(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
船舶用自動操舵装置は、一定の設定方位に、ジャイロコンパスから検出される船首方位を追従させるために舵を制御する装置であり、保針と変針との機能を持つ。
【0003】
その保針制御系は、大きな慣性力の船体を小さな制御力の操舵機によって制御し、かつ検出方位に含まれる外乱の大きさが方位と同等かそれ以上になる特徴をもつため、受動的な制御を実現するフィードバック制御器で制御される。
図2に示したように、フィードバック制御器12は、小さな比例ゲインを基にしたPD制御を行う状態フィードバック制御器22と、状態推定と外乱除去とを行う推定器24から構成される。閉ループ安定性と外乱除去性への影響及び設計自由度は、実用上状態フィードバック制御器22よりも推定器24の方が大きい。
【0004】
制御対象18の船体モデルは、載荷の変化によるノミナル値のパラメータ不確かさを持ち、そのためノミナル値のモデルベースで構成する推定器24は載荷の変化によって推定値に誤差を生じる。このため、推定値の状態フィードバックによる閉ループ安定性は、推定誤差によって劣化し、船体を蛇行航行させる(ヨーイング)おそれがある。
【0005】
本発明者らは、かかる問題を解決するために、特許文献1において、船体パラメータのノミナル値のパラメータ不確かさを積極的に考慮に入れて、該パラメータ不確かさを起因とする推定誤差を小さくすることができるようにした船舶用自動操舵装置及びその推定器の設計方法を提案している。
ここでは、推定器の特性多項式として、
【0006】
【数1】
と置き、λ
e2は、波浪モデルが仮に無いとしたときの船体モデルの状態量を推定するための特性多項式であり、ζ
e、ω
eがそれぞれ船体モデルの状態量を推定するための減衰係数、固有周波数としたときに、ω
eを操舵系周波数ω
fのρ(>1)倍(以下、ρ:推定係数)に設定し、ζ
eを1/√2に設定するようにして推定器を設計することにより、閉ループ安定性を低下させる要因となる推定角速度のパラメータ不確かさによる推定誤差を低減させることができる、ことを見出した。
【0007】
さらに、特許文献1では、船体モデルと2つの外乱モデル(波浪モデル、舵角オフセットモデル)とからなる制御対象に対して、推定誤差が船体モデルのみのときの推定誤差と等価になるように推定器の固有周波数を外乱モデル特性から修正することを、提案している。これによれば、推定器の制御対象は船体モデルのみとなり、外乱モデルを無視することができるようになる。
【0008】
また、特許文献2では、推定係数ρ=ω
e/ω
fを、操舵ループの代表根に着目し、代表根の減衰係数とパラメータ不確かさとの関係から制御ゲインを設計している。即ち、ここでは推定器がない閉ループ系において、フィードバックゲインの設定、操舵系の特性およびパラメータ不確かさの影響を調べ、推定器がある閉ループ系において、特性多項式の導出、代表根の移動、代表根の減衰係数を調べて数値計算を実施した結果、パラメータ不確かさの影響を見積もることによって、推定器と操舵系との固有周波数を関係づける推定係数ρを設定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来においては、パラメータ不確かさおよび外乱モデルの影響を間接的、近似的に扱うために、閉ループ安定性に多少の変動を持つという問題がある。即ち、推定ループにおいて閉ループ安定性を劣化させる場合があるが、従来の設計による装置では、推定ループにおけるパラメータ不確かさの影響を直接扱っていない。
【0011】
また、船体モデルはパラメータ不確かさを複数もつために、特許文献2で採用したパラメータ不確かさ以外が船種、海象、載貨などにより無視できない状況を生じる場合があり、用いたパラメータ不確かさによる影響が減衰係数に間接的に作用するために局所的な安定性しか確保することができない場合がある、という問題がある。
【0012】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、外乱モデルを含んだ推定器と操舵系の閉ループにおいて、パラメータ不確かさに起因する推定誤差を低減することができる推定ゲインを設定した推定器を有する船舶用自動操舵装置を提供することをその目的とする。
【0013】
また、本発明の更なる目的は、推定ループの根を不安定にさせるパラメータ不確かさを特定し、それを用いて制御ゲインを設定した推定器を有する船舶用自動操舵装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、請求項1記載の発明は、設定方位ψ
