(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5680644
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月4日
(54)【発明の名称】セラミックス材料、半導体製造装置用部材、スパッタリングターゲット部材及びセラミックス材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/04 20060101AFI20150212BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20150212BHJP
C04B 35/58 20060101ALI20150212BHJP
【FI】
C04B35/04 Z
C23C14/34 A
C04B35/58 301
【請求項の数】21
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-524038(P2012-524038)
(86)(22)【出願日】2011年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2011073330
(87)【国際公開番号】WO2012056876
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2013年8月14日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/069491
(32)【優先日】2011年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-238999(P2010-238999)
(32)【優先日】2010年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-135313(P2011-135313)
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】神藤 明日美
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】磯田 佳範
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−044345(JP,A)
【文献】
特開2007−084367(JP,A)
【文献】
特開昭62−028917(JP,A)
【文献】
特開2007−300079(JP,A)
【文献】
J. Weiss,The Systme Al-Mg-O-N,Journal of the American Ceramic Society,1982年 5月,Volume 65, Issue 5,pages c68?c69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/04,35/58
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、アルミニウム、酸素及び窒素を主成分とするセラミックス材料であって、
酸化マグネシウムに窒化アルミニウムが固溶したMgO−AlN固溶体の結晶相を主相とする、
セラミックス材料。
【請求項2】
前記MgO−AlN固溶体は、CuKα線を用いたときの(200)面及び(220)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=42.9〜44.8°,62.3〜65.2°に現れる、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項3】
前記MgO−AlN固溶体は、CuKα線を用いたときの(111)面、(200)面及び(220)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=36.9〜39°,42.9〜44.8°,62.3〜65.2°に現れる、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項4】
前記MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=42.92°以上,62.33°以上に現れる、請求項2又は3に記載のセラミックス材料。
【請求項5】
前記MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=42.95°以上,62.35°以上に現れる、請求項2〜4のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項6】
前記MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=43.04°以上,62.50°以上に現れる、請求項2〜5のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項7】
前記MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=43.17°以上,62.72°以上に現れる、請求項2〜6のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項8】
前記MgO−AlN固溶体の(200)面のXRDピークの積分幅が0.50°以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項9】
前記MgO−AlN固溶体の(200)面のXRDピークの積分幅が0.35°以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項10】
AlN結晶相を含まない、請求項1〜9のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項11】
CuKα線を用いたときのXRDピークが少なくとも2θ=47〜49°に現れるマグネシウム−アルミニウム酸窒化物相を副相として含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項12】
前記マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク強度をA、前記MgO−AlN固溶体の(220)面の2θ=62.3〜65.2°のXRDピーク強度をBとしたとき、A/Bが0.03以上である、請求項11に記載のセラミックス材料。
【請求項13】
前記A/Bが0.14以下である、請求項12に記載のセラミックス材料。
【請求項14】
