端3−1、取り込んだデータを一旦記録保持するメモリー部3−2、記録されたデータを読み出して、それを用いた後述するような演算操作を行う解析部3−3、解析部3−3から出力された演算の結果である時系列データを表示画面に表示する表示部3−4、同じく出力された時系列データを印刷するプリンター部3−5、演算結果のデータを外部へ送出するデータ送出端3−6を備えている。
〔呼吸波形解析装置の動作〕
次に、本システム1の特徴的な構成である呼吸波形解析装置3が行う、呼吸波形の演算の動作を説明する。
呼吸波形解析装置3が備える上記の解析部3−3は、入力された呼吸波形から、5分間というフーリエ窓期間について5秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた、各フーリエ窓期間の起点となる時刻における複数のフーリエスペクトルから、例えば以下のようなそれぞれの周波数領域を抽出して、上記の50秒間のずらし間隔で時間と共に推移変化する波形を生成出力する。
0.11〜0.5Hz(呼吸周波数帯域に相当)
0.012〜0.04Hz(チェーンストークス呼吸周波数帯域に相当)
上記の動作をより具体的に説明すると、本システム1が解析あるいは生成する波形を段階ごとに模式的に示す
図2において、種々の周波数成分を含んだ未処理の呼吸波形は
図2(A)に示す如くであり、これに対して解析部3−3は、この波形の起点2aから窓時間tFFT、具体的には例えば5分間の変換窓2b1を設定し、この区間内に含まれる波形に対して高速フーリエ変換(FFT)を実行する。窓時間tFFTは5分間に限らず、例えば30秒から、30分といった様々な範囲が挙げられ、被験者の睡眠期間における対象周波数帯域パワーの推移が観察できるものであればよい。 実行の結果、この区間の波形のフーリエスペクトル2c1が生成される。
次に解析部3−3は、波形の起点2aからずらし時間ts、具体的には例えば50秒だけ時間順方向にずらした位置から、同じく窓時間tFFTのフーリエ変換窓2b2を設定して高速フーリエ変換を再び実行し、この結果、この区間におけるフーリエスペクトル2c2を得る。
窓時間と同様に、ずらし時間tsは50秒に限らず、例えば2秒から、5分といった様々な範囲が挙げられ、被験者の睡眠期間における対象周波数帯域パワーの推移が観察できるものであればよい。
以下同じ様に、フーリエ変換窓の起点をずらし時間tsの整数倍ずつずらしたそれぞれのフーリエ変換窓で高速フーリエ変換を実行してフーリエスペクトルを生成し、この操作を、フーリエ変換窓の終点が呼吸波形の終点2dに達するまで続行する。実際の演算動作では、被験者の一晩の睡眠時間を含む所定計測期間、例えば8時間に亘り呼吸波形の測定がなされ、波形の起点2aはその測定期間の開始時刻に相当し、終点2dはその測定期間の終了時刻に相当する。
次に解析部3−3は、上記の操作で得られた複数のフーリエスペクトル全てについて、各フーリエスペクトルに含まれている周波数の中で、例えば、0.11〜0.5Hz(呼吸周波数帯域に相当)や、0.012〜0.04Hz(チェーンストークス呼吸周波数帯域に相当)、あるいはその他の周波数領域を抽出してそのパワーをそれぞれのフーリエ窓の起点の時刻にプロットした波形、すなわち上記の特定抽出周波数帯域のパワーが、睡眠中の時刻推移に応じてどのように推移するかを示す波形である、特定周波数領域のパワー推移波形(以下、特定周波数波形ともいう)2eを得る。
なお、特定周波数波形を抽出するに際して、上記のいずれかの周波数領域のみを選択して抽出してもよいし、他の周波数領域を用いることも可能である。また、上記に示した周波数領域はいずれも一例であって、本発明の実施にあたっては適宜変更を行うことが可能であり、上記の記載は限定をするものではない。
この特定周波数パワーの時刻推移波形は、呼吸波形計測開始時刻から計測終了時刻までの例えば8時間に亘り、呼吸周波数成分やチェーンストークス呼吸周波数成分、あるいは計測に起因したノイズ成分の周波数成分が時間と共に変化する推移を示した波形である。
従って、被験者の睡眠時の状態を診断しようとする医療者は、画面表示や印刷がなされて視認可能となったこれらの特定周波数波形の推移を観察することによって、呼吸波形データという被験者の睡眠の状態に直結する重要な生理データから、直接的かつ生理学的な根拠のもとで、睡眠中の呼吸パワーの推移、チェーンストークス呼吸症状の有無やそのパワーの推移、計測に伴うノイズ分の有無やそのパワーの推移を明瞭に観察することが可能となる。
しかも、その観察に要する生理データは呼吸波形という一つのチャネルで十分であり、心電図のように多数の電極をはがれなく接触させるという煩わしい問題も無く、電極のように医療者が装着を行う必要のあるセンサー部もなく、計測が比較的容易である。
この結果、PSGという被験者および社会全体にとって費用と時間的負担が大きい入院検査方法に代えて、あるいはそのような入院検査の前のスクリーニング検査の目的で、本システムを用いた検査を行うことにより、上記のような多大な効果がもたらされる。
また、本システムは上記の機能に加えて下記の機能を有する構成にしてもよい。表示部3−4に表示された計測呼吸波形や、呼吸周波数抽出波形、チェーンストークス周波数を抽出した波形を医療者が観察して、種々の診断を行う診断の際に、全計測期間ではなく特定の計測時刻領域のデータを拡大してその時刻近傍、すなわち選択した時刻を含んだ、近傍領域を特に観察したい場合がある。
そこで本システム1では、表示部3−4上で操作者がカーソルを動かしたり、あるいはプリントアウトされた波形から特定の時刻を読み取ってその時刻を付属するキーボードで入力するなどして、拡大表示させたい時刻がまず選択される。
解析部3−3は選択された時刻あるいはその近傍、すなわち選択した時刻を含んだ、近傍領域における、上記のとおりのこの呼吸波形の周波数スペクトルや、短い時間間隔における拡大された各波形の拡大図などを生成し、同様にして表示や印刷や外部出力を行わせるように構成することが可能である。
〔症例データ〕
以下に、オリジナルの測定呼吸波形から、各帯域抽出波形、各演算波形を生成する過程を、例示の波形データとともに説明していく。なお、下記の数値は例示に過ぎず、適宜変更した実施が可能である。
(a)オリジナル呼吸センサー出力波形 Org Resp(
図3(a))
横軸は測定開始からの時間であり単位はhoursである。縦軸は測定されたパワーの大きさである。(以下同じ)
このオリジナル呼吸センサー出力波形のサンプリング周波数は、16Hzである。
(b)4回平均されたオリジナル測定呼吸波形 Resp4、Res(
図3(b))
サンプリングに伴う突発的なノイズを抑圧するために、過去4データを平均し、この4Hzの波形を以後の帯域抽出、データ加工の原波形として用いる。
すなわち、先に説明した
図2(A)の、未処理の呼吸波形に相当する。
(c)呼吸動作周期波形 mean lung power(
図3(c))
上記の、4回平均されたオリジナル測定呼吸波形 Respから呼吸周波数帯域に相当する高周波領域である0.11〜0.5Hz成分を抽出し、更にその最大パワーの周期の前後0.08Hzの帯域の平均パワーである。この波形の時間的推移を追跡観察すれば、被験者の呼吸動作の大きさの推移を知ることが出来る。
この呼吸動作周期波形 mean lung powerと、次の正規化したチェーンストークス呼吸パワー波形 CSR/mean lung powerとが、
図2(B)に示す特定周波数領域のパワー推移波形2eに相当する。
(d)正規化したチェーンストークス呼吸パワー波形 CSR/mean lung power(
図4(d))
4回平均されたオリジナル測定呼吸波形 Resp4から、CSRの周期の帯域に相当する、0.012〜0.04Hzの範囲を抽出した波形である。なお呼吸動作周期波形のパワー mean lung power で除算し正規化を行っている。
(e)チェーンストークス呼吸発生評価グレード CS grade(
図4(e))
上記の正規化したチェーンストークス呼吸パワーを、振幅の大きさに応じて、例えば0から5まで6つの段階に分け、その段階(グレード)の時間推移を表示している。
(f)正規化したノイズ成分パワー波形 Noise/mean lung power(
図4(f))
上記に説明した呼吸センサーで検出されたものの、呼吸気流に起因しない、ノイズ成分の推移を示す波形である。このノイズ成分は例えば被験者の体動などに起因しており、睡眠期間における被験者の体動の大きさ推移を観察することが可能となる。しかも、呼吸センサー以外の、体動センサー、感圧マット、体動検出バンドなどが不要である。
このノイズ成分波形の生成方法として、特定周波数を抽出してもよいが、本実施形態では呼吸波形Res4を更に移動平均してスムージング化し、スムージング波形から更に突出した部分を検知して生成している。
この方法を
図5、
図6に従い説明する。
図5は、上記した、4回平均した呼吸センサー出力波形(Res4)と、このRes4の過去5秒間の移動平均を取ったスムージング波形(Smooth)とを並べて図示したものである。睡眠全期間に亘る測定波形の中で一部分を取り出して示したもので、横軸は経過時間(Sec、104スケール)である。
図6は更にノイズ成分波形(Noise)を生成する方法を示したもので、まず4回平均した呼吸センサー出力波形(Res4)の下部の包絡線(ボトム、bottom)を生成し、このbottomからスムージング波形(Smooth)を減算し、この結果をノイズ波形(Noise)としている。
つまり呼吸波形のトレンドを示すスムージング波形(Smooth)に照らして、このトレンドからはずれたセンサー出力をノイズ分として抽出しているものである。
図4(f)に、先に説明したmean lung powerで除算し正規化した、正規化したノイズ成分パワー波形 Noise/mean lung power の睡眠期間中における推移を示す。
(g)呼吸周期の変動指数 var(
図7(g))
次に、被験者の呼吸周期の変動の推移を見るための、呼吸周期の変動指数 varについて、
図8に従い説明する。
図8には、まず、先に説明を行った呼吸動作周期波形 mean lung powerが模式的に図示されてある。先の定義に従いその帯域は図示のとおり0.11〜0.50Hzである。なお
図8の横軸は周波数、縦軸はパワーである。
ここでmean lung powerに見られるピーク周波数すなわち呼吸周期の中心的な周波数をHF(high frequency)と定義し、そのHFの両側に0.08Hzの幅で定義された領域を、中心バンド領域(B)とする。そして中心バンド領域よりも低域の領域を、左方サイドバンド領域(A)とし、中心バンド領域よりも高域の領域を、右方サイドバンド領域(C)と定義する。
ここで、もしも被験者の呼吸周期の変動が大きい状態となれば、
図8のスペクトル図において、全体のスペクトルパワーすなわちA、B、Cの流域を周波数積分した値で、左方サイドバンド領域(A)及び右方サイドバンド領域(C)のスペクトルパワーすなわちAおよびCの領域を周波数で積分した値を割った商が、高まるはずである。この値を呼吸周期の変動指数(var)と呼び、実測値の推移を
図7(g)に示してある。
(h)呼吸周期の標準偏差 RespHzSD(
図7(h))
次に、被験者の呼吸周期の変動の推移を見るための、先に説明した呼吸周期の変動指数varとはまた異なるアプローチから選定した、2つの指標について説明する。
本発明者は、上記の被験者の呼吸波形計測情報を用いた睡眠評価診断を多数の症例で行う中で、次のような知見を得た。
最初に説明をしたように、睡眠は6種類の睡眠ステージからなる一つの周期が、典型的にはおよそ90分周期で一晩に3回繰り返され、この各周期における生理データの変化は下記のように脳波の徐波成分(SWA:Slow Wave Activity)で明瞭に観察することが出来る。そして、睡眠時無呼吸など何らかの原因によって睡眠の質を含めた快適度が低下した被験者では、このSWAにおける睡眠段階の周期がくずれて明瞭に観察できないことが、先の本発明者による検討によりわかっている。
図9は、脳波の徐波成分(SWA)と、睡眠の質を含めた快適度が良い被験者の場合について、睡眠ステージとの関係を典型的パターンを用いて説明したものである。横軸は測定時間であって、一晩の睡眠全期間(図示では8時間)を表している。
図9から明瞭にわかるとおり、周期的に繰り返される睡眠ステージの推移は、SWAのパワーの変化と同期し、特に、最も睡眠が深いステージIVにおいてSWAのパワーも最大となっている。
なお先に説明を行った
図3〜
図7のデータは、心疾患を有することがなく睡眠の質を含めた快適度も良好であると認められる同一被験者についての同一の呼吸センサー出力波形から生成したものであるが、
図9のデータはこの被験者のデータではなく、一つの典型例を示したものである。
本発明者は、睡眠中の被験者の呼吸動作に注目し、計測して得られる呼吸周期の変動の少なさ、見方を変えれば呼吸周波数の安定性、あるいは呼吸周期の規則性に着目すればこの睡眠周期の観察、ひいては睡眠の質を含めた快適度の評価を行えることを見出し、本発明に至ったものである。以後、「呼吸周期の規則性」という語句を、呼吸周期の変動の少なさや、呼吸周波数の安定性、という性質を含めて用いるものとする。