Rに検出方位を追従させるべく制御対象を制御する船舶用自動操舵装置であって、制御対象からの検出方位から外乱を除去した推定値を出力する推定器と、推定器からの推定値と設定方位から得られる値に対してフィードバックゲインを乗じて命令舵角を出力する状態フィードバック制御器とを有するフィードバック制御器を備え、命令舵角に応じて舵角を経て船体に作用させる操舵機及び船体を含む制御対象と共に閉ループを構成する船舶用自動操舵装置において、
前記推定器の特性多項式は、船体モデルと波浪モデルと舵角オフセットモデルとを推定する多項式からなるものとし、それぞれ以下で表し、
【0015】
【数2】
前記閉ループの特性多項式は、フィードバックループの特性多項式と、推定器の特性多項式から以下で表し、
【0016】
【数3】
船体パラメータのパラメータ不確かさΔを加味したときの特性多項式D
cΔを、以下で表したときに、
【0017】
【数4】
【0018】
パラメータ不確かさΔが第1仕様値(Δ
spec)のときに、D
cΔ(s)の特性根から得られる減衰係数のうちの最も小さい減衰係数ζをζ
e*として、そのζ
e*が第2仕様値(ζ
spec)の値を満足するω
e/ω
f(=ρ)を求め、推定器の船体モデルの固有角周波数ω
eを設定することを特徴とする。
【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の船舶用自動操舵装置において、前記推定器を船体モデルのみとしたときの前記閉ループの特性多項式D
c4Δを、
【0020】
【数5】
としたときに、D
c4Δ(s)の特性根のうちの最も小さい減衰係数ζをζ
e2*とし、ζ
e2*が第2仕様値(ζ
spec)の値を満足するω
e2/ω
f(=ρ
2)を求め、このρ
2を用いた初期値とした数値解法によって前記ω
e/ω
f(=ρ)を求めることを特徴とする。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の船舶用自動操舵装置において、前記初期値は、
【0022】
【数6】
で表されることを特徴とする。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置において、前記パラメータ不確かさΔは、船体パラメータの旋回力ゲインK
snと時定数T
snの比の不確かさであることを特徴とする。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の船舶用自動操舵装置において、前記特性多項式D
cΔは、
【0025】
【数7】
で表され、ここで、
D
w(s)は、波浪モデルの特性多項式であり、減衰係数ζ
wnと固有角周波数ω
wnとで、
【0026】
【数8】
と表され、B(s)は、
【0027】
【数9】
で表されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、外乱モデルとしての波浪モデル及び舵角オフセットモデルを含んだ推定器を含む閉ループの特性多項式に基づき、特性多項式に船体パラメータのパラメータ不確かさΔを加味したときの特性多項式D
cΔからパラメータ不確かさΔが第1仕様値(Δ
spec)のときに、D
cΔ(s)の特性根から得られる減衰係数のうちの最も小さい減衰係数ζをζ
e*として、そのζ
e*が第2仕様値(ζ
spec)の値を満足するω
e/ω
f(=ρ)を求め、推定器の船体モデルの固有角周波数ω
eを設定することから、閉ループ安定性を増加させることができる。
【0029】
また、前記パラメータ不確かさΔを、船体パラメータの旋回力ゲインK
snと時定数T
snの比の不確かさとすることで、閉ループ安定性に及ぼす影響の高いパラメータ不確かさに起因する推定根の不安定性を排除し、従来のものより信頼性を向上させることができる。
【0030】
外乱モデルを含まない推定器の推定根から出発して、外乱モデルを含んだ推定器の推定根の予測値を求めて、特性多項式D
cΔの特性根を求めることで、求解を高い収束性で短時間に行うことができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0033】
1.1 保針系の構成
本発明で対象とする船舶用自動操舵装置10の保針モードは、
図1に示すように操舵機14及び船体16を含む制御対象18を設定方位ψ
Rに船首方位ψを追従させるため、フィードバック制御器12で偏差
【0034】
【数10】
から演算された舵角指令δ