前記マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク面積をa、前記MgO−AlN固溶体の(220)面の2θ=62.3〜65.2°のXRDピーク面積をb、スピネル(MgAl2O4)の(400)面の2θ=45.0°のXRDピーク面積をc、窒化アルミニウム(AlN)の(002)面の2θ=36.0°のXRDピーク面積をdとしたとき、(a+c+d)/(a+b+c+d)値が0.1以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項15】
混合粉末組成は、酸化マグネシウムが49質量%以上99質量%以下、窒化アルミニウムが0.5質量%以上25質量%以下、酸化アルミニウムが0.5質量%以上30質量%以下である、請求項1〜14のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項16】
混合粉末組成は、酸化マグネシウムが50質量%以上75質量%以下、窒化アルミニウムが5質量%以上20質量%以下、酸化アルミニウムが15質量%以上30質量%以下である、請求項1〜15のいずれか1項に記載のセラミックス材料。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のセラミックス材料からなる、半導体製造装置用部材。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のセラミックス材料からなる、スパッタリングターゲット部材。
【請求項19】
磁気トンネル接合素子のトンネル障壁の作製に使用される、請求項18に記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項20】
ハードディスクの磁気ヘッド及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリのうち少なくとも1つの前記磁気トンネル接合素子の作製に使用される、請求項19に記載のスパッタリングターゲット部材。
【請求項21】
酸化マグネシウムと酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの混合粉末を不活性雰囲気下でホットプレス焼成し、請求項1〜16のいずれか1項に記載のセラミックス材料を製造する、セラミックス材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス材料、半導体製造装置用部材、スパッタリングターゲット部材及びセラミックス材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるドライプロセスやプラズマコーティングなどに用いられる半導体製造装置には、エッチング用やクリーニング用として、反応性の高いF、Cl等のハロゲン系プラズマが使用される。このため、そのような半導体製造装置に組み付けられる部材には、高い耐食性が要求され、一般的にはアルマイト処理を施したアルミニウムやハステロイ等の高耐食金属やセラミックス部材が使用される。特にSiウェハーを支持固定する静電チャック材や、ヒーター材には高耐食と低発塵性が必要なため、窒化アルミ、アルミナ、サファイア等の高耐食セラミックス部材が用いられている。これらの材料では長期間の使用によって徐々に腐食が進行して発塵原因となるため、更なる高耐食材料が求められている。マグネシウムの化合物である酸化マグネシウムやスピネルは、アルミナ等に比べて、ハロゲン系プラズマに対して高い耐食性を有することが知られ、特に酸化マグネシウムの含有量が多いほど耐食性が高いことが示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、酸化マグネシウムは、耐火物のほか、各種添加剤や電子部品用途、蛍光体原料、各種ターゲット材原料、超伝導薄膜下地用の原料、磁気トンネル接合素子(MTJ素子)のトンネル障壁、カラープラズマディスプレイ(PDP)用の保護膜や、さらにはPDP用結晶酸化マグネシウム層の原料としても利用され、きわめて広範囲な用途を持つ材料として注目されている。なかでもスパッタリングターゲット材としては、トンネル磁気抵抗効果を利用したMTJ素子のトンネル障壁の作製やPDPの電極と誘電体の保護膜などに使用される。このトンネル磁気抵抗効果は、厚さ数nmの非常に薄い絶縁体を2つの磁性層で挟んだMTJ素子において、2つの磁性層の磁化の相対的な向きが平行な時と反平行な時に起こる抵抗変化現象のことであり、この磁化状態による電気抵抗変化を利用してハードディスクの磁気ヘッドなどに応用されている。また、酸化マグネシウムの関連として、後述する特許文献2,3がある。
【0004】
【特許文献1】特許第3559426号公報
【特許文献2】特開2009−292688号公報
【特許文献3】特開2006−80116号公報
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、酸化マグネシウムは大気中で水分や二酸化炭素と反応し水酸化物や炭酸塩を生成するため、酸化マグネシウム表面が徐々に変質されていく(耐湿性の問題)。このため、半導体製造装置用部材へ適用した場合、水酸化物や炭酸塩の分解によるガス生成や、それに伴う酸化マグネシウムの粒子化や発塵によって半導体デバイスを汚染する懸念があり、適用が進んでいない。耐湿性を改善するために、NiOやZnO等を固溶させる方法があるが(特許文献2)、これらの金属成分は半導体デバイスの特性に影響を与える汚染物質となるため、添加剤として好ましくない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、耐食性は酸化マグネシウムと比べて同等であり、耐湿性、耐水性は酸化マグネシウムよりも優れているセラミックス材料を提供することを主目的とする。
【0007】
また、近年、上述したMTJ素子を利用して磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(以下、MRAM)が検討されている(例えば特許文献3)。MRAMは、例えば、MTJ素子を多数配置し、それぞれの磁化配列を情報担体としており、不揮発、高速、高書き換え耐性等の特徴をもつため、従来の半導体メモリ(DRAM)を凌駕するメモリとして開発が進められている。これまで、記憶容量が数〜数十メガビット(Mbit)のメモリが試作されたが、例えばDRAMを置き換えるためにはギガビット(Gbit)級の更なる大容量化が必要である。
【0008】
これまでMTJ素子のトンネル障壁の材料としては、単結晶、または高純度の酸化マグネシウムを用いるのが一般的であり、酸化マグネシウムのスパッタリングターゲット材を用いてトンネル障壁を成膜するのが一般的であった。しかし、更なる大容量化には、MTJ素子の電気抵抗が低く、大きな出力信号を得るための高い磁気抵抗比が望まれている。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、酸化マグネシウムより低い電気抵抗を有するスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。このターゲットを用いて磁気トンネル接合素子を作製することにより、電気抵抗の低下が期待できる。