先に説明を行ったシステムを用い、計測で得られた呼吸波形から呼吸周期の帯域として、例えば、先に説明した呼吸動作周期波形 mean lung power を抽出し、まず呼吸周波数の平均値(X bar)を算出し、更に既知の統計的手法を用いて、呼吸周波数の標準偏差(SD)を算出すれば、呼吸周期の変動の大きさを知ることが出来る。更にこの標準偏差(SD)の逆数を取ることで、呼吸周期の安定度を示すことが出来る。なお、呼吸周波数の平均値(X bar)を用いる代わりに、先に説明した呼吸周期ピーク周波数(HF)など他の指標を用いても良い。
計測された呼吸波形の標準偏差の逆数を、ここではRSI(Respiration Stability Index)と呼ぶこととする。このRSIを一晩の睡眠における時間推移がわかるようにグラフ化すれば、睡眠周期が明瞭に現れており睡眠の質を含めた快適度が良いのかあるいは、明瞭に観察できず睡眠の質を含めた快適度が悪いのか、が医療者が観察して容易に判断できたり、あるいはその規則性から診断装置による自動判定が行える。
一方、上記の本発明実施形態とは異なる構成である、例えば被験者が睡眠中の呼吸数の推移、あるいは心拍数の推移を記録し観察する方法では、これらの推移波形は脳波徐波成分(SWA)の推移と一致せず、従って睡眠の質を含めた快適度を評価する方法としては適さないことが既にわかっている。
そこで本発明の変形例のシステムでは、既に説明を行ったとおり、入力された呼吸波形から、5分間というフーリエ窓期間について5秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた、各フーリエ窓期間の起点となる時刻における複数のフーリエスペクトルから、典型的な人体の呼吸周期である0.4Hzが含まれる0.11〜0.50Hzの周波数領域を抽出する。
更に本発明の変形例のシステムでは、解析部3−3が、上記の50秒間のずらし間隔で得られるフーリエ窓ごとの呼吸周波数帯城に含まれる周波数の平均値(X bar)および標準偏差(SD)を算出する。
図7(h)は、従前の被験者の呼吸周期標準偏差RespHzSDを図示したものである。このSDの逆数である上記のRSIを、この50秒間のずらし間隔を有する個々のフーリエ窓期間ごとに算出し時間軸に対して直行する軸上にそのパワーをプロットした、RSIの時間推移を示すグラフを作成し、これを演算結果の情報として、表示、印刷あるいは外部への出力をすることが出来る。このRSIのグラフを観察すれば、睡眠周期の安定性、ひいては睡眠の質を含めた快適度を容易に観察、診断することが可能である。
図7(i)は、同じく従前の被験者の呼吸周期標準偏差RespHzSDを図示したものである。
上記のRSIを観察する意味を別の観点から定性的に説明する。
呼吸周波数抽出後の周波数周波数スペクトルである、例えば呼吸動作周期波形mean lung powerの周波数スペクトルを模式的に示した
図10において、睡眠が深く、被験者の呼吸がゆっくり(slow)としてその周波数の変位も少なく呼吸動作が安定している状態における周波数スペクトルは、グラフ10aに示すように周波数平均値fxbar−sの周囲の包絡線の図形の幅が狭く、fSDsとして表したその標準偏差も小さいと考えられる。
一方、睡眠がより浅い状態においては、呼吸の動作が速く(rapid)なり、呼吸周波数がより高い周波数平均値fxbar−rへシフトし、且つ、呼吸周波数の変動もより大きくなることから包絡線図形の幅が広がり、この状態での標準偏差fSD−rもより大きな値となる。
従って上記のとおり、標準偏差の逆数であるRSIの時間推移を調べれば、
図10に示したような、安定期(regular period グラフ10a)にある期間と、不安定期(irregular period グラフ10b)である期間とを、視覚的に容易に観察、診断することができる。
なお上記のフーリエ窓期間などの数値はそれぞれ例示に過ぎず、適宜他の値により実施を行うことができ、RSIを標準偏差の逆数により算定した上記方法についても、呼吸周期の規則性を示す他の算法により得られた指標でも勿論可能であり、これらもまた本発明の一部である。
また
図10に図示したように、呼吸周波数グラフのピークから95%までのデータのみを用いてSD、RSIなどの算出を行い、下位5%のデータは捨ててノイズによる影響を抑圧するようにしてもよい。
更に、上記に説明したように被験者の一晩の睡眠期間全域に亘って各グラフ波形を表示する他に、医療者がこれらグラフ波形を観察して特に拡大観察したい時間領域を指定し、その時間領域における各グラフの波形、及びその時間領域における各波形の周波数分布(スペクトログラム)を表示させることができる。
図11はその1例であって、医療者は睡眠全域にわたる各波形の観察を行い、特にCSRが大きい特定領域を選択したので、
図11(2)に図示されるように300秒にわたる選択領域での各波形グラフ、及び
図11(1)に図示されるように、この選択時間領域における各波形のスペクトログラムを表示させることが出来る。
図11によれば(1)からCSRのスペクトルパワーが大きいこと、(2)からCSR波形が周期的に増減を繰り返していることが容易に視認できる。すなわちこの領域において被験者にはCSRが見られる。
上記に説明したような、操作手段を用いて特定時間領域を選択する構成、その領域におけるスペクトログラムや、パワー波形を表示するための構成は公知技術から容易に実現できるものであるので、煩雑を避けるためにここでは詳細説明を省略する。
〔ウェーブレット解析について〕
次に、先に説明を行った呼吸波形に基づく生成波形の中で、特にRSI(Repiration Stability Index)を用いた症例の比較検討結果を説明する。
説明に先立ち、RSIのような解析対象波形において、睡眠の基本的な生理周期であるウルトラディアンリズム(約90分)のような特定の周波数成分のパワーが時間と共にどのように変化しているかを精度良く解析する数学的手法である、ウェーブレット解析(wavelet analysis)を、準備として説明する。
従来から、生体信号を含めた不規則連続信号系列に対する伝統的な解析手法として、フーリエ解析が良く知られている。
フーリエ解析は、例えば下記公知文献1で詳細に開示がなされているように、周期を有する関数をフーリエ級数展開する手法をさらに非周期性関数にまで拡張し、正弦波波形という周期性と自己相似性とを有する関数波形の無限次数を含めた重畳によって、任意の不規則連続信号系列を表現しようとするものである。
公知文献1:城戸健一「デジタル信号処理入門」13〜15ページ(昭和60年7月20日発行、丸善株式会社)
すなわち時間軸上の無限区間に存在する時間tを変数とする関数 x(t)と、周波数軸上の無限区間に存在する周波数fを変数とする関数 X(f)とを、下記、式1及び式2が成立するように選ぶことが出来て、このときこれら2つの式をフーリエ変換対と呼び、X(f)をx(t)のフーリエ変換と呼ぶ。
【数1】
【数2】
すなわちフーリエ変換対は、時間tの関数である波形x(t)を周波数fの関数である複素振幅X(f)の複素指数関数(ここでは周波数領域を複素領域としたことから、実正弦関数あるいは実余弦関数の代わりに複素指数関数が用いられる)exp(j2πft)の集まりとして表す時の、x(t)とX(f)との関係を示すものである。式1に示されるフーリエ変換は時間関数から周波数関数を求め、式2に示されるフーリエ逆変換は周波数関数から時間関数を求めるものである。つまり、時間領域を変数域とする関数は、フーリエ変換を行うことによって、時間領域を変数域とする関数へ変換される。
上記のフーリエ変換を用いる解析手法であるフーリエ解析は、解析対象である関数波形をその全変数領域において周波数解析しようとするものであるので、時間軸上の局在的傾向が問題とならない不連続信号の解析では極めて有効であるものの、下記の公知文献2に示すように、特定の特徴を有している不連続信号の解析に用いる場合には解決し難い課題が存在し、これらへの解析の一手段として近年、ウェーブレット解析が提唱されている。
公知文献2:山田道夫:ウェーブレット変換とは何か(「数理科学」1992年12月号、11〜14ページ、サイエンス社)
上記公知文献2によれば、フーリエ変換で得られる周波数領域での情報であるフーリエスペクトルは時刻に関する情報を失っているため、スペクトルと局所的事象との対応関係を見い出すことは難しい。
例えば、時刻とともに周波数が単調に増加していく場合でも、スペクトルだけを見て周波数変化の傾向を判断することは不可能である。また各時刻において明瞭な局所的相似性を持つデータ、つまりそれぞれの時刻の付近だけとってみればはっきりしたスペクトルのべき則が現れる場合でも、時系列の中に異なる相似性を持つ時刻が混在する時にはスペクトルの明瞭なべき則は期待できず、スペクトルの形でもって相似性の特徴を判断することは殆ど不可能である。
フーリエ変換のこのような不都合な性質は、積分核 exp(j2πft)が一様に広がった関数であることに起因している。
そこで、変換対象データを時間軸上の局所部分に限定をおこなってフーリエ変換を行う手法(窓フーリエ変換)が用いられることもあるが、フーリエ解析の不確定性原理により時間と周波数について同時には精度を上げることが出来ないという課題がある。すなわち窓フーリエ変換は、周期性と相似性の両方を部分的に崩しながら局在化したものに相当し、抜本的な解決とはならない。
これに対して、フーリエ変換を周期性は崩しながらも相似性は厳格に保ったまま局所化するのがウェーブレット(Wavelet:小波、さざ波)変換である。
このウェーブレット変換は周波数の分解能はそれ程高いわけではないが、核関数の局所性と相似性から、データの持つ局所相似性の解析に非常に適している。このウェーブレット解析とは、フーリエ解析における周期性を局所性に置き換えた道具と言うことができる。
具体的なウェーブレット解析の手順を引き続き公知文献2の記述に従い説明すると、1次元の場合において、一つの関数 φ(t)を選び、これをアナライジングウェーブレット(analyzing wavelet)あるいはマザーウェーブレット(mother wavelet)と呼ぶ。このφ(t)が満たすべき条件を定性的に述べれば、「遠くで十分早く減衰する関数」である。アナライジングウェーブレットの具体例としては、メキシカンハット関数など複数のものが提案され実際に解析に用いられている。
このアナライジングウェーブレットを用いて式3のような2つのパラメータの関数系(多数の関数からなる集合)を作り、これをウェーブレットと呼ぶ。
【数3】
ウェーブレットは互いに相似な関数からなり、フーリエ変換と比較すると、aは周期(周波数の逆数)に役割を持つが、bは時刻のパラメータでありフーリエ変換では対応するものが存在しない。
パラメータa、bが連続である場合の連続ウェーブレット変換は、上記のアナライジングウェーブレット(式3)をフーリエ変換における積分核exp(j2πft)のように用いたものとみなすことが出来て、フーリエ変換と同様に順変換と逆変換とが存在し、それぞれ式4、式5で示される。
【数4】
【数5】
但し、
【数6】
ここでT(a,b)は、解析対象関数であるf(t)の(連続)ウェーブレット変換と呼ばれ、以下「ウェーブレット係数」とも呼ぶ。
連続ウェーブレット変換では、フーリエ解析におけるParsevalの関係に似た式が成立し、次のような等長感形式、つまり「エネルギー分配則」の関係式である式7が成立する。
【数7】
この式7から、「時刻bにおいて、周波数1/aの成分の持つエネルギー」は|T(a,b)|
2であるとして時系列の特性を論じることも可能である。また例えば|T(a,b)|
2(これを「パワー」と呼ぶ)をab平面上に鳥瞰図あるいはカラープロットとして表示し、そこに見られるパターンを用いて時系列中に含まれる種々の現象を分類する、といった使い方もある。
つまり、解析対象の波形に対してウェーブレット変換を行うことにより、周波数1/aと時刻bという二つの変数空間におけるそれぞれの点に対応したウェーブレット係数が算出され、このウェーブレット係数を用いて各周波数1/a、時刻bに対するエネルギーの指標としてパワーを算出することが出来る。
また下記の公知文献3には、ウェーブレット解析の応用、特に不連続信号検出機能について解説がなされている。
公知文献3:芦野隆一、山本鎮男「ウェーブレット解析〜誕生・発展・応用」23〜25ページ、131〜133ページ(1997年6月5日発行、共立出版)
ウェーブレット解析の応用を考えたとき、その第一の機能は不連続信号の検出である。自然現象に見られる不連続信号は極めて小さく、しかも雑音に覆われている。ウェーブレット変換は、この信号の不連続を見知する能力がある。なぜならば時間軸上の不連続点でのウェーブレット係数の絶対値が、その他の点より一段と大きくなり、その不連続点を検出できるからである。
このように、種々の周波数成分が局在的傾向をもって重畳している複雑な不連続信号波形の解析には、ウェーブレット解析が有効に働くものと考えられ、本発明者はその点に着目して以下に説明する知見、及び本発明に到達したのである。
〔各症例〕
以下、2つの群の症例群、全4症例についてRSI及びウルトラディアンリズムパワー推移波形、その他の解析結果を用いた対照比較の結果を説明する。症例群は次の2つである。
症例群I (健常群)
症例数:1(第1の症例
図12〜
図16)
心疾患:無し
顕著なCSR:無し
睡眠の質:良好
症例群II (疾患群)
症例数:3(第2の症例
図17〜
図21、第3の症例
図22〜26、第4の症例
図27〜
図31)
心疾患:慢性心不全
顕著なCSR:有り
睡眠の質:良好ではない
症例群II(疾患群)に含まれる症例の病態は次の通りである。
第2の症例:NYHA I度、BNP=47pg/ml
