(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5682785
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】床段差部を利用した背もたれ構造
(51)【国際特許分類】
E04F 15/00 20060101AFI20150219BHJP
【FI】
E04F15/00 B
E04F15/00 S
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-173607(P2011-173607)
(22)【出願日】2011年8月9日
(65)【公開番号】特開2013-36245(P2013-36245A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2013年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(74)【代理人】
【識別番号】100084629
【弁理士】
【氏名又は名称】西森 正博
(72)【発明者】
【氏名】古村 嘉浩
(72)【発明者】
【氏名】濱野 博章
(72)【発明者】
【氏名】川合 隆之
(72)【発明者】
【氏名】足立 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 由佳
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−035340(JP,A)
【文献】
特開2003−105991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上段面(2)と下段面(3)との間に段差面(4)を介在させてなる建物の床段差部(1)において、前記上段面(2)と段差面(4)との間のコーナー部分に、横長の化粧材(5)が前記段差面(4)よりも前方へ突出した状態で取り付けられ、前記化粧材(5)は、下方に向うにつれて前方への張出量が漸増するように傾斜した背もたれ用見付面(7c)を有している床段差部を利用した背もたれ構造であって、
前記化粧材(5)と前記下段面(3)との間に、クッション材(9)が着脱可能に装着され、前記クッション材(9)は、その装着時に前記化粧材(5)の背もたれ用見付面(7c)に連続する背もたれ面(9c)を有することを特徴とする床段差部を利用した背もたれ構造。
【請求項2】
前記上段面(2)から下段面(3)までの高さ寸法(H1)が300〜400mmとされている請求項1記載の床段差部を利用した背もたれ構造。
【請求項3】
前記化粧材(5)の背もたれ用見付面(7c)は、水平面(G)に対する傾斜角度(α)が75〜80度とされ、垂直方向の高さ寸法(H2)が70〜100mmとされている請求項1又は2に記載の床段差部を利用した背もたれ構造。
【請求項4】
前記化粧材(5)の上面(6a)(7a)が、前記上段面(2)に対して面一に配され、前記化粧材(5)の上面(7a)と背もたれ用見付面(7c)との間のコーナー部分が、丸みを帯びるように湾曲状に形成され、前記コーナー部分に、滑り止め用の切欠部(8)が形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の床段差部を利用した背もたれ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば住宅の室内空間に設けた床段差部を利用した背もたれ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、リビング等の床面を部分的又は全体的に一段下げるようにして、床段差部によって囲まれた落ち着き感のある凹み空間を演出した住宅が各種提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような凹み空間では、床段差部を腰掛けや背もたれとして利用することで、利用者は様々な姿勢でくつろぐことができる。ところが、床段差部を背もたれとして利用する場合、背中への当たりが悪くて、十分にリラックスできないといった不具合があった。
【0004】
すなわち、
図6に示すように、床段差部30は、一般的に略水平な上段面31と略水平な下段面32との間に略垂直な段差面33を介在させた構造となっていて、このような床段差部30を背もたれとして利用する場合、利用者は、下段面32に床座した状態で背中を段差面33にもたれさせることになる。このとき、利用者の背中は斜めに傾くことになるが、段差面33は略垂直であるため、上段面31と段差面33との間のコーナー部分が背中に局部的に当たり易くなって、比較的長い時間座っていると、背中が痛くなることがあった。
【0005】
そこで、床段差部を背もたれとして利用する場合には、背中と段差面と間にクッション材を挟み込んだ状態で座るといったことが、日常的に行われている。また、段差面に応じた形状、大きさのクッション材を、段差面に張り付けた構造も見受けられる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−46925号公報
