(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5681856
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 29/02 20060101AFI20150219BHJP
B43K 7/12 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
B43K29/02 D
B43K7/12
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-104656(P2010-104656)
(22)【出願日】2010年4月29日
(65)【公開番号】特開2011-230439(P2011-230439A)
(43)【公開日】2011年11月17日
【審査請求日】2013年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】栗田 哲宏
【審査官】
砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−184279(JP,A)
【文献】
実開昭51−41529(JP,U)
【文献】
実開平3−19092(JP,U)
【文献】
実開平1−110991(JP,U)
【文献】
特開平11−198585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 5/00−27/12
B43K 29/02
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記体の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を設け、前記筆記体を軸筒内に収容し、前記軸筒の前端孔からペン先を突出状態にして筆記可能にする熱変色性筆記具であって、前記軸筒の前端部に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な弾性材料よりなる摩擦体を設け、前記摩擦体の操作部を軸筒の前端部外面に設け、前記操作部を操作することにより摩擦体を前後に移動可能に構成し、前記軸筒の前端部が、前端に前端孔を備えた内側筒部と、該内側筒部の外周を包囲し且つ前方に突出する外側筒部と、該外側筒部に径方向に貫設され且つ前後に延びるスライド孔と、前記内側筒部と外側筒部との間に形成され且つ前方に開口する環状凹部とを備え、前記摩擦体が、前後に内孔が貫設された筒状部と、該筒状部の外面に突設された操作部とを備え、前記環状凹部に前記摩擦体の筒状部の後部を収容可能に設け、前記スライド孔より前記操作部を径方向に突出させ、前記スライド孔に沿って前記操作部を前後に移動可能に構成してなることを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
前記ペン先が前記軸筒の前端孔から突出状態のとき、前記操作部を操作することによって、前記摩擦体の前端がペン先より前方に位置する請求項1記載の熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸筒内に筆記体を前後方向に移動可能に収容し、軸筒の外面に操作部を設け、前記操作部を操作することにより前記筆記体のペン先を軸筒の前端孔から出没可能に構成し、前記筆記体の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先を設け、前記軸筒の外面(例えば、軸筒の前端部または軸筒の後端部)に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能な摩擦部を設けた熱変色性筆記具が開示されている。
【0003】
前記従来の熱変色性筆記具において、摩擦部を軸筒の前端部に設けた場合、摩擦部を使用するには、ペン先を没入させる操作(即ちペン先突出状態を解除する操作)が必要である。そのため、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できないおそれがある。また、前記従来の熱変色性筆記具において、摩擦部を軸筒の後端部に設けた場合、摩擦部を使用するためには、筆記時の把持状態から筆記具本体を持ち替えることが必要であり、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/105227号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できる熱変色性筆記具を提供しようとするものである。
尚、本発明で、「前」とは、ペン先側を指し、「後」とは、その反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本願の第1の発明は、筆記体6の内部に熱変色性インキを収容し、前記筆記体6の前端に前記熱変色性インキが吐出可能なペン先61を設け、前記筆記体6を軸筒2内に収容し、前記軸筒2の前端孔31からペン先61を突出状態にして筆記可能にする熱変色性筆記具であって、前記軸筒2の前端部に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な弾性材料よりなる摩擦体7を設け、前記摩擦体7の操作部72を軸筒2の前端部外面に設け、前記操作部72を操作することにより摩擦体7を前後に移動可能に構成し