【0010】
本発明者らは、酸化マグネシウムとアルミナと窒化アルミニウムとの混合粉末を成形後ホットプレス焼成することにより得られるセラミックス材料の耐食性を鋭意検討したところ、酸化マグネシウムにアルミニウム、窒素成分が固溶したMgO−AlN固溶体の結晶相を主相とするセラミックス材料が耐食性のみならず耐湿性、耐水性にも優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のセラミックス材料は、マグネシウム、アルミニウム、酸素及び窒素を主成分とするセラミックス材料であって、酸化マグネシウムにアルミニウム、窒素成分が固溶したMgO−AlN固溶体の結晶相を主相とするものである。本発明においては、酸化マグネシウムの結晶格子の中にアルミニウム、窒素成分が固溶したものをMgO−AlN固溶体と称する。
【0012】
また、本発明の半導体製造装置用部材は、こうしたセラミックス材料からなるものである。
【0013】
また、本発明のスパッタリングターゲット部材は、こうしたセラミックス材料からなるものである。
【0014】
本発明のセラミックス材料の製造方法は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの混合粉末を不活性雰囲気下でホットプレス焼成し、こうしたセラミックス材料を製造するものである。
【0015】
本発明のセラミックス材料は、耐食性は酸化マグネシウムと比べて同等であり、耐湿性、耐水性は酸化マグネシウムよりも優れている。このため、このセラミックス材料からなる半導体製造装置用部材は、半導体製造プロセスにおいて使用される反応性の高いF、Cl等のハロゲン系プラズマに長期間耐えることができ、この部材からの発塵量を低減することができる。その上、耐湿性、耐水性が高いため、通常の酸化マグネシウムよりも変質し難く、湿式の加工にも強い特徴がある。
【0016】
また、本発明のセラミックス材料は、酸化マグネシウムの結晶構造を維持し、酸化マグネシウムより低い電気抵抗を有する。これは、酸化マグネシウム結晶にアルミニウムや窒素が固溶することにより、酸化マグネシウム中のキャリアが増加したためと思われる。このため、このセラミックス材料からなるスパッタリングターゲット部材は、例えば、磁気トンネル接合素子のトンネル障壁の作製に使用された場合、トンネル障壁層にマグネシウム、アルミニウム、酸素および窒素が含まれ、酸化マグネシウムより低い電気抵抗を有する磁気トンネル接合素子を得ることが予測される。また、このようなアルミニウム、窒素の固溶によって、酸化マグネシウムのバンドギャップ内に不純物準位が生成し、これによってトンネル障壁高さが低くなる等の効果が期待される。また、高い磁気抵抗比を有する磁気トンネル接合素子を得られる可能性がある。このほか、アルミニウム、窒素の固溶により、酸化マグネシウムの格子定数が変化することから、固溶量に伴い格子定数を調整でき、それによって被成膜材との格子の整合性を調整できる。
【0017】
また、前述したように、通常の酸化マグネシウムより耐湿性が高いため変質し難く、大気中での移動や取扱い時において、その表面に水酸化物や炭酸塩を生成し難いことから、MTJ素子作製のためのスパッタリング時などに水酸化物や炭酸塩の分解による余剰ガス成分の混入を少なくすることが可能である。また、膜が形成される被成膜材への影響も小さくすることができる。以上のことから、より性能の高い磁気トンネル接合素子を得られることが予測される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】実験例1のXRD解析チャートのMgO−AlN固溶体ピーク拡大図である。
【
図3】実験例1、5のEPMA元素マッピング像である。
【
図4】実験例2、5のバルク材耐湿性、耐水性試験の微構造写真である。
【
図5】実験例8、9のバルク材耐湿性、耐水性試験の微構造写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のセラミックス材料は、マグネシウム、アルミニウム、酸素及び窒素を主成分とするセラミックス材料であって、酸化マグネシウムに窒化アルミニウム成分が固溶したMgO−AlN固溶体の結晶相を主相とするものである。このMgO−AlN固溶体は、耐食性が酸化マグネシウムと同等であり、耐湿性や耐水性は酸化マグネシウムよりも優れていると考えられる。このため、このMgO−AlN固溶体の結晶相を主相とするセラミックス材料も、耐食性、耐湿性、耐水性が高くなったと考えられる。なお、本発明のセラミックス材料は、酸化マグネシウムに窒化アルミニウム、酸化アルミニウムを加えることにより、アルミニウム、窒素成分の固溶量を著しく増加することができる。このため、このMgO−AlN固溶体には、窒素の固溶量に対してアルミニウムが多く含まれているものとしてもよい。
【0020】
このMgO−AlN固溶体は、CuKα線を用いたときの(111)面、(200)面及び(220)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=36.9〜39°,42.9〜44.8°,62.3〜65.2°に現れるものであることが好ましい。あるいは、MgO−AlN固溶体は、CuKα線を用いたときの(200)面及び(220)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=42.9〜44.8°,62.3〜65.2°に現れるものとしてもよく、更に、(111)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=36.9〜39°に現れるものとしてもよい。(111)面のピークが他の結晶相のピークとの判別を行いにくい場合があることから、(200)面及び(220)面のXRDピークのみ上記範囲に現れるものとしてもよい。同様に、(200)面または(220)面のピークも他の結晶相のピークとの判別を行いにくい場合がある。アルミニウム、窒素成分の固溶量が多いほど、耐湿、耐水性が向上する。固溶量の増加に伴って、酸化マグネシウムのXRDピークは高角側にシフトする。したがって、MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=42.92°以上,62.33°以上に現れるものが、耐湿性をより高めることができ、より好ましい。また、MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=42.95°以上,62.35°以上に現れるものが、耐湿性及び耐水性をより高めることができ、より好ましい。また、MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=43.04°以上,62.50°以上であると、耐湿性、耐水性をより高めることができ、好ましい。また、MgO−AlN固溶体の(200)面、(220)面のXRDピークがそれぞれ2θ=43.17°以上,62.72°以上であると、耐湿性はもとより、耐水性をより高めることができ、より好ましい。また、MgO−AlN固溶体の積分幅が小さいほど耐水性が向上することを見出した。すなわち、MgO−AlN固溶体の(200)面のXRDピークの積分幅は、0.50°以下であることが耐水性を向上する上で好ましく、0.35°以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明のセラミックス材料は、副相としてAlN結晶相を含むと耐食性が低下する傾向があるため、AlN結晶相は少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。
