(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各タップ口において発生するアーク音を集音するためにそれぞれ設けられた集音器を備え、主タッピング操作室は各集音器により収集したアーク音を伝達するスピーカーを有する請求項1に記載の遠隔操作システム。
突きロッドが溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は電気炉内部に挿入される部分であって電気炉の炉体直径の1/4〜2/3の長さであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい請求項1又は2に記載の遠隔操作システム。
タッピング治具には口止め工程後にタップ口に付着したカーバイドを除去するための口起し器が更に含まれ、口起し器は突きロッドよりも全体の長さが短く、溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は直径が40〜70mmであり、長さが0.5m〜2.5mであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい請求項1〜3何れか一項に記載の遠隔操作システム。
カーバイドを流し取る複数の取り鍋と、各鍋を載せる台車と、台車を案内するレールと、台車を走行させるための駆動手段とを備えた取り鍋搬送装置を備え、主タッピング操作室は取り鍋搬送装置の操作手段を有する請求項1〜4何れか一項に記載の遠隔操作システム。
【背景技術】
【0002】
カルシウムカーバイド(CaC
2)は有機合成や肥料の原料として古くから利用されており、生石灰(CaO)とコークス(C)とを電気炉中で約2000℃以上に加熱して反応させることにより製造される。反応式はCaO+3C→CaC
2+COで表される。
【0003】
電気炉で生成したカルシウムカーバイドはタッピング作業によって電気炉の下部に設けたタップ口より流し取る。タッピング作業は大きく分けて、開口、流し、口止めの三つの工程で構成され、各種のタッピング治具が使用される。
図5を参照すると、開口工程では、グラファイト棒を電気炉の下部にあるタップ口(401)の奥にある開口部(402)に押し当て、アーク放電により高温を発生させて開口部(402)を開ける。開口後、流し取り工程において、突きロッドを炉内極下溶融カーバイドプール部に突き刺し、タップ口(401)からカーバイドを流し取る。流れ出てきたカーバイドは流し樋(403)を通って取り鍋に流し取られる。口止め工程では、団子(404)と呼ばれる円柱状の粘土を開口部(402)に詰めて開口部(402)のカーバイドを冷却し、カーバイドの流出を止める。
【0004】
このタッピング作業は高温付近で危険を伴うとともに重労働を強いることから機械化が進められてきた。
【0005】
例えば、特開昭51−145500号公報(特許文献1)では、移動可能な台車上に、ある空間内を稼動可能な機構を有するアームを設置し、前記台車上または別の場所に設置された運転台の作業者が位置サーボ機構または位置サーボ機構とバイラテラルサーボ機構を具備するハンドルを操作することによりタッピング作業を行うようにしたことを特徴とするタッピング作業用マニプレータが記載されている。これによれば、作業者の目の機能を十分に生かしたタッピング作業がマニプレータにより行えるとされる。
また、フォースフィードバック機構を設けることで、マニプレータの手先を自らの手先と同じように自由に駆使することが可能となることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたマニプレータは確かにタッピング作業の機械化に貢献するものであるが、工業的生産のための方策については論じられていない。
また、特許文献1に記載されたマニプレータは、作業者の視覚に依拠するため、未だにタッピング作業を電
気炉付近で行うことを要求するものである。そのため、約2000℃の高温物を流し取るタッピング作業の安全性は改善の余地が残されている。
また、電
気炉一基に対してタップ口を複数設置することがあるが、特許文献1に記載のマニプレータだとタップ口毎の操作しか考慮していないため、複数のタップ口に対して別々のタッピング作業を並行して行うときなどには、運転者間の相互連絡、口別での作業状況を把握する事が困難であり、作業効率を考えた統合的な運転管理をすることができなかった。
【0008】
そこで、本発明は機械化されたタッピング作業を工業的規模で実施することができる遠隔操作システムを提供することを課題の一つとする。
