特許第5683265号(P5683265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5683265補体が関係している障害の予防および処置のためのC3B抗体ならびに方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5683265
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】補体が関係している障害の予防および処置のためのC3B抗体ならびに方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20150219BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20150219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150219BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20150219BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150219BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20150219BHJP
【FI】
   A61K39/395 DZNA
   A61K39/395 N
   A61P29/00 101
   A61P11/00
   A61P9/10
   A61P13/12
   A61P27/02
   A61P9/00
   A61P37/06
   A61P11/06
   A61P43/00 111
   C07K16/18
   !C12N15/00 A
   !C12P21/08
【請求項の数】22
【全頁数】67
(21)【出願番号】特願2010-511295(P2010-511295)
(86)(22)【出願日】2008年6月4日
(65)【公表番号】特表2011-504872(P2011-504872A)
(43)【公表日】2011年2月17日
(86)【国際出願番号】US2008065771
(87)【国際公開番号】WO2008154251
(87)【国際公開日】20081218
【審査請求日】2011年4月13日
(31)【優先権主張番号】60/933,721
(32)【優先日】2007年6月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】60/055,068
(32)【優先日】2008年5月21日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン ルッカーレン カンパーニュ, メノ
【審査官】 北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】 Molecular Immunology,2006年,Vol.43,p.1010-1019
【文献】 Biochemistry,1992年,Vol.31,p.1787-1794
【文献】 Molecular Immunology,2004年,Vol.40,p.1213-1221
【文献】 The Journal of Immunology,2006年,Vol.176,p.1305-1310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00−16/46
C12N 15/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における補体が関係している障害の予防または処置における使用のための組成物であって、該組成物は、C3b抗体またはその抗原結合断片を含み、該C3b抗体またはその抗原結合断片は、第二補体経路の選択的阻害剤であり、かつC5のC3bへの結合を阻害し、該抗体または抗原結合断片は、重鎖可変領域のN末端からC末端へと順に、配列番号2に見られるCDRH1、配列番号3に見られるCDRH2、および、配列番号4に見られるCDRH3、軽鎖可変領域のN末端からC末端へと順に、配列番号6に見られるCDRL1、配列番号7に見られるCDRL2、および、配列番号8に見られるCDRL3を含む、組成物。
【請求項2】
前記被験体が哺乳動物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記被験体がヒトである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体が、C3の活性な分解産物上のエピトープを認識するが、C3上のエピトープは認識しない抗体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記C3b抗体が、C3bに選択的に結合する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗体が、重鎖内の配列番号2に示すアミノ酸配列のN末端側に配列番号1の配列を、そして軽鎖内の配列番号6に示すアミノ酸配列のN末端側に配列番号5の配列をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗体が、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、および抗原結合断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、または(scFv)断片である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記補体が関係している障害が、炎症性疾患または自己免疫疾患である、請求項3に記載の組成物。
【請求項11】
前記補体が関係している障害が、関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷、心肺バイパス手術の際の補体活性化、皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに、同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎からなる群より選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項12】
前記補体が関係している障害が補体が関係している眼の症状である、請求項3に記載の組成物。
【請求項13】
前記補体が関係している眼の症状が、加齢性黄斑変性症(AMD)または脈絡膜新生血管(CNV)である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
C3ではなくC3bに選択的に結合して、C5のC3bへの結合を阻害する、抗C3b抗体またはその抗原結合断片であって、該抗体または抗原結合断片は、重鎖可変領域のN末端からC末端へと順に、配列番号2に見られるCDRH1、配列番号3に見られるCDRH2、および、配列番号4に見られるCDRH3、軽鎖可変領域のN末端からC末端へと順に、配列番号6に見られるCDRL1、配列番号7に見られるCDRL2、および、配列番号8に見られるCDRL3を含む、抗体またはその抗原結合断片
【請求項15】
前記抗体が、重鎖内の配列番号2に示すアミノ酸配列のN末端側に配列番号1の配列を、そして軽鎖内の配列番号6に示すアミノ酸配列のN末端側に配列番号5の配列をさらに含む、請求項14に記載の抗体。
【請求項16】
ト化抗体、またはキメラ抗体である、請求項14に記載の抗体。
【請求項17】
前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、および抗原結合断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択される、請求項14に記載の抗体。
【請求項18】
前記抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、または(scFv)断片である、請求項17に記載の抗体。
【請求項19】
薬学的に許容される担体と組み合わせて請求項14〜18に記載の抗体または抗原結合断片を含む、薬学的組成物。
【請求項20】
補体が関係している障害の処置に使用するための、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記補体が関係している障害が、関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷、心肺バイパス手術の際の補体活性化、皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに、同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎からなる群より選択される、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
請求項14に記載の抗体もしくはその抗原結合断片または請求項20に記載の薬学的組成物を含む容器と、補体が関係している障害の処置のための前記抗体または薬学的組成物の投与についての説明書を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、C3bに対する抗体、ならびにそのような抗体を使用する補体が関係している疾患の予防と処置に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
補体系は、通常は不活性なプロ酵素の形態で存在する、一連の血清糖タンパク質からなる複雑な酵素のカスケードである。2つの主要な経路(古典経路と第2経路)は補体を活性化させることができ、これらはC3のレベルで統合され、ここでは、2つの類似しているC3転換酵素が、C3をC3aとC3bに切断する。
【0003】
マクロファージは、細胞表面で発現される識別タグの構造(いわゆる、分子パターン)の微妙な差異を認識する生まれながらの能力を示す特殊な細胞である(非特許文献1;非特許文献2)。これらの表面構造の直接の認識が先天性免疫の基本的な特徴であるが、オプソニン作用によっても、一般的なマクロファージ受容体が飲み込みを媒介することが可能になり、それにより、食細胞の効率が上がり、認識レパートリーが多様化する(非特許文献3)。食作用のプロセスには、多数のリガンド−受容体相互作用が関与しており、現在、様々なオプソニン(免疫グロブリン、コレクチン、および補体成分を含む)が、マクロファージの細胞表面受容体との相互作用による病原体のインターナリゼーションに必要な細胞活動を導くことが明らかになっている(非特許文献4;非特許文献5に概説されている)。生殖細胞系列の遺伝子によってコードされる天然の免疫グロブリンは多種多様な病原体を認識できるが、オプソニン作用のあるIgG(opsonizing IgG)の大部分は適応免疫によって生じ、したがって、Fc受容体による効率的なクリアランスは迅速ではない(非特許文献6)。一方、補体は病原体表面の分子を迅速に認識し、補体受容体による粒子の取り込みのきっかけをつくる(非特許文献7)。
【0004】
補体は、補体受容体によって認識される多種多様な病原体をオプソニン化する30種類を超える血清タンパク質からなる。カスケードの最初の誘因に応じて、3種類の経路に区別することができる(非特許文献8に概説されている)。3種類全てが中心的構成成分C3を活性化させる共通の工程を共有しているが、これらは認識の性質と、C3活性化を導く最初の生化学的工程により異なる。古典経路は病原体表面に結合した抗体によって活性化され、これは次いでC1q補体成分に結合し、C3をその活性化形態であるC3bへと最終的に切断するセリン・プロテアーゼ・カスケードを開始させる。レクチン経路は、レクチンタンパク質による炭水化物モチーフの認識後に活性化される。今日までに、この経路の3つのメンバーが同定されている:マンノース結合レクチン(MBL)、レクチンのSIGN−R1ファミリー、およびフィコリン(非特許文献9)。MBLとフィコリンはいずれもセリンプロテアーゼと関係があり、これは古典経路においてC1と同様に作用して、成分C2およびC4を活性化させて、中心的なC3工程を導く。第2経路は、これが、内部C3エステルの病原体表面上の認識モチーフとの直接の反応が原因で活性化される点で、古典経路およびレクチン経路のいずれとも対照的である。活性化表面への内部C3の結合によっては、第2経路のプロテアーゼであるB因子およびD因子の作用によりC3bの蓄積の迅速な増幅が導かれる。重要なことは、古典経路またはレクチン経路のいずれかにより蓄積したC3bもまた、B因子およびD因子の作用によりC3bの蓄積の増幅を導き得ることである。補体活性化の3つの経路の全てにおいて、オプソニン化の中枢的工程は成分C3のC3bへの変換である。補体カスケードの酵素によるC3の切断は、チオエステルを求核攻撃に曝し、それによりチオエステルドメインを介する抗原表面上へのC3bの共有結合を可能にする。これは、補体オプソニン作用の最初の工程である。続いて起こる結合したC3bのタンパク質分解によって、異なる受容体によって認識される断片であるiC3b、C3c、およびC3dgが生じる(非特許文献10)。この切断によりC3bの蓄積をさらに増幅させるC3bの能力が消失し、直接膜を損傷させることができる補体カスケードの後期成分(膜攻撃複合体を含む)が活性化される。しかし、マクロファージの食細胞受容体はC3bとその断片を優先的に認識する。エステル結合の形成の多様性の理由から、C3に媒介されるオプソニン作用は病原体認識の中核をなし(非特許文献11)、したがって、様々なC3分解産物の受容体は宿主免疫応答において重要な役割を果たす。
【0005】
C3自体が、13個の異なるドメインからなる複雑な、可撓性タンパク質である。分子のコアは8個のいわゆるマクログロブリン(MG)ドメインからなり、これらはC3の密集した状態のα鎖およびβ鎖を構成する。この構造にはCUB(1r/C1s,egf and one mophogenetic protein−1)とTEDドメインが挿入されており、後者には、病原体表面とのC3bの共有結合を可能にするチオエステル結合が含まれている。残りのドメインにはC3aが含まれるか、または残りのドメインはコアドメインのリンカーおよびスペーサーとして作用する。C3に対するC3bとC3cの構造の比較により、この分子が、TEDだけではなく、細胞性受容体と相互作用できる分子のさらに新しい表面をも露出させる、主要な立体構造の再配置をそれぞれのタンパク質分解によって受けることが明らかである(非特許文献12)。
【0006】
望ましくない補体活性化を防ぐために、ほとんどの哺乳動物細胞には、宿主自体の細胞上での補体の増幅をブロックする調節因子が備わっている(非特許文献13)。この内因性の調節因子が存在しない場合には、血清暴露により補体の分解産物が生じ、これは順に、炎症と組織損傷を促進する(非特許文献14および非特許文献15)。したがって、内因性の補体調節因子を欠いている非細胞表面は、特に補体攻撃の傾向があり、血清中の可溶性の補体調節因子による防御に完全に依存する。適切な補体調節を欠いていることが原因である制御されていない補体活性化は、様々な慢性の炎症疾患および変性疾患と関係している。この炎症カスケードにおける優先種(dominant)は、補体分解産物C3aおよびC5aであり、これらは、化学誘引物質として、ならびに、C3a受容体およびC5a受容体を介して好中球と炎症性マクロファージの活性化因子として機能する(非特許文献16)。抗中球から放出されるプロペルジンは、AP転換酵素の安定化を通じて炎症カスケードをさらに増幅させる(非特許文献17)。補体活性化は、以下のような免疫複合体に媒介される疾患において炎症を駆動する重要な成分であることが示されている:膜増殖性糸球体腎炎、腎毒性腎炎、および関節炎(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22)、ならびに、加齢性黄斑変性症(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26;非特許文献27)。
【0007】
補体活性化のほとんどの調節因子は、補体転換酵素の中心的成分であるC3bのレベルで作用する。補体活性化のこれらの天然の調節因子は、通常は大きく(>100kDa)、治療薬として開発することは難しい。したがって、C3bをブロックすることによって補体が関係している障害を予防し、処置するための治療薬が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Taylorら、Eur J Immunol 33,2090−2097(2003)
【非特許文献2】Taylorら、Annu Rev Immunol 23,901−944(2005)
【非特許文献3】Stuart and Ezekowitz,Immunity 22,539−550(2005)
【非特許文献4】Aderem and Underhill,Annu Rev Immunol 17,593−623(1999)
【非特許文献5】Underhill and Ozinsky,Annu Rev Immunol 20,825−852(2002)
【非特許文献6】Carroll,Nat Immunol 5,981−986(2004)
【非特許文献7】Brown,Infect Agents Dis 1,63−70(1991)
【非特許文献8】Walport,N Engl J Med 344,1058−1066(2001)
【非特許文献9】Pyzら、Ann Med 38,242−251(2006)
【非特許文献10】Ross and Medof,Adv Immunol 37,217−267(1985)
【非特許文献11】Holersら、Immunol Today 13,231−236(1992)
【非特許文献12】Janssen and Gros,Mol Immunol 44,3−10(2007)
【非特許文献13】Hourcadeら、Adv Immunol 45:381(1989)
【非特許文献14】Oglesbyら、J Exp Med 175:1547(1992)
【非特許文献15】Oglesbyら、Trans Assoc.Am.Physicians 104:164(1991)
【非特許文献16】Mollnesら、Trends Immunol.23:61(2002)
【非特許文献17】Lutz and Jelezarova,Mol.Immunol.43:2(2006)
【非特許文献18】Walport,N.Engl.J.Med.344:1058(2001)
【非特許文献19】Thurman and Holers,J.Immunol.176:1305(2006)
【非特許文献20】Bandaら、J.Immunol.171:2109(2003)
【非特許文献21】Weismanら、Science 249:146(1990)
【非特許文献22】Morgan and Harris,Mol.Immunol.40:159(2003)
【非特許文献23】Andersonら、Am.J.Ophthalmol.134:411(2002)
【非特許文献24】Donosoら、Surv.Ophthalmol.51:137(2006);Goldら、Natl.Genet.38:458(2006)
【非特許文献25】Hagemanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:7227(2005)
【非特許文献26】Hagemanら、Ann.Med.38:592(2006)
【非特許文献27】Hagemanら、Prog.Retin.Eye Res.20:705(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、天然のC3ではなくC3の崩壊断片を特異的に認識し、それにより、天然のC3が抗体の「シンク(sink)」として作用することを回避する抗体の開発に関する。さらに具体的には、本発明はC3b特異的抗体および抗体断片、ならびに、補体が関係している疾患の処置におけるそれらの使用に関する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
補体が関係している障害の予防または処置のための方法であって、第二補体経路の選択的阻害剤である有効量のC3bアンタゴニストを、必要な被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目2)
前記被験体が哺乳動物である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記被験体がヒトである、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記C3bアンタゴニストが、C3の活性な分解産物上のエピトープを認識するが、C3上のエピトープは認識しない抗体である、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記C3bアンタゴニストが、C3bに選択的に結合する抗体または抗体断片である、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記抗体がC5のC3bへの結合を阻害する、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記抗体が、抗体S77によって認識されるC3bエピトープの残基を含むエピトープに結合する、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記抗体が、原則として抗体S77と同じエピトープに結合する、項目5に記載の方法。
(項目9)
前記抗体が、抗体S77の結合を競合的に阻害する、項目5に記載の方法。
(項目10)
前記抗体が、抗体S77と接触している残基を含むC3bエピトープに結合する、項目5に記載の方法。
(項目11)
前記抗体が、C3bと接触している抗体S77残基を含む抗原結合部位を含む、項目5に記載の方法。
(項目12)
前記抗体が、抗体S77の重鎖CDR配列(配列番号1〜4)および/または軽鎖CDR配列(配列番号5〜8)を含む、項目5に記載の方法。
(項目13)
ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、項目5に記載の方法。
(項目14)
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、および抗体断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択される、項目5に記載の方法。
(項目15)
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、または(scFv)断片である、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記補体が関係している障害が、炎症性疾患または自己免疫疾患である、項目3に記載の方法。
(項目17)
前記補体が関係している障害が、関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷、心肺バイパス手術の際の補体活性化、皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに、同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎からなる群より選択される、項目3に記載の方法。
(項目18)
前記補体が関係している障害が補体が関係している眼の症状である、項目3に記載の方法。
(項目19)
前記補体が関係している眼の症状が、加齢性黄斑変性症(AMD)または脈絡膜新生血管(CNV)である、項目18に記載の方法。
(項目20)
C3ではなくC3bに選択的に結合して、C5のC3bへの結合を阻害する、抗C3b抗体。
(項目21)
前記抗体が、抗体S77によって認識されるC3bエピトープの残基を含むエピトープに結合する、項目20に記載の抗体。
(項目22)
前記抗体が、原則として抗体S77と同じエピトープに結合する、項目20に記載の抗体。
(項目23)
前記抗体が、抗体S77の結合を競合的に阻害する、項目20に記載の抗体。
(項目24)
前記抗体が、抗体S77と接触している残基を含むC3bエピトープに結合する、項目20に記載の抗体。
(項目25)
前記抗体が、C3bと接触している抗体S77の残基を含む抗原結合部位を含む、項目20に記載の抗体。
(項目26)
前記抗体が、抗体S77の重鎖CDR配列(配列番号1〜4)および/または軽鎖CDR配列(配列番号5〜8)を含む、項目20に記載の抗体。
(項目27)
ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、項目20に記載の抗体。
(項目28)
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、および抗体断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択される、項目20に記載の抗体。
(項目29)
前記抗体断片が、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、または(scFv)断片である、項目28に記載の抗体。
(項目30)
薬学的に許容される担体との混合物中に項目20に記載の抗体を含む、薬学的組成物。
(項目31)
補体が関係している障害の処置に使用するための、項目30に記載の薬学的組成物。
(項目32)
前記補体が関係している障害が、関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷、心肺バイパス手術の際の補体活性化、皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに、同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎からなる群より選択される、項目31に記載の薬学的組成物。
(項目33)
項目20に記載の抗体または項目31に記載の薬学的組成物を含む容器と、補体が関係している障害の処置のための前記抗体または薬学的組成物の投与についての説明書を含む、キット。

【0010】
1つの態様においては、本発明は、第二補体経路の選択的阻害剤であるC3bアンタゴニストの有効量を必要な被験体に投与する工程を含む、補体が関係している障害の予防または処置のための方法に関する。
【0011】
1つの態様においては、被験体は哺乳動物である。別の実施形態においては、被験体はヒトである。
【0012】
さらなる実施形態においては、C3bアンタゴニストは、C3の活性な分解産物上のエピトープを認識し、C3上のエピトープは認識しない抗体である。
【0013】
なおさらなる実施形態においては、C3bアンタゴニストは、C3bに選択的に結合する抗体または抗体断片である。
【0014】
異なる実施形態においては、抗体はC5のC3bへの結合を阻害する。
【0015】
別の実施形態においては、抗体は、抗体S77によって認識されるC3bエピトープの残基を含むエピトープに結合する。
【0016】
なお別の実施形態においては、抗体は、原則として抗体S77と同じエピトープに結合する。
