(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
棒状の形状を有し、外周面におねじが形成され、端面に開口が形成され、該開口に連通する中空孔を有し、該中空孔の内周面にめねじが形成された第1のラグスクリューボルトと、
棒状の形状を有し、外周面におねじが形成され、端面に開口が形成され、該開口に連通する中空孔を有し、該中空孔の内周面にめねじが形成された第2のラグスクリューボルトと、
前記第1のラグスクリューボルトの前記開口が露出するように前記第1のラグスクリューボルトの前記おねじがねじ込まれて、前記第1のラグスクリューボルトが固定された第1の部材と、
前記第2のラグスクリューボルトの前記開口が露出するように前記第2のラグスクリューボルトの前記おねじがねじ込まれて、前記第2のラグスクリューボルトが固定された第2の部材と、
回動自在に結合された第1及び第2の金具と、
前記第1の部材に固定された前記第1のスクリューボルトの前記めねじに螺合する第1のボルトと、
前記第2の部材に固定された前記第2のスクリューボルトの前記めねじに螺合する第2のボルトと、
を備え、
前記第1の金具は、前記第1の部材に固定された前記第1のスクリューボルトの前記めねじと前記第1のボルトとの螺合を利用して前記第1の部材に固定され、
前記第2の金具は、前記第2の部材に固定された前記第2のスクリューボルトの前記めねじと前記第2のボルトとの螺合を利用して前記第2の部材に固定され、
前記第1及び第2のボルトの増し締めによって前記第1及び第2のボルトに初期張力が与えられ、前記初期張力によって、回動自在に結合された前記第1及び第2の金具を介して前記第1及び第2の部材に引張力が作用して前記第1及び第2の部材の互いに対向する対向面同士が圧着し、前記第1及び第2の部材が接合されたことを特徴とする、ラグスクリューボルトを用いた接合構造。
前記第1及び第2の部材が接合されたときに、前記第1及び第2のラグスクリューボルトの中心線が一致することを特徴とする、請求項1又は2に記載のラグスクリューボルトを用いた接合構造。
少なくとも2組の前記第1及び第2のラグスクリューボルトと前記第1及び第2の金具が、前記第2の部材の中心線に関して両側に、各組の前記第1及び第2のラグスクリューボルトの中心線が前記第2の部材の前記中心線と平行になるように配置されたことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のラグスクリューボルトを用いた接合構造。
接合された前記第1の部材と前記第2の部材との間に、互いに圧着する前記第1及び第2の部材の前記対向面を横断するように、ダボが挿入されたことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のラグスクリューボルトを用いた接合構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、
図15の接合構造には、次のような問題がある。
【0007】
(1)ラグスクリューボルト111に長い中空孔を加工するため、ラグスクリューボルトの加工コストが増大する。
【0008】
(2)ラグスクリューボルト111の中空孔に長くて靭性が大きいボルト113を挿入しているので、一度大地震が起こってボルト113に過大な力が作用してボルト113が塑性変形したら、ボルト113を交換する必要がある。この場合、接合された部材を移動せずに、ラグスクリューボルト111の中空孔から塑性変形した長いボルト113を抜き出して新しいボルト113と取り替えることは、容易ではない。そのため、接合された部材自体も取り替えることになり、元の状態に復帰させるコストが過大になる。
【0009】
(3)ラグスクリューボルト111の長い中空孔にボルト113を挿入するので、ラグスクリューボルト111の中空孔の内周面とボルト113の外周面との間に空間が生じ、ボルト113をヒートブリッジとして空間内に予期せぬ結露を生じる危険性をはらんでいる。この結露が長期間にわたって発生、消滅を繰り返すことによって、ボルト113の表面及びラグスクリューボルト111の中空孔の内周面に錆が発生し、接合耐力を低下させる危険性があり、長期安全性の面で危惧される。
【0010】
(4)ラグスクリューボルト111が固定された柱101は、箱状で剛性の高い接合金具114を介して、基礎103に非常に剛な状態で連結される。柱101にモーメントが作用すると、剛に接合されているラグスクリューボルト111が柱101の木材の繊維直交方向にめり込む変形が発生し、柱101に予期せぬ割裂破壊が発生し、期待通りの塑性的な挙動とならない場合も生じる。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑み、ラグスクリューボルトに長い中空孔を加工する必要がなく、接合された部材を取り替えることなく接合部品のみを容易に交換可能な構成にすることができ、長期安全性の面で危惧がなく、接合された部材に割裂破壊が発生しにくい、ラグスクリューボルトを用いた接合構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成したラグスクリューボルトを用いた接合構造を提供する。