また、本発明はタッピング作業をより安全に実施することができるカルシウムカーバイドのタッピング作業のための遠隔操作システムを提供することを別の課題の一つとする。 また、本発明はタッピング作業をより効率的に実施することができるカルシウムカーバイドのタッピング作業のための遠隔操作システムを提供することを更に別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究したところ、タップ口及びタッピング治具の大きさを適切に選定することで、機械化したタッピング作業を工業的規模で安全に実施できることが分かった。
また、本発明者は各タップ口の様子を監視カメラで撮像してモニターで映し出すことや、タップ口の開口時に発生するアーク音を集音器で収集してスピーカーで伝達することが安全且つ正確に遠隔操作を行う上で有効であることを見出した。
また、本発明者は各タップ口に対して独立して行っていたタッピングマシンの操作を同一の操作室内で一括管理して行うことが、タッピング作業をより効率的に実施する上で有効であることを見出した。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は第一の側面において、
・各開口部の開口面積が2000〜8000mm
2である複数のタップ口を有するカルシウムカーバイド製造用電気炉と、
・各タップ口におけるタッピング作業用にそれぞれ設けられ、タッピング治具の保持及び開放が可能なタッピングマシンと、
・タッピング治具と、ここで、タッピング治具には、開口工程で使用するための直径が50〜100mmのグラファイト棒と、流し取り工程で使用され、電気炉内部に挿入される部分の直径が20〜80mmである突きロッドと、口止め工程で使用するための1000〜4000cm
3の体積の粘土を収容可能な口止め器とが含まれ、
・各タップ口を撮像するためにそれぞれ設けられた監視カメラと、
・各タッピングマシンを操縦する一台又は複数のマニプレータ、及び、各監視カメラより撮像された映像を表示するモニターを有する主タッピング操作室と、
を備えたカルシウムカーバイドのタッピングのための遠隔操作システムである。
【0011】
本発明の第一の側面に係る遠隔操作システムは一実施形態において、各タップ口において発生するアーク音を集音するためにそれぞれ設けられた集音器を備え、主タッピング操作室は各集音器により収集したアーク音を伝達するスピーカーを有する。
【0012】
本発明の第一の側面に係る遠隔操作システムは別の一実施形態において、突きロッドが溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は電気炉内部に挿入される部分であって電気炉の炉体直径の1/4〜2/3の長さであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい。
【0013】
本発明の第一の側面に係る遠隔操作システムは別の一実施形態において、タッピング治具には口止め工程後にタップ口に付着したカーバイドを除去するための口起し器が更に含まれ、口起し器は突きロッドよりも全体の長さが短く、溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は直径が40〜70mmであり、長さが0.5m〜2.5mであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい。
【0014】
本発明の第一の側面に係る遠隔操作システムは更に別の一実施形態において、カーバイドを流し取る複数の取り鍋と、各鍋を載せる台車と、台車を案内するレールと、台車を走行させるための駆動手段とを備えた取り鍋搬送装置を備え、主タッピング操作室は取り鍋搬送装置の操作手段を有する。
【0015】
本発明は第二の側面において、
・各開口部の開口面積が2000〜8000mm
2である複数のタップ口を有するカルシウムカーバイド製造用電気炉と、
・各タップ口におけるタッピング作業用にそれぞれ設けられ、タッピング治具の保持及び開放が可能なタッピングマシンと、
・タッピング治具と、ここで、タッピング治具には、開口工程で使用するための直径が50〜100mmのグラファイト棒と、流し取り工程で使用され、電気炉内部に挿入される部分の直径が20〜80mmである突きロッドと、口止め工程で使用するための1000〜4000cm
3の体積の粘土を収容可能な口止め器とが含まれ、
・一つのタップ口を目視でき、当該タップ口において発生するアーク音を直接聞き取れる場所にそれぞれ設置され、タッピングマシンを操縦するマニプレータを有する副タッピング操作室と、
を備えたカルシウムカーバイドのタッピングのための遠隔操作システムである。
【0016】
本発明の第二の側面に係る遠隔操作システムは別の一実施形態において、突きロッドが溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は電気炉内部に挿入される部分であって電気炉の炉体直径の1/4〜2/3の長さであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい。
