(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、電装品の電気的特性(「蓄電割合」、「バッテリの温度」、「バッテリの充電状態」)に基づいて電装品の診断を行ってはいるが、電気的特性に変化が生じるまでは異常診断できず、故障の未然判断が困難であるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電動式乗り物に搭載される電装品の異常を未然に防ぐための診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明のある形態(aspect)に係る電装品が搭載される電動式乗り物の診断方法は、前記電装品の電気的特性以外の前記電動式乗り物の車体に生じた物理的負荷を検出し、前記検出した物理的負荷に基づいて、前記電装品の電気的特性に基づいた前記電装品の診断動作を変更する、ものである。
【0007】
前記診断方法によれば、電装品の電気的特性に基づいた診断のみならず、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を加味した診断をも行うので、物理的負荷を考慮して電装品を診断することができる。例えば、大きい物理的負荷があった場合には、電気的特性が変化する前に部品交換を促したり詳細に診断することで、異常を未然に又は早期に判断することができる。より具体的には、電動式乗り物の車体に生じた物理的負荷によって、該電動式乗り物に搭載される電装品は電気的特性の変化としての故障には至ってはいないが何らかの損傷を被っている可能性がある。例えば、二輪車の場合、立ちごけなどの軽微な転倒、急な加減速に伴う振動、凸凹道での走行に伴う上下動の揺れやジャンピングなどが起こり易く、その際に電装品の配線不良や性能劣化が生じ易くなる。そこで、このような車体に生じた物理的負荷を加味して電装品の診断を行うことにより、異常を未然に又は早期に診断することができる。なお、電気的特性の変化に基づく通常の診断はその変化が生じたことを契機として行われる。一方、物理的負荷の経緯に基づく診断は、電気的特性の変化が生じていなくて物理的負荷を加味して行われるので、受動的な通常の診断を比べると予測形の(能動的な)診断となる。
【0008】
前記診断方法において、前記電装品の電気的特性に基づいた前記電装品の診断動作を変更することは、前記検出した車体に生じた物理的負荷に基づいて前記電装品の損傷の可能性が高いか否かを判定することと、前記電装品の損傷の可能性が高いことを判定した場合、前記電装品の損傷の可能性が高くないと判定した場合に比べて、前記電装品の電気的特性に基づいた診断規則を前記電装品に異常が有ると診断しやすくなるように変更することと、を含むとしてもよい。
【0009】
前記診断方法によれば、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷によって、電装品は実際に電気的特性の変化としての故障には至ってはいないが何らかの損傷(電気配線の不良や電装品の性能劣化など)を被っている可能性があるので、このような電装品の損傷の可能性を判定することが可能となる。さらに、電装品の損傷の可能性が高いことを判定すれば、電装品に異常が有りと診断した結果を早期に電動式乗り物の操縦者又は所有者に通知することが可能となる。例えば、電装品の電気的特性に基づく診断と比べて、異常を予測して電装品に異常が有りと診断する基準(閾値など)を厳格にしてもよいし、診断項目を増加してもよい。あるいは、診断に要する時間を長くしてもよいし、診断周期を短くして診断回数を増やしてもよい。なお、電装品に異常が有りと診断した場合には、電装品のメンテナンスの必要性や操縦者又は所有者にメンテナンスを推奨する時期を併せて通知してもよい。
【0010】
前記診断方法において、前記車体に生じた物理的負荷は、前記車体が受けた機械的な衝撃度合を表す物理量の変化を含む、としてもよい。
【0011】
前記診断方法によれば、転倒履歴、衝突履歴や凸凹道での操縦履歴などの「車体が受けた機械的な衝撃度合を示す物理量」の変化によって電装品などが損傷を被っている可能性が高いことを判定することができる。例えば、車体が受けた機械的な衝撃により、電気配線の不良や電装品の性能劣化に陥っている可能性が高いことを判定することができる。
【0012】
前記診断方法において、前記車体に生じた物理的負荷は、前記車体の温度環境を表す物理量の変化を含む、としてもよい。
【0013】
前記診断方法によれば、バッテリ、電気モータ、及びインバータの温度や外気温度などの「車体の内外環境」の変化によって電装品などが損傷を被っている可能性を予測することができる。例えば、夏期日中などの高温環境下での長期保管の影響でバッテリがその性能を劣化させるような高温状態に陥っている可能性が高いことを判定することができる。なお、高温環境下としては、過充電状態、過電流状態が長期継続する場合であってもよい。
【0014】
前記診断方法において、前記電動式乗り物は、前記車体の制御を司る車体制御ユニットを備え、前記車体に生じた物理的負荷は前記車体制御ユニットに供給される物理量の変化を含む、としてもよい。
【0015】
前記診断方法によれば、車体制御ユニットの車体制御に用いる物理量を検出するために、電動式乗り物に搭載されている各種のセンサを電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷に基づく診断のために流用することができるので、電動式乗り物の診断システムの構成を簡素化することができる。なお、車体制御ユニット向けのセンサとして、走行履歴、走行速度、モータ回転数、ギヤ比、加減速などのセンサが挙げられる。したがって、例えば、バッテリの劣化を早めるような操縦をしている可能性が高いことを判定することができる。
【0016】
前記診断方法において、前記車体に生じた物理的負荷は、前記車体の保管時に検出される物理量の変化を含む、としてもよい。
【0017】
前記診断方法によれば、車体の保管時における電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を加味した診断を行うことができる。例えば、車体の保管時における外気温度や、車体の保管時における転倒などを考慮に入れた診断が可能となる。
【0018】
