特許第5682561号(P5682561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5682561ハロゲン含有アクリルゴム組成物及びその加硫物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5682561
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】ハロゲン含有アクリルゴム組成物及びその加硫物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/04 20060101AFI20150219BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20150219BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   C08L33/04
   C08K5/37
   C08K3/22
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-523645(P2011-523645)
(86)(22)【出願日】2010年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2010062090
(87)【国際公開番号】WO2011010615
(87)【国際公開日】20110127
【審査請求日】2013年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2009-172575(P2009-172575)
(32)【優先日】2009年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】横田 敦
(72)【発明者】
【氏名】狩野 太一
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−173149(JP,A)
【文献】 特開平07−033943(JP,A)
【文献】 特開平09−328596(JP,A)
【文献】 特開平11−106436(JP,A)
【文献】 特開2000−247635(JP,A)
【文献】 特開2004−059821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00 − 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン含有アクリルゴムと、硫黄供与化合物を含む加硫剤と、加硫促進剤とを含有するハロゲン含有アクリルゴム組成物において、
加硫剤としてトリチオシアヌル酸を用い、加硫促進剤として水酸化カルシウムを用い、ジチオカルバミン酸金属塩及びチウラムスルフィドを用いず、該ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して、トリチオシアヌル酸を0.1〜3.0重量部、水酸化カルシウムを0.1〜9重量部含有し、硫黄を含有しないか、又は、含有する場合は、該ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して0.03重量部以下で含有してなることを特徴とするハロゲン含有アクリルゴム組成物。
【請求項2】
水酸化カルシウムが、ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して、1〜5重量部含有してなることを特徴とする請求項1記載のハロゲン含有アクリルゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のハロゲン含有アクリルゴム組成物を加硫して得られる加硫物が、圧縮永久歪(%)が30%未満であることを特徴とするハロゲン含有アクリルゴム加硫物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有アクリルゴム組成物及びその加硫物に関し、詳しくは、スコーチ安定性に優れ、加硫速度が速く、圧縮永久歪特性に優れ、発がん性のニトロソアミンが発生しない加硫促進剤への代替が可能なハロゲン含有アクリルゴム組成物及びその加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハロゲン含有アクリルゴム組成物においては、ハロゲン含有アクリルゴムをトリチオシアヌル酸で架橋しようとする場合、特許文献1、特許文献2のように、ジチオカルバミン酸金属塩およびチウラムスルフィドを含有し、好ましい範囲で配合することで、加硫速度やスコーチ安定性、そして引張強度や圧縮永久歪(CS)などの機械的特性を満足させてきた。
【0003】
このとき、ハロゲン含有アクリルゴムをトリチオシアヌル酸で架橋させるには、物性や加硫速度の観点から、一般的に二級アミンからなる化合物が加硫促進剤として用いられる。
【0004】
しかし、二級アミンからなる加硫促進剤を用いると、加硫時に発生する窒素酸化物やゴム中に残留する窒素酸化物と、二級アミンが反応し、発がん性物質であるニトロソジメチルアミンが発生する。
【0005】