第3の症例:NYHA II度、BNP=115pg/ml
第4の症例:NYHA III度、BNP=1000pg/ml
ここでNYHAとは、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association:NYHA)が定めた心不全の症状の程度の分類であり、以下のように心不全の重症度を4種類に分類するものである。
NYHA I度:症状はなく、通常の日常生活は制限されないもの。
NYHA II度:日常生活が軽度から中等度に制限されるもの。安静時には無症状だが、普通の行動で疲労・動悸・呼吸困難・狭心痛を生じる。
NYHA III度:日常生活が高度に制限されるもの。安静時は無症状だが、平地の歩行や日常生活以下の労作によっても症状が生じる。
NYHA IV度:非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる。安静時においても心不全・狭心症症状を生ずることもある。
また、BNP検査(脳性ナトリウム利尿ペプチド)とは、心臓に負担がかかると心臓(主に心室)から血液に分泌されるホルモンの量を計測する検査であって、このBNPの数値が高いほど心臓に負担がかかっているということができる。臨床的には、心筋梗塞、心不全の診断・予後判定に有用であり、血液検査で心疾患を測定できる唯一の検査である。
BNP検査値を用いた心疾患病態の把握の目安は次の通りである。
18.4pg/ml以下:基準範囲内である。
18.5pg/ml以上:基準範囲を超えている。病態の悪化に応じて値が上昇する。
また、各症例を説明するための
図12〜
図31には、本発明の特徴を説明するための下記のグラフを各症例に共通して示してある。
(i)脳波SWAトレンド:5分間の脳波から前述のSWAを算出し、これを50秒ずつずらして8時間まで繰り返し施行したデータのトレンドグラフである。従って、このグラフのサンプリング周波数は50秒ごと(0.02Hz)となる。
(ii)呼吸周期RSIトレンド:5分間の呼吸曲線から、前述したRSIを算出し、これを50秒ずつずらして8時間まで繰り返し施行したデータのトレンドグラフである。従って、このグラフのサンプリング周波数は50秒ごと(0.02Hz)となる。
(i)、(ii)とも波形をフィルタリングして得られた包絡線を付記し、波形トレンドのリズムを見やすくしてある。
(iii)脳波SWAおよび呼吸周期RSIの周波数分布
上記約8時間のSWAとRSI(0.02Hz)のデータに対し、最大エントロピー法(Maximum Entropy Method:MEM)による周波数分析を行い、これらの時系列信号に含まれる主要な振動成分を抽出したものである。周波数領域の把握を重視し、それぞれの最大パワーで規格化して表示してある。
(iv)脳波SWA自己相関関数
上記のSWA波形の自己相関関数、すなわちSWA波形どうしのずらし比較による相関係数の推移を示したものである。波形に潜む重要なリズムの存在が統計学的に証明するためのものである。
なお、重複する図示を省略して説明を明瞭とするため、第1の症例では(xi)、(xii)を省略し、第2〜第4の症例では、(ix)、(x)を省略している。
(v)呼吸周期RS自己相関関数
同じく、上記のRSI波形の自己相関関数、すなわちRSI波形どうしのずらし比較による相関係数の推移を示したものである。
(vi)脳波SWAおよび呼吸周期RSIの相互相関関数
上記のSWA波形およびRSI波形相互のずらし比較による相関係数の推移を示したものである。両者の相関が高いのか否かを統計学的に証明するためのグラフである。
(vii)脳波SWAトレンド
(i)の波形を、連続波形としたものである。
(viii)脳波SWAトレンドに含まれるウルトラディアンパワーの推移
(vii)の波形に含まれる脳波SWAウルトラディアンリズムパワーの推移を、上記のウェーブレット解析手法を用いてグラフ化したもの、すなわち0.0001〜0.0003Hz(90分周期)のパワーの平均値を追跡したものであり、眠りの深さの推移を示している。
(ix)呼吸周期RSIトレンド
(ii)の波形を、連続波形としたものである。
(x)呼吸周期RSIトレンドに含まれるウルトラディアンパワーの推移
(ix)の波形に含まれるウルトラディアンリズムパワーの推移を、上記のウェーブレット解析手法を用いてグラフ化したもの、すなわち0.0001〜0.0003Hz(90分周期)のパワーの平均値を追跡したものであり、眠りの深さの推移を示している。
(xi)脳波SWAトレンドに含まれるウルトラディアンパワーの推移
(viii)と同一である。
(xii)呼吸周期RSIトレンドに含まれるウルトラディアンパワーの推移
(x)と同一である。
上記の第1〜第4の症例に関する、(i)〜(xii)の各グラフから、次の点が認められる。
まず、(i)、(ii)から、脳波SWAトレンドと呼吸周期RSIトレンドの時相が一致しているのがよく分かる。同じくこのデータから、ある程度の睡眠の深さになると呼吸が規則正しく安定化し、それ以上眠りが深くなっても、呼吸の規則性は一定である(規則性が上限に達している)ことが理解できる。RSIが睡眠中規則正しくなるためにはSWAの閾値があることが予想される。第1の症例の一番右のSWAピークの出現時にRSIは反応していないためである。
次に、(iii)から、0.0001〜0.0003Hz(約90〜100分周期)のウルトラディアンリズムが、脳波SWAトレンド、呼吸周期RSIトレンドの両者に明瞭に認められる。
また、(iv)、(v)、(vi)から、自己相関関数では、脳波SWAトレンド、呼吸周期RSIトレンドの両者に周期性があり、自己相関関数波形のピーク間隔からその周期が約90〜100分であり、ウルトラディアンリズムに一致することが分かる。相互相関関数で両者の最大相関は0.9前後の高い値を示しており、両者が密接に関連していること意味する。
特に留意すべき点は、脳波SWAトレンド、呼吸周期RSIトレンドに含まれるウルトラディアンリズムの周期性が、健常者がより大きく、NYHA段階が進んで心疾患が重篤になっていくほど周期性の発現が小さくなっている点である。これはそれぞれのトレンド波形の自己相関関数に見られるピークの大きさの相違から知ることが出来る。
また、よく眠っている健常者のデータ(第1の症例)と、心不全患者のデータ(第2〜第4の症例)を対比させると脳波SWAと呼吸周期RSIそれぞれの特徴がわかり、次のような興味深い性質が理解できる。
脳波SWAは眠りの深さに応じてパワーが大きくなっているが、呼吸周期RSIでは、ある一定以上の深い眠りにおいて規則性が明瞭となる閾値のようなものがあると予想される。ある程度の眠りになると急激に規則正しくなりそれ以上は規則正しくなり得ない(規則性は上限値がある)ためである。
従って、呼吸周期RSIの山の大きさはある程度以上で一定となってしまうため、脳波SWAのようなウェーブレット解析では最大値を見つけ難くなる可能性がある。
とりわけ健常者のように一晩中眠りの深い症例では呼吸周期RSIのwaveletは、幅の広い台形のようなウルトラディアンパワーを示しやすいのではないかと思われる(第1の症例)。
むしろ眠りの障害されている重症な患者で時々出る深い眠りに一致して、呼吸周期RSIがピークを示しやすいと考えられる(第2、第3の症例)。
以上のことから、呼吸周期RSIはある一定以上の深い眠り(ノンREM睡眠、深さとの対比が必要)を鋭敏に反映すると思われる。
以上の考察は、各症例の脳波SWAトレンド、呼吸周期RSIトレンドの対比を主な視点として行なったものである。
次に、各症例の呼吸周期RSIトレンド、およびそこに含まれるウルトラディアンリズムパワーの推移に着目し、症例群I(健常群)、症例群II(疾患群)の群間の差異について考察する。
これら2つの群を、各図示されたRSI、ウルトラディアンリズムパワーの推移から比較対照すると、群間で次の相違点が顕著である。従って、RSI、そのウルトラディアンリズム波形推移あるいはその双方を用いて、「慢性心不全及び顕著なCSRが無く、睡眠の質が良好である群」と「慢性心不全及び顕著なCSRがあり、睡眠の質が良好ではない群」とを診断で識別することが可能である。
特に明瞭な相違点は、次の通りである。
【表1】
〔酸素投与による、指標の変化〕
症例を用いた説明の最後として、第5の症例を、
図32、
図33を用いて説明する。
この第5の症例は慢性心不全に罹患し、顕著なチェーンストークス呼吸が認められ、睡眠の質は不良である。
図32はこの第5の症例患者の、酸素療法投与前の、RSIおよびウルトラディアンリズムの睡眠中の推移を示したものである。
図33は同じく90%酸素を継続的に投与する、酸素療法開始後の第5の症例患者のRSIおよびウルトラディアンリズムの睡眠中の推移を示したものである。
図32および
図33を対比することによって、酸素投与開始後は、RSIの値が増大するとともに、RSIの値が顕著に大きな時間領域すなわち患者の呼吸周期が安定しており睡眠の深さが深い時間領域が、投与前と比較して拡大していることが明瞭に理解できる。
更に、同じく双方の図を対比することによって、ウルトラディアンパワーの大きさが投与前よりも増大しており、このことからも酸素投与によって患者の睡眠の質が改善されていることが理解できる。
〔変形例その1 〜 テレメディスンへの応用〕
本発明の実施に際しては上記実施形態以外にも種々の変形が考えられる。
例えば呼吸波形を可搬型呼吸波形計測装置で計測記録し、その後で医療機関へ搬送するのではなく、通信路を介して直接解析装置へ送信するテレメディスンシステムでの実施や、呼吸波形中の各周波数成分の推移を単に表示するのみならず、ピークの数や大きさや明瞭さや位置に応じてスクリーニング的な自動評価を行う(但し確定診断は医療者が行う)構成なども可能である。
〔変形例その2 〜 呼吸周波数安定度の推移を表示する〕
次に、本発明におけるシステムの変形例として特に重要度を有する構成を説明する。
本発明者は、上記のような被験者の呼吸波形計測情報を用いた睡眠評価診断を多数の症例で行う中で、次のような知見を得た。
上述したように、睡眠は6種類の睡眠ステージが典型的には90分周期で一晩に3回繰り返され、この各周期における生理データの変化は下記のように脳波の徐波成分(SWA:Slow Wave Activity)で明瞭に観察することが出来る。そして、睡眠時無呼吸など何らかの原因によって睡眠の質を含めた快適度が低下した被験者ではこのSWAにおける睡眠段階の周期がくずれて明瞭に観察できないことがわかっている。
そこで、睡眠中の被験者の呼吸動作に注目し、計測して得られる呼吸周期の変動、特に呼吸周期の安定性に着目すればこの睡眠周期の観察、ひいては睡眠の質を含めた快適度の評価を行える可能性がある。
呼吸周期の安定性とは、計測で得られた呼吸波形から呼吸周期の帯域を抽出し、まず呼吸周波数の平均値(X bar)を算出し、更に既知の統計的手法を用いて、呼吸周波数の標準偏差(Sd)を算出し、この標準偏差(Sd)の逆数を取ることで示すことが出来る。
先に説明した実施態様と同様に、計測された呼吸波形の標準偏差の逆数を、ここではRSI(Respiration Stability Index)と呼ぶこととする。このRSIを一晩の睡眠において時間推移がわかるようにグラフ化すれば、睡眠周期が明瞭に現れており睡眠の質を含めた快適度が良いのかあるいは、明瞭に観察できず睡眠の質を含めた快適度が悪いのか、を医療者が観察して容易に判断できるはずである。
そこで本発明における変形例のシステムでは、入力された呼吸波形から、5分間というフーリエ窓期間について5秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた、各フーリエ窓期間の起点となる時刻における複数のフーリエスペクトルから、典型的な人体の呼吸周期である0.4Hzが含まれる0.1〜0.5Hzの周波数領域を抽出する点は先に説明した構成と同様である。
更に本発明における変形例のシステムでは、解析部3−3が、上記の50秒間のずらし間隔で得られるフーリエ窓ごとの呼吸周波数帯域に含まれる周波数の平均値(X bar)および標準偏差(Sd)を算出し、このSdの逆数である上記のRSIを、この50秒間のずらし間隔を有する個々のフーリエ窓期間ごとに算出し時間軸に対して直行する軸上にプロットした、RSIの時間推移を示すグラフを作成し、これを演算結果の情報として、表示、印刷あるいは外部への出力をする。
このRSIのグラフを観察すれば、睡眠周期の明瞭さ、ひいては睡眠の質を含めた快適度を容易に観察、診断することが可能である。
〔変形例その3 〜 睡眠の質を含めた快適度を自動的に評価する装置〕
上記説明した変形例では、呼吸周波数の標準偏差の逆数などから、呼吸周期の規則性を示す指標RSIを算出し、このRSIの時間的推移を表示などして医療者などが観察、診断する方法であった。
しかし、睡眠の質を含めた快適度がよく睡眠周期が明瞭に現れる場合のRSIの推移グラフはわかっているので、得られたSRI推移グラフから睡眠の質を含めた快適度を自動で判定することが可能である。
具体的には、RSIグラフのピークの大きさ、グラフが時間軸との間に挟む面積すなわちRSIグラフの時間積分値、予想されるRSI推移グラフ立ち上がり時刻すなわち呼吸安定期始まり時刻からのずれ、その被験者のあるいは一般的な被験者の理想的な睡眠の質を含めた快適度が良い場合のRSIグラフからの幾何学的な数値からされた図形的変位量などである。また他にも可能である。
これらのアプローチから上記の本発明における睡眠評価システム1の構成を利用して、睡眠の質を含めた快適度を自動評価する構成は容易に到達できるので、詳細具体的な構成の説明は省略する。
