(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5682160
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20150219BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
B60C11/00 C
B60C11/00 B
B60C11/00 D
B60C5/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-156473(P2010-156473)
(22)【出願日】2010年7月9日
(65)【公開番号】特開2012-17048(P2012-17048A)
(43)【公開日】2012年1月26日
【審査請求日】2013年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】明石 康孝
【審査官】
倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−356206(JP,A)
【文献】
特開2010−143283(JP,A)
【文献】
特開2002−052907(JP,A)
【文献】
特開2005−263175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部をタイヤ径方向外側に位置するキャップゴム層と、該キャップゴム層のタイヤ径方向内側に並列に配置された左右のベースゴム層とにより構成すると共に、該左右のベースゴム層を構成するゴムの物性に対応させて車両への装着位置を指定した空気入りタイヤであって、
前記キャップゴム層と左右のベースゴム層とを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層において0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層において0.05〜0.15となるようにし、20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層において60〜70、車両外側のベースゴム層において65〜75、車両内側のベースゴム層において50〜60となるようにしたうえで、各ゴム層におけるゴムのtanδ及びJIS−A硬さの値をそれぞれ異ならせると共に、各ゴム層を構成するゴムの60℃におけるtanδの値の関係を「車両内側のベースゴム層<車両外側のベースゴム層<キャップゴム層」とし、20℃におけるJIS−A硬さの値の関係を「車両内側のベースゴム層<キャップゴム層<車両外側のベースゴム層」としたことを特徴にする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記車両内側のベースゴム層の幅Wiと前記車両外側のベースゴム層の幅Woとの関係を「Wi≦Wo」とした請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
トレッド部をタイヤ径方向外側に位置するキャップゴム層と、該キャップゴム層のタイヤ径方向内側に並列に配置された左右のベースゴム層とその中間に配置された中間ベースゴム層とにより構成すると共に、前記左右のベースゴム層を構成するゴムの物性に対応させて車両への装着位置を指定した空気入りタイヤであって、
前記キャップゴム層と左右のベースゴム層と中間ベースゴム層とを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層において0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層において0.10〜0.20、中間ベースゴム層において0.05〜0.15となるようにし、20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層において60〜70、車両外側のベースゴム層において65〜75、車両内側のベースゴム層において60〜70、中間ベースゴム層において50〜60となるようにしたうえで、各ゴム層におけるゴムのtanδ及びJIS−A硬さの値をそれぞれ異ならせると共に、各ゴム層を構成するゴムの60℃におけるtanδの値の関係を「中間ベースゴム層<車両内側のベースゴム層<車両外側のベースゴム層<キャップゴム層」とし、20℃におけるJIS−A硬さの値の関係を「中間ベースゴム層<車両内側のベースゴム層<キャップゴム層<車両外側のベースゴム層」としたことを特徴にする空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記車両内側ベースゴム層の幅Wiと前記車両外側ベースゴム層の幅Woと前記中間ベースゴム層の幅Wcとの関係を「Wi≦Wo<Wc」とした請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、操縦安定性と低燃費性とを高いレベルで両立させるようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の高性能化に伴い、空気入りタイヤの高速走行時における旋回性能や制動性能などに代表される乾燥路面での操縦安定性と低燃費性とを高次元でバランスよく両立させることが強く求められている。
【0003】
