【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、
図1から
図11を参照して説明する。なお本実施例では、縦型素子として、耐圧600VのMOSFETを示した。
図1は、本実施例の窒化ガリウムMOSFET装置の概略断面図を示す。この図に示すように、本実施例の窒化ガリウムMOSFETは、シリコン基板101とその上にバッファ層として窒化アルミニウム(AlN)層102とGaN層103が形成され、その上に低濃度N
-GaN層104が配置されている。さらにシリコン基板101には裏面から前記N
-GaN層104に達するトレンチ溝112が掘られ、その中に導電物として金属膜113が形成されさらに半田層114で充填されている。本実施例では金属膜113はN
-GaN層104とショットキー接合をするショットキー電極として機能し、このショットキー電極としてニッケル(Ni)を用い、その後金(Au)をメッキした。
【0020】
次に、MOSFETの製造方法を説明する。
図2から
図5は、本発明第1実施形態のGaN−MOSFET製造工程の概略断面図である。まず、シリコン基板101として主面が(111)面である基板を準備し、この上に、周知の技術である有機金属化学的気相成長法(MOCVD)を用いてAlN層102とノンドープのGaN層103を形成する。シリコン(111)面の格子定数は0.3840nmで、GaNのそれは0.3819nmであり比較的近い値であるため、シリコン(111)面を選択した。シリコン基板101は、直径200mm厚さ500μmであり、その上に形成したAlN層102は15nm、ノンドープのGaN層103は200nmの厚みを持っている。また、AlN層102は結晶構造の変換のために、またGaN層103は結晶の品質改善のための層として形成している。さらに、その上にN
-GaN層104μmをエピタキシャル成長させる。不純物濃度は2.1×10
16cm
-3とした。このとき、ガリウムの材料としてトリメチルガリウムを、また、窒素の材料としてアンモニアガスを用いた。またN型化するために、ドーパント材料としてモノシランを用いた。その上にP
-GaN層105μmをエピタキシャル成長させる。不純物濃度は2×10
17cm
-3とし、ドーパント材としてマグネシウムを用いた。これで、
図2に示すように基本的な層構成は完成する。次にP
-GaN層105の表面にシリコン酸化膜(SiO
2膜)を形成し、パターニンングし、マスク酸化膜120をマスクとしてP
+層106を形成する(
図3)。前記P
+層106は、マグネシウムを加速電圧45keV、不純物濃度3×10
18cm
-3とした。その後、前記マスク酸化膜(SiO
2膜)120を除去し、再度SiO
2を選択的に形成してマスク酸化膜121を形成し、N
+層107を形成する(
図4)。前記N
+層107はシリコンならびにアルミニウムを不純物としてイオン注入して形成した。その時の不純物濃度は3×10
18cm
-3とした。その後、表面から深さ3μmのトレンチ溝108を形成後、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜109を厚さ100nmにて形成する。その後不純物をドープした低抵抗ポリシリコンを埋め込んでゲート電極110を形成する。なお、本実施例ではゲート絶縁膜109としてシリコン酸化膜を用いたが、たとえば窒化シリコン膜等、シリコン酸化膜以外の絶縁膜を用
いても何ら問題もない。また、ソース電極111としてチタンとアルミニウムの積層膜を前記N
+層107、P
+層106にオーミック接触するように形成する(
図5)。次に厚さ500μmあるシリコン基板101を裏面からバックグラインドしトータル厚さ100μmにする。通常シリコン基板は500μm程度と厚いため、本実施例ではその後のトレンチエッチング工程を簡略化するためにバックグラインドをしたが、元の基板が十分薄ければバックグラインド工程を省いても良い。その後、シリコン基板101の裏面に厚さ1.6μmの酸化膜を成長させ、フォトリソグラフおよびエッチングにより6μmおきに6μm幅の酸化膜マスクを形成した後、トレンチエッチングによりシリコン基板101、AlN層102、GaN層103をエッチングにより取り除く。その際、N
-GaN層104に達するまで掘ることでトレンチ溝112先端にN
-GaN層104が現れる。その後Ni膜とAu膜の2層からなる金属膜113をメッキ法で形成した。このNi膜とN
