(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ターンオフ時に前記主半導体層に広がる空間電荷領域は、前記相対的に不純物濃度の高い層よりも前記相対的に不純物濃度の低い層において速く前記第1導電型フィールドストップ層に到達することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、パワー半導体デバイスは、無接点スイッチとして用いられる。そのため、パワー半導体デバイスには、発生損失が小さいことが望まれており、低オン電圧化および低スイッチング損失化が進められている。パワー半導体デバイスのオン電圧とスイッチング(ターンオフ)損失には、トレードオフの関係があることが知られている。このトレードオフの関係は、IGBTではオン電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性と呼ばれ、ダイオードでは順電圧−逆回復損失トレードオフ特性と呼ばれる。
【0003】
これらのトレードオフ特性は、パワーデバイスの発生損失の指標であり、改善することが要求されている。周知の改善方法では、オン電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性とソフトスイッチング性が相反することが多いため、これらを両立させることが課題となる。特に、ターンオフ損失の低減には、高速スイッチング性能が影響するため、高速スイッチング性能とソフトスイッチング性の両立が重要である。
【0004】
近年、オン状態の過剰キャリアの分布を制御することによって、IGBTのオン電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性を改善する手法が提案されている。例えば、nドリフト層の表面層にpウェル領域を選択的に形成し、nドリフト層の一部が表面に達するようにし、トレンチゲート構造のトレンチの幅Wtとトレンチ間のpウェル領域の幅Wpとの比Wt/Wpを1〜20の範囲とするトレンチ型絶縁ゲートバイポーラトランジスタが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、p型ベース領域およびn
+ソース領域がエミッタ電極に接する部分のp型ベース領域のトレンチ溝にはさまれた部分の長さとそれ以外のp型ベース領域の長さに対する比が、1:2〜1:7である絶縁ゲート型半導体装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
一方、半導体基板に対する改善も提案されている。例えば、ドリフト領域内にn
+バッファ領域を形成し、定格電圧を印加したときに第1n
-ドリフト領域に広がる空乏層の先端をn
+バッファ領域内で停止するように、第1n
-ドリフト領域の幅とn
+バッファ領域の不純物ドーズ量を所定の値に決め、さらに第2n
-ドリフト領域の幅を所定の値にするようにした半導体装置が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。また、オン状態では電流を流すとともに、オフ状態では空乏化する半導体基体領域が、複数の深さにほぼ周期的に交互に形成されたn埋め込み領域、p埋め込み領域とを有し、n埋め込み領域、p埋め込み領域がそれぞれ深さ方向にほぼ整列されている超接合半導体素子が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
また、高濃度のn型不純物を含むドレイン層上に、ドレイン層よりも不純物濃度の低いn型Siからなる中間層が形成されており、この中間層には、ドレイン層よりも不純物濃度が低く、中間層よりも不純物濃度が高いn型Siからなり、動作時の電流の主経路となるドリフト層を構成するn型層と、p型Siからなるp型層が形成されている半導体装置が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。さらに、複数個の基本機能ユニットであって、各基本機能ユニットが、第1の固有抵抗値を有するn型の半導体材料層中に形成されたp型の本体領域を有するこれら基本機能ユニットと、各本体領域の下側にそれぞれ配置され、第1の固有抵抗値よりも大きな第2の固有抵抗値を有するn型の低ドープ領域とを具えるMOSゲートパワーデバイスが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0007】
