【実施例1】
【0044】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0045】
図1の構成において、本発明になる遠心分離機全体を100で示し、1は試料を収納するロータであり、2はロータ1を回転駆動する3相の誘導モータ或いはDCブラシレスのモータであり本実施例では以下トルク補正がより困難な3相の誘導モータとして説明する。13は駆動シャフト14の駆動トルクをロータ1に伝達するクラウン、スパッド等のトルク伝達器である。3は交流電源4を入力としモータ2に可変周波数の電圧を出力するインバータ変換器であり、5はロータ1或いはモータ2の第1の回転速度検出手段であり、例えば、エンコーダディスク27のスリットの有無によりパルス信号MPGを出力するフォトインタラプタである。6はロータ1或いはモータ2のホール素子等のマグネットセンサからなる第2の回転速度検出手段であり、トルク伝達器13の底部の円周上に設けた少なくとも1つ以上のマグネット7の有無を検出しパルス信号SPGを出力する。
【0046】
15は遠心分離機のフレームであり、10はフレーム15で支持されるロータ1の表面を囲うボウルであり、11はフレーム15で支持されるプロテクタリングであり、ボウル10を囲いロータ1破損時に遠心力に従い遠心分離機外部に飛び出そうとするロータ1の破片を受け止めるものである。12は開閉可能なドアであり、ロータ1が回転している際は、プロテクタリング11及びボウル10と共にロータ1を閉じ込める空間を作る。
【0047】
16はモータ2のU相の1次電流を検出し電流信号Iuを出力する第1の電流検出器であり、同様に17はモータ2のW相の1次電流を検出し電流信号Iwを出力する第2の電流検出器であり、電流検出器16、17は、例えばこの場合ホール素子を利用した電流の波形に沿った電圧を出力するカレントセンサである。
【0048】
18はインバータ変換器3の直流電源電圧を検出し電圧信号V1を出力する第1の直流電圧検出器であり、19は同様にインバータ変換器3の直流電源電圧を検出し電圧信号V2を出力する第2の直流電圧検出器であり、20はインバータ変換器3からモータ2への電圧供給路に配置されたインバータ変換器3からモータ2への電圧供給を遮断する第1の遮断装置である。21は交流電源4からインバータ変換器3への電力供給路に設けられたインバータ入力遮断装置となる第2の遮断装置である。8は第1の制御装置であり、インバータ変換器3にモータ2へ出力する電圧の指令値をインバータ制御部210から信号ライン30を介して出力することによりインバータ変換器3を制御し、また、第1の速度検出手段5が出力するパルス信号MPGと、第1の電流検出器16が出力する電流信号Iuと、第1の直流電圧検出器18が出力する電圧信号V1に従いロータ1の慣性モーメント或いは回転エネルギーを測定する。9は第2の制御装置であり、第2の速度検出手段6が出力するパルス信号SPGと、第2の電流検出器17が出力する電流信号Iwと、第2の直流電圧検出器19が出力する電圧信号V2に従いロータ1の慣性モーメント或いは回転エネルギーを測定する。
【0049】
25は運転するロータの種類をロータテーブルから選択するための識別コードの入力と、その選択されたロータ1の整定回転速度や、運転時間、設定温度等を操作者が任意に設定できるユーザインターフェイス手段である。遠心分離機は種々のロータについてのロータ固有の情報となるロータテーブルを予め備えており、各々のロータテーブルには温度補正係数や許容最高回転速度、ロータの所定の回転速度でのエネルギー、さらにロータの許容最高回転速度でのエネルギーEmaxの情報が予め登録されている。操作者はユーザインターフェイス手段25からロータを1つ選択でき且つ選択したロータの整定回転速度、運転時間、設定温度を設定することができるようになっており、第1の制御装置は、信号ライン56を介してユーザインターフェイス手段25に入力されたロータ1の設定回転速度等に従いロータ1の回転速度、運転時間、図示されていない冷凍機等を制御する。
【0050】
ユーザインターフェイス手段25からの手動設定によらず、ロータ1から風損、慣性モーメント、最大回転速度等の情報を自動的に自動識別装置から入手する手段として特開平11−156245号公報に開示されているようなロータ識別装置による自動取得が可能なように、ロータ1の下部に設けられたロータアダプタ51の下面の円周上に設けられた識別穴パターン54と穴の有無を検出する渦電流センサ55が設けられ渦電流センサ55の信号出力はロータ識別信号IDとして後述する信号変換器222(
図2参照)を介して第1の制御装置8に入力されている。
【0051】
53はロータ1或いはモータ2のホール素子等のマグネットセンサからなる許容最高回転速度を示す信号発生器であり、ロータアダプタ51の内面の円周上に設けた少なくとも2つ以上のマグネット52の配置を検出しパルス信号RPGを出力する。パルス信号RPGは第1の制御装置8及び第2の制御装置9に出力されている。
【0052】
本実施例において、第1の制御装置8と第1の遮断装置20は信号ライン22で接続され、第1の遮断装置20は第1の制御装置8が出力する遮断信号によりモータ2の駆動を停止させることができる。第2の制御装置9と第2の遮断装置21は信号ライン23で接続され、第2の遮断装置21は第2の制御装置9が出力する遮断信号によりモータ2の駆動を停止させることができる。また、第1の制御装置8と第2の制御装置9は通信ライン24で接続されており、両制御装置は通信手段を備えることで装置間の双方向の通信が可能である。
【0053】
図2は
図1の第1の制御装置8と第2の制御装置9の詳細ブロック回路図である。