【0013】
ラグスクリューボルトを用いた接合構造は、(a)棒状の形状を有し、外周面におねじが形成され、端面に開口が形成され、該開口に連通する中空孔を有し、該中空孔の内周面にめねじが形成された第1のラグスクリューボルトと、(b)棒状の形状を有し、外周面におねじが形成され、端面に開口が形成され、該開口に連通する中空孔を有し、該中空孔の内周面にめねじが形成された第2のラグスクリューボルトと、(c)前記第1のラグスクリューボルトの前記開口が露出するように前記第1のラグスクリューボルトの前記おねじがねじ込まれて、前記第1のラグスクリューボルトが固定された第1の部材と、(d)前記第2のラグスクリューボルトの前記開口が露出するように前記第2のラグスクリューボルトの前記おねじがねじ込まれて、前記第2のラグスクリューボルトが固定された第2の部材と、(e)回動自在に結合された第1及び第2の金具と
、(f)前記第1の部材に固定された前記第1のスクリューボルトの前記めねじに螺合する第1のボルトと、(g)前記第2の部材に固定された前記第2のスクリューボルトの前記めねじに螺合する第2のボルトとを備える。前記第1の金具は、前記第1の部材に固定された前記第1のスクリューボルトの前記めねじ
と前記第1のボルトとの螺合を利用して前記第1の部材に固定される。前記第2の金具は、前記第2の部材に固定された前記第2のスクリューボルトの前記めねじ
と前記第2のボルトとの螺合を利用して前記第2の部材に固定される。
前記第1及び第2のボルトの増し締めによって前記第1及び第2のボルトに初期張力が与えられ、前記初期張力によって、回動自在に結合された前記第1及び第2の金具を介して前記第1及び第2の部材に引張力が作用して前記第1及び第2の部材の互いに対向する対向面同士が圧着し、前記第1及び第2の部材が接合される。
【0014】
上記構成によれば、第1の部材に固定された第1の金具と第2の部材に固定された第2の金具とは回動自在に結合されているため、第1及び第2の金具が回動する方向のモーメントは、接合された第1及び第2の部材の一方から他方に伝達されない。これにより、第1及び第2のラグスクリューボルトにはできるだけ軸力のみが作用するようになるため、第1及び第2の部材に割裂破壊が発生しにくい。
【0015】
また、ラグスクリューボルトには長い中空孔を加工する必要がなく、ラグスクリューボルトのめねじに螺合するボルトを長くする必要もないため、接合された部材を取り替えることなく接合部品のみを容易に交換可能な構成にすることができる。さらに、ラグスクリューボルトの中空孔と、ラグスクリューボルトのめねじに螺合するボルトとの間の空間を小さくしたり無くしたりして、結露による錆の発生を防ぐことができるので、長期安全性の面で危惧がない。
【0016】
好ましくは、接合された前記第1及び第2の部材を含む平面と平行に、前記第1及び第2のラグスクリューボルトが延在する。当該平面に対して垂直方向に、そのまわりに前記第1及び第2の金具が回動する中心軸が延在する。
【0017】
この場合、第1部材に固定された第1の金具と第2の部材に固定された第2の金具とが回動する中心軸は、当該平面に対して垂直方向に延在しているため、当該平面内において第1及び第2の部材の角度が変わるモーメントは、接合された第1及び第2の部材の一方から他方に伝達されず、第1及び第2のラグスクリューボルトにはできるだけ軸力のみが作用するようになる。そのため、第1及び第2部材には、割裂破壊がより発生しにくい。
【0018】
好ましくは、前記第1及び第2の部材が接合されたときに、前記第1及び第2のラグスクリューボルトの中心線が一致する。
【0019】
この場合、第1及び第2のラグスクリューボルトに、第1及び第2の金具を介してモーメントが作用することを防ぎ、第1及び第2のラグスクリューボルトにはできるだけ軸力のみが作用するようになる。そのため、第1及び第2部材には、割裂破壊がより発生しにくい。
【0020】
好ましくは、少なくとも2組の前記第1及び第2のラグスクリューボルトと前記第1及び第2の金具が、前記第2の部材の中心線に関して両側に、各組の前記第1及び第2のラグスクリューボルトの中心線が前記第2の部材の前記中心線と平行になるように配置される。
【0021】