【0022】
本発明のセラミックス材料は、CuKα線を用いたときのXRDピークが少なくとも2θ=47〜49°に現れるマグネシウム−アルミニウム酸窒化物相を副相として含んでいてもよい。このマグネシウム−アルミニウム酸窒化物も耐食性が高いため、副相として含まれていても問題ない。このマグネシウム−アルミニウム酸窒化物相は、含有量が多いほど機械特性を向上することができ、中でも強度、破壊靱性の向上に有効に作用する。但し、本発明のMgO−AlN固溶体と比較すると耐食性が低いため、耐食性の点から含有量には限度がある。マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク強度をA、MgO−AlN固溶体の(220)面の2θ=62.3〜65.2°のXRDピーク強度をBとしたとき、A/Bが0.03以上であることが好ましい。こうすれば、機械特性をより高めることができる。このA/Bは、耐食性の観点からは、A/B=0.14以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のセラミックス材料は、混合粉末中のマグネシウム/アルミニウムのモル比が0.5以上であることが好ましい。
【0024】
本発明のセラミックス材料において、開気孔率は5%以下であることが好ましい。ここでは、開気孔率は、純水を媒体としたアルキメデス法により測定した値とする。開気孔率が5%を超えると、強度が低下するおそれや材料自身が脱粒によって発塵し易くなるおそれがあり、更に材料加工時等で気孔内に発塵成分がたまり易くなるため好ましくない。また、開気孔率は、できるだけゼロに近いほど好ましい。このため、特に下限値は存在しない。
【0025】
また、本発明のセラミックス材料は、異相が少ないものとしてもよい。MgO−AlN固溶体を主相とするセラミックス材料の場合、マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク面積をa、2θ=62.3〜65.2°のMgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピーク面積をb、2θ=45.0°近傍のスピネル(MgAl
2O
4)の(400)面のXRDピーク面積をc、2θ=36.0°近傍の窒化アルミニウム(AlN)の(002)面のXRDピーク面積をdとしたときに、(a+c+d)/(a+b+c+d)値が0.1以下であることが好ましい。(a+c+d)/(a+b+c+d)値が小さいほど、セラミックス材料にしめるMgO−AlN固溶体の割合が大きく、異相となる可能性があるマグネシウム−アルミニウム酸窒化物相、スピネル(MgAl
2O
4)、および窒化アルミニウム(AlN)などの合計量が少ないことを示す。この、異相が少ないセラミックス材料、例えば(a+c+d)/(a+b+c+d)値が0.1以下であるセラミックス材料は、スパッタリングターゲット部材に利用することが好ましい。スパッタリングターゲット部材に異相を含む場合、主相と異相のスパッタリングレートが異なる可能性があるが、異相が少ない場合には、成膜される膜の均質性の低下をより抑制することができ、スパッタリングターゲット部材からの発塵の発生などをより抑制することができる。このほか、アルミニウム、窒素の固溶により、酸化マグネシウムの格子定数が変化することから、固溶量に伴い格子定数を調整でき、それによって被成膜材との格子の整合性を調整できる。
【0026】
本発明のセラミックス材料は、半導体製造装置用部材に利用することができる。半導体製造装置用部材としては、例えば、半導体製造装置に用いられる静電チャックやサセプター、ヒーター、プレート、内壁材、監視窓、マイクロ波導入窓、マイクロ波結合用アンテナなどが挙げられる。これらは、ハロゲン元素を含む腐食性ガスのプラズマに対する優れた耐腐食性が必要とされるため、本発明のセラミックス材料を用いるのが好適といえる。
【0027】
また、本発明のセラミックス材料は、スパッタリングターゲット部材に利用することができる。即ち、本発明のスパッタリングターゲット材は、マグネシウム、アルミニウム、酸素及び窒素を主成分とするセラミックス材料であって、酸化マグネシウムに窒化アルミニウム成分が固溶したMgO−AlN固溶体の結晶相を主相とする、セラミックス材料からなるものとしてもよい。本発明のセラミックス材料は、酸化マグネシウムの結晶構造を維持し、より低い電気抵抗を有するため、スパッタリングターゲット部材に用いることが好ましい。スパッタリングターゲット部材としては、例えば、磁気トンネル接合素子のトンネル障壁の作製に使用されるものとしてもよい。このようなアルミニウム、窒素の固溶によって、酸化マグネシウムのバンドギャップ内に不純物準位が生成し、これによってトンネル障壁高さが低くなる等の効果が期待される。このとき、本発明のセラミックス材料は、ハードディスクの磁気ヘッド及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリのうち少なくとも1つの磁気トンネル接合素子の作製に使用されることが好ましい。これらは、低い電気抵抗や高い磁気抵抗比が必要とされるため、本発明のセラミックス材料を用いるのが好適といえる。
【0028】
本発明のセラミックス材料は、酸化マグネシウムと窒化アルミニウムとアルミナとの混合粉末を、成形後焼成することにより製造することができる。原料の混合粉末としては、49質量%以上の酸化マグネシウムと、窒化アルミニウムとアルミナ(酸化アルミニウム)とを含むものが好ましく、耐食性の観点からは、混合粉末組成において、酸化マグネシウムが70質量%以上99質量%以下、窒化アルミニウムが0.5質量%以上25質量%以下、酸化アルミニウムが0.5質量%以上25質量%以下となるように混合したものがより好ましく、酸化マグネシウムが70質量%以上90質量%以下、窒化アルミニウムが5質量%以上25質量%以下、酸化アルミニウムが5質量%以上25質量%以下となるように混合したものが更に好ましい。また、機械特性と耐食性とを同時に発現する観点からは、混合粉末組成において、酸化マグネシウムが49質量%以上99質量%以下、窒化アルミニウムが0.5質量%以上25質量%以下、酸化アルミニウムが0.5質量%以上30質量%以下となるように混合したものが好ましく、酸化マグネシウムが50質量%以上75質量%以下、窒化アルミニウムが5質量%以上20質量%以下、酸化アルミニウムが15質量%以上30質量%以下となるように混合したものが更に好ましい。焼成温度は1650℃以上とすることが好ましく、1700℃以上とすることがより好ましい。焼成温度が1650℃未満では、目的とするMgO−AlN固溶体が得られないおそれがあるため好ましくない。また、焼成温度が1700℃未満では、副相としてAlNが含まれるおそれがあり、高耐食を得るためには1700℃以上で焼成する方がよい。なお、焼成温度の上限は、特に限定するものではないが、例えば1850℃としてもよい。また、焼成はホットプレス焼成を採用することが好ましく、ホットプレス焼成時のプレス圧力は、50〜300kgf/cm