従来、この対策として、トレッド部をキャップゴム層とベースゴム層との二重構造により構成して、キャップゴム層には主として耐摩耗性に優れたゴム組成物を使用し、ベースゴム層には低発熱性に優れたゴム組成物を使用することが行われてきた。
【0004】
さらに、近年では、上述する要求性能を満たすために、ベースゴム層をタイヤ幅方向中央部に位置するセンターベースゴム層とその両側に連結するサイドベースゴム層とで構成し、これらセンターベースゴム層とサイドベースゴム層とを構成するゴムの物性を異ならせるようにした提案がある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1では、キャップゴム層とセンターベースゴム層とサイドベースゴム層とを構成するゴムの損失正接(tanδ)を「キャップゴム>サイドベースゴム>センターベースゴム」とし、ゴムの硬度を「キャップゴム<サイドベースゴム<センターベースゴム」とすることによって、転がり抵抗を損なわせずに、騒音及び操縦安定性を改良させることを提案している。
【0006】
また、特許文献2では、キャップゴムの損失正接(tanδ)を所定の範囲内に設定したうえで、ベースゴムの動的弾性率を「サイドベースゴム<センターベースゴム」とすることによって、高速耐久性、制動性及び操縦安定性を損なわせずに、低燃費性と耐摩耗性とを両立させることを提案している。
【0007】
しかしながら、いずれの提案にあっても、走行中にトレッド部が車両の内側と外側とにおける荷重分担の変動に追従できず、良好な操縦安定性能及び低燃費性能を確保することが難しいという問題があった。特に、ネガティブキャンバーの付与された車両に対しては、この傾向が顕著に表れるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−230412号公報
【特許文献2】特開2009−286317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる従来の問題点を解消するもので、操縦安定性と低燃費性とを高いレベルで両立させるようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは二つの発明からなり、第一の発明による空気入りタイヤは、トレッド部をタイヤ径方向外側に位置するキャップゴム層と、該キャップゴム層のタイヤ径方向内側に並列に配置された左右のベースゴム層とにより構成すると共に、該左右のベースゴム層を構成するゴムの物性に対応させて車両への装着位置を指定した空気入りタイヤであって、前記キャップゴム層と左右のベースゴム層とを構成するゴムの
60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層において0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層において0.05〜0.15となるようにし、20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層において60〜70、車両外側のベースゴム層において65〜75、車両内側のベースゴム層において50〜60となるようにしたうえで、各ゴム層におけるゴムのtanδ及びJIS−A硬さの値をそれぞれ異ならせると共に、各ゴム層を構成するゴムの60℃におけるtanδの値の関係を「車両内側のベースゴム層<車両外側のベースゴム層<キャップゴム層」とし、20℃におけるJIS−A硬さの値の関係を「車両内側のベースゴム層<キャップゴム層<車両外側のベースゴム層」としたことを特徴にする。
【0011】
また、第二の発明による空気入りタイヤは、トレッド部をタイヤ径方向外側に位置するキャップゴム層と、該キャップゴム層のタイヤ径方向内側に並列に配置された左右のベースゴム層とその中間に配置された中間ベースゴム層とにより構成すると共に、前記左右のベースゴム層を構成するゴムの物性に対応させて車両への装着位置を指定した空気入りタイヤであって、前記キャップゴム層と左右のベースゴム層と中間ベースゴム層とを構成するゴムの
60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層において0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層において0.10〜0.20、中間ベースゴム層において0.05〜0.15となるようにし、20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層において60〜70、車両外側のベースゴム層において65〜75、車両内側のベースゴム層において60〜70、中間ベースゴム層において50〜60となるようにしたうえで、各ゴム層におけるゴムのtanδ及びJIS−A硬さの値をそれぞれ異ならせると共に、各ゴム層を構成するゴムの60℃におけるtanδの値の関係を「中間ベースゴム層<車両内側のベースゴム層<車両外側のベースゴム層<キャップゴム層」とし、20℃におけるJIS−A硬さの値の関係を「中間ベースゴム層<車両内側のベースゴム層<キャップゴム層<車両外側のベースゴム層」としたことを特徴にする。
【発明の効果】
【0012】
第一の発明によれば、