この場合、第2の部材の中心線に関して両側に配置された第1及び第2のラグスクリューボルトを含む平面に対して垂直な法線まわりのモーメントが、接合された第1及び第2の部材に作用したときに、第2の部材の中心線に関して両側に配置されたラグスクリューボルトには軸力の偶力が作用する。これにより、ラグスクリューボルトにはできるだけ軸力のみが作用するようになる。そのため、第1及び第2部材には、割裂破壊がより発生しにくい。
【0022】
好ましくは、
前記第1のボルトは、前記第1のラグスクリューボルトの前記めねじに螺合するおねじが形成された軸部と、該軸部の一端に結合された頭部とを有する
。前記第2のボルトは、前記第2のラグスクリューボルトの前記めねじに螺合するおねじが形成された軸部と、該軸部の一端に結合された頭部とを有す
る。前記第1の金具に、前記第1のボルトの前記軸部の挿通は許容し、前記第1のボルトの前記頭部の挿通は阻止する貫通孔が形成される。前記第2の金具に、前記第2のボルトの前記軸部の挿通は許容し、前記第2のボルトの前記頭部の挿通は阻止する貫通孔が形成される。前記第1のボルトは、前記第1のボルトの前記軸部が前記第1の金具の前記貫通孔に挿通され、前記第1の部材に固定された前記第1のラグスクリューボルトの前記めねじに前記第1のボルトの前記軸部に形成された前記おねじが螺合することにより、前記第1のボルトの前記頭部が前記第1の金具を前記第1の部材の前記対向面に押圧して、前記第1の金具を前記第1の部材に固定する。前記第2のボルトは、前記第2のボルトの前記軸部が前記第2の金具の前記貫通孔に挿通され、前記第2の部材に固定された前記第2のラグスクリューボルトの前記めねじに前記第2のボルトの前記軸部に形成された前記おねじが螺合することにより、前記第2のボルトの前記頭部が前記第2の金具を前記第2の部材の前記対向面に押圧して、前記第2の金具を前記第2の部材に固定する。
【0023】
この場合、簡単な構成で、第1及び第2の金具を第1及び第2の部材に固定することができる。
【0024】
好ましくは、前記第1及び第2の金具が結合ピンを介して回動自在に結合される。
【0025】
この場合、簡単な構成で、第1及び第2の金具を回動自在に結合することができる。
【0026】
好ましくは、接合された前記第1の部材と前記第2の部材との間に、互いに圧着する前記第1及び第2の部材の前記対向面を横断するように、ダボが挿入される。
【0027】
この場合、ダボは、第1の部材と第2の部材とが対向面に沿って相対的に移動することを阻止する。これにより、第1の部材と第2の部材とは、より剛に接合される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ラグスクリューボルトに長い中空孔を加工する必要がなく、接合された部材を取り替えることなく接合部品のみを容易に交換可能な構成にすることができ、長期安全性の面で危惧がなく、接合された部材に割裂破壊が発生しにくい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、
図1〜
図13を参照しながら説明する。
【0031】
<実施例1> 実施例1のラグスクリューボルトを用いた接合構造について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。実施例1は、本発明のラグスクリューボルトを用いた接合構造の最小単位の構成である。
【0032】
図1は、ラグスクリューボルト6,8を用いた接合構造の要部平面図である。
図2は、
図1の線A−Aに沿って見た要部立面図である。
図1及び
図2に示すように、第1及び第2の部材2,4は、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8と、第1及び第2のボルト18,28と、結合ピン30により回動自在に結合される第1及び第2の金具10,20とを用いて、接合される。
【0033】
第1及び第2の部材2,4は、木材や集成材など、ラグスクリューボルト6,8をねじ込むことができる部材である。
【0034】
第1及び第2のラグスクリューボルト6,8は、
図14の従来品と同じ構成であり、棒状の形状を有し、外周面におねじが形成され、端面に開口が形成され、開口に連通する中空孔を有し、中空孔の内周面にめねじが形成されている。第1及び第2のラグスクリューボルト6,8は、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のおねじが第1及び第2の部材2,4にねじ込まれ、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の開口が露出するように、第1及び第2の部材2,4に固定される。
【0035】
