特許第5681490号(P5681490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5681490
(24)【登録日】2015年1月16日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】射出成形されたPTCセラミック
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20150219BHJP
   C04B 35/468 20060101ALI20150219BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20150219BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20150219BHJP
   B29K 103/04 20060101ALN20150219BHJP
【FI】
   C04B35/00 X
   C04B35/46 N
   B29C45/00
   B29C33/42
   B29K103:04
【請求項の数】21
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-536440(P2010-536440)
(86)(22)【出願日】2008年12月3日
(65)【公表番号】特表2011-506127(P2011-506127A)
(43)【公表日】2011年3月3日
(86)【国際出願番号】EP2008066720
(87)【国際公開番号】WO2009071588
(87)【国際公開日】20090611
【審査請求日】2011年11月30日
(31)【優先権主張番号】11/950,724
(32)【優先日】2007年12月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】イーレ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カール、ヴェルナー
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−097461(JP,A)
【文献】 特開平03−088770(JP,A)
【文献】 特開2007−246328(JP,A)
【文献】 特開2000−247734(JP,A)
【文献】 特開平04−366585(JP,A)
【文献】 特開2000−286104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/657
H01C 7/02
B28B 1/24
H05B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含まれる金属不純物が10ppm未満であり、正の温度係数を有するセラミック材料を含み、
−30℃から340℃の間のキュリー温度を有する射出成形体であって、
前記射出成形体は、少なくとも1つの突起、くぼみまたはスリットを含み、
前記少なくとも1つの突起、くぼみまたはスリットは、前記射出成形体をさらなる体またはハウジングに接続するための手段である
射出成形体。
【請求項2】
25℃の温度で3Ωcmから30000Ωcmの範囲の抵抗率を有する、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
射出成形処理において原料からつくられ、前記原料が以下の組成、すなわち:
Ba1−x−yTi1−a−bMn
ここで、
x=0から0.5、
y=0から0.01、
a=0から0.01、および
b=0から0.01であり、
Mは原子価2の陽イオンであり、Dは原子価3または4のドナーであり、Nは原子価5または6の陽イオンである、
組成からなる材料を含む、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項4】
前記射出成形体を貫く直線に対して、前記射出成形体の、前記直線に垂直な少なくとも2つの断面領域が、前記直線に沿った並行移動によって互いに重なり合うことができない、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項5】
前記射出成形体を貫く直線に対して、前記射出成形体の、前記直線に垂直な少なくとも2つの断面領域が、前記直線に沿った並行移動および前記直線のまわりの回転によって互いに重なり合うことができない、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項6】
少なくとも1つの湾曲した表面領域をさらに含む、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項7】
少なくとも1つの穴または溝をさらに含む、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項8】