次に、本発明の他の変形例として、上記に説明を行った呼吸波形解析に基づく睡眠評価技術を、患者の治療に用いる治療機器などに具体的に応用した実施例などを説明する。
〔変形例その4 〜 気道陽圧式呼吸補助装置に関する発明の実施形態〕
まず、気道閉塞に起因する睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS:Sleep Apnea Syndromeともいう)の治療装置である、気道陽圧式呼吸補助装置(以下、「CPAP装置」あるいは「呼吸補助装置」ともいう)に本発明を適用した実施態様について説明を行う。
なお、以下に説明を行うCPAP装置に関する実施例では、患者へ送出する気体の送出圧制御を、装置内部に設けられた制御部が行うものである。
ところで、患者への気体送出を行う装置と、その送出圧の制御を行う装置とを一体とはせずに別体の装置とした構成も、既に市場に導入されてきている。そこで、以下の説明のようなCPAP装置内部に気体送出を行う機能部と、送出圧制御を行う機能部とを一体に設ける構成の他に、送出制御を別体の装置としてもよく、以下の説明ではこのような変形例をも範囲に含めて構成の説明を行うこととする。
CPAP装置は、大気を30cmH
2O程度まで昇圧して呼吸の補助手段として鼻マスクを用いて鼻孔部へ供給する気道陽圧式呼吸補助装置である。
詳細には、睡眠時無呼吸症候群の治療手段の一方法として、睡眠時に昇圧空気を鼻孔部を通して呼吸気道内に送気し、気道内を持続的に陽圧に維持せしめて呼吸気流を気道内に導通させ、気道部の閉塞に起因する呼吸停止がもたらす血液中の酸素濃度低下を防止するために提供される医療用具である。CPAP装置の具体的な構成は、例えば特開平7−275362号公報に開示がなされている。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に断続的に無呼吸を繰返し、その結果、日中傾眠などの種々の症状を呈する疾患の総称である。
無呼吸(apnea)とは、10秒以上の気流の停止と定義され、SASは、一晩7時間の睡眠中に30回以上の無呼吸がある場合、無呼吸指数 AI(apnea index:睡眠1時間あたりの無呼吸の回数)が、AI≧5(回/時間)の場合、あるいは実際の臨床では、無呼吸に低呼吸を加味した無呼吸低呼吸指数(AHI)が用いられる。
無呼吸低呼吸指数(Apnea hypopnea Index):睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数。
低呼吸(hypopnea):気道が完全に閉じるのではなく、狭小化のために換気量が少なくなった状態。換気の50%以上の低下に、酸素飽和度(SpO2)の3%以上の低下を伴うもの。
SASは、その原因から、閉塞型(閉塞性ともいう)(Obstructive Sleep apnea=OSA、睡眠中に上気道が閉塞して気流が停止するもので、無呼吸の間でも胸壁と腹壁の呼吸運動が認められるが、動きは互いに逆になるという奇異運動を示す)、中枢型(中枢性ともいう)(Central Sleep apnea=CSA、呼吸中枢の機能異常によりREM期を中心とした睡眠中に呼吸筋への刺激が消失して無呼吸となる)、及びOSAとCSAとの混合型(中枢型無呼吸で始まり、後半になって閉塞型無呼吸に移行する場合が多い。閉塞型無呼吸の一つとして分類することが多い)に分類される。
これらの中でCPAP装置による治療の対象となる患者は、OSAの患者である。
OSAは、上気道の閉塞によって無呼吸、低呼吸が起きるために発症する。
閉塞の原因は、(A)形態的異常(肥満によって気道に脂肪沈着する、扁桃肥大、巨舌症、鼻中隔彎曲症、アデノイド、小顎症(あごが小さい)など)、と、(B)機能的異常(気道を構成している筋肉の保持する力が低下する)である。
健常人の睡眠パターンは眠り始めに深い睡眠(ノンレム睡眠)が見られるのに対し、OSA患者は無呼吸のため血中酸素が低下し、胸腔内圧力が陰圧となって睡眠中に何度も覚醒反応が発生し、深い眠りが得られないことから、日中傾眠などの症状を呈する。
このようなOSA患者に対してCPAP装置は、鼻マスクを介して一定陽圧の空気を送り込み、上気道を広げ、この結果、気道閉塞を解消して無呼吸を防止するよう動作を行う。気道を広げるための圧力(以下「陽圧」ともいう)は患者個々に異なる。
また、心不全などの特定の疾患に特徴的に見られるCSA等の呼吸減衰に対しては、患者気道に印加される圧縮空気の圧力レベル(陽圧)を一定の圧力を保つCPAP以外にも、患者の呼気期間と吸気期間とで2つの異なる圧力としたもの(Bilevel−PAPと呼ぶ)、患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら印加するもの(サーボ型自動制御補助換気と呼ぶ)などの補助人工呼吸装置を用いる場合があり、その至適圧力は患者個々に、また症状によって異なる。
いずれの方法にせよ、陽圧レベルの決定は医師の所見に基づいて処方として決定がなされる。従来は治療対象患者の睡眠の質を含めた快適度を直接評価して、睡眠の質を含めた快適度を良好に保つために最適な陽圧レベルを決定する構成は知られていなかった。
これら従来の課題を解決するために、本実施形態におけるCPAP装置21aは、
図34に示すとおり、次の構成を有している。
まずCPAP装置本体21bは、上記した陽圧レベルを可変制御可能に構成した装置であって、圧縮空気を生成して装置外へ送出するブロア21b−1、そのブロア21b−1の送出する圧縮空気の圧力(陽圧レベル)の変更制御を含めてCPAP装置本体21bの運転制御を行うCPAP制御部21b−2を有している。
CPAP装置本体21bから送出される圧縮空気(陽圧空気)は導管21eを経由してマスク21fから患者の気道へ供給がなされる。
なおCPAP装置本体21bの構成は、以下に述べる特徴的構成を除いて、既に開示されている従来技術構成を用いることが可能である。
呼吸センサー21dは、上記の睡眠評価システム1における呼吸センサーと同様の構成を有している。
睡眠状態解析部21cは、CPAP装置本体21bと別体または一体に設けられ、呼吸センサー21d出力を受けて増幅する呼吸波形検出増幅部21c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部21c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部21c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部21c−4を有している。
睡眠状態解析部21c−4は、上記のように呼吸センサー21dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、フーリエ窓期間中のフーリエ変換を順次実行し、呼吸周波数帯域の抽出信号、およびこれから得られるRSIの時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
本実施例CPAP装置21aの動作原理は次の通りである。
睡眠は6種類の睡眠ステージが典型的には90分周期で一晩に3回繰り返され、この各周期における生理データの変化は下記のように脳波の徐波成分(SWA:Slow Wave Activity)で明瞭に観察することが出来る。そして、睡眠時無呼吸など何らかの原因によって睡眠の質を含めた快適度が低下した被験者ではこのSWAにおける睡眠段階の周期がくずれて明瞭に観察できないことがわかっている。
そこで、睡眠中の被験者の呼吸動作に注目し、計測して得られる呼吸周期の変動、特に呼吸周期の安定性に着目すればこの睡眠周期の観察、ひいては睡眠の質を含めた快適度の評価を行える可能性がある。
呼吸周期の安定性とは、計測で得られた呼吸波形から呼吸周期の帯域を抽出し、まず呼吸周波数の平均値(X bar)を算出し、更に既知の統計的手法を用いて、呼吸周波数の標準偏差(Sd)を算出し、この標準偏差(Sd)の逆数を取ることで示すことが出来る。
先に説明した実施態様と同様に、計測された呼吸波形の標準偏差の逆数を、ここではRSI(Respiration Stability Index)と呼ぶこととする。このRSIを一晩の睡眠において時間推移がわかるようにグラフ化すれば、睡眠周期が明瞭に現れており睡眠の質を含めた快適度が良いのかあるいは、明瞭に観察できず睡眠の質を含めた快適度が悪いのか、を医療者が観察して容易に判断できるはずであるとともに、得られた被験者のRSIの時間推移が、良質な睡眠における推移に近づくよう、先に説明した睡眠の質を含めた快適度自動評価装置の構成を利用して、陽圧空気の圧力を制御すれば、個々の患者に合わせて、あるいはまた患者のその日の状態に合わせて、最適なCPAP治療条件で陽圧空気が患者へ供給され、最適な睡眠状態が得られる。
この陽圧レベル制御はフィードバック制御を行うことが有効である。睡眠状態解析部21c−4とCPAP制御部21b−2とは、睡眠中の単数あるいは複数の時間ポイントで解析と陽圧レベルの変更を行ってもよいし、常時、RSIの時間推移波形をモニターして、リアルタイムに最適な陽圧レベルとなるよう制御を継続してもよい。
また、この陽圧レベル制御は、この患者の陽圧レベルを決定するための検査としてその場合にだけ実行する方法、あるいはこのCPAP装置21aを用いてOSA患者の治療を行う際には常に制御を行う方法のいずれでもよい。
ところで、上記の説明ではCPAP装置21aを用いて治療を行う対象の患者像として、従来構成のCPAP装置と同様に睡眠時無呼吸症候群の患者として説明した。
一方、本発明実施形態にかかるCPAP装置21aでは、その構成上の特徴から、上記の睡眠時無呼吸症候群患者に加えて、対象を慢性心疾患患者、特に心不全患者に広げることが可能となる。
すなわち、慢性心疾患患者、特に心不全患者に対して、呼吸ポンプ機能を補助するBilevel−PAPによる治療が血行動態を改善させることは知られている。
しかし、慢性心疾患患者は、心不全などによって交感神経活性が過度に上昇しており、すなわち興奮状態にあるため、入眠障害があることが多く、その中でマスク装着が必要なBi−PAP治療はさらに入眠・睡眠の質を含めた快適度を悪化させる可能性もあり、長期に使用することは避ける場合があった。
それを解消するために、本実施形態のCPAP装置21aを用いれば、呼吸波形解析の結果をフィードバックし、圧力レベル、圧力波形の調整を調整して、夜間の使用を可能とし、長期治療が可能となる。
次に、本実施形態の気道陽圧式呼吸補助装置において、患者への印加圧力が一定であるCPAP装置や、圧力変化が二相しかないBilevel−PAPとは異なり、患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら印加して、患者の肺換気量、呼吸数の両方かあるいはいずれか一方が予め定めた一定量に近づくように自動制御を行うサーボ型自動制御補助換気装置(Adaptive Servo Ventilator:ASV)を前提として構成した場合には、本発明の効果がより増進される点を説明する。
正常呼吸(毎分8〜15回)において、心拍数は吸気時に増大し呼気時に減少する。この呼吸性洞不整脈(呼吸によって起こる心拍数の変化)はアトロピンにより心臓迷走神経を遮断するとほぼ完全に消失することから、主に心臓迷走神経活動が関与していることがわかる。
吸気時相に同期して迷走神経活動が減弱する原因の一つに、呼吸中枢からの干渉により心臓迷走神経活動が抑制される中枢性機序がある(Hamlin RL.Smith CR,Smetzer DL.Sinus arrhythmia in the dogs.Am J Physiol 1966;210:321−328.Shykoff BE,Naqvi SJ,Menon AS,Slutsky AS.Respiratory sinus arrhythmia in dogs.J Clin Invest 1991;87:1612−1627.)。
これは吸気時の横隔膜神経の活動に同期した心拍増加が、たとえ肺や胸郭の動きがなくとも認められるという事実に基づく。
一方、呼吸性心拍変動を惹起する末梢性機序として、肺の伸展受容器からの求心性入力により迷走神経活動が吸気時に同期して遮断されるgating effectsがある。事実、心臓への迷走神経遠心路が保たれているが、肺からの迷走神経求心路が遮断されている肺移植患者において、呼吸性心拍変動が明らかに減弱することが知られている(Tara BH.Simon PM,Dempsey JA,Skatrud JB,Iber C.Respiratory sinus arrhythmia in humans:an obligatory role for vagal feedback from the lungs.J Appl Physiol 1995;78:638−645.)。
従って、上記に説明したように、呼吸気の圧力を指標として制御を行うCPAP装置において、治療患者の呼吸動作の周期や換気鼠が睡眠の過程において一定ではなく変動をした場合に呼吸周波数の推移に影響を与える可能性がある。
ところが、サーボ型自動制御補助換気装置は、先に説明したとおり、治療患者の呼吸の状態(有無、気流レベル、間隔など)を常時モニターしてその瞬間ごとに最適な圧を変化させながら患者の肺換気量と、患者の呼吸数の両方あるいはいずれか一方を予め決められた一定値に近づくように制御を行うものであるから、このサーボ型自動制御補助換気装置を用いた場合には睡眠中の患者の呼吸動作における動作周期や肺換気量の変動が相対的に少なくなるよう、換気装置によるコントロールが可能となる。
