特許第5682624号(P5682624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5682624銅層及びモリブデン層を含む多層構造膜用エッチング液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5682624
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】銅層及びモリブデン層を含む多層構造膜用エッチング液
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/18 20060101AFI20150219BHJP
   C23F 1/26 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   C23F1/18
   C23F1/26
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-520356(P2012-520356)
(86)(22)【出願日】2011年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2011062218
(87)【国際公開番号】WO2011158634
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-139783(P2010-139783)
(32)【優先日】2010年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】玉井 聡
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲
(72)【発明者】
【氏名】松原 将英
(72)【発明者】
【氏名】夕部 邦夫
【審査官】 瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/038063(WO,A1)
【文献】 特開2004−193620(JP,A)
【文献】 特開2002−241968(JP,A)
【文献】 特開2001−200380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8である銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜用エッチング液。
【請求項2】
(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びこれらのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.2〜3.0倍である請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
(B)銅イオン供給源が、銅、硫酸銅、及び硝酸銅から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源が、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項6】
エッチング対象物を請求項1〜5のいずれかに記載のエッチング液に接触させることを特徴とする銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング方法。
【請求項7】
多層薄膜が、モリブデン層上に銅層が積層したものである請求項6に記載のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅層及びモリブデン層を含む多層構造膜用エッチング液、及びこれを用いたエッチング方法に関する。とくに、本発明のエッチング液は、モリブデン層上に銅層が設けられた多層薄膜のエッチングに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から、フラットパネルディスプレイなどの表示デバイスの配線材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金が一般に使用されてきた。しかし、ディスプレイの大型化及び高解像度化に伴い、このようなアルミニウム系の配線材料では、配線抵抗などの特性に起因した信号遅延の問題が発生し、均一な画面表示は困難である。
【0003】
そこで、より抵抗が低い材料である銅や銅を主成分とする配線の採用に向けた検討がなされている。しかし、銅は抵抗が低いという利点を有する一方、ゲート配線で用いる場合はガラス等の基板と銅との密着性が十分ではない、またソース・ドレイン配線で用いる場合はその下地となるシリコン半導体膜への拡散が生じる場合があるといった問題がある。そのため、これを防止するために、ガラス等の基板との密着性が高く、シリコン半導体膜への拡散が生じにくいバリア性をも兼ね備えた金属を配するバリア膜の積層の検討が行われている。当該金属としてはチタン(Ti)やモリブデン(Mo)といった金属が検討されており、銅とこれらの金属との多層薄膜が検討されている。
【0004】
ところで、銅や銅を主成分とする銅合金を含む多層薄膜は、スパッタ法などの成膜プロセスによりガラス等の基板上に形成し、次いでレジストなどをマスクにしてエッチングするエッチング工程を経て電極パターンとなる。そして、このエッチング工程の方式にはエッチング液を用いる湿式(ウェット)とプラズマ等のエッチングガスを用いる乾式(ドライ)とがある。ここで、湿式(ウェット)において用いられるエッチング液は、(i)高い加工精度、(ii)エッチング残渣を生じないこと、(iii)成分の安定性や安全性が高く、取り扱いが容易なこと、(iv)エッチング性能が安定していること、などが求められる。