前記射出成形体の表面領域の少なくとも一部が、さらなる体またはハウジングの表面領域の少なくとも一部と相補的である、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項9】
少なくとも1つの電気的接点をさらに備える、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項10】
請求項1に記載の射出成形体を備え、
前記射出成形体が温度センサ要素の部分である、
温度測定装置。
【請求項11】
請求項1に記載の射出成形体を備え、
前記射出成形体が電流を制御する、
温度制御装置。
【請求項12】
過負荷電流または過負荷電圧に対する保護のための電気回路内の装置であって、
請求項1に記載の射出成形体を備える、装置。
【請求項13】
A)含まれる金属不純物が10ppm未満である、射出成形のための原料を供給することと、
B)前記原料を型に射出することと、
C)結合材を取り除くことと、
D)得られた成形体を焼結することと、
E)前記成形体を冷却することと、からなる方法であって、
前記方法の間に用いられる、セラミック材料と接触する工具が有する摩耗率が、前記得られた成形体に含まれる摩耗で生じた金属不純物が10ppm未満となるようなものである、
請求項1に記載の射出成形体を射出成形する方法。
【請求項14】
前記工具が硬い材料で被覆されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記硬い材料が炭化タングステンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
C)およびD)が連続して実行され、C)において、前記結合材が熱による予備焼結または水和によって取り除かれる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
C)およびD)が同時に実行され、C)において、前記結合材が焼結によって取り除かれる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
D)において、焼結が1250℃から1400℃の範囲の温度で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記温度が1300℃から1350℃の範囲である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
E)において、冷却速度が1K/分から30K/分の間である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
E)において、前記冷却速度が2K/分から20K/分の間である、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともある温度範囲で正の温度係数(PTC)を有するセラミック材料を含む、射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック材料を含む成形体は、広い範囲の応用に適している。特に耐火特性のために、多くのセラミック材料が高温環境において有益に使用されることができる。さらに、少なくともある温度範囲で正の温度係数(PTC)を有するセラミック材料によって、そのような環境の温度を制御することができる。
【0003】
セラミック材料のPTC効果は、温度Tの関数としての電気抵抗率ρの変化からなる。ある温度範囲においては抵抗率ρの変化が温度Tの上昇と比べて小さいものの、いわゆるキュリー温度Tにおいて、温度の上昇に伴って抵抗率ρが急速に増加し始める。この第2の温度範囲において、所定の温度における抵抗率の相対的な変化である温度係数は、50%/Kから100%/Kの範囲でありうる。
【0004】
セラミック材料を含む成形体は様々な技術によって形成されうる。押し出し技術において、セラミック材料を含む成形可能なマス(mass)がテンプレートを介してプレスされる。結果として、そのようにして形成された成形体が、軸および、その軸に垂直でテンプレートの断面に整合する断面を有する。乾燥粉末プレス技術において、セラミック材料を含む粉末がプレスされて成形体となる。この技術を応用することで、簡単な幾何学的形状のセラミック体、例えばブロック形状の物体が生成されうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一形態において、PTCセラミックを射出成形する方法を説明する。この方法によって、非常に様々な寸法で、ほとんどすべての種類の複雑な形状が生産可能である。射出成形処理において、セラミック材料を含むいわゆる原料が、物体の所望の形状を有する型へと射出される。その後で、結合材の除去および焼結を含むさらなる処理段階が行われ、固体の成形体を得る。