従って、サーボ型自動制御補助換気装置を前提として、上記に説明したごとくの特徴を有する本実施例の気道陽圧式呼吸補助装置を構成した場合には、患者の呼吸周期の規則性を示す指標、例えばRSIの時間推移を用いて、睡眠の質を含めた快適度が高まるようにコントロールを行うことが出来るので、コントロールのループが患者の呼吸周波数のみを介することからダイレクトであり制御の応答性がより良くなり、この結果、より精度の高い睡眠評価結果とこれを用いたコントロールが実行できることから、本実施形態の特有の効果である、より良質な睡眠を治療患者に提供するという点を他のタイプのCPAP装置(サーボ型自動制御補助換気装置ではないタイプ)よりも更に増進させることができる。
なお、上記のサーボ型自動制御補助換気装置は、「オートセットCS」の製品名で2007年に帝人ファーマ株式会社が市場導入を行っている。
上記した「オートセットCS」は、下記に略号を用いて列挙する各国の特許または特許出願等によって、その構成の技術的特徴部分がカバーされている。
AU 691200,AU 697652,AU 702820,AU 709279,AU 724589,AU 730844,AU 731800,AU 736723,AU 734771,AU 750095,AU 750761,AU 756622,AU 761189,AU 2002306200,CA 2263126,EP 0661071,EP 1318307,JP 3635097,JP 3737698,NZ 527088,US 4944310,US 5199424,US 5245995,US 5522382,US 5704345,US 6029665,US 6138675,US 6152129,US 6240921,US 6279569,US 6363933,US 6367474,US 6398739,US 6425395,US 6502572,US 6532959,US 6591834,US 6659101,US 6945248,US 6951217,US 7004908,US 7040317,US 7077132。
〔呼吸補助装置のタイトレーションに用いる検査装置に関する発明の実施形態〕
次に、上記説明を行った本発明の実施形態である、CPAPを含めた呼吸補助装置のタイトレーションに用いることが有効である、検査装置に関する発明の実施形態を説明する。
これら呼吸補助装置のタイトレーションとは、CPAPなど呼吸補助装置の適正圧(治療圧)の決定を医療者などが行う作業であって、例えば、ワールドワイドウェブ上に閲覧可能に配置された情報「神戸共同病院 睡眠時む呼吸症行群」<http://homepage3.nifty.com/SAS−kyo/titration.pdf#search=’タイトレーション’>に詳細な説明がなされている。
従来は、終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)検査を行いながら、呼吸補助装置の作動圧力を最小圧から開始して、呼吸状態を観察しながら作動圧力を調整し、無呼吸や、低呼吸状態が観察されるごとに無呼吸や低呼吸、イビキが解消されるように手動で圧力を上昇・下降など可変させていく(マニュアル・タイトレーション:手動圧調整)方法があり、最終的に患者の睡眠状態が良好で、呼吸障害が解消される最小の圧が指摘圧(治療圧)となる。この方法は終夜観察という多大な労力を要する作業であり、自動的に器械が圧力を可変し記録してくれる、Auto−CPAP装置を用いて人的な労力を省力化する、オート・タイトレーションという方法もある。
また、上記のように睡眠中の被験者を対象としてタイトレーション作業を行う方法の他に、覚醒中の被験者に対して、使用を想定している呼吸補助装置などの医療機器を装着し、短期間の使用試行を行って、被験者へのこの医療機器の適合性、あるいは設定条件の決定などを行う方法もある。
以後の説明では、睡眠中の被験者に対するタイトレーション作業に限らず、上記のような覚醒中の被験者へのタイトレーション作業を含めて、「タイトレーション」という文言を用いて説明を行うこととする。
本発明はこのタイトレーション作業を、より人体の生理に即した、精度が高く且つ作業効率のよい改良を実現するものであって、具体的には、睡眠中または覚醒中の被験者に送出される呼吸補助装置の作動圧を、手動または自動にて変化させるとともに作動圧の時間変化を記録し、且つ、被験者の呼吸波形を継続的に記録してき、上記したRSIの時間変化波形を生成記録するものである。
作動圧およびRSIの時間変化は、タイトレーションを行う医療者がリアルタイムに観察して診断に用いても良いし、これらの波形を記録しておいたり、記録したデータに基づき後刻波形を生成して、これらの波形をモニター装置で表示したり、プリンター装置で印刷したり、あるいは外部へ送信を行う。
医療者は同時に観察可能な、作動圧変化波形とRSI波形とを比較して、例えば5分ごとに作動圧を変化させた場合に、それに伴って変化をするRSI波形が極大値を有する場合に、そのときの作動圧を適切な治療圧力として決定することが可能となる。これは人体の呼吸動作周期の挙動が脳中枢からの直接的な支配を受けており、外乱要素が少ないので、他の生理情報例えば心拍数などを観察することと比較して、呼吸補助装置による圧力印加の効果を直接観察することができ、タイトレーションの精度をより高めることが出来るからである。
他にも、(1)圧縮空気の圧力値、(2)圧縮空気の圧力値の変化パターン、及び(3)上記に説明した、CPAP装置、バイレベルPAP装置、ASV(サーボ型自動制御補助換気装置)など複数ある呼吸補助装置の中での装置の選択、の内の少なくともいずれかを治療に適するように医療者が決定するようにしてもよい。
また、呼吸周期の挙動を観察することから、睡眠中に限られること無く覚醒中の観察によっても適切なタイトレーションを行うことが出来、入院を要せず外来診療の場、あるいは患者宅での往診診療の場でも短時間の内にタイトレーションを完了することが出来るので、患者の負担が軽減されるとともに医療経済効果を向上させることが出来る。
なお、本発明によるタイトレーションは、CPAPに限らず、患者の自発呼吸の下で加圧空気やその他の呼吸気体を送出する、様々な呼吸補助装置において有効であるが、上記したような従来技術を用いたタイトレーションは、タイトレーションのための測定時にのみ有効で、症状の変化が生じた場合には再入院してタイトレーションを再実施する以外に方法がなかった。
それに対して上記したとおりの本発明実施形態によるタイトレーションを行うことで、睡眠の質や快適度を直接評価できることから、入院時に限らず例えば在宅においても、症状変化など所望のタイミングで患者自身がスイッチ操作を行ってタイトレーションを任意に実施し、症状に応じた最適条件を発見し、自動で設定することが可能となる。
〔睡眠導入装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、不眠症患者あるいは健常者を睡眠状態に導いて良好な睡眠を実現することを目的とした、睡眠導入装置に本発明を適応した例を説明する。
この種の睡眠導入装置は、例えば、特許第3868326号公報には、これから入眠しようとする患者に対してスピーカーから音を発声して聴音せしめ、この音に対して患者がジョイスティックを操作した動作の内容を分析することで、より早く患者が入眠にいたるように発声音を選択制御しようとするものである。
また、特開2003−199831号公報には、枕に仕込んだスピーカーから超音波を発声させ、この超音波の態様を時間順次に変えることによって対象者をまずリラックスさせ、その後次第に入眠へ導こうとするものである。
しかしながらこれら従来技術構成によれば、音や超音波など何らかの物理刺激を対象者に加えるものの、それら物理刺激はあらかじめプログラムとして決定されていたり、あるいはまだ入眠に至らない対象者の動作から睡眠の進行を推定することによって選択しようとするばかりであって、対象者の睡眠の状態や睡眠の質を含めた快適度を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適な物理刺激の態様を選択しようとするものではなかった。
それに対して本実施形態の睡眠導入装置22aは、
図35に例示した下記の構成を有している。
まず物理刺激装置22bは、これから入眠をしようとする対象者に対して、出力部22b−1から光、音、超音波、熱、風、画像、匂い、接触刺激、電気刺激、磁気刺激など何らかの物理刺激を与えるよう構成され、且つその物理刺激の態様を、物理刺激制御部22b−2の機能により変化させることができる。例えば物理刺激が光であれば、その強度、波長(色)、点滅の有無や間隔、発光体の面積や形や位置、さらには光の発光の有無までをも変化させることができる。
あるいは物理刺激が音であれば、その強度、波長(音程)、発声パターンや間隔、発声の方向や位置、さらには発声の有無までをも変化させることができる。
呼吸センサー22dは、上記の睡眠評価システム1における呼吸センサーと同様の構成を有している。
睡眠状態解析部22cは、物理刺激装置22bと別体または一体に設けられ、呼吸センサー22d出力を受けて増幅する呼吸波形検出増幅部22c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部22c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部22c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部22c−4を有している。
睡眠状態解析部22c−4は、上記のように呼吸センサー22dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、フーリエ窓期間中のフーリエ変換を順次実行し、呼吸周波数帯域の抽出信号、およびこれから得られる例えば上記のRSIの時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
従ってこのRSIなどの推移を見て、睡眠の質を含めた快適度がより良くなるように、睡眠導入装置22aの運転条件を制御するよう構成されている。
〔マッサージ装置に関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、対象者に対して機構的なアタッチメント部が揉み解し動作などを自動的に行う、マッサージ装置に本発明を適応した例を説明する。
この種のマッサージ装置は、例えば、特開2007−89716号公報には、パラレルリンク機構式のマッサージ装置において、施療子を人体に対して独立に上下方向、左右幅方向、及び出退方向に安定かつ再現性良く移動制御して施療子に所望のマッサージ動作を行わせることを可能とするマッサージ装置が開示されている。
また、特開2003−310679号公報には、ふくらはぎ、かかと、つま先までを同時に密着し得るように略ブーツ形状に形成すると共に、つま先から脚を入れる際に開くように接合部を開閉自在に設けたふくらはぎ用袷部を有する脚用押圧袋と、脚用押圧袋2の表皮材の略全面に張り付けた空気充填用袋体と、空気充填用袋体に空気の供給と排気をするエアポンプと、空気充填用袋体に設けた給排気孔とエアポンプとを連結する連結管と、を備えた脚用マッサージ装置が開示されている。
しかしながらこれら従来技術構成によれば、マッサージの動作パターンはあらかじめプログラムとして決定されていたり、あるいはマッサージの対象者が抱く主観的な快感や不快感に基づいて選択しようとするばかりであって、対象者の生理状態を直接評価しつつ、フィードバック制御を用いて最適なマッサージパターンを選択しようとするものではなかった。
それに対して本実施形態であるマッサージ装置23aは、
図36に例示するように下記の構成を有している。
まず、マッサージ本体23bは次のマッサージ刺激部23b−1、マッサージパターン制御部23b−2を有する。
マッサージ刺激部23b−1は、マッサージの対象者に対して、ローラ、ハンド、エアカフなどアタッチメントを用いてマッサージ動作を行うための構成であって、具体的には公知のマッサージ装置と同様のアタッチメントを用いることができる。
マッサージパターン制御部23b−2は上記のマッサージ刺激部23b−1が実行するマッサージの態様を変更制御するもので、マッサージの動作有無や、マッサージの強さやパターンなど動作の全てが制御対象である。
呼吸センサー23bは、既に説明したとおりの構成を有している。
睡眠状態解析部23cは、物理刺激装置23bと別体または一体に設けられ、パルスオキシメータ23d出力を受けて増幅する呼吸波形検出増幅部23c−1、そのアナログ出力をデジタル化するAD変換部23c−2、デジタル化した波形の情報を蓄積し、アクセス可能とするメモリー部23c−3、及び以下に述べる睡眠状態解析部23c−4を有している。
睡眠状態解析部23c−4は、上記のように呼吸センサー23dから入力する検出波形のデジタル化信号を得て、フーリエ窓期間中のフーリエ変換を順次実行し、呼吸周波数帯域の抽出信号、およびこれから得られる、例えば上記のRSIの時間推移をリアルタイムに生成することが可能である。
従ってこのRSIなどの推移を見て、睡眠の質を含めた快適度がより良くなるように、マッサージ装置23aの運転条件を制御するよう構成されている。
〔血圧測定システムに関する発明の実施形態〕
