(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5680143
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】車両用液圧ブレーキ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20150212BHJP
【FI】
B60T7/12 B
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-124645(P2013-124645)
(22)【出願日】2013年6月13日
(62)【分割の表示】特願2011-541330(P2011-541330)の分割
【原出願日】2009年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-173538(P2013-173538A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2013年6月13日
(31)【優先権主張番号】102008054856.1
(32)【優先日】2008年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト フォラート
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト ヴァイベルレ
(72)【発明者】
【氏名】フランク クナイプ
【審査官】
莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−511496(JP,A)
【文献】
特開2003−252189(JP,A)
【文献】
特開2006−290095(JP,A)
【文献】
特開2007−008238(JP,A)
【文献】
特開2004−196246(JP,A)
【文献】
特開平08−080822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御可能なブレーキブースター(13)を備えた車両用液圧ブレーキ装置(1)の制御方法において、
前記車両用液圧ブレーキ装置(1)は、前記車両用液圧ブレーキ装置(1)のマスターブレーキシリンダ(3)からホイールブレーキ(5)を液圧的に切り離すことができる切り離しバルブ(4)およびブレーキ増圧用バルブ(7)を備えており、
液圧ポンプ(10)の圧送側は、前記ブレーキ増圧用バルブ(7)を介して前記ホイールブレーキ(5)に接続されており、前記切り離しバルブ(4)を介して前記マスターブレーキシリンダ(3)に接続されており、
前記液圧ポンプ(10)の吸い込み側は、ブレーキ減圧用バルブ(9)に接続されており、
前記切り離しバルブ(4)および前記ブレーキ増圧用バルブ(7)は、通流されていない基本位置のときにオープンであり、
起こり得るブレーキ要求に従い前記ブレーキブースター(13)を機能させることによって、前記ホイールブレーキ(5)のクリアランスを小さくし、
前記起こり得るブレーキ要求に従いブレーキ操作なしに前記切り離しバルブ(4)およびブレーキ増圧用バルブ(7)を閉じ、その後、前記ブレーキブースター(13)をリセットする、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記切り離しバルブ(4)およびブレーキ増圧用バルブ(7)は、前記マスターブレーキシリンダ(3)の操作前に閉じられる、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記切り離しバルブ(4)およびブレーキ増圧用バルブ(7)は、
アクセルペダルを放した後所定時間が経過したとき、または、
アクセルペダルが再び操作されたとき、または、
運転者の足がブレーキペダルから離れたときに、
再び開かれる、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
ブレーキ操作の際に、前記切り離しバルブ(4)およびブレーキ増圧用バルブ(7)を開く、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
アクセルペダル又はアクセルレバーを放すことを前記起こり得るブレーキ要求とみなす、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
アクセルペダル又はアクセルレバーを迅速に放すことを前記起こり得るブレーキ要求とみなす、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