【0005】
銅や銅を主成分とする銅合金を含む多層薄膜のエッチング工程で用いられるエッチング液として、過酸化水素と、中性塩と無機酸と有機酸の中から選択された少なくとも一つとを含むエッチング溶液(特許文献1参照)、過酸化水素とカルボン酸とフッ素とを含むエッチング液(特許文献2参照)、過酸化水素、有機酸、リン酸塩、窒素を含む第1添加剤、第2添加剤、及びフッ素化合物を含むエッチング液(特許文献3参照)、あるいは過酸化水素と、フッ素イオン供給源、硫酸塩、リン酸塩及びアゾール系化合物とを含むエッチング液(特許文献4参照)などの過酸化水素を含むエッチング液が知られている。
しかし、このような過酸化水素を含むエッチング液は、(i)過酸化水素の濃度変化によるエッチングレートの変化が大きいこと、(ii)過酸化水素の急激な分解が生じた場合にガスや熱が発生し、設備を破壊するといった危険性があること、などから過酸化水素を含まないエッチング液が望まれている。
【0006】
また、過酸化水素を含まないエッチング液として、銅(II)イオン及びアンモニアを含有するアンモニアアルカリ性のエッチング液が知られている(例えば、特許文献5、非特許文献1及び2を参照)。このようなアンモニアアルカリ性のエッチング液でも銅/モリブデン系などの銅や銅を主成分とする銅合金を含む多層薄膜のエッチングは可能であるが、該エッチング液は、pHが高いため、該エッチング液からアンモニアが大量に揮発し、アンモニア濃度の低下によるエッチングレートの変動や作業環境を著しく悪化させる場合がある。また、pHが高いとレジストが溶解してしまうという問題も発生する。この場合、pHを中性領域にすることによって、エッチング液からのアンモニアの揮発を抑制することはできるが、このようなエッチング液はエッチングの後、水リンスを行う際に残渣が析出するという問題も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−302780号公報
【特許文献2】米国特許第7008548号明細書
【特許文献3】特開2004−193620号公報
【特許文献4】特開2008−288575号公報
【特許文献5】特開昭60−243286号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】PRINTED CIRCUIT ASSEMBLY MANUFACTURING,Fred W.Kear,MARCEL DEKKER,INC.,Page140,1987
【非特許文献2】Zashchita Metallov(1987),Vol.23(2),Page295−7
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1のエッチング後のガラス基板表面のSEM写真である。
図2】比較例5のエッチング後のガラス基板表面のSEM写真である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況下になされたもので、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜用エッチング液及びこれを用いた銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、エッチング液において、(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合し、pHを5〜8とすることにより、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0012】
[1](A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8である銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜用エッチング液。
[2](A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びこれらのアンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種である上記1に記載のエッチング液。
[3](A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源の(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)が0.2〜3.0倍である上記1又は2に記載のエッチング液。
[4](B)銅イオン供給源が、銅、硫酸銅、及び硝酸銅から選ばれる少なくとも一種である上記1〜3のいずれかに記載のエッチング液。
[5](C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源が、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種である上記1〜4のいずれかに記載のエッチング液。
[6]エッチング対象物を上記1〜5のいずれかに記載のエッチング液に接触させることを特徴とする銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング方法。