前記診断方法において、前記検出した車体に生じた物理的負荷を記憶することをさらに含み、前記電装品の電気的特性に基づいた前記電装品の診断動作を変更することは、前記電装品に含まれるバッテリを充電するときに、前記記憶された車体に生じた物理的負荷に基づいて前記電装品の電気的特性に基づいた前記電装品の診断動作を変更することを含む、としてもよい。
【0019】
前記診断方法によれば、バッテリの充電時間を利用して電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を加味した診断を遂行することができる。言い換えると、電装品の診断のみに要する時間を短縮化することができる。
【0020】
前記課題を解決するために、本発明の他の形態(aspect)に係る電装品が搭載される乗り物の診断システムは、前記電装品の電気的特性以外の前記乗り物の車体に生じた物理的負荷を検出する検出部と、前記検出した物理的負荷に基づいて、前記電装品の電気的特性に基づいた前記電装品の診断動作を変更する制御部と、を備えるものである。
【0021】
前記構成によれば、電装品の電気的特性に基づいた診断のみならず、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を加味した診断をも行うので、物理的負荷を考慮して電装品を診断することができる。
【0022】
前記課題を解決するために、本発明のさらなる他の形態(aspect)に係る電装品が搭載される乗り物の診断システムは、前記乗り物は、前記検出した車体に生じた物理的負荷を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記物理的負荷を車外装置に送信する送信部と、を備え、前記車外装置は、前記乗り物から送信された前記物理的負荷を受信する受信部と、前記受信した物理的負荷に基づいて、前記電装品の電気的特性に基づいた前記電装品の診断動作を変更する制御部と、を備えるものである。
【0023】
前記構成によれば、乗り物の車外装置において、診断時期を限定せずに何時でも、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を加味した診断を行うことができる。また、診断処理を実行するための回路やプログラムを乗り物に搭載する必要がなくなるので、乗り物に搭載される記憶器の容量や部品点数を削減することができる。
前記診断システムにおいて、前記乗り物は、電動二輪車である、としてもよい。
【0024】
前記構成によれば、電動二輪車はその構造上、立ちごけなどの軽微な転倒、急な加減速に伴う振動、凸凹道での走行に伴う上下動の揺れやジャンピングなどが起こり易く、特許文献1に比べると電装品が車体外に露出して物理的な衝撃の他に外部温度の影響を受けやすくなる。そして、その際に電装品の損傷(配線不良や性能劣化など)が生じ易くなるので、このような電装品への負荷程度を電装品の診断に加味することができる。
【0025】
本発明の前記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、乗り物に搭載される電装品をきめ細やかに診断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下ではすべての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、特に言及しない場合にはその重複する説明を省略する。
【0029】
(実施の形態1)
[全体システムの構成例例]
本発明の実施の形態1では、電動式乗り物が電装品の診断を行う機能を備えている場合とする。つまり、電動式乗り物が単独で診断システムを構成している場合である。
【0030】
図1は本発明の実施の形態1における電動式乗り物の診断システムの全体構成例として、電動式乗り物の左側面図の一例を示した図である。
図1では、電動式乗り物として電動二輪車が例に挙げられているが、電動二輪車に限るものではなく、その他の鞍乗型の電動車両(電動三輪車など)であってもよいし、多目的車両などの居住空間を有する電動四輪車や、小型船舶のような車両以外の電動式乗り物であってもよい。また、内燃機関を併せ持つハイブリッド型の電動式乗り物であってもよい。
【0031】
図1に示す電動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3と、前輪2と後輪3との間に配設される車体フレーム4と、車体フレーム4に支持された電気モータ5と、を備えている。電動二輪車1は、内燃機関を備えておらず、電気モータ5により発生された走行動力により後輪3を回転駆動するように構成されている。
【0032】
前輪2は、あるキャスター角で傾斜しながら略上下方向に延設されたフロントフォーク6の下部において回転可能に支持されている。フロントフォーク6の上部にはステアリングシャフト7が接続され、ステアリングシャフト7の上部にはバー型のハンドル8が取り付けられている。ハンドル8の右グリップは、操縦者が電気モータ5により発生される走行動力を調整するためのスロットルグリップである。
【0033】
車体フレーム4は、ヘッドパイプ11と、左右一対且つ上下一対のメインフレーム12と、左右一対のダウンフレーム13と、左右一対のピボットフレーム14と、左右一対のスイングアーム15と、シートフレーム16とを有している。なお、ヘッドパイプ11は、ステアリングシャフト7を回転可能に支持している。また、シートフレーム16は、操縦者及び同乗者が前後に並んで着座可能なシート(図示せず)を支持している。
【0034】
電気モータ5は、ダウンフレーム13の下方且つピボットフレーム14の前方の領域に配置されている。電気モータ5により発生された走行動力は、動力伝達機構17を介して後輪3に伝達される。電気モータ5は、モータケース18に収容されている。モータケース18は、動力伝達機構17を構成する変速機(図示せず)を電気モータ5と共に収容し、ダウンフレーム13及びピボットフレーム14に懸架されている。なお、変速機は、多段型及び無段型のどちらでもよいし、手動型及び自動型のどちらでもよい。
【0035】