センサ(20)によって、運転者の足(21)がブレーキペダル(15)に接近していることが検出され、前記接近を前記起こり得るブレーキ要求とみなす、
請求項1記載の方法。
【請求項8】
クリアランス調整及び/又はブレーキペダルストローク調整のために用いられる、
請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記車両用液圧ブレーキ装置(1)は、電気機械式ブレーキブースター(13)を備えている、
請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載した、電気機械式ブレーキブースターを備えた車両用液圧ブレーキ装置の制御方法に関する。本発明の意味では、「制御する」とは、閉ループ制御することも含んでいる。
【背景技術】
【0002】
車両用液圧ブレーキ装置自体は公知である。車両用液圧ブレーキ装置はマスターブレーキシリンダを備えており、このマスターブレーキシリンダにはホイールブレーキの1つ又は複数のホイールブレーキシリンダが接続されている。ここでは、ホイールブレーキについてのみ手短に且つ簡単に説明する。ブレーキ操作は、足でブレーキペダルを踏むか、又は手でブレーキレバーを操作することによって行われる。通常、マスターブレーキシリンダはバキュームブレーキブースターを備えている。
【0003】
例えばアンチスキッドブレーキシステム、アクセレレーションスキッドコントロール、及び/又はビークルダイナミクスコントロールのようなホイールスリップコントロールシステムを有する車両用液圧ブレーキ装置も公知である。これらのコントロールシステムには、ABS,ASR,VDC及びESPといった略語が一般的に使用されている。閉ループ制御のために、車両用ブレーキ装置は、ブレーキ回路毎にホイールブレーキ圧力調節バルブ装置と液圧ポンプとを備えている。これらによって、ホイールブレーキ圧力をホイール毎に、簡単なシステムでは部分的、つまりアクスル単位で調整/変更可能である。ホイールスリップコントロールシステムの液圧ポンプは、しばしばリターンポンプと呼ばれる。このような車両用ブレーキ装置では、ホイールブレーキのクリアランスを小さくするために、有利にはホイールブレーキの摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクか、ブレーキドラムか、又は制動すべき別のブレーキ体に当てるために、ブレーキ操作の前に液圧ポンプによってブレーキ液をホイールブレーキに供給することが可能であり、またよく知られている。このクリアランスとは、ブレーキが作動していないときの摩擦ブレーキパッドとブレーキ体との間の隙間である。この摩擦ブレーキパッドは、力を掛けずにブレーキ体に当ててもよいし、又は、小さな張力でブレーキ体に押し付けてもよい。後続のブレーキ操作では、このクリアランスをなくす必要がないので、ブレーキ操作時の遊びは小さくなり、ブレーキ操作がより迅速に行われる。更なる利点は、より大きな操作ストロークがブレーキ操作のために使用できることである。
【0004】
クリアランスの低減は、運転者の起こり得るブレーキ要求に従い行われる。このようなブレーキ要求として、典型的には自動車のアクセルペダル又はアクセルレバーを迅速に放すことが考えられる。「迅速」とは、この場合、とりわけ通常に比べてアクセルペダル又はアクセルレバーを著しく急いで放すことを意味している。通常のアクセルペダル又はアクセルレバーを放す速さは運転者個々で異なるので、走行中に測定してもよい。アクセルペダル又はアクセルレバーを迅速に放す場合には、後続のブレーキ操作、例えばしばしば強いブレーキ操作も計算に入れる必要がある。クリアランスの低減は、アクセルペダル又はアクセルレバーを放す際にいつでも、その放す速さに関係なく行ってもよい。起こり得るブレーキ要求は、速度に依存する、先行車両との最小間隔を維持するために周知である衝突防止レーダーによって検出してもよい。車両が非常に高い速度で先行車両に接近しているか、又は車両が障害物に向かって突進している場合に、ブレーキ液を液圧ポンプで供給することによってホイールブレーキのクリアランスを低減し、ブレーキ操作時間を短縮することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の開示