2で設定することが好ましい。焼成時の雰囲気は、酸化物原料の焼成に影響を及ぼさない雰囲気であることが好ましく、例えば窒素雰囲気やアルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気などの不活性雰囲気であることが好ましい。成形時の圧力は、特に制限するものではなく、形状を保持することのできる圧力に適宜設定すればよい。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の好適な適用例について説明する。実験例1〜16のMgO原料、Al
2O
3原料及びAlN原料は、純度99.9質量%以上、平均粒径1μm以下の市販品を使用し、実験例17〜28ではMgO原料に純度99.4質量%,平均粒径3μmの市販品、Al
2O
3原料に純度99.9質量%,平均粒径0.5μmの市販品、AlN原料に実験例1〜16と同じ平均粒径1μm以下の市販品を使用した。ここで、AlN原料については1質量%程度の酸素の含有は不可避であるため、酸素を不純物元素から除いた純度である。なお、実験例1〜4,7〜17,21,23〜28が本発明の実施例に相当し、実験例5〜6,18〜20,22が比較例に相当する。
【0030】
[実験例1〜3]
・調合
MgO原料、Al
2O
3原料及びAlN原料を、表1に示す質量%となるように秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径5mmのアルミナ玉石を用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した。その後、30メッシュの篩に通し、混合粉末とした。なお、この混合粉末のMg/Alのモル比は2.9である。
・成形
混合粉末を、200kgf/cm
2の圧力で一軸加圧成形し、直径35mm、厚さ10mm程度の円盤状成形体を作製し、焼成用黒鉛モールドに収納した。
・焼成
円盤状成形体をホットプレス焼成することによりセラミックス材料を得た。ホットプレス焼成では、プレス圧力を200kgf/cm
2とし、表1に示す焼成温度(最高温度)で焼成し、焼成終了までAr雰囲気とした。焼成温度での保持時間は4時間とした。
【0031】
[実験例4]
焼成温度を1650℃に設定した以外は、実験例1と同様にしてセラミックス材料を得た。
【0032】
[実験例5]
MgO原料のみを用いて焼成温度を1500℃に設定した以外は、実験例1と同様にしてセラミックス材料を得た。
【0033】
[実験例6]
MgO原料及びAl
2O
3原料を、表1に示す質量%となるように秤量し、焼成温度を1650℃に設定した以外は、実験例1と同様にしてセラミックス材料を得た。
【0034】
[実験例7〜16]
MgO原料、Al
2O
3原料及びAlN原料を、表1に示す質量%となるように秤量し、表1に示す焼成温度(最高温度)に設定した以外は実験例1と同様にしてセラミックス材料を得た。
【0035】
[実験例17〜21]
MgO原料、Al
2O
3原料及びAlN原料を、表3に示す質量%となるように秤量し、混合粉末の成形圧力を100kgf/cm
2、サンプルの直径を50mm、焼成雰囲気をN
2、焼成温度(最高温度)を表3に示す値に設定した以外は実験例1と同様にしてセラミックス材料を得た。
【0036】
[実験例22]
MgO原料、Al
2O
3原料を、表3に示す質量%となるように秤量した以外は、実験例1と同様にして調合工程を行い混合粉末を得た。混合粉末を、100kgf/cm
2の圧力で一軸加圧成形し、直径20mm、厚さ15mm程度の円柱状成形体を作製し、作製された成形体を3000kgf/cm
2でCIP成形する成形工程を行った。蓋付の黒鉛製るつぼに上記の混合原料を充填し、充填した混合原料中に成形体を埋め込んだ。円柱状成形体を常圧焼成する焼成工程を行い、セラミックス材料を得た。焼成工程では、表3に示す焼成温度(最高温度)で焼成し、焼成終了までAr雰囲気とした。焼成温度での保持時間は4時間とした。
【0037】
[実験例23〜28]
MgO、Al
2O
3及びAlNの各原料を、表3に示す質量%となるように秤量し、調合時の玉石を直径20mmの鉄芯入ナイロンボールとし、成形時の一軸加圧成形時の圧力を100kgf/cm
2として直径50mm、厚さ20mm程度の円盤状成形体を作製し、表3に示す焼成温度(最高温度)に設定し、焼成時の雰囲気をN
2雰囲気とした以外は実験例1と同様にしてセラミックス材料を得た。
【0038】
[評価]
実験例1〜28で得られた各材料を各種評価用に加工し、以下の評価を行った。各評価結果を表1〜4に示す。なお、実験例1〜17では、直径50mmのサンプルも作製したが、表1〜4と同様の結果が得られた。
【0039】
(1)嵩密度・開気孔率
純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。
【0040】
(2)結晶相評価
材料を乳鉢で粉砕し、X線回折装置により結晶相を同定した。測定条件はCuKα,40kV,40mA,2θ=5−70°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製 D8 ADVANCE)を使用した。測定のステップ幅は0.02°とし、ピークトップの回折角を特定する場合は内部標準としてNIST製Si標準試料粉末(SRM640C)を10質量%添加し、ピーク位置補正した。酸化マグネシウムのピークトップの回折角は、ICDD78−0430の値とした。MgO−AlN固溶体と酸化マグネシウムとのピーク間隔、積分幅は下記のとおり算出した。
(2)−1 ピーク間隔(ピークシフト)の計算
MgO-AlN固溶体中のAl、N固溶量を相対比較するため、MgO−AlN固溶体の(220)面を対象としてピーク間隔(ピークシフト)を評価した。MgO-AlN固溶体の(220)面のピークトップの回折角と、ICDD78−0430にある酸化マグネシウムの(220)面の回折角(62.3°)の差をピーク間隔とした。
(2)−2 積分幅の計算