cによって制御する。δ
cは操舵機14の舵角δを経て船体に作用する。船体はパラメータ不確かさをもち外乱が印加する。操舵機14は舵角および舵速度の振幅制限をもつが、保針時のδ
cおよび
の振幅が制限以下と見なせるので操舵機を省略する(δ=δ
c)。なお設定方位ψ
Rは保針時一定になるため、簡単化のためψ
R=0とする。
【0035】
1.2 制御対象とパラメータ不確かさ
図1に示した制御対象18は、操舵機14を除き、船体モデルと外乱モデルとから構成される。
【0036】
1.2.1 船体モデル
船体モデルは、
図1Aに示される野本の線形モデル
【0037】
【数11】
を用いる。ここで、sはラプラス演算子を、ψは船首方位を、rを旋回角速度を、K
sn,T
sn,は操縦性指数(船体パラメータ)でそれぞれ旋回力ゲイン、時定数のノミナル値(添え字s:船体、n:ノミナル値)を示す。尚、(1)式の代わりに
【0038】
【数12】
を用いることもできるが、舵感度時定数T
s3n<T
snであるため、以下、簡略化のために舵感度時定数T
s3nを0とする。
【0041】
(T:転置),rは旋回角速度(
図1A参照)を
【0043】
【数15】
Δ
a、Δ
bはそれぞれパラメータ不確かさで、実際値とノミナル値との差異によって
【0045】
1.2.2 外乱モデル
外乱モデルは、
図2に示すように、舵角オフセットモデルと波浪モデルとからなる。舵角オフセットモデルは風などに誘起された方位軸回りに作用するモーメントを舵角換算したものとする。波浪モデルは白色ノイズが入力した狭帯域フィルタの出力を方位換算したものとする。
【0048】
【数18】
になる。ここでδ
oは一定値とした舵角オフセット成分を、x
w = [ξ,ψ
w ]
T ,ξ:変数,ψ
w は平均値ゼロの有色の波浪成分を、νは白色ノイズN(0,1)を
【0049】
【数19】
K
wn,ζ
wn,ω
wn はそれぞれ波浪モデルのゲイン、減衰係数と中心周波数とを示す。波浪モデルはパラメータ不確かさを含まないとする。
【0050】
1.3 閉ループ制御系
1.3.1 フィードバック制御器
フィードバック制御器12は、
図2に示すように状態フィードバック制御器22と推定器(オブザーバ)24とからなる。閉ループ制御系は制御対象18とフィードバック制御器12とから構成し
【0052】
【数21】
(^:推定値)を示し、
はフィードバックゲインを(f
1:比例ゲイン、f
2:微分ゲイン、1:舵角オフセットに対応),
は推定ゲインを
【0053】
【数22】
を示し、Oはゼロ行列を示す。推定器出力は
【0055】
1.3.2 閉ループ特性行列
閉ループ特性行列は、推定誤差を
【0058】
【数26】
になる。ここでA
cは特性行列を示す。船体モデルに状態フィードバックを行ったループをフィードバックループ(A
c(1,1)、2次系)と呼び,制御対象に推定ゲインのフィードバックを行ったループを推定ループ(A
c(2,2)、5次系)と呼ぶ。上式より要素A
c(1,1)のフィードバックループによる固有値と、要素A
c(2,2)の推定ループによる固有値は、ΔA
s,ΔB
sの影響を受ける。
【0059】
1.4 ノミナル値による特性多項式
フィードバックループ、推定ループおよび波浪モデルのノミナル値の特性多項式を
【0062】
【数29】
とする。また、(15)式は、
【0065】
【数32】
とする。ここでdet:行列式、s:ラプラス演算子、I:適当な単位行列、D
f:フィードバックループの特性多項式(添え字f)、D
est:推定ループの特性多項式、D
w:波浪モデルの特性多項式(添え字w)、D
e、D
ew、D
eo:それぞれ船体モデル(添え字e)、波浪モデル(添え字ew)と舵角オフセットモデル(添え字eo)とに対応する特性多項式、ζ、ω:2次系のそれぞれ減衰係数、固有周波数を示す。
【0066】
1.5 状態フィードバックゲイン
状態フィードバック制御器22において、ノミナル値によるフィードバックループの状態フィードバックゲインを定める。状態フィードバックは
図2に示すように、PD制御を用いており、
【0067】
【数33】
とおき、設計パラメータにf
1とζ
fとを選ぶと、f
2とω
fとはそれぞれ
【0070】
1.6 推定ゲイン
2次の推定ゲインは、
図3Aに示される外乱無しの船体モデルのみで設計される2次推定器におけるk
1(=k
11)、k
2(=k
21)である。
【0071】
3次の推定ゲインは、
図3Bに示される舵角オフセットモデルを含めて設計される3次推定器におけるk
1(=k
13)、k