【0017】
さらなる実施形態においては、抗体は、抗体S77の結合を競合的に阻害する。
【0018】
なおさらなる実施形態においては、抗体は、抗体S77と接触している残基を含むC3bエピトープに結合する。
【0019】
さらなる実施形態においては、抗体には、C3bと接触している抗体S77の残基を含む抗原結合部位が含まれる。
【0020】
好ましい実施形態においては、抗体には、抗体S77の重鎖CDR配列(配列番号1〜4)および/または軽鎖CDR配列(配列番号5〜8)が含まれ、そして/あるいは、これは抗体S77またはその断片である。
【0021】
様々な実施形態においては、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であり得る。
【0022】
他の実施形態においては、抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、または抗体断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択される。
【0023】
本発明の方法には、以下のような炎症性疾患および自己免疫疾患を含む、任意の補体が関係している障害の予防または処置が含まれる:例えば、関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷、心肺バイパス手術の際の補体活性化、皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血に関係する網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに、同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎。
【0024】
特定の実施形態においては、補体が関係している障害は、補体が関係している眼の症状(例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)または脈絡膜新生血管(CNV))である。
【0025】
別の態様においては、本発明は、C3ではなくC3bに選択的に結合し、C5のC3bへの結合を阻害する、抗C3b抗体に関する。
【0026】
1つの実施形態においては、抗体は、抗体S77によって認識されるC3bエピトープの残基を含むエピトープに結合する。
【0027】
別の実施形態においては、抗体は、原則として抗体S77と同じエピトープに結合する。
【0028】
なお別の実施形態においては、抗体は、抗体S77の結合を競合的に阻害する。
【0029】
異なる実施形態においては、抗体は、抗体S77と接触している残基を含むC3bエピトープに結合する。
【0030】
さらなる実施形態においては、抗体には、C3bと接触している抗体S77の残基を含む抗原結合部位が含まれる。
【0031】
なおさらなる実施形態においては、抗体には、抗体S77の重鎖CDR配列(配列番号1〜4)および/または軽鎖CDR配列(配列番号5〜8)が含まれ、これは抗体S77またはその断片である。
【0032】
様々な実施形態においては、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であり得る。
【0033】
抗体断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、または抗体断片から形成された多特異的抗体からなる群より選択され得る。
【0034】
別の態様においては、本発明は、薬学的に許容される担体との混合物の中にC3bアンタゴニスト(例えば、C3b抗体)を含む薬学的組成物に関する。
【0035】
特定の実施形態においては、薬学的組成物は、補体が関係している障害の処置に使用される。
【0036】
さらなる態様においては、本発明は、本発明のC3bアンタゴニストもしくはC3b抗体、またはそのようなアンタゴニストもしくは抗体が含まれている薬学的組成物を含む容器と、補体が関係している障害の処置のための抗体もしくは薬学的組成物の投与のための説明書を含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1。C3bパンニングによって抗体ファージライブラリーが生じた。
図2図2。様々なC3b抗体クローンを用いたファージの競合結果
図3図3。抗体YW144.2.43.S77(本明細書中以後、S77と簡単に呼ぶ)Fabとの複合体におけるC3bの結晶構造。C3bのβ鎖を緑色で示し、α鎖をオレンジ色で示す。S77の重鎖(HC)と軽鎖(LC)はそれぞれ、濃い緑色と黄色で示す。CRIgは、C3b:CRIg共晶構造をベースとするC3b:Fab複合体上にドッキングさせられており(docked)、赤紫色で示す。
図4図4。抗体S77のC3bとの結合相互作用の接近図(close up)。C3bは表面表現で示し、青緑色のリボン図はC3b構造上に重ね合わせたC3を示す。S77のHCとLCは、濃い緑色と黄色でリボン図として示す。C3bの表面はS77に対する距離にしたがって着色した。4.7Å、4.0Å、および3.5Åよりも近い全ての原子をそれぞれ、黄色、オレンジ色、および赤色に着色した。S77のLCがC3と衝突していることに留意されたい。しかし、C3のループは動かすことができる。
図5図5。抗体S77 Fab断片の重鎖(配列番号1〜4)と軽鎖(配列番号5〜8)のアミノ酸配列。C3bと密接に接している残基を赤で示す。
図6図6Aおよび図6Bは、もとの抗体YW144.2.43 Fabとその親和性成熟バージョン:144.2.43.S77 Fab(S77 Fab)の結合親和性を表す。
図7図7A図7Bおよび図7Cは、SPRセンソグラム(sensogram)と、C3およびC3bに対するS77の結合親和性を表す。
図8図8Aおよび図8Bは、S77はC3bを認識するが、プロ分子C3は認識しないことを示す。精製されたC3bまたはC3を、ポリクローナルC3抗体を使用してマイクロタイタープレートの中に捕捉した。S77(A)またはポリクローナル抗C3抗体(B)の補足されたC3bまたはC3に対する結合を、二次HRPO結合抗体を使用して決定した。色はTMB(KPL)を用いて発色させ、2NのHSO中で停止させ、吸光度を450nmで読み取った。
図9図9A図9Bおよび図9Cは、IgG抗体S77は、補体の第2経路を選択的に阻害するが、古典経路は阻害しないことを示す。ウサギの成熟赤血球とヒツジの成熟赤血球を、C1q−およびB因子−枯渇血清中でインキュベートし、溶血を漸増濃度の阻害剤または対照タンパク質の存在下でモニターした。溶血は、阻害剤が存在しない条件下での最大溶血に対する割合(%)として表した。
図10図10。親和性成熟させられたS77 Fabは、補体の第2位経路を阻害する。
図11図11。C3b Fab(S77)はC5転換酵素を阻害する。C5転換酵素は、記載されているように行った(Rawal,N and Pangburn,M.J Immunol.2001年2月15日;166(4):2635−42)。
図12図12。IgG抗体S77とそのFab断片は、C5転換酵素を、この転換酵素の非触媒サブユニットであるC3bに対するC5の結合をブロックすることによって阻害する。漸増濃度の阻害剤の存在下にあるC5を、C3bでコーティングしたプレートに添加した。C5はC3b多量体に結合する。
図13図13。S77は、H因子とは対照的に、この転換酵素を崩壊させることはない。崩壊アッセイは、漸増濃度のS77またはH因子(ポジティブ対照)の存在下でのプレートにコーティングしたC3転換酵素の作製によって行った。
図14図14Aおよび図14Bは、S77は、C3bに対するプロB因子の結合を阻害し、C3bBb転換酵素の形成を阻害することを示す。
図15図15Aおよび図15Bは、S77は結合したfBbの存在下でC3bに結合することができ、C3転換酵素を崩壊させることはないことを示す。
図16図16Aおよび図16Bは、S77はC3bに対するH因子の結合を阻害し、H因子の補因子活性を阻害することを示す。
図17図17。S77はC3bに対するCR1の結合を阻害する。
図18A図18A。抗HER2抗体rhuMAB 4D5−8の軽鎖可変領域(配列番号13)および重鎖可変領域(配列番号14)のアミノ酸配列。
図18B図18B。抗HER2抗体rhuMAB 4D5−8の軽鎖可変領域(配列番号13)および重鎖可変領域(配列番号14)のアミノ酸配列。
図19】補足図1。S77 FabのHCおよびLCと接触しているC3b上の残基(残基833〜839には配列番号15が含まれる;残基895〜899には配列番号16が含まれる)。
図20】補足図2。C3bと接触しているS77 Fab上の残基(残基1030〜1033には配列番号17が含まれる;残基1098〜1107には配列番号18が含まれる)。
図21-1】補足図3。ヒトの補体因子C3(配列番号9)とマウスの補体因子C3(配列番号10)のアミノ酸配列。
図21-2】補足図3。ヒトの補体因子C3(配列番号9)とマウスの補体因子C3(配列番号10)のアミノ酸配列。
図21-3】補足図3。ヒトの補体因子C3(配列番号9)とマウスの補体因子C3(配列番号10)のアミノ酸配列。
図21-4】補足図3。ヒトの補体因子C3(配列番号9)とマウスの補体因子C3(配列番号10)のアミノ酸配列。
図21-5】補足図3。ヒトの補体因子C3(配列番号9)とマウスの補体因子C3(配列番号10)のアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
1.定義
用語「C3」および「補体C3」は互換的に使用され、天然の配列のC3ポリペプチドをいう。
【0039】
「天然の配列のC3」は、その調製様式にはかかわらず、自然界に由来するC3ポリペプチドと同じアミノ酸配列を有しているポリペプチドである。したがって、天然の配列のC3は自然界から単離することができ、また、組み換えおよび/もしくは合成手段によって生産することもできる。用語「天然の配列のC3」には、具体的に、C3の自然界に存在する変異体形態(例えば、オルタナティブスプライシングされた形態)、およびC3の自然界に存在する対立遺伝子変異体、ならびに自然界から導かれたC3ポリペプチドと同じアミノ酸配列を有している立体構造変異体が含まれる。天然の配列のC3ポリペプチドには、具体的に、天然の配列のヒトC3(補足図3、配列番号9;De Bruijn and Fey,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:708−712もまた参照のこと)と、ヒト以外の動物(高等霊長類およびヒト以外の哺乳動物を含む)のポリペプチド(例えば、補足図3、配列番号10に示されるマウスのC3配列)が含まれる。
【0040】
用語「C3b」は、C3のα鎖のアミノ末端からアナフィラトキシンC3a断片を遊離させ、C3bを後ろに残すC3転換酵素による切断の後にC3bから生じる天然の配列のC3bポリペプチドをいうように本明細書中で使用される。用語「天然の配列」は、C3に関連して定義された意味と同じ意味を有しており、これには具体的に、配列番号9の天然の配列のヒトC3bが含まれる。
【0041】
用語「C3bアンタゴニスト」は最も広い意味で使用され、これには、C3の生物学的活性を中和する、ブロックする、部分的もしくは完全に阻害する、無効にする、低下させる、または妨害することができる任意の分子が含まれる。C3bアンタゴニストとしては、抗C3b抗体およびその抗原結合断片、C3bに結合してC3bの活性(例えば、補体が関係している障害の病状に関与するC3bの能力)を中和する、ブロックする、部分的もしくは完全に阻害する、無効にする、低下させる、または妨害することができる他の結合ポリペプチド、ペプチド、および、非ペプチド低分子が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中のC3bアンタゴニスト(例えば、C3b抗体)は、C3bを特異的に認識するがその前駆体であるC3を特異的に認識しない。
【0042】
「低分子」は、本明細書中では、約600ダルトンを下回る、好ましくは、約1000ダルトンを下回る分子量を有すると定義される。
【0043】
「活性である」または「活性」または「生物学的活性」は本発明のC3bアンタゴニスト(例えば、C3b抗体)の状況では、C3bの生物学的活性をアンタゴナイズする(部分的または完全に阻害する)能力である。C3bアンタゴニストの好ましい生物学的活性は、例えば、補体が関係している障害のようなC3bが関係している疾患または症状の状態(例えば、病状)の測定可能な改善を達成する能力である。活性は、インビトロまたはインビボ試験(結合アッセイを含む)において、関連する動物モデルまたはヒトの臨床試験を使用して決定することができる。
【0044】
用語「補体が関係している障害」は最も広い意味で使用され、これには、その病状に補体系の活性化の異常が関係している全て疾患及び病状(例えば、補体欠損症)が含まれる。この用語には、具体的に、C3転換酵素の阻害により効果がある疾患および病状が含まれる。この用語にはさらに、第二補体経路の阻害(選択的阻害を含む)により効果がある疾患および病状が含まれる。補体が関係している障害としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:炎症性疾患および自己免疫疾患、例えば、関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷,心肺バイパス手術の際の補体活性化,皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患、ならびに他の補体が関係している眼の症状、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎。
【0045】
用語「補体が関係している眼の症状」は本明細書中では最も広い意味で使用され、これには、その病状に補体(補体の古典経路と第2経路、および特に第2経路を含む)が関係している全ての眼の症状および疾患が含まれる。この、グループには具体的に、その発現、発症、または進行を第2経路の阻害によって制御することができる、第2経路が関係している全ての眼の症状および疾患が含まれる。補体が関係している眼の症状としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:黄斑変性疾患(例えば、加齢黄斑変性(AMD)の全ての段階、乾性形態と湿性形態(非滲出型と滲出型)を含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、および網膜血管新生。補体が関係している眼の症状の好ましいグループには、加齢黄斑変性(AMD)(非滲出型(湿性)AMDおよび滲出型(乾性または萎縮型)AMDを含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、糖尿病性網膜症(DR)、ならびに眼内炎が含まれる。
【0046】
用語「炎症性疾患」および「炎症性障害」は互換的に使用され、これらは、哺乳動物の免疫系の成分が、哺乳動物の病的状態に寄与している炎症性応答を引き起こす、媒介する、または別の方法で寄与する疾患あるいは障害を意味する。炎症性応答の軽減が疾患の進行に対して緩和作用を有する疾患もまた含まれる。この用語には、免疫媒介性の炎症性疾患(自己免疫疾患を含む)が含まれる。
【0047】
用語「T細胞媒介性」疾患は、T細胞が哺乳動物の病的状態を直接または間接的に媒介するか、あるいは別の方法で寄与する疾患を意味する。T細胞媒介性疾患は、細胞媒介性の作用、リンホカイン媒介性の作用などと関係し得、さらには、B細胞が(例えば、T細胞によって分泌されたリンホカインによって)刺激される場合には、B細胞が関係している作用と関係し得る。
【0048】
その一部がT細胞媒介性である免疫関連疾患および炎症性疾患の例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、若年性慢性関節炎、脊椎関節症、全身性硬化症(強皮症)、特発性炎症性筋疾患(皮膚筋炎、多発筋炎)、シェーグレン症候群、全身性血管炎、サルコイドーシス、自己免疫性溶血性貧血(自己免疫性汎血球減少症、発作性夜間血色素尿症)、自己免疫性血小板減少(特発性血小板減少性紫斑病、免疫媒介性血小板減少症)、甲状腺炎(グレーブス病、橋本甲状腺炎、若年性リンパ球性甲状腺炎、萎縮性甲状腺炎)、真性糖尿病、免疫媒介性腎疾患(糸球体腎炎、尿細管間質性腎炎)、中枢神経系および末梢神経系の脱髄疾患、例えば多発性硬化症、特発性脱髄性多発神経障害、肝胆道疾患、例えば感染性肝炎(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、および他の非肝炎ウイルス)、自己免疫性慢性活動性肝炎、原発性胆汁性肝硬変症、肉芽腫性肝炎、および硬化性胆管炎、炎症性肺疾患および繊維性肺疾患(例えば、嚢胞性線維症)、グルテン過敏性腸疾患、ウィップル病、水疱性皮膚疾患、多形性紅斑および接触性皮膚炎を含む自己免疫性皮膚疾患または免疫媒介性皮膚疾患、乾癬、肺のアレルギー性疾患、例えば、好球性肺炎、特発性肺線維症、および過敏性肺炎、移植拒絶反応および移植片対宿主疾患を含む移植関連疾患、アルツハイマー病、およびアテローム性動脈硬化症。
【0049】
「処置」は、障害の発症を予防するか、または障害の病状を変化させる意図で行われる介入である。したがって、「処置」は、治療的処置と、予防的処置または予防対策の両方をいう。処置が必要なものには、すでに障害を有しているもの、ならびに障害が予防されるものが含まれる。免疫関連疾患の処置においては、治療薬は免疫応答の成分の応答の大きさを直接変化させる場合があり、また、他の治療薬(例えば、抗生物質、抗真菌薬、抗炎症薬、化学療法薬など)による処置に対して疾患をより敏感にする場合もある。
【0050】
疾患の「病状」(例えば、補体が関係している障害)には、患者の満足できる生活状態を損なうあらゆる表現形が含まれる。これには、異常なまたは制御不可能な細胞増殖(好中球、好酸球、単球、リンパ球細胞)、抗体生産、自己抗体の生産、補体の生産、近隣細胞の正常な機能の妨害、サイトカインの放出、または異常なレベルでの他の分泌産物、任意の炎症応答もしくは免疫学的応答の抑制または激化、炎症細胞(好中球、好酸球、単球、リンパ球)の細胞空間への浸潤などが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
用語「哺乳動物」は、本明細書中で使用される場合は、哺乳動物と分類される任意の動物をいい、これには、ヒト、高等霊長類、家畜動物(domestic and farm animals)、動物園用、競技用、またはペット用の動物(例えば、ウマ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、およびイタチなど)が含まれるがこれらに限定されない。本発明の好ましい実施形態においては、哺乳動物はヒトである。
【0052】
1種類以上のさらなる治療薬「と組み合わせた」投与には、同時(併用)投与および任意の順序での連続投与が含まれる。
【0053】
「治療有効量」は、例えば、補体が関係している障害のような標的である疾患または症状の状態(例えば、病状)の測定可能な改善を達成するために必要な「C3bアンタゴニスト」(例えば、「C3b抗体」)の量である。
【0054】
用語「制御配列」は、特定の宿主生物の中での動作可能であるように連結されたコード配列の発現に不可欠なDNA配列をいう。原核生物に適している制御配列には、例えば、プロモーター、状況に応じてオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーを利用することが公知である。
【0055】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係で配置されている場合に「動作可能であるように連結され」ている。例えば、先行配列または分泌リーダーのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与しているプレタンパク質として発現される場合には、ポリペプチドのDNAに動作可能であるように連結される。プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を与える場合には、コード配列に動作可能であるように連結される。または、リボソーム結合部位が、それが翻訳を促進するように配置される場合には、コード配列に動作可能であるように連結される。一般的には、「動作可能であるように連結された」は、連結されているDNA配列が連続しており、そして分泌リーダーの場合には、連続しており、リーディングフレーム内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも連続している必要はない。連結は使いやすい制限酵素部位での連結によって行われる。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の実施方法にしたがって使用される。
【0056】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は当業者によって容易に決定可能であり、一般的には、プローブの長さ、洗浄温度、および塩濃度に依存する経験的計算である。一般に、より長いプローブには、適切なアニーリングのためにより高い温度が必要であり、一方、より短いプローブには、より低い温度が必要である。ハイブリダイゼーションは一般的には、相補的な鎖がそれらの融解温度よりも低い環境に存在する時の、変性させられたDNAが再度アニーリングする能力に依存する。プローブと、ハイブリダイゼーション可能な配列との間で所望される相同性の程度が高ければ高いほど、使用できる相対的な温度は高くなる。したがって、結果として、より高い相対的温度が反応条件をよりストリンジェントにする傾向があり、一方、より低い温度は反応条件のストリンジェンシーをより低くするということになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細と説明については、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照のこと。
【0057】
「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシーの条件」は、本明細書中で定義される場合には以下によって特定され得る:(1)洗浄には低いイオン強度と高温(例えば、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム、50℃)を使用する;(2)ホルムアミドのような変性剤(例えば、0.1%のウシ血清アルブミンを含む50%(v/v)のホルムアミド/0.1%のFicoll/0.1%のポリビニルピロリドン/750mMの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)、75mMのクエン酸ナトリウム、42℃)をハイブリダイゼーションの際に使用する;または、(3)50%のホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理したサケの精液DNA(50μg/ml)、0.1%のSDS、および10%のデキストラン硫酸を42℃で使用し、42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中で、そして50%のホルムアミド中で55℃で洗浄し、その後に、55℃でEDTAを含む0.1×SSCからなる高ストリンジェンシーの洗浄が続く。
【0058】
「中程度にストリンジェントな条件」は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Press,1989に記載されているように同定することができ、これには、上記よりもストリンジェンシーの低い洗浄溶液とハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度、および%SDS)の使用が含まれる。中程度にストリンジェントな条件の一例は、20%のホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%のデキストラン硫酸、および20mg/mLの変性させて剪断したサケの精液DNAを含む溶液中で37℃で一晩のインキュベーションであり、その後に、約37〜50℃での1×SSC中でのフィルターの洗浄が続く。当業者は、プローブの長さなどの要因に適合させる必要に応じて、温度、イオン強度などを調整する方法を理解しているであろう。
【0059】
用語「エピトープタグ化」は、本明細書中で使用される場合は、「タグポリペプチド」に融合させられた本発明のポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。タグポリペプチドは、それに対する抗体を作製できるエピトープを提供するに十分な残基を有しているが、それに対して融合させられるポリペプチドの活性を妨害しないように十分に短い。タグポリペプチドはまた、抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように極めて固有なものであることが好ましい。適切なタグポリペプチドは、一般的には、少なくとも6個のアミノ酸残基を有し、通常は、約8から50個の間のアミノ酸残基(好ましくは、約10から20個の間のアミノ酸残基)を有する。
【0060】
用語「抗体」は最も広い意味で使用され、これには具体的に、C3の崩壊断片を認識するが、天然のC3は認識しない単鎖抗体(例えば、C3bに特異的に結合する抗C3bモノクローナル抗体)、ならびに多エピトープ特異性を有している抗体組成物が含まれるが、これらに限定されない。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書中で使用される場合は、実質的に均質な抗体の集団から得られた1つの抗体をいい、すなわち、個々の抗体を含む集団は、主要ではない量で存在する可能性がある自然界において起こる可能性がある変異を除いて同一である。
【0061】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書中で使用される場合は、実質的に均質な抗体の集団から得られた1つの抗体をいい、すなわち、個々の抗体を含む集団は、主要ではない量で存在する可能性がある自然界において起こる可能性がある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、1つの抗原性部位に特異的である。さらに、伝統的な(ポリクローナル)抗体調製物(これには、通常は、異なる決定基(エピトープ)に特異的な様々な抗体が含まれている)とは対照的に、個々のモノクローナル抗体は抗原上にある1つの決定基に特異的である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られたという抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の生産が必要とは解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら(1975)Nature 256:495によって最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作製され得、また、組み換えDNA法によっても作製され得る(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)。「モノクローナル抗体」はまた、ファージ抗体ライブラリーから、例えば、Clacksonら(1991)Nature 352:624−628およびMarksら(1991)J.Mol.Biol.222:581−597に記載されている技術を使用して単離される場合もある。