-GaN層104とがショットキー接合を形成し、例えばドレイン電極となる金属膜113に負の電圧を印加する(このとき、ゲート電極110とソース電極111はゼロ電圧とする)と、前記ショットキー接合が印加された逆電圧を保持する。
【0021】
図6は、本発明第1実施形態のGaN−MOSFET素子端部の概略断面図である。また、
図7は、本発明第1実施形態のGaN−MOSFET素子平面概略図であり、1チップ分の平面図である。また、
図7は、
図6においてトレンチ溝112の途中でトレンチ溝112と垂直方向に切断したものをトレンチ溝112側から見た平面概略図である。なお、素子活性領域702に形成されているトレンチ溝112は、図示されていない。
このように、裏面から形成するトレンチ溝112を素子端部にも形成しそこに絶縁体130を充填する。そうすれば逆電圧を印加した際、素子端部701での電界は前記絶縁体130内で負担することとなる。つまり空乏層がダイシング部の結晶欠陥に直接接触することなく、その結果逆耐圧を保持することができる。ウェハ状態からチップ状態にするダイシング時に、半導体結晶にはダイシングによるダメージによって結晶欠陥が多数存在するため、そこに空乏層がかかるともれ電流が発生し、十分な逆耐圧が得られない。そこで、前記のような構造をとれば、もれ電流を極めて少なく逆耐圧特性を得ることが可能となる。こうすることで縦型の逆阻止型GaN−MOSFETが完成する。なお、本実施例ではメッキ法で金属膜113を形成したが、CVD法、蒸着法、さらにはスパッタ法にて形成してもよい。
【0022】
その後、ウェハから個別チップにするためにダイシングで切り分けた後、パッケージに組み立てる。その際、チップの裏面とパッケージを半田付けする必要がある。そこで半田シートをチップ裏面に載せ、10Pa(パスカル)に減圧後350℃に過熱して半田層114を前記トレンチ溝112内に埋め込むように形成した。これにより、半田層114にボイドが形成されずに均一な導電体層が形成された。なお、トレンチ溝112を半田層114により埋めた後で、ウェハをダイシングによりチップに切り分けてもよい。この場合、ダイシング時にウェハにクラックが入ることを抑制できる。また、形成条件としては、上記では、10Paとしたが30Pa以下の減圧雰囲気下で形成できる。
図8、9は上記実施例に基づいて作成した逆阻止型GaN−MOSFET(RB−MOSFET)の耐圧特性ならびにI−V特性を示す。本発明実施例素子の耐圧特性を測定したところ、順方向素子耐圧712V、逆方向素子耐圧687Vとなり、600V耐圧素子として十分な阻止特性を示していることがわかる。今回の測定に用いた素子のチップサイズは5mm×5mm、定格電流を50A(活性面積=0.2cm
2、電流密度は250.0A/cm
2)とした。また比較のために、通常の定格電圧600Vで定格電流50AのシリコントレンチFS−IGBTならびにシリコン逆阻止IGBTの波形も示す(活性面積=0.2cm
2、電流密度は250.0A/cm
2)。
図10は、比較のために用いたシリコントレンチFS−IGBTの活性部の断面図である。ベース領域806内にエミッタ領域805が形成され、N
-層に達するトレンチ801内に絶縁膜804を介してゲート電極802が形成され、エミッタ領域805とベース領域806に接触しているエミッタ電極803を有する。N
-層の下にはFS層(フィールドストップ層)807が形成され、その下にはコレクタ領域808とコレクタ領域808に接触するコレクタ電極809が形成されている。
図11は、比較のために用いたシリコンRB−IGBTの概略断面図であり、同図(a)は、主に素子端部の概略断面図を示し、同図(b)は、活性部の断面図を示す。
【0023】
活性部912は、表面側には、ベース領域906内にエミッタ領域905が形成され、ベース領域906とエミッタ領域905にエミッタ電極903が接触している。N
-層とエミッタ領域905との間のベース領域906の表面上には、絶縁膜904を介してゲート電極902が形成されている。活性部912には、これらの領域が複数形成されている。
活性部912の裏面側は、
図10のFS層807は形成されず、コレクタ領域908とそれに接触するコレクタ電極909が形成されている。
素子端部911は、複数の平面形状が環状に形成されたガードリング910により耐圧構造を形成し、ガードリング910間の表面には絶縁層913が形成されている。ガードリング910はそれぞれ浮遊領域である。この耐圧構造の外側には、コレクタ領域908と接触して形成されたP