2(=k
23)、k
5(=k
53)である。
【0072】
4次の推定ゲインは、
図3Cに示される波浪モデルを含めて設計される4次推定器におけるk
1(=k
14)、k
2(=k
24)、k
3(=k
34)、k
4(=k
44)である。
【0073】
5次の推定ゲインは、
図3Dに示される波浪モデルと共に舵角オフセットモデルを含めて設計される5次推定器におけるk
1(=k
15)、k
2(=k
25)、k
3(=k
35)、k
4(=k
45)、k
5(=k
55)である。
【0075】
【数36】
になる。一方、設計する特性多項式は、(15)式を展開して
【0076】
【数37】
になる。
よって、推定ゲインは上記2つの多項式の係数から次式より求まる。
【0079】
以降の設計に利用する推定ゲインを以下に示す。
【0083】
また、舵感度時定数T
s3nを考慮した場合には、以下となる。
【0087】
D
e(s)のパラメータはフィードバックループのω
fを基準に、
【0088】
【数46】
と定める。ここでρ>1を推定係数と呼ぶ。ρを閉ループ安定性に基づいて以降で設計する。
【0089】
1.7 設計パラメータと制御パラメータ
特性多項式の設計パラメータと制御パラメータを、以下表1にまとめる。
【0091】
上記表より、D
e(s)の減衰係数ζ
eと推定係数ρを与えれば、制御系が構成されることになる。尚、上記表から微分ゲインf
2>0、ζ
f=1/√2と定めるため、(23)式からω
fT
sn>1/√2になる。船体パラメータのノミナル値K
sn、T
snは、船体の旋回の度に同定器によって同定され、更新される。波浪モデルの減衰係数ζ
wnと固有角周波数ω
wnも周波数同定器によって同定される。
【0092】
2 設計
前章で検討したように、設計は、推定器の減衰係数ζ
eと推定係数ρに帰着する。まず、特性根で推定根を不安定にさせるパラメータ不確かさを特定し、仕様を定める。次いで、減衰係数ζ
eを推定ループ単体から推定誤差が低減する適正値を設定する。そして閉ループからρに対する仕様付近の推定根の特性を明らかにし、解の予測値を設定し、ρの求解算法を推定根特性及び予測値から算出する。
【0093】
2.1 パラメータ不確かさ
2.1.1 特性多項式の導出
(12)式の特性行列の行列式である特性多項式は、ノミナル値による特性多項式とパラメータ不確かさによる多項式との和に整理される。特性多項式を因数分解すると特性根が得られる。すなわち
【0094】
【数47】
になる。推定器の次数i(i=0、2、3、4、5)に対応した次数ciの特性多項式は次式になる。
【0101】
2.1.2 パラメータ不確かさの影響
パラメータ不確かさが閉ループ制御系に及ぼす影響を検討する。特性多項式D
c(s)において、パラメータ不確かさΔ
a,Δ
bを開ループゲインと見なせば、根軌跡手法が適用でき、閉ループ安定性を検討できる。開ループ伝達関数GH(s)を(31)式より
【0102】
【数54】
に定めると、閉ループ特性は
図4に示すものと等価になる。根軌跡手法を用いて、推定器の次数と漸近線の本数(上式で分母の極数から分子のゼロ点数を差し引いた数)との関係を表2にまとめる。
【0104】
表2より2次から5次までの推定器の漸近線の本数と形状は同じであり、推定器に起因する閉ループ特性は、2次推定器を用いたD
c4(s)を基本とすることができることが分かるから、推定器による閉ループ特性を把握するためには、D
c4(s)を調べればよい。
【0105】
パラメータ不確かさΔ
a,Δ
b毎に対するD
c4(s)の根軌跡をそれぞれ
図5(a)及び(b)に示す。同図で×は極を、○はゼロ点を示す。この導出の条件として、ω
fT
sn =1.58(T
sn =62.5、K
sn =0.04、f
1=1)とする。
【0106】
図5から次のことが分かる。
・Δ
a>0の場合はフィードバックループが不安定傾向になり、推定ループは間接的に影響する。よって、ζ
fの調整によって直接改善することができる。
・Δ
b>0の場合は推定ループが不安定傾向になり、推定根が直接影響し、フィードバックループは間接的に影響する。
【0107】
従って、推定係数ρの設定はΔ
bを利用することがよいことが分かる。
【0108】
2.1.3 設計仕様
推定係数ρが満足すべき仕様は、実際の制御対象の不確定要素、非線形性などを考慮して定める。
【0109】
具体的には、パラメータ不確かさの仕様Δ
specは、Δ
bと対応するものとして、ある値(第1仕様値)に定める。そのため、パラメータ不確かさΔ
bの無次元量を導入する。