図2において、第1の制御装置8は、CPU201と電流実効値変換器202とスタティックRAMとなる不揮発性メモリ208と印加電圧が消失しても記憶内容を保持するEEPROMの不揮発性メモリ223とインバータ制御部210を含んで構成される。第2の制御装置9はCPU211と電流実効値変換器212と印加電圧が消失しても記憶内容を保持するEEPROMの不揮発性メモリ218を含んで構成される。不揮発性メモリ223、218には教示作業により慣性モーメントが既知のロータの慣性モーメントに合うようにトルク定数を逆算して決定したものなどが記憶される。CPU201及びCPU211としては市販のマイクロプロセッサを使用でき、例えばルネサステクノロジー社製のSH7080シリーズやH8/3048Fシリーズを使用できる。これらは、マルチファンクションタイマパルスユニット(以下MTUと称す)、A/D変換器、シリアルコミュニケーションインターフェース(以下SCIと称す)、入出力ポート(以下I/Oと称す)等のペリフェラル機能を内蔵したマイクロプロセッサである。尚、用いられるメモリはRAMやEEPROMに限定させるものではなく、他の記憶手段で実現しても良い。
【0054】
電流実効値変換器202は第1の電流検出器16による電流信号Iuを実効値変換し、出力信号をCPU201内蔵のA/D変換器203に入力し、電流実効値変換器212は第2の電流検出器17による電流信号Iwを実効値変換し、出力信号をCPU211内蔵のA/D変換器213に入力する。A/D変換器203とA/D変換器213で入力されたアナログ電圧をデジタル値に変換し、CPU201とCPU211は、これらのデジタル値に基づき、モータ2の1次電流を測定する。第1の遮断装置20への遮断信号はCPU201内蔵のI/O207から、第2の遮断装置21への遮断信号はCPU211内蔵のI/O217から出力される。
【0055】
第1の速度検出手段5によるパルス信号MPGはCPU201内蔵のMTU204に、第2の速度検出手段6によるパルス信号SPGはCPU201内蔵のMTU221に入力されると共にCPU211内蔵のMTU214にも入力される。MTU204及びMTU214は、各々パルス信号MPG、SPGのパルスの周期をCPUの内部クロックにより計測する。第3の速度検出手段26が出力する2相のパルス信号ENCa、ENCbは、それぞれ、ENCaはCPU201内蔵のMTU205に、ENCbはCPU211内蔵のMTU215に入力される。同様にパルス信号ENCa、ENCbのパルスの周期は、MTU205及びMTU215により計測される。同様にパルス信号RPGはCPU201内蔵のMTU230とCPU211内蔵のMTU231に入力され計測される。
【0056】
第1の直流電圧検出器18による電圧信号V1はCPU201内蔵のA/D変換器206に、第2の直流電圧検出器19による電圧信号V1はCPU211内蔵のA/D変換器216に入力され、A/D変換器206とA/D変換器216で入力されたアナログ電圧をデジタル値に変換し、CPU201とCPU211は、これらのデジタル値に基づき、インバータ変換器3の直流電源電圧を計測する。
【0057】
インバータ制御部210は、インバータ変換器3へ可変周波数の3相電圧指令信号を出力し、CPU201は、パルス信号MPG或はENCaよりモータ2の速度を検出し、インバータ制御部210を介してインバータ変換器3を制御する。なお、第1の制御装置8と第2の制御装置9は、CPU201内蔵のSCI209とCPU211内蔵のSCI219が通信ライン24を介し接続されることでCPU間の通信が可能であり、第1の制御装置8は第2の制御装置9の動作状態あるいはロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーの算出結果をモニタでき、且つ、ロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーを測定する際に測定タイミングの同期ハンドシェイクを取ることができる。
【0058】
本実施例では、パルス信号MPG、SPGはモータ2の1回転当たり2パルスの信号であり、パルス信号ENCa、ENCbはモータ2の1回転で30パルスの信号としている。ロータ1及びモータ2の回転速度N(min
−1)の測定は、パルス信号MPGによる速度検出を例にすると、CPU201内蔵のMTU204によりパルス信号MPGの立ち下りエッジ間の時間を測定することでなされ、具体的には、パルス信号MPGの立下りエッジ毎に、前回立下りエッジから今回エッジが発生するまでのCPU201の内部クロックのカウント値に基づき算出される。ここで、CPU201或いはCPU211の内部クロックの周波数をF、信号立下りエッジ間での内部クロックのカウント数をCNTとすると、モータ2の回転速度Nは数式1のとおりである。式1中の小さな黒丸は、乗算をすることを意味し(本明細書の数式中では以下同じ)、数式1の分子は60×Fの意味である。
【0059】
【数1】
【0060】
なお、3相誘導モータであるモータ2の瞬時の現在回転速度Nrは、励磁周波数の3の倍数成分となる6次や、12次成分のトルクリプルの影響やモータ制御上の電圧指令変更時の応答により、モータ2の1回転周期trで波線で示すモータ2の理想回転速度Noに対して変動しており、速度勾配は測定タイミングで値が変化してしまう恐れがある(これは
図7の実線で示したNrで後述する)。このため、本実施例では、求める速度は、速度の高次変動を減衰するように速度計測毎に速度を逐次更新するソフトウェアでのフィルタリング処理を施しており、フィルタリング後の今回の速度Nn(後述する
図7の一点破線)は、フィルタリング後の前回の速度をNn−1、測定した瞬時の現在回転速度をNr、フィルタリングの定数をαとすると数式2で求められる。
【0061】
【数2】
【0062】