、前記軸筒2の前端部が、前端に前端孔31を備えた内側筒部3と、該内側筒部3の外周を包囲し且つ前方に突出する外側筒部4と、該外側筒部4に径方向に貫設され且つ前後に延びるスライド孔41と、前記内側筒部3と外側筒部4との間に形成され且つ前方に開口する環状凹部5とを備え、前記摩擦体7が、前後に内孔71aが貫設された筒状部71と、該筒状部71の外面に突設された操作部72とを備え、前記環状凹部5に前記摩擦体7の筒状部71の後部を収容可能に設け、前記スライド孔41より前記操作部72を径方向に突出させ、前記スライド孔41に沿って前記操作部72を前後に移動可能に構成してなることを要件とする。
【0007】
前記第1の発明の熱変色性筆記具1は、前記軸筒2の前端部に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な弾性材料よりなる摩擦体7を設け、前記摩擦体7の操作部72を軸筒2の前端部外面に設け、前記操作部72を操作することにより摩擦体7を前後に移動可能に構成したことにより、摩擦部を使用する際、筆記時の筆記具本体を把持した状態から操作部72を操作でき、筆記具本体を持ち替えることが不要となり、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できる。
前記第1の発明の熱変色性筆記具1は、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できる簡易な構造を得る。
【0008】
[2]本願の第2の発明は、前記第1の発明の熱変色性筆記具1において、前記ペン先61が前記軸筒2の前端孔31から突出状態のとき、前記操作部72を操作することによって、前記摩擦体7の前端がペン先61より前方に位置することを要件とする。
【0009】
前記第2の発明の熱変色性筆記具1は、前記ペン先61が前記軸筒2の前端孔31から突出状態のとき、前記操作部72を操作することによって、前記摩擦体7の前端がペン先61より前方に位置することにより、安定した摩擦変色作業が可能となる。
【0010】
【0011】
【0012】
・熱変色性インキ
前記熱変色性インキは、可逆熱変色性インキが好ましい。前記可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、または、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独または併用して構成することができる。
【0013】
また、前記可逆熱変色性インキに含有される色材は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた可逆熱変色性顔料が好適に用いられる。
【0014】
本実施の形態では、
図5に示すように、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t
1)以下の低温域での発色状態、または完全消色温度(t
4)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t
2〜t
3の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性インキが適用される。
図5において、ΔHは、ヒステリシスの程度を示す温度幅(即ちヒステリシス幅)を示す。ΔHの値が小さいと、変色前後の両状態のうち一方の状態しか存在しえない。ΔHの値が大きいと、変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0015】
本実施の形態では、摩擦体7の摩擦熱による前記熱変色性インキの変色温度は、25℃〜95℃(好ましくは36℃〜95℃)に設定される。即ち、本発明では、前記高温側変色点〔完全消色温度(t
4)〕を、25℃〜95℃(好ましくは、36℃〜90℃)の範囲に設定し、前記低温側変色点〔完全発色温度(t
1)〕を、−30℃〜+20℃(好ましくは、−30℃〜+10℃)の範囲に設定することが有効である。それにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができるとともに、可逆熱変色性インキによる筆跡を摩擦体7による摩擦熱で容易に変色することができる。
【0016】
・摩擦体
尚、本発明で、摩擦体7は、弾性を有する樹脂(ゴム、エラストマー)により構成されることが好ましい。前記弾性を有する樹脂は、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。前記摩擦体7を構成する弾性材料は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)からなるものよりも、摩擦時に磨耗屑が生じない低摩耗性の弾性材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できる熱変色性筆記具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態の筆記可能状態(摩擦体没入状態)を示す要部縦断面図である。
【
図2】