キャップゴム層と左右のベースゴム層とを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層において0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層において0.05〜0.15となるようにしたうえで、キャップゴム層と左右のベースゴム層のうち、最も発熱及び蓄熱が大きくなる車両内側のベースゴム層を構成するゴムの60℃におけるtanδの値を最も小さくし、次いで発熱及び蓄熱が大きくなる部位に対応させて、車両外側のベースゴム層、キャップゴム層の順に60℃におけるtanδの値を順次大きく設定したので、タイヤ全体としての転がり抵抗値のバランスが保たれて、燃費性を低減させることができる。
【0013】
さらに、
キャップゴム層と左右のベースゴム層とを構成するゴムの20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層において60〜70、車両外側のベースゴム層において65〜75、車両内側のベースゴム層において50〜60となるようにしたうえで、キャップゴム層と左右のベースゴム層のうち、最も操縦安定性に影響を及ぼす車両外側のベースゴム層を構成するゴムの20℃におけるJIS−A硬さの値を大きくし、次いで操縦安定性に及ぼす影響が大きくなる部位に対応させて、キャップゴム層、車両内側のベースゴム層の順にJIS−A硬さの値を順次小さくしたので、タイヤ全体としての操縦安定性のバランスが良好に保たれて、操縦安定性を向上させることができる。
【0014】
また、第二の発明によれば、
キャップゴム層と左右のベースゴム層と中間ベースゴム層とを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層において0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層において0.10〜0.20、中間ベースゴム層において0.05〜0.15となるようにしうえで、キャップゴム層と左右のベースゴム層と中間ベースゴム層のうち、最も発熱及び蓄熱が大きくなる中間ベースゴム層を構成するゴムの60℃におけるtanδの値を最も小さくし、次いで発熱及び蓄熱が大きくなる部位に対応させて、車両内側のベースゴム層、車両外側のベースゴム層、キャップゴム層の順に60℃におけるtanδの値を順次大きく設定したので、タイヤ全体としての転がり抵抗値のバランスが保たれて、燃費性を低減させることができる。
【0015】
さらに、
キャップゴム層と左右のベースゴム層と中間ベースゴム層とを構成するゴムの20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層において60〜70、車両外側のベースゴム層において65〜75、車両内側のベースゴム層において60〜70、中間ベースゴム層において50〜60となるようにしたうえで、キャップゴム層と左右のベースゴム層と中間ベースゴム層のうち、最も操縦安定性に影響を及ぼす車両外側のベースゴム層を構成するゴムの20℃におけるJIS−A硬さの値を大きくし、次いで操縦安定性に及ぼす影響が大きくなる部位に対応させて、キャップゴム層、車両内側のベースゴム層、中間ベースゴム層の順にJIS−A硬さの値を順次小さくしたので、タイヤ全体としての剛性のバランスが良好に保たれて、操縦安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】トレッド部をキャップゴム層とベースゴム層との2層構造に形成した空気入りタイヤの一例を示す断面図である。
【
図2】第一発明の実施形態によるトレッド部の構造を示す断面図である。
【
図3】第二発明の実施形態によるトレッド部の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成につき添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1はトレッド部をキャップゴム層とベースゴム層との2層構造に形成した空気入りタイヤの一例を示す断面図である。
【0019】
図1において、空気入りタイヤ1は、左右一対のビード部2、2と、ビード部2、2からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部3、3と、これらサイドウォール部3、3を連結するトレッド部4からなり、トレッド部4がタイヤ径方向外側に位置するキャップゴム層5と、キャップゴム層5のタイヤ径方向内側に配置されたベースゴム層6とにより構成されている。
【0020】
そして、本発明では、ベースゴム層6がタイヤ幅方向に並列に配置された物性の異なる複数のゴム層からなり、これらゴム層のうちトレッド部4の両側に位置するゴム層を構成するゴムの物性に対応させて車両への装着位置が指定されている。
【0021】
本発明の空気入りタイヤ1は二つの発明からなり、第一の発明では、
図2に示すようにベースゴム層6を左右のベースゴム層6A及び6Bにより構成し、ベースゴム層6Aが車両外側に装着され、ベースゴム層6Bが車両内側に装着されるようにしている。
【0022】
そして、左右のベースゴム層6A及び6Bを構成するゴムの60℃におけるtanδの値及び20℃におけるJIS−A硬さの値が、それぞれ車両外側のベースゴム層6Aにおいて大きく、車両内側のベースゴム層6Bにおいて小さく設定している。
【0023】
さらに、キャップゴム層5を構成するゴムのtanδの値及びJIS−A硬さの値との関係では、
60℃におけるtanδの値及び20℃におけるJIS−A硬さの値を後述するように設定したうえで、60℃におけるtanδの値の関係が「車両内側のベースゴム層6B<車両外側のベースゴム層6A<キャップゴム層5」となり、20℃におけるJIS−A硬さの値の関係が「車両内側のベースゴム層6B<キャップゴム層5<車両外側のベースゴム層6A」となるように調整している。