【0110】
【数55】
ここで、(・)’は無次元量を意味する。
【0111】
そして、例えば、パラメータ不確かさの仕様Δ
specは、パラメータ不確かさΔ
bがK
sn/T
snの2倍に相当するものとして、
【0113】
また、閉ループ安定性の仕様ζ
specは、特性根の中で最小の減衰係数に対応させて、ある値(第2仕様値)に決める。この値としては、例えば、0.4とすることができる。即ち、
【0115】
【数58】
である。ここで上付き文字(*) はパラメータ不確かさを含んだ場合を意味する。仕様ζ
spec=0.4はステップ応答のオーバシュート25%に相当する量で、負の実軸に対して偏角cos
−1(0.4)=66.4[deg]になる(
図5(b)参照)。
【0116】
2.2 減数係数ζ
e
外乱モデルを含まない2次推定器の減衰係数ζ
eはパラメータ不確かさに起因した推定誤差を低減させる値に選ぶ。
【0117】
船体モデルに対する推定ループは、(9)式及び
図3Aを参照すると、
【0119】
【数60】
になる。(43)式から次式を得る。
【0121】
上式及びそれを微分した式と実際値K
s、T
sの船体モデル((1)式参照)
【0122】
【数62】
とを(44)式に代入すると、次式になる。
【0123】
【数63】
ここで、Δ
e2、Δ
e1はパラメータ不確かさを表す。
【0126】
【数65】
になる。ここで、D
e(s)は、(17)式と等価である。
【0127】
また、(48)式を(45)式に代入すると、rの伝達関数は次式となる。
【0129】
伝達関数G
ψψ^|
2(s)、G
ψr^|
2(s)は、Δ
e2、Δ
e1によって共に推定誤差を生じるが、閉ループ安定性により強く関与するG
ψr^|
2(s)を用いて減衰係数ζ
eを定める。
【0130】
2.2.1 Δ
e1に関して
(50)式と(28)式とより、Δ
e1に関連する項を抽出すると、
【0131】
【数67】
となる。Δ
e1を微小として、ζ
e*e1をΔ
e1に関する級数で近似すると、
【0132】
【数68】
となる。これより、ζ
e*e1がΔ
e1による誤差を受けないようにするため、g(ζ
e)=0を解くと、次式を得る。
【0134】
2.2.2 Δ
e2に関して
同様に、(50)式と(28)式とより、Δ
e2に関連する項を抽出すると、
【0135】
【数70】
となる。Δ
e2を微小として、ζ
e*e2をΔ
e2に関する級数で近似すると、
【0136】
【数71】
となる。これより、ζ
e*e2がΔ
e2による誤差を受けないようにするための条件は、
【0138】
2.2.3 減数係数ζ
eの決定
上記(53)式、(56)式に近い値を減数係数ζ
eの値として決定することが好ましい。具体的には、ω
eT
snが1より十分大きいものと仮定すると、(53)式から減数係数ζ
eは、
【0139】
【数73】
と定めることができ、この値は(56)式からも、さほど離れない値であると期待できる。
【0140】
2.3 推定係数ρ
推定係数ρは、(31)式のパラメータ不確かさ項に依存する。まずは、船体パラメータに対応する(33)式に基づいて、ρ
2及び2次推定根の特性を把握する。そして、(34)〜(36)式のパラメータ不確かさ項の係数を、(33)式のそれと比較することで、外乱モデルに起因するρ
i(i=3,4,5)及び3〜5次推定根の特性を把握する。
【0141】
手順としては、
・4次特性根とその2次推定根とを2次推定係数ρ
2及びΔ
specに関して解析し、ρ
2と2次推定根との予測値を数値解法を利用して求める。
・5〜7次の特性多項式は、4次の特性多項式に基づいて解析し、5〜7次の特性根における推定係数と推定根との予測値をρ
2と2次推定根とから求める。
【0142】
2.3.1 2次推定器
(31)式の4次特性多項式は、
【0143】
【数74】
になる。ここで、D
*(s)は、パラメータ不確かさを含んだ多項式で、
【0144】
【数75】
を示す。(37)式、(23)式及び(27)式より、
【0146】
パラメータ不確かさは、(39)式、(22)式を用いて、
【0147】
【数77】
になり、Δ
bB
2(s)はf
1が相殺され、f
1の影響を受けないことが分かる。
【0148】
次に、以降の3次推定器の5次特性多項式の解析の準備として、2次推定根の特性について検討することにする。2次推定根は、
図5(b)よりΔ
bの増加に伴って不安定側に移動し、その減衰係数ζ
e2*は4次特性根の中で最小になる。その特性を把握するために、ω
fT
sn =1.58(T