ここで、αは1より小さい値であり、小さい値であればあるほど減衰効果を期待できるが、
図7のΔtで表した実際の速度に対する時間遅れも大きくなってしまう。さらにこの時間遅れは速度の検出周期が長いほど大きくなってしまう。本実施例では、CPU201とCPU211が検出する速度は、フィルタリング処理での時間遅れを極力小さくできるようにモータ2の1回転当たりのパルス数が多く速度の更新周期が短くなる第3の速度検出手段26からのパルス信号ENCa、ENCbから求め、上記時間遅れを200ms程度にし遠心分離機の回転速度制御上問題無いようにしている。
【0063】
なお、パルス信号ENCa、ENCbのパルス欠損等の速度検出での不具合が発生すると正確なロータエネルギーの測定ができなくなるので、このような不具合の発生を検知できるように、第1の制御装置8ではパルス信号MPGで求めた速度とパルス信号ENCaで求めた速度を比較し、同様に第2の制御装置9ではパルス信号SPGで求めた速度とパルス信号ENCbで求めた速度を比較できる構成としている。
【0064】
また、A/D変換器203、213に入力される電流実効値変換器202、212の出力信号も高次の電流リプル成分を含んでいるので、例えば、2msec周期でA/D変換器203、213でのA/D値のサンプリングを行い、速度検出と同様のソフトウェアでのフィルタリング処理を実施している。
【0065】
次にインバータ変換器3の詳細な構成について
図3を用い説明する。インバータ変換器3において312は交流電源4を直流電源に変換するコンバータであり、311はコンバータ312で変換された電源を平滑する平滑コンデンサである。31、32、33は、それぞれモータ2に3相の交流電力を供給するインバータブリッジであり、例えばIGBTやMOSFET等のスイッチング素子に還流ダイオードを逆接続した上アーム、下アームで構成されている。
図3ではスイッチング素子としてIGBTを用いており、インバータブリッジ31を代表してブリッジを構成する上アーム、下アームを301、302で示し、304、306はそれぞれ上アーム301、下アーム302のゲート制御回路であり、これらはフォトカプラ305、307から点孤信号が送られる。310は フォトカプラ305、307の発光素子を点灯させるための電源であり、トランジスタ等の半導体スイッチ或いはスリーステートゲートから成る第1の遮断装置20と抵抗器308、309を介しフォトカプラ305、307の発光素子のアノード側に接続されている。インバータ制御部210が出力する各ブリッジのオン・オフ信号はドライバ316、317を介しフォトカプラ305、307の発光素子のカソード側に送られ、上アーム301、下アーム302は各々インバータ制御部210の出力信号がLOWレベルになった時にオンする。
【0066】
また、交流電源4とコンバータ312との間にリレーコイル314による励磁信号に従いオン・オフするリレー接点313を設けており、リレーコイル314トランジスタ等の半導体スイッチ或いはスリーステートゲートから成る第2の遮断装置21を介し電源310に接続され、カソード側にはインバータ制御部210の制御信号がドライバ318を介し送られる。ここで、第1の遮断装置20が信号ライン22により遮断状態になると、インバータブリッジ31、32、33の発光素子の電源供給は断たれるので、インバータ制御部210がモータ2を駆動すべくオン・オフ信号を出力しても全てのブリッジはオンできず、モータ2を駆動する電圧供給を遮断される。同様にして、第2の遮断装置21が信号ライン23により遮断状態になると、インバータ制御部210がモータ2を駆動すべくリレー接点313をオンさせる制御信号を出力しても、リレー接点313はオフ状態となり、交流電源4からのインバータ変換器3への電源供給が遮断され、モータ2への電力の供給も断たれる。
【0067】
次に
図4のフローチャートを用いて、本実施例の遠心分離機100の動作を説明する。まずユーザがロータ1を任意に選択して遠心分離機100に装着する。その後、ステップ401において遠心分離機100の図示しない操作部から、ロータ1の運転回転速度を入力することにより設定する。次にステップ401において、ロータ1の設定温度、遠心分離の運転時間等その他の遠心分離運転に必要な条件を操作部から入力することにより設定する。遠心分離のための条件の入力が終わると、作業者は遠心分離機100のドア12を閉めて、操作部からSTARTキーを押すことにより(ステップ403)、ステップ404でモータ2が起動する。次にステップ405において、回転速度が毎分約50回転程度の低回転領域において、信号発生器53及び渦電流センサ55の出力の有無から、ロータ1の識別する信号と制限回転速度を示す信号を検出する。通常ロータ1の識別信号を検出すると、ロータ1のIDが認識できるため、遠心分離機100に予め格納されているデータからロータ1の種類、ロータ単体の制限回転速度Ns等がわかる。また、制限回転速度を示す信号によると、信号発生器53からの信号の出現間隔を測定することによってロータ単体の許容回転速度等がわかる。
【0068】
次にステップ406において、第1の制御装置8は識別信号があるか否か判定し、有りの場合は、ロータテーブル(図示せず)からロータ1の種類を特定し、ロータ1の制限回転速度(許容最高回転速度)Nsを設定し、ステップ401で入力された設定回転速度と比較し、設定回転速度が許容最高回転速度以下であれば、ステップ409において所定の条件下で所定時間だけ遠心分離運転を行う。この遠心分離運転は公知の方法で行えばよいので、ここでの詳細な説明は省略する。次にステップ410において、第1の制御装置8は回転中のロータ1の回転速度が、ステップ408で設定された制限回転速度Ns以下であるかを判断する。制限回転速度Ns以下の場合は、ステップ411で設定された運転時間が終了して遠心分離動作が終了であるかを判断する。