ここで、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。
【0008】
図20は、従来のトレンチゲート型IGBTの構成を示す断面図である。
図20に示すように、低濃度のn型主半導体層1の第一主面側の表面領域および第二主面側の表面領域に、それぞれ、pチャネル層2および高濃度のp型コレクタ層3が設けられている。n型主半導体層1の、pチャネル層2とp型コレクタ層3の間の領域は、不純物濃度が一様なn型ベース層4となる。n型ベース層4とp型コレクタ層3の間には、n
+型フィールドストップ層5が設けられている。
【0009】
pチャネル層2の表面領域には、n
+エミッタ領域6が選択的に設けられている。n型主半導体層1の第一主面側の表面領域には、複数のトレンチ7がストライプ状に設けられている。各トレンチ7は、n
+エミッタ領域6に隣接し、n型主半導体層1の第一主面からpチャネル層2を貫通してn型ベース層4に達する。各トレンチ7内には、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9が設けられている。
【0010】
n型主半導体層1の第一主面上には、層間絶縁膜10がゲート電極9を覆うように設けられている。n型主半導体層1の第一主面上には、金属膜からなるエミッタ電極11が層間絶縁膜10を覆い、かつn
+エミッタ領域6に接するように設けられている。pチャネル層2の表面領域には、p
+型ボディ領域12が選択的に設けられている。エミッタ電極11は、p
+型ボディ領域12を介して、pチャネル層2に電気的に接続している。パッシベーション膜として窒化膜やアモルファスシリコン膜やポリイミド膜がエミッタ電極11の上に設けられることがあるが、
図20では省略されている。また、p型コレクタ層3の表面には、金属膜からなるコレクタ電極13が設けられている。
【0011】
図21は、従来のプレーナーゲート型IGBTの構成を示す断面図である。
図21に示すように、従来のプレーナーゲート型IGBTでは、n型ベース層4の不純物濃度は、一様である。pチャネル領域22は、n型主半導体層1の第一主面側の表面領域に選択的に設けられている。n
+エミッタ領域6およびp
+型ボディ領域12は、pチャネル領域22の表面領域に選択的に設けられている。ゲート絶縁膜8は、pチャネル領域22の、n
+エミッタ領域6とn型ベース層4の間の表面に沿って設けられている。ゲート電極9はゲート絶縁膜8の上に設けられている。ゲート電極9と、n型主半導体層1の、pチャネル領域22以外の領域とは、ゲート絶縁膜8から延びる絶縁膜によって絶縁されている。その他の構成は、
図20に示すトレンチゲート型IGBTの構成と同様である。
【0012】
IGBTの動作について説明する。IGBTがオフ状態からオン状態になるときの動作は、次の通りである。オフ状態において、エミッタ電極11が接地され、コレクタ電極13に接地電位よりも高い電圧が印加されると、n型ベース層4とpチャネル層2(pチャネル領域22)の間の逆バイアス接合により、その逆耐電圧以下ではIGBTは阻止状態となる。この状態で、図示しないゲート駆動回路からゲート抵抗を介してゲート電極9に閾値電圧よりも高い電圧が印加される。それによって、ゲート電極9に電荷が蓄積され始める。同時に、pチャネル層2(pチャネル領域22)の、ゲート絶縁膜8に接する領域に、n型に反転したnチャネル領域(図示せず)が形成される。
【0013】
n
+エミッタ領域6とn型ベース層4の間にnチャネル領域が形成されると、このnチャネル領域を通る通路では、逆バイアス接合が消える。従って、エミッタ電極11からn
+エミッタ領域6およびnチャネル領域を通ってn型ベース層4に、電子が注入される。この電子の注入が起こると、コレクタ側のpn接合が順バイアスされるので、p型コレクタ層3からn型ベース層4に、少数キャリアである正孔が注入される。そして、正孔がn型ベース層4に注入されると、n型ベース層4においてキャリアについての中性条件を保つために多数キャリアである電子濃度が高くなり、n型ベース層4の抵抗が低くなる。いわゆる伝導度変調が起こる。このときにコレクタ電極13とエミッタ電極11の間に流れる電流による電圧降下が、オン電圧である。