【0006】
製造処理は、成形体がPTC効果の有益な特性か、少なくともその特徴的部分のいくらかを示すように設計される。処理が注意深く行われない場合は、例えば、温度25℃における抵抗率ρ25がより高い値にずれることがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
PTC効果の特徴的部分を維持するために、PTCセラミック材料が含む金属不純物は10ppm(parts per million)未満である。PTCセラミック材料を射出成形するための適切な処理は、以下のステップからなる。
A)含まれる金属不純物が10ppm未満である、射出成形のための原料を供給する。
B)原料を型へと射出する。
C)結合材を取り除く。
D)成形体を焼結する。
E)成形体を冷却する。
【0008】
処理全体の間、金属不純物を10ppm未満に制限するように準備が行われなければならない。この目的のために、処理の間に用いられ、セラミック材料と接触する工具は、得られた成形体に含まれる、摩耗によって発生する金属不純物を10ppm未満にするように、低い摩耗率を有する。型および他の工具は堅い材料で被覆されていてもよい。一実施形態では、この堅い材料は炭化タングステンのような堅い金属を含む。
【0009】
一実施形態では、ステップA)において、適切な原料は、セラミック充填材および、結合材とも呼ばれる、充填材を結合する母材を含む。セラミック充填材は、ペロブスカイト型(ABO)のセラミックである、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)を主成分としてもよい。
【0010】
それは化学構造式
Ba1−x−yTi1−a−bMn
を有することができ、ここで、パラメータは以下のように定義されうる。
x=0から0.5、
y=0から0.01、
a=0から0.01、
b=0から0.01。
【0011】
この構造式において、Mは原子価2の陽イオン、例えばCa、SrまたはPbなどを表し、Dは原子価3または4のドナー、例えばY、Laまたは希土類元素などを表し、Nは原子価5または6の陽イオン、例えばNbまたはSbを表す。
【0012】
したがって、非常に多様なセラミック材料が使用されることができ、そのことによって、セラミックの組成は、得られた焼結セラミックに必要な電気的特徴に応じて選ばれることができる。
【0013】
母材の融点がセラミック充填材の融点よりも低いので、原料は射出成形可能である。
【0014】
一実施形態によれば、原料中の母材の含有量は20重量パーセント以下であり、例えば12重量パーセント以下である。この含有量はコストを減少させ、焼結前または焼結中に取り除かれる母材のバーンアウト時間を減少させる。さらに、原料中の母材物質の量が少ないことは、バーンアウトの間の寸法の変化を制御し、焼結される間の原料の収縮を抑制することに役立つ。
【0015】
母材は、一実施形態によれば、ろう、樹脂、熱可塑性プラスチックおよび水溶性高分子化合物を含む群から選択される材料からなる。例えば、低分子量ポリエチレン、ポリスチレン、パラフィン、微晶質ワックス、数種類の共重合物、およびセルロースが母材に含まれうる。加えて、母材は、潤滑剤、可塑剤、および酸化防止剤からなる群から選択される少なくとも1つ以上の成分を含んでもよい。例えば、フタル酸可塑剤または潤滑剤としてのステアリン酸が母材に含まれてもよい。
【0016】
原料中の金属不純物はFe、Al、Ni、CrおよびWを含みうる。原料の調製の間に用いられる工具からの摩耗による、原料中のそれらの成分は、合計して、またはそれぞれで10ppm未満である。
【0017】
一実施形態によれば、射出成形のための原料を調製する方法は、i)焼結によってPTCセラミックに変換可能なセラミック充填材を調製するステップと、ii)セラミック充填材を結合するために母材とセラミック充填材を混合するステップと、iii)セラミック充填材および母材を含む顆粒を生成するステップと、からなる。
【0018】
処理全体の間に、そのような低い摩耗率を有する工具が用いられるため、前記摩耗によって発生した10ppm未満の不純物を含む原料が調製される。したがって、摩耗で発生した金属不純物の量が少ない射出成形可能な材料の調製が、射出されたPTCセラミックの所望の電気的特徴が喪失することなしに達成される。
【0019】
ステップi)では、セラミック充填材が、適切な未加工の材料を混合し、それらをか焼し(calcinate)、挽いて粉にすることによって調製されうる。約2時間の間約1100℃の温度で行われうるか焼の間、Ba1−x−yTi1−a−bMnであり、x=0から0.5、y=0から0.01、a=0から0.01、b=0から0.01である構造式のセラミック材料が形成され、ここでMは原子価2の陽イオン、Dは原子価3または4のドナー、Nは原子価5または6の陽イオンである。このセラミック材料を挽いて粉にして、乾燥することでセラミック充填材を得る。