【0069】
ステップ410においてロータ1の回転速度が制限回転速度Nsを越えた場合、又は、ステップ411において遠心分離運転が終了した場合は、ステップ412においてロータ1を減速して処理を終了する(ステップ412)。以上説明したステップ401〜412が通常の遠心分離機100の動作手順である。尚、従来の遠心分離機においては、ステップ406において識別信号が無い場合は、遠心分離運転を停止させるようにしていた。
【0070】
本実施例においては、ステップ406で識別信号(ID)が無しと判断されても、ステップ413〜414のステップを実行することにより遠心分離運転を継続できるようにした。ステップ413においては、RPG信号の有無が判断される。RPG信号によって判断できるのは、ロータ1固有の許容最高回転速度である。この許容最高回転速度はロータ1にかかる遠心応力等を考慮して決められている回転速度数であり、遠心分離機100の封じ込めエネルギーを考慮したロータ1の許容回転速度(通常、この許容回転速度は遠心分離機100毎に異なる)と必ずしも一致しない。そこでRPG信号が無い場合は、ロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーを算出するステップ415を実行する。このステップ415の詳細な手順については後述する。次に、算出された数値を元に第1の制御装置8は制限回転速度Nsを設定し、ステップ409に進む。
【0071】
以上のように、遠心分離機100にID情報を有しない旧式のロータを装着したとしても、ロータ1の起動後であって整定状態に達する前に慣性モーメント或いはエネルギーを測定して、安全な制限回転速度Nsを求めるので、旧式のロータを使用することができ、使い勝手の良い遠心分離機を実現できる。
【0072】
ステップ413においてRPG信号がある場合は、ステップ414にてRPG信号によって判断されたロータ1固有の許容回転速度が7000min
−1未満であるか判断する。ここで7000min
−1未満である場合は、ステップ409に移り通常の遠心分離動作を開始する。これは、7000min
−1未満の回転速度ならば装着されるどのロータであっても、遠心分離機100での封じ込めエネルギー以内に収まるため、わざわざロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーを算出する必要がないからである。尚、遠心分離機100での封じ込めエネルギーは、遠心分離機100のボウル10、ドア12を含めた構造自体に大きく左右されるため、必ずしも一定ではなく、ステップ414で判断基準とされる回転速度は遠心分離機100の種類毎に異なるものである。
【0073】
ステップ414でRPG信号によって判断されたロータ1固有の許容最高回転速度が7000min
−1以上の場合は、ステップ415に移りロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーを算出するステップ415を実行する。次に、算出された数値を元に第1の制御装置8は制限回転速度Nsを設定し、ステップ409に進む。このようにロータ1固有の許容最高回転速度が7000min
−1以上の場合は、ロータの種類によっては遠心分離機100での封じ込めエネルギーを越える恐れがあるため、ロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーを算出して安全な慣性モーメント或いはエネルギーを算出するようにした。
【0074】
次に、ロータ1の慣性モーメント或いはエネルギー算出動作の一例について
図5及び
図6を参照し説明する。従来の遠心分離機においては、
図15の経過時間(秒)とロータ1の回転速度の関係を示すグラフで示すように運転される。時間t=0においてモータの回転を起動させ、矢印1501で示す低回転領域(例えば50min
―1付近)で、ロータの識別信号及び制限回転速度信号を検出する。その後、矢印1502で示すようにロータの回転を加速させて所定の回転速度にて整定させ、矢印1503のように設定された遠心分離時間だけ運転される。設定された時間の遠心分離が終了したら矢印1504のようにロータは減速されて回転が停止する。
【0075】
ここで従来の遠心分離機においては、矢印1501で示す低回転領域で、ロータの識別信号及び制限回転速度信号を検出できない場合は、エラーとしてロータの回転が停止され遠心分離運転が停止していた。本実施例では、このロータの回転が停止してしまう状態を回避すると共に、安全に遠心分離運転を
保証できる遠心分離機を実現することにあり、その運転状況を示すのが
図5である。
【0076】
図5は、本実施例においてロータ1に識別信号及び制限回転速度信号等のID情報が無い場合の、経過時間(秒)とロータ1の回転速度の関係を示すグラフである。本実施例に係る遠心分離機100は、矢印501で示す低回転領域で、ロータの識別信号及び制限回転速度信号を検出する。ここでロータ1の識別信号及び制限回転速度信号を検出できない場合は、ロータ1の回転をさらに加速させて、矢印502で示す所定の低速回転領域において
図4のステップ415で示したロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーの算出を行う。本実施例では所定の低速回転領域は、約2000min
−1の回転領域を用いている。その後、遠心分離運転のための設定回転速度が、ステップ416で求められた制限回転速度Ns以下であれば矢印503のようにロータ1をさらに加速させて、矢印504のように設定回転速度にて設定時間の遠心分離運転を行い、設定時間が経過したら矢印505のようにロータ1を減速させて停止させる。尚、ステップ402において設定された遠心分離のための回転速度が、矢印502で示す所定の低速回転領域において算出された制限回転速度Nsよりも大きい場合は、点線506に示すようにロータ1を減速してその回転を停止させる。
