(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5683145
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60R 7/04 20060101AFI20150219BHJP
B60N 3/10 20060101ALI20150219BHJP
B60N 3/12 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
B60R7/04 S
B60N3/10 A
B60N3/12
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-143354(P2010-143354)
(22)【出願日】2010年6月24日
(65)【公開番号】特開2012-6459(P2012-6459A)
(43)【公開日】2012年1月12日
【審査請求日】2013年3月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100179855
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 えりか
(74)【代理人】
【識別番号】100086195
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】長澤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康行
(72)【発明者】
【氏名】牧田 直之
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−080925(JP,U)
【文献】
特開2006−061536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 7/00− 7/14
B60N 3/10− 3/12,
2/00− 2/72
A47C 7/62− 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹所がシートクッションのシートパッド上面に形成され、
シートパッドを被覆するトリムカバーと縫合可能なエラストマー、軟質樹脂、成形不織布のいずれかから、上端が開口され、その上端開口の周縁にフランジを有してシートパッド上面の凹所に対応した形状に成形された小物入れを凹所に埋設してシートクッションの座面に小物入れを設け、
小物入れのフランジがシートパッドを被覆するトリムカバーの端末にシートパッド上面で縫合された小物入れ付の車両用シート。
【請求項2】
凹所がシートクッションのシートパッド上面に形成され、
シートパッドを被覆するトリムカバーと縫合可能なエラストマー、軟質樹脂、成形不織布のいずれかから、上端が開口され、その上端開口の周縁にフランジを有してシートパッド上面の凹所に対応した形状に成形された小物入れを凹所に埋設してシートクッションの座面に小物入れを設け、
小物入れのフランジはその末端で下方に折曲され、フランジ端末の折曲部に対応してトリムカバーの端末を折り返して、トリムカバーの端末の折り返しにフランジ端末の折曲部がシートパッド上面で縫合された小物入れ付の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッション座面にカップホルダなどの小物入れ(小物ケース)を設けた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シートクッションの座面(上面)にカップホルダなどの小物入れ(小物ケース)を設けて、ドリンク、ガム、ペン、ティッシュなどの小物を収納可能とした車両用シートが知られている。
従来においては、シートクッションの前端角部などでシートパッドに凹所を形成し、この凹所に樹脂などからなるカップホルダを埋設して小物を収納する小物入れとしている。また、布よりなる袋状のポケットをシートパッドの凹所に被せて小物入れとした構成も知られているが、この構成ではドリンクなどの安定した収納が難しく、シートパッドに凹所に樹脂のカップホルダ(小物入れ)を埋設した構成が広く採用されている。
【0003】
たとえば、特開2006−061536号公報には、凹所の周縁でシートパッドを他の部分より硬質に成形し、カップホルダのフランジ(外フランジ)とこのシートパッドの硬質部との間でトリムカバーの端末を挟持し、カップホルダ底部をシートクッション下面のシートフレームにピン止めしてカップホルダをシートクッションの前端角部でシートパッドの凹所に埋設、配置した構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−061536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カップホルダは、一般的に、PP(ポリプロピレン)などの比較的硬質の樹脂から成形されるため、カップホルダをシートパッドの凹所に埋設して小物入れ(小物ケース)とした従来の構成では、ドリンクなどを安定して収納できる。しかし、シートパッドは、必要なクッション性を確保するためにウレタンフォームなどの発泡成形材から成形されており、硬質の樹脂からなる小物入れ(カップホルダ)とはその硬度において大きな差異があるため、着座時における小物入れの異物感が避けられない。