【特許文献2】特開2003−105991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、背中と段差面と間にクッション材を挟み込む場合には、クッション材の形状や大きさによっては、違和感が生じて、リラックスした状態で座ることができないといった不具合があった。一方、段差面にクッション材を張り付ける場合には、例えば段差面に沿わせるように家具等を設置する際に、クッション材が邪魔になったり、またクッション材の劣化に伴って、面倒な張り替え作業が必要になるといった不具合があった。
【0008】
この発明は、上記の不具合を解消して、床段差部を背もたれとして快適に利用することができる背もたれ構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の背もたれ構造は、上段面2と下段面3との間に段差面4を介在させてなる建物の床段差部1において、前記上段面2と段差面4との間のコーナー部分に、横長の化粧材5が前記段差面4よりも前方へ突出した状態で取り付けられ、前記化粧材5は、下方に向うにつれて前方への張出量が漸増するように傾斜した背もたれ用見付面7cを有していることを特徴とする。
【0010】
また、前記化粧材5と前記下段面3との間に、クッション材9が着脱可能に装着され、前記クッション材9は、その装着時に前記化粧材5の背もたれ用見付面7cに連続する背もたれ面9cを有している。
【0011】
さらに、前記上段面2から下段面3までの高さ寸法H1が300〜400mmとされている。
【0012】
また、前記化粧材5の背もたれ用見付面7cは、水平面Gに対する傾斜角度αが75〜80度とされ、垂直方向の高さ寸法H2が70〜100mmとされている。
【0013】
さらにまた、前記化粧材5の上面6a、7aが、前記上段面2に対して面一に配され、前記化粧材5の上面7aと背もたれ用見付面7cとの間のコーナー部分が、丸みを帯びるように湾曲状に形成され、前記コーナー部分に、滑り止め用の切欠部8が形成されている。
【発明の効果】
【0014】
この発明の背もたれ構造においては、床段差部を背もたれとして利用する場合、下段面に床座した利用者の斜めに傾いた背中に、化粧材の傾斜した背もたれ用見付面が当たることになるから、比較的長い時間座っていても、背中が痛くなり難く、床段差部を背もたれとして快適に利用することができる。
【0015】
特に、床段差部における上段面から下段面までの高さ寸法を、背もたれに適した300〜400mmとし、化粧材の背もたれ用見付面の水平面に対する傾斜角度を、一般的な椅子の背もたれと同様の75〜80度とし、化粧材の背もたれ用見付面の垂直方向の高さ寸法を、比較的長い70〜100mmとすることによって、背もたれ用見付面に十分に体重をあずけても(背中を背もたれ用見付面に強く押し付けても)、背中が痛くならず、快適度をより一層高めることができる。
【0016】
また、化粧材と下段面との間にクッション材を装着して、化粧材の背もたれ用見付面にクッション材の背もたれ面を連続させることで、利用者の背中を、違和感を生じさせることなく、背もたれ用見付面及び背もたれ面によってごく自然に広範囲に支えることになり、しかもクッション材は柔らかくて弾力性を有していることから、背もたれとしての座り心地をより一層良好にすることができる。
【0017】
しかも、クッション材は着脱可能であるから、例えば段差面に沿わせるように家具等を設置する際に、クッション材が邪魔になったり、またクッション材の劣化に伴って、面倒な張り替え作業が必要になるといった不具合が生じることはない。
【0018】
また、化粧材の上面と背もたれ用見付面との間のコーナー部分に、丸みを帯びさせることで、背もたれ用見付面の背中への当たりをより一層良好にすることができる。この場合、床段差部の昇降に際して、コーナー部分に載せた足が滑り易くなるが、このコーナー部分には、滑り止め用の切欠部を形成してあるので、昇降時の安全性に支障をきたすこともない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一実施形態に係る床段差部を利用した背もたれ構造を示す斜視図である。
【
図3】同じくその化粧材部分の拡大縦断面図である。
【
図5】他の実施形態に係る床段差部を利用した背もたれ構造を示す斜視図である。
【
図6】従来の床段差部を利用した背もたれ構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。この発明の一実施形態に係る床段差部を利用した背もたれ構造は、例えばリビングやダイニング等の床面を部分的又は全体的に一段下げるようにして、床段差部によって囲まれた凹み空間を演出した住宅において適用されている。
【0021】
この背もたれ構造では、
図1及び
図2に示すように、略水平な上段面2と略水平な下段面3との間に略垂直な段差面4を介在させた床段差部1において、上段面2と段差面4との間のコーナー部分に、框材や見切り材としての機能を有する横長の木製化粧材5を取り付けている。
【0022】
なお、
図2中、10は土間コンクリート、11、12は土間コンクリート10に立設した束材、13は束材11上に取り付けた鋼製大引、14は鋼製大引13上に取り付けた根太、15は根太14上に敷設した上部床材、16は束材12上に敷設した下部床材、17は鋼製下地材、18は鋼製下地材17の前面に取り付けた表面化粧板、19は化粧材5を受ける下地材を示している。