【0077】
次に、
図6を用いて
図5の矢印502の付近におけるロータ1の慣性モーメント或いはエネルギーの算出のしかたについて説明する。
図6において実線はロータ1及びモータ2の現在回転速度Nを表し、一点破線はモータ2の出力トルクτaやτmを表している。
【0078】
第1の制御装置8は加速途上の回転速度N1となる時刻T1で、慣性モーメントの小さいロータの急加速状態での測定を避けるために、モータ2の出力トルクをτaからτmに低減するように制御し、上記した速度検出や電流検出フィルタリング処理の、速度勾配と電流値が一定の値として検出できるように時刻T3まで出力トルクを低減させた状態を保つ。トルクτmでの測定開始時刻T2の回転速度はN2(第1の回転速度)となっており、トルクτmでの測定終了時刻T3では回転速度はN3(第2の回転速度)に達する。
【0079】
時刻T3からは、第1の制御装置8は出力トルクをゼロとし、ロータ1の風損或いはモータ2のベアリングなどの支持系機械損による減速トルクτwに従う自然減速状態となり、速度検出フィルタリング処理時間遅れを考慮し、測定開始時刻T4まで自然減速状態を保ち、T4での回転速度N4から更に自然減速させ、測定終了時刻T5の回転速度N5(第3の回転速度)まで低下させる。
【0080】
時刻T2からT3の加速状態でのモータ2の回転速度をNf、算出するロータ1の慣性モーメントをIp、モータ2の回転子、駆動シャフト14やトルク伝達器13等のロータ1以外の回転系の慣性モーメントをIrとすると、Irはこの場合は定数となる0.00139kg・m
2程度の既知の一定量、下記数式3で表される。
【0081】
【数3】
【0082】
一方、時刻T4からT5の自然減速状態でのモータ2の回転速度をNbとして下記数式4で表される。
【0083】
【数4】
【0084】
数式3、4に於いて、モータ2の回転速度Nf、Nbの時間変化率は、時間差Δtf=T3−T2 、時間差Δtb=T4−T5として良いから近似的に数式5、数式6で表される。
【0085】
【数5】
【0086】
【数6】
数式4、数式5、数式6を数式1に代入してロータ1の慣性モーメントIpについて整理すると、数式7を得る。
【0087】
【数7】
【0088】
ここで、算出するロータ1の慣性モーメントIpの範囲は、最小のもので100×10
−4kg・m
2程度から最大のもので4000×10
−4kg・m
2程度まであり慣性モーメント値の比率で40倍の開きがある。特にモータ2が誘導モータの場合は、経験的に、ロータ1の慣性モーメントの大小で励磁スベリが変化し、Ipの小さいものでは見かけ上大きく算出され誤差が大きい傾向がある。
【0089】
モータの制御は一定周期でモータ電圧の大きさと周波数を変更しているので、扱うロータの慣性モーメントIpの大きさに伴い瞬時のすべりが変化し、更に平滑コンデンサ311の電圧やモータ2の巻線の温度変化による1次巻線抵抗の変化により、モータ電流と出力トルクの線形性が失われてしまうので、本実施例の遠心分離機ではモータ2の出力トルクτmを数式8で近似する。
【0090】
【数8】
【0091】
数式8の意味するところは、単位をW(ワット)とすると、右辺はモータの出力は、出力トルクτmと時刻T2とT3間の時間差Δtf間のモータ2の平均回転速度Navの積であり、左辺は定数の係数をkとしてモータ2に入力された電流信号Iuの実効電流の平均値Iuavと平滑コンデンサ311の電圧すなわちDCリンク電圧の電圧信号V1の平均値V1avの積であり、これらは短い時間差Δtfで効率が殆んど変化しないので定数の係数をkを用いて釣り合う。回転速度Navは時刻T2での回転速度N2と時刻T3でのN3の中間速度とし、数式9のようになる。
【0092】
【数9】
【0093】
数式8をモータ2のトルクτmについて整理すると数式10が得られ、これを数式7に代入すると数式11を得る。
【0094】
【数10】
【0095】
【数11】
【0096】
次に、上記のロータ1の慣性モーメント算出動作における第1の制御装置8と第2の制御装置9の動作の詳細を
図9と
図10を参照し説明する。
図9は第1の制御装置8内のCPU201の動作フローチャートであり、
図10は第2の制御装置9内のCPU211の動作フローチャートである。なお、ロータ1の慣性モーメントIpに替えてロータ1の回転速度Navでの回転エネルギーEavを求める場合は、ロータ1のEav測定時の回転速度をNav(min
−1)とすると数式12を用いれば良い。
【0097】
【数12】
【0098】
動作中の出力トルクτmをモータ2に入力された電流信号IuとDCリンク電圧の電圧信号V1をトルク変動要因として統計処理によりこれらの要因に対する重み付けする従来の方法では、±8%程度の慣性モーメントIp或いは回転エネルギーEの算出精度でしかカバーできない。
【0099】
これは、モータ2の固有エアギャップ長による磁束の大小、元々の巻線抵抗の違い、モータ2がブラシレスDCモータであればマグネットから出力される磁束量が異なり、モータ2の製造時のばらつきを排除できないのが誤差を生む要因の一つになり、定数の係数kは遠心分離機100に搭載されるモータ或いはインバータ等の制御装置によって異なる固有の数値となる。従って、定数の係数kを教示により定めることによりこのばらつきを排除する。数式11或いは数式12の計算方法と係数kの教示の実施により慣性モーメントIp或いは回転のエネルギーEの算出誤差は±3%台の値に高精度化できる。数式11或いは数式12に於いて、算出される慣性モーメントIpが既知の値であれば、慣性モーメント算出プロセスをそのまま用いて定数の係数kを逆算して求めることができる。