次に、本発明の他の実施形態として、信頼性、再現性が良好、かつ簡潔な態様で被験者の血圧を測定するための、血圧測定システムに本発明を適応した例を説明する。
島田和幸ほか、循環器病の診断と治療に関するガイドライン1998−1999年度合同研究班報告「24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン」(Japanese Circulation Journal Vol.64,Suppl.V,2000。以下「ガイドライン」という。)によれば、人体の血圧値は、活動時、安静時、睡眠時など多くの条件下の血圧値が変動し、必ずしもこれらの血圧と診察室での随時血圧とは相関しないことが知られている。
上記のガイドラインにも示されているように、高血圧患者の血圧値を測定するためには、24時間血圧測定法(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM法)が用いられる。
1)診察室あるいは家庭での血圧が大きく変動する場合
2)白衣高血圧(white coat hypertension:通常の日常生活においては、正常血圧であるが、医療環境においては再現性よく、繰り返し高血圧を呈するもの)が疑われる場合
3)薬物治療抵抗性の高血圧の場合
4)降圧薬投与中に低血圧を示唆する徴候がみられる場合
5)早朝に高血圧を示す場合
ABPM法の概要は、被験者に血圧計を装着し、典型的には15分〜30分間隔で、睡眠中を含めた期間中に血圧測定を行う方法である。
また夜間血圧の評価はこのABPM法によってのみ可能である。
ところで、この夜間に測定される血圧値の信頼性、精度について、上記のガイドラインでは次のように説明がなされている。
「ABPM 法のみが夜間睡眠血圧を測定できる。「夜間」という意味には、就眠という生理的状態が含まれている。しかし、夜間血圧と睡眠血圧とは必ずしも一致しない。また脳波上の睡眠時相によって血圧は異なり、徐波睡眠相(深睡眠)で最も血圧は低下し、REM睡眠には大きな血圧動揺がみられる。従って、夜間といえども覚醒時間帯が多ければ真の睡眠血圧より夜間血圧はかなり高くなってしまう。
特に高齢者では夜間尿のため起床することが多く、このことを評価の上で配慮しなければならない.またABPM法は上腕カフ加圧を行っているため、初めてABPM法を行う人では加圧のために覚醒ないし睡眠深度が浅くなり血圧が上昇することがあり、とくに睡眠障害を有する患者ではカフ加圧時に覚醒して血圧が上昇(14/4mmHg)することが報告されている。
夜間血圧は、睡眠深度により変動するため、その再現性は必ずしも良くない。このため、血圧日内変動を昼間血圧(BP high)と夜間血圧(BP low)の2相の矩形波に分け、最適な2相矩形波を計算する方法(squarewave fit)や累積加算(cumulative sums)法によって夜間血圧(BP min)を再現良く推定する方法が考案されている。栃久保らは、心拍数と血圧の相関式と最小心拍数から導き出される夜間の推計学的「基底血圧値」を提唱している。」
すなわち、就寝中の(夜間の)被験者の血圧は睡眠の深さが測定値に影響する。
そこで被験者の基底血圧値を再現性良く計測するために、ノンREM期の深い睡眠状態にある被験者の血圧値を測定するために、先に説明した入院により行うポリソムノグラフィー検査(PSG検査)のような大規模検査装置を用いて、例えば、先に説明した脳波SWA波形の推移から、被験者の徐波睡眠(ノンレム期睡眠)の期間を診断特定し、その徐波睡眠期の血圧測定値を採用しても良いし、あるいは被験者が現在、徐波睡眠期に有ることを知って、血圧測定動作を行うよう血圧測定装置を制御するようにしてもよい。このように構成することで、被験者の生理データに基づいて被験者が徐波睡眠の状態にあることを医学的に確認した上で、安定的に血圧値を測定できる。
しかしながら、PSG検査は先に説明したように入院が必要となり、被験者が負担無く自宅で睡眠しながら行える検査ではない。
また様々な統計的手法から夜間の基底血圧値を推定しようとする方法が提唱されているものの、もとより基底状態にある被験者の血圧値を直接計測することは出来なかった。
そこで、本発明の実施形態に係る、血圧測定システム24aでは、先に説明した呼吸周期の安定度を示す指標例えばRSIに着目し、ノンREM期にある被験者の血圧値を、入院を要することの無い自宅で行える簡潔な方法で、直接測定することを可能とするものである。
図37に従い、本実施形態の血圧測定システム24aの構成を説明すると、まず本システム24aは、可搬型に構成してもよい呼吸波形記録計24bと、同じく可搬型に構成してもよい血圧値記録計24c、パーソナルコンピュータなどで実現される解析装置24dとを備えている。
呼吸波形記録計24bは、持ち運びが可能に構成することも可能な、呼吸波計を記録できる装置であって、典型的には医療機関から被験者に貸与され、被験者が帰宅後に一晩の睡眠において連続的に記録波形を記録保持し、その後医療機関へ搬送される形態が好適である。
なお、呼吸波形の記録を医療機関内で行っても勿論よいし、記録波形のデータは、フラッシュメモリなどに記録して輸送されたり、通信路経由で伝送されることで解析を行うべき装置、すなわち解析装置24dへ送達されても勿論よい。
上記の機能を実現するために呼吸波形記録計24bは、被験者の鼻腔付近の皮膚面に貼付する呼吸気流センサ24b−1、呼吸波形検出増幅部24b−2、A/D変換部24b−3、デジタル信号として呼吸波形を記録保持するメモリー部24b−4、メモリー部24b−4からのデジタル呼吸波形データを外部へ出力するための出力端子24b−5を有している。
上記の呼吸気流センサ24b−1は、被験者の鼻腔付近に貼り付けて、例えば、呼吸気流の温度とその他の外気の温度とを判別して測定検知することにより、この被験者の呼吸による気流の有無、強弱を測定するためのサーマルセンサでもよいし、あるいは、短冊状部材の呼吸気流による変形に起因する抵抗変化方式、風車構造の気流による回転を利用したものなど、呼吸気流の有無と強度を検知できるものであれば使用が可能である。
特に、呼吸を検出する圧力センサーとしてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)圧電フィルムなどを備える圧感知呼吸センサーを用いることは望ましい態様である。
更に、呼吸気流を直接測定するのではなく、被験者の胸や腹に巻かれたバンドが呼吸動作で伸長されるテンションを測定したり、被験者の下に敷くマットに感圧センサーを設けたりするなどして、被験者の呼吸動作(換気運動)を測定記録してもよい。
これら様々な呼吸センサーは、患者の呼吸気流あるいは患者の呼吸努力(換気運動)を検知するために患者の所定部に装着されるものであって、その装着方法は検査に先立って医療機関などから患者へ指導されるべきものである。しかし、心電図を測定するための電極を患者の胸部表皮の特定の位置に貼り付けることと比べると、その呼吸センサーを装着する位置、方向などの許容度が、心電図用センサーと比較して大きく、医療機関の指導に従い患者あるいは患者家族がこれらセンサーを装着し、正しい計測値を得ることは容易である。
更に、近年、上記のような被験者に何らかのセンシング手段を装着して呼吸動作を検知するのではなく、電磁波を離れた位置から被験者に照射し、反射波を解析することで被験者の体動や、呼吸動作を検知する、非接触式の呼吸センサーが多数提案されてきている。
先の実施形態にて説明を行ったように、ワールドワイドウェブ上に掲示されて閲覧可能である文書「評価用マイクロ波呼吸センサー」(http://www3.ocn.ne.jp/
〜mwlhp/kokyu.PDF)や、同様に公知文献である特開2002−71825号公報「マイクロ波利用人体検知装置」、特開2005−237569号公報、特開2005−270570公報「生体情報モニタ装置」に開示がなされたような、電磁波を照射した被験者からの反射波の解析結果に基づいて呼吸動作を検出するセンサーが、呼吸センサーであっても勿論よい。
また、本システム24aの血圧値記録計24cは、先に説明した24時間血圧測定法(ABPM)に用いられる装置を含めた公知の自動血圧計と同様の測定原理に基づいて構成することが可能な、被験者の血圧測定を行うための装置である。
具体的な測定原理は、次のような間接聴診式の血圧測定方法を自動化したものである。
すなわち、被験者の上腕などにカフを装着し、患者の状態から予測される血圧の中央値程度、例えば100mmHg(ミリメートル水銀柱)程度に、カフ圧を掛け、コロトコフ音が聴取できる事を確認する。コロトコフ音が聞こえたら、聞こえなくなるまでカフ圧を上げ、表示を見ながらゆっくりカフ圧を下げる。最初に聞こえる拍動音が、コロトコフ音第1相である、この時点で目盛りを読むと、最高血圧が得られる。次に、音が急にはっきりしてくるのが第2相である。また音調が変わり、第3相である。コロトコフ音が聞こえなくなった時点が最低血圧である。
この原理に基づいて測定を行うために血圧値記録計24cは、カフ24c−1を備えている。カフ224c−1は、上腕などに圧力を加えるためのカフ部と、聴診のための音センサー部(マイクロホン)を備えている。
なお、カフ24c−1は上記のように手動の聴診法をマイクロホンに置き換え血管音(コロトコフ音)を自動的に判定して血圧を測定するマイクロホン(KM)法の他に、カフ圧の脈圧による圧振動(oscillation)を分析して血圧を測定するオシロメトリック(OS)法、あるいはその他の代替方法に基づいて構成してもよい。
また血圧値検出制御部24c−2は、カフ24c−1に上述の動作を行わせるために、カフの加圧圧力制御、コロトコフ音の聴取と解析、解析したコロトコフ音に基づいた加圧制御の全てと、上記手順で測定された血圧値の取得と送出を行う。
なお、血圧値の測定は、夜間、睡眠中を含む期間に亘り、継続的に行われる。血圧計測の時間間隔は典型的には15分から30分である。
AD変換部24c−3は、取得されたアナログ値の血圧値をデジタル信号に変換し、メモリー部24c−4はそのデジタル化された血圧値の一時的な記憶と、外部へ送出する為のインターフェース機能を有する。なお、デジタル血圧値データの解析装置24dへの送達は、通信路経由であっても、可搬型メモリー媒体に記憶してその媒体を装着する、媒体渡しの方法であっても構わない。
同じく本血圧測定システム24aを構成する解析装置24dは、典型的には表示画面やプリンターを含むパーソナルコンピュータシステムと、そのコンピュータにインストールされて動作を行うコンピュータプログラムにより実現されるもので、医療機関などに設置され、被験者からの呼吸波形データ、および血圧値データが転送、あるいは前出の媒体渡しがなされて、後に説明するような手順に従い、上記の呼吸波形データを用いた演算を実行するものである。更にこれらの呼吸波形や、呼吸波形に基づいて演算を行った結果である波形の時間的(経時的)推移、およびこの呼吸波形推移と対照すべき血圧値の推移を時系列的に表示画面に表示したり、プリンターにより印刷したり、あるいはその両方を実行し、その結果、画面表示や印刷結果を観察する医療者が基底血圧値の診断を行うことを可能とするものである。
これらの機能を実現するために解析装置24dは、外部から呼吸波形デジタルデータを取り込むための入力端24d−1、同じく外部から血圧値デジタルデータを取り込むための入力端24d−7、取り込んだこれらのデータを一旦記録保持するメモリー部24d−2、記録されたデータを読み出して、それを用いた後述するような演算操作を行う解析部24d−3、解析部24d−3から出力された演算の結果である呼吸周期安定度指数、あるいは血圧値推移波形などの時系列データを表示画面に表示する表示部24d−4、同じく出力されたこれら時系列データを印刷するプリンター部24d−5、これら時系列データを外部へ送出するデータ送出端24d−6を備えている。
〔解析装置の動作〕
次に、本システム24aの特徴的な構成である解析装置24dが行う、呼吸波形の演算、および血圧値の対照可能な出力などの動作を説明する。
解析装置24dが備える上記の解析部24d−3は、
図1を用いて説明した、呼吸波形に基づく睡眠評価装置1と同様の原理に従い、計測で得られた呼吸波形から呼吸周期の帯域として、例えば、先に説明した呼吸動作周期波形 mean lung powerを抽出し、まず呼吸周波数の平均値(X bar)を算出し、更に既知の統計的手法を用いて、呼吸周波数の標準偏差(SD)を算出すれば、呼吸周期の変動の大きさを知ることが出来る。更にこの標準偏差(SD)の逆数を取ることで、呼吸周期の安定度を示すことが出来る。
なお、呼吸周波数の平均値(X bar)を用いる代わりに、先に説明した呼吸周期ピーク周波数(HF)など他の指標を用いても良い。
先に説明した他の実施形態と同様に、計測された呼吸波形の標準偏差の逆数を、ここではRSI(Respiration Stability Index)と呼ぶこととする。このRSIを一晩の睡眠における時間推移がわかるようにグラフ化すれば、睡眠周期が明瞭に現れており睡眠の質を含めた快適度が良いのかあるいは、明瞭に観察できず睡眠の質を含めた快適度が悪いのか、が医療者が観察して容易に判断でるとともに、睡眠周期が明瞭に観察されるRSI推移波形において、RSIの値が大きい時間領域においては、被験者が現在ノンREM期、すなわち深い睡眠の状態にあることが検知可能である。
本システム24aが表示、印刷などの出力を行うグラフを模式的に説明した