本発明は制御可能なブレーキブースターによって行われる。ここで、制御可能とは、ブレーキブースターを機能させるために、筋力による操作に依存しない制御可能性を意味する。とりわけ、このブレーキブースターは電気的又は電子的に制御可能である。本発明によれば、起こり得るブレーキ要求に従いブレーキブースターが機能することによって、車両用ブレーキ装置のホイールブレーキのクリアランスが小さくなる、特に「ゼロ」まで小さくなる。また、車両用ブレーキ装置の所定のバイアスによって、すなわち小さな張力でホイールブレーキの摩擦ブレーキパッドをそのブレーキディスクか、ブレーキドラムか、又は別のブレーキ体に当てることによって楽なブレーキ操作が可能になる。本発明は、ブレーキ操作時の操作ストロークを短くする、とりわけ、車両用ブレーキ装置が応答するまでの、つまり制動されるまでの遊びが短くなる。遊びをゼロまで短くすることができる。上述したように、その上車両用ブレーキ装置をバイアスする、つまり小さな制動力を形成することができる。
【0006】
本発明の大きな利点は、ブレーキ操作に備えてホイールブレーキのクリアランスを小さくするのにリターンポンプ、つまりホイールスリップコントロールシステムの液圧ポンプを必要としない点である。ホイールスリップコントロールは日常の交通において滅多に生じないので、このホイールスリップコントロールシステムの液圧ポンプは耐用年数の観点からみて、どんなブレーキ操作にも利用できるように設計されているのではなく、ホイールスリップのためだけに設計されているのである。それ故に、このホイールスリップコントロールシステムの液圧ポンプでクリアランスを小さくするには、数倍長い耐用年数を有する液圧ポンプを車両用ブレーキ装置に装備しなければならない。それに対して、ブレーキブースターは、どんなブレーキ操作にも利用されるので、最初から相応の耐用年数ないしは操作回数となるように設計されている。
【0007】
従属請求項は、本発明の有利な実施形態及び発展形態を対象としている。
【0008】
起こり得るブレーキ要求として、上述したように、車両用ブレーキ装置を備え付けた自動車のアクセルペダル又はアクセルレバーを放すか、又は迅速に放すことが考えられる。とりわけ走行速度に依存する、先行車両又は障害物との間隔も、起こり得るブレーキ要求の別の基準である。間隔の変化、つまり先行車両又は障害物に接近する速度も、起こり得るブレーキ要求の基準とすることができる。請求項7には、ブレーキペダルへの運転者の足の接近を検出するセンサ系が記載されている。このブレーキペダルへの運転者の足の接近も、起こり得るブレーキ要求とみなされ、このブレーキ要求によって、ホイールブレーキのクリアランスを小さくするブレーキブースターがトリガされる。ここで考えられるセンサは、光学センサ、例えばライトバリア(Lichtschranke)を備えた光学センサ、超音波センサ及び容量センサであるが、ここに列挙したものに限定されず、ブレーキペダルに運転者の足が接近しているかを検出可能であるどのセンサ系も、本発明において利用される。
【0009】
請求項1には、車両用ブレーキ装置が、そのマスターブレーキシリンダから少なくとも1つのホイールブレーキを液圧的に切り離すことができるバルブを備えていることが記載されている。ホイールスリップコントロールシステムを備えた車両用ブレーキ装置は、次のようなバルブを備えている。すなわち通常は、ブレーキ回路とマスターブレーキシリンダとを接続する、ブレーキ回路毎に1つの切り離しバルブと、ホイールブレーキ毎に1つのブレーキ増圧用バルブとを備えており、簡単なホイールスリップコントロールシステムの場合には、車軸のホイールブレーキのための1つのブレーキ増圧用バルブを備えている。請求項1には、起こり得るブレーキ要求に従いバルブを閉じ、上述したブレーキブースターを機能させることによって、ホイールブレーキのクリアランスを小さくすることが記載されている。バルブがバイパスを備えている場合には、ブレーキブースターを機能させる前か、機能させているときか、又は機能させた後に、このバルブを閉じることができる。通常、切り離しバルブは、次のようなバイパス、すなわちマスターブレーキシリンダの方向からホイールブレーキの方向に通流可能なチェックバルブを備えている。バイパスを備えていない場合には、ブレーキブースターが機能しホイールブレーキのクリアランスが小さくなってはじめて、バルブを閉じることができる。続いて、ブレーキブースターが初期位置に再びリセットされる。本発明による方法の発展形態の利点は、ブレーキブースターがブレーキ操作の始動時に初期位置にあることによって、ブレーキブースターの操作ストローク全体を使用できるという点である。
【0010】
バルブがバイパスを備えている場合には、ブレーキ操作の際にバルブを開く必要はない。請求項4には、ブレーキ操作の際にバルブを開くことが記載されているが、ここではバルブは有利には、マスターブレーキシリンダにおける圧力がホイールブレーキの圧力とほぼ同じか、又はホイールブレーキの圧力より高くなってはじめて開かれるのである。