【0023】
上段面2は、例えば上部床材15の上面によって構成され、下段面3は、例えば下部床材16の上面によって構成され、段差面4は、例えば表面化粧板18の前面によって構成されている。そして、上段面2から下段面3までの垂直方向の高さ寸法(段差寸法)H1が、例えば300〜400mm(好ましくは360mm)に設定されている。高さ寸法H1をこのように設定することによって、落ち着いた雰囲気の凹み空間とすることができ、床段差部1を腰掛けや背もたれとして利用するのにも適している。
【0024】
化粧材5は、
図2及び
図3に示すように、上部床材15の端面を覆い隠す水平片6と、この水平片6の前端部から垂下した垂下片7とを備え、断面略L字状に形成されている。この化粧材5は、垂下片7が段差面4よりも前方(
図1において白抜き矢印に示す方向)へ突出した状態となるように、下地材19に固定されていて、化粧材5の上面(水平片6及び垂下片7の略水平な上面6a、7a)が、上段面2に対して面一に配され、垂下片7の略水平な下面7bが、下段面3に対して所定間隔をあけて略平行に配されている。
【0025】
そして、垂下片7における上面7aと下面7bとを繋ぐ背もたれ用見付面(前面)7cが、下方に向うにつれて前方への張出量が漸増するように傾斜した傾斜面となっている。この背もたれ用見付面7cは、
図3に示すように、水平面Gに対する傾斜角度αが例えば75〜80度(好ましくは78度)といった一般的な椅子の背もたれと同様の傾斜角度とされ、垂直方向の高さ寸法H2が例えば70〜100mm(好ましくは83mm)とされている。
【0026】
また、垂下片7における上面7aと見付面7cとの間のコーナー部分、及び、下面7bと見付面7cとの間のコーナー部分は、R処理がなされて丸みを帯びた湾曲状に形成されており、さらに上面7aと見付面7cとの間のコーナー部分には、足掛かりとなる滑り止め用の溝状切欠部8が横方向に沿って形成されている。
【0027】
このような化粧材5を取り付けた床段差部1を背もたれとして利用する場合、
図4に示すように、下段面3に床座した利用者の斜めに傾いた背中に、化粧材5における垂下片7の背もたれ用見付面7cが当たることになる。
【0028】
この背もたれ用見付面7cは、上記のように背もたれに適した段差寸法に設定された床段差部1における段差面4の上端付近に位置するとともに、一般的な椅子の背もたれと同様の傾斜角度αを有し、高さ寸法H2も比較的長くなっていて、しかも上端部及び下端部が丸みを帯びていることから、背もたれ用見付面7cに十分に体重をあずけても(背中を背もたれ用見付面7cに強く押し付けても)、背中が痛くならず、床段差部1を背もたれとして快適に利用することができるようになっている。
【0029】
また、この床段差部1においては、背もたれとしての座り心地をより一層良好にするために、
図1及び
図2に示すように、クッション材9を併用可能としている。このクッション材9は、断面略三角形状に形成されていて、化粧材5における垂下片7の下面7bと下段面3との間に嵌り込むようにして、着脱可能に装着されるようになっている。
【0030】
このクッション材9は、装着時に段差面4に重ね合わせる略垂直な後面9aと、装着時に下段面3に載せる略水平な下面9bと、装着時に化粧材5における垂下片7の背もたれ用見付面7cに連続する背もたれ面(前面)9cとを有し、背もたれ面9cは、前方へ膨れ出るように湾曲して形成されている。なお、クッション材9は、床段差部1から取り外して、単独で枕等としても使用可能となっている。
【0031】
このように化粧材5の下側にクッション材9を装着して、化粧材5おける垂下片7の背もたれ用見付面7cに、クッション材9の背もたれ面9cを連続させることで、床段差部1を背もたれとして利用する場合、
図4に示すように、下段面3に床座した利用者の背中を、違和感を生じさせることなく、背もたれ用見付面7c及び背もたれ面9cによってごく自然に広範囲に支えることになり、しかもクッション材9は柔らかくて弾力性を有していることから、背もたれとしての座り心地をより一層良好にすることができる。
【0032】
以上に、この発明の実施形態について説明したが、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【0033】
例えば、
図5に示すように、窓際に設けられた床段差部1においては、窓台(窓下枠)20の上面によって構成された上段面2と段差面4との間のコーナー部分に、横長の木製化粧材5を取り付けるようにしても良い。
【0034】
また、化粧材5は、木製に限らず、合成樹脂製や金属製であっても良い。さらに、化粧材5は、水平片6と垂下片7とを一体成形したものだけに限らす、水平片6とは別体とした垂下片7のみから構成されていても良い。さらにまた、クッション材9は、必ずしも併用する必要はない。
【符号の説明】
【0035】
1・・床段差部、2・・上段面、3・・下段面、4・・段差面、5・・化粧材、6a、7a・・化粧材の上面、7c・・背もたれ用見付面、8・・切欠部、9・・クッション材、9c・・背もたれ面、G・・水平面、H1、H2・・高さ寸法、α・・傾斜角度