【0014】
一方、IGBTがオン状態からオフ状態になるときの動作は、次の通りである。オン状態において、エミッタ電極11とゲート電極9の間の電圧が閾値以下になると、ゲート電極9に蓄積されていた電荷がゲート抵抗を介してゲート駆動回路へ放電される。それによって、pチャネル層2(pチャネル領域22)においてn型に反転していたチャネル領域がp型に戻り、nチャネル領域がなくなる。従って、エミッタ電極11からn型ベース層4への電子の供給がなくなる。しかし、n型ベース層4内に蓄積されている電子および正孔がそれぞれコレクタ電極13およびエミッタ電極11へ掃き出されるか、または、再結合して消滅するまで、電流が流れ続ける。そして、n型ベース層4内の電子と正孔が消滅した後に電流が流れなくなり、IGBTがオフ状態となる。
【0015】
【特許文献1】特開2000−228519号公報
【特許文献2】特開2001−308327号公報
【特許文献3】特開2004−193212号公報
【特許文献4】特開2000−40822号公報
【特許文献5】特開2006−294968号公報
【特許文献6】特開平9−232567号公報
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の構成を示す断面図である。
図1に示すように、この半導体装置は、トレンチゲート型IGBTである。n型主半導体層31の第一主面側の表面領域および第二主面側の表面領域に、それぞれ、pチャネル層(チャネル領域)32および高濃度のp型コレクタ層33が設けられている。n型主半導体層31において、pチャネル層32とp型コレクタ層33の間の領域は、相対的に不純物濃度の高いn型低濃度半導体層34a、または相対的に不純物濃度の低いn型極低濃度半導体層34bとなっている。n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bは、n型主半導体層31の第一主面に平行な方向に例えばストライプ状に交互に繰り返し設けられている。n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bとp型コレクタ層33の間には、n型低濃度半導体層34aよりも高濃度のn
+型フィールドストップ層35が設けられている。
【0029】
pチャネル層32の表面領域には、n
+エミッタ領域36およびp
+型ボディ領域42が選択的に設けられている。n型主半導体層31の第一主面側の表面領域には、複数のトレンチ37がストライプ状に設けられている。各トレンチ37は、n
+エミッタ領域36に隣接し、n型主半導体層31の第一主面からpチャネル層32を貫通してn型低濃度半導体層34aまたはn型極低濃度半導体層34bに達する。各トレンチ37内には、ゲート絶縁膜38を介してゲート電極39が設けられている。
【0030】
n型主半導体層31の第一主面上には、層間絶縁膜40がゲート電極39を覆うように設けられている。n型主半導体層31の第一主面上には、金属膜からなるエミッタ電極41が層間絶縁膜40を覆い、かつn
+エミッタ領域36およびp
+型ボディ領域42に接するように設けられている。エミッタ電極41は、p
+型ボディ領域42を介してpチャネル層32に電気的に接続している。p型コレクタ層33の表面には、金属膜からなるコレクタ電極43が設けられている。エミッタ電極41の上に窒化膜やアモルファスシリコン膜やポリイミド膜などのパッシベーション膜が設けられることがあるが、
図1では省略されている。
【0031】
ここで、n型低濃度半導体層34aの不純物濃度は、例えば、従来のIGBTにおける低濃度の主半導体層の不純物濃度と同程度である。この場合、n型極低濃度半導体層34bの不純物濃度は、従来のIGBTにおける低濃度の主半導体層の不純物濃度よりも低くなる。n型低濃度半導体層34aは、ターンオフ時に空間電荷領域の広がりを抑制する役割を担う。従って、n型低濃度半導体層34aは、ターンオフ時にn型低濃度半導体層34aのフィールドストップ層35側に中性領域が残るように設定される。ターンオフ時にn型主半導体層31中に中性領域が残ることによって、ソフトスイッチングが実現される。
【0032】