【0011】
本発明による方法は、クリアランス調整及び/又はブレーキペダルストローク調整のためにも用いることができる。これは請求項8の発明である。前者は、ホイールブレーキのクリアランスを起こり得るブレーキ要求に関係なく小さくすることを意味している。このクリアランス調整は、ホイールスリップコントロールシステムが存在する限り、ホイール個々に行うことができる。これによって、ホイールブレーキの構造上のクリアランスをホイール個々でも小さくすることができる。
【0012】
基本的に、本発明による方法は制御可能などのようなブレーキブースターによっても利用することができる。これに関して例えば、バキュームブレーキブースターは、従来のサーボバルブに加えて作動チャンバに通気するための制御可能なバルブを備えており、このようなバルブはピストンロッドのストローク及び/又はピストンロッドに作用する筋力に依存して作動チャンバに通気する。請求項9には、構造上の条件に基づき電気的ないしは電子的に制御可能な電気機械式ブレーキブースターが記載されている。このような電気機械式ブレーキブースターは周知であり、例えば公開公報DE10057557A1に示されている。
【0013】
次に、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による方法を説明するための車両用液圧ブレーキ装置の線図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示した本発明による車両用液圧ブレーキ装置1は、ホイールスリップコントロールシステム2(アンチスキッドブレーキシステムABS;アクセレレーションスキッドコントロールASR;ビークルダイナミクスコントロールVDC,ESP)を備えている。この車両用液圧ブレーキ装置1は、マスターブレーキシリンダ3に接続された2つのブレーキ回路I及びIIを備えた2系統ブレーキシステムとして形成されている。どちらのブレーキ回路I及びIIも、切り離しバルブ4を介してマスターブレーキシリンダ3に接続されている。これらの切り離しバルブ4は、通流されていない基本位置のときにオープンな2/2ウェイソレノイドバルブである。これらの切り離しバルブ4に、マスターブレーキシリンダ3からホイールブレーキ5に通流可能なそれぞれ1つのチェックバルブ6が並列に液圧接続されている。どちらのブレーキ回路I及びIIの切り離しバルブ4にもホイールブレーキ5がブレーキ増圧用バルブ7を介して接続されている。これらのブレーキ増圧用バルブ7は、通流されていない基本位置のときにオープンな2/2ウェイソレノイドバルブである。これらのブレーキ増圧用バルブ7に、ホイールブレーキ5からマスターブレーキシリンダ3の方向に通流可能なチェックバルブ8が並列接続されている。
【0016】
どのホイールブレーキ5にも、リターンポンプとも呼ばれる液圧ポンプ10の吸い込み側に共通に接続されたブレーキ減圧用バルブ9が接続されている。これらのブレーキ減圧用バルブ9は、通流されていない基本位置のときにクローズな2/2ウェイソレノイドバルブとして形成されている。液圧ポンプ10の圧送側は、ブレーキ増圧用バルブ7と切り離しバルブ4とに接続されている、すなわち、液圧ポンプ10の圧送側は、ブレーキ増圧用バルブ7を介してホイールブレーキ5に接続されており、切り離しバルブ4を介してマスターブレーキシリンダ3に接続されているのである。ブレーキ増圧用バルブ7及びブレーキ減圧用バルブ9は、制御をより改善することができるので、プロポーショニングバルブである。
【0017】
2つのブレーキ回路I及びIIのいずれも、電動機11で共通して駆動可能な液圧ポンプ10を備えている。これらの液圧ポンプ10の吸い込み側は、ブレーキ減圧用バルブ9に接続されている。これらの液圧ポンプ10の吸い込み側には、ブレーキ減圧用バルブ9を開くことによってスリップコントロールの間ホイールブレーキ5から流れ出たブレーキ液を収容及び一時蓄積するための液圧アキュムレータ12が設けられている。
【0018】
ブレーキ増圧用バルブ7及びブレーキ減圧用バルブ9は、ホイールブレーキ圧力調節バルブ装置である。これらのホイールブレーキ圧力調節バルブ装置によって、液圧ポンプ10の駆動時に、スリップコントロールを行うためのホイール毎のブレーキ圧力の調整が可能であり、その方法自体公知であるので、ここでは説明しない。切り離しバルブ4はスリップコントロールの際に閉じられる、すなわち、車両用ブレーキ装置1はマスターブレーキシリンダ3から液圧的に切り離される。
【0019】