電動二輪車1は、電気モータ5を収容するモータケース18の他に、インバータケース19及びバッテリケース80を搭載している。インバータケース19はインバータ20をはじめとした電装品を収容しており、バッテリケース80はバッテリユニット60をはじめとした電装品を収容している。インバータケース19は、メインフレーム12とピボットフレーム14とシートフレーム16とにより囲まれた側面視で略逆三角形状の空間に配置され、バッテリケース80の下後端部の直ぐ後ろに配置されている。バッテリケース80は、左右一対のメインフレーム12の間、左右一対のダウンフレーム13の下側部よりも上、且つピボットフレーム14よりも前の空間に配置され、前輪2及び後輪3により前後方向に挟まれている。
【0036】
バッテリケース80にはバッテリユニット60を車外から充電するための充電コネクタ49が配設されている。例えば、充電コネクタ49の嵌合部がバッテリケース80の外装面に露出されてもよいし、バッテリケース80の開口部(充電口)に配設されて該開口部が所定のカバーで被覆されるようにしてもよい。
【0037】
[診断システムの構成例]
図2は、
図1に示す電動二輪車1の診断システムの構成例として、特に電装品及びそれらの電気配線を表した電気システムの構成例を示す図である。
【0038】
バッテリユニット60は、高圧且つ直流の単体の二次電池として機能するユニットである。具体的には、複数のセルが電気的に直列に接続されて成る電池モジュール、若しくは複数の該電池モジュールを電気的に直接に接続されて成る電池スタックとして構成されている。なお、セルは、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの、直流電力を蓄える二次電池である。
【0039】
バッテリユニット60は、正極側及び負極側の充電線491を介して充電コネクタ49に電気的に接続されるとともに、正極側及び負極側の電源線(601a,601b)を介してインバータ20と電気的に接続されている。インバータ20は、バッテリユニット60から送られる高圧の直流電力を、車体制御ユニット59からのトルク指令などに従って三相の交流電力に変換し、その三相の交流電力を三相交流配線201を介して電気モータ5に供給する。電気モータ5は、インバータ20からの交流電力の給電を受けて駆動され、電流などの電気的特性に応じた走行動力を発生する。この走行動力はクラッチ50を介して駆動系に伝達される。
【0040】
バッテリユニット60とインバータ20との間には車載リレー30が配設されている。つまり、バッテリユニット60は正極側及び負極側の電源線601aを介して車載リレー30と電気的に接続され、車載リレー30は正極側及び負極側の電源線601bを介してインバータ20と電気的に接続されている。車載リレー30は、それぞれ後述の漏電検知器54、バッテリ監視ユニット58又は車体制御ユニット59からの指令に従って、バッテリユニット60とインバータ20との間を連通若しくは遮断するように構成されている。
【0041】
バッテリユニット60と車載リレー30との間の電源線601aには漏電検知器54が電気的に接続されている。漏電検知器54は、バッテリユニット60から車体フレーム4などのグランド電位に維持されている車体グランド部位への漏電を検知するものである。例えば、漏電検知器54は、バッテリユニット60と車載リレー30との間の電源線601aから分岐した電源線541と接続される他に、グランド電位に維持された車体フレーム4ともグランド線542を介して接続されている。また、漏電検知器54は、漏電検出抵抗などを備えており、該漏電検出抵抗に生じた電圧降下などに応じてバッテリユニット60から電源線601a,541及びグランド線542を介して車体フレーム4へと至る漏電パスが形成されているか否かを検知するよう構成されている。なお、漏電検知器54は、バッテリユニット60の漏電を単に検知するだけでなく、バッテリユニット60の漏電を検知したときにはバッテリユニット60とインバータ20との間を遮断するよう車載リレー30を直接的に作動させるようにしてもよい。若しくは、車体制御ユニット59によって車載リレー30を間接的に作動させるために、漏電検知器54は漏電を検知した結果を車体制御ユニット59に伝達してもよい。
【0042】
また、バッテリユニット60はバッテリ状態センサ65と電気的に接続されている。バッテリ状態センサ65は、バッテリユニット60に生じた物理的負荷を検出する各種のセンサを定義したものである。例えば、バッテリ状態センサ65は、バッテリユニット60の状態を示す物理量として、「電圧」、「電流」、「内部抵抗」、「SOC(State Of Charge)」、「SOH(State Of Health)」若しくは「温度」などを検出するための各種のセンサが挙げられる。なお、バッテリ状態センサ65によって検出された情報は、バッテリ監視ユニット58及び車体制御ユニット59へと伝達される。
【0043】
バッテリ監視ユニット58は、バッテリ状態センサ65により検出されたバッテリユニット60の状態を示す情報に応じてバッテリユニット60とインバータ20との間を遮断するように車載リレー30を作動させる。
【0044】
車体制御ユニット59は、バッテリ監視ユニット58と通信しており、バッテリ状態センサ65により検出されたバッテリユニット60の状態を示す情報を共有している。そして、車体制御ユニット59は、バッテリユニット60の状態を示す情報に応じて車載リレー30を作動させるか若しくはインバータ20へ任意のトルク指令を出力する。なお、車体制御ユニット59は、バッテリ監視ユニット58から伝達される情報の他に、車体状態センサ90により検出された車体の状態を示す情報や、操縦状態センサ95により検出された操縦者による操作の状態を示す情報が入力される。車体制御ユニット59は、車体状態センサ90及び操縦状態センサ95から入力された情報を用いても車載リレー30及びインバータ20を制御している。
【0045】
車体状態センサ90は、車体の状態を示す物理量を検出する各種のセンサを定義したものである。例えば、車体状態センサ90は、「車体が受けた機械的な衝撃度合を示す物理量」を検出するためのセンサを含んでおり、例えば、転倒センサ、バンク角センサ、加速度センサ、ショックセンサ、車速センサ、及び振動センサなどが挙げられる。また、車体状態センサ90は、「車体の内外温度を表す物理量」を検出するためのセンサを含んでおり、例えば、電気モータ5やインバータ20などのバッテリユニット60以外の電装品の温度、及び/又は外気温度を検出するセンサなどが挙げられる。また、車体状態センサ90は、走行制御のための必要な情報(例えばモータ回転数、走行速度、前輪速度、後輪速度、機械ブレーキ制動量、バッテリ電圧/電流、モータ電圧/電流)を検出するためのセンサを含んでおり、例えば、車速センサ、前輪回転数センサ、後輪回転数センサ、モータ回転数センサ、ギヤポジションセンサ、電流センサ、電圧センサ、スタンドスイッチなどが挙げられる。