また、n型極低濃度半導体層34bは、ターンオフ時に空間電荷領域を押し広げ、電子および正孔を速く排出する役割を担う。ターンオフ時には、n型極低濃度半導体層34bに広がる空間電荷領域は、n型低濃度半導体層34aに広がる空間電荷領域よりも速くフィールドストップ層35に到達する。それによって、高速ターンオフが実現される。
【0033】
また、n型低濃度半導体層34aの不純物濃度とn型極低濃度半導体層34bの不純物濃度の比は、例えば2以上であるとよい。このような濃度比であれば、高速ターンオフとソフトスイッチングの両方の効果が十分に得られるからである。また、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bの配置パターンは、ゲート電極構造やn
+エミッタ領域36などの表面構造の配置パターンに依存しない。つまり、n型主半導体層31の不純物濃度の分布を、IGBTの表面構造の配置パターンと関係なく、自由に設計することができる。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の他の構成を示す平面図である。
図1に示す構成では、各n型低濃度半導体層34aおよび各n型極低濃度半導体層34bは、図面に対して垂直な方向に延びている。また、各トレンチゲート構造のトレンチ37は、図面に対して垂直な方向に延びている。つまり、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bが延びる方向と、各ゲート構造のトレンチ37が延びる方向とが平行である。それに対して、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bが延びる方向と各ゲート構造のトレンチ37が延びる方向とがほぼ90°〜45°の角度をなしていてもよい。
【0035】
図3〜
図6は、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法を説明する断面図である。
図3に示すように、まず、出発基板としてn型半導体基板51を用意し、その第一主面に酸化膜52を成膜する。そして、フォトリソグラフィおよびエッチングを行って、酸化膜52の一部を除去し、n型半導体基板51の一部を露出させる。例えば、酸化膜52をストライプ状に残し、n型半導体基板51の第一主面をストライプ状に露出させる。次いで、
図4に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)などの異方性エッチングを行って、n型半導体基板51に深いトレンチ53を形成する。
【0036】
次いで、
図5に示すように、エピタキシャル成長を行って、トレンチ53を半導体54で隙間なく埋める。その際、n型半導体基板51の不純物濃度とは異なる不純物濃度のn型半導体54を成長させる。次いで、
図6に示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などの研磨を行って、酸化膜52の上にまで成長した半導体54を除去してその研磨面を平坦にし、更に酸化膜52を除去する。このようにしてできた半導体基板55を半導体装置の作製用基板として用いる。
【0037】
この作製用基板(半導体基板55)において、トレンチ53を、出発基板(n型半導体基板51)よりも高不純物濃度の半導体54で埋める場合には、
図1または
図2に示す半導体装置において、エピタキシャル成長層(半導体54)がn型低濃度半導体層34aとなり、出発基板の部分がn型極低濃度半導体層34bとなる。トレンチ53を、出発基板(n型半導体基板51)よりも低不純物濃度の半導体54で埋める場合には、その逆となる。
【0038】
次いで、図示省略するが、半導体装置の作製用基板(半導体基板55)を用いて、その第一主面側に周知の方法によりpチャネル層32、n
+エミッタ領域36、トレンチ37、ゲート絶縁膜38、ゲート電極39、層間絶縁膜40、エミッタ電極41およびp
+型ボディ領域42などの表面構造を形成する。また、半導体基板55の第二主面に対して研磨やエッチングを行って、半導体基板55を薄くした後、第二主面側にイオン注入および熱処理によってフィールドストップ層35およびp型コレクタ層33を形成する。そして、コレクタ電極43を形成する。また、必要な場合には、第一主面側をパッシベーション膜で被覆する。
【0039】