【0017】
本発明の第二の側面に係る遠隔操作システムは一実施形態において、各タップ口において発生するアーク音を集音するためにそれぞれ設けられた集音器を備え、副タッピング操作室は各集音器により収集したアーク音を伝達するスピーカーを有する。
【0018】
本発明の第二の側面に係る遠隔操作システムは別の一実施形態において、タッピング治具には口止め工程後にタップ口に付着したカーバイドを除去するための口起し器が更に含まれ、口起し器は突きロッドよりも全体の長さが短く、溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は直径が40〜70mmであり、長さが0.5m〜2.5mであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい。
【0019】
本発明の第二の側面に係る遠隔操作システムは更に別の一実施形態において、カーバイドを流し取る複数の取り鍋と、各鍋を載せる台車と、台車を案内するレールと、台車を走行させるための駆動手段とを備えた取り鍋搬送装置を備え、副タッピング操作室は取り鍋搬送装置の操作手段を有する。
【0020】
本発明の第二の側面に係る遠隔操作システムは更に別の一実施形態において、各タップ口を撮像するための監視カメラを備え、副タッピング操作室は自己の担当するタップ口に対する監視カメラより撮像された映像を表示するモニターを有する。
【0021】
本発明は第三の側面において、
・各開口部の開口面積が2000〜8000mm
2である複数のタップ口を有するカルシウムカーバイド製造用電気炉と、
・各タップ口におけるタッピング作業用にそれぞれ設けられ、タッピング治具の保持及び開放が可能なタッピングマシンと、
・タッピング治具と、ここで、タッピング治具には、開口工程で使用するための直径が50〜100mmのグラファイト棒と、流し取り工程で使用され、電気炉内部に挿入される部分の直径が20〜80mmである突きロッドと、口止め工程で使用するための1000〜4000cm
3の体積の粘土を収容可能な口止め器とが含まれ、
・各タップ口を撮像するためにそれぞれ設けられた監視カメラと、
・各タッピングマシンを操縦する一台又は複数のマニプレータ、及び、各監視カメラより撮像された映像を表示するモニターを有する主タッピング操作室と、
・一つのタップ口を目視でき、当該タップ口において発生するアーク音を直接聞き取れる場所にそれぞれ設置され、タッピングマシンを操縦するマニプレータを有する副タッピング操作室と、
を備えたカルシウムカーバイドのタッピングのための遠隔操作システムである。
【0022】
本発明の第三の側面に係る遠隔操作システムは一実施形態において、各タップ口において発生するアーク音を集音するためにそれぞれ設けられた集音器を備え、主タッピング操作室及び/又は副タッピング操作室は各集音器により収集したアーク音を伝達するスピーカーを有する。
【0023】
本発明の第三の側面に係る遠隔操作システムは別の一実施形態において、突きロッドが溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は電気炉内部に挿入される部分であって電気炉の炉体直径の1/4〜2/3の長さであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい。
【0024】
本発明の第三の側面に係る遠隔操作システムは別の一実施形態において、タッピング治具には口止め工程後にタップ口に付着したカーバイドを除去するための口起し器が更に含まれ、口起し器は突きロッドよりも全体の長さが短く、溶接により連結された先端部と根本部を有しており、先端部は直径が40〜70mmであり、長さが0.5m〜2.5mであり、根本部は先端部よりも直径が5〜30mm大きい。
【0025】
本発明の第三の側面に係る遠隔操作システムは更に別の一実施形態において、カーバイドを流し取る複数の取り鍋と、各鍋を載せる台車と、台車を案内するレールと、台車を走行させるための駆動手段とを備えた取り鍋搬送装置を備え、主タッピング操作室及び/又は副タッピング操作室は取り鍋搬送装置の操作手段を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、タップ口及びタッピング治具の大きさを適切に選定したことで、機械化したタッピング作業を工業的規模で安全に実施できる。
また、各タップ口の様子を監視カメラで撮像してモニターで映し出すことや、タップ口の開口時に発生するアーク音を集音器で収集してスピーカーで伝達することが安全且つ正確に遠隔操作を行うことができる。