MgO-AlN固溶体の結晶性を相対比較するため、積分幅を計算した。積分幅は、MgO-AlN固溶体の(200)ピークのピーク面積をピークトップの強度(Imax)で除して計算した。ピーク面積は、ピークトップの回折角から−1°〜+1°の範囲において、バックグラウンドを差し引いて、強度を積算することで得た。計算式を下記に示す。なお、バックグラウンドはピークトップから−1°の回折角におけるピーク強度とした。上記の手法を用いて計算したNIST製Si標準試料(SRM640C)の(111)面の積分幅は0.15°であった。
(積分幅)=(ΣI(2θ)×(ステップ幅))/Imax
(2)−3 マグネシウム-アルミニウム酸窒化物相とMgO-AlN固溶体のXRDピーク強度比の計算
副相として含まれるマグネシウム-アルミニウム酸窒化物相の含有割合を相対比較するため、下記の方法を用いてマグネシウム-アルミニウム酸窒化物相とMgO-AlN固溶体のXRDピーク強度の比を計算した。マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク強度をA、2θ=62.3〜65.2°のMgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピーク強度をBとしたときのA/B値を求めた。ここでは、XRDピーク強度Aは、2θ=47〜49°のXRDピークのバックグラウンドを除いた積分強度とし、XRDピーク強度Bは、MgO-AlN固溶体の(220)面のXRDピークのバックグラウンドを除いた積分強度とした。なお、算出には、市販のソフトウエアMDI社製JADE5を用いて求めた。
(2)−4 異相の含有割合の計算
次に、全体に対する異相の割合を相対比較するため、以下の方法によってXRDピーク面積の比を算出した。マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク面積をa、2θ=62.3〜65.2°のMgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピーク面積をb、2θ=45.0°近傍のスピネル(MgAl
2O
4)の(400)面のXRDピーク面積をc、2θ=36.0°近傍の窒化アルミニウム(AlN)の(002)面のXRDピーク面積をdとしたときの、(a+c+d)/(a+b+c+d)値を求めた。ここでは、XRDピーク面積a、b、c、dは市販のソフトウエアMDI社製JADE5のピークサーチ機能から求められたそれぞれの上記角度のピーク面積とした。JADE5のピークサーチ条件は、フィルタータイプについては放物線フィルタ、ピーク位置定義についてはピークトップ、しきい値と範囲については、しきい値σ=3.00、ピーク強度%カットオフ=0.1、BG決定の範囲=1.0、BG平均化のポイント数=7、角度範囲=5.0〜70.0°とし、可変フィルタ長(データポイント)ON、Kα2ピークを消去ON、現存のピークリストを消去ONとした。また、上記の計算方法を用いて、ピーク面積aとピーク面積bの比、a/b値も求めた。
【0041】
(3)エッチングレート
各材料の表面を鏡面に研磨し、ICPプラズマ耐食試験装置を用いて下記条件の耐食試験を行った。段差計により測定したマスク面と暴露面との段差を試験時間で割ることにより各材料のエッチングレートを算出した。
ICP:800W、バイアス:450W、導入ガス:NF
3/O
2/Ar=75/35/100sccm 0.05Torr、暴露時間:10h、試料温度:室温
【0042】
(4)構成元素
EPMAを用いて、構成元素の検出及び同定と、各構成元素の濃度分析を行った。
【0043】
(5)耐湿性
各材料を乳鉢にてメジアン径10μm以下まで粉砕した粉末を作製し、室温で飽和水蒸気圧雰囲気に4日間暴露した。その後、TG−DTA装置にて40〜500℃間の脱水量を測定した。
【0044】
(6)バルク材耐湿性
各材料の表面を鏡面研磨し、40℃,相対湿度90%の雰囲気下に28日間暴露した。その後、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製XL30)にて試料表面を観測し、変化のないものを(○)、表面の40%以上に針状や粒状の析出物が生じたものを(×)、その中間を(△)とした。
【0045】
(7)バルク材耐水性
各材料の表面を鏡面研磨し、室温で水中に15日間浸漬した。その後、走査型電子顕微鏡にて試料表面を観測し、変化のないものを(○)、表面の40%以上に溶出した痕跡が見られるものを(×)、その中間を(△)とした。
【0046】
(8)破壊靱性
JIS−R1607にしたがって、SEPB法により破壊靱性を評価した。
【0047】
(9)曲げ強度
JIS−R1601に準拠した曲げ強度試験によって測定した。
【0048】
(10)体積抵抗率測定
JIS−C2141に準じた方法により、大気中、室温にて測定した。試験片形状は直径50mm×(0.5〜1mm)とし、主電極は直径20mm、ガード電極は内径30mm、外径40mm、印加電極は直径40mmとなるよう各電極を銀で形成した。印加電圧は2kV/mmとし、電圧印加後1分時の電流値を読み取り、その電流値から室温体積抵抗率を算出した。
また、実験例1,3,5,12,23〜28について、同様の方法により、真空中(0.01Pa以下)、600℃にて測定した。試験片形状は直径50mm×(0.5〜1mm)とし、主電極は直径20mm、ガード電極は内径30mm、外径40mm、印加電極は直径40mmとなるよう各電極を銀で形成した。印加電圧は500V/mmとし、電圧印加後1時間時の電流値を読み取り、その電流値から体積抵抗率を算出した。なお、表2,4の体積抵抗率において、「aEb」は、a×10
bを表し、例えば「1E16」は1×10
16を表す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
[評価結果]
表1〜4に示すように、実験例1〜3,7〜17,21,24〜28のセラミックス材料は、結晶相評価の結果、(111)面、(200)面及び(220)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である2θ=36.9〜39°,42.9〜44.8°,62.3〜65.2°に現れるMgO−AlN固溶体(MgO−AlNss)を主相として含み、少なくとも2θ=47〜49°にXRDのピークを有するマグネシウム−アルミニウム酸窒化物(Mg−Al−O−N)やスピネル(MgAl
2O
4)を副相として含んでいたが、AlNは含まれていなかった。代表例として
図1に実験例1のXRD解析チャート、