なお、出発基板(n型半導体基板51)から作製用基板(半導体基板55)を作製する方法は、従来の超接合構造の半導体基板を作製する方法に類似している。超接合構造の半導体基板は、n型半導体層とp型半導体層が交互に繰り返し配置された並列pn層を有する。従って、超接合構造の半導体基板を作製する種々の公知技術を適用し、導電型が同じで不純物濃度の異なる低濃度半導体層と極低濃度半導体層を交互に配置すれば、作製用基板(半導体基板55)が得られる。例えば、出発基板の第一主面に半導体層を薄くエピタキシャル成長させ、そのエピタキシャル成長層の一部に不純物を注入してエピタキシャル成長層の面内において不純物濃度の濃淡を作り、これを繰り返すことによって、導電型が同じで不純物濃度の異なる低濃度半導体層と極低濃度半導体層を交互に配置するようにしてもよい。
【0040】
一例として、実施の形態1を適用して1200V級のトレンチゲート型IGBTを作製し、そのターンオフ波形、耐圧特性およびI−V特性を調べた結果を示す。出発基板として、FZ(Floating Zone)法で作製されたシリコンインゴットから切り出されたn型のFZシリコン基板を用いた。このFZシリコン基板の抵抗率は100Ωcmであり、厚さは500μmであり、面方位は(100)であり、オリエンテーションフラット(オリフラ)の方向は<100>であった。
【0041】
このFZシリコン基板の第一主面に、例えば熱酸化処理等によって厚さ3μm程度の酸化膜を成膜した。そして、フォトリソグラフィおよびエッチングを行って、10μm間隔で酸化膜を10μmの幅で除去し、ストライプ状にFZシリコン基板の第一主面を露出させた。残った酸化膜をマスクとしてRIEなどの異方性エッチングにより100μm程度の深さまでシリコンを矩形状に除去して、FZシリコン基板にストライプ状に深いトレンチを形成した。FZシリコン基板において、トレンチとトレンチの間の部分がn型極低濃度半導体層となる。
【0042】
次いで、エピタキシャル成長を行って、FZシリコン基板のトレンチを抵抗率50Ωcmのn型の半導体で埋めた。このエピタキシャル成長層がn型低濃度半導体層となる。次いで、CMPなどの研磨を行って、マスク酸化膜の上にまで成長したエピタキシャル成長層を除去し、その研磨面を平坦にして、半導体装置の作製用基板を得た。この作製用基板を用いて、
図1に示す構成のIGBTを作製した。IGBTのエミッタ側の構造(表面構造)を形成した後、基板裏面の研磨およびエッチングを行い、基板の厚さを120μm程度にした。この基板の厚さがn型主半導体層の厚さとなる。そして、IGBTのコレクタ側の構造(裏面構造)を形成した。また、エミッタ側の表面をポリイミド膜で被覆した。
【0043】
このようにして作製され、
図1に示す断面構造を有するIGBTを「実施例1」とする。また、実施例1と同様にして作製され、
図2に示す平面構造を有するIGBTを「実施例2」とする。実施例1および2では、n型低濃度半導体層の抵抗率は50Ωcmであり、n型極低濃度半導体層の抵抗率は100Ωcmであり、n型主半導体層の厚さは120μmである。それに対して、n型低濃度半導体層の抵抗率を35Ωcmとし、n型極低濃度半導体層の抵抗率を500Ωcmとし、n型主半導体層の厚さを110μm程度としたIGBTを「実施例3」とする。比較として、
図20に示す従来構成において、n型ベース層の抵抗率を50Ωcmとし、n型主半導体層の厚さを120μmとしたIGBTを「従来例1」とする。
【0044】
図7は、実施例1および従来例1のターンオフ波形を比較して示す特性図である。
図8は、実施例2および従来例1のターンオフ波形を比較して示す特性図である。
図9は、実施例3および従来例1のターンオフ波形を比較して示す特性図である。これらの図からわかるように、実施例1〜3のいずれにおいても、ターンオフ電流波形は、従来例1よりも電流の立ち下がり始めの部分で緩やかになる。また、実施例1〜3のいずれにおいても、電流減少後の、いわゆるテール電流と呼ばれる部分の電流が従来例1よりも速く0になることがわかる。従って、実施例1〜3のいずれも、従来例1とほぼ同一のターンオフ損失でありながら、コレクタ電圧の上昇が小さくなり、ターンオフ全体が速くなる。つまり、実施例1〜3では、高速ターンオフ性とソフトスイッチング性を同時に実現できることがわかる。
【0045】