【0062】
本明細書中でのモノクローナル抗体には、具体的には、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)が含まれる。ここでは、重鎖および/または軽鎖の一部分は、特定の種に由来するか、または特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属している抗体中の対応している配列と同一であるかあるいは相同であるが、それらが所望される生物学的活性を示すとの条件で、鎖(単数または複数)の残りは別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属している抗体、さらにはそのような抗体の断片中の対応している配列と同一であるかあるいは相同である(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855)。
【0063】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態はキメラ抗体であり、これには、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列が含まれる。大部分については、ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、ここでは、レシピエントの超可変領域由来の残基がヒト以外の種(ドナー抗体)(例えば、マウス、ラット、ウサギ、または所望される特異性、親和性、および能力を有しているヒト以外の霊長類)の超可変領域由来の残基によって置換される。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応しているヒト以外の残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体には、レシピエント抗体の中にも、またドナー抗体の中にも見られない残基が含まれる場合がある。これらの改変は、抗体の性能をさらに高めるために行われる。一般的には、ヒト化抗体には、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的に全体が含まれるであろう。ここでは、超可変ループ全体または実質的に全体が非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、そしてFR領域全体または実質的に全体がヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体にはまた、状況に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)(通常は、ヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部分も含まれるであろう。さらなる詳細については、Jonesら(1986)Nature 321:522−525;Riechmannら(1988)Nature 332:323−329;およびPresta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照のこと。
【0064】
「種依存性抗体」は、第1の哺乳動物種に由来する抗原に対して、それが第2の哺乳動物種に由来するその抗原のホモログに対して有しているよりも強い結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原に「特異的に結合する」(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは、約1×10−8M以下、そして最も好ましくは、約1×10−9M以下の結合親和性(K)値を有する)が、第2の非ヒト哺乳動物種由来のその抗原のホモログに対して結合親和性を有しており、これはヒト抗原に対するその結合親和性よりも少なくとも約50倍、または少なくとも約500倍、または少なくとも約1000倍弱い。種依存性抗体は、上記で定義された様々なタイプの抗体のうちのいずれであってもよいが、ヒト化抗体またはヒト抗体が好ましい。
【0065】
本明細書中で使用される場合は、「抗体突然変異体」または「抗体変異体」は、種依存性抗体のアミノ酸残基のうちの1つ以上が改変されている、種依存性抗体のアミノ酸配列変異体をいう。そのような突然変異体は、種依存性抗体と100%未満の配列同一性または類似性を必ず有する。好ましい実施形態においては、抗体突然変異体は、種依存性抗体の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列と少なくとも75%のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性または類似性を有しているアミノ酸配列を有するであろう。この配列に関する同一性または類似性は、本明細書中では、配列をアラインメントし、そして必要である場合にはギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を得た後の、種依存性抗体残基と同一である(すなわち、同じ残基)または類似している(すなわち、共通する側鎖特性に基づく同じグループに由来するアミノ酸残基、下記を参照のこと)、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。可変ドメインの外側にある抗体配列へのN末端、C末端、または内部での伸張、欠失、あるいは挿入はいずれも、配列同一性または類似性に影響を与えないと解釈されるはずである。
【0066】
「単離された」抗体は、同定され、そしてその天然の環境の成分とは分離されている、および/またはそれらから回収されたものである。その天然の環境の混入している成分は、抗体の診断的または治療的使用を妨害する可能性がある物質であり、これには、酵素、ホルモン、および他のタンパク質様または非タンパク質様の溶質が含まれ得る。好ましい実施形態においては、抗体は、(1)Lowry法によって決定された場合には、抗体のうち95重量%超まで、そして最も好ましくは99重量%超まで、(2)スピニングカップシーケネーター(spinning cup sequenator)の使用によってN末端アミノ酸配列もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るために十分な程度まで、あるいは、(3)クマシーブルー染色または好ましくは銀染色を使用する、還元条件下もしくは非還元条件下でのSDS−PAGEにより均一性を示すまで、精製されるであろう。抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分は存在しないので、単離された抗体には、組換え体細胞内にあるインサイチュ抗体が含まれる。しかし通常は、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製されるであろう。
【0067】
本明細書中で使用される場合は、「抗体可変ドメイン」は、相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)ならびにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖および重鎖の部分をいう。Vは、重鎖の可変ドメインをいう。Vは軽鎖の可変ドメインをいう。本発明で使用される方法に従うと、CDRおよびFRに割り当てられたアミノ酸位置はKabat(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987および1991))にしたがって定義され得る。抗体または抗原結合断片のアミノ酸ナンバリングもまたKabatのものにしたがう。
【0068】
本明細書中で使用される場合は、用語「相補性決定領域」(CDR;すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)は、その存在が抗原結合に不可欠である抗体可変ドメインのアミノ酸残基をいう。個々の可変ドメインは、通常、CDR1、CDR2、およびCDR3として特定された3個のCDR領域を有する。個々の相補性決定領域には、Kabatによって定義された「相補性決定領域」に由来するアミノ酸残基が含まれ得る(すなわち、軽鎖可変ドメイン中の残基約24〜34(L1)、残基約50〜56(L2)および残基約89〜97(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基約31〜35(H1)、残基約50〜65(H2)および残基約95〜102(H3);Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))由来のアミノ酸残基、ならびに/あるいは「超可変ループ」(すなわち、軽鎖可変ドメイン中の残基約26〜32(L1)、残基約50〜52(L2)および残基約91〜96(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン中の残基約26〜32(H1)、残基約53〜55(H2)および残基約96〜101(H3);Chothia and Lesk(1987)J.Mol.Biol.196:901−917)由来の残基)。いくつかの場合には、相補性決定領域には、Kabatにしたがって定義されたCDR領域と超可変ループの両方に由来するアミノ酸が含まれ得る。例えば、抗体4D5の重鎖のCDRH1にはアミノ酸26から35が含まれる。
【0069】
「フレームワーク領域」(本明細書中以後、「FR」)は、CDR残基以外の可変ドメインの残基である。個々の可変ドメインは、通常は、FR1、FR2、FR3、およびFR4として同定された4個のFRを有する。CDRがKabatにしたがって定義される場合は、軽鎖FR残基は、残基約1〜23(LCFR1)、約35〜49(LCFR2)、約57〜88(LCFR3)、および約98〜107(LCFR4)に位置し、そして重鎖FR残基は、重鎖残基の中の残基約1〜30(HCFR1)、約36〜49(HCFR2)、約66〜94(HCFR3)、および約103〜113(HCFR4)に位置する。CDRに超可変ループ由来のアミノ酸残基が含まれる場合は、軽鎖FR残基は、軽鎖の中の残基約1〜25(LCFR1)、約33〜49(LCFR2)、約53〜90(LCFR3)、および約97〜107(LCFR4)に位置し、重鎖FR残基は、重鎖残基の中の残基約1〜25(HCFR1)、約33〜52(HCFR2)、約56〜95(HCFR3)、および約102〜113(HCFR4)に位置する。CDRに、Kabatによって定義されたCDRと超可変ループのものの両方に由来するアミノ酸が含まれるいくつかの場合には、FR残基は、それに応じて調整されるであろう。例えば、CDRH1にアミノ酸H26〜H35が含まれる場合には、重鎖FR1残基は1〜25位にあり、そしてFR2残基は36〜49位にある。
【0070】
本明細書中で使用される場合は、「コドンセット」は、所望される変異体アミノ酸をコードするために使用される様々なヌクレオチドトリプレット配列の1つのセットをいう。コドンセットによって提供されるヌクレオチドトリプレットの可能な組み合わせの全てを提示し、そしてアミノ酸の所望されるグループをコードするであろう配列を含むオリゴヌクレオチドの1つセットは、例えば、固相合成によって合成することができる。コドン表示の標準的な形態はIUBコードのコドン表示である。これは当該分野で公知であり、本明細書中に記載される。コドンセットは、通常、斜体の3つの大文字(例えば、NNK、NNS、XYZ、DVKなど)によって表される。したがって、「無作為ではないコドンセット」は、本明細書中で使用される場合は、本明細書中に記載されるアミノ酸選択の基準を部分的に(好ましくは完全に)満たす選択されたアミノ酸をコードするコドンセットをいう。特定の位置に選択されたヌクレオチド「縮重」を有するオリゴヌクレオチドの合成は当該分野で周知である。例えば、TRIMアプローチ(Knappekら(1999)J.Mol.Biol.296:57−86);Garrard & Henner(1993)Gene 128:103)。特定のコドンセットを有しているオリゴヌクレオチドのそのようなセットは、市販されている核酸合成装置(例えば、Applied Biosystems,Foster City,CAから入手できる)を使用して合成することができるか、または商業的に入手することができる(例えば、Life Technologies,Rockville,MDから)。したがって、特定のコドンセットを有している合成されたオリゴヌクレオチドの1つのセットには、通常、様々な配列を持つ複数のオリゴヌクレオチドが含まれるであろう。これらの差異は、配列全体の中にコドンセットによって確立される。本発明にしたがって使用される場合は、オリゴヌクレオチドは、可変ドメイン核酸鋳型へのハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、そしてまた、例えば、クローニングの目的に有用である制限酵素部位を含むことができるが、必ずしもそうである必要ではない。
【0071】
用語「抗体断片」は本明細書中では最も広い意味で使用され、これには、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、(scFv)、dAb、および相補性決定領域(CDR)断片、直鎖抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、ならびに抗体断片から形成された多特異的抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
「Fv」断片は、完全な抗原認識および結合部位を含む抗体断片である。この領域は、例えば、scFvにおいて堅く会合した(本来は共有結合であり得る)1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの2量体からなる。この立体配置においては、個々の可変ドメインの3個のCDRが、V−V二量体の表面上の抗原結合部位の輪郭を提示するように相互作用する。まとめると、6個のCDRまたはそれらのサブセットが抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、1つの可変ドメイン(または抗原に特異的なCDRを3個しか含まないFvの半分)もなお、抗原を認識して抗原に結合する能力を有しているが、通常は、完全な結合部位よりも親和性が低い。
【0073】
「Fab」断片には、軽鎖の可変ドメインおよび定常ドメインと、重鎖の可変ドメインおよび第1の定常ドメイン(CH1)が含まれる。F(ab’)抗体断片には1対のFab断片が含まれ、これは通常、それらの間にあるヒンジシステインによってそれらのカルボキシ末端付近に共有結合させられる。抗体断片の他の化学的カップリングもまた当該分野で公知である。
【0074】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片には、抗体のVおよびVドメインが含まれる。ここでは、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖の中に存在する。一般的には、Fvポリペプチドにはさらに、VドメインとVドメインの間にポリペプチドリンカーが含まれ、これによりscFvは抗原結合のための所望される構造を形成することができる。scFvの概要については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal antibodies,第113巻,Rosenburg and Moore編,Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994)を参照のこと。
【0075】
用語「ダイアボディ」は、2つの抗原結合部位を持つ小さい抗体断片をいう。この断片には、同じポリペプチド鎖(VおよびV)の中に、軽鎖可変ドメイン(V)に連結させられた重鎖可変ドメイン(V)が含まれる。同じ鎖上にある2つのドメインの間での対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、これらのドメインは別の鎖の相補ドメインと対合するように向けられ、2つの抗原結合部位が作製される。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/11161;およびHollingerら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448にさらに詳細に記載されている。
【0076】
表現「直鎖抗体」は、Zapataら(1995 Protein Eng,8(10):1057−1062)に記載されている抗体をいう。簡単に説明すると、これらの抗体には、1対のタンデムなFdセグメント(V−C1−V−C1)が含まれる。これは、相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒に、1対の抗原結合領域を形成する。直鎖抗体は二重特異的であっても、また、単特異的であってもよい。
【0077】
本明細書中で使用される場合は、「ライブラリー」は、複数の抗体または抗体断片配列(例えば、本発明のポリペプチド)、あるいはこれらの配列をコードする核酸をいう。これらの配列は、本発明の方法にしたがってこれらの配列の中に導入される変異体アミノ酸の組み合わせが異なる。
【0078】
「ファージディスプレイ」は、それによって変異体ポリペプチドが、ファージ(例えば、糸状ファージ)粒子の表面上にある外被タンパク質の少なくとも一部に対する融合タンパク質として提示される技術である。ファージディスプレイの有用性は、無作為化されたタンパク質変異体の大きなライブラリーが、高い親和性を有している標的抗原に結合するそのような配列について迅速に、かつ効率よく選別され得るという事実にある。ファージ上にあるペプチドおよびタンパク質ライブラリーのディスプレイは、特異的結合特性を有しているものについて何百万ものポリペプチドをスクリーニングするために使用されている。多価ファージディスプレイ法は、糸状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIのいずれかへの融合によって小さい無作為ペプチドおよび小さいタンパク質を提示するために使用されている。Wells and Lowman(1992)Curr.Opin.Struct.Biol.3:355−362、および本明細書中で引用される参考文献。1価のファージディスプレイにおいては、タンパク質またはペプチドライブラリーは、遺伝子IIIまたはその一部に融合させられ、ファージ粒子が1コピーの融合タンパク質を提示するか、または融合タンパク質を全く提示しないように、野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で低レベルで発現させられる。親和性効果は多価ファージと比較して低く、結果として、選別は固有のリガンド親和性に基づき、そしてファージミドベクターが使用され、これはDNAの操作を簡素化する。Lowman and Wells(1991)Methods:A companion to Methods in Enzymology 3:205−0216。
【0079】
「ファージミド」は、細菌の複製起点(例えば、ColE1)とバクテリオファージの遺伝子間領域の1つのコピーを有しているプラスミドベクターである。ファージミドは任意の公知のバクテリオファージ(糸状バクテリオファージおよびラムダ型バクテリオファージを含む)に対して使用され得る。プラスミドにはまた、一般的には、抗生物質耐性の選択マーカーも含まれるであろう。これらのベクターの中にクローニングされたDNAのセグメントは、プラスミドとして増幅させることができる。これらのベクターを保有している細胞がファージ粒子の生産に必要な全ての遺伝子とともに提供される場合には、プラスミドの複製の態様が複製サイクルを回転させるように変化して、プラスミドDNAの一方の鎖の複数のコピーが生じ、ファージ粒子がパッケージされる。ファージミドは感染性ファージ粒子を形成する場合も、また非感染性ファージ粒子を形成する場合もある。この用語には、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面上に提示されるように、遺伝子融合体として異種ポリペプチド遺伝子に連結させられたファージ外被タンパク質遺伝子またはその断片を含むファージミドが含まれる。
【0080】
用語「ファージベクター」は、異種遺伝子を含み、そして複製が可能なバクテリオファージの二本鎖の複製可能な形態を意味する。ファージベクターは、ファージの複製とファージ粒子の形成を可能にするファージの複製起点を有する。ファージは、M13、fl、fd、Pf3ファージのような糸状バクテリオファージまたはそれらの誘導体、あるいは、λ、21、phi80、phi81、82、424、434などのようなλ型ファージまたはそれらの誘導体であることが好ましい。
【0081】
本明細書中で使用される場合は、「溶媒が接近しやすい位置(solvent accessible position)」は、抗体もしくは抗原結合断片の構造、構造の集合体、および/またはモデル化された構造に基づいて、分子(例えば、抗体特異的抗原)との溶媒の接近および/または接触に利用できる可能性があるとして決定される、供給源である抗体または抗原結合断片の重鎖および軽鎖の可変領域中のアミノ酸残基の位置をいう。これらの位置は、通常、CDRの中、およびタンパク質の外側に見られる。抗体または抗原結合断片の溶媒が接近しやすい位置は、本明細書中で定義される場合は、当該分野で公知の多数のアルゴリズムのうちの任意のものを使用して決定することができる。好ましくは、溶媒が接近しやすい位置は、抗体の3次元モデルから座標を使用して、好ましくは、InsightIIプログラム(Accelrys,San Diego,CA)のようなコンピュータープログラムを使用して決定される。溶媒が接近しやすい位置はまた、当該分野で公知のアルゴリズムを使用して決定することもできる(例えば、Lee and Richards(1971)J.Mol.Biol.55,379、およびConnolly(1983)J.Appl.Cryst.16,548を参照のこと)。溶媒が接近しやすい位置の決定は、抗体から得られたタンパク質のモデル化および3次元構造情報に適しているソフトウェアを使用して行うことができる。これらの目的のために利用できるソフトウェアとしては、SYBYL Biopolymer Moduleソフトウェア(Tripos Associates)が挙げられる。一般的には、そして好ましくは、アルゴリズム(プログラム)に使用者がサイズパラメーターを入力する必要がある場合には、計算に使用されるプローブの「サイズ」は、約1.4オングストロームまたはそれ未満の半径に設定される。加えて、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用する溶媒が接近しやすい領域および範囲の決定方法は、Pacios(1994)Comput.Chem.18(4):377−386によって記載されている。
【0082】
II.詳細な説明
補体系
補体は体の防御において重要な役割を果たしており、免疫系の他の成分とともに、体への病原体の侵入から個体を防御する。しかし、適切に活性化または制御されなければ、補体もまた宿主組織に対して損傷を引き起こす可能性がある。補体の不適切な活性化は、補体が関係している疾患または障害(例えば、免疫複合体および自己免疫疾患)ならびに様々な炎症症状(補体によって媒介される炎症性の組織損傷を含む)と呼ばれる様々な疾患の病状に関与している。補体が関係している障害の病状は様々であり、これには、長期間または短期間の補体活性化、カスケード全体の活性化、複数のカスケードのうちの1つだけ(例えば、古典経路または第2経路)の活性化、カスケードのうちのいくつかの成分だけの活性化などが関与し得る。いくつかの疾患においては、補体断片の補体生物学的活性が組織損傷および疾患を生じる。したがって、補体の阻害剤は治療的有効性が高い。第2経路の選択的阻害剤は、古典経路による血液からの病原体および他の微生物のクリアランスが完全な状態のままであるので、特に有用であろう。
【0083】
C3b抗体と補体が関係している障害の予防および処置におけるそれらの使用
本発明は、少なくとも一部、C3の崩壊断片を特異的に認識するが、天然のC3は認識しない抗体の開発に基づく。具体的には、本発明は、ヒトの組み合わせ抗体ライブラリーとファージディスプレイ(ここでは、C3b特異的ファージの富化は、飽和量のC3でのブロッキングによって行われた)を使用して開発された、C3bを認識し、これに特異的に結合する抗体に関する。この方法論を使用して、本発明者らは、C3の活性化形態に特異的な抗体を開発することができた。加えて、これらのヒト抗体はさらに親和性成熟させられ、それにより、インビボでの溶血アッセイにおけるそれらの効力が高くなった。Fab断片がクローニングによって作製され、第2経路を通じて補体活性化を阻害する高い効力を保持していることが示された。C3bを持つ複合体の中のFab(S77と命名された)の共構造(co−structure)が解析され、C3b−S77相互作用に関与している残基がマップされた。本発明者らの知識について、これは、補体の第2経路を阻害するC3断片に対して選択性を有している、最初のファージから導かれた抗体である。
【0084】
本発明の抗体および他のC3b特異的アンタゴニストは、補体が関係している障害の予防および処置に有用である。補体が関係している疾患の特異的な例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:関節リウマチ(RA)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血および再潅流後の遠隔組織の損傷、心肺バイパス手術の際の補体活性化、皮膚筋炎、天疱瘡、ループス腎炎と結果としての糸球体腎炎および脈管炎、心肺バイパス手術、心臓麻痺によって誘導される冠動脈内皮機能障害、II型膜増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、急性腎不全、クリオグロブリン血症、抗リン脂質症候群、黄斑変性疾患および眼内炎のような他の補体が関係している眼の症状、例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血に関係する網膜症、ならびに、他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生、ならびに、同種移植、超急性拒絶反応、血液透析、慢性閉塞性肺窮迫症候群(COPD)、喘息、および誤嚥性肺炎。
【0085】