第1及び第2のボルト18,28は、第1及び第2のラグスクリューボルトのめねじに螺合するおねじが形成された軸部18a,28aと、軸部18a,28aの一端に結合された頭部18b,28bとを有する。
【0036】
図3は、第1及び第2の金具10,20の(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図である。
図3に示すように、第1及び第2の金具10,20は、ベース板12,22の一方の主面12a,22aに、一対の側板14a,14b;24a,24bが、ベース板12,22に垂直かつ互いに平行に結合されている。例えば、一対の側板14a,14b;24a,24bがベース板12,22に溶接されている。別の方法、例えば、角形圧延鋼管を切断して側板14a,14b;24a,24bとベース板12,22とを一体に形成するなどの方法で、第1及び第2の金具10,20を作製してもよい。
【0037】
ベース板12,22の中心には、第1及び第2のボルト18,28の軸部18a,28aの挿通は許容し、第1及び第2のボルト18,28の頭部18b,28bの挿通は阻止する貫通孔13,23が形成されている。
【0038】
一対の側板14a,14b;24a,24bには、貫通孔15a,15b;25a,25bが、同軸に形成されている。
【0039】
図1及び
図2に示すように、第1及び第2の金具10,20は、第1及び第2のボルト18,28を用いて、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sに固定される。すなわち、第1及び第2の金具10,20のベース板12,22の貫通孔13,23に、ベース板12,22の一方の主面12a,22a側から第1及び第2のボルト18,28の軸部18a,28aが挿通され、第1及び第2のボルト18,28の軸部18a,28aのおねじが、第1及び第2の部材2,4にねじ込まれて固定された第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のめねじに螺合することにより、第1及び第2のボルト18,28の頭部18b,28bが、第1及び第2の金具10,20のベース板12,22を、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sに押圧する。これにより、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sにベース板12,22の他方の主面12b,22bが圧着し、第1及び第2の金具10,20は第1及び第2の部材2,4に固定される。第1及び第2のボルト18,28は、高張力なものが好ましい。
【0040】
なお、
図1及び
図2では、第1の金具10は座金16を用いて固定されているが、第1の金具10用の座金16を無くしても、あるいは、第2の金具10も座金を用いて固定してもよい。
【0041】
第1及び第2の金具10,20は、結合ピン30を用いて回動自在に結合され、結合ピン30の頭部30bとナット32との間に、第1及び第2の金具10,20の側板14a,14b;24a,24bが配置される。すなわち、第1の金具10の側板14a,14bの間に、第2の金具20の側板24a,24bが配置され、それぞれの側板14a,14b;24a,24bの貫通孔15a,15b;25a,25bに結合ピン30の軸部30aが挿通され、結合ピン30の軸部30aの先端部分に形成されたおねじにナット32が螺合される。結合ピン30は、高靭性のものが好ましい。
【0042】
なお、結合ピンの両端におねじが形成され、それぞれのおおねじに螺合するナットの間に、第1及び第2の金具10,20の側板14a,14b;24a,24bが配置されるように構成してもよい。また、第1及び第2の金具10,20の一方の側板14a,24a同士と、第1及び第2の金具10,20の他方の側板14b,24b同士とを、別々の部品を用いて回動自在に結合するように構成してもよい。
【0043】
次に、第1の部材2と第2の部材4とを接合する手順の一例を説明する。
【0044】
(1) まず、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8を第1及び第2の部材2,4に固定する。すなわち、第1及び第2の部材2,4が接合されたときに互いに対向する面2s,4sに第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の開口が露出するように、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のおねじを第1及び第2の部材2,4の対向する面2s,4sにねじ込み、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8を第1及び第2の部材2,4に固定する。このとき、第1及び第2の部材2,4に、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のおねじをねじ込むための下穴を加工してもよい。