ニトロソアミンを発生する加硫促進剤としては、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系があり、これらの中で、上市されている促進剤としては、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛等がある。
【0006】
一方、特許文献3には、ハロゲン含有アクリルゴムの加硫に関して、硫黄または硫黄供与化合物、及び高級脂肪酸金属塩よりなる加硫系が開示されている。硫黄供与性化合物として、2,4,6−トリメルカプトトリアジンや高分子イオウが例示されている。
【0007】
高級脂肪酸金属塩は、加硫促進剤として知られている化合物であり、特許文献3には、高級脂肪酸金属塩として、例えばステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸バリウムが記載されている。
【0008】
この特許文献3の高級脂肪酸金属塩を加硫促進剤として用いた場合には、ニトロソアミンを発生することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−173149号公報
【特許文献2】特開平9−328596号公報
【特許文献3】特開平11−181209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ハロゲン含有アクリルゴムの加硫系に関して、2,4,6−トリメルカプトトリアジンのような硫黄供与化合物を加硫剤として用いた場合、ニトロソアミンを発生させない加硫促進剤の選択が重要な課題となる。特許文献3では、加硫促進剤としてステアリン酸カリウムやステアリン酸ナトリウムを使用しているが、スコーチ安定性(T5)が劣り(本願の比較例8、9参照)、加硫促進剤としてステアリン酸カルシウムを用いた場合には、加硫速度(T90)が遅いと共に圧縮永久歪(CS)が劣る欠点がある(比較例10参照)。また加硫促進剤としてステアリン酸カリウムを用いた比較例8では、加硫時の発泡が発生する問題も確認された。
【0011】
また特許文献3の実施例1は、加硫剤を硫黄とし、加硫促進剤をステアリン酸ナトリウムとした場合の加硫系処方であり、この場合、加硫速度は問題ないものの圧縮永久歪(CS)がかなり劣る欠点がある(比較例7参照)。
【0012】
更に本発明者の実験によると、2,4,6−トリメルカプトトリアジンのような硫黄供与化合物を加硫剤として用い、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛を加硫促進剤として用いた加硫系処方では、ニトロソアミンを発生する問題があり(比較例2)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、テトラベンジルジチウラムスルフィド、テトラキスチウラムスルフィドを各々用いた場合には、加硫速度(T90)が遅いと共に圧縮永久歪(CS)が劣る欠点がある(比較例3、4、5)。
【0013】
そこで、本発明の課題は、ハロゲン含有アクリルゴムを、トリチオシアヌル酸を加硫剤として用いた加硫系において、発がん性を有するニトロソアミンが発生しない加硫促進剤への代替を実現し、スコーチ安定性に優れ、加硫速度が速く、圧縮永久歪に優れる加硫物が得られるハロゲン含有アクリルゴム組成物およびその加硫物を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
請求項1記載の発明は、ハロゲン含有アクリルゴムと、硫黄供与化合物を含む加硫剤と、加硫促進剤とを含有するハロゲン含有アクリルゴム組成物において、
加硫剤としてトリチオシアヌル酸を用い、加硫促進剤として水酸化カルシウムを用い、ジチオカルバミン酸金属塩及びチウラムスルフィドを用いず、該ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して、トリチオシアヌル酸を0.1〜3.0重量部、水酸化カルシウムを0.1〜9重量部含有し、硫黄を含有しないか、又は、含有する場合は、該ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して0.03重量部以下で含有してなることを特徴とするハロゲン含有アクリルゴム組成物である。
【0017】
請求項2記載の発明は、水酸化カルシウムが、ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して、1〜5重量部含有してなることを特徴とする請求項1記載のハロゲン含有アクリルゴム組成物である。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のハロゲン含有アクリルゴム組成物を加硫して得られる加硫物が、圧縮永久歪(%)が30%未満であることを特徴とするハロゲン含有アクリルゴム加硫物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ハロゲン含有アクリルゴムを、トリチオシアヌル酸を加硫剤として用いた加硫系において、発がん性を有するニトロソアミンが発生しない加硫促進剤への代替を実現し、スコーチ安定性に優れ、加硫速度が速く、圧縮永久歪に優れる加硫物が得られるハロゲン含有アクリルゴム組成物およびその加硫物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