図38において、横軸は被験者の生理データの計測時刻であり、縦軸はRSIの大きさおよび血圧値の大きさである。
同じ時刻におけるRSIおよび血圧値を、対照的に観察することが可能なように、この2つの生理データの計測時刻を同じくして、RSIと血圧値を上下に並べて表示してある。
図38に示すグラフを見た観察者は、まずRSIの推移波形25aを観察して、RSIが大きな時間領域(
図38Ta〜Tb 25a−1)を識別してこの領域では被験者が深い睡眠状態にあることを理解する。
次に血圧値推移波形25bの中で、同じ時刻であるTa〜Tbにおける血圧値推移波形25b−1を観察し、この領域の低い血圧値を基底血圧値として採用すべきであることを判断可能である。
この結果、PSGのような大規模検査設備を用いずとも、あるいは、統計的手法のような間接的手段によらず直接に、深い睡眠状態にある被験者の血圧値を得て、基底血圧を再現性よく、精度良く簡便に測定することが可能となる。
そこで本発明のシステムでは、既に説明を行ったとおり、入力された呼吸波形から、5分間というフーリエ窓期間について5秒間ずつ時間をずらして高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られた、各フーリエ窓期間の起点となる時刻における複数のフーリエスペクトルから、典型的な人体の呼吸周期である0.4Hzが含まれる0.11〜0.50Hzの周波数領域を抽出する。更に本発明の変形例のシステムでは、解析部24d−3が、上記の50秒間のずらし間隔で得られるフーリエ窓ごとの呼吸周波数帯域に含まれる周波数の平均値(X bar)および標準偏差(SD)を算出する。そして標準偏差の逆数から上述のRSIを算出し、血圧値と対照が可能な態様で表示などを行うよう構成されている。
なお、呼吸波形と血圧値とは、同時に並行して計測を行うことが望ましいが、両者に一致する期間があれば、一致期間において双方のデータが対照評価が可能なように構成すればよく、双方の計測期間が異なっていても構わない。
また、被験者が睡眠状態にある夜間に限らず、覚醒中の被験者について、上述の方法にて呼吸波形と血圧値とを継続的に計測し、RSIが大きい状態、すなわち被験者の生理状態が安定期にある場合の血圧値を測定するように用いることも可能である。
これらの実施態様を拡張した構成としても良い点は、下記の変形例においても同様である。
〔血圧測定システムの変形例〕
先に説明した実施形態において、血圧測定は、被験者の睡眠中に継続的に行われその計測間隔は典型的には15分ないし30分であって、ABPM法と同様であることを説明した。
ところで自動血圧計はカフを被験者の上腕などで加圧して締め付けて血圧測定をおこなうので、測定を行うことで被験者を覚醒させる可能性がある。
そこで上記の本発明実施形態の変形例として、睡眠中の被験者に対して継続的に血圧測定を行うのではなく、RSIが予め設定した閾値を越えて睡眠が深い状態のみにおいてカフ加圧による血圧測定を行うように構成してもよい。
あるいは、血圧測定は被験者の睡眠中に継続的に行うものの、測定された血圧値データのメモリーへの記憶、情報送出、あるいは表示などの出力を、RSIが予め設定された閾値を越えた場合にのみ実行するように構成してもよい。そのように構成することで、メモリーの容量を低減したり、情報送出の際の通信エラーリスクを減らしたり、波形データを観察者が観察する際の作業効率を向上させることが出来る。
これら変形例の構成は、上述の相違点を除いて先に説明した血圧測定システム24aと同様であるので、煩雑となることを考慮してここでは説明を繰り返さない。
〔ポリソムノグラフィー検査(PSG検査)への本発明の適用〕
上記に説明を行った血圧測定システムは、呼吸周期の安定度の指標として例えばRSIの推移から徐波睡眠状態にあることを知り、基底血圧値を検出可能としたので、計測が容易な呼吸波形に基づいて在宅での運用が容易となる利点がある。
ところで、本発明を実施するにあたって、徐波睡眠の状態にあることを知るための指標および生理データは、呼吸波形およびこれから得られるRSIという指標にのみ限定されるものでない。
例えば、先に説明したように、脳波SWA波形の推移から睡眠の深さ、すなわち徐波睡眠の存在を医療者は診断することが出来るので、睡眠中を含む期間について、脳波波形と、血圧値とを並行して継続的に計測し、医療者が脳波波形の特に脳波SWA波形の推移から、被験者が徐波睡眠の状態にある時間領域を特定し、その領域における血圧測定値を基底血圧値として採用してもよい。
あるいは、睡眠中を含む所定期間に亘り被験者の脳波波形を継続的に測定し、例えばその低周波領域を抽出した成分である脳波SWA波形のパワーを継続的にモニターし、もしも脳波SWA波形のパワーが予め定めた閾値を越えた際に、この被験者が現在徐波睡眠の状態にあると判断して、計測装置が自動的に血圧値の測定実行を指令し、徐波睡眠領域における血圧値すなわち基底血圧値が自動的に計測されるよう、血圧測定システムを構成してもよい。
更に、被験者の徐波睡眠状態を検出するための生理データとして脳波波形以外の単数または複数の生理データを採用しても良いし、あるいはこれら複数の生理データをそれぞれ継続的に計測して表示を行ったり、これら複数の生理データを組み合わせた所定条件によって徐波睡眠の存在を装置が自動的に判断するよう構成してもよい。
睡眠は脳の生理的、機能的な状態であるともみなすことが出来るので、例えば脳波波形を計測に用いた構成とすれば、脳そのものの状態を観察して確定診断として基底血圧値を計測、決定することが可能となる。
このような本発明の実施形態の前提となりうる構成として、被験者の徐波睡眠状態を検出するために従来から用いられている、ポリソムノグラフィー検査装置(PSG検査装置)を以下に説明する。
PSG検査装置は、呼吸気流、いびき音、動脈血酸素飽和度(SpO2)といった基礎的な項目に加え、脳波や筋電図、眼球の動きなどより詳細な生体情報を測定することで、睡眠の深さ(睡眠段階)、睡眠の分断化や覚醒反応の有無、睡眠構築、睡眠効率などを呼吸状態の詳細とあわせて定量的に算出するための検査装置である。
PSG検査を行うためには、患者は医療機関や、スリープラボと呼ばれる専用の検査施設に入院を行い、睡眠ポリグラフィー測定記録装置(以下、PSG検査装置という)と呼ばれる検査器具に付属する各種センサを患者の各体位部に装着し就寝する。そして睡眠中は上記の各センサからの出力信号が所定の記録媒体(パーソナルコンピュータのハードディスクや、メモリーカード等)に連続的に記録される。
記録後のデータは、医療従事者が直接検査データを解析するマニュアル解析、もしくは睡眠ポリグラフィー自動解析装置と呼ばれる専用の装置を用いて解析が行われる。上記の自動解析の場合、複数の項目についての評価をまとめたレポートが自動的に作成される。上記複数の評価項目とは、例えば下記の各項目である。
【表2】
PSG検査装置の製品例としては、「スリープウォッチャーEシリーズ」(製造販売 帝人ファーマ、医療機器承認番号21400BZY00026000、クラス分類 管理医療機器、特定保守管理医療機器)が挙げられる。
この「スリープウォッチャーEシリーズ」は、特徴として、脳波計をベースとした設計で、最大55チャネルまで測定可能であり、高サンプリングレート(最大512Hz)、A/D分解能14bitで繊細な波形表示が可能、パルスオキシメータ、圧力センサを本体に内蔵、シンプルな設計により簡単に操作が行え、LAN対応で様々な検査環境にも対応可能、システムの拡張性を備えており、2ベッドシステムへHUB経由で簡単拡張、デジタルビデオ画像入力(オプション)にも対応、日本語表示で分かりやすい操作が行え、検査・診断の作業効率が向上し、レポートレイアウトをはじめ、様々な解析結果をリッチテキスト形式で自由自在にレイアウトできる、という点を有している。
また、「スリープウォッチャーEシリーズ」は、入力検査チャネル、すなわち計測の対象となる生理データとして次のデータを取り扱うことが可能である。
AC電極(脳波睡眠診断チャネル):32ch
AC入力(呼吸、四肢運動チャネル):8ch
DC入力(体位、その他チャネル):4ch
オキシメータ:1ch
圧力センサ:2ch
外部DC入力(オプション):8ch
なお、これら従来のPSG検査装置では、血圧値は計測対象の生理データに含まれていない。
睡眠脳波の段階判定は、脳波(EEG)、眼球運動(EOG)、頤筋電図(EMG)、などをあわせた、ポリグラフ所見に基づいて判定される。睡眠段階の判定基準として、国際基準(Rechtschaffen & Kales、1968)が定められている。
従ってこのような従来からあるPSG検査装置の計測対象生理データに加えて新たに血圧値を睡眠中の被験者の計測対象生理データとし、医療者がこれら複数の生理データを総合的に解析して、徐波睡眠中の血圧値を特定して、基底血圧値を決定するように構成することが出来る。
あるいはまた、これら生理データの内の一つあるいは複数の組み合わせによって所定の条件の下で徐波睡眠の存在を装置が自動判定し、その徐波睡眠の存在の有無と、計測された血圧値とを相互に対照できるように表示、印刷、外部へ送出など出力を行うように構成してもよい。
あるいはまた、徐波睡眠の存在を装置が自動判定した際に、被験者の血圧値計測を実行するよう構成してもよい。
これらの本発明実施形態の具体的な構成は、先に説明を行った本発明の他の実施形態の構成、および上記PSG検査装置の構成から明らかあるので、煩雑さを避けるためにここでは説明を繰り返さない。
〔酸素濃縮器への本発明の適用〕
次に、本発明の他の側面として、人体の生理状態、特に快適度の評価を呼吸周期の安定性等を用いて行う本発明の酸素供給装置の実施態様例を、図面を用いて説明する。
図39は、本発明の一実施形態である圧力変動吸着型酸素濃縮装置を例示した概略装置構成図である。
本実施例の酸素濃縮装置1は、その特徴的な構成として、患者の呼気、吸気の少なくともいずれかを検出する呼吸同調部201と、制御部401とを備えている。呼吸同調部201は、患者の吸気期間中にのみ酸素濃縮ガスを供給することにより、酸素濃縮装置の運転に要する電力量の削減、酸素濃縮装置の構成小型化などを実現するという、従来技術で用いられている機能をそのまま発揮するとともに、その呼気や吸気の検出機能を利用して、患者の呼吸波形情報を生成する機能を奏する。制御部401は、得られた呼吸波形情報から、先に説明したRSIという呼吸周期安定度の指数を算出し、このRSIの推移を継続的に監視して、RSIが高い値となる状態すなわち患者の快適度が向上する方向へ、吸入用酸素濃縮ガスの流量を制御する制御弁110の開度を変更して、酸素濃縮ガスの供給流量を変更制御する。この結果、本実施例によれば、よりきめ細かに、実際の患者の生理状態に即して最適な酸素ガス量が供給されるとともに、その機能を酸素濃縮器に付加するためには酸素濃縮器の運転制御プログラムの変更が主体となるため、機構的、あるいは電子制御的構成部品の大きな追加を必要とせず、装置を簡潔、低コストのままに上記の新しい高機能を付加する事ができる。
以下、従来技術に係る呼吸同調機能付酸素濃縮器と重複する部分を含めて、本実施例の酸素濃縮器1を説明する。
本実施例の概略構成図である
図39において、1は酸素濃縮装置、3は加湿された酸素富化空気(「酸素濃縮ガス」ともいう)を吸入する使用者(患者)を示す。圧力変動吸着型酸素濃縮装置1は、原料空気取り込み口に備えられたエアーフィルタを通り、細かな塵埃を取り除くHEPAフィルタ101、吸気消音器102、コンプレッサ103、流路切換弁104、吸着筒105、逆止弁107、製品タンク108、調圧弁109、流量設定手段110、パーティクルフィルタ111を備える。これにより外部から取り込んだ原料空気から酸素ガスを濃縮した酸素濃縮ガスを製造することができる。
また、酸素濃縮装置の筐体内には、生成された酸素濃縮ガスを加湿するための加湿器(図示しない)、前記流量設定手段110の設定値と、酸素濃度センサ301、流量センサ302の測定値を用いて、コンプレッサや流路切換弁104を制御する制御部401、コンプレッサの騒音を防音するためのコンプレッサボックス501、コンプレッサを冷却するための冷却ファン502が内蔵されている。
まず外部から取り込まれる原料空気は、塵埃などの異物を取り除くための外部空気取り込みフィルタ101、吸気消音器102を備えた空気取り込み口から取り込まれる。このとき、通常の空気中には、約21%の酸素ガス、約77%の窒素ガス、0.8%のアルゴンガス、二酸化炭素ほかのガスが1.2%含まれている。かかる装置では、呼吸用ガスとして必要な酸素ガスのみを濃縮して取り出す。
この酸素ガスの取り出しは、原料空気を酸素ガス分子よりも窒素ガス分子を選択的に吸着するゼオライトなどからなる吸着材が充填された吸着筒に対して、流路切換弁104によって対象とする吸着筒を順次切り換えながら、原料空気をコンプレッサ103により加圧して供給し、吸着筒内で原料空気中に含まれる約77%の窒素ガスを選択的に吸着除去する。
かかる吸着筒としては、前記吸着材を充填した円筒状容器で形成され、通常、1筒式、2筒式の他に3筒以上の多筒式が用いられるが、連続的かつ効率的に原料空気から酸素富化空気を製造するためには、多筒式の吸着筒を使用することが好ましい。また、前記のコンプレッサとしては、揺動型空気圧縮機が用いられるほか、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式などの回転型空気圧縮機が用いられる場合もある。また、このコンプレッサを駆動する電動機の電源は、交流であっても直流であってもよい。