【0046】
操縦状態センサ95は、操縦者による操作の状態を示す物理量を検出する各種のセンサを定義したものである。例えば、操縦状態センサ95は、スロットル位置センサ、及び変速段センサ、ブレーキ操作センサ、クラッチ操作センサ、モード切替スイッチなどが挙げられる。
【0047】
車体制御ユニット59は、記憶器590を備え、バッテリ監視ユニット58から得られた「バッテリユニット60の状態を示す物理量(電気的特性)」と、車体状態センサ90から入力された「車体が受けた機械的な衝撃度合を示す物理量」及び「車体の内外環境を表す物理量」と、操縦状態センサ95から入力された「操縦者による操作の状態を示す物理量」や「走行制御に用いられる物理量」をそれぞれ記憶器590に記憶する。記憶器590に記憶される情報をまとめたものが
図3である。なお、記憶器590に情報を記憶する契機としては、少なくとも診断前であって、電動式乗り物1の走行中、走行停止中又は保管中である。
【0048】
なお、各センサにより検知した物理的負荷はRAMなどの一時記憶場所に記憶されてから、走行終了時に情報が整理されて、物理的負荷の履歴として記憶器590に記憶される。この記憶器590は、電源供給なくてもデータ消去されない不揮発性メモリであることが好ましく、データ書き換え可能に構成されることが好ましい。物理的負荷の生データではなく、物理的負荷の履歴を累積値、積算値、平均値、総合値など、物理的負荷の加工値として不揮発性メモリに記憶することで、データ容量を抑制することができる。
【0049】
車体制御ユニット59は、記憶器590に記憶された各種センサから供給された車体制御のための物理量に基づいて、転倒履歴、衝突履歴、及び凸凹道での操縦履歴などを求めることができる。また、車体制御ユニット59は、記憶器590に記憶された「操縦者による操作の状態を示す物理量」に基づいて、走行履歴(GPS距離マップなど)、走行速度、モータ回転数、ギヤ比、加減速、及びそれらの累積値や平均値などを求めることができる。
【0050】
なお、記憶器590は、車体制御ユニット59の外部(例えば、センサ)に備えられてもよい。
【0051】
[診断処理例]
図4は本発明の実施の形態1における電動式乗り物の診断処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、この診断処理を遂行する主体は、電動式乗り物(特に、その車体の制御を司る車体制御ユニット59)である。以下では、
図2に示す診断システムの構成要素を適宜参照して、
図4に示すフローチャートを説明する。
【0052】
また、電動式乗り物1は、記憶器590から車体に生じた物理的負荷を読出し(ステップS401)、この読出した車体に生じた物理的負荷に基づいて電装品が損傷している可能性を判定する(ステップS402)。具体的には、前記物理的負荷として、車体状態センサ90から入力された「衝撃度合を示す物理量」及び「車体の内外温度を表す物理量」と、操縦状態センサ95から入力された「操縦者による操作の状態を示す物理量」や「走行制御に用いられる物理量」とが挙げられる。
【0053】
また、電装品の損傷としては、例えば、電気配線の不良や電装品の性能劣化が挙げられる。なお、電気配線の不良としては、例えば、断線、漏電、短絡などが挙げられる。電装品の性能劣化としては、例えば、バッテリユニット60を構成するセルの性能劣化、車載リレー30の接点の動作不良などが挙げられる。
【0054】
電動式乗り物1は、電装品の損傷の可能性が低いことを判定するとき(ステップS403:NO)、記憶器590から電装品の電気的特性を読出し(ステップS404)、この読出した電気的特性に基づいて該電装品の異常の有無を診断する(ステップS403)。具体的には、診断対象の電装品の例としてバッテリユニット60が挙げられ、また、バッテリユニット60の検出対象となる電気的特性としては、バッテリ状態センサ65により検出されるバッテリユニット60の状態を示す物理量(電圧、電流、内部抵抗、SOC、SOH、温度など)が挙げられる。この場合、車体制御ユニット59は、バッテリ監視ユニット58から得られたバッテリ状態センサ65により検出される情報に基づき、バッテリユニット60の異常の有無を診断する。ここで、電装品の電気的特性に基づく該電装品の異常の有無を診断する動作のことを説明の便宜上「第1モード」と呼ぶこととする。
【0055】
一方、電動式乗り物1は、電装品の損傷の可能性が高いことを判定するとき(ステップS403:YES)、ステップS401で読出した車体に生じた物理的負荷を加味して電装品の異常の有無を診断する(ステップS406)。ここで、車体に生じた物理的負荷を加味して該電装品の異常の有無を診断する動作のことを説明の便宜上「第2モード」と呼ぶこととする。
【0056】
具体的には、ステップS403において、電装品の性能に悪影響を与える物理的負荷が所定量よりも大きい場合には、ステップS406において、第2モードによる診断を実行する。
【0057】
たとえば衝撃値に基づく場合、以下の(1a)〜(3a)のいずれかの条件を満足すると、第2モードを実行してもよい。
【0058】
(1a)車体が受けた最大衝撃Smaxが所定値αを超えた場合(Smax≧Sα)。
【0059】
(2a)所定値以上の衝撃Supが所定回数nα以上生じた場合(Sup≧nα)。
【0060】
(3a)衝撃度をx個のランクに分けて、ランク毎の発生回数niをカウントし、ランクごとの重み係数kiを設定して、係数kとランク毎発生回数nとの乗算値をランク毎に積算した積算値が所定積算値α1を超えた場合(Σ(ki×ni)≧α1)。
【0061】
たとえば車体の温度環境に基づく場合、以下の条件(1b)〜(4b)のいずれかの条件を満足すると、第2モードを実行してもよい。
【0062】
(1b)最大温度環境Tmaxが所定値Tβよりも大きい場合。
【0063】
(2b)所定値以上の温度環境Tupが所定時間tβ以上継続した場合。