また、トリムカバーの端末は、硬質の樹脂からなる小物入れのフランジと、発泡成形材からなるシートパッドとの間に挟持されるが、シートクッション座面が撓むと、小物入れの開口部においてトリムカバーの端末との間に隙間が生じやすい。
【0006】
上記特許文献1では、凹所の周縁でシートパッドを他の部分より硬質に成形して、シートクッション座面が撓んだ場合でのトリムカバー端末の間での隙間の発生を防止している。
【0007】
しかし、凹所の周縁で他の部分より硬質にシートパッドを成形するために、高温に溶融された異なる2つの発泡成形材を成形金型に別々に高圧で注入して成形させる必要があり、成形加工が複雑化してコスト高となる。
【0008】
また、小物入れ底部をシートクッション下面のシートフレームにピン止めして小物入れのフランジに下方への押力を生じさせ、この押力のもとでトリムカバーの端末をシートパッドの硬質部に押し付けて挟持しているにすぎず、挟持によるトリムカバーの端末の保持は固定的なものでない。凹所の周縁でシートパッドを他の部分より硬質に成形しても、大きな圧縮力が凹所の回りでシートパッドに加われば、シートパッドの硬質部の圧縮、変形が避けられず、トリムカバーの端末の挟持が緩むおそれがある。
【0009】
たとえば、小物入れのフランジ下面に凹凸を設けて大きな摩擦抵抗のもとでトリムカバーの端末を挟持すれば、挟持の緩みを防止できる。しかしながら、小物入れの成形金型の形状が複雑化してコスト高となる。また、フランジ下面を凹凸付としても、挟持の緩みを完全に防止することは難しい。
【0010】
本発明は、着座時での隙間の発生を確実に防止できるとともに異物感を感じさせない小物入れを持つ車両用シートの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る本発明によれば、
凹所がシートクッションのシートパッド上面に
形成され、
シートパッドを被覆するトリムカバーと縫合可能なエラストマー、軟質樹脂、成形不織布のいずれかから、上端が開口され、その上端開口の周縁にフランジを有してシートパッド上面の凹所に対応した形状に成形された小物入れを凹所に埋設してシートクッションの座面に小物入れを設け、小物入れのフランジがシートパッドを被覆するトリムカバーの端末にシートパッド上面で縫合された構成となっている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明では、軟質素材から成形されているため、小物入れはそのフランジをトリムカバーの端末に縫合させることができ、縫合されてトリムカバーと一体化されているため、着座によってシートクッションの座面が撓んでもトリムカバーの端末との間に隙間の生じる余地はなく、隙間の発生が確実に防止される。
小物入れは縫合の可能な軟質素材から成形され、シートパッドとの硬度の差が小さいため、着座時においても小物入れの存在に異物感を感じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例に係る小物入れ付の車両用シートの概略斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
凹所がシートクッションのシートパッド上面に形成される。そして、上端が開口され、その上端開口の周縁にフランジを有して凹所に対応した形状に、小物入れがエラストマー、軟質樹脂、成形不織布などの軟質素材から成形される。小物入れはシートパッドの凹所に埋設され、小物入れのフランジがシートパッドを被覆するトリムカバーの端末に縫合されることによって、トリムカバーと一体化された小物入れがシートクッションの座面に設けられる。
【実施例】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る小物入れ付の車両用シートの概略斜視図を示し、
図2は
図1の線A−Aの部分断面図を示す。
【0016】
図1に示すように、車両用シート10は、シートクッション12と、シートクッションの後端に設けられたシートバック14とを有して構成され、アームレスト14aがシートバック側面にピン14a1の回りで揺動可能に、ヘッドレスト14hがシートバック上面に昇降可能にそれぞれ設けられている。シートクッション12、シートバック14の基本的な構造は周知であり、骨格となるシートフレームにウレタンフォームなどの発泡成形材からなるシートパッドを載せ、通気性のあるトリムカバーでシートパッド覆ってシートクッション、シートバックが形成されている。
【0017】
図1の線A−Aに沿った断面を示す