【0045】
(2) 次いで、第1及び第2の部材2,4に第1及び第2の金具10,20を仮止めする。すなわち、第1及び第2の金具10,20のベース板12,22の一方の主面12a,22a側から第1及び第2のボルト18,28の軸部18a,28aを挿通し、第1及び第2のボルト18,28の軸部18a,28aのおねじを、第1及び第2の部材2,4にねじ込まれて固定された第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のめねじに螺合する。このとき、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sと、ベース板12,22の他方の主面12b,22bとの間に、多少の隙間ができる程度まで、第1及び第2のボルト18,28を螺合し、第1及び第2の金具10,20を第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sに仮止めする。
【0046】
(3) 次いで、第1及び第2の金具10,20を回動自在に結合する。すなわち、第1及び第2の部材2,4を、第1及び第2の部材2,4が接合されるときの相対位置に配置し、第1及び第2の金具10,20を回動自在に結合する。すなわち、第1及び第2の部材2,4に仮止めされた第1及び第2の金具10,20の側板14a,14b;24a,24bの貫通孔15a,15b;25a,25bに結合ピン30を挿通し、結合ピン30の軸部30aの先端部分に形成されたおねじにナット32を螺合して、第1及び第2の金具10,20を回動自在に結合する。
【0047】
(4) 次いで、第1及び第2のボルト18,28を増し締めする。すなわち、第1及び第2のボルト18,28の頭部18b,28bで、第1及び第2の金具10,20のベース板12,22を、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sに押圧して、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する面2s,4sにベース板12,22の他方の主面12b,22bを密着させる。これにより、第1及び第2の金具10,20を介して第1及び第2の部材2,4に引張力が作用し、第1及び第2の部材2,4の互いに対向する不図示の対向面同士が圧着し、第1及び第2の部材2,4が接合される。
【0048】
上記(1)〜(4)の手順により、第1及び第2のボルト18,28には初期張力が与えられ、接合部にガタがなくなり、第1及び第2の部材2,4は剛に接合される。なお、別の手順によって、第1及び第2の部材2,4を接合してもよい。
【0049】
以上に説明したラグスクリューボルトを用いた接合構造において、第1の部材2に固定された第1の金具10と第2の部材4に固定された第2の金具20とは、結合ピン30を介して回動自在に結合されている。そのため、第1及び第2の金具10,20が回動する方向のモーメントが第1及び第2の部材2,4のいずれか一方に作用しても、そのモーメントは第1及び第2の部材2,4の他方に伝達されない。これにより、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8にはできるだけ軸力のみが作用するようになるため、第1及び第2の部材2,4に割裂破壊が発生しにくい。
【0050】
第1及び第2の部材2,4の一方に過大な荷重が作用したとき、第1及び第2の部材2,4の他方に伝達されるまでの間に、その大部分は、第1及び第2の金具10,20や結合ピン30の塑性変形によって吸収され、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8と第1及び第2の部材2,4との接合部分が破壊されないように設計することができる。第1及び第2の金具10,20や結合ピン30が塑性変形したとき、第1及び第2の部材2,4を動かさずに、外部から、第1及び第2の金具10,20や結合ピン30を取り替えることは、従来例のようにラグスクリューボルトの中空孔内で塑性変形したボルトを取り替える場合に比べると、容易である。また、第1及び第2の金具10,20や結合ピン30だけを取り替えればよく、第1及び第2の部材2,4自体を取り替えずに、元の状態に復帰させることができる。
【0051】