【0064】
(3b)環境温度をy個のランクに分けて、ランク毎の累積時間tiをカウントし、ランクごとの重み係数miを設定して、係数mとランク毎累積時間tとの乗算値をランク毎に積算した積算値が所定値積算値β1を超えた場合(Σ(mi×ti)≧β1)。
【0065】
(4b)単位時間当たりの温度変化ΔTが所定値Δβを超えた場合。
【0066】
たとえば車両走行状態に基づく場合、以下の条件(1c)〜(4c)のいずれかの条件を満足すると、第2モードを実行してもよい。
【0067】
(1c)走行距離が所定値を超えた場合。
【0068】
(2c)所定以上のトルク指令値(電流値)を与えた累積時間が所定値を超えた場合。
【0069】
(3c)走行速度が所定以上となる累積時間が所定値を超えた場合。
【0070】
(4c)所定以上の加減速が所定回数を超えた場合。
【0071】
その他、充電回数、回生回数、累積充電時間、累積放電時間、所定値以上電流の充放電時間など、診断前に検知される他の物理負荷を含めて条件を設定してもよい。
【0072】
なお、上記条件は、それぞれ個別に記載したが、電装品の性能に悪影響を与える物理的負荷を総合的に求めてもよい。すなわち、個々の損傷因子をパラメータ化し、それらの合計値が所定値Bを超えることで、第2モードに移行してもよい。
【0073】
たとえば以下の式を満足すると、第2モードに移行してもよい。
【0074】
a1・A1+a2・A2+…an・An≧B・・・(式1)
ここで、A1〜Anは、損傷に影響を与える個々の物理的負荷であり、a1〜anは、重み係数であり、Bは、総合的にみて損傷の可能性があると考える値である。なお、物理負荷は、電装品を診断する前に予め求められる値であって、納車時から診断前にわたって記録される履歴値であることが好ましい。上式は一例であり、他の式を用いて、損傷予測を行ってもよい。
【0075】
ところで、電気的特性に基づく第1モードと車体に生じた物理的負荷に基づく第2モードとは互いに診断動作が相違している。具体的には、電装品の損傷の可能性が高いことを判定した場合、第2モードによって電装品に異常が有りと診断した結果が第1モードによって電装品に異常が有りと診断した結果よりも早く出力されるよう、診断動作を変更している。
【0076】
つまり、車体に生じた物理的負荷によって、該電装品は実際に故障には至ってはいないが何らかの損傷(電気配線の不良や電装品の性能劣化など)を被っている可能性がある。この場合、転倒履歴、衝突履歴や凸凹道での操縦履歴などの「衝撃度合を示す物理量」の変化によって電装品などが損傷を被っている可能性が高いことを判定することができる。あるいは、「車体の内外温度を表す物理量」の変化によって、例えば、過充電や高温環境下での長期保管の影響でバッテリユニット60がその性能を劣化させるような高温状態に陥っている可能性が高いことを判定することができる。あるいは、走行履歴、走行速度、モータ回転数、ギヤ比、加減速などの「操縦者による操作の状態を示す物理量」や「走行制御に用いられる物理量」の変化によって、例えばバッテリユニット60のセルの劣化を早めるような走行状態となっている可能性が高いことを判定することができる。
【0077】
そして、これらの場合には、第1モードによって電装品に異常が有りと診断されるよりも早く、第2モードによって電装品に異常が有りと診断されるように、第2モードは設計されている。言い換えると、電装品の電気的特性に基づいた診断規則を、電装品に異常が有ると診断しやすくなるよう変更する。例えば、第2モードは、第1モードと比べて、異常が有りと診断する基準(閾値など)を厳格にしてもよいし、診断項目を増加してもよい。あるいは、第2モードの場合には、第1モードと比べて、診断に要する時間を長くしてもよいし、診断周期を短くして診断回数を増やしてもよい。なお、第2モードによって電装品に異常が有りと診断した場合には、電装品のメンテナンスの必要性や操縦者にメンテナンスを推奨する時期を併せて通知してもよい。
【0078】
また、生産品には必ずバラツキがあるので、使用中の生産品の部品の正常性を判断する場合には、このバラツキと実際の部品の特性変化の劣化が混同されて、これを見つけることが難しい。そこで、前述のような診断を行うことにより、例えば、転倒などの機械的な物理的負荷を経験したとき以降は、正常性の判断のしきい値を厳しくするなど、より細やかな判断をしてもよい。
【0079】
[変形例]
第1モードによる電装品の診断(ステップS405)のときにおいても、車体に生じた物理的負荷をも加味してもよい。例えば、バッテリユニット60のセルの劣化を診断する場合に、転倒などが生じた場合には、電装品の損傷の可能性を問わずに、直ちに診断をするようにしてもよい。
【0080】
第2モードによる電装品の診断(ステップS406)のときに、車体に生じた物理的負荷の度合に応じて診断内容を異ならせてもよい。例えば、劣化損傷が大きいと予測されるほど、早くに異常有りと診断する。劣化損傷がきわめて大きいと予測される場合には、電気的特性に基づかずに異常判定してもよい。
【0081】
図3に示す記憶器590には、走行中又は保管中における電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷の履歴情報が記憶されているが、この履歴情報に同期を合わせて電装品の電気的特性を対応付けて記憶するようにしてもよい。これにより、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷の前後の時刻における電装品の電気的特性を識別できるので、電装品のさらなる入念な診断が可能となる。
【0082】
また、第2モードによる電装品の診断(ステップS406)が実施された後、電動式乗り物のメインスイッチが操作されたときに電装品のより詳細な診断を行うようにしてもよい。また、この電装品の詳細な診断によって電装品に異常が無いと判定された場合には、電装品の通常の診断に移行するようにしてもよい。
【0083】
また、ステップS403において、電装品損傷の可能性が低いと判定されたとき(S403:NO)には通常診断用閾値を設定し、電装品損傷の可能性が高いと判定されたとき(S403:YES)には通常診断用の閾値とは異なる予測形診断用閾値を設定し、該通常診断用閾値又は該予測形診断用閾値を用いて電装品の診断を行うようにしてもよい。
【0084】
(実施の形態2)