sn =62.5、K
sn =0.04、f
1=1)において、Δ
b’を1,2(仕様値),3のそれぞれの場合に対して、ρ
2を1〜10まで増加させたときの数値解を求めて、ζ
f2*、ω
f2*、ζ
e2*、ω
e2*をそれぞれ求めると、
図6に示すものとなる。この
図6から、ρ
2の増加に対応して、以下の傾向が把握される。
・ζ
e2*は増加し、ζ
e=1/√2に漸近し、ω
e2*は単調増加する。
・ζ
f2*、ω
f2*は徐々に変化しなくなり、一定値に近づく。
・Δ
b’が大きくなるに従って、ζ
e2*、ω
e2*の線形範囲が拡大する。
【0149】
よって、
を満足するρ
spec=ρ
2は存在し(
図6の例では、ρ
2=4.58)、そのときω
spec=ω
e2*とおく。
【0150】
図7は、仕様付近の2次推定根の特性を示す。Δ
b’/Δ
spec=1.0,1.1,1.2,1.3のそれぞれの場合の、ρ
2’=ρ
2/ρ
specを1〜1.4まで変化させたときの数値解を用いる。
図7から以下のことが把握される。
・Δ
b’/Δ
specが大きくなるほど、線形性は向上する。
・ζ
e2*,ω
e2*はそれぞれのdζ
e2*/dρ,dω
e2*/dρがほぼ一定と扱え、ζ
spec付近でほぼ直線近似が成り立つ。
【0153】
図8は
図7の結果から導いたρ
2およびζ
e2*,ω
e2*の正規化した特性を示す。横軸にΔ
b’ /Δ
specを、縦軸にζ
e2*’=ζ
e2*/ζ
spec、ρ
2’=ρ
2/ρ
spec、ω
e2*’=ω
e2*/ω
specの無次元値を用いる。
図8から以下のことが把握される。
・ζ
e2*’はΔ
b’ /Δ
specにほぼ反比例する。このことから、ζ
e2*’の予測値を
【0154】
【数80】
と近似することができる。ここで、~:予測値を表す。
【0155】
近似誤差(=(予測値)÷(計算値)−1)はΔ
b’/Δ
spec=1.3で約2%になる。
・ρ
2’、ω
e2*’はほぼ同値でΔ
b’/Δ
specにほぼ比例する。
【0156】
図8の読取から、仕様値に対するパラメータ不確かさであるΔ
b’ /Δ
spec、に対応するρ
2’、ω
e2*’の予測値を次式で近似することができる。
【0157】
【数81】
ここで近似誤差はΔ
b’/Δ
spec=1.3のときρ~
2’が約0.8%、ω~
e2*’が約1.8%になる。
【0158】
このように、Δ
bの増加によるζ
e2*の劣化、ω
e2*の変化およびρ
2の増加は、Δ
b’/Δ
specによる予測値から把握できることが分かる。
【0159】
2.3.2 3次推定器
3次推定器は2次推定器に、舵角オフセット成分δ
oの推定を加えたもので、5次特性多項式は、(34)式から、
【0160】
【数82】
になる。ここで、B
3(s)は、(28)式より、
【0162】
2次推定器との対比を行って、2次推定器からの変化の特性を把握することによって、3次推定器の解析を行う。まず、(65)式のパラメータ不確かさの多項式を、
【0163】
【数84】
の因数分解した形に置き換える。ここで、ζ
f = ζ
e を用いて
【0164】
【数85】
を示す。2次推定器で用いた具体的数値とρ
2=4.58、ρ
o=0.1から4a
zc
z/b
z2=0.305となり、4a
zc
z/b
z2は小さいことが推定される。よって、
【0165】
【数86】
なる近似を用いると(√(1+ε)≒1+ε/2 (0<|ε|<1)))、Z(s)の根として次式を得る(z
2<z
1とする)。
【0168】
(68)式において分母は1に近いため、z
1≒ω
eoであり、しかも、D
eo3*(s)の特性根−ω
eo3*は極−ω
eoからゼロ点z
1の間にあるので、D
eo3*(s)≒D
eo(s)と近似することができる。これより(65)式は次式になる。
【0171】
(71)式を見ると、D
c43Δb(s)は2次推定器の(58)式のD
c4Δb(s)と同じ形になっていることが分かる。そこで、両者のΔ
bの係数を比較するために、(59)式のs
1 係数b
12、s
0 係数b
02と(71)式のs
1 係数a
z、s
0 係数a
zz
2とをそれぞれ比較すると、
【0174】
になる。(72)式及び(73)式の比がそれぞれ1より大きいことから、パラメータ不確かさΔ
bの係数は、3次推定器の5次特性多項式の方が、2次推定器の4次特性多項式に比べ、大きくなることが分かり、2次推定器におけるパラメータ不確かさΔ
bが等価的に大きくなったものとみなすことができる。そのため3次推定係数ρ
3は、ρ