また、実施例1と実施例2とでほぼ同様の効果が得られている。従って、n型低濃度半導体層およびn型極低濃度半導体層の配置パターンと、ゲート電極構造やn
+エミッタ領域などの表面構造の配置パターンとは無関係であることがわかる。また、ゲートにオフ信号を入力してからテール電流が0になるまでに要する時間をグラフから読み取ると、実施例1、2ではおよそ0.8μsであり、実施例3ではおよそ0.6μsである。このように、実施例3では、実施例1または2よりもテール電流がより速く0になる。実施例3では、このような高速スイッチング化の効果により、ターンオフ損失が実施例1、実施例2および従来例1に対して約8%程度小さくなるという効果が得られる。
【0046】
図10は、実施例1、実施例2、実施例3および従来例1の耐圧特性を比較して示す特性図である。
図10から、実施例3では、実施例1または2よりもn型低濃度半導体層の抵抗率を低くしたことと、n型主半導体層の厚さを薄くしたことによって、実施例1または2よりも耐圧が低下することがわかる。しかし、n型低濃度半導体層とn型極低濃度半導体層でn型主半導体層を構成したことにより、実施例3は、従来例1と同等の耐圧を確保できることがわかる。
【0047】
実施例1または2のように、n型主半導体層が従来例1と同じ程度の厚さであれば、従来例1よりも耐圧が上昇する。従来例1と同じ程度の耐圧を確保できればよい場合には、例えば実施例3のようにn型主半導体層を薄くするなどのように、構造などを適宜変更することによって、他の特性の改善を図ることができる。従って、IGBTの設計の自由度が高くなる。
【0048】
図11は、実施例1、実施例2、実施例3および従来例1のI−V特性を比較して示す特性図である。
図11から、実施例3では、実施例1、実施例2または従来例1よりもn型主半導体層の厚さを薄くしたことによって、実施例1、実施例2または従来例1よりもオン電圧が低くなることがわかる。つまり、実施例3では、オン電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性が改善されることがわかる。
【0049】
実施の形態2.
図12は、本発明の実施の形態2にかかる半導体装置の構成を示す断面図である。
図12に示すように、この半導体装置は、プレーナーゲート型IGBTである。n型主半導体層31には、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bが、n型主半導体層31の第一主面に平行な方向に例えばストライプ状に交互に繰り返し設けられている。pチャネル領域62は、n型主半導体層31の第一主面側の表面領域に選択的に設けられている。
【0050】
n
+エミッタ領域36およびp
+型ボディ領域42は、pチャネル領域62の表面領域に選択的に設けられている。ゲート絶縁膜38は、pチャネル領域62の、n
+エミッタ領域36と、n型低濃度半導体層34aまたはn型極低濃度半導体層34bとの間の表面に沿って設けられている。ゲート電極39はゲート絶縁膜38の上に設けられている。ゲート電極39と、n型主半導体層31の、pチャネル領域62以外の領域とは、ゲート絶縁膜38から延びる絶縁膜によって絶縁されている。その他の構成は、
図1に示すトレンチゲート型IGBTの構成と同様である。
【0051】
高速ターンオフとソフトスイッチングの両方の効果が十分に得られるので、n型低濃度半導体層34aの不純物濃度とn型極低濃度半導体層34bの不純物濃度の比は、例えば2以上であるとよい。また、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bの配置パターンが、IGBTの表面構造の配置パターンに依存しないので、n型主半導体層31の不純物濃度の分布を、IGBTの表面構造の配置パターンと関係なく、自由に設計することができる。例えば、
図12に示す構成では、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bが延びる方向とpチャネル領域62が延びる方向とは平行であるが、それらの方向がほぼ90°〜45°の角度をなしていてもよい。
【0052】
図13は、本発明の実施の形態2にかかる半導体装置の他の構成を示す平面図である。