【0020】
適切な未加工の材料はBaCO、TiO、Mnを含む溶液およびYイオンを含む溶液、例えばMnSOおよびYO3/2、およびSiO、CaCO、SrCOおよびPbの群からの少なくとも1つを含んでよい。これらの未加工の材料から、例えば、(Ba0.3290Ca0.0505Sr0.0969Pb0.13060.005)(Ti0.502Mn0.0007)O1.5045のような組成の、ペロブスカイト構造を有するセラミック材料が調製されうる。このセラミック材料の焼結体は122℃の温度Tと、焼結の間の状態に応じて40〜200Ωcmの抵抗率を有する。
【0021】
方法の実施によれば、ステップii)は100℃〜200℃の温度で行われる。第1に、セラミック充填材および母材が室温で混合され、その後、この冷たい混合物が、100℃〜200℃、例えば120℃〜170℃、例えば160℃の温度に熱せられた熱い混合機に入れられる。セラミック充填材および充填材を結合する母材は熱い混合機内で捏ねられて高温で一様な濃度にされる。混合機または混合装置として、双ロールのミルまたは他の捏ねる/砕く装置が用いられうる。
【0022】
双ロールのミルは、異なる速さで互いに反対方向に回転し、調整可能なニップ(nip)を有する2つのローラを有してもよく、ニップを通り過ぎる際にセラミック充填材と母材とに激しい剪断応力を与える。さらに、1つまたは2つのスクリューを有する押出し機が、ボールミルまたはブレード型の混合機と同様に、母材およびセラミック充填材を含む混合物を調製するために使用されてもよい。
【0023】
ステップiii)では、母材とセラミック充填材との混合物は室温まで冷却されて小片へと破壊される。冷却されると混合物は硬化し、小片へと破壊されることによって原材料の粒子が形成される。
【0024】
本方法の実施例によれば、方法のステップi)、ii)、iii)において使用される工具は硬い材料の被覆を有する。被覆は任意の硬い金属、例えば炭化タングステン(WC)などからなってよい。そのような被覆は、セラミック充填材と母材との混合物と接触した際の工具の摩耗の程度を減少させ、原料の調製において前記摩耗によって生じる金属不純物量を少なくすることを可能とする。金属不純物はFeであってよいが、Al、NiまたはCrでもよい。工具がWCなどの硬い被覆で被覆される場合、Wの不純物が原料に入り込むおそれがある。しかしながら、これらの不純物は50ppm未満の含有量である。この濃度では、これらの不純物は焼結PTCセラミックの所望の電気的特性に影響を与えることはないことが判明している。
【0025】
原料の金属不純物は化学分析法、例えば誘導結合プラズマ(IPC)分析によって検出されうる。IPC分析は広い範囲の濃度にわたってほとんどの元素に適用可能な元素分析のための技術である。周期表の多くの元素が分析可能である。試料は分析に先立って溶解されなくてはならない。
【0026】
ステップB)の間、原料は高圧、例えば約1000バールの圧力で型に射出されることができる。
【0027】
一実施形態では、ステップC)における結合材の除去、ステップD)における射出体の焼結が連続して行われる。その場合、結合材は熱による予備焼結によって取り除かれうる。結合材が水溶性ならば、水和によって少なくとも部分的に取り除かれうる。例として、水和によって結合材の含有量は原料の重量の約12%から約6%へと減少しうる。その後、予備焼結処理が行われうる。
【0028】
さらなる実施形態では、ステップC)における結合材の除去、ステップD)における射出体の焼結が同時に行われる。その場合、結合材は焼結によって取り除かれうる。
【0029】
ステップD)における焼結処理は1250℃〜1400℃、例えば1300℃〜1350℃の範囲内の温度で実施されることができる。ステップE)において、冷却速度は、最高温度(1300℃〜1350℃)から900℃までの温度範囲において、1K/分〜30K/分の間、好ましくは2K/分〜20K/分の間でありうる。
【0030】
焼結温度と冷却速度の両方が、抵抗率ρ25またはρ−T曲線の勾配などのPTC効果の特徴に直接影響を及ぼす。
【0031】
添付の図面と共に考慮された場合、他の特徴が、以下の発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】温度Tの関数として、異なる量の不純物を含むPTCセラミックの抵抗率ρを示す図である。
図2】流体を加熱するための成形体の実施形態を示す図である。
図3】管部分を加熱するための成形体の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1において、PTCセラミックのρ−T曲線が示され、ここで抵抗率ρはΩcmで表示され、対する温度Tは℃で表示される。
【0034】