+領域からなる接合分離領域を有する。
【0024】
厚さはトレンチ
図10のFS−IGBTが65μm、
図11のRB−IGBTが100μmである。本発明素子は、オン電圧1.28VとシリコントレンチFS−IGBTや逆阻止IGBTよりも十分低オン電圧が得られている。また、
図9のI−V波形から、定格電流の2倍以上(100A)の電流が流れても抵抗が増加することもないことがわかり、このことからシリコントレンチFS−IGBTならびに逆阻止IGBT以上の特性を示し、縦型デバイスとして十分機能している。
さらに、ターンオフ特性を測定すると、シリコントレンチFS−IGBT(Eoff=4.11mJ)ならびにシリコン逆阻止IGBT(4.32mJ)に比べ、約4分の1のEoff=1.10mJのターンオフ損失となり、低損失化が図られている。なお、ターンオフ損失の測定はすべて125℃で計測した。さらに、本発明素子とシリコン逆阻止IGBTのダイオードモードでの逆回復損失も併せて測定したところ、本発明素子では0.42mJであったのに対し、シリコン逆阻止IGBTでは4.13mJと約10分の1の低損失化が実現できることを確認した。
【実施例2】
【0025】
図12は、本発明第2実施形態のGaN−MOSFET素子端部の断面図である。
図12のGaN−MOSFETは、
図1に示したGaN−MOSFETのシリコン基板101をサファイア基板140に代えたものである。このように、実施例1のシリコン基板101をサファイア基板140に代えてもよい。
製造方法としては、サファイア基板140上に周知の技術である有機金属化学的気相成長法(MOCVD)を用いてバッファ層としてAlN層102とノンドープのGaN層103を形成する。サファイア基板140は直径75mm厚さ500μmであり、その上に形成したAlN層102は15nm、ノンドープのGaN層103は200nmの厚みを持っている。また、AlN層102は結晶構造の変換のために、またGaN層103は結晶の品質改善のための層として形成している。さらに、その上にN
-GaN層104μmをエピタキシャル成長させる。不純物濃度は2.1×10
16cm
-3とした。このとき、ガリウムの材料としてトリメチルガリウムを、また窒素の材料としてアンモニアガスを用いた。また、N型化するために、ドーパント材料としてモノシランを用いた。その上にP
-型GaN層105を2μmの厚さでエピタキシャル成長させる。不純物濃度は2×10
17cm
-3とし、ドーパント材としてマグネシウムを用いた。その後は前記実施例1と同様の作成法を用いた。ただし、サファイア基板140が絶縁体であるため、前記実施例1のように素子端部にトレンチ溝112を形成し絶縁体を充填する必要が無いため、
図12に示すように素子端部にトレンチ溝112を形成しない構造とした。本発明実施例素子の耐圧特性を測定したところ、順方向素子耐圧716V、逆方向素子耐圧692Vとなり、600V耐圧素子として十分な阻止特性を示していることがわかる。今回の測定に用いた素子のチップサイズは前記実施例1と同様、5mm×5mm、定格電流を50A(活性面積=0.2cm
2、電流密度は250.0A/cm
2)とした。本発明素子は、オン電圧1.28Vと前記実施例1とまったく同一の特性を示すことを確認し、これはシリコントレンチFS−IGBTや逆阻止IGBTよりも十分低オン電圧な特性である。定格電流の2倍以上(100A)の電流が流れても抵抗が増加することもないことがわかり、このことからシリコントレンチFS−IGBTならびに逆阻止IGBT以上の特性を示し、縦型デバイスとして十分機能している。さらにターンオフ特性を測定すると、実施例1とほぼ同等のEoff=1.03mJとなった。これは、シリコントレンチFS−IGBTならびにシリコン逆阻止IGBTに比べ、それぞれ約4分の1の1ターンオフ損失となり、低損失・高速化が図られている。なお、ターンオフ損失の測定はすべて125℃で計測した。さらに、本発明素子とシリコン逆阻止IGBTのダイオードモードでの逆回復損失も併せて測定したところ、本発明素子では0.40mJで低損失化が実現できることを確認した。
【0026】
以上の実施例では、MOSFETについて説明しているが、ゲート絶縁膜をシリコン酸化膜以外の絶縁膜を用いて形成するMISFETとしても同様の効果を奏する。