第1及び第2のラグスクリューボルト6,8には長い中空孔を加工する必要がなく、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のめねじに螺合する第1及び第2のボルト18,28を長くする必要もない。そのため、接合された第1及び第2の部材2,4を取り替えることなく、接合部品(第1及び第2の金具10,20や結合ピン30、場合によっては第1及び第2のボルト18,28)のみを容易に交換可能な構成にすることができる。
【0052】
さらに、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の中空孔と、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8のめねじに螺合する第1及び第2のボルト18,28との間の空間を小さくしたり無くしたりして、結露による錆の発生を防ぐことができるので、長期安全性の面で危惧がない。
【0053】
特に、接合された第1及び第2の部材2,4を含む平面(例えば、
図2の紙面に平行な平面)と平行に、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8が延在し、当該平面に対して垂直方向に、第1及び第2の金具10,20を回動自在に結合する結合ピン30の中心軸が延在する場合、当該平面内において第1及び第2の部材2,4の角度が変わるモーメントは、接合された第1及び第2の部材2,4の一方から他方に、第1及び第2の金具10,20を介して伝達されないため、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8にはできるだけ軸力のみが作用するようになり、好ましい。
【0054】
第1及び第2の部材2,4が接合された状態で第1及び第2のラグスクリューボルト6,8にそれぞれの中心線方向の軸力が作用したときに、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の中心線がずれていると、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8には、第1及び第2の金具10,20を介してモーメントが作用する。一方、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の中心線が一致していると、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8には、第1及び第2の金具10,20を介してモーメントが作用しないため、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8にできるだけ軸力のみが作用するようになり、好ましい。
【0055】
<実施例2> 実施例2のラグスクリューボルトを用いた接合構造について、
図4〜
図13を参照しながら説明する。
【0056】
実施例2は、実施例1と略同様に構成される。以下では、実施例1と同じ構成部分には同じ符号を用い、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0057】
図4は、実施例2のラグスクリューボルトを用いた接合構造を示す分解斜視図である。
図4に示すように、部材2,4は、2組の第1及び第2のラグスクリューボルト6,8と、2組の接合部品60(すなわち、第1及び第2のボルト18,28と、結合ピン30とナット32により回動自在に結合された第1及び第2の金具10,20)とを用いて、第1及び第2の部材2,4を2か所で引っ張ることにより、第1及び第2の部材2,4を接合する。第1及び第2の部材2,4は、第1の部材2の側面2tと第2の部材4の端面4tとが当接し、直角に接合される。
【0058】
第1の部材2は、側面2tに2本の第1のラグスクリューボルト6が互いに平行にねじ込まれる。第1のラグスクリューボルト6は、第1のラグスクリューボルト6の開口が側面2tに露出するように、第1の部材2に固定される。第1の金具10は、第1のラグスクリューボルト6のめねじに第1のボルト18のおねじを螺合することにより、第1の部材2の側面2tに固定される。
【0059】
第2の部材4は、端面4tの両端に切込部2p,2qが形成されている。第2の部材4は、端面4tに平行な切込部4p,4qの切込面4a,4bに、それぞれ、第2のラグスクリューボルト8が互いに平行にねじ込まれる。第2のラグスクリューボルト8は、第2のラグスクリューボルト8の開口が切込面4a,4bに露出するように、第2の部材4に固定される。第2の金具20は、第2のラグスクリューボルト8のめねじに第2のボルト28のおねじを螺合することにより、第1の部材4の切込部4p,4qの切込面4a,4bに固定される。
【0060】
第1及び第2の金具10,20は、結合ピン30とナット32を用いて、回動自在に結合される。