図2に実験例1のMgO−AlN固溶体のXRDピーク拡大図、表1,3に実験例1〜28のMgO−AlN固溶体の(111)、(200)、(220)面ピークトップ、MgO−AlN固溶体(220)面のXRDピークトップと酸化マグネシウムピークトップとの間隔(ピークシフト)、及びMgO−AlN固溶体の(200)面のXRDピークの積分幅を示す。なお、実験例6〜11,13,16,17,19〜21では、スピネルピークとMgO−AlN固溶体の(111)面のピークとの重なりが著しく、(111)面のピークトップが判別できなかったため、これらの(111)面のピークトップの値は、表3に記載していない。ピークシフトが大きいほど固溶量が多く、積分幅が小さいほど固溶状態が均質と考えられる。なお、実験例2,3,7〜17,20,21,24〜28のXRD解析チャートは、実験例1に含まれるMgO−AlN固溶体、マグネシウム-アルミニウム酸窒化物、スピネルの含有量が変化したものであり、図示を省略する。ここで、主相とは、体積割合において50%以上を有する成分をいい、副相とは、主相以外でXRDピークが同定された相をいう。断面観察における面積比は体積割合を反映すると考えられるため、主相はEPMA元素マッピング像で50%以上の面積を有する領域とし、副相は主相以外の領域とする。実験例20は、実験例1などと同様にMgO−AlN固溶体、マグネシウム−アルミニウム酸窒化物及びスピネルの三成分を含んでいたが、各成分の量に偏りがなく、どの成分も主相とならない複合材であった。このため、表3の主相、副相の欄には上記三成分を記載した。
図3に実験例1のEPMA元素マッピング像を示す。
図3より、実験例1の主相部は主としてMgとOで構成されるが、Al、Nも同時に検出されるため
図1、2に示したMgO−AlN固溶体であることが示される。また、副相としてスピネル部と少量のマグネシウム−アルミニウム酸窒化物部が認められる。
図3のMgO-AlN固溶体の面積比は約86%であり、実験例1はMgO-AlN固溶体が主相であることがわかった。その他の実験例についても同様の解析を行い、例えば実験例15,26,28のMgO−AlN固溶体の面積比はそれぞれ約75%、約91%、約99%であり、MgO−AlN固溶体が主相であることがわかった。なお、ここでは、一例として、主相と副相との判定をEPMA元素マッピングにて行うものとしたが、各相の体積割合を識別できる方法であれば、他の方法を採用してもよい。
【0054】
なお、EPMA元素マッピング像は、濃度に応じて、赤・橙・黄・黄緑・緑・青・藍に色分けされており、赤が最も高濃度、藍が最も低濃度、黒はゼロを表す。しかし、
図3はモノクロで表示されているため、以下に
図3の本来の色について説明する。実験例1(低倍)では、Mgは地色が橙で点部分が青、Alは地色が青で点部分が橙、Nは地色が青で点部分が藍、Oは地色が橙で点部分が赤だった。実験例1(高倍)では、Mgは地色(MgO−AlNss)が橙で島部分(MgAl
2O
4)が青で線状部分(Mg−Al−O−N)が緑、Alは地色が青で島部分と線状部分が橙、Nは地色が青で島部分が藍で線状部分が緑、Oは地色が橙で島部分が赤で線状部分が緑だった。実験例5(低倍)はMg及びOは赤、Al及びNは黒だった。
【0055】
また、実験例4,23のセラミックス材料は、結晶相評価の結果、共に前出のMgO−AlN固溶体を主相として含むものであったが、実験例23はAlNを副相として含み、実験例4はスピネルやAlNを副相として含んでいた。表1に実験例4,23のMgO−AlN固溶体のXRDピークと酸化マグネシウムのXRDピークとの間隔(ピークシフト)を示す。実験例4のように、焼成温度が1650℃では反応が十分起こらず、固溶量が少ないと推察された。焼成温度1600℃では反応がほとんど起こらないため、実験例18、19のセラミックス材料では、MgO−AlN固溶体は生成されなかった。
【0056】
更に、実験例5のセラミックス材料は、MgOを主相として含むものであり、実験例6のセラミックス材料は、スピネルを主相として含み、MgOを副相として含むものであった。また、実験例22のセラミックス材料は、MgOを主相、スピネルを副相として含むものであった。したがって、原料中にAlN成分が含まれていないとホットプレス、常圧焼成のいずれでもMgOへAl成分が固溶しないことがわかった。
【0057】
そして、実験例1〜3,7〜13,17,20,21のセラミックス材料は、水分減少率(TG−DTAによる40〜500℃の質量減少率)が2%以下、実験例4,6,14〜16のセラミックス材料は、水分減少率が3%以下であり、MgOセラミックスつまり実験例5のセラミックス材料に比べて格段に高い耐湿性を有していた。バルク材耐湿性、耐水性試験の代表例として実験例2、5の微構造写真を
図4に示し、実験例8、9の微構造写真を
図5に示す。バルク材の耐湿性は固溶量が多い方がよく、MgO−AlN固溶体(220)面の、酸化マグネシウムからのピークシフトが0.2°以上である実験例1〜3,7〜14,17,20,21,26は、バルク材耐湿試験(40℃,90RH%雰囲気下で28日間暴露)で表面状態に変化がなく、良好であった。また、実験例4,15,16,23〜25,27,28はバルク材耐湿試験で表面状態が変化したが、表面の40%以上にわたって針状、粒状の析出物が形成される実験例5,6,18,19,22と比べて変化が小さかった。この結果から、バルク材の耐湿性は、MgOへのAl、N成分固溶量に依存することがわかった。すなわち、MgO−AlN固溶体の(220)面の酸化マグネシウムからのピークシフトが0.03°未満のものは表面の40%以上で変化が生じ耐湿性が低く、ピークシフトが0.03°以上0.2°未満では耐湿性がよく、ピークシフトが0.2°以上あると耐湿性が更によかった。即ち、MgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピークが、酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である、62.33°以上62.50°未満(2θ)に現れると耐湿性がよく、62.50°以上に現れると耐湿性が更によかった。また、MgO−AlN固溶体の(200)面のXRDピークが、酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である42.92°以上43.04°未満に現れると耐湿性がよく、43.04°以上に現れると耐湿性が更によかった。
【0058】
またバルク材の耐水性は、ピークシフトが大きく、積分幅が小さい材料ほど、良好であることがわかった。すなわち、(220)面のXRDピークシフトが0.42°以上であり、積分幅が0.35°以下である、実験例1,2,7,8,10〜13,17,20はバルク材耐水性試験で表面状態に変化がなかった。実験例3,9,14,15,23〜28はバルク材の耐水試験で溶出による穴部が少数認められたが、実験例4〜6,16,18,19,22や積分幅が0.50°より大きい実験例21では表面の40%以上で溶出した様子が認められた。この結果から、バルク材の耐水性は、MgOへのAl、N成分の固溶量が多く、且つ均質なものがよいことがわかった。すなわち、MgO−AlN固溶体の(220)面の酸化マグネシウムからのピークシフトが0.05°以下の材料は表面の40%以上が溶出し耐水性が低く、ピークシフトが0.05°以上0.42°未満の材料、又はピークシフトが0.42°以上であるがMgO−AlN固溶体の(200)面の積分幅が0.35°を超える材料は、耐水性がよく、ピークシフトが0.42°以上、且つ積分幅が0.35°以下の材料は耐水性が更によかった。即ち、MgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピークが、酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である、62.35°以上62.72°未満(2θ)に現れる材料、又は(220)面のXRDピークが62.72°以上であるが(200)面の積分幅が0.35°を超える材料は、耐水性がよく、(220)面のXRDピークが62.72°以上、且つ積分幅が0.35°以下の材料は耐水性が更によかった。また、MgO−AlN固溶体の(200)面のXRDピークが酸化マグネシウムの立方晶のピークと窒化アルミニウムの立方晶のピークとの間である42.95°以上43.17°未満に現れると耐水性がよく、2θ=43.17°以上の材料は、耐水性が更によかった。