補体が関係している疾患の例としての炎症症状のさらに広範囲に及ぶリストとしては、例えば以下が挙げられる:炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、若年性慢性関節炎、脊椎関節症、全身性硬化症(強皮症)、特発性炎症性筋疾患(皮膚筋炎、多発筋炎)、シェーグレン症候群、全身性血管炎、サルコイドーシス、自己免疫性溶血性貧血(自己免疫性汎血球減少症、発作性夜間血色素尿症)、自己免疫性血小板減少(特発性血小板減少性紫斑病、免疫媒介性血小板減少症)、甲状腺炎(グレーブス病、橋本甲状腺炎、若年性リンパ球性甲状腺炎、萎縮性甲状腺炎)、真性糖尿病、免疫媒介性腎疾患(糸球体腎炎、尿細管間質性腎炎)、中枢神経系および末梢神経系の脱髄疾患、例えば多発性硬化症、特発性脱髄性多発神経障害、肝胆道疾患、例えば感染性肝炎(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、および他の非肝炎ウイルス)、自己免疫性慢性活動性肝炎、原発性胆汁性肝硬変症、肉芽腫性肝炎、および硬化性胆管炎、炎症性肺疾患および繊維性肺疾患(例えば、嚢胞性線維症)、グルテン過敏性腸疾患、ウィップル病、水疱性皮膚疾患、多形性紅斑および接触性皮膚炎を含む自己免疫性皮膚疾患または免疫媒介性皮膚疾患、乾癬、肺のアレルギー性疾患、例えば、好球性肺炎、特発性肺線維症、および過敏性肺炎、移植拒絶反応および移植片対宿主疾患を含む移植関連疾患。
【0086】
全身性エリテマトーデスにおいては、この疾患の中心的な媒介因子は、自己タンパク質/組織に対する自己反応性抗体の生産と、それに続く免疫媒介性の炎症の発生である。抗体は、組織の損傷を直接的または間接的のいずれかで媒介する。しかし、Tリンパ球は組織損傷に直接関与しているとは示されていない。Tリンパ球は、自己反応性抗体の開発に必要である。したがって、この疾患の発生はTリンパ球依存性である。複数の臓器およびシステム(腎臓、肺、骨格筋系、皮膚粘膜、眼、中枢神経系、心臓血管系、消化器、骨髄、および血液を含む)が臨床的に影響を受ける。
【0087】
関節リウマチ(RA)は慢性の全身性自己免疫性炎症疾患である。これは主に、複数の関節の滑膜に関係があり、結果としての関節軟骨の損傷を伴う。発症はTリンパ球依存性であり、リウマチ因子(自己IgGに特異的な自己抗体)の生産と関係があり、これには、結果としての免疫複合体の形成が伴い、関節液および血液中で高レベルに達する。関節の中のこれらの複合体は、活液へのリンパ球および単球の顕著な浸潤を誘導し得、続いて、顕著な滑液の変化を誘導し得る。関節空間/液は、類似する細胞によって浸潤され、多数の好中球の追加も伴う。罹患組織は主に関節であり、多くの場合は左右対称のパターンである。しかし、関節外疾患もまた、2つの主要な形態で発生する。1つの形態は、進行性の関節疾患を伴う関節外病変と、肺線維症、脈管炎、および皮膚潰瘍の典型的な病変の発症である。関節外疾患の第2の形態は、いわゆるフェルティー症候群であり、これはRA疾患の後期に、時として関節疾患が鎮静期となった後に発症し、好中球減少症、血小板減少症、および脾腫の存在が関与する。これは、梗塞、皮膚潰瘍、壊疽の形成とともに、複数の臓器において脈管炎を伴うことがある。患者はまた、罹患した関節の上に層をなしている皮下組織においてリウマチ性結節を発症することがよくある。この結節は後期において、炎症性細胞浸潤物の混合物で包囲された壊死中心を有する。RAにおいて起こる可能性がある他の症状発現としては、心膜炎、胸膜炎、冠状動脈炎、肺線維症を伴う腸管肺実質炎(intestitial pneumonitis)、乾性角結膜炎、およびリウマチ性結節が挙げられる。
【0088】
若年性の慢性関節炎は慢性の特発性炎症疾患である。これは多くの場合には、16歳未満で始まる。その表現型はRAといくらかの類似性がある。リウマチ因子陽性の患者の一部は、若年性のリウマチ関節炎と分類される。この疾患は3つの主要なカテゴリー:少関節性(pauciarticular)、ポリ関節性(polyarticular)、全身性に分類される。関節炎は重症であり得、通常は破壊性であり、関節強直症に至り成長が遅延する可能性がある。他の症状発現としては、慢性の前部ブドウ膜炎および全身性アミロイドーシスが挙げられる。
【0089】
脊椎関節症は、いくらかの共通の臨床的特徴を有し、また、HLA−B27遺伝子産物の発現に共通の関連性がある、障害の1つのグループである。この障害には、強直性関節炎、ライター症候群(反応性関節炎)、炎症性腸疾患を伴う関節炎、乾癬を伴う脊椎炎、脊椎性関節症及び未分化脊椎関節炎の若年性発症が含まれる。他と区別する特徴には、脊髄炎を伴う/伴わない仙腸関節炎;炎症性の非対称性関節炎;HLA−B27(クラスIMHCのHLA−B遺伝子座の、血清学的に定義された対立遺伝子)との関連;眼球炎症、および他のリウマチ性疾患に関連した自己抗体が存在しないことが含まれる。疾患の誘導にとって鍵となる最も有力な細胞は、CD8+のTリンパ球であり、これはクラスIMHC分子により提示される抗原を標的とする細胞である。CD8+のT細胞は、これがまるでMHCクラスI分子により発現された外来ペプチドであるかのように、クラスIMHC対立遺伝子HLA−B27と反応し得る。HLA−B27のエピトープは、細菌または他の微生物の抗原性エピトープを模倣し、それにより、CD8+のT細胞応答を誘導するという仮説が立てられている。
【0090】
全身性硬化症(強皮症)の病因は明らかではない。この疾患の顕著な特徴は、皮膚のしこりであり、これは活動性の炎症プロセスによって誘導されるようである。強皮症は、局所的である場合も、また、全身性である場合もあり、血管に病変が生じるのが一般的であり、また、微小血管中の内皮細胞の損傷は、全身性強皮症の発症において早期に起こる重要な事象である。血管の損傷には免疫媒介性である場合がある。皮下の病変部への単核細胞の浸潤の存在、および多くの患者における抗−核抗体の存在により、免疫学的根拠が示唆される。ICAM−1は、多くの場合は、皮膚の病変部にある線維芽細胞の細胞表面上でアップレギュレートされ、これはこれらの細胞とのT細胞の相互作用がこの疾患の病因において役割を果たしている可能性があることを示唆している。関与している他の臓器としては以下が挙げられる:消化器管:異常な蠕動運動/運動性を生じる平滑筋萎縮症および線維症;腎臓:小さい弓状動脈および小葉間動脈に影響を及ぼして、腎皮質の血流の減少を生じさせる同心性の内皮下内膜増殖は、蛋白尿症、高窒素血症、および高血圧を生じる;骨格筋:萎縮症、間質性線維症;炎症;肺:間質性肺炎および間質性線維症;ならびに心臓:収縮体壊死、瘢痕化/線維症。
【0091】
特発性炎症性筋疾患(皮膚筋炎、多発性筋炎などを含む)は、これらは病因が不明である慢性の筋肉の炎症であり、これは筋力低下を生じる。筋肉の損傷/炎症は、多くの場合は、対称的であり、進行性である。自己抗体がほとんどの形態と関連している。これらの筋炎特異的自己抗体は、タンパク質の合成に関与している成分であるタンパク質およびRNAに特異的であり、それらを阻害する。
【0092】
シェーグレン症候群は、免疫媒介性の炎症と、それに続いて起こる涙腺と唾液腺の機能破壊が原因である。この疾患は、炎症性の結合組織疾患と関係がある場合も、また、炎症性の結合組織疾患を伴う場合もある。この疾患には、Ro抗原およびLa抗原に対する自己抗体の産生が伴うが、これらはいずれも、小型のRNA−タンパク質複合体である。病変により乾性角結膜炎、口腔乾燥症が、他の症状発現または関連(association)(胆汁性肝硬変(bilary cirrhosis)、末梢または知覚の神経障害、および触知できる紫斑を含む)を伴って起こる。
【0093】
全身性血管炎には、一次病変部が炎症とその後の血管の損傷であり、罹患した血管により供給される組織の虚血/壊死/変性を起こし、一部の症例においては最終的には末端の臓器の機能不全を起こす疾患である。血管炎はまた、リウマチ性関節炎、全身性硬化症などの他の免疫−炎症媒介性疾患、特に免役複合体の形成とも関係がある疾患において、二次病変または続発症として発症する。一次的な全身性血管炎のグループの疾患としては、以下が挙げられる:全身性壊死化血管炎:結節性多発性血管炎、アレルギー性脈管炎および肉芽腫症、多発性血管症;ウェゲナー肉芽種症;リンパ腫様肉芽種症;および巨細胞血管炎。混合型の血管炎としては以下が挙げられる:粘膜皮膚リンパ節症候群(MLNS、または川崎病)、分離性(isolated)CNS血管炎、ベーチェット病、閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)、および皮膚壊死性細静脈炎(cutaneous necrotizing venulitis)。列挙された血管炎のタイプのほとんどの病原性機構は、主として免疫グロブリン複合体の血管壁への沈着、それに続くADCC、補体活性化またはその両方のいずれかによる炎症反応の誘導が原因であると考えられる。
【0094】
サルコイドーシスは病因が不明の状態であり、これは、体中のほぼ全ての組織に類上皮細胞肉芽腫が存在することを特徴とする。肺が関係することが最も一般的である。病因には、活性化されたマクロファージおよびリンパ系細胞が、疾患の部位に長く存在することが関係しており、これには続いて、これらの細胞タイプから放出された局所的または全身的な活性物質の放出の結果である慢性の続発症が伴う。
【0095】
自己免疫性溶血性貧血(自己免疫性溶血性貧血、免疫性全白血球減少症、および発作性夜間血色素尿症を含む)は、赤血球(および一部の場合には、同様に血小板が含まれている他の血液細胞)の表面に発現された抗原と反応する抗体の生産の結果であり、補体媒介性の溶解および/またはADCC/Fc受容体に媒介される機構によりこれらの抗体でコーディングされた細胞の除去の反映である。
【0096】
自己免疫性血小板減少症(血小板減少性紫斑病、他の臨床的状況での免疫媒介性血小板減少症を含む)においては、血小板の破壊/除去が、血小板への抗体または補体へのいずれかの付着、それに続く補体の溶解、ADCCまたはFC受容体に媒介される機構による除去の結果として起こる。
【0097】
甲状腺炎(グレーブス病、橋本甲状腺炎、若年性リンパ球性甲状腺炎、および萎縮性甲状腺炎を含む)は、甲状腺の中に存在し、甲状腺に特異的なタンパク質と反応する抗体の産生を伴う、甲状腺抗原に対する自己免疫応答の結果である。実験モデルが存在しており、これには自発的なモデル:ラット(BUFおよびBBラット)およびニワトリ(肥満ニワトリ);誘導性モデル:サイログロブリン、甲状腺ミクロソーム抗原(甲状腺ペルオキシダーゼ)のいずれかでの動物の免疫化が含まれる。
【0098】
I型の真性糖尿病またはインスリン依存性糖尿病は、膵島β細胞の自己免疫破壊である。この破壊は自己抗体および自己反応性T細胞によって媒介される。インスリンに対する抗体またはインスリン受容体もまた、インスリン非応答性の表現型を生じ得る。
【0099】
免疫媒介性の腎臓病(腎炎および細管間質性腎炎を含む)は、腎抗原に対する自己反応性抗体またはT細胞の産生の結果としての直接的であるか、あるいは、他の非腎臓抗原に対して反応性である抗体および/または免疫複合体の腎臓の中での沈着の結果としての間接的であるかのいずれかである、抗体またはTリンパ球に媒介される腎組織の傷害の結果である。従って、免疫複合体の形成を生じる他の免疫媒介性疾患によってはまた、間接的な続発症として免疫媒介性の腎疾患が誘導される可能性がある。直接的および間接的な免疫機構のいずれによっても、腎組織中に病変部の発生を生じる/誘導する炎症応答が生じ、これには結果として、臓器の機能不全が伴い、腎不全へと進行する場合もある。体液性の免疫機構と細胞性の免疫機構はいずれも、病変の発生に関与し得る。
【0100】
中枢および末梢の神経系の脱髄疾患(多発性硬化症;多発性脱髄性神経障害またはギラン−バレー症候群;および慢性の炎症性脱髄性神経障害を含む)は、自己免疫を主原因があると考えられ、乏突起膠細胞またはミエリンに生じた損傷の結果として、直接、神経の脱髄を生じる。MSにおいては、疾患の誘導および進行がTリンパ球に依存することを示唆する証拠がある。多発性硬化症は、Tリンパ球依存性であり、また回帰性−弛張性(relapsing−remitting)の経過、もしくは慢性の進行性の経過のいずれかをとる脱髄性疾患である。病因は不明である。しかし、ウイルス感染、遺伝的素因、環境、および自己免疫の全てが寄与している。病変部には主としてTリンパ球媒介性の小グリア細胞の浸潤および浸潤性マクロファージが含まれる。CD4+Tリンパ球は病変部における優性な細胞種である。乏突起膠細胞の細胞死の機構とそれに続く脱髄の機構は明らかではないが、Tリンパ球によって駆動されるようである。
【0101】
炎症性および繊維性の肺疾患(好酸球性肺炎、特発性肺線維症、および過敏性肺炎を含む)は、制御されていない免疫−炎症応答が関与している可能性がある。この応答の阻害は治療的に有効であろう。
【0102】
自己免疫または免疫媒介性の皮膚疾患(水疱性皮膚疾患、多形性紅斑、および接触皮膚炎を含む)は、その生産がTリンパ球依存性である自己抗体によって媒介される。
【0103】
乾癬はTリンパ球媒介性の炎症性疾患である。病原部にはTリンパ球、マクロファージおよび抗原プロセシング細胞、ならびにいくらかの好中球の浸潤物が含まれる。アレルギー疾患(喘息;アレルギー性鼻炎;アトピー性皮膚炎;食品過敏症;およびじん麻疹を含む)はTリンパ球依存性である。これらの疾患は主としてTリンパ球に誘導される炎症、IgE媒介性の炎症、またはこれらの両方によって媒介される。
【0104】
移植関連疾患(移植片拒絶、および移植片対宿主疾患(GVHD)を含む)は、Tリンパ球依存性であり、Tリンパ球機能の阻害により緩和される。
【0105】
本発明のC3bアンタゴニスト(例えば、C3b抗体)はまた、例えば以下のような、補体が関係している眼の症状(その病状に補体の古典経路と第2経路、および特に第2経路を含む)が関係している全ての眼の症状および疾患)の予防ならびに処置にも有用である:黄斑変性疾患(例えば、加齢黄斑変性(AMD)の全ての段階、乾性形態と湿性形態(非滲出型と滲出型)を含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、ブドウ膜炎、糖尿病および他の虚血関連網膜症、眼内炎、および他の眼内血管新生疾患、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、病的近視、フォン・ヒッペル・リンドウ病、眼のヒストプラズマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、ならびに網膜血管新生。補体が関係している眼の症状の好ましいグループには、加齢黄斑変性(AMD)(非滲出型(湿性)AMDおよび滲出型(乾性または萎縮型)AMDを含む)、脈絡膜新生血管(CNV)、糖尿病性網膜症(DR)、ならびに眼内炎が含まれる。
【0106】
AMDは、黄斑の加齢性の変性である。これは、60歳を超えた個体における不可逆的な視力障害の主原因である。AMDには2種類のタイプ:非滲出性(乾性)AMDと滲出性(湿性)AMDがある。乾性、すなわち、非滲出性の形態には、中心網膜(黄斑)の基部にある網膜色素上皮(RPE)の萎縮性変化および肥大性変化、ならびにRPE上への沈着(ドルーゼン)が含まれる。非滲出性AMDの患者は、AMDの湿性(すなわち、滲出型)形態へと進行する可能性があり、ここでは、脈絡膜新生血管膜(CNVM)と呼ばれる異常な血管が網膜の下に生じ、体液と血液が漏出し、最終的には網膜の中と下に失明にいたる円盤状の瘢痕が生じる。非滲出性AMD(これは、通常は滲出型AMDの前兆である)がより多く見られる。非滲出性AMDの症状は様々である;堅いドルーゼン、柔らかいドルーゼン、RPEジオグラフィックアトロフィー(geographic atrophy)、および色素クランピング(pigment clumping)が存在する可能性がある。補体成分はAMDの初期にRPE上に沈着し、これはドルーゼンの主要な構成成分である。
【0107】
本発明は特に、カテゴリー3およびカテゴリー4のAMDを含むハイリスクAMDの処置に関する。カテゴリー3のAMDは、いずれの眼にも進行したAMDは存在しないこと、少なくとも一方の眼が20/32以上の視力を有しているおり、少なくとも1つの大きなドルーゼン(例えば、125μm)、広範囲に及ぶ(ドルーゼンの面積によって測定される場合)中間部のドルーゼン(intermediate drusen)、またはジオグラフィックアトロフィー(GA)(これには黄斑の中心部は含まれない)、あるいはこれらの任意の組み合わせを伴うことを特徴とする。カテゴリー3のAMD(これは、まだ「乾性」AMDと考えられる)は脈絡膜新生血管(CNV)に転化するリスクが高い。
【0108】
カテゴリー4のハイリスクAMD(「湿性」AMDと分類される)は、20/32以上の視力と、指標となる眼には進行していない(no advanced)AMDが存在する(GAに黄斑の中心または脈絡膜新生血管の特徴が含まれている)ことを特徴とする。もう一方の(fellow)眼は、進行したAMD、またはAMD黄斑変性症が原因である20/32未満の視力を特徴とする。通常、ハイリスクAMDは、処置しなければ、迅速に脈絡膜新生血管(CNV)へと、カテゴリー1または2(ハイリスクではない)のAMDの進行速度の約10〜30倍の速度で進行する。
【0109】
C3bアンタゴニストはまた、CNVへのAMD(特に、カテゴリー3またはカテゴリー4のAMD)の進行の予防、および/あるいは、罹患していないかもしくは罹患の程度の低いもう一方の眼のAMDまたはCNVの発症/進行の予防に有用性が見出されている。この状況では、用語「予防」は、疾患の進行の完全なまたは部分的なブロックおよび進行速度を遅らせること、ならびに、疾患のより重篤な形態の発症(unset)を遅らせることを含むように、最も広い意味で使用される。ハイリスク(カテゴリー4)のAMDまたはCMVを発症するか、またはそれへと進行するリスクが高い患者は、本発明のこの態様によって特に利点が得られる。
【0110】
補体H因子(CFH)多形がAMDおよび/またはCNVを発症する個体のリスクと関係があることは公知である。CFHの中での突然変異は補体を活性化させる可能性があり、これは次いで、AMD/CNVに至る場合がある。補体H因子(CFH)多形がAMDの寄与リスクの50%を占めることが最近報告されている(Kleinら、Science 308:385−9(2005))。CFHの一般的なハプロタイプ(HF1/CFH)は、個体を加齢黄斑変性にかかりやすくする素因であることが明らかになっている(Hagemanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,102(2):7227−7232(2005))。AMDは常染色体優性形質として分離されており、マーカーD1S466とD1S413との間の染色体1q25−q31に、約3.20の最大ロッドスコアで(Kleinら、Arch Opthalmol.116(8):1082−9(1998);Majewskiら、Am.J.Hum.Genet.73(3):540−50(2003);Seddonら、Am.J.Hum.Genet.73(4):780−90(2003);Weeksら、Am.J.Ophthalmol.132(5):682−92(2001);Iyengarら、Am.J.Hum.Genet.74(1):20−39(2004));マーカーD12S1391とD2S1384との間の染色体2q3/2q32に、2.32/2.03の最大ロッドスコアで(Seddonら、前出);マーカーD12S1300とD12S1763との間の3p13に、2.19の最大ロッドスコアで(Majewskiら、前出;Schickら、Am.J.Hum.Genet.72(6):1412−24(2003));マーカーD6S1056とDS249との間の6q14に、3.59/3.17の最大ロッドスコアで(Kniazevaら、Am.J.Ophthlmol.130(2):197−202(2000));マーカーD9S934にある9q33に、2.06の最大ロッドスコアで(Mejwskiら、前出);マーカーD10S1230にある10q26に、3.06最大ロッドスコアで(Majewskiら、前出;Iyengarら、前出;Kenealyら、Mol.Vis.10:57−61(2004);マーカーD17S928にある17q25に、3.16の最大ロッドスコアで(Weeksら、前出);そして、マーカーD22S1045にある22q12に、2.0の最大ロッドスコアで(Seddonら、前出)疾患遺伝子マッピングされている。したがって、遺伝子スクリーニングは予防的処置(より重篤な形態への(例えば、AMDからCNVへの)疾患の進行の予防を含む)のための特に良好な候補である患者を同定する重要な部分である。
【0111】
C3b抗体の調製および選択
本明細書中の本発明には、C3bを認識するが、その不活性な前駆体であるC3は認識しない抗体の生産と使用が含まれる。抗体の例示的な作製方法が以下のセクションにさらに詳細に記載される。
【0112】
抗C3b抗体は、哺乳動物種由来のC3bポリペプチドを使用して選択される。ポリペプチドがヒトC3bであることが好ましい。しかし、他の種に由来するC3bポリペプチド(例えば、マウスC3b)もまた標的抗原として使用できる。様々な哺乳動物種に由来するC3b抗原を天然の供給源から単離することができる。他の実施形態においては、抗原は組み換えによって生産されるか、または、当該分野で公知の他の合成方法を使用して作成される。
【0113】
選択された抗体は、通常は、C3b抗原に対して十分に強い結合親和性を有するであろう。例えば、抗体は、約5nM以下、好ましくは約2nM以下、そしてより好ましくは約500pM以下のK値でヒトC3bに結合し得る。抗体親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴に基づくアッセイ(例えば、実施例に記載されるBIAcoreアッセイ);酵素結合免疫中着アッセイ(ELISA);および競合アッセイ(例えば、RIA’s)によって決定され得る。
【0114】
また、抗体は、例えば、治療薬としてのその有効性を評価するために、他の生物学的活性のアッセイにも供され得る。そのようなアッセイは当該分野で公知であり、標的抗原と抗体について意図される用途に応じて様々である。例としては、HUVEC阻害アッセイ(以下の実施例に記載される);ならびに、第2経路を選択的にブロックし、少なくとも1つの補体が関係している障害の予防および/または処置において活性を示す抗体の同定について以下に記載されるインビトロおよびインビボでのアッセイが挙げられる。
【0115】
目的の抗原上の特定のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするためには、日常的に行われているクロスブロッキング(cross−blocking)アッセイ(例えば、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Harlow and David Lane編(1988)に記載されているアッセイ)を行うことができる。あるいは、エピトープマッピング(例えば、Champeら(1995)J.Biol.Chem.270:1388−1394に記載されている)を、抗体が目的のエピトープに結合するかどうかを決定するために行うことができる。
【0116】
好ましい実施形態においては、本発明の抗C3b抗体は特有のファージディスプレイアプローチを使用して選択される。このアプローチには単一のフレームワーク鋳型に基づく合成のヒト抗体ファージライブラリーの作製、可変ドメインの中での十分な多様性の設計、多様化させられた可変ドメインを有しているポリペプチドのディスプレイ、および標的C3b抗原に対して高い親和性を有している候補抗体の選択が含まれる。C3bを選択的にブロックするが、C3はブロックしない抗体をコードするC3b特異的ファージの富化は、例えば、以下の実施例に記載されるように、飽和量のC3でブロックすることによって行うことができる。
【0117】
ファージディスプレイ方法の詳細は、例えば、2003年12月11日に公開されたWO03/102157に見ることができる。
【0118】
1つの態様においては、抗体ライブラリーは、抗体可変ドメインの少なくとも1つのCDRの中にある溶媒が接近しやすい位置および/または多様性に富む位置を突然変異させることによって作製することができる。CDRのいくつかまたは全てを、本明細書中に提供される方法を使用して突然変異させることができる。いくつかの実施形態においては、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3中の複数の位置を突然変異させて1つのライブラリーを形成させることによって、または、CDRL3およびCDRH3中の複数の位置を突然変異させて1つのライブラリーを形成させること、または、CDRL3とCDRH1、CDRH2とCDRH3の中の複数の位置を突然変異させて1つのライブラリーを形成させることにより、多様性抗体ライブラリーを作製することが好ましい場合がある。
【0119】
例えば、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3の溶媒が接近しやすい位置および/または多様性に富む位置の中に複数の突然変異を有している抗体可変ドメインのライブラリーを作製することができる。CDRL1、CDRL2、およびCDRL3の中に複数の突然変異を有している別のライブラリーを作製することができる。これらのライブラリーはまた、所望される親和性のバインダーを作製するために、互いに組み合わせて使用することもできる。例えば、標的抗原に対する結合についての重鎖ライブラリーの1回以上の選択の後、軽鎖ライブラリーを、バインダーの親和性を増大させるためのさらなる回の選択のために、重鎖バインダーの集団の中に入れることができる。
【0120】
好ましくは、ライブラリーは、重鎖配列の可変領域のCDRH3領域中での、変異体アミノ酸でのもとのアミノ酸の置換によって作製される。得られるライブラリーには複数の抗体配列が含まれ得る。ここでは、配列多様性は、主に、重鎖配列のCDRH3領域の中にある。
【0121】
1つの態様においては、ライブラリーは、ヒト化抗体4D5配列、またはヒト化抗体4D5配列のフレームワークアミノ酸の配列の状況において作製される。好ましくは、ライブラリーは、DVKコドンセットによってコードされるアミノ酸での重鎖の少なくとも残基95〜100aの置換によって作製される。ここでは、DVKコドンセットは、これらの位置の全ての変異体アミノ酸の1つのセットをコードするために使用される。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの一例には、配列(DVK)が含まれる。いくつかの実施形態においては、ライブラリーは、DVKコドンセットとNNKコドンセットの両方によってコードされるアミノ酸での残基95〜100aの置換によって作製される。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの例には、配列(DVK)(NNK)が含まれる。別の実施形態においては、ライブラリーは、DVKコドンセットとNNKコドンセットコドンセットの両方によってコードされるアミノ酸での、少なくとも残基95〜100aの置換によって作製される。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの一例には、配列(DVK)(NNK)が含まれる。これらの置換の作製に有用なオリゴヌクレオチドセットの別の例には配列(NNK)が含まれる。適切なオリゴヌクレオチド配列の他の例は、本明細書中に記載される基準にしたがって当業者によって決定され得る。