各タップ口に対して独立して行っていたタッピングマシンの操作を同一の操作室内で一括管理して行うことで、タッピング作業をより効率的に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係るカルシウムカーバイドのタッピングのための遠隔操作システムの一実施形態について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る遠隔操作システムの模式図であり、カルシウムカーバイド製造用電気炉(101)と、タッピング作業用にそれぞれ設けられたタッピングマシン(102a、102b、102c)と、各タップ口を撮像するためにそれぞれ設けられた監視カメラ(103a、103b、103c)と、各タップ口において発生するアーク音を集音するためにそれぞれ設けられた集音器(104a、104b、104c)とを備える。本実施形態に係る遠隔操作システムは更に、電気炉(101)とは離れた場所(一般には各タップ口が直接目で確認できない)にあり主タッピング操作室(105)、及び各タップ口が直接目で確認できる場所にある三つの副タッピング操作室(106a、106b、106c)を備える。本実施形態に係る遠隔操作システムは更に、タップ口から流し取ったカーバイドを収容した取り鍋を連続的に運搬する取り鍋搬送装置(200)を備える。
【0029】
1.カルシウムカーバイド製造用電気炉
カルシウムカーバイド製造用電気炉(101)は略円筒形状であり、高温に耐えられるようにカーボン質及び耐熱煉瓦で構成されている。炉内には3本の電極が縦方向に上から挿入されている。3本の電極は、電気炉の中心に対して同心円状に120°ずつ離れて等間隔で配列されている。電気炉下部の中心から各電極に向かう径方向の直線と電気炉の外壁が交わる箇所にはタップ口(107a、107b、107c)が設けられている。各電極の下方では、生石灰とコークスが約2000℃の高温で反応してカーバイドが生成する。タッピング作業によって、タップ口(107a、107b、107c)から溶融カーバイドが流れ出る。タップ口から流出してきた溶融カーバイドは取り鍋(201)に収容される。
【0030】
2.タッピングマシン
図2を参照しながら、タッピングマシンの動作について説明する。タッピングマシン(102a、102b、102c)は、レール(108)上を移動可能な台車(109)と、台車(109)上に搭載された可動アーム(110)と、アーム(110)の先端に着脱自在に取り付けられたタッピング治具(111)から主として構成される。台車(109)は、油圧モータやギヤーモータなどの駆動装置によって駆動する4個の車輪(112)によってレール(108)上を前後方向に走行できるようになっている。台車にはクランプ式の固定式油圧ブレーキ(図示せず)が備わっている。
【0031】
アーム(110)は軸線方向(前後方向)運動、水平旋回運動、及び垂直旋回運動を行うことができ、これらの運動は個別に又は同時に行うことができる。
これらの運動は特許文献1に記載された通りの方法でも行わせることができ、詳述はしないが、以下に一例を説明する。
アーム(110)の軸線方向運動は、アームを上下から挟む2対のガイドロール(113)により方向付けられ、駆動装置による回転運動をギヤを介してアーム(110)に伝達することで行う。駆動装置は主タッピング操作室(105)又は副タッピング操作室(106a、106b、106c)からの電気信号に基づいて作動する。
アーム(110)の水平旋回運動は、アーム(110)を支持するフレーム(114)の内側に設置され、回転自在に軸受けされた垂直回転軸(図示せず)の回転運動に連動して行われる。駆動装置よる回転運動がギヤを介して垂直回転軸に伝達され、垂直回転軸が回転運動を行う。駆動装置は主タッピング操作室(105)又は副タッピング操作室(106a、106b、106c)からの電気信号に基づいて作動する。
アーム(110)の垂直旋回運動は、油圧シリンダー(115)による上下方向の運動に連動して、ピンジョイント(116)を中心軸として行われる。油圧シリンダー(115)は主タッピング操作室(105)又は副タッピング操作室(106a、106b、106c)からの電気信号に基づいて作動する。
【0032】
アーム(110)は中空の円筒状になっており、その内部にアーム心棒(117)が回転自在に収容されている。アーム(110)は、前後用油圧モータ(118)により軸線方向に移動することができる。アーム心棒(117)の後部に配置されたギヤは油圧ロータリーアクチュエータ(120)に連結されており、油圧ロータリーアクチュエータが作動することでアーム心棒(117)は回転することができる。前後用油圧モータ(118)及び油圧ロータリーアクチュエータ(120)は主タッピング操作室(105)又は副タッピング操作室(106a、106b、106c)からの電気信号に基づいて作動する。