2に対してパラメータ不確かさΔ
bの等価的増加分を修正する必要がある。Δ
bの係数比を具体的な数値を代入して計算すると(ρ
o=0.1)
【0175】
【数93】
になる。上式から大きい値のs
1 係数を選ぶこととすると、2次推定器の4次特性多項式においてパラメータ不確かさがa
z /b
12倍増加したことと等価になる。よって、前節の2次推定器の特性から(64)式を用いて、ρ’
3の予測値を換算すると
【0176】
【数94】
と定めることができる。これよりρ
3、ω
e3*の予測値を次式に定めることができる。
【0178】
2.3.3 4次推定器
4次推定器は2次推定器に波浪成分ψ
wの推定を加えたもので、6次特性多項式は(35)式から、
【0179】
【数96】
になる。ここで、(29)式より
【0181】
3次推定器での手法と同様に、2次推定器との対比を行って、4次推定器の解析を行う。そのため、B
4の係数b
14と、B
2の係数b
12との比較をすると、(79)式から
【0182】
【数98】
となる。詳細は省略するが、f
1T
snω
e22/b
12>1であるため、上記式は、k
wに関して右下がりの直線となる。
【0184】
【数99】
と定め、ζ
wn=0.1として数値計算すると
を得る。最悪ケースのb
14 /b
12=1.121は(74)式のa
z /b
12=1.137とほぼ同等であるが、r
w≫1でb
14はb
12に収束する。
【0185】
(78)式でD
w(s)とD
ew(s)とは次の条件のとき
【0186】
【数100】
に近似できるので、2次推定器の特性と等価になり、4次推定係数ρ
4≒ρ
2,ω
e4*≒ω
e2*になる。上記の近似ができない場合、ρ
4は減衰係数差(ζ
e−ζ
wn)に比例し、周波数比r
wに反比例する傾向を持つとし、その予測値を次式に定める。
【0188】
2.3.4 5次推定器
5次推定器は2次推定器に舵角オフセット成分δ
o、波浪成分ψ
wの推定を加えたもので、3次及び4次の推定根特性を踏襲するものとし、7次特性多項式は(36)式から、次式となる。
【0190】
上式の予測値を3次、4次の推定根特性から次式に定める。
【0192】
2.4 波浪パラメータ条件
D
c7Δb(s)において、仕様を満たすがω
e5 = ρ
5ω
f>ω
wn になった場合、波浪パラメータ条件(表1)に反する。そのときζ
wn=ζ
e に変更して再度ρ
5 を求める。ノッチフィルター効果(外乱除去比ζ
wn /ζ
ew)を失うが、ρ
5 が小さくなるのでω
e5* を下げローパスフィルタ効果を得ることができる。すなわち(85)式で
【0193】
【数104】
になり、D
c5Δb(s)の3次推定器の特性に変更される。
【0194】
2.5 まとめ
2.4節の結果をまとめると、
・推定根のζ
e2*, ω
e2* はζ
spec付近で、ρ
2 にほぼ比例する。
・外乱モデルを含むρ
5とω
e5* との予測値は、外乱モデルを含まないρ
2とω
e2* によって求められる。
【0195】
7次特性根からρ
5 を計算するとき、ρ
5 とζ
e5*, ω
e5* との初期値が適切であると求解が確実になる。
【0196】
以下、その求解算法について説明する。
【0197】
3.求解算法
推定係数ρを求める算法を示す。求められたρはパラメータ不確かさを印加した閉ループ系において、仕様Δ
spec, ζ
specを満足する。算法は確実な求解法、簡単な処理と少ない計算量とのため、前章で導き出した性質を用いて、3つの段階により構築する。
【0198】
3.1 メインフロー
次の流れを採用する(
図9)
(1)(58)式でζ
e2*=ζ
spec になるρ
2,ω
e2* を求める(S10)。
(2)(85)式でζ
e5*=ζ
spec になるρ
5,ω
e5* を求めるために、(86)式の予測値を初期値に設定する(S20)。またω
e5>ω
wn のとき(S30でyes)、ζ
wn=ζ
e にして(S40)、(2)を繰り返す。
(3)求めたρ
5をρ(=ω
e/ω
f)として制御系を構成する(S50)。
【0199】
3.2 ステップ2 サブフロー1
ρ(ρ
2、ρ
5)はその性質を利用して2段階で求める(
図10参照)。
【0200】
(1)ζ
spec を挟む範囲のρを求める:ζ
e* はρに対して単調増加になる性質を利用する。初期値は
【0201】
【数105】
とおく。ステップ3に初期値を送るとζ
e*,ω
e* が戻される。反復ループ(添え字i:回数)で
【0202】
【数106】
を更新する。上記にてe