【0100】
定数の係数kを教示する方法について、
図13、
図14を参照しながら説明する。
図13に於いて、ここでは例えば出願人が販売するR15A形ロータをロータ選択ボタン1300により選択する。選択可能なロータはこの遠心分離機で使用できるロータファミリーの殆んど或いは全てから選択でき、それぞれについて慣性モーメント値がデータベースとして入力されており、現地での教示を可能にしている。なお、ロータ1は、同じ形式のものであれば、その性質上すなわち、合金製で高精度に機械加工されたものであるから慣性モーメントに殆んど違いは無い。
【0101】
次に、スタートボタン1301を押下すると、後述の慣性モーメント或いは回転エネルギー算出と同様な動作が行われ、回転速度N2、N3以下Navまでが測定され数式11を用いて
図14に示すように定数の係数kが求まる。定数の係数kは複数回の動作により平均値として求めることにより高精度化が可能である。この後、確定ボタン1302を押下することにより、第1の制御装置のCPU201は不揮発性メモリ223、第2の制御装置のCPU211では不揮発性メモリ218にそれぞれの算出された定数の係数kを保存し、以後、実際の遠心分離機運転時に数式11或いは数式12を用いて慣性モーメントIp或いは回転のエネルギーEを算出する際に読み出し利用する。
【0102】
CPU201の動作を示す
図9において、ステップ700はモータ2の速度がN1(
図6参照)に達しているかを判断する判断処理であり、N1以上であればステップ701に進み、CPU201はCPU211が正常に動作しているか確認するために、CPU211の現在の状態を問い合わせる通信を行う。ステップ702ではCPU211からステップ701での通信に対する応答の有無をチェックし、応答がない場合CPU211は異常であると判断し、ステップ703でモータ2の減速停止処理を実施し測定を終了する。
【0103】
応答があった場合は、ステップ704に進み、モータ滑りとモータ印加電圧を所定の値まで低減させ、モータ2の出力トルクをτmに低減する。この後、上記したように速度検出や電流検出フィルタリング処理後の速度勾配と電流値が安定した状態で検出できるように、ステップ705で
図6の時刻T1からT2までの時間であるtxの間、出力トルクを低減させた状態を保つインターバルを置き、ステップ705でCPU201とCPU211の回転速度N2の測定に関する同期が取れるようにCPU211に加速開始の通知を通信出力し、ステップ706で回転速度N2を測定する。
【0104】
ステップ707はトルクτmの加速状態での予め決められた時間インターバルtyだけ持続させ、ステップ709に進む。ステップ709では回転速度N2を測定してから増加回転速度ΔNx以上加速しているかを判断する。もしも回転速度が増加回転速度ΔNx以上加速していない場合は、ΔNx以上上昇するまで現状の加速を維持するようインバータ制御部210を制御する。
【0105】
ΔNx以上加速していればステップ710に進み、ステップ710ではこの時の回転速度N3とN2からN3までの加速に要した時間差Δtfの測定及びトルクτmで加速している時の回転速度の時間変化率dNf/dtを数式5に従い演算し、電流信号Iuと平滑コンデンサ電圧V1の時間差Δtfでの平均値、Iuav、V1av、時刻T2とT3の間のモータ2の平均回転速度Navを求める。ここで、時間差Δtfは
図6の時刻T2からT3までの時間である。ステップ712はモータ2への電力供給を停止しトルク0で自然減速を開始する処理であり、ステップ713に進み、速度検出フィルタリング処理の時間遅れを考慮し、速度勾配が安定した状態で検出できるように、
図6の時刻T3からT4までの時間tzの間トルク0の時間インターバルを置き、ステップ714でCPU201、211の回転速度N4の測定に関する同期が取れるようにCPU211に減速開始の通知を通信出力し、ステップ715で回転速度N4を測定する。
【0106】
ステップ716では回転速度N4を測定してからの減少回転速度ΔNy分以上モータ2が減速しているかを判断する。もし、減少回転速度がΔNy以上減速していない場合は、ΔNy以上減速するまで現状の減速状態を維持するようインバータ制御部210を制御する。ΔNy以上減速していればステップ717に進み、ステップ717ではこの時の回転速度N5とN4からN5までの減速に要した時間差Δtb(=時刻T4からT5までの時間)の測定が行われる。
【0107】
ステップ717ではロータ1の慣性モーメント或いは回転エネルギーを算出する項目の測定が完了したので、急加速するためにモータ2の出力トルクをτaまで増加させる処理が行われ、自然減速時の回転速度の時間変化率dNb/dtを次数式6により演算する。
【0108】
ステップ719では、各測定結果を数式11或いは数式12に代入して慣性モーメントIp或いは回転速度Navでのロータ1の回転エネルギーEavを算出し、ステップ723でIp或いはNavとEavを不揮発性メモリのRAM208に記憶すると共に、ユーザインターフェイス手段25により操作者が設定した許容回転速度NsでのロータエネルギーEsが次数式13に従い演算される。
【0109】
【数13】
【0110】
ステップ724ではCPU201とCPU211で測定したロータ1の慣性モーメントIp或いはエネルギーEavを通信にて照合し、互いのCPUが異常なく慣性モーメント或いはエネルギー算出が実施されたか否かを判断し、正常に演算が実施されていれば、各CPUが演算した値を比較し合い所定の誤差以内にあれば正常と判断しステップ726に進む。所定の値を超えた誤差がある時は、第1の制御装置8と第2の制御装置9のいずれか一方に不具合があると判断し、ステップ725に進みモータ2の減速停止処理を実施し測定を終了する。