マスターブレーキシリンダ3は、ブレーキブースター13、この実施例では電気機械式ブレーキブースター13を備えている。このブレーキブースター13は、ブレーキペダル15を介して加わる筋力と共にマスターブレーキシリンダ3を操作する補助動力を電動機14によって形成する。記号で表された電動機14は、ブレーキブースター13に組み込まれている。この電動機14は回転モーターとしてもよく、その回転運動は、ギアを介して減少され、マスターブレーキシリンダ3を操作するための直進運動に変換される。電動リニアモーター又は電磁石を備えたブレーキブースター13の実施形態も可能である。ブレーキブースター13は、ここに列挙したものに限定されない。また、本発明では、電気機械式ブレーキブースター13が必須なのではなく、電子制御装置16で制御可能な別のブレーキブースターでもよい。
【0020】
ブレーキブースター13を含めた車両用ブレーキ装置1を制御するために、上述の電子制御装置16が設けられている。力覚センサ17によって、ブレーキペダル15を制御する筋力ないしはペダル力が測定可能であり、ストロークセンサ18によって、ブレーキペダル15の位置と、更には速度又は加速度も測定可能である。アクセルペダルセンサ19によって、アクセルペダルの位置ないしはその操作速度、例えば放す速さが測定可能である。さらにフットセンサ20が設けられており、このフットセンサによって、運転者の足21、ないしはブレーキペダル15の方向における運転者の足21の運動が測定可能である。足21は靴のマークで表した。フットセンサ20は、例えば光学センサ若しくはライトバリアか、超音波センサか、又は容量センサである。ここに列挙したものには限定されず、対象物この場合には運転者の足21がブレーキペダル15に接近していることを検出することができるセンサないしはセンサ系のどれでもよい。さらに距離センサ22が設けられており、この距離センサ22によって、車両用ブレーキ装置1を装備している車両と先行車両若しくは障害物との間隔が測定可能である。このような距離センサ22は速度に依存する間隔を調整するために使用される。フットセンサ20及び距離センサ22は、本発明による方法の特定の実施形態ないしは発展形態のために設けられている。
【0021】
本発明による方法では、車両用ブレーキ装置1が(まだ)操作されていない場合に、ブレーキブースター13が運転者の起こり得るブレーキ要求に従い駆動制御される。すなわち、ブレーキブースター13は、ブレーキ操なしに、これから起こるブレーキ操作の予期されるときに機能し、マスターブレーキシリンダ3を操作するのである。このマスターブレーキシリンダ3は、ホイールブレーキ5のクリアランスを小さくする、有利にはこのクリアランスをなくすように、すなわち、ホイールブレーキ5の摩擦ブレーキパッドがブレーキディスクか、ブレーキドラムか、又はホイールブレーキ5の別のブレーキ体に当たるように操作される。摩擦ブレーキパッドは、ほとんど力を掛けずに又は小さな張力によってブレーキ体に押し付けられる。ここで、小さな張力は楽なブレーキ操作を意味している。例えばアクセルペダルがアイドル位置に復帰することが、起こり得るブレーキ要求とみなされる。この復帰はアクセルペダルセンサ19によって測定される。この起こり得るブレーキ要求の基準は、アクセルペダルの復帰する速さ、特にアクセルペダルがかなりの速さで復帰することとしてもよい。同様に、フットセンサ20によって検出可能な、ブレーキペダル15への運転者の足21の接近も、又は、距離センサ22によって測定される、先行車両若しくは障害物への車両の接近も起こり得るブレーキ要求とみなしてもよい。起こり得るブレーキ要求とみなせる状況は、ここに列挙したものに限定されない。起こり得るブレーキ要求に従い既にホイールブレーキ5のクリアランスを小さくしておく、又は、有利にはなくしておくことによって、後続の実際のブレーキ操作が迅速に行われる。なぜならば、ホイールブレーキ5のクリアランスがなくなるまでのブレーキペダル15の遊びが必ずしもあるわけではないためである。
【0022】