【0122】
別の実施形態においては、様々なCDRH3のデザインが、高親和性バインダーを単離するため、そして様々なエピトープに対するバインダーを単離するために利用される。このライブラリーの中で作製されたCDRH3の長さの範囲は11から13アミノ酸であるが、これとは異なる長さもまた作製され得る。H3多様性は、NNK、DVK、およびNVKコドンセット、ならびに、N末端および/またはC末端でのより限定された多様性を使用することにより拡大させることができる。
【0123】
多様性はまたCDRH1およびCDRH2の中に作製することもできる。CDR−H1およびH2の多様性の設計は、以前のデザインよりも自然界での多様性にさらにきっちりと適合する多様性に焦点を合わせた改変を用いて、記載されるような天然の抗体レパートリーを模倣するための標的化のストラテジーにしたがう。
【0124】
CDRH3の中での多様性については、様々なH3の長さを有している複数のライブラリーを別々に構築し、その後、標的抗原に対するバインダーについて選択するために合わせて1つにすることができる。複数のライブラリーは、プールすることができ、以前に記載されており、そして本明細書中に記載されるように、固体支持体選択と溶液選別方法を使用して選別することができる。複数の選別方法論が使用される場合もある。例えば、1つのバリエーションには、固体に結合させられた標的についての選別、それに続く、融合ポリペプチド上に存在し得るタグ(例えば、抗gDタグ)についての選別、その後の、固体に結合させられた標的についての別の選別が含まれる。あるいは、ライブラリーは、固体表面に結合させられた標的について最初に選別され得、溶離させられたバインダーが、その後、標的抗原の濃度を低下させつつ、溶液相の結合を使用して選別される。様々な選別方法の組み合わせを利用することにより、高度に発現された配列だけの選択の最小化が提供され、そして多数の様々な高親和性クローンの選択が提供される。
【0125】
標的C3b抗原に対する高親和性バインダーをライブラリーから単離することができる。H1/H2領域の中の多様性を限定することにより、縮重性は約10倍から10倍減少し、より高親和性のバインダーを提供するためのさらなるH3多様性が可能となる。CDRH3の中に様々なタイプの多様性を有しているライブラリーを利用する(例えば、DVKまたはNVTを利用する)ことにより、標的抗原の様々なエピトープに結合し得るバインダーの単離が提供される。
【0126】
別の実施形態においては、CDRH1、CDRH2、およびCDRH3領域の中に多様性を有しているライブラリー(単数または複数)が作製される。この実施形態においては、CDRH3の中の多様性は、様々な長さのH3領域を使用し、そして主要なコドンセットXYZおよびNNKまたはNNSを使用して作製される。複数のライブラリーが個々のオリゴヌクレオチドを使用して形成され得、プールされ得るか、またはオリゴヌクレオチドは、ライブラリーのサブセットを形成させるためにプールされ得る。この実施形態の複数のライブラリーは、固体に結合させられた標的に対して選別することができる。複数回の選別によって単離されたクローンは、ELISAアッセイを使用して特異性および親和性についてスクリーニングすることができる。特異性については、クローンは所望される標的抗原ならびに他の非標的抗原に対してスクリーニングすることができる。標的C3b抗原に対するこれらのバインダーは、その後、溶液結合競合ELISAアッセイまたはスポット競合アッセイにおいて親和性についてスクリーニングすることができる。高親和性バインダーは、上記に記載されたように調製されたXYZコドンセットを利用してライブラリーから単離することができる。これらのバインダーは、細胞培養物中に高収率で抗体または抗原結合断片として容易に生じさせることができる。
【0127】
いくつかの実施形態においては、CDRH3領域の長さ関してより大きな多様性を有しているライブラリーを作製することが所望され得る。例えば、約7から19アミノ酸までの範囲のCDRH3領域を有しているライブラリーを作製することが所望され得る。
【0128】
これらの実施形態のライブラリーから単離された高親和性バインダーは、細菌および真核生物細胞培養物の中で高収率で容易に生産される。ベクターは、gDタグ、ウイルス外被タンパク質成分配列のような配列を容易に除去し、そして/または高収率での全長抗体または抗原結合断片の生産がもたらされるように定常領域配列の中に加えられるように設計され得る。
【0129】
CDRH3の中に突然変異を有しているライブラリーは、他のCDRの変異体バージョン(例えば、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、および/またはCDRH2)を含むライブラリーと組み合わせることができる。したがって、例えば、1つの実施形態においては、CDRH3ライブラリーは、予め決定されたコドンセットを使用して28、29、30、31、および/または32位に変異体アミノ酸を有しているヒト化4D5抗体配列の状況において作製されたCDRL3ライブラリーと組み合わせられる。別の実施形態においては、CDRH3に突然変異を有しているライブラリーは、変異体CDRH1および/またはCDRH2重鎖可変ドメインを含むライブラリーと組み合わせることができる。1つの実施形態においては、CDRH1ライブラリーは、28、30、31、32、および33位に変異体アミノ酸を有しているヒト化抗体4D5配列を用いて作製される。CDRH2ライブラリーは、予め決定されたコドンセットを使用して50、52、53、54、56、および58位に変異体アミノ酸を有しているヒト化抗体4D5の配列を用いて作製され得る。
【0130】
ファージライブラリーから作製された抗C3b抗体は、もとの抗体を上回る改善された物理的、化学的、および/または生物学的特性を有する抗体突然変異体が作製されるようにさらに改変することができる。使用されるアッセイが生物学的活性のアッセイである場合には、抗体突然変異体は、好ましくは、選択されたアッセイにおいて生物学的活性を有し、これはそのアッセイにおけるもとの抗体の生物学的活性よりも、少なくとも約10倍大きい、好ましくは少なくとも約20倍大きい、より好ましくは少なくとも約50倍大きい、そして多くの場合は少なくとも約100倍または200倍大きい。例えば、抗C3b抗体突然変異体は、好ましくは、C3bに対して結合親和性を有し、これは、もとの抗C3b抗体(例えば、抗体S77)の結合親和性よりも少なくとも約10倍強い、好ましくは少なくとも約20倍強い、より好ましくは、少なくとも約50倍強い、そして多くの場合は少なくとも約100倍または200倍強い。
【0131】
抗体突然変異体を作製するためには、1つ以上のアミノ酸の変更(例えば、置換)が、もとの抗体の1つ以上の超可変領域の中に導入される。あるいは、または加えて、フレームワーク領域残基の1つ以上の変更(例えば、置換)がもとの抗体の中に導入され得、ここでは、これらは第2の哺乳動物種に由来する抗原に対する抗体突然変異体の結合親和性の改善を生じる。改変されるフレームワーク領域残基の例としては、抗原に直接非共有結合するもの(Amitら(1986)Science 233:747−753);CDRの立体構造と相互作用する/立体構造に影響を与えるもの(Chothiaら(1987)J.Mol.Biol.196:901−917);および/またはV−V界面に関与するもの(EP 239 400B1)が挙げられる。特定の実施形態においては、1つ以上のそのようなフレームワーク領域残基の改変は、第2の哺乳動物種に由来する抗原に対する抗体の結合親和性の増強を生じる。例えば、約1個から約5個のフレームワーク残基が本発明のこの実施形態において変化させられ得る。多くの場合には、これは、超可変領域残基がいずれも変化させられていない場合でもなお、前臨床試験での使用に適している抗体突然変異体を得るために十分であり得る。しかし、通常は、抗体突然変異体にはさらなる超可変領域の変更(単数または複数)が含まれるであろう。
【0132】
変更される超可変領域残基は無作為に変化させることができ、特に、もとの抗体の最初の結合親和性がそのような無作為に生産された抗体突然変異体である場合には、容易にスクリーニングできる。
【0133】
そのような抗体突然変異体を作製するための1つの有用な手順は「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる(Cunningham and Wells(1989)Science 244:1081−1085)。ここでは、1つ以上の超可変領域残基(単数または複数)が、第2の哺乳動物種に由来する抗原とのアミノ酸の相互作用に影響を与えるアラニンまたはポリアラニン残基(単数または複数)によって置換される。置換に対して機能的感度を示しているこれらの超可変領域残基(単数または複数)は、その後、置換部位に、もしくは置換部位についてさらなるまたは他の突然変異を導入することによって詳細に調べられる。したがって、アミノ酸配列のバリエーションを導入するための部位は予め決定されるが、突然変異自体の性質は予め決定される必要はない。この方法で生産されたala突然変異体は、本明細書中に記載されるようにそれらの生物学的活性についてスクリーニングされる。
【0134】
通常、当業者は、「好ましい置換基」の表題で以下に示されるような保存的置換を用いて開始するであろう。そのような置換が生物学的活性(例えば、結合親和性)の変化を生じる場合には、以下の表において、またはアミノ酸のクラスに関して以下にさらに記載されるように「例示的な置換基」と命名されたさらなる実質的変化が導入され、そして生成物がスクリーニングされる。好ましい置換は以下の表に列挙される。
【0135】
【表1】
抗体の生物学的特性のなおさらに実質的な改変は、(a)置換の領域内にあるポリペプチド骨格の構造(例えば、シートまたはヘリックス構造)、(b)標的部位にある分子の電荷または疎水性、あるいは(c)側鎖のかさを維持することに対するそれらの作用が有意に異なる置換基を選択することによって行われる。自然界に存在している残基は共通する側鎖特性に基づいて複数のグループに分類される。
【0136】
疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
中性親水性:cys、ser、thr、asn、gln;
酸性:asp、glu;
塩基性:his、lys、arg;
鎖の方向性に影響を与える残基:gly、pro;および
芳香族:trp、tyr、phe。
【0137】
非保存的置換には、別のクラスをこれらのクラスのうちの1つのメンバーで交換することを必然的に伴うであろう。
【0138】
別の実施形態においては、改変のために選択された部位はファージディスプレイを使用して親和性成熟させられる(上記を参照のこと)。
【0139】
アミノ酸配列突然変異体をコードする核酸分子は、当該分野で公知の様々な方法によって調製される。これらの方法としては、もとの抗体の以前に調製された突然変異体または非突然変異体バージョンの、オリゴヌクレオチド媒介性(または部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、およびカセット突然変異誘発が挙げられるが、これらに限定されない。突然変異を作製するための好ましい方法は部位特異的突然変異誘発である(例えば、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488を参照のこと)。
【0140】
特定の実施形態においては、抗体突然変異体は、置換された超可変領域残基を1つだけ有するであろう。他の実施形態においては、もとの抗体の超可変領域残基のうちの2つ以上が置換されているであろう(例えば、約2個から約10個までの超可変領域の置換)。
【0141】
通常は、改善された生物学的特性を有している抗体突然変異体は、もとの抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性または類似性を有しているアミノ酸配列を有するであろう。この配列に関する同一性または類似性は、本明細書中では、配列をアラインメントし、そして必要である場合にはギャップを導入して、最大のパーセント配列同一性を得た後の、もとの抗体残基と同一である(すなわち、同じ残基)または類似している(すなわち、共通する側鎖特性に基づく同じグループに由来するアミノ酸残基、上記を参照のこと)、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。可変ドメインの外側にある抗体配列へのN末端、C末端、または内部伸張、欠失、あるいは挿入はいずれも、配列同一性または類似性に影響を与えないと解釈されるべきである。
【0142】
抗体突然変異体の生産後、もとの抗体と比較したその分子の生物学的活性が決定される。上記のように、これには、抗体の結合親和性および/または他の生物学的活性の決定が含まれ得る。本発明の好ましい実施形態においては、抗体変異体のパネルが調製され、そして抗原(例えば、C3b)またはその断片に対する結合親和性についてスクリーニングされる。この最初のスクリーニングによって選択された抗体突然変異体のうちの1つ以上が、状況に応じて、結合親和性が増大したこの抗体突然変異体(単数または複数)が実際に(例えば、前臨床試験に)有用であることを確認するために、1つ以上のさらなる生物学的活性のアッセイに供される。
【0143】
そのように選択された抗体突然変異体(単数または複数)は、多くの場合には、抗体の意図される用途に応じたさらなる改変に供され得る。そのような改変としては、アミノ酸配列のさらなる変更、異種ポリペプチド(単数または複数)に対する融合、および/または以下に詳細に述べられるもののような共有結合による改変を挙げることができる。アミノ酸配列の変更に関しては、例示的な改変は上記で詳細に述べられる。例えば、抗体突然変異体の適切な立体構造の維持には関与していない任意のシステイン残基もまた、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために、通常はセリンで置換され得る。逆に、システイン結合(単数または複数)は、その安定性を改善するために抗体に付加され得る(特に、抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。アミノ酸突然変異体の別のタイプは、変更されたグリコシル化パターンを有する。これは、抗体の中に見られる1つ以上の炭水化物部分を欠失させること、および/または抗体の中には存在しない1つ以上のグリコシル化部位を付加することによって行われ得る。抗体のグリコシル化は、通常、N結合またはO結合のいずれかである。N結合は、アスパラギン残基の側鎖に対する炭水化物部分の結合をいう。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンとアスパラギン−X−スレオニン(式中、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖に対する炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在することにより、潜在的グリコシル化部位が作製される。O結合グリコシル化は、糖であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つの、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的には、セリンまたはスレオニン)に対する結合をいうが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンもまた使用され得る。抗体に対するグリコシル化部位の付加は、1つ以上の上記トリペプチド配列を含むようにアミノ酸配列を変更することによって便利に行われる(N結合グリコシル化部位について)。変更はまた、もとの抗体の配列に対する1つ以上のセリンもしくはスレオニン残基の付加またはそれらによる置換によっても行われ得る(O結合グリコシル化部位について)。
【0144】
ファージディスプレイによるC3b抗体の調製、選択、富化、および親和性成熟のさらなる詳細は以下の実施例に提供される。
【0145】
C3b抗体の組み換え生産
本発明の抗C3b抗体は、容易に入手できる技術と材料を使用して組み換えによって生産することができる。
【0146】
抗C3抗体の組み換え生産のためには、それをコードする核酸が単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)のため、または発現のために複製可能ベクターに挿入される。抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードするDNAに特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離または合成される。多くのベクターを利用できる。一般的には、ベクター成分には、以下のうちの1つ以上が含まれるがこれらに限定されない:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロオーター、および転写終結配列。
【0147】
(i)シグナル配列成分
本発明の抗体は、組み換えによって直接生産できるだけではなく、異種ポリペプチド(これは、好ましくは、シグナル配列、または成熟タンパク質もしくはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有している他のポリペプチドである)を持つ融合ポリペプチドとしても生産できる。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞により認識され、そしてプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。本来の抗体シグナル配列を認識せず、プロセシングしない原核生物宿主細胞については、シグナル配列列は、選択された原核生物シグナル配列(例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または熱安定性エンテロトキシンIIリーダーのグループに由来する)よって置換される。酵母からの分泌については、本来のシグナル配列は、例えば、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(SaccharomycesおよびKluyveromycesのα因子リーダーを含む)、または酸性ホスファターゼリーダー、C.albicansグルコアミラーゼリーダー、あるいは、WO90/13646に記載されているシグナルによって置換され得る。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物のシグナル配列、ならびにウイルスの分泌リーダー(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)を利用できる。そのような先行領域のDNAは、抗体をコードするDNAに対してリーディングフレーム内になるように連結される。
【0148】
(ii)複製起点成分
発現ベクターとクローニングベクターにはいずれも、1つ以上の選択された宿主細胞の中でのベクターの複製を可能にする核酸配列が含まれる。一般的には、クローニングベクターにおいては、この配列は宿主の染色体DNAとは無関係にベクターが複製することを可能にするものであり、これには複製起点または自律複製配列が含まれる。そのような配列は、様々な細菌、酵母、およびウイルスについて周知である。プラスミドpBR322に由来する複製起点がほとんどのグラム陰性細菌に適しており、2μプラスミド起点が酵母に適しており、そして様々なウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、またはBPV)が哺乳動物細胞中のクローニングベクターに有用である。一般的には、複製起点成分は哺乳動物発現ベクターには必要ない(SV40起点は通常、これに初期プロモーターが含まれるので、単独で使用され得る)。
【0149】
(iii)選択遺伝子成分
発現ベクターとクローニングベクターには選択遺伝子が含まれる場合があり、これは選択マーカーとも呼ばれる。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、またはテトラサイクリン)に対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養要求性欠損を補うタンパク質、あるいは(c)複合培地からは利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする(例えば、BacilliについてはD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)。
【0150】
選択方式の一例では、宿主細胞の増殖を停止させる薬物が利用される。異種遺伝子でうまく形質転換されたこれらの細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を生産し、それにより、選択レジュメを生き残る。そのような優性選択の例では、薬物であるネオマイシン、マイコフェノール酸、およびハイグロマイシンが使用される。
【0151】
哺乳動物細胞に適している選択マーカーの別の例は抗体核酸を取り込むための細胞成分(例えば、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II、好ましくは、霊長類のメタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなど)の同定を可能にするものである。
【0152】
例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、DHFRの競合アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含む培養培地中で全ての形質転換体を培養することによって最初に同定される。適切な宿主細胞は、野生型DHFRが使用される場合には、DHFR活性が欠損しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。
【0153】
あるいは、抗体である野生型DHFRタンパク質をコードするDNA配列で形質転換されたか、または別の選択マーカー(例えば、アミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH))と一緒に同時形質転換された宿主細胞(特に、内因性DHFRを含む野生型宿主)は、選択マーカーについての選択試薬(例えば、アミノグリコシド性抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、またはG418)を含む培地の中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4,965,199号を参照のこと。
【0154】
酵母において使用される適切な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7の中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcombら(1979)Nature 282:39)。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力が欠失している酵母の突然変異株(例えば、ATCC No.44076またはPEP4−1)についての選択マーカーを提供する。Jones(1977)Genetics 85:12。それにより、酵母の宿主細胞ゲノム中のtrp1損傷の存在は、トリプトファンが存在しない条件下での増殖により形質転換体を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を保有している公知のプラスミドによって補われる。
【0155】
加えて、1.6μmの環状プラスミドpKD1に由来するベクターは、Kluyveromyces酵母の形質転換に使用できる。あるいは、組み換え体ウシキモシンの大規模生産のための発現システムが、K.lactisについて報告されている。Van den Berg(1990)Bio/Technology 8:135。Kluyveromycesの産業用株による成熟組み換え体ヒト血清アルブミンの分泌のための安定な多コピーの発現ベクターもまた開示されている。Fleerら(1991)Bio/Technology 9:968−975。
【0156】
(iv)プロモーター成分
発現ベクターとクローニングベクターには、通常、宿主生物によって認識され、そして抗体核酸に対して動作可能であるように連結された1つのプロモーターが含まれる。原核細胞宿主とともに使用される適当なプロモーターとしては、phoAプロモーター、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーターが挙げられる。しかし、他の公知の細菌プロモーターも適している。細菌系で使用されるプロモーターにはまた、抗体をコードするDNAに対して動作可能であるように連結されたシャイン−ダルガーノ(S.D.)配列も含まれるであろう。
【0157】
真核生物細胞についてのプロモーター配列も知られている。事実上全ての真核生物遺伝子が、転写が開始される部位からおよそ25から30塩基上流に位置する、ATを多く含む領域を有する。多くの遺伝子の転写開始部位から70から80塩基上流に見られる別の配列は、1つのCNCAAT領域(式中、Nどの核酸でもよい)である。ほとんどの真核生物遺伝子の3’末端には、コード配列の3’末端にポリAテイルを付加するためのシグナルであり得るAATAAA配列がある。これらの配列は全て、真核生物発現ベクターに適切に挿入される。
【0158】
酵母宿主とともに使用される適切なプロモーター配列の例としては、3−ホスホグリセレートキナーゼのためのプロモーター、または他の解糖酵素(例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼ)のためのプロモーターが挙げられる。
【0159】
増殖条件によって制御される転写のさらなる利点を有している誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデハイドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関係がある分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびマルトースとガラクトースの利用に関与している酵素のプロモーター領域である。酵母発現に使用される適当なベクターとプロモーターは、EP73,657にさらに記載されている。酵母エンハンサーもまた酵母プロモーターとともに好都合に使用される。
【0160】