【0033】
タッピング作業は、作業の段階に応じて、タッピング開始時にタップ口奥に電気アークを発生させるためのグラファイト棒、流し取り最中にタッピングを促進したりカーバイドの流し取り量を調整したりするための突きロッド、及びタッピング終了時にカーバイドの流出を止めるための粘土をタップ口に詰める(先端が筒状の)口止め器といった複数のタッピング治具(111)が必要となる。そこで、アーム心棒(117)の先端には治具のチャッキング装置(119)が装着されており、クランプ用油圧シリンダー(121)の軸方向における動きに応じて、爪(グリッパー)(301)が支点(302)を中心にして開閉することで、チャッキング装置(119)は治具を掴んだり離したりすることができる(
図4参照)。このため、タッピング治具の交換もマニプレータを通じて可能である。タッピング治具を把持した状態でアーム心棒(117)の軸線を中心にして回転させることで、タッピング治具を回転させることができる。チャッキング装置(119)は主タッピング操作室(105)又は副タッピング操作室(106a、106b、106c)からの電気信号に基づいて作動する。
【0034】
タッピング治具の好適な仕様について以下に説明する。
【0035】
グラファイト棒は一般に細長い円柱状である。直径が大きすぎると所定の位置に開口しづらく、また、開口部が大きくなり、タッピング作業を終了するときの口止めが困難となり、危険である。また、開口部が大きすぎると開口部に空気が吸い込まれることで、生成カーバイドの分解を促進したり、また、耐熱煉瓦の損傷に繋がる。一方で、直径が小さすぎると強度が不十分となるので、耐久性が低下して折れやすくなる。また、タップ口が小さすぎるとカーバイドの流し取りが困難にもなる。
そこで、グラファイト棒の好適な直径は50〜100mmであり、好ましくは70〜90mmである。グラファイト棒が円柱状でない場合は、グラファイト棒の断面積を根本から先端まで等間隔に10箇所測定して平均値を算出し、これと同一面積をもつ円の直径をグラファイト棒の直径とする。
このような直径をもつグラファイト棒で開口された開口部は2000〜8000mm
2、典型的には4000〜6000mm
2の断面積をもち、この程度の大きさの開口部とすることにより、タッピング作業が工業的にカーバイドを量産可能なレベルで安全に行える。
【0036】
次に、突きロッドの仕様について説明する。突きロッドは、先端が電気炉内の電極下方で成長するカーバイドプールまで到達させることができるように電気炉の径に対して十分な長さが必要である。ただし、長すぎると今度は操作がしづらく、更に、アーム(110)、アーム心棒(117)、チャッキング装置(119)の破損を考慮する必要がある。例えば、外径8〜10m程度の電気炉であれば、4〜7mとすることができ、好ましくは4〜5mとすることができる。
【0037】
また、突きロッドは特にその先端が電気炉内の高温部に晒されるため溶損しやすいことから、溶損し易い先端部だけを交換できるようにしておくのがコスト低減の観点で好ましい。そこで、ロッドの先端部と根本部を溶接により連結し、先端部が溶損した場合には先端部のみを交換できるようにする。
【0038】
交換する先端部の長さは短い方がコスト低減効果は得られるものの、突きロッドの先端が電気炉内の電極下方で成長するカーバイドプールまで到達させることを考慮すると、電気炉内部に挿入される部分の長さは電気炉の炉体直径の1/4〜2/3の長さが好ましく、1/3〜2/3の長さがより好ましく、2/5〜3/5の長さが更により好ましいことから、交換されるべき先端部の長さは、この長さに合致させることが好適である。電気炉の炉体直径とは、タップ口の入口から電気炉の中心までの長さの2倍を指し、タップ口毎に測定される。
【0039】
突きロッドのうち電気炉内部に挿入される部分の直径は、大きすぎるとタップ口が必要以上に大きくなり、場合によりタップ口の崩壊を招く危険がある。また、グラファイト開口部での作業性悪化と重量増となる。一方で、直径が小さすぎると熱に弱く長時間使用できず、強度が低下し、十分な機能を発揮できない。そこで、電気炉内部に挿入される部分の好適な直径は20〜80mmであり、より好ましくは50〜60mmである。これに対して、強度を確保する観点から突きロッド根本部の直径は先端部よりも大きくするが、先端部との差が小さすぎると根本部の寿命が短くなる一方で、差が大きすぎると根本部の重量増加によるマニプレータ機器の損傷を招く。そこで、突きロッド先端部の直径に対して例えば5〜30mm、好ましくは10〜20mm程度大きくする。