【0024】
このように、トレッド部4を構成するキャップゴム層5と左右のベースゴム層6A及び6Bのうち、最も発熱及び蓄熱が大きくなる車両内側のベースゴム層6Bを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を最も小さくし、次いで発熱及び蓄熱が大きくなる部位に対応させて、車両外側のベースゴム層6A、キャップゴム層5の順に60℃におけるtanδの値を順次大きく設定したので、タイヤ全体としての転がり抵抗値のバランスが保たれて、燃費性を低減させることができる。
【0025】
また、上述するゴム層5、6A、6Bのうち、最も操縦安定性に影響を及ぼす車両外側のベースゴム層6Aを構成するゴムの20℃におけるJIS−A硬さの値を大きくし、次いで操縦安定性に及ぼす影響が大きくなる部位に対応させて、キャップゴム層5、車両内側のベースゴム層6Aの順にJIS−A硬さの値を順次小さくしたので、タイヤ全体としての剛性のバランスが良好に保たれて、操縦安定性を向上させることができる。
【0026】
なお、本発明において、上述するtanδは、粘弾性スペクトロメータ(岩本製作所製)を使用して、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度60℃の条件で測定したときの値をいう。(以下の第二の発明において同じ)
【0027】
キャップゴム層5と左右のベースゴム層6A及び6Bを構成するゴム組成物には、ゴム成分として天然ゴム又はポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などに代表されるジエン系ゴムが好ましく使用され、これらゴム成分に対してカーボンブラック、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの充填剤を配合して製造するとよい。そして、これら充填剤の種類や配合割合を調整することによって、所望の物性を有するゴム組成物を得ることができる。
【0028】
そして、
第一の発明では、各ゴム層5、6A、6Bを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層5において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層6Aにおいて0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層6Bにおいて0.05〜0.15となるように調整し、20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層5において60〜70、車両外側のベースゴム層6Aにおいて65〜75、車両内側のベースゴム層6Bにおいて50〜60となるように調整
している。
【0029】
上述する第一の発明において、車両内側のベースゴム層6Bの幅Wiと車両外側のベースゴム層6Aの幅Woとの関係を「Wi≦Wo」となるように調整するとよい。これにより、操縦安定性と低燃費性とをバランスよく両立させることができる。
【0030】
さらに好ましくは、ベースゴム層6の総幅をWとしたとき、車両外側のベースゴム層6Aの幅Woが総幅Wの50〜70%となるように設定するとよい。これにより、トレッド部4の車両外側の剛性が高められて一層良好な操縦安定性を確保することができる。
【0031】
また、第二の発明では、
図3に示すようにベースゴム層6を左右のベースゴム層6A、6Bとその中間に配置された中間ベースゴム層6Cとにより構成し、ベースゴム層6Aが車両外側に装着され、ベースゴム層6Bが車両内側に装着されるようにしている。
【0032】
そして、左右のベースゴム層6A、6B及び中間ベースゴム層6Cを構成するゴムの60℃におけるtanδの値及び20℃におけるJIS−A硬さの値の関係を、それぞれ「中間ベースゴム層6C<車両内側ベースゴム層6B<車両外側ベースゴム層6A」としている。
【0033】
さらに、キャップゴム層5を構成するゴムのtanδの値及びJIS−A硬さの値との関係では、
60℃におけるtanδの値及び20℃におけるJIS−A硬さの値を後述するように設定したうえで、60℃におけるtanδの値の関係が「中間ベースゴム層6C<車両内側のベースゴム層6B<車両外側のベースゴム層6A<キャップゴム層5」となり、20℃におけるJIS−A硬さの値の関係が「中間ベースゴム層6C<車両内側のベースゴム層6B<キャップゴム層5<車両外側のベースゴム層6A」となるように調整している。
【0034】
このように、トレッド部4を構成するキャップゴム層5と左右のベースゴム層6A、6Bと中間ベースゴム層6Cのうち、最も発熱及び蓄熱が大きくなる中間ベースゴム層6Cを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を最も小さくし、次いで発熱及び蓄熱が大きくなる部位に対応させて、車両内側のベースゴム層6B、車両外側のベースゴム層6A、キャップゴム層5の順に60℃におけるtanδの値を順次大きく設定したので、タイヤ全体としての転がり抵抗値のバランスが保たれて、燃費性を低減させることができる。
【0035】