[7]多層薄膜が、モリブデン層上に銅層が積層したものである上記6に記載のエッチング方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング工程において、エッチング残渣や析出物が発生せず、ディスプレイの大型化及び高解像度化に対応しうるエッチング液、及びこれを用いた銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング方法を提供することができる。また、当該エッチング液は、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜を有する配線を、一括でエッチングを行うことができるので、高い生産性で得ることができる。さらに、当該エッチング液はpHが5〜8と中性領域であるため、アンモニアの揮発が抑制されており、エッチング液の安定性に優れ、取扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜用エッチング液]
本発明のエッチング液は、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチングに用いられ、(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8であることを特徴とするものである。
【0015】
《(A)有機酸イオン供給源》
本発明のエッチング液で用いられる(A)有機酸イオン供給源(以下、単に(A)成分ということがある。)は、分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸構造を含むものである。この(A)有機酸イオン供給源は、エッチング後の基板を水リンスする際に、基板上の残渣物や析出物の発生を抑制しうるものである。(A)有機酸イオン供給源としては、例えばリンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸などのモノヒドロキシジカルボン酸;クエン酸、イソクエン酸などのモノヒドロキシトリカルボン酸;グルカル酸、ガラクタル酸などのヒドロキシ糖酸類;ヒドロキシアミンのカルボン酸類などの有機酸が好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数を混合して用いることができる。これらのなかでも、エッチング液中で安定した溶解性を示し、かつ基板上の残渣物や析出物の発生を抑制する観点からは、モノヒドロキシジカルボン酸及びモノヒドロキシトリカルボン酸が好ましく、とりわけクエン酸、リンゴ酸、及び酒石酸が好ましい。
また、(A)成分としては、上記した有機酸のアンモニウム塩、例えばクエン酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムなども好ましく挙げられる。なお、これらの有機酸のアンモニウム塩は、(A)成分としての機能を有しつつ、後述する(C)成分としての機能も有する。
【0016】
《(B)銅イオン供給源》
本発明のエッチング液で用いられる(B)銅イオン供給源(以下、単に(B)成分ということがある。)は、銅(II)イオンを供給できるものであれば特に制限はないが、良好なエッチング速度を得るためには、銅のほか、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化第二銅、臭化第二銅、フッ化第二銅、及びヨウ化第二銅などの銅塩が好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。また、クエン酸銅、酒石酸銅、リンゴ酸銅などの上記(A)有機酸イオン供給源の銅塩も好ましく挙げられる。これらのなかでも、銅、硫酸銅、及び硝酸銅がより好ましく、特に硫酸銅、及び硝酸銅が好ましい。なお、(A)有機酸イオン供給源の銅塩は、(B)成分としての機能を有しつつ、(A)成分としての機能も有する。
【0017】
《(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源》
本発明のエッチング液で用いられる(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源(以下、単に(C)成分ということがある。)は、アンモニア及び/又はアンモニウムイオンを供給できるものであれば特に制限はなく、アンモニア、あるいはアンモニウム塩を用いることができる。
アンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムのほか、(A)成分の有機酸のアンモニウム塩として例示したクエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムなどの(A)有機酸イオン供給源のアンモニウム塩なども好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、及びリンゴ酸アンモニウムが好ましい。なお、(A)有機酸イオン供給源のアンモニウム塩は、(C)成分としての機能を有しつつ、(A)成分としての機能も有する。
【0018】
《エッチング液組成》
本発明のエッチング液における有機酸イオンの配合量は、(A)成分の量、あるいは(B)成分が(A)有機酸イオン供給源の銅塩の場合、及び/又は(C)成分が(A)有機酸イオン供給源のアンモニウム塩の場合は、(A)成分の量とこれら(B)成分及び/又は(C)成分の量との合計量となる。そして、該有機酸イオンの配合量は、(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)として0.2〜3.0倍であることが好ましく、0.4〜1.5倍がより好ましい。本発明のエッチング液における有機酸イオンの含有量が上記範囲内であれば、基板上の残渣物や析出物の発生を効率的に抑制することができ、エッチングレートも良好となる。
【0019】
本発明のエッチング液中における(B)銅イオン供給源の配合量は、0.2〜1モル/kg−エッチング液の範囲が好ましく、0.3〜0.8モル/kg−エッチング液がより好ましい。(B)成分の配合量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度が得られるので、エッチング量の制御が容易となる。