突きロッドが円柱状でない場合は、突きロッドの根本部及び先端部それぞれの径は、断面積をそれぞれ根本から先端まで等間隔に10箇所測定して平均値を測定し、これと同一面積をもつ円の直径を突きロッドの根本部及び先端部それぞれの径とする。
【0040】
突きロッドの材質は強度確保の観点から金属製とするのが好ましく、例えば炭素鋼、合金鋼を使用することができる。突きロッドの材質は根本部及び先端部で同じでもよく又は異なっていてもよいが、溶接性、熱膨張性を合わせる為にも同一にするのが好ましい。
【0041】
次に、口止め器の仕様について説明する。タップ口に詰める粘土の量は、タップ口の大きさに応じて適宜設定すればよいが、2000〜8000mm
2、典型的には4000〜6000mm
2の断面積をもつタップ口の場合、1000〜4000cm
3、典型的には2000〜3000cm
3とする。口止め器は根本のロッド部と先端の筒状部で構成される。筒状部はロッド部に対して軸線方向に一定範囲を移動自在に取り付けられており、ロッド部の先端は円盤状になっている。従って、筒上部の内部に装填された粘土は、シリンジ式に押し出される(例えば実開昭51−157512号公報参照)。
筒状部は内径80〜130mm、高さ300〜900mm、典型的には内径90〜120mm、高さ500〜700mmとすることができる。
【0042】
上記のタッピング治具の他に、口止め工程後にタップ口に付着したカーバイドを除去するための棒状(一般には円柱状)の口起し器を使用することもできる。口起し器は一般に材質は強度確保の観点から金属製とするのが好ましく、例えば炭素鋼、合金鋼を使用することができる。また、口起こし工程は、流し取り工程よりも繊細な操作が必要になるため、タッピングマシンによる口起し器の操作性を高めるべく、口起こし器の長さは突きロッドよりも全体の長さを短くするのが好ましい。ただし、短すぎると今度はタッピングマシンを必要以上に高温の電気炉に近づけなければならず、タッピングマシンの故障の原因となる。そこで、例えば、突きロッドに比べて50〜70%程度の長さとする。
【0043】
また、口起し器も、突きロッドほどではないが、高温の溶融カーバイドに触れることから先端が痛む。そこで、口起し器は先端部分のみが交換できるように、根本部と先端部を溶接で連結した構造とするのがコスト低減の観点で好ましい。先端部は操作性、耐久性の理由から、直径を40〜70mmとするのが好ましく、55〜65mmとするのがより好ましい。これに対して、強度を確保する観点から口起し器の根本部の直径は先端部よりも大きくするが、先端部との差が小さすぎると根本部の寿命が短くなる一方で、差が大きすぎると根本部の重量増加によるマニプレータ機器の損傷を招く。そこで、口起し器先端部の直径に対して例えば5〜30mm、好ましくは10〜20mm程度大きくする。
【0044】
口起し器先端部の長さは短い方がコスト低減効果は得られるものの、タップ口奥の開口部付近まで届く必要があることから一定の長さは必要である。経験上、損傷しやすい部分は高温のタップ口の入口からその奥にある開口部までの長さに概ね等しいことから、先端部の長さもこれに合わせるのが便宜である。そこで、口起し器の先端部の好ましい長さは0.5m〜2.5mであり、1〜2mがより好ましい。
【0045】
3.監視カメラ
監視カメラ(103a、103b、103c)は、各タップ口(107a、107b、107c)を撮像し、映像を主タッピング操作室(105)のモニター(130a、130b)に送る。副タッピング操作室(106a、106b、106c)に映像を送ることもできる。監視カメラは各タップ口に1台としてもよいが、複数の角度から撮影してタップ口の様子をより正確に把握するために複数台設けることもできる。監視カメラ(103a、103b、103c)は電気炉付近の高温に晒されるため、ウォータージャケットにより冷却することが望ましい。
【0046】
4.集音器
集音器(104a、104b、104c)は、タッピング開始時の電気アーク音を主タッピング操作室(105)に送り届けることを主目的とする。副タッピング操作室(106a、106b、106c)にアーク音を送ることもできる。タッピング作業を電気炉から離れた別室で遠隔操作により行う上では、監視カメラから送られる映像をモニターで確認することはもちろん重要であるが、タップ口で発生するアーク音も主タッピング操作室(105)に送り届けることで、タッピングマシンを操縦する作業者は開口作業をより正確に且つ迅速に行うことができるようになる。また、タップ口近傍の鉄壁、樋などの金属等との接触を避ける為や、カーバイドを介したアーク部と金属等と接触しているアーク部を区別する為にも有効である。
【0047】