哺乳動物の宿主細胞の中でのベクターからの抗体の転写は、例えば、ウイルス(例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、ニワトリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスそして最も好ましくは、シミアンウイルス40(SV40))のゲノムから得られるプロモーターによって、異種哺乳動物プロモーター(例えば、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター)によって、熱ショックプロモーターによって、そのようなプロモーターが宿主細胞系と適合するとの条件で制御される。
【0161】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点もまた含むSV40制限酵素断片として簡単に得られる。ヒトのサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、HindIII E制限酵素処理断片として簡単に得られる。ベクターとしてウシパピローマウイルスを使用して哺乳動物宿主の中でDNAを発現させるための系は、米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の改変は米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下での、マウス細胞中でのヒトβ−インターフェロンcDNAの発現については、Reyesら(1982),Nature 297:598−601もまた参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウイルス長末端反復をプロモーターとして使用できる。
【0162】
(v)エンハンサーエレメント成分
本発明の抗体をコードするDNAの高等真核生物細胞による転写は、多くの場合、そのベクターの中にエンハンサー配列を挿入することによって増大させられる。哺乳動物の遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン、インシュリン)に由来する多くのエンハンサー配列が、現在知られている。しかし、典型的には、真核生物細胞ウイルス由来のエンハンサーが使用されるであろう。例として、複製起点の後期側(late side)(100〜270bp)にあるSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核生物のプロモーターの活性化のためのエンハンスエレメントについては、Yaniv(1982),Nature,297:17−18もまた参照のこと。このエンハンサーはベクターの中で、抗体をコードする配列に対して5’位置または3’位置でスプライシングされ得るが、プロモーターから5’の位置に配置されることが好ましい。
【0163】
(vi)転写終結成分
真核生物宿主細胞において使用される発現ベクター(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、または他の多細胞生物由来の有核細胞)には、転写の終結のため、そしてmRNAの安定化のために必要な配列もまた含まれるであろう。そのような配列は、通常、真核生物もしくはウイルスのDNAまたはcDNAの5’非翻訳領域、場合によっては、3’非翻訳領域から得ることができる。これらの領域には、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分の中にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントが含まれる。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンのポリアデニル化領域である。WO94/11026および本明細書中に開示される発現ベクターを参照のこと。
【0164】
(vii)宿主細胞の選択と形質転換
本明細書中のベクター中でのDNAのクローニングまたは発現に適している宿主細胞は、上記に記載された原核生物細胞、酵母細胞、または高等真核生物細胞である。この目的に適している原核生物としては、グラム陰性微生物またはグラム陽性微生物のような真正細菌、例えば、腸内細菌(例えば、Escherichia(例えば、E.coli)、Enterobacter、Erwinia、Klebsiella、Proteus、Salmonella(例えば、Salmonella typhimurium)、Serratia(例えば、Serratia marcescans)、およびShigella、およびBacilli(例えば、B.subtilisおよびB.licheniformis(例えば、1989年4月12日に公開されたDD 266,710に開示されているB.licheniformis 41P)、Pseudomonas(例えば、P.aeruginosa)、ならびにStreptomycesが挙げられる。1つの好ましいE.coliクローニング宿主はE.coli 294(ATCC 31,446)であるが、E.coli B、E.coli X1776(ATCC 31,537)、およびE.coli W3110(ATCC 27,325)のような他の株も適している。これらの例は限定でなく例示である。
【0165】
原核生物細胞に加えて、真核微生物(例えば、糸状菌または酵母)が抗体をコードするベクターに適しているクローニングまたは発現宿主である。Saccharomyces cerevisiae(すなわち、一般的なパン酵母)は、下等真核生物宿主微生物のうちで最も一般的に使用されている。しかし、以下のような多数の他の属、種、および株も一般に利用することができ、本明細書中で有用である:Schizosaccharomyces pombe;Kluyveromyces宿主(例えば、K.lactis,K.fragilis(ATCC 12,424)、K.bulgaricus(ATCC 16,045)、K.wickeramii(ATCC 24,178)、K.waltii(ATCC 56,500)、K.drosophilarum(ATCC 36,906)、K.thermotolerans、およびK.marxianus、yarrowia(EP 402,226);Pichia pastoris(EP 183,070);Candida;Trichoderma reesia(EP 244,234);Neurospora crassa;Schwanniomyces(例えば、Schwanniomyces occidentalis);ならびに、糸状菌(例えば、Neurospora、Penicillium、Tolypocladium、およびAspergillus宿主(例えば、A.nidulansおよびA.niger))。
【0166】
グリコシル化抗体の発現に適している宿主細胞は多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞および昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株と変異体、そして以下のような宿主に由来する対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている:Spodoptera frugiperda(毛虫)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(ハエ)、およびBombyx mori。トランスフェクションのための様々なウイルス株(例えば、Autographa californica NPVのL−1変異体およびBombyx mori NPVのBm−5株)は公に入手することができ、そのようなウイルスは本発明に従って本明細書中でウイルスとして、特に、Spodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、使用され得る。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペツニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養物もまた宿主として利用できる。
【0167】
しかし、最大の関心は脊椎動物細胞に向けられており、培養物(組織培養物)中での脊椎動物細胞の増殖は日常的に行われている作業となっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は以下である:SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓細胞株(293、または懸濁培養中での増殖についてサブクローニングされた293細胞、Grahamら(1977)J.Gen Virol.36:59);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO,Urlaubら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather(1980)Biol.Reprod.23:243−251);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト頚管腫瘍細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍細胞(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら(1982)Annals N.Y.Acad.Sci.383:44−68);MRC5細胞;FS4細胞、およびヒト肝ガン細胞株(Hep G2)。
【0168】
宿主細胞は、抗体生産のために上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘導するため、形質転換体を選択するため、または所望される配列をコードする遺伝子を増幅するために適切に改変された通常の栄養培地の中で培養される。
【0169】
(viii)宿主細胞の培養
本発明の抗体を生産するために使用される宿主細胞は様々な培地中で培養され得る。Ham’s F−10(Sigma)、Minimal Essential Medium((MEM)、(Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、およびDulbeccoの改変Eagle Medium((DMEM)、Sigma)のような商業的に入手することができる培地は、宿主細胞の培養に適している。加えて、Hamら(1997)Meth.Enz.58:44(1979)、Barnesら(1980),Anal.Biochem.,102:255;米国特許第4,767,704号;第4,657,866号;同第4,927,762号;同4,560,655号;または同第5,122,469号;WO90/03430;WO87/00195;あるいは、再発行米国特許第30,985号に記載されている培地のうちの任意のものが、宿主細胞用の培養培地として使用され得る。これらの培地にはいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオチド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン(GENTAMYCIN(商標))薬物)、微量元素(最終濃度がマイクロモルの範囲で通常存在する無機化合物として定義される)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源が補充され得る。いずれの他の必要な添加物も、当業者に公知であろう適当な濃度で含められ得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞について以前に使用された条件であり、当業者には明らかであろう。
【0170】
(ix)抗体精製
組み換え技術を使用する場合には、抗体を、細胞内で、ペリプラズム空間で生産させることができ、また、培地中に直接分泌させることもできる。抗体が細胞内で生産される場合には、最初の工程として、特定の破片(宿主細胞または溶解させられた断片のいずれか)が、例えば、遠心分離または限外濾過によって除去される。Carterら(1992)Bio/Technology 10:163−167には、E.coliのペリプラズム空間に分泌される抗体を単離するための手順が記載されている。簡単に説明すると、細胞ペーストが酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)の存在下で約30分間かけて解凍される。細胞の破片は遠心分離によって除去することができる。抗体が培地中に分泌される場合は、そのような発現システムに由来する上清は、通常は、市販されているタンパク質濃縮フィルター(例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニット)を使用して最初に濃縮される。PMSFのようなプロテアーゼ阻害剤を、タンパク質分解を阻害するために上記工程のいずれかに含めることができ、抗生物質は、付随する混入物質の増殖を防ぐために含めることができる。
【0171】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、およびアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製することができ、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適性は、抗体の中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびイソ型に依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、またはγ4重鎖をベースとする抗体を精製するために使用することができる(Lindmarkら(1983)J.Immunol.Meth.62:1−13)。プロテインGは、全てのマウスイソ型およびヒトγ3に推奨される(Gussら(1986)EMBO J.5:15671575)。親和性リガンドがそれに対して結合させられるマトリックスは、最も多くの場合にはアガロースであるが、他のマトリックスを利用することもできる。機械的に安定なマトリックス(例えば、多孔質ガラス(controlled pore glass)またはポリ(スチレンジビニル)ベンゼン))は、アガロースを用いて得ることができるよりも早い流速と短い処理時間を可能にする。抗体にC3ドメインが含まれる場合は、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,NJ)が精製に有用である。タンパク質精製のための他の技術(例えば、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)上でのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上でのクロマトグラフィー、クロマト分画、SDS−PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿)もまた、回収される抗体に応じて利用することができる。
【0172】
任意の予備的な精製工程(単数または複数)の後、目的の抗体と混入物質を含む混合物は、好ましくは、低塩濃度(例えば、約0〜0.25Mの塩)で行われる、約2.5〜4.5のpHの溶離緩衝液を使用する低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供され得る。
【0173】
C3b抗体と他のC3bアンタゴニストを同定するためのスクリーニングアッセイと動物モデル
C3b抗体と他のC3bアンタゴニストは、第二補体経路を選択的に阻害し、補体が関係している障害を予防および処置するそれらの能力について、様々なインビトロおよびインビボアッセイにおいて評価することができる。
【0174】
インビトロアッセイ(例えば、結合アッセイおよび競合結合アッセイ、溶血(hemolytixc)アッセイ)が実施例に記載される。
【0175】
本明細書中のC3bアンタゴニスト(例えば、C3b抗体)のインビボでの治療活性は、関連する動物モデルにおいて試験することができる。したがって、例えば、組み換え体(トランスジェニック)動物モデルを、トランスジェニック動物を作製するための標準的な技術を使用して、目的の動物のゲノムの中に目的の遺伝子のコード部分を導入することによって操作することができる。トランスジェニック操作の標的となり得る動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびヒト以外の霊長類(例えば、ヒヒ、チンパンジー、および他のサル)が挙げられるが、これらに限定されない。そのような動物にトランスジーンを導入するための当該分野で公知の技術としては、前核へのマイクロインジェクション(pronucleic microinjection)(Hoppe and Wanger,米国特許第4,873,191号);生殖細胞系列へのレトロウイルスを介した遺伝子導入(例えば、Van der Puttenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,6148−615[1985]);胚性幹細胞の中での遺伝子標的化(Thompsonら、Cell 56,313−321[1989]);胚のエレクトロポレーション(Lo,Mol.Cell.Biol.3,1803−1814[1983]);精液を介した遺伝子導入(Lavitranoら、Cell 57,717−73[1989])が挙げられる。概要については、例えば、米国特許第4,736,866号を参照のこと。
【0176】
本発明の目的については、トランスジェニック動物には、それらの細胞の一部にのみトランスジーンを持つ動物(「モザイク動物」)が含まれる。トランスジーンは、単一のトランスジーンとして、またはコンカタマー(例えば、頭−頭、または頭−尾のタンデム)中のいずれかとして組み込まれ得る。特定の細胞タイプへのトランスジーンの選択的導入もまた、例えば、Laskoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,623−636(1992)の技術にしたがって可能である。
【0177】
トランスジェニック動物中でのトランスジーンの発現は標準的な技術によってモニターすることができる。例えば、サザンブロット分析またはPCR増幅をトランスジーンの組み込みを確認するために使用することができる。その後、mRNAの発現レベルを、インサイチュハイブリダイゼーション、ノーザンブロット分析、PCR、または免疫細胞化学技術のような技術を使用して分析することができる。
【0178】
動物はさらに、免疫疾患の病状の兆候について、例えば、特異的組織への免疫細胞の浸潤を決定するための組織学的試験によって試験され得る。
【0179】
組み換え(トランスジェニック)動物モデルは、トランスジェニック動物を作製するための標準的技術を使用して、目的の動物のゲノムに目的の遺伝子のコード部分を導入することによって操作することができる。トランスジェニック操作のための標的となり得る動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびヒト以外の霊長類(例えば、ヒヒ、チンパンジー、および他のサル)が挙げられるが、これらに限定されない。導入遺伝子をこのような動物に導入するための当該分野で公知の技術としては、前核へのマイクロインジェクション(Hoppe and Wanger,米国特許第4,873,191号);生殖細胞系列へのレトロウイルスを介した遺伝子導入(例えば、Van der Puttenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,6148−615[1985]);胚性幹細胞の中での遺伝子標的化(Thompsonら、Cell 56,313−321[1989]);胚のエレクトロポレーション(Lo,Mol.Cell.Biol.3,1803−1814[1983]);精液を介した遺伝子導入(Lavitranoら、Cell 57,717−73[1989])が挙げられる。概要については、例えば、米国特許第4,736,866号を参照のこと。
【0180】
例えば、関節炎の予防および/または処置における効力は、コラーゲン誘導性関節炎モデル(Teratoら、Brit.J.Rheum.35:828〜838(1966))において評価することができる。関節炎の予防/治療の有効性はまた、Teratoら、J.Immunol.148:2103〜8(1992)およびTeratoら、Autoimmunity 22:137〜47(1995)によって記載されているように、4つのモノクローナル抗体のカクテルの静脈内注射によって誘導された抗体媒介性関節炎のモデルにおいてもスクリーニングすることができる。関節炎の予防および/または治療についての候補は、トランスジェニック動物モデル(例えば、TNF−αトランスジェニックマウス(Taconic))において研究することもできる。これらの動物は、ヒト腫瘍壊死因子(TNF−α)、ヒトの関節リウマチの病因と関係があるサイトカインを発現する。これらのマウス中のTNF−αの発現は、前脚および後足の重度の慢性関節炎を生じ、炎症性関節炎のシンプルなマウスモデルを提供する。
【0181】
近年、乾癬の動物モデルも開発されている。Asebia(ab)、フレーク状の皮膚(fsn)、および慢性増殖性皮膚炎(cpd)は、乾癬様の皮膚の変化を有している自発的なマウス突然変異体である。サイトカイン(例えば、インターフェロン−γ、インターロイキン−1α、ケラチノサイト増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−α、インターフェロン−6、血管内皮増殖因子、または骨形態形成タンパク質−6)の皮膚での過剰発現を有しているトランスジェニックマウスもまた、インビボで乾癬を研究するため、および乾癬の処置のための治療薬を同定するために使用することができる。乾癬様の病変はまた、PL/J株に戻し交配されたβ−インテグリンの発現量が低下したマウス(β−integrin hypomorphic mice)、およびβ−インテグリントランスジェニックマウス、CD4/CD45RBhiTリンパ球で再構成されたscid/scidマウス、ならびに、HLA−B27/hβmトランスジェニックラットにおいても記載されている。免疫不全マウスに移植されたヒトの皮膚を使用する異種移植モデルもまた知られている。このように、本発明の抗体および他のC3bアンタゴニストは、Schon.M.P.ら、Nat.Med.(1997)3:183に記載されているscid/scidマウスモデルにおいて試験することができる。ここでは、マウスは、乾癬に類似する組織病理学的皮膚病変を示す。別の適切なモデルは、Nickoloff.B.J.ら、Am.J.Path.(1995)146:580に記載されているように調製されたヒト皮膚/scidマウスキメラである。さらなる詳細については、例えば、Schon,M.P.,J Invest Dermatology 112:405−410(1999)を参照のこと。
【0182】
喘息のモデルが記載されている。ここでは、抗原誘導性の、気道過剰反応、肺好酸球増加症、および炎症が、動物をオボアルブミンで感作させ、次にエアロゾルによって送達された同じタンパク質で動物をチャレンジすることによって誘導される。いくつかの動物モデル(モルモット、ラット、ヒト以外の霊長類)は、エアロゾル抗原でチャレンジされると、ヒトのアトピー性喘息と類似する症状を示す。マウスのモデルは、ヒトの喘息の特徴の多くを有している。喘息の処置における活性と有効性についてCRIgおよびCRIgアゴニストを試験するための適切な方法は、Wolyniec,W.W.ら、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.(1998)18:777、およびその中の参考文献に記載されている。
【0183】
接触過敏症は、細胞媒介性免疫機能のシンプルなインビボアッセイである。この手法では、上皮細胞が、遅延型過敏症反応を引き起こす外来性ハプテンに対して暴露させられ、遅延型過敏症反応が測定され、定量される。接触過敏症には初期感作期が含まれ、その後に誘発期が続く。この誘発期は、上皮細胞が以前に接触した抗原に遭遇すると起こる。腫れと炎症が起こり、それにより、これはヒトのアレルギー性接触皮膚炎の優れたモデルとなる。適切な手法は、Current Protocols in Immunology, J.E.Cologan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach、およびW.Strober編,John Wiley & Sons,Inc.,1994,unit 4.2に詳細に記載されている。Grabbe,S.and Schwarz,T,Immun.Today 19(1):37−44(1998)もまた参照のこと。
【0184】
移植片対宿主病は、免疫担当細胞が免疫抑制されている患者または免疫寛容である患者に移植された場合に起こる。ドナー細胞は宿主抗原を認識し、これに対して応答する。この応答は、生命を脅かす重篤な炎症から下痢や体重減少の穏やかな症例まで様々であり得る。移植片対宿主病モデルは、MHC抗原および微量の移植抗原に対するT細胞の反応性を評価する手段を提供する。適切な手法は、Current Protocols in Immunology(前出)unit 4.3に詳細に記載されている。
【0185】
皮膚同種移植片拒絶の動物モデルは、T細胞がインビボで組織破壊を媒介する能力を試験する手段であり、これは、抗ウイルスおよび腫瘍免疫性におけるそれらの役割の指標であり、尺度である。最も一般的であり、許容されるモデルでは、マウスの尾の皮膚移植が使用される。反復実験により、皮膚同種移植片拒絶は、T細胞、ヘルパーT細胞、およびキラーエフェクターT細胞によって媒介され、抗体には媒介されないことが示されている。Auchincloss,H.Jr.and Sachs,D.H.,Fundamental Immunology,第2版,W.E.Paul編,Raven Press,NY,1989,889−992。適切な手法は、Current Protocols in Immunology,(前出)unit 4.4に詳細に記載されている。CRIgおよびCRIgアゴニストの試験に使用できる他の移植片拒絶モデルは、Tanabe,M.ら、Transplantation(1994)58:23およびTinubu,S.A.ら、J.Immunol.(1994)4330−4338に記載されている同種心臓移植モデルである。
【0186】
遅延型過敏症の動物モデルは、同様に細胞媒介性の免疫機能のアッセイ法を提供する。遅延型の過敏症反応は、抗原でのチャレンジ後に一定の時間が経過するまではピークに達しない炎症を特徴とするT細胞媒介性のインビボ免疫応答である。これらの反応はまた、組織特異的自己免疫疾患、例えば多発性硬化症(MS)および実験用の自己免疫性脳脊髄炎(EAE、MSのモデル)も生じる。適切な手法は、Current Protocols in Immunology,(前出)unit 4.5に詳細に記載されている。
【0187】