前記吸着筒105で吸着されなかった酸素ガスを主成分とする酸素濃縮ガスは、吸着筒へ逆流しないように設けられた逆止弁107を介して、製品タンク108に流入する。
また、吸着筒内に充填された吸着材に吸着された窒素ガスは、新たに導入される原料空気から再度窒素ガスを吸着するために吸着材から脱着させる必要がある。このために、コンプレッサによって実現される加圧状態から、流路切換弁によって減圧状態(例えば大気圧状態又は負圧状態)に切り換え、吸着されていた窒素ガスを脱着させて吸着材を再生させる。この脱着工程において、その脱着効率を高めるため、吸着工程中の吸着筒の製品端側或いは製品タンクから酸素濃縮ガスをパージガスとして逆流させるようにしてもよい。
通常、窒素を脱着させるときには大きな気流音が発生するため、一般的には窒素排気消音器503が用いられる。
原料空気から生成された酸素濃縮ガスは、製品タンク108へ蓄えられる。この製品タンクに蓄えられた酸素濃縮ガスは、例えば95%といった高濃度の酸素ガスを含んでおり、調圧弁109や流量設定手段110などによってその供給流量と圧力とが制御されながら、加湿器(図示しない)へ供給され、加湿された酸素濃縮ガスが患者に供給される。かかる加湿器には、水分透過膜を有する水分透過膜モジュールによって、外部空気から水分を取り込んで乾燥状態の酸素濃縮ガスへ供給する無給水式加湿器や、加湿源として水を用いたバブリング式加湿器、或いは表面蒸発式加湿器を用いることが出来る。
流量設定手段110には、コントロールバルブが用いられる。酸素濃縮ガスの供給流量をマニュアルで設定する第1のモードが選択された際には、酸素濃縮装置に設けられた酸素供給流量のアップダウンボタン402により制御部401によりコントロールバルブの開度が制御され、流量が所定流量に変更される。この第1の流量設定モードの他に、本発明の特徴である第2の流量設定モードとして、患者の快適度が向上する方向へ、生体情報の一種である呼吸波形情報に含まれる呼吸周期の安定度をモニタリングして、この呼吸周期安定度から評価が行える患者の快適度が向上する方向へ、酸素濃縮ガスの供給流量を制御することが可能である。上記2つのモードはモード選択スイッチ403の選択操作により、患者あるいはその介助者が選択操作を行うことができる。
呼吸同調部201は、この第2の流量設定モードの主要な構成要素であるとともに、患者の吸気期間中にのみ酸素濃縮ガスを供給することにより、酸素濃縮装置の運転に要する電力量の削減、酸素濃縮装置の構成小型化などを実現する、呼吸同調機能を実現するための主要要素である。まず呼吸同調機能について説明する。
呼吸同調部201内に配置された高感度の圧力センサ(例えば半導体圧力センサ)は、患者がカニューラと呼ぶ導管を通して酸素濃縮ガスを吸気した時のわずかの負圧を検知し、このセンサが出力する信号に基づいて制御部401は、患者の呼吸サイクルにおける吸気の全期間あるいは一部期間にわたり酸素濃縮ガスを供給するように、制御弁110を開閉する制御を行う。尚、本実施例では制御弁110が所謂開平弁を兼ねる構成としたが、流量を決定するための制御弁と、ガスの遮断と流動を切り替える切替弁とを別体として構成してもよい。
一般的に人の呼吸サイクルでは、吸気は1/3、呼気は2/3の時間を占めるので、この吸気期間の全期間あるいはその一部期間にのみ、連続ベース流量より高流量の酸素濃縮ガスを供給することにより、患者が、実際に酸素を吸う時だけ酸素濃縮ガスが供給される。また、呼気期間は酸素濃縮ガスの供給が止められるので、患者へ供給すべき酸素濃縮ガスの量が節約(conserving)され、この結果、運転電力量が削減され、より小型の酸素濃縮器構成で同一の酸素ガス供給が行えることとなる。
以上のように呼吸同調部201は内部に圧力センサーを備えており、患者の呼気吸気タイミングを検知して、その結果呼吸波形情報を生成することが可能である。
そこで本実施例の酸素濃縮器1は、このようにして得られた呼吸波形情報から、患者の呼吸周期を調べて、その安定度を例えば先に示したRSIとして算出し、RSIの推移を継続的に記録すれば、患者の生理的安定度あるいは快適度がどのようなレベルにあるか、どのように推移しつつあるかを制御部401が検出することが出来る。
そこで上記した第2の供給流量設定モードが選択された際には、制御部401はRSIの推移を継続的に監視し、RSIが高い値となる状態すなわち患者の快適度が向上する方向へ、制御弁110の開度を変更して、酸素濃縮ガスの供給流量を変更制御する。
各患者に対しては、医師が酸素療法の酸素供給量を処方として決定しているのであるが、人体が生理的に必要とする酸素量は、人体の活動状況、その他の状況で異なるものであって、例えば労作時(活動が活発な状態)、安静時、睡眠時それぞれに異なる値で処方流量を医師が決めているが、本実施例によれば、よりきめ細かに、実際の患者の生理状態に即して最適な酸素ガス量が供給される。
また、携帯型酸素濃縮器を患者が牽引して歩行し、通院や、歩行運動(リハビリテーション)を行なう際に、特に本実施例は有益である。
勿論、このような供給量の制御は医師の指示と管理の下でなされるべきである。
また本実施例によれば、呼吸同調形の酸素濃縮器が既に有している呼吸圧センサを利用しているので、呼吸波形を測定するための更なる構成が必要なく、酸素濃縮器の構成が簡潔で低コストとなるメリットがある。
本実施例は、上記に説明を行った態様以外に様々に変形して実施が可能であり、それらもまた本発明の実施に相当する。
例えば酸素濃縮器以外でも、酸素ガスボンベや、液体酸素瓶から吸入用酸素を供給する装置への適用が可能であるし、呼吸波形以外の様々な生理データ、例えば心拍数、心電図、脳波、体温、血液中の酸素飽和度、呼吸体積量、歩行速度、血圧値など継続的に計測が可能であって、人体の生理状態や快適度を評価できるものであれば全てに適用が可能である。
また呼吸波形を得るためのセンサとして、呼吸同調機能のための圧力センサのほかに、気流センサ、温度センサ、音センサなどを用いても構わない。
〔医療機器モニタリングシステム、テレメディスンシステムへの本発明の適用〕
次に各種医療機器、特に患者宅に設置された酸素濃縮器の運転情報などを、遠隔にある監視センターへ送信する医療機器モニタリングシステム、あるいは生理データの送受信を行うテレメディスンシステムへ、本発明を適用した実施例について図面に基づいて説明を行う。
従来、患者の血圧、体温、呼吸頻度、血中酸素飽和度といった、測定された生理データ(バイタルデータ)を通信路を経由して受信端末へ送信する遠隔システム、いわゆるテレメディスンシステムが、患者の遠隔診断あるいは患者の容態観察に用いられてきた。
しかし、これら直接の生理データではなく、患者の生理的安定度あるいは快適度の指標を通信路経由で受信端末へ送信したり、あるいは通信路経由で受信した生理データに基づいて、これら患者の生理的安定度あるいは快適度の指標を生成することは従来知られておらず、提案もされていなかった。
また、本出願人である帝人ファーマ株式会社が運用する、酸素濃縮器運転モニタリングシステム(Teijin Oxygen−concentrator Monitoring System:TOMS(トムス)(登録商標))のように、自宅などで患者が使用する医療機器の運転状況を監視センターがモニタリングするシステムが提案され、実際に活用されている。このような医療機器の運転モニタリングに、患者の生理データ、例えば血中酸素飽和度の送信機能を持たせ、監視センターにて患者の容態観察を行なえる構成もまた提案がされている。しかしながら、上記と同様に直接の生理データの送受信及び利用ではなく、患者の生理的安定度あるいは快適度の指標を通信路経由で受信端末へ送信したり、あるいは通信路経由で受信した生理データに基づいて、これら患者の生理的安定度あるいは快適度の指標を生成することは知られておらず、提案もされていなかった。
本実施例は、先に説明した呼吸周期安定度の指標であるRSIで例示される、患者の生理的安定度あるいは快適度の指標、またはこの指標を生成するために用いる生理データを送信可能と構成したものである。
このような患者の生理的安定度あるいは快適度を監視センター、あるいは医療者が把握することによって、単純な生理データの計測値だけでは分からない患者の容態、容態の推移(トレンド)、在宅酸素療法のような患者宅で行なわれる治療効果の確認、容態の悪化が実際に起こる前のトレンド観察による予防保全、といった活用が可能となる。
図40は、本実施例における医療支援システムの一例を示す図である。
本実施例の実施にあたり、
図40に示すような医療機器運転情報のモニタリングシステムにRSIなどの情報を載せる構成に限ることなく、従来のテレメディスンシステムのように生理データや、その生理データから生成される種々の指標値を送ることを主としたシステムとして構成しても勿論よい。そのようなシステムでは、患者の呼吸波形情報を、気流、温度変化、胸郭や腹部の動き、睡眠時の体動や重心位置の変化といった測定方法で取得し、その呼吸波形情報を通信路経由で送るか、あるいは送信の前にRSIに変換し、通信路経由でRSIを送信するように構成されている。
医療機器運転情報のモニタリングシステムに適用した実施例である
図40において、患者宅や、老人ホームや児童福祉施設、患者が入院や通院をする医療機関などを含む患者所在地100、110には、先に説明した医療用酸素濃縮装置などの在宅療法に使用される医療機器10と、医療機器10に通信ケーブル11などを介して接続される通信端末子機12と、通信端末子機12と無線通信媒体もしくは有線通信媒体13を介して情報通信可能な通信端末親機14とが設置されている。そして、通信端末親機14は、公衆電話回線150などの公衆通信網を介して、医療機器10から離れた場所にあるデータセンタ200内のサーバ20に、情報のアップロードを行う。データセンタ内のサーバ20には、医療機器と患者の情報と、その医療機器の運転情報などを格納するデータベースDBが接続されている。このサーバ20は、例えば、患者宅から遠隔の地に設置されたり、医療機関内の医療機器から離れた場所に設置されたりする。
通信端末子機12は、医療機器10の筐体に収納されて通信接続部材を介して接続される場合もある。そして、通信端末親機14は、患者宅内に設置されている電話のモジュラージャックに電話回線ケーブル15を接続することで公衆通信網150に接続される。よって、通信端末親機14は、患者宅内の固定電話などの通信機器と公衆通信網150を共有しあっている。
通常状態では、医療機器10である酸素濃縮装置は、空気中の酸素を濃縮して例えば90%の高い酸素濃度ガスを生成し、患者は医師の処方にしたがって酸素吸入を行う。医療機器10は、この運転情報、例えば酸素供給を何時、どのくらいの期間、どのくらいの量行ったかなどの情報を作成し、通信端末子機12に出力する。そして、通信端末親機14はこの運転情報を取得し、あらかじめ設定されたアップロードタイミングでサーバ20にアップロードする。このアップロードタイミングは、例えば24時間に1回の周期で複数の医療機器それぞれに対して固有に定められたタイミングである。このように複数の医療機器に対してそれぞれのアップロードタイミングを定めることで、サーバへのアップロードが集中することを回避する。また、通信端末親機14は、患者宅内の通信機器と公衆通信網150を共有しているので、アップロードタイミングは、夜間の時間帯に設定されている。
医療機器10は、異常が発生すると緊急情報を作成する。例えば、酸素濃度または酸素流量などが異常値になった、あるいは、医療機器の各構成部品が定常状態から逸脱した状態となった場合などである。この緊急情報は、通信端末子機12を経由して通信端末親機14に供給される。そして、通信端末親機14は、その緊急情報を、アップロードタイミングを待つことなく、リアルタイムでサーバ20にアップロードする。
以上は、本医療機器モニタリングシステムにおいて医療機器の運転情報を送受信する動作の説明であった。先に説明したように、酸素濃縮器の呼吸同調部の圧力センサ、あるいはその他のセンサ手段により、患者の呼吸波形情報を得ることができる。この呼吸波形情報からは、既に説明したように呼吸周期の安定度の情報として例えばRSIを生成することが出来る。RSIなどは患者の快適度を示す指標となるので、この医療支援システムを利用することによって、遠隔にある患者宅の患者のRSIをリアルタイムモニタリングしたり、サーバ20に蓄積記録したりすれば、患者の容態観察や悪化予知、酸素療法の治療効果の確認のために非常に有効である。
そのため本実施例システムは、これらのRSI等の情報を、酸素濃縮器等の医療機器運転情報に加えて、医療機器側からサーバ側へ送信するように構成されている。この医療機器は、酸素濃縮器に限らず、RSI等の情報を利用する医療機器であればよい。
システムの構成は種々のものが考えられ、例えば呼吸波形情報をサーバへ送信し、サーバにてRSIを生成してもよいし、医療機器側でRSIを生成して送信したり、あるいはRSIが特定の閾値を経過した場合に情報を送信することも可能である。
また本実施例の説明は一態様にすぎず、通信端末親機子機がひとつの端末であっても構わないし、医療機器内部に内蔵されていても構わない。
また情報を送信する通信路が携帯電話回線であってもよいし、USBメモリなど記録媒体を介して情報がサーバへ送達されても勿論構わない。
あるいは、一週間、一日といった一定の期間に亘り、RSIがどのように推移したのか、そのときに酸素濃縮ガスの供給流量はどうであったのか、といった情報をジャーナルデータとして紙面や画面にまとめ、医療者などが閲覧できるよう報告書形式としてもよい。