集音器(104a、104b、104c)は、周囲の雑音を拾わないように、円錐型又はパラボラ型のような反射器をタップ口に向け、焦点部にマイクロフォンを設置するのが望ましい。アーク音を拾うためには、マイクロフォンは無指向性のものより、正面に対して感度がよい指向性のものが好ましい。集音器(104a、104b、104c)の設置場所は、アーク音を拾うという観点からはできるだけタップ口に近い方がよいが、あまり近づきすぎると熱や粉じんで故障しやすくなる。そこで、タップ口からの距離が2〜15m、典型的には4〜10mとなる場所に設置するのがよい。
【0048】
5.取り鍋搬送装置
図3は取り鍋搬送装置(200)の全体概略図である。取り鍋搬送装置(200)は、カーバイドを収容する複数の取り鍋(201、
図1参照)と、各取り鍋を載せる台車(図示せず)と、台車を案内するレール(202)と、油圧モータなどの駆動装置(203)によって軌道に沿って駆動されるアンカーチェーン(204)を備える。アンカーチェーン(204)と各台車は連結部材を介して連結されており、アンカーチェーンの動きに連動して台車が動くようになっている。台車は前後の台車と直列に連結されており、閉鎖ループを構成する。駆動装置は主タッピング操作室(105)又は副タッピング操作室(106a、106b、106c)からの電気信号に基づいて作動する。
【0049】
取り鍋の搬送方式としては、アンカーチェーン方式に限定されず、公知の搬送方式を採用することができる。例えば、先頭の台車をワイヤーに連結し、ウインチを利用して牽引する方式とすることもできる。
【0050】
図1を参照すると、電気炉(101)のタップ口(107a、107b、107c)から流れ出た溶融カーバイドは、樋を通って取り鍋(201)に流し取る。取り鍋は台車に載ってレール上を搬送され、溶融カーバイドを冷却、固化するために必要に応じて冷却室を通過する。その後、取り鍋は所定の場所で傾斜したレール上を走行することで自動傾転し、固化したカーバイドを排出することができる。自動傾転の方法については特開平4−235808号公報を参考にすることができる。また、カーバイドの入った取り鍋が底の深い容器である場合(例:20cmを超える深さ)は溶融カーバイドの冷却時間が長くなり、レール上で冷却が終了しない。そこで、深い取り鍋の場合は所定の場所に移動してきたときに、取り鍋を天井クレーンで吊り上げて台車から取り外す一方で、空の取り鍋を台車に載せることで取り鍋を交換するとよい。台車から取り外された取り鍋内のカーバイドは所定の冷却場(205)で冷却する。
【0051】
6.主タッピング操作室
主タッピング操作室(105)は、電気炉(101)とは離れた(例えば、電気炉の中心から平面距離で10m以上離れた、典型的には、10〜50m)安全な場所に設置される。主タッピング操作室(105)には、各タッピングマシン(102a、102b、102c)を遠隔で操縦するマニプレータ(131a、131b)、各監視カメラより撮像された映像を表示するモニター(130a、130b)、各集音器により収集したアーク音を伝達するスピーカー(132a、132b)が備わっている。
【0052】
各マニプレータはタッピングマシンの切り替え機能を有しており、いずれのタッピングマシン(102a、102b、102c)を遠隔操作することも可能である。そのため、1台のマニプレータで3台すべてのタッピングマシンを操作することも可能であるが、マニプレータが複数台あれば複数のタップ口に対する同時操作(流し取り作業と開口準備作業、又は、流し取り後処理など)が可能となるので、本実施形態ではマニプレータ、監視モニター、集音装置を2台ずつ設置している。更に、マニプレータ、監視モニター、集音装置を3台ずつ設置することで3口を同時に操作することも可能である。
【0053】
主タッピング操作室の操作者はタップ口を直視することなく、モニターを見ながらタッピングマシンを操作することになる。各タップ口の様子がモニターを通じて同一の部屋内で確認できるので、各タップ口の状況を一括して管理することで、別口の作業状況やタッピングを行っていない口からカーバイドや副生品等が流出していないか監視ができ、トラブルの早期発見が可能となる。また、異なるタップ口を担当する作業者同士が相互にタップ口の状況を伝達することも容易となる。一つのタップ口に対して複数の監視カメラを設置することで、タップ口を複数の角度から確認できるため、目視では確認できないようなタップ口の状況も容易に把握することができるようになる。そのため、タッピング作業をより正確に安全に行うことできる。
更に、タップ口を直視して遠隔操作する必要がない為、主タッピング操作室(105)で遠隔操縦するマニプレータ(131a、131b)の切替操作が可能な為、従来、タップ口管理が1人/口であった作業が、2人/3口で管理することが可能となり、作業効率が向上する。
【0054】
また、スピーカーを通じてアーク音を聞き取ることができるため、遠隔操作による開口作業が円滑且つ正確に行えるというメリットがある。