図2からわかるように、シートクッションのシートパッド12Pのたとえば前端に凹所12P1が形成され、この凹所を利用して、シートクッションの座面(上面)12Uにカップホルダなどの小物入れ(小物ケース、カップホルダ)16が設けられている。
【0018】
凹所12P1は、ドリンク、ガム、ペン、ティッシュなどの小物を収納可能なケース形状、たとえば、横断面が矩形、円形、非円形(たとえば、楕円形)に、縦断面が矩形にそれぞれ成形される。そして、小物入れ16は、上端が開口され、その上端開口の周縁にフランジ(外フランジ)16aを有して凹所12P1に対応した形状に軟質素材から成形され、軟質素材として、たとえば、エラストマー、軟質樹脂、成形不織布などの縫合可能な素材が例示できる。
【0019】
図2に示すように、小物入れのフランジ16aは、その末端で下方に(小物入れの底部方向に)折曲され、この折曲端16a’に対応して、つまり、折曲端に沿ってトリムカバー12cの端末が下方に折り返されている。そして、フランジの折曲端16a’とトリムカバー端末の折り返し12c’とが縫合されている。なお、参照符号18は縫合部を示す。
【0020】
フランジの折曲端16a’がトリムカバー端末の折り返し12c’に縫合されて、小物入れ16がトリムカバー12cと一体化されるため、着座によってシートクッションの座面が撓んでもトリムカバーの端末との間に隙間の生じる余地はなく、隙間の発生が確実に防止される。
【0021】
2種類の発泡成形材を成形金型に送り込んで硬度の異なる部分を成形する従来の構成とは異なり、フランジの折曲端16a’とトリムカバー端末の折り返し12c’とを縫合して一体化するだけで足り、構成が簡単で低コスト化できる。
【0022】
小物入れのフランジ16aの先端を下方に折曲し、この折曲端16a’に対応してトリムカバーの端末を折り返して、折曲端をトリムカバー端末の折り返し12c’に縫合している。そのため、トリムカバー12の端末に引張力が生じても折曲端を変形させる余地があり、これが遊びとなって縫合部18の破断を防止できる。つまり、折曲端16a’のないフランジ16aにトリムカバー12cの端末を直接重ねて縫合した場合に比較して、引張力に対応できる耐久性のある構成が得られる。
【0023】
小物入れ16は縫合の可能な軟質素材から成形されて、ウレタンフォームなどの発泡成形材からなるシートパッド12Pとの硬度の差が小さいため、着座時においても小物入れの存在に異物感を感じることがない。
【0024】
また、小物入れ16が軟質素材から成形されてシートパッドの凹所12P1に埋設され、上端開口部のフランジ16aがトリムカバー12cの端末に縫合されているため、小物入れの底部をシートフレームなどにピン止めしなくても、その外形形状が崩れることなく維持され、ドリンク、ガム、ペン、ティッシュなどの小物を安定して収納できる。
【0025】
小物入れ16をシートパッドの凹所に埋設して、そのフランジ16aをトリムカバー12cの端末に縫合するだけで、シートクッション座面に小物入れが設けられ、シートフレームなどへの小物入れのピン止めが不要であるため、作業性が改善され、この点からも低コスト化が可能となる。
【0026】
上記のように、本発明によれば、縫合によって小物入れがトリムカバーと一体化されているため、トリムカバーの端末との間での隙間の発生が防止される。また、軟質素材からなるため、小物入れがシートクッション座面12Uに存在しても異物感を感じない。
【0027】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【0028】
小物入れ16のための軟質素材として、エラストマー、軟質樹脂、成形不織布を例示したが、これに限定されず、トリムカバーに縫合可能で、異物感がなく、小物を安定して収納できるものであればよい。
【0029】
実施例では、小物入れ16はシートクッションの座面12Uの前端に設けられているが、小物入れを設ける位置はこれに限定されず、シートクッションの座面の左右の端に設けてもよい。
【0030】
さらに、実施例では、小物入れ16をシートクッションの座面12Uに設けた場合について述べたが、小物入れを設ける位置はシートクッションの座面に限定されず、他の位置、たとえば、アームレスト14aの上面に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、ドライバーシート、アシスタントシートなどのフロントシートに適するとはいえ、セカンドシート、サードシートなどのシートにも応用できる。
さらに、通常、自動車のシートに応用されるが、自動車以外の車両用シート、たとえば、電車、飛行機等のシートにも本発明を応用できる。
【符号の説明】
【0032】
10 車両用シート
12 シートクッション
12U シートクッションの座面(上面)
12c トリムカバー
12c’ トリムカバー端末の折り返し
12P シートパッド
12P1 凹所
14 シートバック
16 小物入れ(小物ケース、カップホルダ)
16a フランジ
16a’ 折曲端
18 縫合部