【0061】
第1及び第2のラグスクリューボルト6,8は、第1及び第2の部材2,4が接合されたときに、第1及び第2の部材2,4を含む平面と平行に配置され、各組の第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の中心線は、それぞれ一致する。第1のラグスクリューボルト6は第1の部材2の中心線と直交し、第2のラグスクリューボルト8は第2の部材4の中心線と平行となる。2組の第1及び第2のラグスクリューボルト6,8は、第2の部材4の中心線の両側に、第2の部材4の中心線と平行に配置されている。接合された第1及び第2の部材2,4を含み、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8と平行である平面に対して直交する方向に、結合ピン30の中心軸が延在している。
【0062】
第1及び第2の部材2,4は、実施例1と同じ手順により剛に接合される。すなわち、第1及び第2のボルト18,28には初期張力が与えられ、第1の部材2の側面2tと第2部材4の端面4tとが互いに圧着し、接合部にはガタがない。第1及び第2の金具10,20や結合ピン30、ナット32は、第2の部材4の切欠部4p,4qに収納される。
【0063】
接合された第1及び第2の部材2,4の一方に、結合ピン30の中心軸まわりのモーメントが作用すると、このモーメントは軸力の偶力として、第1及び第2の部材2,4の他方に伝達される。すなわち、中心線が一致するように配置された第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の一方の組と他方の組には、逆向きで大きさが同じ軸力(一方の組には圧縮力、他方の組には引張力)が作用する。これにより、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8にはできるだけ軸力のみが作用するようになるため、第1及び第2の部材2,4に割裂破壊が発生しにくい。
【0064】
例えば、ラグスクリューボルト6,8の引き抜き耐力を超えない軸力で結合ピン30を曲げ塑性変形させるように設計すれば、初期剛性が高く、明確な降伏点を有し、かつ降伏後は、引張側、圧縮側両方に結合ピン30が大きな曲げ変形を起こすため、その相乗効果で、接合部全体としては非常に大きな塑性変形を期待することができる。
【0065】
このように設計すると、第1及び第2の金具10,20や結合ピン30が塑性変形したとき、第1及び第2の部材2,4を動かさずに、外部から第1及び第2の金具10,20や結合ピン30を取り替えることができ、従来例のようにラグスクリューボルトの長い中空孔内で塑性変形した長いボルトを取り替える場合に比べると、取り替え作業が容易である。また、第1及び第2の金具10,20や結合ピン30だけを取り替えればよく、接合された第1及び第2の部材2,4自体を取り替えずに、元の状態に復帰させることができる。
【0066】
また、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8は、中空孔を長くする必要はないため、ラグスクリューボルト6,8の加工コストは増大しない。
【0067】
また、第1及び第2のラグスクリューボルト6,8の中空孔と第1及び第2のボルトとの間には大きな空間が形成されないようにして結露による錆の発生を防ぎ、接合耐力を低下させる危険性が危惧されないようにすることができる。
【0068】
次に、実施例2の実験例について、
図5〜
図13を参照しながら説明する。
【0069】
図5は、柱52と梁54で構成される門型ラーメン構造のモーメント図である。
図6は、実験装置の構成を示す概略図である。
図7は、実験装置の写真である。
【0070】
実験装置は、
図5に示すラーメン構造のうち、鎖線50で囲まれた部分をモデル化している。すなわち、実験装置は、
図5において曲げモーメントがゼロになる断面53,55で切断したモデルである。
図6及び
図7に示す柱部材62は、
図5において柱52の曲げモーメントがゼロになる断面53より上側の部分56に相当する。
図6及び
図7に示す梁部材64は、
図5において梁54の曲げモーメントがゼロになる断面55より右側の部分58に相当する。
【0071】
図6及び
図7に示すように、柱部材62と梁部材64とは、直角に接合されている。柱部材62の上部と梁部材64の他方の端部には、それぞれ、ラグスクリューボルト66,68がねじ込まれて固定されている。ラグスクリューボルト66,68は、接合部品60によって接合されている。
【0072】
柱部材62の下端は、支持ピン72により回動自在に支持されている。梁部材64の他方の端部は、外径50mmの鋼管70により回動自在に支持されている。柱部材62の下端と梁部材64の他方の端部の両面(