本発明による方法の変更形態によれば、起こり得るブレーキ要求に従いブレーキブースター13が機能するだけでなく、切り離しバルブ4若しくはブレーキ増圧用バルブ7が閉じられる。切り離しバルブ4と、この切り離しバルブ4に並列接続されたチェックバルブ6とは、ホイールブレーキ5の方向に通流可能なバイパスを備えているので、この切り離しバルブ4はブレーキブースター13が機能する前か、機能した時か又は後に閉じることができる。ブレーキ増圧用バルブ7は、このブレーキ増圧用バルブ7に並列接続されたチェックバルブ8がホイールブレーキ5の方向には通流可能ではないので、ブレーキブースター13が機能した後にはじめて、つまりホイールブレーキ5のクリアランスを小さくした後、又はなくした後に、閉じられる。切り離しバルブ4又はブレーキ増圧用バルブ7を閉じることによって、起こり得るブレーキ要求に従いブレーキブースター13が機能したことによりマスターブレーキシリンダ3からホイールブレーキ5に圧送されたブレーキ液は、ホイールブレーキ5ないしは車両用ブレーキ装置1に閉じ込められる。このブレーキブースター13は、初期位置に再びリセットされる。ホイールブレーキ5又は車両用ブレーキ装置1に閉じ込められたブレーキ液によって、ホイールブレーキ5のクリアランスは小さいままか、又はなくしたままとなる。起こり得るブレーキ要求に従いブレーキブースター13が機能した後に、実際にブレーキペダル15を操作してブレーキが行われると、切り離しバルブ4又はブレーキ増圧用バルブ7は再び開かれる。これらの切り離しバルブ4若しくはブレーキ増圧用バルブ7は、ブレーキペダル15を操作すると同時に開いてもよいし、又は、マスターブレーキシリンダ3における圧力が車両用ブレーキ装置1若しくはホイールブレーキ5における圧力に近づいてはじめて開いてもよい。また、起こり得るブレーキ要求がもはや存在しないとき、すなわち、例えば、アクセルペダルを放した後所定の時間が経過するか、アクセルペダルが再び操作されるか、又は運転者の足21がブレーキペダル15から離れたときにも、切り離しバルブ4又はブレーキ増圧用バルブ7が開かれる。
【0023】
本発明による方法は、起こり得るブレーキ要求とは無関係に、クリアランス調整又はブレーキペダルストローク調整のために用いてもよい。これによって、例えば構造上生じてしまうホイールブレーキ5のクリアランスはブレーキブースター13を機能させることにより小さくすることができる。この目的のために、例えば、車両用ブレーキ装置1において、ブレーキ操作の際にブレーキペダル15の初期位置から液圧の測定可能な圧力が上昇するまでのブレーキペダル15の運動を、ストロークセンサ18によって測定してもよい。この圧力上昇は、ホイールブレーキ5の摩擦ブレーキパッドがそのブレーキ体に当たっていることを示している。ブレーキブースター13が機能すること、すなわち初期位置から変わることによって、ブレーキストロークを短く、ひいてはホイールブレーキ5のクリアランスを小さくすることができる。有利には、車両停止状態において、ホイールブレーキ5の摩擦ブレーキパッドがそのブレーキ体に当たるまでの遊びをホイール個々に測定してもよい。この場合も、ホイール個々のクリアランス調整は、ブレーキブースター13が機能することによって、1つを除いた全てのブレーキ増圧用バルブ7が閉じられ、この残り1つの開かれたままのブレーキ増圧用バルブ7も同様にクリアランス調整後に閉じられることによって、ホイール個々に行うことができる。この方法は、ホイールブレーキ5毎に続けて行うことができる。
【0024】
この出願の親出願(特願2011−541330)の出願当初請求項は以下のとおりである。
【0025】
(1)ブレーキブースター(3)を備えた車両用液圧ブレーキ装置(1)の制御方法において、
前記ブレーキブースター(3)は制御可能であり、起こり得るブレーキ要求に従い前記ブレーキブースター(3)を機能させることによって、ホイールブレーキ(5)のクリアランスを少なくとも小さくする、
ことを特徴とする制御方法。
【0026】
(2)アクセルペダル又はアクセルレバーを放す、及び/又は迅速に放すことを前記起こり得るブレーキ要求とみなす、上記(1)記載の方法。
【0027】
(3)センサ(20)によって、運転者の足(21)がブレーキペダル(15)に接近していることが検出され、前記接近を前記起こり得るブレーキ要求とみなす、上記(1)記載の方法。
【0028】
(4)前記車両用ブレーキ装置(1)は、該車両用ブレーキ装置(1)のマスターブレーキシリンダ(3)からホイールブレーキ(5)を液圧的に切り離すことができるバルブ(4;7)を備えており、
前記起こり得るブレーキ要求に従い前記バルブ(4;7)を閉じ、前記ブレーキブースター(3)を機能させることによって、前記ホイールブレーキ(5)のクリアランスを少なくとも小さくし、
前記ホイールブレーキ(5)のクリアランスを少なくとも小さくした後で、前記ブレーキブースター(3)をリセットする、上記(1)記載の方法。
【0029】
(5)ブレーキ操作の際に、前記バルブ(4;7)を開く、上記(4)記載の方法。
【0030】
(6)クリアランス調整及び/又はブレーキペダルストローク調整のために用いられる、上記(1)記載の方法。
【0031】
(7)前記車両用ブレーキ装置(1)は、電気機械式ブレーキブースター(13)を備えている、上記(1)記載の方法。