EAEは、T細胞と単核細胞の炎症、およびそれに続いて起こる中枢神経系の軸索の脱髄を特徴とするT細胞媒介性の自己免疫疾患である。EAEは、一般的には、ヒトのMSについての関連する動物モデルであると考えられる。Bolton,C.,Multiple Sclerosis(1995)1:143。急性寛解モデルおよび再発性寛解モデルの両方が開発されている。CRIgとそのアゴニストおよびアンタゴニストは、Current Protocols in Immunology,(前出)unit 15.1および15.2に記載されているプロトコールを使用して、免疫媒介性の脱髄疾患に対するT細胞刺激性活性または阻害活性について試験することができる。Duncan,I.D.ら、Molec.Med.Today(1997)554−561に記載されているような、乏突起膠細胞またはSchwann細胞が中枢神経系に移植されるミエリン疾患のモデルも参照のこと。
【0188】
心筋虚血−再潅流のモデルは、マウスまたはラットにおいて行うことができる。動物は気管切開され、小動物用の人工呼吸器で酸素が供給される。ポリエチレンカテーテルが、平均動脈血圧の測定のために、内頚動脈と外頸静脈に挿入される。心筋虚血再潅流は左下行前動脈(LAD)を6−O縫合糸で結紮することによって開始される。虚血は、完全に血管を閉塞させるようにLADを取り囲む可逆性の結紮をきつくすることによって生じさせられる。縫合糸が30分後に取り除かれ、心臓が4時間潅流される。CRIgとCRIgアゴニストは、心筋梗塞の大きさ、心臓のクレアチンキナーゼ活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、および抗C3抗体を使用する免疫組織化学を測定することによって、それらの効力について試験することができる。
【0189】
糖尿病性網膜症のモデルには、ストレプトゾトシンでのマウスまたはラットの処置が含まれる。CRIgとCRIgアゴニストは、眼窩の拡張(venule dilatation)、網膜内細小血管異常、および網膜と硝子体腔の新生血管に対するそれらの影響について試験することができる。
【0190】
膜増殖性糸球体腎炎のモデルは以下のように確立させることができる:雌のマウスは、CFA中の0.5mgの対照であるウサギIgGでi.p.免疫化される(−7日)。7日後(0日)、1mgのウサギ抗マウス糸球体基底膜(GBM)抗体が尾静脈からi.v.注射される。血清中の抗ウサギIgG抗体の上昇がELISAによって測定される。24時間の尿試料が代謝ケージの中のマウスから採取され、マウスの腎機能が、血中尿素窒素に加えて尿タンパク質の測定によって評価される。
【0191】
加齢黄斑変性(AMD)の動物モデルは、Ccl−2またはCcr−2遺伝子にヌル変異を有しているマウスからなる。これらのマウスはAMDの基本的な特徴を発症し、これには、リポフスシンの蓄積、および網膜色素上皮(RPE)の真下にあるドルーゼン、光受容体アトロフィー、および脈絡膜新生血管(CNV)が含まれる。これらの特徴は、6ヶ月の年齢を過ぎて発症する。CRIgとCRIgアゴニストは、ドルーゼンの形成、光受容体アトロフィー、および脈絡膜新生血管について試験することができる。
【0192】
CNVは、レーザーで誘導された脈絡膜新生血管の様々なモデルにおいて試験することができる。したがって、例えば、CNVは、脈絡膜新生血管を生じる強いレーザー照射(laser photocoagulation)によって、ラットおよびカニクイザルにおいて誘導することができる。この症状の進行と処置は、例えば、蛍光眼底血管造影法、組織病理学的および免疫組織化学的評価によって、ならびに、様々な時間の間隔で、処置の前後に動物から回収された血清についての薬物動態、溶血、抗体スクリーニング、および補体活性化アッセイによって評価することができる。予防的投与の効力は、蛍光眼底血管造影による血管の漏出のモニタリング、レーザーによる火傷の部位での補体の沈着の阻害、検眼、眼底撮影(ocular photography)、硝子体と網膜組織の回収などを含む類似する方法によってモニターすることができる。さらなる詳細は以下の実施例に提供される。
【0193】
処置方法
補体が関係している障害の予防、処置、またはその重篤度の軽減のための本発明の化合物の適切な投与量は、上記で定義されたような処置される障害のタイプ、障害の重篤度およ経過、薬剤が予防目的で投与されるのかまたは治療目的で投与されるのか、以前に行われた治療、患者の臨床病歴および化合物に対する応答、ならびに主治医の判断に応じて様々であろう。化合物は、一回の処置で、または一連の処置によって、患者に適切に投与される。好ましくは、インビトロで、その後、ヒトでの試験の前に有用な動物モデルにおいて、用量応答曲線と本発明の薬学的組成物を決定することが所望される。
【0194】
例えば、疾患のタイプと重篤度に応じて、例えば、1回以上の分けられた投与によって、または持続注入によるかに関わらず、約1μg/kgから15mg/kg(例えば、0.1mg/kg〜20mg/kg)の抗C3b抗体または他のC3bアンタゴニストが、患者に投与される最初の候補用量である。典型的な1日量は、上記の要因に応じて約1μg/kg〜100mg/kg、またはそれ以上の範囲であろう。症状に応じた数日間以上にわたる反復投与については、処置は、症状に応じて疾患の兆候の所望される抑制が生じるまで維持される。しかし、他の投与レジュメが有効である可能性もある。この治療の進行は、従来技術およびアッセイによって容易にモニターされる。
【0195】
補体が関係している眼の症状(例えば、AMDまたはCNV)の処置の有効性は、眼内疾患の評価において一般的に使用されている様々な評価項目によって測定することができる。例えば、視力低下を評価することができる。視力低下は、例えば、ベースラインから所望される時点までの最も正確な視力(BCVA)の平均変化による測定(例えば、BCVAはEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)視力チャートと、4メートルの試験距離での評価に基づく)、ベースラインと比較して所望される時点で視力において15文字未満の視力低下がある被験体の割合の測定、ベースラインと比較して所望される時点で15文字以上の視力を取り戻した(gain)被験体の割合の測定、所望される時点で20/2000またはそれよりもさらに悪いSnellen視力を有している被験体の割合の測定、NEI Visual Functioning Questionnaireの測定、所望される時点でのCNVの大きさとCNVの漏出量の測定(例えば、フルオレセイン血管造影法による)などによって評価することができるが、これらに限定されない。例えば、眼の検査を行うこと、眼内圧を測定すること、視力を評価すること、スリットランプ圧(slitlamp pressure)を測定すること、眼内の炎症を評価することなどを含むがこれらに限定されない、眼の評価を行うことができる。
【0196】
薬学的組成物
本発明のC3b抗体および他のC3bアンタゴニストは、薬学的組成物の形態で、補体が関係している障害の処置のために投与することができる。
【0197】
本発明のC3b抗体および他のアンタゴニストの治療用処方物は、所望される純度を有している活性分子を、状況に応じた薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版,Osol,A.編[1980])と混合することによって、凍結乾燥させられた処方物または水溶液の形態で、保存用に調製される。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用される投与量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、そしてこれらとしては、以下が挙げられる:緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸);抗酸化物質(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール):低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン);単糖類、二糖類および他の炭化水素(例えば、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート化剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール);塩を形成する対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);ならびに/あるいは非イオン性界面活性剤(例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0198】
リポフェクションまたはリポソームもまた、ポリペプチド、抗体、または抗体断片を細胞に送達するために使用することができる。抗体断片が使用される場合は、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最も小さい断片が好ましい。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を保持しているペプチド分子を設計することができる。そのようなペプチドは化学合成することができ、そして/または組み換えDNA技術によって生産することができる(例えば、Marascoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,7889−7893[1993]を参照のこと)。
【0199】
活性分子はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって調製されたマイクロカプセル(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル、およびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)の中に、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)の中に、あるいは、マイクロエマルジョンの中に捕捉させることもできる。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.編(1980)に開示されている。
【0200】
インビボでの投与に使用される処方物は滅菌されていなければならない。これは、滅菌濾過膜を通す濾過によって容易に行われる。
【0201】
徐放調製物が調製され得る。徐放調製物の適切な例としては、抗体を含む固体の疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられる。このマトリックスは成型されたもの(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形態である。徐放マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニルコポリマー、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー(例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グルコール酸コポリマーと酢酸ロイプロリドから構成される注射可能なマイクロスフェア))、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グルコール酸のようなポリマーは100日を越えて分子を放出することができるが、特定のヒドロゲルはより短い期間にわたりタンパク質を放出する。カプセル化された抗体が体内に長期間留まる場合には、これらは、37℃で水分に曝された結果として変性または凝集する可能性があり、それにより生物学的活性の消滅が生じ、そして免疫原性が変化する可能性がある。合理的な方法論は、関係がある機構に応じた安定化のために考案することができる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換による分子内S−S結合形成であることが発見された場合には、安定化は、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適切な添加剤を使用し、そして特異的なポリマーマトリックス組成物を生じさせることによって行われ得る。
【0202】
眼の疾患もしくは症状の予防または処置のための本発明の化合物は、通常は、眼への注射、眼内注射、および/または硝子体内注射によって投与される。他の投与方法もまた使用され、これには、局所投与、非経口投与、皮下投与、腹腔内投与、肺内投与、鼻腔内投与、および病変内投与が含まれるが、これらに限定されない。非経口での注入には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、または皮下投与が含まれる。
【0203】
眼への投与、眼内投与、または硝子体内投与のための処方物は、当該分野で公知の方法によって、そして当該分野で公知の成分を使用して調製することができる。有効な処置の主要な要件は、眼からの適切な浸透である。薬物を局所的に送達することができる眼の前部の疾患とは異なり、網膜の疾患にはより部位特異的なアプローチが必要である。点眼薬および眼用軟膏はまれにしか眼の裏側に浸透せず、血液−眼バリアは、全身投与された薬物の眼組織への浸透の妨げとなる。したがって、通常は、網膜の疾患(例えば、AMDおよびCNV)を処置するための薬物送達に選択される方法は、直接の硝子体内注射である。硝子体内注射は、通常は、患者の症状、および送達される薬物の特性と半減期に応じた間隔で繰り返される。眼内(例えば、硝子体内)への浸透のためには、通常は、より小さな大きさの分子が好ましい。
【0204】
以下の実施例は、説明の目的だけのために提供され、いかなる方法においても本発明の範囲を限定するようには意図されない。
【実施例】
【0205】
実施例において言及される市販されている試薬は、他の場所に明記されない限りは、製造業者の説明書にしたがって使用した。以下の実施例の中、および明細書全体を通じてATCC登録番号によって特定されたこれらの細胞の供給源は、American Type Culture Collection,10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209である。
【0206】
抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸残基は、Kabat(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))にしたがってナンバリングされる。一文字のアミノ酸省略形が使用される。DNAの縮重はIUBコードを使用して表される(N=A/C/G/T、D=A/G/T、V=A/C/G、B=C/G/T、H=A/C/T、K=G/T、M=A/C、R=A/G、S=G/C、W=A/T、Y=C/T)。
【0207】
(実施例1)
出発抗体の超可変領域をコードするファージから誘導された抗体
HERCEPTIN(登録商標)抗HER2抗体rhuMAB 4D5−8(Genentech,Inc.)のVLドメインとVHドメインの核酸配列(図18Aおよび18B)を、HVRの突然変異誘発と、ヒトC3bに対する結合についてのファージ選択のための出発配列として使用した。抗体4D5は、Her−2(erbB2)として公知のガン関連抗原に特異的なヒト化抗体である。この抗体には、コンセンサスフレームワーク領域を有している可変ドメインが含まれており、ここでは、ヒト化抗体の親和性を増大させるプロセスの間に、マウス配列に対して数個の位置が反転させられている。ヒト化抗体4D5の配列と結晶構造は米国特許第6,054,297号、Carterら、PNAS 89:4285(1992)に記載されており、結晶構造は、Carterら、J.Mol.Biol.229:969(1993)、およびwww/ncbi/nih/gov/structure/mmdb(MMDB#s−990−992)にオンライン上に示されている。これらの開示全体が引用により明らかに本明細書中に組み込まれる。
【0208】
HERCEPTIN(登録商標)のVLドメインとVHドメインには、コンセンサスなヒトκI VLドメインと、ヒトのサブグループIIIのコンセンサスVHドメインの変異体が含まれる。変異体VHドメインは、ヒトのコンセンサスから3つが変化している:R71A、N73T、およびL78A。
【0209】
この研究に使用したファージミドは、原則として、Leeら、J.Mol.Biol.(2004),340(5):1073−93に記載されたとおりである、phoAプロモーターの制御下に2つのオープンリーディングフレームを有している1価のFab−g3ディスプレイベクター(pV0350−2B)である。第1のオープンリーディングフレームは、VLに融合させられたstIIシグナル配列とCH1ドメインアクセプター軽鎖からなり、そして第2のオープンリーディングフレームは、VHに融合させられたstIIシグナル配列とアクセプター重鎖のCH1ドメイン、それに続く短縮型のマイナーファージ外被タンパク質P3からなる。Leeら(前出)を参照のこと。
【0210】
重鎖HVRの突然変異誘発によって作製された抗体
FabクローンYW144.2.43を、huMAb 4D5−8(HERCEPTIN(登録商標)抗HER2抗体、Genentech,Inc.)重鎖のHVR−H1、H2、およびH3の突然変異誘発と、ヒトC3b融合タンパク質に対する選択によって作製した。HVR−H1の中では、Kabat位置26(G)、27(F)、28(T)、29(I)、34(I)、および35(H)を一定にし、30〜33位のアミノ酸を変化させた。HVR−H2の中では、Kabat位置51(I)、52a(P)、55(G)、57(T)、59(Y)、60(A)、61(D)、62(S)、63(V)、64(K)、および65(G)を一定にし、位置49、50、52、53、54、56、および58を変化させた。HVR−H3においては、Kabat位置93(A)と102(Y)を一定にし、位置94〜100、100a〜h、および101を変化させた。YW144.2.43の軽鎖は改変されたhuMAb 4D5−8配列(位置30、66、および91で改変された)であり、そのHVRは、ファージ選択の間には変化させなかった。配列多様性を、標準的な突然変異誘発技術を使用して、選択したアミノ酸位置の突然変異誘発によってそれぞれの超可変領域に導入した。
【0211】
ファージライブラリーの作製
それぞれの超可変領域について設計した無作為化したオリゴヌクレオチドのプールを、660ngのオリゴヌクレオチド、50mMのTris(pH7.5)、10mMのMgCl、1mMのATP、20mMのDTT、および5Uのポリヌクレオチドキナーゼを含む6個の20μlの反応の中で、別々に、37℃で1時間リン酸化させた。次いで、6つのリン酸化させたオリゴヌクレオチドのプールを、500μlの最終容量の中で、50mMのTris(pH7.5)、10mMのMgCl中の20μgのKunkel鋳型と混合して、鋳型に対するオリゴヌクレオチドの比を3とした。この混合物を90℃で4分間、50℃で5分間アニーリングさせ、その後、氷上で冷却した。過剰量のアニーリングしなかったオリゴヌクレオチドをQIAQUICK(登録商標)PCR精製キット(Qiagenキット28106)を用いて、アニーリングしたDNAの過度の変性を防ぐように改変されたプロトコールを使用して除去した。500μlのアニーリングした混合物に対して、150μlのPBを添加し、混合物を2つのシリカカラムに分けた。750μlのPEでのそれぞれのカラムの洗浄と、カラムを乾燥させるためのさらなる回転の後、個々のカラムを、110μlの10mMのTris、1mMのEDTA(pH8)で溶離させた。アニーリングさせ、洗浄した(cleaned−up)鋳型(220μl)を、その後、1μlの100mMのATP、10μlの25mMのdNTP(それぞれ25mMのdATP、dCTP、dGTP、およびdTTP)、15μlの100mMのDTT、25μlの10×TM緩衝液(0.5MのTris(pH7.5)、0.1MのMgCl)、2400UのT4リガーゼ、および30UのT7ポリメラーゼを添加することによって、室温で3時間かけてフィルイン(filled in)した。
【0212】
フィルイン産物をTris−Acetate−EDTA/アガロースゲル上で分析した(Sidhuら、Methods in Enzymology 328:333−363(2000))。通常は3つのバンドを見ることができた:下部のバンドは、正確にフィルインされ、連結された産物であり、中央のバンドはフィルインされたが連結されていない産物であり、そして上部のバンドは鎖置換された産物である。上部のバンドは、T7ポリメラーゼの強い副活性(side activity)によって生じ、回避することは難しい(Lechnerら、J.Biol.Chem.258:11174−11184(1983))。しかし、このバンドは、下部のバンドよりも変換される効率が30倍小さく、通常は、ライブラリーにはほとんど寄与しない。中央のバンドは、最終的な連結反応のための5’リン酸が存在しないことが原因である。このバンドの変換は効率的であり、主に野生型配列を生じる。
【0213】
その後、フィルイン産物を精製し、SS320細胞にエレクトロポレーションし、Sidhuら、Methods in Enzymology 328:333−363(2000)に記載されているように、M13/KO7へルパーファージの存在下で増殖させた。ライブラリーの大きさは、1〜2×10の個別のクローンの範囲である。最初のライブラリーに由来する無作為なクローンを、ライブラリーの質を評価するために配列決定した。
【0214】
ファージ選択
ヒトC3bタンパク質を選択抗原として使用した。ヒトC3bを、PBS中10μg/mlで、MaxiSorpマイクロタイタープレート(Nunc)上にコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。第1回目の選択には、12ウェルの標的を使用した。ウェルを、室温で1時間、ファージブロッキング緩衝液(Phage Blocking Buffer)(1%のBSA、0.05%のTween 20、PBS)を使用してブロックした。ファージライブラリーを凍結させたグリセロールストックからPEGで沈殿させ、ファージブロッキング緩衝液中に再度懸濁させ、室温で1時間インキュベートした。その後、ファージライブラリーを、室温で一晩インキュベートしたブロックした抗原プレートに対して添加した。一晩の結合後、結合していない/非特異的ファージを、洗浄緩衝液(Wash Buffer)(PBS、05%のTween20)での洗浄によって抗原プレートから除去した。結合したファージは、ウェルを50mMのHCl、0.5MのKClとともに30分間インキュベートすることによって溶離させた。ファージを、XL−1 Blue細胞とM13/KO7ヘルパーファージを使用して増幅させ、2YT、50μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのカナマイシン、10ug/mlのテトラサイクリン中で30℃で36時間増殖させた。増幅させたファージを、その後、改変されたPEG沈殿プロトコール(Monaci,P.,Cortese,R.,Screening phage libraries with sera:Phage display−A practical approach,Clackson and Lowman編,2004,193−215頁)を使用して回収した。標的をコーティングしたウェルから溶離したファージの力価を、富化を評価するために、標的をコーティングしなかったウェルから回収したファージの力価に対して比較した。4回のファージ選択を、標的ウェルの数を4(2回)から2(3回目と4回目)に減らしながら完了した。カゼインブロッキング緩衝液(Casein Blocking Buffer)(Pierce)を、2回目と4回目の抗原プレートおよびファージ用のブロッキング試薬として使用した。2〜4回目の選択では、3〜4時間のファージ−抗原結合時間と、高い洗浄ストリンジェンシーを使用した。ヒトC3bのパンニングの場合には、ヒトC3もまた、ヒトC3にも結合できるファージ抗体に対する対抗選択として、2〜4回目の選択においてファージ−抗原インキュベーションの間に添加した(>1μM)。ヒトファージクローンYW144.2.43を選択した。C3bパンニングの結果を図1に示す。C3bの結合特性は、実施例3に開示するように決定した。
【0215】
(実施例2)
HVR H1、H2、H3、およびL3のバリエーションによって作製した抗体
クローンYW144.2.43を、huMAb 4D5−8(HERCEPTIN(登録商標)抗HER2抗体、Genentech, Inc.)重鎖可変ドメインとhuMAb 4D5−8改変軽鎖可変ドメインのHVR−H1、H2、H3、およびL3の突然変異誘発によって作製した。HVR−H1においては、Kabat位置26(G)、28(T)、29(F)、30(S)、31(S)、および35(S)は一定にし、位置27、32〜34のアミノ酸を変化させた。HVR−H2においては、Kabat位置49(S)、51(I)、55(G)、57(T)、59(Y)、60(A)、61(D)、62(S)、63(V)、64(K)、および65(G)は一定にし、位置50、52、52a、53、54、56、および58を変化させた。HVR−H3においては、Kabat位置93(A)、94(R)、100f〜g(欠失)は一定にし、位置95〜100、100a〜e、100h、および102を変化させた。HVR−L3においては、Kabat位置89(Q)、90(Q)、95(P)、および97(T)を一定にし、位置91〜94、および96を変化させた。HVR−L1の配列は、RASQSISSYLA(配列番号11)として一定にし、HVR−L2の配列は、GASSRAS(配列番号12)として一定にした。配列多様性を、標準的な突然変異誘発技術を使用して選択したアミノ酸位置を突然変異誘発させることによって、個々の超可変領域の中に導入した。抗C3v抗体クローンを選択し、配列決定した。
【0216】
YW144.2.43の親和性成熟
抗C3b抗体YW144.2.43の親和性を改善するために、YW144.2.43の骨格において3種類のファージディスプレイライブラリーを作製し、これらはそれぞれ、Leeら、J.Mol.Biol.(2004),340(5):1073−93に記載されているように、ソフト無作為化突然変異誘発(soft randomization mutagenesis)のための多数のHVRを標的化する。鋳型について可能性のある高いバックグラウンドからのYW144.2.43の再選択を回避するために、終結コドンをHVRに導入して、それぞれのライブラリーを作製する前に変異させた。ソリューションソーティング法(solution sorting method)を使用して、親和性に基づくファージ選択プロセスの効率を高めた。ビオチニル化した標的の濃度を操作し、よりバックグラウンドが低くなるまでのファージ捕捉時間を短くし、そしてより早い除去速度でクローンを排除するためにビオチニル化されていない標的を添加することにより、高親和性クローンをうまく選択することができる。Leeら、J.Mol.Biol.(2004),340(5):1073−93。1回目の選択により、富化(標的依存性のファージ捕捉)が観察され、このことは、ヒトC3bに対して適度に高い親和性を有している多数のクローンがそれぞれのライブラリーの中に存在することを示唆している。選択のストリンジェンシーはその後の回では高めた。5回の選択の後、それぞれのライブラリーに由来するクローンを分析した。6個のHVRのそれぞれを標的化する新しい配列がライブラリーの中で観察された。選択したクローンをファージELISAによってスクリーニングし、その後、IgGタンパク質として発現させ、そしてそれらの親和性をBiacore(登録商標)結合分析によって特性決定した。