【0059】
また、実験例1〜3,12,14〜16のセラミックス材料は、エッチングレートの結果から、実験例5のMgOセラミックスと匹敵する高い耐食性を有していることがわかった。実験例4,7〜11,13,21のセラミックス材料は、エッチングレートの結果から、耐食性は実験例5のMgOと比べてやや劣るものの、実験例6のセラミックス材料、つまりスピネルを主相とする材料や表に示さなかったイットリア(エッチングレート約240nm/h)よりも高い耐食性を有していることがわかった。実験例1〜3,7〜15は、副相としてマグネシウム-アルミニウム酸窒化物(Mg−Al−O−N)相を含むが、Mg−Al−O−N相の含有量が多いほど機械特性が向上していた。マグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク強度をA、2θ=62.3〜65.2°のMgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピーク強度をBとしたときのA/B値を表2,4に示す。A/Bが大きいほどMg-Al-O-N量が多いことを意味し、A/Bが増加するにつれて破壊靱性、曲げ強度ともに向上した。A/Bが0.03以上である実験例7〜11,13,15,17,20,21は、破壊靱性2.5以上であり、曲げ強度180MPa以上の高い曲げ強度を有することがわかった。また、実験例7〜10,13,15、17,20,21は、曲げ強度200MPa以上の高い曲げ強度を有することがわかった。例えば、実験例8のAは4317カウント、Bは83731カウントであり、A/B値は0.039となり、破壊靱性は2.5、強度は222MPaであった。また、実験例15のAは13566カウント、Bは108508カウントであり、A/B値は0.125となり、破壊靱性は4.4、強度は350MPaであった。しかし、マグネシウム−アルミニウム酸窒化物(Mg−Al−O−N)の量の増加に伴って高耐食なMgO−AlN固溶体の含有量が低下するため、耐食性は低下した。例えば、A/Bが0.3以上の実験例17ではエッチングレートが181nm/hに達し、A/Bが0.4を超える実験例20ではスピネルと同レベルの耐食性となった。この結果から、A/B値が0.03以上0.14以下とすることで耐食性と機械強度を同時に発現することがわかった。なお、実験例13の曲げ強度は、当初測定した結果は188MPaであったが、再測定して再現性を検討したところ251MPaであった。なお、ピーク面積a、bを用いて計算したa/b値も表2,4に示す。
【0060】
実験例2,3,8,10,15,23,26の室温での体積抵抗率は全て1×10
17Ωcm以上と実験例5のMgOと同等であり、高抵抗が必要となる静電チャックやヒーターなどの半導体製造装置用に好適であることがわかった。
【0061】
また、実験例5と実験例12の600℃での体積抵抗率はそれぞれ2×10
12Ωcm、2×10
10Ωcmであり、実験例12のセラミックス材料はMgO(実験例5)に比べて低い電気抵抗を有することがわかった。このほか、実験例1,3,23〜28のセラミックス材料についても実験例12と同様に、実験例5に比べて低い電気抵抗を有することがわかった。
【0062】
また、前述のマグネシウム−アルミニウム酸窒化物相の2θ=47〜49°のXRDピーク面積をa、2θ=62.3〜65.2°のMgO−AlN固溶体の(220)面のXRDピーク面積をb、2θ=45.0°近傍のスピネル(MgAl
2O
4)の(400)面のXRDピーク面積をc、2θ=36.0°近傍の窒化アルミニウム(AlN)の(002)面のXRDピーク面積をdとしたときの、(a+c+d)/(a+b+c+d)値を表2,4に示す。(a+c+d)/(a+b+c+d)値が小さいほど、セラミックス材料にしめるMgO−AlN固溶体の割合が大きく、異相となる可能性があるマグネシウム−アルミニウム酸窒化物相、スピネル(MgAl
2O
4)、および窒化アルミニウム(AlN)の合計量が少ないことを示す。実験例1〜3,5,12,14,23〜28では(a+c+d)/(a+b+c+d)値が0.1以下であることから、異相が少ないこれらセラミックス材料は、スパッタリングターゲット部材に用いることが好適であることがわかった。例えば、実験例14のaは782カウント、bは123644カウント、cは2613カウント、dは0カウントであり、(a+c+d)/(a+b+c+d)値は0.027と異相が少ないことがわかった。同様に実験例23のaは0カウント、bは109166カウント、cは0カウント、dは2775カウント、(a+c+d)/(a+b+c+d)値は0.025と異相が少ないことがわかった。
【0063】
このように、作製したセラミックス材料は、酸化マグネシウムの結晶構造を維持し酸化マグネシウムより低い電気抵抗を有する。これは酸化マグネシウム結晶にアルミニウムや窒素が固溶することにより、酸化マグネシウム中のキャリアが増加したためと思われる。このため、本材料をスパッタリングターゲットとして、例えば、ハードディスクの磁気ヘッド及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリなどの磁気トンネル接合素子を作製した場合において、電気抵抗及び/又は磁気抵抗比の特性向上が予測される。
【0064】
本出願は、2010年10月25日に出願された日本国特許出願第2010−238999号、2011年6月17日に出願された日本国特許出願第2011−135313号、および2011年8月29日に出願された国際出願PCT/JP2011/69491を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のセラミックス材料は、例えば、静電チャックやサセプター、ヒーター、プレート、内壁材、監視窓、マイクロ波導入窓、マイクロ波結合用アンテナなどの半導体製造装置用部材に用いられる。あるいは、本発明のセラミックス材料は、例えば、ハードディスクの磁気ヘッド及び磁気抵抗ランダムアクセスメモリなどの磁気トンネル接合素子の作製用のスパッタリングターゲット部材に用いられる。