図6において表面と裏面)は、厚さ7.5mmの合板63,65で釘打ち接着補強されている。
【0073】
図6には、実験装置の各部の寸法(単位はmm)を示している。梁部材64の断面は120mm×360mm、柱部材62の断面は120mm×300mmである。柱部材62及び梁部材64の供試試験体に用いた集成材は、オウシュウアカマツ異等級構造用集成材で、JAS等級はE120−F330である。
【0074】
ラグスクリューボルト66,68は、ラグスクリューボルト研究会発行のラグスクリューボルト接合設計・施工マニュアル(2007年発行版)に示すMKラーメンシステム用のラグスクリューボルトを用いた。柱部材62にはφ25mm×長さ300mmのラグスクリューボルト66を用い、梁部材64にはφ25mm×長さ360mmのラグスクリューボルト68を用いた。
【0075】
接合部品60の第1及び第2の金具には、厚さが12mmの鋼板を溶接したものを用いた。第1及び第2の金具の側板の貫通孔の直径は16.5mm、底板の貫通孔の直径は12.5mmである。その他の各部の寸法W、L、H、Wp、Hp(
図3参照)を、次の表1に示す。
【表1】
なお、単位はmmである。
【0076】
接合部品60の結合ピンには、先端部にM16のおねじが加工されている高靭性ボルト(M16−SNR490B)を用いた。接合部品60の第1及び第2のボルトには、M12、首下60mmの高張力ボルト(M12−HTボルト)を用いた。第1の金具にのみ、厚さが12mmの座金を用いた。
【0077】
実験は、京都大学生存圏研究所木質材料実験棟の自動加力制御油圧ジャッキ装置を用い、梁部材64の他方の端部に固定された治具74を介して、矢印78で示すように、梁部材64の中心線方向の荷重を加えた。載荷プロトコルは1/300rad〜1/10radまでの変位制御を6回繰り返し(各ピークでの繰り返しは1回)、柱部材62と梁部材64との間の角度変化(相対回転角θ)を測定した。具体的には、上下方向に距離hだけ離れた2か所で、梁部材64に固定した距離センサを用いて柱部材62に固定した突き当て部材までの距離の変化Δd1、Δd2を測定し、θ=(Δd1−Δd2)/hを算出した。
【0078】
図9は、実験で得られた接合部のモーメントMと相対回転角θの関係の一例を示すグラフである。
【0079】
図10〜
図12は、3体実験した各試験体の包絡線関係図と、構造設計用の特性値を評価するために通常実施する完全弾塑性近似による初期剛性と降伏耐力のプロットを示すグラフである。
【0080】
ただし、
図10に示す試験体R−SP1については、引き側(M−θ図の第1象限側)で破壊させたのに対し、
図11、
図12に示す試験体R−SP2、R−SP3では圧縮側(M−θ図の第3象限側)で破壊させたので、包絡線プロットの概観が異なっている。
【0081】
図13は、接合部で発生した結合ピンの曲げ塑性変形の状態を示す写真である。第2の金具も、結合ピンの曲げ変形に追随して相当変形することが分かった。
【0082】
実験では、2組の第1及び第2の金具の計4個を、ボルトを緩めにした状態で仮固定しておき、横から結合ピンを第1及び第2の金具に貫通させて結合した後に、ボルトを完全に締めて、接合部に初期テンションを導入した。これだけは、上下の接合ずれが若干生じたため、
図8の概略図に示すように、柱部材62と梁部材64の互いに圧着する対向面62t,64tを横断するように、直径28mm×長さ130mmの樫丸ダボ69を、柱部材62と梁部材64との間に挿入して、上下のずれを抑制することを試みた。
【0083】
図10の試験体R−SP1は、ダボが無い場合のM−θ関係を示している。
図10に示すように、θ=0付近においてMの変化が遅れており、初期に若干の「遊び」が発生しているのが分かる。
【0084】
一方、ダボを挿入した試験体R−SP2、R−SP3の場合、
図11、
図12に示すようにθ=0近傍で直ちにMが変化しており、初期の遊びが解消されたことが分かる。
【0085】
この措置によって、最終的には初期遊びの起こらない、高剛性、明確な降伏点、そして大きな塑性変形能力を有する木質ラーメン接合部を生み出すことができた。
【0086】
<まとめ> 以上に説明したように、本発明のラグスクリューボルトを用いた接合構造は、ラグスクリューボルトに長い中空孔を加工する必要がなく、接合された部材を取り替えることなく接合部品のみを容易に交換可能な構成にすることができ、長期安全性の面で危惧がなく、接合された部材に割裂破壊が発生しにくい。
【0087】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0088】
例えば、第1及び第2の金具は、それぞれ複数本のボルトで固定されてもよい。