【0020】
本発明における(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源の配合量は、0.5〜10モル/kg−エッチング液の範囲が好ましく、1〜5モル/kg−エッチング液の範囲がより好ましく、1.5〜4モル/kg−エッチング液の範囲がより好ましい。(C)成分の配合量が上記範囲内であれば、良好なエッチング速度とエッチング性能が得られる。
【0021】
《(D)pH調整剤》
本発明のエッチング液では、pH調整を行うため、必要に応じて(D)pH調整剤を配合することができる。(D)pH調整剤としては、該エッチング液の効果を阻害しないものであれば特に制限はなく、アンモニア、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの金属水酸化物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンなどのアミン塩、塩酸、硫酸、及び硝酸などの無機酸などが好ましく挙げられる。なかでも、アンモニア、水酸化カリウム、硫酸がより好ましい。
本発明における(D)pH調整剤の配合量は、本発明のエッチング液のpHを5〜8とするような量であり、他の成分により決定されるものである。
【0022】
《pH》
本発明のエッチング液は、pH5〜8であることを要し、好ましくはpH6〜8である。pH5未満であるとエッチング速度が遅くなりすぎる。また、pH8よりも大きいと、エッチング液からアンモニアの揮発が生じるため、エッチング液の安定性や作業環境を著しく低下してしまう。
【0023】
《その他の成分》
本発明のエッチング液は、上記した(A)〜(C)成分、及び必要に応じて添加する(D)pH調整剤のほか、水、その他エッチング液に通常用いられる各種添加剤をエッチング液の効果を害しない範囲で含む。水としては、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去されたものが好ましく、特に純水、超純水が好ましい。
【0024】
[銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜のエッチング方法]
本発明のエッチング方法は、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜をエッチングする方法であり、本発明のエッチング液、すなわち(A)分子内にカルボキシル基を二つ以上有し、かつヒドロキシル基を一つ以上有する有機酸イオン供給源、(B)銅イオン供給源、及び(C)アンモニア及び/又はアンモニウムイオン供給源を配合してなり、pHが5〜8である銅/モリブデン系多層薄膜用エッチング液を用いることを特徴とし、エッチング対象物と本発明のエッチング液とを接触させる工程を有するものである。本発明のエッチング方法により、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜を一括でエッチングを行うことができ、かつエッチング残渣や析出物が発生しない。
【0025】
本発明のエッチング方法において、エッチング液は、例えば、ガラス等の基板上に、モリブデン系材料からなるバリア膜(モリブデン層)と銅又は銅を主成分とする材料からなる銅配線(銅層)とを順に積層してなる銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜上に、さらにレジストを塗布し、所望のパターンマスクを露光転写し、現像して所望のレジストパターンを形成したものをエッチング対象物とする。ここで、本発明においては、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜は、図1のようにモリブデン層の上に銅層が存在する態様をはじめとし、銅層の上にモリブデン層が存在する態様も含まれる。本発明のエッチング方法においては、図1に示されるようなモリブデン層の上に銅層が存在するエッチング対象物が、本発明のエッチング液の性能が有効に発揮される観点から、好ましい。また、このような銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜は、フラットパネルディスプレイ等の表示デバイスなどの配線に好ましく用いられるものである。よって、モリブデン層の上に銅層が存在するエッチング対象物は、利用分野の観点からも、好ましい態様である。
【0026】
銅配線は、銅又は銅を主成分とする材料により形成されていれば特に制限はなく、当該バリア膜を形成するモリブデン系材料としては、モリブデン(Mo)金属やその窒化物(MoN)、あるいはMo系合金などが挙げられる。
【0027】
エッチング対象物にエッチング液を接触させる方法には特に制限はなく、例えばエッチング液を滴下(枚葉スピン処理)やスプレーなどの形式により対象物に接触させる方法や、対象物をエッチング液に浸漬させる方法などの湿式(ウェット)エッチング方法を採用することができる。本発明においては、エッチング液を対象物に滴下(枚葉スピン処理)して接触させる方法、対象物をエッチング液にスプレーして接触させる方法が好ましく採用される。
【0028】
エッチング液の使用温度としては、10〜70℃の温度が好ましく、特に20〜50℃が好ましい。エッチング液の温度が10℃以上であれば、エッチング速度が良好となるため、優れた生産効率が得られる。一方、70℃以下であれば、液組成変化を抑制し、エッチング条件を一定に保つことができる。エッチング液の温度を高くすることで、エッチング速度は上昇するが、エッチング液の組成変化を小さく抑えることなども考慮した上で、適宜最適な処理温度を決定すればよい。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