図12に示す構成では、各n型低濃度半導体層34aの幅は同じであり、各n型極低濃度半導体層34bの幅は同じである。さらに、n型低濃度半導体層34aとn型極低濃度半導体層34bの幅も同じである。つまり、
図12に示す構成では、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bの繰り返しピッチが一定である。それに対して、
図13に示すように、各n型低濃度半導体層34aの幅が不定であり、各n型極低濃度半導体層34bの幅が不定であってもよい。つまり、n型低濃度半導体層34aおよびn型極低濃度半導体層34bの繰り返しピッチが一定でなくてもよい。
【0053】
本発明の実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法において、出発基板から作製用基板を作製する方法は、実施の形態1と同様である。作製用基板を用いてプレーナーゲート型IGBTを作製する方法は、従来と同様である。
【0054】
一例として、実施の形態2を適用して1200V級のプレーナーゲート型IGBTを作製し、そのターンオフ波形、耐圧特性およびI−V特性を調べた結果を示す。出発基板として、抵抗率が500Ωcmであり、厚さが500μmであり、面方位が(100)であり、オリエンテーションフラット(オリフラ)の方向が<100>であるn型のFZシリコン基板を用いた。
【0055】
このFZシリコン基板の第一主面に、例えば熱酸化処理等によって厚さ3μm程度の酸化膜を成膜した。そして、フォトリソグラフィおよびエッチングを行って、20μm間隔で酸化膜を20μmの幅で除去し、ストライプ状にFZシリコン基板の第一主面を露出させた。残った酸化膜をマスクとしてRIEなどの異方性エッチングにより140μm程度の深さまでシリコンを矩形状に除去して、FZシリコン基板にストライプ状に深いトレンチを形成した。FZシリコン基板において、トレンチとトレンチの間の部分がn型極低濃度半導体層となる。
【0056】
次いで、エピタキシャル成長を行って、FZシリコン基板のトレンチを抵抗率50Ωcmのn型の半導体で埋めた。このエピタキシャル成長層がn型低濃度半導体層となる。次いで、CMPなどの研磨を行って、マスク酸化膜の上にまで成長したエピタキシャル成長層を除去し、その研磨面を平坦にして、半導体装置の作製用基板を得た。この作製用基板を用いて、
図12に示す構成のIGBTを作製した。IGBTのエミッタ側の構造(表面構造)を形成した後、基板裏面の研磨およびエッチングを行い、基板の厚さを135μm程度にした。この基板の厚さがn型主半導体層の厚さとなる。そして、IGBTのコレクタ側の構造(裏面構造)を形成した。また、エミッタ側の表面をポリイミド膜で被覆した。
【0057】
このようにして作製され、
図12に示す断面構造を有するIGBTを「実施例4」とする。また、実施例4と同様にして作製され、
図13に示す断面構造を有するIGBTを「実施例5」とする。ただし、実施例5では、n型低濃度半導体層の抵抗率は70Ωcmである。実施例5のIGBTを作製する際には、出発基板の第一主面のマスク酸化膜を一定ではない間隔で一定ではない幅で除去し、トレンチエッチングを行う。また、実施例5と同様の構成を有し、n型主半導体層の厚さを125μmとしたIGBTを「実施例6」とする。比較として、
図21に示す従来構成において、n型ベース層の抵抗率を70Ωcmとし、n型主半導体層の厚さを135μmとしたIGBTを「従来例2」とする。
【0058】
図14は、実施例4および従来例2のターンオフ波形を比較して示す特性図である。
図15は、実施例5および従来例2のターンオフ波形を比較して示す特性図である。
図16は、実施例6および従来例2のターンオフ波形を比較して示す特性図である。これらの図からわかるように、実施例4〜6のいずれにおいても、ターンオフ電流波形は、従来例2よりも電流の立ち下がり始めの部分で緩やかになる。また、実施例4〜6のいずれにおいても、テール電流が従来例2よりも速く0になることがわかる。従って、実施例4〜6のいずれも、従来例2とほぼ同一のターンオフ損失でありながら、コレクタ電圧の上昇が小さくなり、ターンオフ全体が速くなる。つまり、実施例4〜6では、高速ターンオフ性とソフトスイッチング性を同時に実現できることがわかる。
【0059】
また、実施例4と実施例5とでほぼ同様の効果が得られている。従って、n型低濃度半導体層およびn型極低濃度半導体層の配置パターンと、ゲート電極構造やn