[診断処理例]
本発明の実施の形態2では、電動式乗り物のバッテリユニットの充電中に第1モード又は第2モードによる電装品の診断が行われる場合とする。なお、この診断処理を遂行する主体は、電動式乗り物(特に、車体制御ユニット59)である。
【0085】
実施の形態2における電動式乗り物の構造例及び診断システムの構成例は実施の形態1の説明(
図1、
図2を参照)と同じであるので、それらの説明は省略する。以下では、
図2に示す診断システムの構成要素を適宜参照して、
図5に示す本発明の実施の形態2における電動式乗り物の診断処理の一例を示すフローチャートを説明する。
【0086】
まず、走行開始時にバッテリユニット60の充電を開始しようとする前に、電動式乗り物1は、定期的に、車体状態センサ90や操縦状態センサ95によって車体に生じた物理的負荷の履歴を検出し(ステップS501)、この検出した情報を記憶器590に記憶しておく(ステップS502)。なお、車体に生じた物理的負荷の検出及び記憶はそれぞれタイミングが異なってもよい。
【0087】
つぎに、充電コネクタ49に外部の充電器(図示せず)が接続された後、バッテリユニット60の充電が開始する(ステップS503)。すると、バッテリユニット60の充電開始を契機として、車体制御ユニット59は、記憶器590に記憶しておいた情報に基づいて電装品が損傷している可能性を判定する(ステップS504)。
【0088】
電動式乗り物1は、電装品の損傷の可能性が低いことを判定するときには(ステップS505:NO)、電装品の電気的特性を検出し(ステップS506)、この検出した電気的特性に基づいて該電装品の異常の有無を診断する(ステップS507)。一方、電動式乗り物1は、電装品の損傷の可能性が高いことを判定するときには(ステップS505:YES)、記憶器590に記憶しておいた車体に生じた物理的負荷に基づいて電装品の異常の有無を診断する(ステップS508)。そして、電装品の異常の有無を診断した後に、バッテリユニット60の充電が終了することとなる(ステップS509)。
【0089】
例えば、走行を開始するためにメインスイッチを入れたときに電装品の診断を行う場合、操縦者にとっては速やかに走行したいはずなので、長い時間を要するような入念な診断を行うことができない。このため、簡易的な診断や重要な項目に限った診断にならざるを得ない。そこで、バッテリユニット60を充電するのに要する時間は比較的長いことと、長期保管中であった電動式乗り物1を操縦する場合には必ず準備として充電操作が生じることと、を鑑みて、バッテリユニット60を充電する時間の有効活用を図ることができる。言い換えると、バッテリユニットを診断することのみに費やされる時間を短縮することができる。
【0090】
[変形例]
前記の説明では、バッテリユニット60の充電時間が第1モード又は第2モードによる電装品の異常の有無の診断時間よりも長いことを前提としているが、バッテリユニット60の充電時間が電装品の異常の有無の診断時間よりも短くてもよい。
【0091】
前記の説明では、バッテリユニット60の充電中に、バッテリ状態センサ65によって電装品の電気的特性を検出しているが(ステップS506)、バッテリユニット60の充電を開始する前に、バッテリ状態センサ65によって電装品の電気的特性を定期的に検出してそれらの情報を記憶器590に記憶してもよい。これにより、第1モードによる電装品の診断の前に電装品の電気的特性の検出を行うステップS506は不要となる。
【0092】
前記の説明では、バッテリユニット60の充電開始(ステップS503)を充電コネクタ49に外部の充電器を接続したときを契機としているが、充電コネクタ49に外部の充電器(図示せず)を接続したままで電動式乗り物1を長期保管している場合において自然放電のためにバッテリユニット60の充電を定期的に行うときを契機としてもよい。つまり、充電コネクタ49に外部の充電器を接続したままで電動式乗り物1の長期保管中に、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を検出してもよい。これにより、例えば、車体の保管時における外気温度や、車体の保管時における転倒などを考慮に入れた診断が可能となる。
【0093】
その他に、実施の形態1と同様の構成例及び診断処理例やそれらの変形例が採用され得る。
【0094】
(実施の形態3)
[診断システムの構成例]
本発明の実施の形態3では、電動式乗り物のバッテリユニットに対して充電を行う外部充電器又はそのホスト装置が電装品の診断を行う機能を備えている場合とする。つまり、電装品の診断処理を遂行する主体は、充電器又はそのホスト装置である。なお、このような充電器のことを本願では診断機能付き充電器と呼ぶこととする。
【0095】
図6は本発明の実施の形態3と後述の実施の形態4における電動式乗り物の診断システムの全体構成例を示す図である。以下では、
図1、
図2に示す診断システムの構成例と相違する点のみを説明する。
【0096】
充電コネクタ49は、診断機能付充電器100とバッテリケース80に収容されているバッテリユニット60とを電気的且つ通信可能に接続するよう構成されている。つまり、電動式乗り物1は、充電コネクタ49を利用して、所定の記憶部(車体制御ユニット59の記憶器590)に記憶されている電装品の電気的特性を表す情報や車体に生じた物理的負荷を表す情報を、診断機能付充電器100に送信する送信部(車体制御ユニット59、通信線492、充電コネクタ49)を備えるよう構成されている。
【0097】
さらに、充電コネクタ49は、グランド電位に維持されている車体フレーム4などと短絡テスト線493を介して信号伝達が可能となるよう接続されている。なお、充電コネクタ49の代わりに、所謂非接触充電向けの受電装置が設けられてもよい。
【0098】
診断機能付充電器100は、充電コネクタ49と嵌合可能なコネクタ101と、交流100Vなどの商用電源のコンセント(差込口)と接続される差込プラグ102と、パーソナルコンピュータ、携帯型通信機器、又はサーバなどのホスト装置200と通信可能に接続するための通信インタフェース103(無線LANや赤外線通信などの無線通信向けのインタフェース、USB(Universal Serial Bus)インタフェース)と、を備えている。診断機能付充電器100は、地上充電設備、又は非接触充電向けの地上送電設備の構造となっており、その利用形態としては、電動式乗り物1の利用者がそれぞれの駐車場に所有する場合や、充電スタンド又は充電スポットと称されるサービスエリアに配置される場合がある。診断機能付充電器100は、コネクタ101を電動二輪車1の充電コネクタ49と嵌合させることにより、バッテリケース80に収容されているバッテリユニット60を充電する機能を備えている。