(エッチング後の銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜の残渣の評価)
実施例及び比較例で得られた、エッチングを行った後の銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜試料の表面について、走査型電子顕微鏡(「S5000H形(型番)」;日立製)を用いて観察倍率20000倍(加速電圧2kV、エミッション電流10μA)で観察した。得られたSEM画像をもとに、処理後の残渣あるいは析出物の有無を下記の基準で評価した。
○ :残渣や析出物は全く確認されなかった
× :残渣や析出物が確認された
【0031】
作製例(銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜の作製)
ガラスを基板とし、モリブデンをスパッタしモリブデンからなるバリア膜(モリブデン膜厚:200Å)を形成し、次いで銅を主成分とする材料をスパッタして配線素材を成膜(銅膜厚:約5000Å)し、次いでレジストを塗布し、パターンマスクを露光転写後、現像して、配線パターンを形成したモリブデン層上に銅層を設けた多層薄膜を作製した。
【0032】
実施例1
容量100mLのポリプロピレン容器に(B)成分の硫酸銅五水和物(和光純薬工業株式会社製)を15.64g及び純水61.15gを投入した。さらに、(C)成分の硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)3gと(A)成分のクエン酸7gを加えた。これを攪拌して各成分の溶解を確認した後、(C)成分のアンモニア水溶液(濃度:28質量%,三菱瓦斯化学株式会社製)13.21gを加えて、再び攪拌し、エッチング液を調製した。得られたエッチング液の(A)成分の配合量は0.36モル/kg−エッチング液であり、有機酸イオンの(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)は、0.58であり、(B)成分の配合量は0.63モル/kg−エッチング液であり、(C)成分の配合量は、硫酸アンモニウムの配合量(0.23モル/kg−エッチング液の二倍量)とアンモニア水溶液の配合量(2.2モル/kg−エッチング液)との合計で2.7モル/kg−エッチング液であった。
作製例で得られた銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜を、得られたエッチング液を用いて、35℃で300秒間エッチングし、エッチング後の銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜試料を得た。得られた試料について、上記の方法により得られた評価を第1表に示す。
【0033】
実施例2〜11、13及び比較例1〜5
実施例1において、エッチング液の組成を第1表に示される組成とした以外は、実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いてエッチングを行った。得られた試料について、上記方法により得られた評価を第1表に示す。
【0034】
実施例12
実施例1において、硫酸アンモニウムを配合せず、pH調整剤として硫酸を加え、(A)成分のクエン酸及び(B)成分の硫酸銅五水和物の配合量を第1表に示される配合量とした以外は、実施例1と同様にしてエッチング液を調製し、該エッチング液を用いてエッチングを行った。得られた試料について、上記方法により得られた評価を第1表に示す。
【0035】
【表1】
*1,モル/kg−エッチング液
*2,有機酸イオンの(B)銅イオン供給源に対する配合比(モル比)
*3,実施例1〜11及び比較例1〜6は硫酸アンモニウムの配合量の二倍量(アンモニウムの配合量)であり、実施例13は硫酸アンモニウムの配合量の二倍量(アンモニウムの配合量)とクエン酸三アンモニウムの配合量の三倍量(アンモニウムの配合量)との合計である。
*4,アンモニアの配合量である。
【0036】
本発明のエッチング例を用いた実施例は、エッチング後のエッチング液に起因する水酸化銅の残渣は全く確認されず、またエッチング性能も良好であり、アンモニアの臭気もなかった。一方、(A)有機酸イオン供給源を含まない比較例1及び2の場合、pHを7に調整した比較例1のエッチング液は各成分が溶解せず調製することができないため評価することができず、pHを8に調整した比較例2のエッチング液は、残渣(析出物)の発生が著しかった。また、本発明で規定する(A)有機酸イオン供給源以外の有機酸を用いた比較例3〜6の場合も、残渣(析出物)の発生が著しかった。
また、試料表面のSEM写真の一例として実施例1のSEM写真を図1に示し、比較例5のSEM写真を図2に示す。これらのSEM画像から分かるように、本発明のエッチング液を用いた場合、ガラス基板の表面上に残渣は一切確認されなかったが、本発明に規定する(A)有機酸イオン供給源を用いなかった比較例5のエッチング液を用いた場合は、ガラス基板の表面上に著しい残渣(析出物)が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のエッチング液は、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜、なかでもモリブデン層上に銅層が積層した多層薄膜のエッチングに好適に用いることができ、当該エッチング液を用いたエッチング方法は、銅層及びモリブデン層を含む多層薄膜を有する配線を一括でエッチングすることができ、エッチング残渣が発生しないので、高い生産性を達成することができる。
図1
図2