粒子Rは高い剪断率の下で捏ねることなく乾式成形するために調製された参考の粒子である。したがって、粒子Rには工具のいかなる摩耗もなく、調整方法による金属不純物が全くまたは非常にわずかにしか含まれない。それは、特徴的な温度T=122℃より低い温度において約30Ωcmの抵抗率を示し、122℃を超える温度でρ−T曲線の勾配が急になることを示す。
【0035】
射出成形体F1、F2、F3について、電気的特性におけるセラミック材料の金属不純物の量の影響がそれぞれの曲線からわかる。原料F1は、被覆されていない鋼でつくられた工具で射出成形のために調製されており、被覆を妨げる任意の摩耗が存在する。
【0036】
原料F2およびF3は、金属不純物につながる摩耗を妨げる表面被覆を有する工具で射出成形のために調製されている。原料F3の調製においては、すべての工具は硬い金属WCによって被覆されており、それに対して原料F2の調製においては、工具は部分的にのみ被覆されており、よって原料が方法のいくつかのステップの間、工具の鋼に接触している。
【0037】
それゆえ、不純物の量はF1からF2へ、そしてF3へと減少している。F1およびF2において、金属不純物の量は10ppmよりも大きく、20℃〜180℃までの測定された温度範囲全体において、抵抗率をより高い値にずらすことにつながる。
【0038】
しかしながら、金属不純物の量が十分に少ない場合、F3の場合においては、曲線は参考曲線Rに近いものとなる。
【0039】
セラミック材料のρ−T曲線の特徴的部分は、セラミック材料の化学組成に強く依存する。他の実施形態では、セラミック材料は図1に使用されたセラミックとは異なる化学組成を含んでもよく、T、ρ25およびρ−T曲線の勾配の値が異なることを特徴とする。材料はキュリー温度が−30℃〜350℃の間の範囲にくるように選ばれてもよい。他の実施形態では、キュリー温度はこの範囲を外れてもよい。
【0040】
さらに、原料の化学組成だけでなく、焼結温度および成形体の連続的な冷却速度のような処理パラメータが、電気的抵抗の高さに影響を及ぼす。
【0041】
例として、図1の曲線F3のセラミック材料は1300℃の温度で焼結されてその後急速に冷却される。処理パラメータのために、ρ25は約25Ωcmである。同じ材料が約1350℃の温度で焼結されてその後により遅い速度で冷却される場合、抵抗率は約200Ωcmの値まで上昇する。一般に、より高い焼結温度およびより高い冷却速度ではρ−T曲線は上方にずれることが観察されうる。
【0042】
複数の実施形態では、セラミック材料の化学組成に応じて、低い温度および高い冷却速度で焼結された焼結体の抵抗率ρ25は3〜10000Ωcmの範囲にある。正確な値はセラミック材料の化学組成に依存する。高い焼結温度および低い冷却速度で抵抗率ρ25は5〜30000Ωcmの範囲となりうる。ρは低い焼結温度および早い冷却速度で3〜100Ωcmの範囲となりうる。この値は高い焼結温度および遅い冷却速度における5〜500Ωcmの範囲に相当する。他のセラミック材料の使用もまた、ここで挙げた範囲を大きく下回るかまたは上回る抵抗率につながることがある。
【0043】
PTC効果を示すセラミック材料はほとんどすべての種類の複雑な形状および広い範囲の寸法で射出成形可能である。
【0044】
特に、体を貫くいかなる直線に対しても、この直線に垂直な少なくとも2つの断面領域であって、この直線に沿った並行移動によって互いに重なり合うことができない断面領域が存在する体が成形可能である。この体は、軸に沿った断面がテンプレートの断面と一致する、他の形状とは対照的である。
【0045】
ここで示した射出成形体は湾曲した表面領域を有してもよい。また、これは、平坦な表面領域と湾曲した表面領域の組み合わせを有してもよい。例として、射出成形体は円錐形、ピラミッド形、円筒形、立方形ならびに任意の他の形状、または異なる形状の任意の組み合わせを有してもよい。一実施形態では、射出成形体は軸の周りに回転させた基本形を有する。
【0046】
さらに、射出成形体はすべての種類の不規則な形状を有することができる。一実施形態では、射出成形体には、体を貫くいかなる直線に対しても、この直線に垂直な少なくとも2つの断面領域であって、この直線に沿った並行移動およびこの直線のまわりの回転によって互いに重なり合うことができない断面領域が存在する。
【0047】
そのような不規則な形状には突起、くぼみ、およびスリットが含まれる。成形体はまた、様々な形状の溝または穴、例えば円錐形状の穴を有してもよい。一実施形態では、成形体は外面または内面に、例えば既存の溝の内側に、リブを有する。突起、くぼみまたはスリットは、さらなる体またはハウジング、例えば接続スレッドまたはフランジなどに成形体を接続するための手段であってもよい。
【0048】
一実施形態では、射出成形体は、さらなる体またはハウジングの表面領域の少なくとも1つの部分と相補的な、表面領域の少なくとも1つの部分を有する。
【0049】