<ハロゲン含有アクリルゴム>
本発明のハロゲン含有アクリルゴム組成物に用いられるハロゲン含有アクリルゴムとしては、アルキルアクリレート、アルコキシアルキルアクリレート、アルキルチオアルキルアクリレート、シアノアルキルアクリレートなどの少なくとも一種を主成分(約60〜99.8重量%)とし、これにビニルクロロアセテート、アリルクロロアセテートあるいはグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリジジルエステルなどのグリシジル化合物とモノクロロ酢酸との付加反応生成物などを約0.1〜10重量%、好ましくは約1〜5重量%共重合させた共重合体が用いられ、この共重合体中には他のビニル化合物を30重量%以下の範囲で共重合させることができる。
【0022】
また、ハロゲン含有アクリルゴムとしては、ハロゲン及び又はカルボルキシル基含有アクリルゴム、例えば上記ハロゲン含有アクリルゴム中にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和モノカルボン酸またはマレイン酸モノ低級アルキル等の不飽和ジカルボン酸モノエステルを約0.1〜10重量%、好ましくは約1〜5重量%共重合させたものなどが用いられる。
【0023】
<加硫剤>
本発明において、加硫剤としては、トリチオシアヌル酸が用いられ、具体的には2,4,6−トリメルカプトトリアジンが用いられる。
【0024】
配合量は、ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して、0.1〜3.0重量部、好ましくは0.2〜1.0重量部の範囲である。0.1重量部未満では、加硫剤としての効果が有効に得られず、また3.0重量部を越えると、圧縮永久歪(CS)特性及びスコーチ安定性(T5)が著しく害される。
【0025】
本発明において、加硫剤は、2,4,6−トリメルカプトトリアジン単独が好ましく、硫黄を0.05重量部以上併用すると、圧縮永久歪(CS)特性及びスコーチ安定性(T5)を損ない好ましくない(比較例12参照)。硫黄を併用する場合、0.03重量部以下とすることが好ましい。
【0026】
本発明では、加硫剤として、硫黄を単独で採用することはない。本発明の目的を達成できないからである(比較例11)。
【0027】
<加硫促進剤>
本発明に用いる加硫促進剤として有効であるのは、水酸化カルシウムであり、通常は単独で使用すべきものである。
【0028】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、水酸化カルシウムの他にステアリン酸ナトリウムやステアリン酸カリウムのような加硫促進剤を併用してもよい。即ち、これらを極少量(例えば0.01重量部以下)添加した場合は、加硫特性や圧縮永久歪(CS)特性に悪影響を及ぼすことはほとんどないので、水酸化カルシウムを単独で使用した場合と同様の効果を発揮できる。水酸化カルシウム以外の加硫促進剤を極少量添加することによって有効な効果が発生することはなく、一方、添加量を増やすと当然加硫特性や圧縮永久歪(CS)特性が劣る。
【0029】
本発明において、水酸化カルシウムは固体でも液体でもよいが、通常、市販品として入手できる粉末が好ましい。
【0030】
入手できる市販品としては、近江化学社製「カルディック#1000」などが挙げられる。
【0031】
水酸化カルシウムの添加量は、ハロゲン含有アクリルゴム100重量部に対して、0.1〜9重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲である。かかる範囲であれば、加硫速度(T90)が速く、スコーチ安定性(T5)に優れ、且つ圧縮永久歪(CS)に優れる。
【0032】
なお、水酸化カルシウムと同じアルカリ土類金属の水酸化物である水酸化マグネシウムを用いた場合には、加硫不足が生じ、加硫物そのものを得ることが困難であった(比較例6)。
【0033】
なおまた、加硫剤として硫黄を用い、加硫促進剤として水酸化カルシウムを用いても、比較例11に示すように、加硫速度(T90)が遅く、圧縮永久歪(CS)が劣り、本発明の目的が達成できない。
【0034】
<その他の配合成分>
以上の各成分を必須成分とするハロゲン含有アクリル組成物中には、他の必要な配合剤が適切に配合される。充填剤、補強剤についていえば、例えば各種シール材の加硫成形物として用いる場合、Oリング、パッキンなどの用途には主としてカーボンブラックが配合され、またオイルシール等の用途にはホワイトカーボンや珪藻土などが適度に配合され、金属積層部品には適度に無機シリカなどが配合されて用いられる。老化防止剤についていえば、アミン系、フェノール系、ベンツイミダゾール系などの一般的な老化防止剤、酸化防止剤が用いられ、中でも4’,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンや2−メルカプトベンゾイミダゾールやその亜鉛塩が用いられる。加工助剤についていえば、ステアリン酸や脂肪酸WAX類、そして鉱油やPAOなどの可塑剤などが混練性の向上、ゴムコンパウンドの取り扱い性の向上、加硫成形時の離型性の向上から用いられる。