+エミッタ領域やpチャネル領域などの表面構造の配置パターンとは無関係であることがわかる。また、n型低濃度半導体層およびn型極低濃度半導体層の単位構造が無秩序な構造であっても、同様の効果が得られることがわかる。また、テール電流が0になるまでに要する時間をグラフから読み取ると、実施例4および5ではおよそ0.7μsであり、実施例6ではおよそ0.6μsである。このように、実施例6では、実施例4または5よりもテール電流がより速く0になる。実施例6では、このような高速スイッチング化の効果により、ターンオフ損失が実施例4、実施例5および従来例2に対して約8%程度小さくなるという効果が得られる。
【0060】
図17は、実施例4、実施例5、実施例6および従来例2の耐圧特性を比較して示す特性図である。
図17から、実施例6では、実施例4または5よりもn型主半導体層の厚さを10μm薄くしたことによって、実施例4または5よりも耐圧が低下することがわかる。しかし、n型低濃度半導体層とn型極低濃度半導体層でn型主半導体層を構成したことと、n型極低濃度半導体層の抵抗率を500Ωcmと高くしたことにより、実施例6は、従来例2よりも高い耐圧を確保できることがわかる。
【0061】
実施例4〜6のように、従来例2よりも高い耐圧が得られる。従来例2と同じ程度の耐圧を確保できればよい場合には、例えばn型主半導体層を薄くするなどのように、構造などを適宜変更することによって、他の特性の改善を図ることができる。従って、IGBTの設計の自由度が高くなる。
【0062】
図18は、実施例4、実施例5、実施例6および従来例2のI−V特性を比較して示す特性図である。
図18から、実施例6では、実施例4、実施例5または従来例2よりもn型主半導体層の厚さを10μm薄くしたことによって、実施例4、実施例5または従来例2よりもオン電圧が低くなり、オン電圧−ターンオフ損失トレードオフ特性が改善されることがわかる。
【0063】
実施の形態3.
図19は、本発明の実施の形態3にかかる半導体装置の構成を示す断面図である。上述した実施の形態1または2では、n型低濃度半導体層34aの幅およびn型極低濃度半導体層34bの幅は、エミッタ側からコレクタ側まで一定である。それに対して、実施の形態3では、
図19に示すように、n型低濃度半導体層34aの幅がエミッタ側からコレクタ側に向かって広くなり、n型極低濃度半導体層34bの幅がエミッタ側からコレクタ側に向かって狭くなっている。このような構成としても、実施の形態1または2と同様の効果が得られる。なお、n型極低濃度半導体層34bがエミッタ側からコレクタ側に向かって広くなっている場合には、ターンオフ時に高電圧が印加されると、空間電荷領域が速くバッファ層(フィールドストップ層35)に達してしまい、電圧振動が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0064】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、主半導体層において低濃度半導体層および極低濃度半導体層は、交互に繰り返し設けられていれば、ストライプ状でなくてもよい。例えば、極低濃度半導体層中に低濃度半導体層が島状に設けられていてもよいし、その逆のパターンでもよい。また、主半導体層の濃度分布は、3つ以上の不純物濃度が繰り返されるような分布であってもよい。この場合、主半導体層の不純物濃度のうち、最も高い不純物濃度と最も低い不純物濃度の比が2以上であれば、十分な効果が得られるので、好ましい。また、トレンチゲート型IGBTにおいて、低濃度半導体層および極低濃度半導体層の繰り返しピッチが一定でなくてもよい。また、プレーナーゲート型IGBTにおいて、低濃度半導体層および極低濃度半導体層が延びる方向とpチャネル領域が延びる方向とがほぼ90°〜45°の角度をなしていてもよい。
【0065】
また、実施の形態中に記載した寸法や濃度などは一例であり、本発明はそれらの値に限定されるものではない。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。また、本発明は、ダイオードにも適用可能であり、順電圧−逆回復損失トレードオフ特性とソフトスイッチング性能が両立する縦型ダイオードが得られる。