さらに、上述するゴム層5、6A、6B、6Cのうち、最も操縦安定性に影響を及ぼす車両外側のベースゴム層6Aを構成するゴムの20℃におけるJIS−A硬さの値を大きくし、次いで操縦安定性に及ぼす影響が大きくなる部位に対応させて、キャップゴム層5、車両内側のベースゴム層6A、中間ベースゴム層6Cの順にJIS−A硬さの値を順次小さくしたので、タイヤ全体としての剛性のバランスが良好に保たれて、操縦安定性を向上させることができる。
【0036】
上述する第二の発明において、中間ベースゴム層6Cを構成するゴム組成物には、第一の発明におけるキャップゴム層5と左右のベースゴム層6A及び6Bを構成するゴム組成物と同様に、ゴム成分として天然ゴム又はジエン系ゴムを使用し、これらゴム成分に対してカーボンブラック、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの充填剤を配合するとよい。
【0037】
そして、
第二の発明では、各ゴム層5、6A、6B
、6Cを構成するゴムの60℃におけるtanδの値を、キャップゴム層5において0.20〜0.40、車両外側のベースゴム層6Aにおいて0.15〜0.25、車両内側のベースゴム層6Bにおいて0.10〜0.20、中間ベースゴム層6Cにおいて0.05〜0.15となるように調整し、20℃におけるJIS−A硬さの値を、キャップゴム層5において60〜70、車両外側のベースゴム層6Aにおいて65〜75、車両内側のベースゴム層6Bにおいて60〜70、中間ベースゴム層6Cにおいて50〜60となるように調整
している。
【0038】
上述する第二の発明において、車両内側のベースゴム層6Bの幅Wiと車両外側のベースゴム層6Aの幅Woと中間ベースゴム層6Cの幅Wcとの関係を「Wi≦Wo<Wc」となるように調整するとよい。これにより、操縦安定性と低燃費性とを確実にバランスよく両立させることができる。
【0039】
さらに好ましくは、ベースゴム層6の総幅をWとしたとき、車両外側のベースゴム層6Aの幅Woが総幅Wの20〜30%、車両内側のベースゴム層6Bの幅Wiが総幅Wの10〜20%、中間ベースゴム層6Cの幅Wcが総幅Wの50〜60%となるように設定するとよい。これにより、トレッド部4の車両外側の剛性が高められて一層良好な操縦安定性を確保することができる。
【0040】
上述するように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部をキャップゴム層とベースゴム層との二重構造に形成したうえで、第一発明ではベースゴム層を物性の異なる左右のベースゴム層で構成し、第二発明では左右のベースゴム層の中間に物性の異なる中間ベースゴム層を介在させて、左右のベースゴム層を構成するゴムの物性に対応させて車両への装着位置を指定することにより、操縦安定性と低燃費性とを高いレベルで両立させるようにしたもので、近年の操縦安定性と低燃費性とを重視する高性能車両に対して好ましく適用することができる。
【実施例】
【0041】
<比較例、実施例1、2>
タイヤサイズを225/45R18、タイヤの基本構造を
図1、トレッド部の構造を
図2として、トレッド部を構成するゴム層の60℃におけるtanδ、JIS−A硬さ、ベースゴム層の幅Wo、Wiの総幅Wに対する割合、を表1のように異ならせて、比較タイヤ(比較例)及び本発明タイヤ(実施例1、2)をそれぞれ作製した。なお、比較タイヤ(比較例)では、ベースゴム層6を構成するゴムを同一にした。
【0042】
これら3種類のタイヤについて、以下の試験方法により操縦安定性及び低燃費性を評価し、その結果を表1に併記した。
【0043】
〔操縦安定性評価〕
各タイヤをリム(17×7.5J)に組み込み、空気圧を230kPaを充填して、国産車両の前後輪に装着し、アスファルト路面からなる周回テストコースを平均速度80〜150km/hにて旋回走行を含めた走行試験を行い、熟練された3名のテストドライバーによる官能評価を行った。この評価結果を比較例を3とする5点法により集計し、その平均値を表1に併記した。数値が大きいほど操縦安定性が優れていることを示す。
【0044】
〔低燃費性〕
各タイヤをリム(17×7.5J)に組み込み、空気圧を230kPaを充填して、室内のドラム試験機により転がり抵抗値を測定し、その結果を以て低燃費性の評価とした。そして、転がり抵抗値の結果を比較例を100とする指数により表1に併記した。数値が大きいほど低燃費性が優れていることを示す。を
【0045】
【表1】
【0046】
表1より、本発明タイヤは比較タイヤに比して、操縦安定性及び低燃費性が高いレベルで両立していることがわかる。
【0047】
<実施例3、4>
タイヤサイズを225/45R18、タイヤの基本構造を
図1、トレッド部の構造を
図3として、トレッド部を構成するゴム層の60℃におけるtanδ、JIS−A硬さ、ベースゴム層の幅Wo、Wc、Wiの総幅Wに対する割合、を表2のように異ならせて、本発明タイヤ(実施例3、4)を作製した。
【0048】
これら2種類のタイヤについて、上記と同じ試験方法により操縦安定性及び低燃費性を評価し、その結果を上述する比較例の評価結果と共に表2に併記した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2より、本発明タイヤは比較タイヤに比して、操縦安定性及び低燃費性が高いレベルで両立していることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
1 空気入りタイヤ
4 トレッド部
5 キャップゴム層
6 ベースゴム層
6A 車両外側のベースゴム層
6B 車両内側のベースゴム層
6C 中間ベースゴム層