【0035】
<組成物の調製>
組成物の調製は、加圧式ニーダー、バンバリーミキサー等の密封式混練機あるいはオープンロール等の開放式混練機を用いて行われ、その加硫は一般的に約150℃〜250℃で約1〜30分が好ましく、プレス加硫または射出成型加硫、注入成形加硫などの加熱圧縮によって行われ、更に必要に応じて、約150℃〜200℃で約1〜24時間のオーブン加硫あるいは蒸気加硫が二次加硫として行われる。
【0036】
<組成物および加硫物の物性>
本発明のハロゲン含有アクリルゴム組成物及びその加硫物は、以下の特性を有する点に特徴がある。
【0037】
第1に、本発明のハロゲン含有アクリルゴム組成物は加硫速度に優れる点である。本発明では、加硫速度をT90とT5で測定した。
【0038】
T90は、JIS K6300−2に準拠して、ロータレスレオメーターを用いて180℃の加硫速度を測定し、加硫曲線から最低トルクMLおよび最高トルクMHを求め、T90(最大トルク値の90%トルク値に到達する迄の時間(分))を求めた。
【0039】
本発明のハロゲン含有アクリルゴム組成物は、T90が7分未満であり、好ましくは5分未満である。
【0040】
T5は、JIS K6300−1に準拠して、125℃でムーニー粘度計(Lローター)を用いてムーニー粘度計の最低値から5ポイント(T5)増加するまでの時間(分)を測定した。
【0041】
本発明のハロゲン含有アクリルゴム組成物は、スコーチ安定性(ムーニースコーチ)T5が4分以上である。
【0042】
第2に、本発明のハロゲン含有アクリルゴム加硫物は、圧縮永久歪(CS)の特性が優れる。圧縮永久歪(CS)は、試験片について、JIS K 6262に準拠して150℃×70時間後の圧縮永久歪(%)を評価した。
【0043】
本発明のハロゲン含有アクリルゴム加硫物は、圧縮永久歪(CS)(%)が30%未満である。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0045】
実施例1
活性ハロゲン含有アクリルゴム(ユニマテック社製品ノックスタイトPA404K)100重量部、FEFカーボンブラック(東海カーボン社製品シーストSO、窒素吸着比表面積:42m/g、DBP吸収量(A法):115cm/100g)60重量部、表面処理天然シリカ(ホフマンミネラル社製品アクチジルVM56)20重量部、アミン系老化防止剤(大内新興社製品ノックラックCD)2重量部、ワックス系加工助剤(精工化学社製品サンタイトR)1重量部、2,4,6−トリメルカプトトリアジン(大内新興社製品ノクセラーTCA)0.5重量部、水酸化カルシウム(近江化学社製品カルディック#1000)1重量部を含むハロゲン含有アクリルゴム組成物の各成分をオープンロールで混練し、180℃、5分間のプレス加硫および175℃、15時間のオーブン加硫を行い、試験片(22.5mm×12.5mm×2.0mm)を作製した。
【0046】
<評価>
以下の評価方法に基づき評価した結果を表1に示す。
【0047】
1.常態物性の測定
(1)ゴム硬度Hs;JIS K6253に準拠し、タイプAデュロメーターで測定した。
(2)引張強さTB(MPa);JIS K6251に準拠。
(3)伸びEB(%);JIS K6251に準拠。
【0048】
2.圧縮永久歪(CS)
上記の試験片(22.5mm×12.5mm×2.0mm)について、JIS K 6262に準拠して150℃×70時間(25%圧縮)後の圧縮永久歪(CS)(%)を評価した。圧縮永久歪(CS)(%)が30%未満であれば、圧縮永久歪(CS)特性が優れていることを示している。
【0049】
3.加硫速度特性(T90)
上記のハロゲン含有アクリルゴム組成物について、JIS K6300−2に準拠して、ロータレスレオメーターを用いて180℃の加硫速度を測定し、加硫曲線から最低トルクMLおよび最高トルクMHを求め、T90(最大トルク値の90%トルク値に到達する迄の時間(分))を求めた。T90が7分未満であれば本発明の範囲であり、5分未満であればさらに好ましい範囲であることを示している。
評価基準
◎:5分未満
○:7分未満
△:10分未満
×:10分以上
【0050】
4.スコーチ安定性(T5)
上記のハロゲン含有アクリルゴム組成物について、JIS K6300に準拠して、125℃でムーニー粘度計(Lローター)を用いてムーニー粘度計の最低値から5ポイント(T5)増加するまでの時間(分)を測定した。
評価基準
○:4分以上
△:3〜4分
×:3分未満
【0051】
5.N−ニトロソアミンの検出
N−ニトロソアミンの検出は、上記試験片から10mm×10mm×0.5mmのゴムシートを作成し、そのシートから放出されるN−ニトロソアミンガスを吸着材に吸着させ、ガスクロマトグラフィーで検出した。N−ニトロソアミンが検出されなかったものを「−」、検出されたものを「×」とした。
【0052】
実施例2
実施例1において、水酸化カルシウムの配合量を3重量部に代えた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
実施例1において、水酸化カルシウムの配合量を5重量部に代えた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