ζi=ζ
ei*−ζ
spec,e
ζi>0のときブレークし、下限値と上限値とを設定する(
図10参照)。
【0203】
(2)次に、ζ
e*=ζ
spec となるρを求める。ζ
e* はζ
spec 付近でρにほぼ直線近似になる性質を利用する。反復ループ(添え字i:回数)で
【0204】
【数107】
を更新する。上記にて|e
ζi|<ε(ε:微小項)のときブレークする。|e
ζi|≧εのときに、範囲を次式に置き換えて反複ループを実行する(
図10参照)。
【0206】
3.3 ステップ3
初期値を用いて次の処理を行い、ζ
e*とω
e*とを取り出す。
(1)4次式は代数解法によって、最小の減衰係数に対応する2次式の係数を求める。
(2)7次式は任意の数値解法によって求める。具体的には、ベアストウ法
と組立除法とによって、2次式の係数を求め、残りの5次式を因数分解する場合は ニュートン−ラプソン法(初期値ω
eo)と代数解法とを用いる。
【0207】
なお、上記の解法は公知のため説明を省く。
【0208】
4.計算結果
本発明を数値計算によって検証する。船体パラメータおよび制御パラメータを表3にまとめる。ただし設計パラメータについては表1を参照されたい。また、仕様は(40)、(42)式に従っている。
【0210】
4.1 2次推定器
表3から以下のことが分かる。
・ρ
2の変化は微分ゲインf
2 のそれより小さいが、ω
fT
sn に関係する。ρ
2 は仕様から判断すると実用範囲の値である。
【0211】
4.2 3次推定器
図11を参照すると
・a
z /b
12:ω
fT
sn =1 の場合は他の場合より15〜30%大きくなるが、ω
fT
sn >1 の場合はほぼ近い値を示す。
・(−a
zz
2)/b
02 :近似値はa
z /b
12 の90%弱になり、ρ
o が大きくなると近似誤差が増加する。
・誤差ρ
3~’,誤差ω
e3~’:ρ
o≦0.2とすれば、両者とも5%以内の誤差に収まる。
【0212】
よって、3次推定器を2次推定器に近似し予測値を求める方法は妥当であり、予測値ρ
3~’,ω
e3~
*’ は有効であると言える。
【0213】
4.3 4次推定器
図12(ω
fT
sn =1.58を利用)を参照すると
・b
14 /b
12 、k
w:共にr
w =1で1に近く、r
w =10でほぼ1に収斂する。
・ζ
e4*’,ω
e4*’:B
4(s)のみの場合(波浪成分D
ew(s),D
w(s)を省く)は波浪成分を含む場合より変化量が小さい。
【0214】
図13より、ρ
4’ の予測値はζ
wn =0.1かつr
w が低減で誤差を生じるが、それ以外では誤差は小さいと見なせる。ω
e4’ の予測値は一定のため、低い領域で誤差を生じる。
【0215】
これに対して、波浪成分による影響が支配的になり、予測値ρ
4’ ,ω
e4’ は実用精度をもつ。
【0216】
4.4 5次推定器
・
図14は
図13にρ
o を追加した場合で、ほぼ同様の傾向を示し、オフセットは予測値とほぼ等価である。
・
図15はζ
wn=0.1,ω
fT
sn を変化させた場合で、ω
fT
sn =1のr
w の低減で急増する。
【0217】
予測値ρ
5’ ,ω
e5’ はr
w の低減で波浪成分誤差をもつが、波浪パラメータ条件(破線より右側部分が条件を満足する領域)から予測値として実用精度をもつことが分かる。
【0218】
4.5 計算時間の比較
本発明の求解算法の計算時間を標準算法と比較する。標準算法は既知の推定係数ρ
sol(
r
w) から探索範囲[ρ
low,ρ
high]=ρ
sol (r
w)[1/c
p,c
p]を与えて(Matlab のfminbnd を利用)、(12)式の特性行列から特性根を求め、最小の減衰係数を取り出し、それが仕様と一致する推定係数を求める。計算結果を表4にまとめる。条件:
図14,ζ
wn=0.1である。
【0220】
本発明の計算時間は0.582,0.581,0.585[s],平均0.583[s] になり、標準算法の計算時間に比べ、1桁程度速いことが確認できた。
【0221】
5.まとめ
推定器を含んだ保針ループに対して、推定根に影響を与えるパラメータ不確かさを特定し、仕様を定め、推定根特性を仕様付近で把握することで、ρの予測値を求めた。外乱モデルなしの2次推定根特性を基に外乱モデルありの推定根特性を解析した。求解算法は数値解と推定根特性とを利用し予測値を初期値に採用した。
【0222】
数値計算によって、推定根特性と予測値との妥当性を確認し、求解算法の有効性を標準算法の計算時間と比べ確認した。