【0111】
また、ステップ726では、遠心分離機の封じ込めエネルギーよりも低い封じ込めエネルギー閾値Ecとユーザインターフェイス手段25より入力された設定整定回転速度での許容回転速度NsでのロータエネルギーEsとを比較し、EsがEc以上であればステップ725に進み減速停止し、EsがEc未満であれば許容回転速度Nsまでの加速を続行し、ロータエネルギーの測定を終了する。
【0112】
本実施例の遠心分離機はユーザインターフェイス手段25により操作者が試料を遠心分離するために選択したロータの機種(ID)コード例えば、ロータ毎に割振られている番号などを入力することにより、CPU201は不揮発性メモリのRAM208に記憶されている複数のロータテーブルの中から、選択されたロータ情報の仕様のデータを読み込むことができる。第1の制御装置8は、上記選択されたロータのロータ情報の1つとして記憶されている所定の回転速度NuでのロータエネルギーEuと、ステップ723で演算した回転エネルギーEavを基に回転速度Nuでロータ1が持つと推定されるエネルギーEu’との比較を行い、所定の値を超えた誤差があった場合は、ユーザインターフェイス手段25より入力されたロータの機種コードと回転駆動中のロータが一致していないと判断して、モータ2を減速停止させることも可能である。
【0113】
CPU211の動作を示す
図10において、ステップ800は回転速度N2の測定に関するCPU201とCPU211の同期を取るためのCPU201から加速開始通知の通信があったか判断する判断処理であり、通信が無い場合は、ステップ801に進み、モータ2の回転速度が慣性モーメント或いはエネルギー算出の下限回転速度未満であればステップ800に戻り、逆に上限回転速度Nlim以上であれば、第1の制御装置8に異常が発生した状態で加速を継続している危険 状態と判断し、ステップ802でインバータ変換器3の電源入力を遮断するようにI/O217から信号ライン23を介し第2の遮断装置21へ遮断信号を出力し、エネルギー測定を終了する。
【0114】
ステップ800で加速開始通知の通信があったと判断した場合は、ステップ803に進み回転速度N2を測定する。ステップ804では時間インターバルtyだけタイムインターバルを取り、ステップ805に進み、回転速度N2を測定してから増加回転速度ΔNx以上加速しているかを判断する。もし増加回転速度がΔNx以上加速していない場合は、ΔNx以上上昇するまで待機する。ΔNx以上加速していればステップ806に進み、この時の回転速度N3とN2からN3に加速に要した時間差Δtfの測定が行われ、また、ステップ807でモータ電流Iwと平滑コンデンサ電圧V2の時間差Δtfでの電流信号Iwの実効電流の平均値Iwavと電圧信号V2の平均値V2av、時刻T2とT3の間のモータ2の平均回転速度Navを求める。
【0115】
ステップ808は回転速度N4の測定に関するCPU201、CPU211の同期を取るためのCPU201から減速開始通知の通信があったか判断する処理であり、通信が無い場合は、ステップ809に進み、速度がNlim未満であればステップ808に戻り、Nlim以上であれば、ステップ810でI/O217から信号ライン23を介し第2の遮断装置21へ遮断信号を出力し、エネルギー測定を終了する。
【0116】
ステップ808で減速開始通知の通信があったと判断した場合は、ステップ811に進み回転速度N4を測定し、ステップ812で回転速度N4を測定してからΔNy以上減速しているかを判断する。もし回転速度がΔNy以上減速していない場合は、ΔNy以上減速するまで待機する。ΔNy以上減速していればステップ813に進み、この時の回転速度N5とN4からN5までの減速に要した時間tbの測定が行われる。以降、ステップ814、815では
図9のステップ719、723と同様の処理が実施され、第2の制御装置9が同定する回転速度Nmでのロータ1の回転エネルギーEmが求められ、ステップ815でIp或いはNm及びEmを不揮発性メモリのEEPROM218に記憶し算出を終了する。
【0117】
なお、第2の制御装置9は第1の制御装置8のSCI209からの通信信号を受けてから、測定を開始するため時間遅れを考慮して、ステップ804での時間インターバルtyは
図9のステップ708でのtyより短い時間とし、ステップ805及びステップ812でのΔNx、ΔNyは、それぞれ
図9のステップ709及びステップ716でのΔNx、ΔNyより小さい値として、CPU201とCPU211での角加速度の検出に関する時間の整合を取ることにより、第1の制御装置8と第2の制御装置9が同定するエネルギーの誤差を最小限にすることが可能である。また、本実施例では測定したロータエネルギーとその測定速度は例えばRAM等の不揮発性メモリ208及びEEPROM等の不揮発性メモリ218に記憶されており、ロータエネルギー測定終了後に停電が発生し、復電した際のロータ1の速度が高速であっても、不揮発性メモリ208及び218からEav及びEmを読み出すことでロータエネルギーの管理を可能としている。
【0118】
次に、遠心分離機運転時の第1の制御装置8と第2の制御装置9のモータ2への電力供給遮断動作について
図11、
図12を参照して説明する。
図11、
図12はそれぞれ第1の制御装置8、第2の制御装置9についての動作を示すフローチャート図である。
【0119】