表面領域のそのような相補的な形状は、さらなる体の寸法に適合した寸法で構成されてもよい。さらに、表面領域の湾曲は、同じように湾曲したハウジングに成形体が合わさるように形成されてもよい。代替として、またはそれに加えて、成形体はさらなる体のためのハウジングを構成してもよい。
【0050】
突起およびくぼみは、さらなる体またはハウジングのくぼみまたは突起に合わさるように形成されてもよい。一実施形態では、成形体はさらなる体に強固に付着してもよい。代替の実施例では、空洞が成形体とさらなる体との間に存在してもよい。射出成形処理において直接形成される連結手段によって、機械的接触および熱的接触が確立されてもよい。
【0051】
例示のために、図2および図3に射出成形されたPTCセラミックの2つの例を示し、それらは加熱部材として用いられうるものである。上に述べたとおり、射出成形体の形状および寸法はここに記した実施形態に決して制約されるものではない。
【0052】
図2は管形のPTCセラミックを含む射出成形体1を示す。流体は存在する溝2を通って流れ、PTCセラミックによって熱せられうる。この目的のために、成形体1は内部表面領域4および外部表面領域5上に電気的接点3を有する。これらの接点3はCr、Ni、Al、Agまたは任意の他の適切な材料を含む金属ストリップを含んでもよい。
【0053】
少なくとも成形体1の内部表面4は、相互作用、例えば流体とPTCセラミックまたは内部電気接点との間の化学反応を阻止するように、不動態層をさらに有してもよい。この不動態層は例えば低融点ガラスまたはナノ複合材料のラッカーからなってもよい。ナノ複合材料のラッカーは以下の複合材料:SiOポリアクリル酸複合材料、SiOポリエーテル複合材料、SiOシリコーン複合材料のうち1つ以上からなってもよい。
【0054】
示された管は中間区間6において外側にふくらんでいる。このことは、中間区間6における管の内部直径および外部直径が、両者の端部区間7における直径よりも大きいことを意味する。加えて、いくつかのスリット8が端部区間7に存在する。これらのスリット8は成形体1を相補的な突起を示す他の管の区間(ここには示さない)に固定する役割を果たすことができる。成形体1の寸法および形状は、さらなる管の区間に容易に適合できるように選択される。
【0055】
スリット8は射出成形処理の間に直接形成されるものであり、後から導入されるものではない。スリット8およびふくらんだ形状の中間区間6のために、流れ方向に垂直な断面は、管の中間区間6と管の端部区間7において異なっている。したがって、体は押し出し成形によって形成されることはほとんど不可能である。
【0056】
一実施形態では、図2に示す成形体は20mmの外部管直径、流体流れ方向における30mmの長さ、3mmの壁厚を有する。他の実施形態では、そのような体はより小さい、またはより大きい、例えば数メートルの範囲の寸法を有しうる。
【0057】
図3は射出成形体1の実施形態の図であり、射出成形体は管の区間(図示せず)を熱するために用いられ、管は流体が通ることができる。射出成形体は、管の区間の寸法と相補的な内部半径を有する湾曲した表面2を有する。さらに、射出成形体は2つの平坦な面3および4を有する。これらの領域3および4は、さらなる加熱領域(図示せず)に要素を接続するように用いられることができ、そして管の区間が加熱領域によって取り囲まれる。さらに、両方の領域が電気的接点を有しうる。
【0058】
一様相では、PTCセラミック要素が温度測定装置の部分である。温度の関数としてのPTCセラミックの電気抵抗率の特徴的な変動のために、射出成形体は温度センサ要素またはその一部であってもよい。PTCセラミックは図2および図3に示す加熱要素と同様の形状であってもよい。それは完全に異なった形状を有してもよい。
【0059】
一実施形態では、PTCセラミック要素は温度制御装置の部分である。射出成形体は自己調節加熱要素の部分であってよい。ここで、PTC要素を通る電流の流れが温度の上昇につながることが利用されうる。温度の上昇のため、PTCセラミックの抵抗率は増加する。一定電圧で作動する場合、抵抗率の増加は今度は電流の流れの減少につながる。結論として、セラミックの加熱は再び減少する。
【0060】
一実施形態では、PTCセラミックが加熱要素として用いられてもよい。ここで、加熱効率は、加熱手段内のさらなる要素と相補的な形状を示す成形体、および体に一体化された結合手段によって最適化されうる。
【0061】
さらなる実施形態によれば、ここで記載した射出成形体は、過負荷温度から他の要素を保護する電気回路の要素であってもよい。さらなる様相では、過負荷電流または過負荷電圧から電気回路内の他の要素を保護するものでもよい。射出成形されたPTCセラミックは電気回路内のオン/オフスイッチの部分であってもよい。
【0062】
他の実装が以下の請求項の範囲において存在する。異なる実装の要素が、ここで特には記載されない実装を形成するために組み合わされてもよい。
図1
図2
図3