【0099】
さらに、診断機能付充電器100は、実施の形態1,2のように電動二輪車1に収容されている各種の電装品の診断を行う機能をも備えている。具体的には、電動式乗り物1から送信された車体に生じた物理的負荷を受信する受信部(コネクタ101、アナログ/デジタル変換器など)と、この受信部により受信した電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷に基づいて、電装品の電気的特性に基づいた電装品の診断動作を変更する制御部(CPU、DSP(Digital Signal Processor)など)と、を備えている。
【0100】
[診断処理例]
まず、電動式乗り物1は、バッテリ状態センサ65によって電装品の電気的特性を検出するとともに、車体状態センサ90や操縦状態センサ95によって車体に生じた物理的負荷を検出し、これらの検出した情報を記憶器590に記憶しておく。
【0101】
つぎに、車体制御ユニット59は、記憶器590に記憶しておいた電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を示す情報を適宜なタイミングで診断機能付充電器100に送信する。つまり、車体制御ユニット59から診断機能付充電器100に情報を送信する時点で、電動式乗り物1の充電コネクタ49に診断機能付充電器100が電気的に接続されており、診断機能付充電器100から電動式乗り物1のバッテリユニット60への充電が可能な状態であり、且つ診断機能付充電器100と電動式乗り物1の車体制御ユニット59との間で互いに通信可能な状態となっている。なお、前記の適宜なタイミングとは、例えば、充電コネクタ49に診断機能付充電器100を接続するとき、若しくは充電コネクタ49に診断機能付充電器100を接続したままで電動式乗り物1を長期保管している場合に自然放電のためにバッテリユニット60を定期的に充電しようとするときであって、且つ診断機能付充電器100又はホスト装置200が電装品の診断を開始しようとするときである。
【0102】
つぎに、診断機能付充電器100は、車体制御ユニット59から記憶器590に記憶しておいた情報を受信すると、この受信した情報のうち車体に生じた物理的負荷を示す情報に基づいて該電装品の損傷の可能性を判定する。電装品の損傷の可能性が低いことを判定するとき、受信した情報のうち電装品の電気的特性を示す情報に基づいて該電装品の異常の有無を診断する。つまり、第1モードを遂行する。一方、電装品の損傷の可能性が高いことを判定するとき、受信した情報のうち電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を示す情報に基づいて電装品の異常の有無を診断する。つまり、第1モードとは異なる第2モードを遂行する。
【0103】
前記の処理によれば、診断機能付充電器100において、診断時期を限定せずに何時でも、電装品の電気的特性以外の車体に生じた物理的負荷を加味した診断を行うことができる。また、診断処理を実行するための回路及びプログラムを電動式乗り物1に搭載する必要がなくなるので、電動式乗り物1に搭載される記憶器590の記憶容量や部品点数を低減することができる。
【0104】
[変形例]
前記の説明では、診断機能付充電器100が第1モード又は第2モードによる電装品の診断を遂行しているが、診断機能付充電器100と通信可能に接続されたホスト装置200が診断機能付充電器100から情報を受信し、この受信した情報に基づいて第1モード又は第2モードによる電装品の診断を遂行してもよい。この場合、診断機能付充電器100はホスト装置200と電動式乗り物1との間の通信を中継する中継装置(ゲートウェイ装置、ブリッジ装置など)として機能する。
【0105】
あるいは、診断機能付充電器100以外の電動式乗り物1と電気的且つ物理的に接続される車外装置(例えば、電動車両の電子キーなど)が第1モード又は第2モードによる電装品の診断を遂行してもよい。但し、バッテリユニット60の充電時間の有効利用を図る上でも、充電コネクタ49に接続される外部の充電器が、第1モード又は第2モードによる電装品の診断機能を備えることが好ましい。
【0106】
前記の説明では、診断機能付充電器100及びホスト装置200は電動式乗り物1の所有者の自宅内に設置される場合を想定しているが、診断機能付充電器100及びホスト装置200は充電スタンド又は充電スポットに設置される場合であってもよい。この場合、ホスト装置200は、電動式乗り物1のバッテリユニット60を含めた車体の状態を監視する専用のホームページを公開するWebサーバとして機能し、且つインターネット接続されているサーバであってもよい。電動式乗り物1の所有者は、個人が所有するパーソナルコンピュータや携帯型通信機器をインターネットに接続し、且つホスト装置200が公開している前記の専用のホームページにアクセスすることで、バッテリユニット60の充電状態のみならず、電動式乗り物1に搭載される各種の電装品の診断結果を認識することが可能となる。
【0107】
その他に、実施の形態1、2と同様の構成例及び診断処理例やそれらの変形例が採用され得る。
【0108】
(実施の形態4)
[診断機能付充電器の疑似漏電回路の構成例]
本発明の実施の形態4は、前記の実施の形態3を前提としており、診断機能付充電器100が遂行する電動式乗り物1に搭載される各種の電装品の診断の中に、電動式乗り物1に搭載される漏電検知器54が正常に作動するか否かを判定することが含まれている場合である。なお、漏電検知器54とは、バッテリユニット60から車体フレーム4などのグランド電位に維持されている部位への漏電を検知する機器である。診断機能付充電器100は、漏電検知器54が正常に作動するか否かを判定するために、電動式乗り物1を実際に漏電させるのではなく、バッテリユニット60と車体フレーム4などの車体グランド部位とを故意に短絡させるための疑似漏電回路110を備えている。