【0055】
マニプレータ(131a、131b)は、台車(109)の前後進及びブレーキ操作を行うためのフットペダルを備える。フットペダルの動きに応じた電気信号によって台車の駆動装置及びブレーキを制御する。
また、マニプレータ(131a、131b)はアーム(110)の前後方向運動、水平旋回運動、及び垂直旋回運動を行うための操作レバーを備える。アーム(110)の操作は公知のサーボ機構又はバイラテラルサーボ機構により行うことができる。操作レバーは、操作者がタッピングマシンを操作しやすいように、アームの前後方向、水平旋回及び垂直旋回と同じ自由度をもつように構成するのが好ましい。レバーの動きによりポテンショメータを回転させ、アーム動作の指令を出す。同様に、チャッキング装置の動作やアーム心棒の回転の操作も公知のサーボ機構又はバイラテラルサーボ機構を利用して操作することができる。
【0056】
主タッピング操作室は、各油圧ポンプの起動停止、油温度の設定装置を操作するための操作盤を備えることができる。
【0057】
主タッピング操作室には、更に、角度センサーや位置センサーを用いて得られる各タッピングマシンの台車の位置、アームの前後方向の位置、水平旋回の角度、垂直旋回の角度、爪(グリッパー)の開閉状況を伝達するモニターを設けることもできる。
【0058】
本実施形態においては、主タッピング操作室から取り鍋搬送装置の操作を行うことができるように、取り鍋搬送装置の操作スイッチを設けることができる。取り鍋搬送装置の操作レバーをタッピングマシンの操作スイッチの近傍に設置することもできる。従来はタッピングマシンと取り鍋搬送装置の操作が独立していた為、タッピングする作業者と鍋を搬送する作業者が別々に必要であったが、タッピング操作と鍋搬送操作を同一の作業者が実施する事で省力化(鍋を搬送する作業者を減らす事が可能となった)や搬送タイミングのズレによる操作ミスや製品流出の低減等のトラブル防止が可能となる。
特に不意にタップ口が破れ、緊急を要するトラブルが発生した場合でもモニターで監視でき迅速に空の鍋を該当タップ口に移動させ、かつ、タップ口の口止め作業を迅速に行うことが可能である。
【0059】
7.副タッピング操作室
通常操業時は主タッピング操作室(105)のみで十分であるが、何らかのトラブルが起きたときやカーバイド製造のスタートアップ時に、電気炉(101)の近くで直接タップ口の様子を目視しながら、また、アーク音を直接聞きながら、タッピング作業を実施できるようにしておく事が好ましい。カーバイド操業が不安定である時、タッピングによる開口作業において細かな開口位置の変更操作が可能となる。そこで、副タッピング操作室(106a、106b、106c)を電気炉(101)の近傍であって、各タップ口が直接目で確認できる場所にそれぞれ補助的に設置している
。
【0060】
このため、副タッピング操作室は、一つのタップ口を目視でき、当該タップ口において発生するアーク音を直接聞き取れる場所に設置される。これは典型的には、タップ口からの操作室のオペレータまでの距離Dが30m以内であり、好ましくは15m以内である(
図6参照)。ただし、あまり近づきすぎると安全性の問題があることから、5m以上離れていることが好ましく、10m以上離れているのがより好ましい。
また、典型的には、電気炉の中心からタップ口に向かって延ばした直線と、タップ口から副タッピング操作室に延ばした直線のなす角度αが0〜80°以内であり、好ましくは5〜45°以内、更に好ましくは、10〜30°以内である。
図6では、角度αは電気炉の中心からタップ口に向かって延ばした直線に対して右側に開いているが、左側に開いていてもよいことは自明である。
【0061】
副タッピング操作室(106a、106b、106c)からのタッピング作業は、タップ口を映し出すモニター及びアーク音を伝えるスピーカーが不要である他は、主タッピング操作室(105)での操作と同様に、マニプレータを用いて対応するタッピングマシンを操作する。取り鍋搬送装置の操作レバーを有することもできる。
【0062】
必要に応じて副タッピング操作室(106a、106b、106c)においても、モニターやスピーカーを設置することができる。目視では確認しにくい角度からタッピング口の状態を確認したり、アーク音を正確に聞き取ったりすることができるからである。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではなく、種々のバリエーションが可能である。例えば、タッピングマシンや取り鍋搬送装置の操作手段としては、本発明の実施形態において特定の操作手段を挙げたが、ボタン、スイッチ、ハンドル、フットペダル及びレバー等の操作手段は操作内容に応じて操作しやすい手段を適宜選択して使用すればよい。