実施例2において、FEFカーボン(東海カーボン社製品シーストSO)に代えて、FEFカーボン対比で粒子径の小さな特殊カーボン(旭カーボン社製品旭#50H、窒素吸着比表面積:20m/g、DBP吸収量(A法):110cm/100g)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
比較例1
実施例1において、水酸化カルシウムを用いない以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0056】
比較例2
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興社製品ノクセラーEZ)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
比較例3
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興社製品ノクセラーZTC)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
比較例4
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、テトラベンジルチウラムジスルフィド(大内新興社製品ノクセラーTBZTD)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0059】
比較例5
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(大内新興社製品ノクセラーTOT−N)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
比較例6
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、水酸化マグネシウムを用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0061】
比較例7
実施例1において、加硫剤を2,4,6−トリメルカプトトリアジンに代えて硫黄(コロイド硫黄)を用い、水酸化カルシウムに代えてアルカリ石鹸(ステアリン酸ナトリウム)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0062】
比較例8
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、アルカリ石鹸(ステアリン酸カリウム)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0063】
比較例9
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、アルカリ石鹸(ステアリン酸ナトリウム)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0064】
比較例10
実施例1において、水酸化カルシウムの代わりに、アルカリ石鹸(ステアリン酸カルシウム)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0065】
比較例11
実施例1において、加硫剤である2,4,6−トリメルカプトトリアジンの代わりに硫黄(コロイド硫黄)を用いた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0066】
比較例12
実施例1において、加硫剤として、2,4,6−トリメルカプトトリアジン単独に代えて、2,4,6−トリメルカプトトリアジン0.45重量部と硫黄(コロイド硫黄)0.05重量部を併用添加した以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0067】
比較例13
実施例1において、水酸化カルシウムの配合量を10重量部に代えた以外は、同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
なお、表1において、比較例1、6は、加硫不足で一部測定不可、比較例8は、加硫時の発泡発生により一部測定不可であった。
【0070】
(評価)
2,4,6−トリメルカプトトリアジンを加硫剤としたハロゲン含有アクリルゴムを加硫させる場合、ニトロソアミンの発生を防ぎ、且つスコーチ安定性を保ちながら十分な加硫速度を得るためには、水酸化カルシウムの配合が優れていることがわかる。
【0071】
比較例11の結果より、2,4,6−トリメルカプトトリアジンの代わりに硫黄を用いた場合は、加硫速度及び圧縮永久歪(CS)(%)が劣ることから、本発明には使用できない。
【0072】
また、比較例12の結果より、硫黄と2,4,6−トリメルカプトトリアジンを併用した場合は、硫黄の配合量が0.05重量部の場合には、やはり加硫速度及び圧縮永久歪(CS)(%)が劣り、本発明では使用できない。なお、本発明者の追加実験によると、硫黄の配合量が、0.05重量部以上であると、0.05重量部の場合と同様に加硫速度及び圧縮永久歪(CS)(%)が劣り、本発明では使用できないことが確認され、また0.03重量以下では本発明の効果を発揮する可能性があることが確認された。