図11において、ステップ900はロータ1が回転しているか否かを判断し、回転していなければ、ステップ901に進み不揮発性メモリのRAM208に記憶した上記したエネルギー測定時の回転速度Navと回転速度Navでのロータ1の回転エネルギーEavをクリアし、ステップ900に戻る。ステップ900でロータ1が回転していると判断した時は、ステップ902に進み、回転速度N1を超えEavの測定が完了したかを判断する。測定未完の時はステップ900に戻り、測定が完了していればステップ903でNavとEavを基にモータ2の現在回転速度NでのロータエネルギーEを次式に従い算出する。
【0120】
【数14】
【0121】
ステップ904は、遠心分離機の封じ込めエネルギー閾値Ecと回転速度NでのロータエネルギーEとの大小を判断し、EがEc以上であればステップ905に進み第1の遮断装置20に遮断信号を出力し、EがEc未満であればステップ906に進み、ステップ906では、ユーザインターフェイス手段25を介し操作者が選択したロータの許容最高回転速度
Nmaxでのロータ固有のエネルギー上限値Emaxと上記Eを比較し、EがEmax以上であればステップ905に進み第1の遮断装置20に遮断信号を出力し、EがEmax未満であればステップ900に戻り、以降、現在回転速度Nに従い大小するロータエネルギーを監視し、遠心分離機の封じ込めエネルギー又はロータ固有のエネルギー上限値Emaxに対して上記ロータエネルギーが超えないように、エネルギーの監視が実施される。
【0122】
第2の制御装置9の動作は、
図12に示すとおり、上記の
図11により説明した第1の制御装置8の動作と同様であり、エネルギー測定時の回転速度Nmと回転速度Nmでのロータ1の回転エネルギーEavのクリアと参照はEEPROM218を対象とし、モータ2の駆動の禁止は、遠心分離機の封じ込めエネルギー閾値Ecと現在回転速度NでのロータエネルギーEとの大小を判断し、ErがEc以上となった時に第2の遮断装置21に遮断信号を出力することでなされている。
【0123】
次に、ロータ1の設定回転速度及び制限回転速度を、算出された回転エネルギーではなく慣性モーメントIpによって行う場合について、制限回転速度閾値及び設定回転速度閾値を求めるデータベースを5種類のロータにより模擬的に示す
図8を参照しながら説明する。
【0124】
エネルギー限界値602(エネルギー(kJ)軸)は、本実施例に係る遠心分離機100の封じ込めエネルギーの上限値を示したものであり、遠心分離機100は、約175kJのエネルギーまで耐えることが
保証される。制限回転速度閾値600は、ロータ1の単体での許容回転速度(min
−1)である。設定回転速度閾値601は、遠心分離機100を操作するユーザによって設定される設定回転速度の閾値であり、安全マージンを確保して制限回転速度閾値600よりも低い回転速度が設定される。例えば慣性モーメントIpがロータ1の真の慣性モーメントに対して最大±10%の誤差を含んで算出されたとしても同一の制限回転速度閾値600、設定回転速度閾値601が選択されるべきであるので、制限回転速度閾値600、設定回転速度閾値601はこれらの算出誤差を考慮して引かれている。
【0125】
例えば、ロータ1の慣性モーメントIpの算出値が3370(×10
−4kg・m
2)であった場合は、データベース算出イナーシャIp(×10
−4kg・m
2)の横軸の数値3370の所から垂直に延ばしたライン603とライン600との交点P(黒●)から制限回転速度閾値となるこの場合9000min
−1が得られる。同様にしてライン601との交点Q(白抜き□)は設定回転速度閾値となるこの場合8500min
−1が得られ、ライン603上の点R(白抜き△)はロータ1が制限回転速度閾値で回転中の回転エネルギーこの場合150kJを示す。このようにロータ1が制限回転速度で回転した場合に遠心分離機100の封じ込めエネルギー限界値となるこの場合175kJ未満になるようにライン600が設定されており、さらにライン600より小さな値にライン601が設定されている。ライン600との交点(Ipmax(白抜き□)とIpmin(白抜き□)は、算出されたIpの誤差が無い場合が点Pであるのに対して、誤差が−10%で算出された場合をIpmin、誤差が+10%で算出された場合をIpmaxで示したものである。算出された慣性モーメントに対応する制限回転速度とユーザが入力した設定回転速度を比較して設定回転速度が制限回転速度を上回る場合は、モータの回転を停止させる。
【0126】
ライン600、601が階段状になっており、算出された慣性モーメントIpが増加するに従い低くなる折れ線としている。これは、同一種類のロータであってもチューブや試料が極めて軽いほぼ空身に近い場合と試料が満杯でさらに金属チューブ等を使用した場合では実際の慣性モーメントIpに大きな差があるので、折れ点をその種類のロータの慣性モーメント最大時にさらに誤差が+10%を加算した位置に定めている。
【0127】
算出されるべき慣性モーメントIpは数値範囲が予め決まっているので、ライン601a、ライン601bは予定の範囲外の慣性モーメントの場合にロータ1を回転させないためのガードラインである。ロータ1の回転エネルギーで制御する場合のエネルギーEmaxがライン602に、ロータ1の許容最高回転Nmaxがライン600に相当するから、現在の回転速度Nと算出された慣性モーメントIpから、数式15を用いてErを計算する。
【0128】
【数15】
【0129】
この置き換えにより、
図11及び
図12のフローチャートに従って制御し、第1の制御装置8、第2の制御装置9は、各々このEと遠心分離機の封じ込めエネルギー閾値Ecとを比較し、EがEcを越えたと判断した時に第1の遮断装置20、第2の遮断装置21に遮断信号を出力するように動作するので、遠心分離機100の封じ込めエネルギーに対しロータ1のエネルギーが超えないようにロータ1の速度の制限が可能であることは明らかである。
【0130】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。