図1の非筆記状態(摩擦体突出状態)を示す要部縦断面図である。
【
図5】熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を
図1乃至
図4に示す。
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、軸筒2と、該軸筒2内に前後方向に移動可能に収容される筆記体6とからなる。前記筆記体6のペン先61が軸筒2の前端孔31より出没自在に設けられる。尚、本発明において、ペン先61は出没自在でなくてもよく、ペン先61が常時軸筒2の前端孔31より突出していてもよい。即ち、少なくとも、ペン先61が筆記時に前端孔31より突出していればよい。
【0020】
・軸筒
前記軸筒2は、合成樹脂または金属により形成される。前記軸筒2の前端部には、前端に前端孔31を備えた内側筒部3が設けられる。前記内側筒部3の内壁には、筆記体6を後方に付勢する弾発体8(例えば圧縮コイルスリング)が保持される。前記内側筒部3は、前端部が先細形状を有する。前記内側筒部3は、筆記体6の前端部を包囲する。
【0021】
また、前記軸筒2の前端部には、前記内側筒部3の外周を包囲し且つ前方に突出する外側筒部4が形成される。前記外側筒部4には、軸方向に延びるスライド孔41が径方向に貫設され。
【0022】
前記内側筒部3と前記外側筒部4との間には、前方に開放する環状凹部5が形成される。
【0023】
・摩擦体
前記摩擦体7は、前後の内孔71aが貫設された筒状部71と、該筒状部71の外面に径方向外方に突出された操作部72とからなる。前記摩擦体7は、弾性材料により一体に形成される。
【0024】
前記筒状部71の前部は、径方向外方に膨出され、摩擦部となる。前記筒状部71の後部は、筆記時、前記環状凹部5に収容される。前記筒状部71の後部は、摩擦体7使用時、前記環状凹部5より前方に露出される。
【0025】
前記操作部72は、前記スライド孔41より径方向外方に突出される。前記操作部72は、スライド孔41に沿って前後方向に移動可能である。前記操作部72を前後方向に操作することによって、摩擦体7が軸筒2に対して前後方向に移動可能となる。前記操作部72の表面には、滑り止め用の凹凸部が形成される。
【0026】
前記外側筒部4の軸方向の長さは、前記内側筒部3の軸方向の長さより小さく設定される。即ち、前記内側筒部3の前端は、前記外側筒部4の前端より前方に突出している。それにより、摩擦体7の前端部を外部に大きく露出でき、摩擦操作を容易にする。
【0027】
前記内側筒部3の軸方向の長さは、摩擦体7の軸方向の長さより長く設定されるか、または、摩擦体7の軸方向の長さと略等しく設定される。それにより、筆記時、摩擦部を後退させた際、摩擦部の前端部が筆記の妨げとなることを回避できる。
【0028】
・筆記体
前記筆記体6は、ペン先61(例えばボールペンチップ)と、該ペン先61が前端開口部に圧入固着されたインキ収容管と、該インキ収容管内に充填される熱変色性インキと、該熱変色性インキの後端に充填され且つ該熱変色性インキの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。
【0029】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、前記軸筒2の前端部に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な弾性材料よりなる摩擦体7を設け、前記摩擦体7の操作部72を軸筒2の前端部外面に設け、前記操作部72を操作することにより摩擦体7を前後に移動可能に構成したことにより、摩擦部を使用する際、筆記時の筆記具本体を把持した状態から操作部72を操作でき、筆記具本体を持ち替えることが不要となり、筆記状態から摩擦変色作業に迅速に移行できる。
【0030】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、前記ペン先61が前記軸筒2の前端孔31から突出状態のとき、前記操作部72を操作することによって、前記摩擦体7の前端がペン先61より前方に位置することにより、安定した摩擦変色作業が可能となる。
【0031】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は、前記軸筒2の前端部が、前端に前端孔31を備えた内側筒部3と、該内側筒部3の外周を包囲し且つ前方に突出する外側筒部4と、該外側筒部4に径方向に貫設され且つ前後に延びるスライド孔41と、前記内側筒部3と外側筒部4との間に形成され且つ前方に開口する環状凹部5とを備え、前記摩擦体7が、前後に内孔71aが貫設された筒状部71と、該筒状部71の外面に突設された操作部72とを備え、前記環状凹部5に前記摩擦体7の筒状部71の後部を収容可能に設け、前記スライド孔41より前記操作部72を径方向に突出させ、前記スライド孔41に沿って前記操作部72を前後に移動可能に構成してなることにより、筆記状態から摩擦変色作業へ迅速に移行できる簡易な構造を得る。
【符号の説明】
【0032】
1 熱変色性筆記具
2 軸筒
3 内側筒部
31 前端孔
4 外側筒部
41 スライド孔
5 環状凹部
6 筆記体
61 ペン先
7 摩擦体
71 筒状部
71a 内孔
72 操作部
8 弾発体