【0217】
親和性成熟させたクローンのファージライブラリーを、固体/液体選別法を使用して選別した。ヒトC3bを、PBS中の500μlの3.6mg/mlのヒトC3bと10μlの1Mのリン酸カリウム(pH8)を、20μlの4mMのSulfo−NHS−LC−ビオチン(Pierce)と混合することによってビオチニル化させた。1回目の選択のために、ビオチニル化したC3bを、PBS中10μg/mlで、MaxiSorpマイクロタイタープレート(Nunc)上にコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。1回目の選択には、16ウェルの標的を使用した。ウェルを、SuperBlock(Pierce)を使用して室温で1時間ブロックした。成熟ファージライブラリーをSuperBlock緩衝液中に希釈し、室温で1時間インキュベートした。その後、ファージライブラリーを、室温で2時間インキュベートしたブロックされた抗原プレートに添加した。結合後、結合していない/非特異的ファージを、洗浄緩衝液(Wash Buffer)(PBS、05%のTween20)での洗浄によって抗原プレートから除去した。結合したファージは、ウェルを50mMのHCl、0.5MのKClとともに30分間インキュベートすることによって溶離させた。ファージを、XL−1 Blue細胞とM13/KO7ヘルパーファージを使用して増幅させ、2YT、50μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのカナマイシン、10ug/mlのテトラサイクリン中で30℃で36時間増殖させた。増幅させたファージを、その後、改変されたPEG沈殿プロトコール(Monaci,P.,Cortese,R.,前出)を使用して回収した。標的をコーティングしたウェルから溶離したファージの力価を、富化を測定するために、標的をコーティングしなかったウェルから回収したファージの力価に対して比較した。2〜5回目の選択のために、溶液選別プロトコール(solution sorting protocol)を実行した。マイクロタイターウェルを、PBS中の10μg/mlのニュートラアビジンで4℃で一晩コーティングし、その後、SuperBlock(Pierce)を使用して1時間ブロックした。回収したファージライブラリーをSuperBlock中に懸濁し、これを50nMのb−Robo4−Hisとともに1時間混合した。b−C3bに結合したファージをニュートラアビジンをコーティングしたウェル上に30分間捕捉し、結合していないファージを洗浄緩衝液で洗い流した。ファージを、50mMのHCl、500mMのKClを使用して30分間溶離させ、中和し、KO7ヘルパーファージ(New England Biolabs)の存在下でXL−1 Blue細胞(Stratagene)中で増殖させた。次の回の選別は、以下を除いて同様に行った:2回目では、最終b−C3b濃度を50nMとし、3回目では最終b−C3b濃度を25nMとし、4回目では、最終b−C3b濃度を5nMとし、そして5回目では、最終b−C3b濃度を0.5nMとして、50nMの非ビオチニル化C3bを、ニュートラアビジン上への捕捉のために1時間前に混合物に対して添加した。
【0218】
いくつかの親和性成熟クローンを、ヒトC3bに対する結合について選択し、配列決定した。親和性成熟抗体YW144.2.43.S77(簡単には、S77)の重鎖Fab断片と軽鎖Fab断片のアミノ酸配列を図5に示す。
【0219】
(実施例3)
選択した抗C3b抗体クローンの特性決定
ファージELISA−ファージ競合結合アッセイを、ファージディスプレイされるFabのC3bに対する適切な結合親和性(ファージIC50と決定した)を決定するために行った。アッセイは以下のように行った。個々のクローンに由来する精製したファージ上清を、上記に記載した改変されたPEG沈殿プロトコールを使用して行った。精製したファージ上清を、ファージブロッキング緩衝液中に段階稀釈し、その後、C3b(1μg/ml)でコーティングしたプレート上で15分間インキュベートした。プレートを、洗浄緩衝液で洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ/抗M13抗体結合体(PBS緩衝液中に1:5000に稀釈した)(Amersham Pharmacia Biotech)とともに30分間インキュベートした。プレートを洗浄し、テトラメチルベンジジン(TMB)基質(Kirkegaard and Perry Laboratories)で発色させ、0.1NのHSO4でクエンチした。吸光度を450nmで分光光度法によって測定して、飽和状態のシグナルの約50%を生じるファージ濃度を決定した。固定した飽和濃度未満のファージを、350nMのC3bから5nMのC3bまでのC3bタンパク質の2倍の段階稀釈物を含むファージブロッキング緩衝液中に稀釈した。混合物を、室温で穏やかに震盪させながら1時間インキュベートし、C3b(1μg/ml)でコーティングしたプレートに移し、プレートを20分間インキュベートした。プレートを洗浄し、上記のように処理した。結合親和性をIC50値(固定化した抗原に対するファージの結合の50%をブロックした抗原の濃度と定義した)として概算した。C3bファージの競合結果を図2に示す。
【0220】
IgGの生産と親和性の決定−親和性の特性決定のためにIgGタンパク質を発現させるために、停止コドンを、ファージディスプレイベクターの中の重鎖とg3との間に導入した。クローンをE. coli 34B8細胞に形質転換し、AP5培地中で30℃で増殖させた(Prestaら、Cancer Res.57:4593−4599(1997))。細胞を遠心分離によって回収し、10mMのTris、1mMのEDTA(pH8)中に懸濁し、マイクロフルイダイザーを使用して崩壊させた。FabをプロテインGアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0221】
ファージ由来の抗C3b抗体YW144.2.43とその親和性成熟させた変異体YW144.2.43S77(Fab断片)の、ヒトC3bおよびC3に対する結合親和性を、表面プラズモン共鳴の測定によって、BIACORE(登録商標)3000システム(Biacore,Inc.,Piscataway,N.J.)を使用して決定した。試験した抗体Fab断片は、YW144.2.43とYW144.2.43S7であった。簡単に説明すると、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5,Biacore Inc.)上のフローセル1と2を、0.2MのN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と0.05MのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で、5μl/inの流速で7分間活性化させた。フローセルの1つは、ネガティブ対照としてコーティングしないままとした。これらの活性化したチップを、10mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/mlにする稀釈によって抗C3b Fabでコーティングし、その後、5μl/分の流速で注入して、およそ50の反応単位(RU)のカップリング抗体を得た。次に、1Mのエタノールアミンを、未反応基をブロックするために注入した。速度論の測定のために、ヒトC3bまたはC3可溶性抗原の2倍の段階稀釈物(C3bについてはおよそ100nMからおよそ3nM、C3については、約1μMから50nM)を、0.05%のTween 20を含むPBS中に、25℃、35μl/分の流速で注入した。それぞれの注入後、チップを20mMのHClを使用して再生させた。結合応答をブランクであるフローセルによるRUを減算することによって補正した。会合速度(kon)と解離速度(koff)を、シンプルな1対1 Langmuir結合モデル(BIAevaluation Softwareバージョン3.2)を使用して計算した。平行解離定数(K)は、比k解離/k会合として計算した。結合親和性を図6および7に示す。
【0222】
別の実験では、精製したC3bまたはC3を、ポリクローナルC3抗体を使用してマイクロタイタープレート上に捕捉した。S77(A)またはポリクローナル抗C3抗体(B)の捕捉したC3bまたはC3に対する結合を、二次HRPO結合抗体を使用して決定した。色をTMB(KPL)を用いて発色させ、2NのHSO中で停止させ、そして吸光度を450nmで読み取った。
【0223】
抗C3b抗体S77の特異性を試験するためのC3b ELISA。PBS中に稀釈した25μLの捕捉抗体(YW144.2.45.S77親和性成熟xC3/C3b(Genentech)、2μg/ml)を、マイクロタイタープレートのウェルに添加し、4℃で一晩インキュベートした。プレートを、洗浄緩衝液(PBS/0.05%のTween 20(20×ストック;Media Prep;Cat.A3355))で3回洗浄した。50μLのブロック緩衝液をウェルに添加し、プレートを穏やかに攪拌しながら1〜3時間インキュベートし(室温)、洗浄緩衝液で3回洗浄した。標準ストック(Standard stock)(C3b,Complement Technology Inc.;Cat.A114、100×で、−20℃で保存した)を、マジック緩衝液(Magic Buffer)(1×PBS(pH7.4)、0.5%のBSA、0.05%のTween 20、0.2%のBgG、15PPMのProclin(Media Prep;Cat.A3381))+0.35MのNaCl中に調製した。マジック緩衝液+0.35MのNaClはまた、分析用の試料の調製にも使用した。25μlの標準物/試料を指定したウェルに添加した。試料を室温で約2時間(+/−0.5時間)、穏やかに攪拌しながらインキュベートし、洗浄緩衝液で3回洗浄した。プレートを180℃に変化させ、洗浄工程を繰り返した。検出抗体(ペルオキシダーゼ結合ヤギF(ab’)抗ヒトC3(Protos Immunoresearch;Cat.765)を、アッセイ希釈液(Assay Diluent)中に1:7K稀釈し、穏やかに攪拌しながら室温で1〜2時間、プレート上でインキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、洗浄工程を繰り返しながら180℃に変化させた。50/50 TMB溶液を作製した。ELISAプレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した。プレートを180℃に変化させ、洗浄工程を繰り返した。25μLのTMBをウェルに添加した。色を室温で発色させた。発色時間:両方のプレートについて10分間。発色は、25μLの1.0Mのリン酸をウェルに添加することによって停止させた。プレートのOD読み取り値を得た(450/630nm)。結果を、図8、パネルAに示す。
【0224】
C3の検出のためのポジティブ対照として使用したC3は全て、ヒトC3に対するヤギIgG画分(Cappel 55033)を捕捉抗体として使用したことを除き、S77の特異性を試験するために使用した上記に記載したC3b ELISAアッセイと同様に行った。結果を図8、パネルBに示す。
【0225】
図8に示すように、S77はC3bを認識するが、プロ分子C3は認識しない。
【0226】
(実施例4)
C3b抗体は第二補体経路を特異的に阻害する
溶血アッセイ−第2経路の活性を決定するために、ウサギの成熟赤血球(Er,Colorado Serum)をGVB中で3回洗浄し、2×10/mlになるように再懸濁した。阻害剤(50μl)と20μlのEr懸濁液を、GVB/0.1MのEGTA/0.1MのMgClと1:1で混合した。補体活性化を、C1qを枯渇させたヒト血清(Quidel;GVB中に1:3に稀釈した30ul)の添加によって開始させた。室温で30分間のインキュベーションの後、200μlのGVB/10mMのEDTAを添加して反応を停止させ、試料を500gで5分間遠心分離した。溶血を、412nmで吸光度を測定することによって200μlの上清中で決定した。データは、阻害剤が存在しない条件で誘導された溶血に対する割合として表した。補体の古典経路に対するCRIgの影響を決定するために、ErをIgMをコーティングしたヒツジ成熟赤血球(E−IgM,CompTech)に置き換え、アッセイを、GVB++中のB因子欠損ヒト血清中で行ったことを除いて、同様の手順にしたがった。
【0227】
図9および10に示すように、親和性成熟させたC3b抗体S77は、第二補体経路を特異的に阻害し、古典経路は阻害しない。
【0228】
(実施例5)
C3b抗体はC5転換酵素に対するC5の結合を阻害する。
【0229】
C5競合アッセイ−C3bをPBS中の3μg/mlのC3bとともに、4℃で一晩のインキュベーションによってマイクロタイター上にコーティングした。プレートを、PBS中の1%のBSAでブロックし、20mMのTris/20mMのCa/20mMのMg/150mMのNaCl/0.05%のTween/1%のBSA中の0.4uMのC5と混合した漸増濃度の抗体とともにインキュベートした。C5結合を、抗ヒトC5抗体(クローン7D12,Genentech)との、室温で30分間、続いて、1:5000のロバ抗マウスHRP(Jackson)とのインキュベーションによって検出した。
【0230】
図11および12に示すように、親和性成熟させたC3b抗体S77は、C5転換酵素を阻害する。
【0231】
(実施例6)
C3b抗体は崩壊活性を示さない
崩壊加速活性−マイクロタイタープレートを、PBS中の3μg/mlのC3bで一晩コーティングした。プレートを、PBST(PBS/0.1%−Tween)中で2回洗浄し、4%のBSAを含むPBSTで、37℃で2時間ブロックした。プレートを、400ng/mlのB因子、25ng/mlのD因子、および2mMのNiCl、25mMのNaCl、0.05%のTween 20、および4%のBSAを含むベロナール緩衝液中で、室温で2時間インキュベートし、続いて、PBST中のH因子またはS77とともに15分間インキュベートした。Bb因子を、PBST中のヤギ抗ヒトB因子ポリクローナル抗体の1:5,000希釈物(Kent)と、PBST中のHRPOに結合させたロバ抗ヤギ抗体の1:5,000希釈物(Caltag)とともに、連続して1時間インキュベーションして検出した。色をTMB(KPL)を用いて発色させ、2NのHSO中で停止させ、吸光度を450nmで読み取った。C3bのI因子に媒介される切断についての補因子活性を、0.8μMのC3bと80nMのI因子を、80nMのH因子または様々な濃度のS77とともに、30mlのGVB中でインキュベーションすることによって測定した。混合物を37℃で60分間インキュベートし、試料を、C3転換酵素アッセイについて記載したようにゲル電気泳動によって分析した。
【0232】
図13に示すように、S77は、崩壊加速活性を示さない。
【0233】
(実施例7)
C77はC3bに対するプロB因子の結合とC3bBb転換酵素の形成を阻害する
プロトコール
MaxiSorpプレートを、PBS中の3μg/mlのC3b(PUR13420)(20μl/ウェル)で、室温で4時間コーティングした。洗浄は、100μlのPBS、0.1%のTween(PBST)(BioTek EL405洗浄液)を用いて6回行った。プレートを、4%のBSA/0.05%のTween/PBSで、室温で2時間ブロックし、その後、シンクにブロックを沈めた。20μlのAP転換酵素緩衝液を室温で2時間かけて添加し、その後、6×PBSTで洗浄した。20μlのAbsを室温で45分間かけて添加し、ウェルをPBSTで6回洗浄した。B/Bb因子の検出のために、ウェルを、1:7000のヤギ抗fB(Kent Labs)とともに室温で30分間インキュベートした。S77およびCR1の検出のために、PBSTをウェルに添加し、これをその後、PBSTで6回洗浄し、PBST++中の1:7,000のロバ抗ヤギIgG−HRPO(Jackson)とともに30分間インキュベートした。PBST++中の1:100の抗6×−His(配列番号19)(R&D)との室温で30分間のインキュベーションに続き、PBSTで6回洗浄した。発色を、20μlのTMB基質を用いて行い、反応を10μlの2Nの硫酸を用いて停止させた。プレートを450nmで読み取った。
【0234】
「AP転換酵素緩衝液」:4%のBSA、0.1%のTween 20、2mMのNiCl2、25mMのNaCl、25ng/mlのD因子、400ng/mlのB因子(CompTech)。
【0235】
上記プロトコールに続いて、C3bをマイクロタイタープレート上にコーティングした。S77、対照Fab、またはCR1断片(LHRA−C)を、B因子の添加後1時間で添加した。C3bに対するB因子の結合を、HRPO結合二次抗体を用いて検出し、吸光度を450nmで読み取った。結果を図14、パネルAに示す。
【0236】
同様に、上記プロトコールにしたがって、C3bをマイクロタイタープレート上にコーティングし、続いてS77、対照Fab、またはCR1断片(LHRA−C)を添加した。C3転換酵素を、D因子およびB因子の添加によって作製させた。転換酵素の形成は、Bb因子を認識する一次抗体と、二次HRPO結合抗体を使用して決定した。色をTMB(KPL)で発色させ、2NのHSO中で停止させ、吸光度を450nmで読み取った。結果を図14、パネルBに示す。
【0237】
図14に示すように、抗体S77は、C3Bに対するプロB因子の結合を阻害し、C3bBb転換酵素の形成を阻害する。
【0238】
(実施例8)
S77は、結合したfBbの存在下ではC3bに結合し、C3転換酵素を崩壊させない
実施例7に記載したプロトコールを使用して、C3bをマイクロタイタープレート上にコーティングした。C3転換酵素を、D因子とB因子の添加によって作製させた。S77、対照Fab、またはCR1断片(LHRA−C)をプレートに添加し、これらの分子の結合を、HPROに結合させた二次抗体を用いて決定した。結果を、図15、パネルAに示す。
【0239】
同様に、実施例7に記載したプロトコールにしたがって、マイクロタイタープレートを3μg/mlのC3bでコーティングした。プレートをB因子およびD因子とともにインキュベートし、続いて、CR1(LHRA−C)、S77、または対照Fabとともにインキュベートした。Bb因子を、ヤギ抗ヒトB因子と、HRPOに結合させたロバ抗ヤギ抗体で検出した。色をTMB(KPL)を用いて発色させ、2NのHSO中で停止させ、吸光度を450nmで読み取った。結果を、図15、パネルBに示す。
【0240】
図15に示した結果は、S77は、結合したfBbの存在下でC3bに結合することができ、C3転換酵素を崩壊させないことを示している。
【0241】
(実施例9)
S77はC3bに対するH因子の結合を阻害し、H因子の補因子活性を阻害する。
【0242】
プロトコール1(図15、パネルA)−MaxiSorpプレートを、PBS中の3μg/mlのC3b(PUR13420)(20μl/well)で、室温で3時間コーティングした。プレートを100μlのPBS、0.1%のTween(PBST)(BioTek EL405洗浄液)で6回洗浄し、4%のBSA/0.05%のTween/PBSで、室温で2時間ブロックした。プレートを、震盪させながらブロッキングAbs(20μl)とともに、室温で30分間インキュベートし、続いて、0.33μMのfH(CompTech)とともに室温で1時間のインキュベーション、10μlの1μMのfHの添加を行った。プレートをプレート洗浄装置(BioTek EL405)中で、PBSTで6回洗浄し、1:7000のロバ抗マウスIgG(H+L)−HRPO(Jackson)とともに30分間インキュベートし、プレート洗浄装置(BioTek EL405)中で、PBSTで6回洗浄した。発色を、20μlのTMB基質を用いて行った。反応を10μlの2Nの硫酸で停止させ、プレートを450nmで読み取った。
【0243】
プロトコール2(図15、パネルB)−全ての稀釈はGVB++(1mMのMgCl、0.15mMのCaCl)中で行った。エッペンドルフチューブに、10μlの1.6uMのC3b(最終0.4uMのC3b)を添加した。10μlの抗C3b Fab、対照Fab、またはCR1を添加した。室温で20分間インキュベートした。10μlの0.08uMのflを添加した(最終的には20nMのfl)。37℃で60分間インキュベートした。40μlのLaemmeli’s緩衝液+2−bMEを添加し、3分間沸騰させた。8%のInvitrogenゲル上で、25μl/ウェル、125mVで1.5時間泳動した。ゲルを5分間を3回、HOで洗浄した。室温で揺らしながら、Simply Blue(Invitrogen)で60分間染色した。5分間を3回、ddHOで洗浄した。プラスチックで蓋をした震盪装置上の大きな耐熱皿の中で、ddHOで一晩洗浄した。試薬:C3b PUR13240、Complement Technologiesによるfl、Complement TechnologiesによるfH、BioWhittakerによるGVB++。
【0244】
上記のように、プレートをC3bでコーティングした。H因子を、漸増濃度の対象FabまたはS77の存在下で添加した。C3bに対するH因子の結合を、抗H因子抗体と、二次HRPO結合抗マウス抗体を使用して決定した。色をTMB(KPL)を用いて発色させ、2NのHSO中で停止させ、吸光度を450nmで読み取った。結果を、図16、パネルAに示す。
【0245】
I因子に媒介されるC3bの切断についての補因子活性を、0.8μMのC3bおよび80nMのI因子を、80nMのH因子または様々な濃度のS77とともに、30mlのGVB中でインキュベーションすることによって測定した。混合物を37℃で60分間インキュベートし、試料を、C3転換酵素アッセイについて記載したように、ゲル電気泳動によって分析した。結果を、図16、パネルBに示す。
【0246】
図16に示すように、抗体S77は、C3bに対するH因子の結合を阻害し、H因子の補因子活性もまた阻害する。
【0247】
(実施例10)
S77はC3bに対するCR1の結合を阻害する
プロトコール−MaxiSorpプレートを、PBS中の3μg/mlのC3b(PUR13420)で、4℃で一晩コーティングした(100μl/ウェル)。100μlのPBS、0.1%のTween(PBST)(BioTek EL405洗浄液)で3回洗浄した。4%のBSA/0.1%のTween/PBSで、室温で2時間ブロックした。震盪させながらブロッキングAbs(20μl)とともに、室温で30分間インキュベートした。50nMのCR1 LHR−ACとともに、室温で1時間インキュベートした。プレート洗浄装置(BioTek EL405)の中で、PBSTで3回洗浄した。PBST中の1:10のmlgG1抗hCD35−FITC(Pharmingen)とともに、室温で45分間インキュベートした。プレート洗浄装置(BioTek EL405)の中でPBSTで3回洗浄した。1:7000のロバ抗マウスIgG−HRPO(Jackson)とともに30分間インキュベートした。プレート洗浄装置(BioTek EL405)の中でPBSTで6回洗浄した。20μlのTMB基質を用いて発色させた。反応を10μlの2Nの硫酸で停止させた。450nmでプレートを読み取った。
【0248】
図17に示すように、抗体S77は、C3bに対するCR1の結合を阻害する。
【0249】
(実施例11)
結晶化とデータの洗練
Hanging−drop実験を、蒸気拡散法を使用して、1:1の比のタンパク質溶液とレザーバー溶液からなる2μlの液滴を用いて行った。タンパク質溶液には、25mMのTris、50mMのNaCl(pH7.5)中にC3b:S7714複合体が、10mg/mlの濃度で含まれており、レザーバーには、10%のPEG4000、0.2MのMgCl2が0.1MのHepes(pH7.2)中に含まれている。結晶は2週間後に現れた。結晶を、20%のグリセロールを補充したレザーバー溶液中でインキュベートし、その後、瞬間凍結させた。データを、単一の凍結した結晶から、Advanced Light Source(Berkeley)のビームライン5.0.1で収集し、プログラムDENZOおよびSCALEPACKを使用して処理した。結晶は、a=216.4Å、b=180.4Å、c=154.6Å、およびβ=115.73Åのセルパラメーターを持つ空間群C2に属し、それぞれが非対称単位の中の1つのFab分子に結合させられた1つのC3b分子からなる2つのcomplexesを持つ。この構造を、プログラムPhaserと、C3b、定常ドメイン、およびFab断片の可変ドメインの座標を使用して分子置換によって解析した。モデルは、プログラムOを使用して手作業で調整し、洗練を、プログラムREFMACを用いて、詰まった2倍非結晶性対称拘束(tight 2−fold non−crystallographic symmetry restraints)を使用して行った。洗練されたモデルのRおよびRfreeは、それぞれ、22.5%および29.0%であった。
【0250】
抗体S77との複合体におけるC3bの結晶構造を図3に示す。図4Iaは、C3bとの抗体S77の結合相互作用の接近図である。結晶データを利用して、C3bと密接に接しているC77 Fab重鎖配列中の残基を赤色で示す。
【0251】
加えて、補足図1には、S77と接しているC3b上の残基を列挙する。補足図2には、C3bと接触しているFab S77残基を列挙する。
【0252】
標的化C3b(補体活性化の中心的成分)は、C3転換酵素とC5転換酵素の両方のレベルで補体カスケードを阻害するための強力なアプローチを提供する。上記実施例に記載した研究においては、ファージ技術を使用して、C3bを選択的に認識し、そのプロ分子であるC3は認識しない抗体を作製した。特異的抗体(S77)のFab断片との複合体におけるC3bの結晶構造は、この抗体がC3のC3bへの切断後に露出させられたMG7ドメイン上のエピトープを認識することを示している。S77はB因子およびC5のC3bに対する結合をブロックし、それにより、補体の古典経路ではなく第2経路の、C3転換酵素およびC5転換酵素の強力な阻害を生じる。加えて、S77はfH結合と補因子活性、ならびに、C3bに対するCR1の結合を阻害し、このことは、S77のC3b MG7ドメインに対する結合部位が、補体活性化の調節のホットスポットであることを示している。まとめると、本研究の結果は、第2経路のC3転換酵素およびC5転換酵素のレベルでの補体活性化および阻害についての分子機構を説明しており、治療可能性が期待される選択的抗体を作製するための、ファージディスプレイおよび他のディスプレイ技術の有用性を明らかにしている。
【0253】
上記の説明は、当業者が本発明を実施できるように十分であるとみなされる。本明細書中に示され、記載されたものに加えて、本発明の様々な改変が、上記の記載から当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21-1】
図21-2】
図21-3】
図21-4】
図21-5】
図3
図4
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]