【0109】
図7は、診断機能付充電器100が備える疑似漏電回路110の概略構成例を示すブロック図である。
【0110】
漏電検知器54は、バッテリユニット60の正極側と接続された正極側電源端子Pと、バッテリユニット60の負極側と接続された負極側電源端子Nと、車体フレーム4とグランド線542を介して接続されたグランド端子Eと、を備えている。漏電検知器54では、正極側電源端子Pと負極側電源端子Nとの間に漏電検出抵抗Rp,Rnが直列に接続されており、漏電検出抵抗Rp,Rnの接続点がグランド端子Eと接続されている。漏電検知器54は、漏電がある場合にはグランド端子Eに電流が流れることで漏電検出抵抗Rp,Rnに流れる電流が正常時に比べて変化するので、この電流の変化を検出することで漏電判断を行っている。
【0111】
疑似漏電回路110は、バッテリユニット60の正極側と車体フレーム4との間に、SPST方式のスイッチSW1と、抵抗Rgと、SPDT方式のスイッチSW2の固定接点及び一方の可動接点とを直列に接続して構成されている。なお、スイッチSW2の二つの可動接点は、それぞれバッテリユニット60の正極側及び負極側にそれぞれ接続される。また、スイッチSW2の二つの可動接点に対して並列にバッテリユニット60の両端の電圧を検出するための電圧検出器108が接続されている。
【0112】
漏電検知器54が正常に作動するか否かを判定する場合、スイッチSW1が閉じるとともに、スイッチSW2の固定接点といずれか一方の可動接点とが連結される。すると、バッテリユニット60の正極側又は負極側を車体フレーム4などの車体グランド部位に短絡される。このとき、漏電検知器54の漏電検出抵抗Rp,Rnに流れる電流の変化を検出することにより、漏電検知器54が正常に作動するか否かを判定することができる。なお、第2モードによる診断が必要と判断した場合に、疑似漏電回路110による漏電検知器54の動作確認をすることが望ましい。
【0113】
前記動作例によれば、診断機能付充電器100側で、電動式乗り物1のバッテリユニット60を実際に漏電させなくても、電動式乗り物1に搭載される漏電検知器54が正常に作動しているか否かを診断することができる。なお、漏電検知器54が正常に作動していることが確認された後では、車体に生じた物理的負荷に基づいて漏電検知器54が損傷している可能性が高いことが判定されたときに、その要因として漏電検知器54の異常が排除される。したがって、例えば車体が受けた機械的な衝撃によってバッテリユニット60の漏電が実際に発生していることを速やかに検出することが可能となる。
【0114】
前記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、前記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【0115】
以下では、上記構成の説明を部分的に繰り返しつつ、本発明の実施の形態についての補足説明と、変形例についての説明をする。
【0116】
保管中にも車体の電源が入っているならば、走行中と同様に上記物理負荷を取得できる。電源停止指令されてから所定期間については衝撃度検出可能とすることで、転倒の可能性が高い状態を検出可能とするとともに、電源をずっと入れっぱなしにする必要がないので電池の減りも防げる。また充電保管中、充電後コネクタ接続状態での保管中には、車両に隣接配置される外部充電装置によって外部温度を検出してそれを記憶しておき、次回の接続時に車体に温度情報を供給することで、保管中に温度を検知し続けることを防ぐことができ、電池の減りも防げる。
【0117】
車体状態センサは、電装品の物理的負荷(損傷要因)に影響を与える物理量を検出してもよい。車速状態センサは、衝撃度合い、環境温度のほかの損傷要因を検出してもよい。たとえば車体振動数、湿度、気圧などの車体の内外環境を損傷要因として検出して、これらの損傷要因を用いて損傷予想してもよい。たとえば湿度が高い場合、気圧変化が大きい場合には、損傷が進みやすいと考えられる。また損傷が進みやすい車体振動の周波数、振幅を事前に確認することで、損傷要因として診断に利用することができる。
【0118】
メインスイッチ入れたとき、充電時以外にも診断してもよい。たとえばメインスイッチを切ったときに診断してもよい。メインスイッチを切るときには、メインスイッチを入れてから揮発性メモリに記憶された物理的負荷の履歴に基づいて、第2モードの診断が必要かどうか判断してもよい。診断完了後に電源をOFFしてもよい。この場合、揮発性メモリが不要、となり、診断に費やす時間分操縦者を待たせる可能性が低い。
【0119】
電動車の場合には、電池、電気モータ及びインバータなど走行にかかわる主要部分での電装品が多い。本発明のように物理的負荷の履歴に基づいて損傷を予測することで、走行にかかる重要部分の故障判断を適切なタイミングで行うことができる。すなわち過度に行うことを防いで早期に行うことができる。これによって早期診断を受けて故障部位を修理することで、走行に悪影響が出ることを抑えることができる。なお、本実施例では、電動車の電装部品の診断方法について説明したが、電動車以外の車両に搭載される電装部品についても同様に適用することができる。
【0120】
本実施例では、損傷に影響するであろう物理的負荷の履歴を考慮して、バッテリ及び漏電センサを診断したが、他の電装品についても同様に適用可能である。車載リレーの動作異常、インバータ、コンバータ、各種センサ、アクチュエータ、制御装置の出力異常についても同様に、物理的負荷の履歴に応じて、診断方法を異ならせてもよい。たとえば物理的負荷から損傷している可能性が高いと判定されると、各種センサの出力信号、アクチュエータの動作確認回数を増やしたり、正常時には行わない詳細動作確認を行わせてもよい。動作確認として、走行停止状態であったり、駆動電流供給前の状態で、各種電装品へ制御信号/電力を順次供給した場合における出力信号を確認し、出力信号が所定の順序で所定範囲出力されるかどうかを判断してもよい。
【0121】
バッテリを新しくした場合など、記憶している物理負荷の履歴をリセット可能に構成されることが好ましい。このようにすることで、電装品の新旧状況と、物理的負荷の履歴とのずれを防ぐことができる。また診断動作を異ならせるとしたが、損傷の可能性が高いとした場合に、ユーザにメンテナンスを要求するよう報知させてもよい。