(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、スパークプラグの耐プレイグニッション性を向上させることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1]
軸線方向に延びる中心電極と、
前記軸線方向に延びる軸孔を有し、当該軸孔の先端側で前記中心電極を保持する絶縁体と、
を備えるスパークプラグであって、
前記中心電極の中心を通る前記軸線と、前記絶縁体の前記軸孔の先端における内周面と前記中心電極の外周面との隙間が最小になる位置と、を通る断面において、
前記軸線に対して垂直であり、前記軸孔の先端を通る直線を直線L1とし、
前記直線L1に対して平行であり、前記軸孔の先端から1mm後端側に位置する直線を直線L2とし、
前記軸線に対して平行であり、前記中心電極の外周面のうち前記隙間が最小となっている側から0.5mm内周側に位置する直線を直線L3とし、
前記直線L2と、前記中心電極の前記外周面のうち前記隙間が最小となっている側との交点を点P1とし、
前記直線L2と前記直線L3との交点を点P2とし、
点P1から点P2までの線分を線分LSとし、
前記断面に現れた前記中心電極の結晶粒のうち、前記線分LS上に位置する前記結晶粒を金属顕微鏡で観察し、得られた画像から前記結晶粒の平均粒子径を測定した場合において、
前記平均粒子径は、0.010mm以上であることを特徴とする、スパークプラグ。
中心電極における線分LS近傍は、絶縁体の軸孔の先端付近からの熱流速が最も大きくなる箇所であり、この線分LS近傍における熱伝導率が大きいほど、絶縁体及び中心電極の熱引き性能が向上する。そして、中心電極における結晶粒の平均粒子径が大きいほど、熱伝導率は大きくなり、熱引き性能が向上する。したがって、この構成によれば、絶縁体及び中心電極の熱引き性能を向上させることができるので、スパークプラグの絶縁体及び中心電極の先端近傍が高温になることを抑制し、耐プレイグニッション性を向上させることができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記隙間が最小になる位置において、前記最小の隙間は、0.05mm以上0.15mm以下であることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、中心電極と絶縁体との隙間を小さくしているため、絶縁体から中心電極へ熱が伝わりやすくなり、絶縁体の熱引き性能を向上させることができる。さらに、中心電極と絶縁体との隙間は所定値以上確保されているため、中心電極の膨張による絶縁体の破壊を抑制することができる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のスパークプラグであって、
前記平均粒子径は、0.025mm以上であることを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、中心電極における熱伝導率をさらに高めることができ、絶縁体及び中心電極の熱引き性能をさらに向上させることができる。
【0010】
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極は、ニッケルを70重量%以上含むことを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、中心電極の結晶粒が成長しやすくなるとともに、中心電極における熱伝導率を高めることができる。
【0011】
[適用例5]
適用例4に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極は、ニッケルを80重量%以上含むことを特徴とする、スパークプラグ。
この構成によれば、中心電極の結晶粒がさらに成長しやすくなるとともに、中心電極における熱伝導率をさらに高めることができる。
【0012】
[適用例6]
軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の先端側に設けられた中心電極と、を備えたスパークプラグの製造方法であって、
成形された前記中心電極を準備する工程と、
準備された前記中心電極に対して、500℃以上950℃以下の温度範囲で、25時間以上の加熱処理を行なう
工程と、
前記中心電極を前記絶縁体の軸孔の先端側に組付ける工程と
を備えることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
この製造方法によれば、中心電極の結晶粒を成長させることができるため、熱引き性能のよいスパークプラグを製造することができる。
【0013】
[適用例7]
軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の先端側に設けられた中心電極と、を備えたスパークプラグの製造方法であって、
成形された前記中心電極を準備する工程と、
準備された前記中心電極に対して、イリジウムを含有する貴金属チップを接合する工程と、
前記貴金属チップが接合された中心電極に対して、500℃以上750℃以下の温度範囲で、25時間以上の加熱処理を行なう
工程と、
前記中心電極を前記絶縁体の軸孔の先端側に組付ける工程と
を備えることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
この製造方法によれば、イリジウムを含有する貴金属チップを酸化させることなく、中心電極の結晶粒を成長させることができる。したがって、貴金属チップを備えた、熱引き性能のよいスパークプラグを製造することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグ、スパークプラグの製造方法および製造装置等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施形態:
A1.スパークプラグの全体構造:
A2.中心電極の先端部の詳細:
A3.製造方法:
B.実験例:
B1.平均粒子径に関する実験例1:
B2.最小隙間MGに関する実験例:
B3.平均粒子径に関する実験例2:
B4.中心電極におけるNiの含有量に関する実験例:
C.変形例:
【0017】
A.実施形態:
A1.スパークプラグの全体構造:
図1は、本発明の一実施形態としてのスパークプラグ100を示す部分断面図である。以下では、
図1においてスパークプラグ100の軸線方向ODを図面における上下方向とし、下側をスパークプラグの先端側、上側を後端側として説明する。なお、
図1では、軸線Oの右側にスパークプラグ100の外観を示し、軸線Oの左側にスパークプラグ100を軸線O(以下では、中心軸Oともいう。)を通る面で切断した断面を示している。
【0018】
スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、主体金具50と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40とを備えている。中心電極20は、絶縁碍子10に設けられた軸孔12内に、軸線方向ODに延びた状態で保持されている。絶縁碍子10は、絶縁体として機能しており、主体金具50は、この絶縁碍子10を取り囲んだ状態で内挿している。端子金具40は、電力の供給を受けるための端子であり、絶縁碍子10の後端部に設けられている。
【0019】
絶縁碍子10は、アルミナ等を焼成することにより形成された絶縁体である。絶縁碍子10は、軸線方向ODへ延びる軸孔12が中心軸に沿って形成された筒状の絶縁体である。絶縁碍子10には、軸線方向ODの略中央に外径が最も大きな鍔部19が形成されており、それより後端側には後端側胴部18が形成されている。後端側胴部18には、表面長さを長くして絶縁性を高めるための襞部11が形成されている。鍔部19より先端側には、後端側胴部18よりも外径の小さな先端側胴部17が形成されている。先端側胴部17よりもさらに先端側には、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。脚長部13は、先端側ほど外径が小さくなっている。この脚長部13は、スパークプラグ100が内燃機関のエンジンヘッド200に取り付けられた際には、内燃機関の燃焼室内に曝される。脚長部13と先端側胴部17との間には段部15が形成されている。
【0020】
中心電極20は、絶縁碍子10の先端側から後端側に向かって中心軸Oに沿って延びており、絶縁碍子10の先端側において露出している。中心電極20は、電極母材21の内部に芯材25を埋設した構造を有する棒状の電極である。電極母材21は、インコネル600またはインコネル601等(「インコネル」は商標名)のニッケルまたはニッケルを主成分とする合金から形成されている。芯材25は、電極母材21よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金から形成されている。通常、中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に芯材25を詰め、底側から押出成形を行って引き延ばすことで作製される。芯材25は、胴部分においては略一定の外径をなすものの、先端側においては先細り形状に形成される。軸孔12内において、中心電極20は、シール体4およびセラミック抵抗3を介して、絶縁碍子10の後端側に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。
【0021】
主体金具50は、低炭素鋼材より形成された筒状の金具であり、絶縁碍子10を内部に保持している。絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13にかけての部位は、主体金具50によって取り囲まれている。
【0022】
主体金具50は、工具係合部51と、取付ネジ部52とを備えている。工具係合部51は、スパークプラグレンチ(図示せず)が嵌合する部位である。主体金具50の取付ネジ部52は、ネジ山が形成された部位であり、内燃機関の上部に設けられたエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合する。このように、主体金具50の取付ネジ部52をエンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合させて締め付けることより、スパークプラグ100は、内燃機関のエンジンヘッド200に固定される。
【0023】
主体金具50の工具係合部51と取付ネジ部52との間には、径方向外側に膨出するフランジ状の鍔部54が形成されている。取付ネジ部52と鍔部54との間のネジ首59には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付けた際に、鍔部54の座面55と取付ネジ孔201の開口周縁部205との間で押し潰されて変形する。このガスケット5の変形により、スパークプラグ100とエンジンヘッド200間が封止され、取付ネジ孔201を介した燃焼ガスの漏出が抑制される。
【0024】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、薄肉の加締部53が設けられている。また、鍔部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に、薄肉の座屈部58が設けられている。主体金具50の工具係合部51から加締部53にかけての内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が挿入されている。さらに両リング部材6,7間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53を内側に折り曲げるようにして加締めることにより、主体金具50と絶縁碍子10とが固定される。主体金具50と絶縁碍子10との間の気密性は、主体金具50の内周面に形成された段部56と、絶縁碍子10の段部15との間に介在する環状の板パッキン8によって保持され、燃焼ガスの漏出が防止される。座屈部58は、加締めの際に、圧縮力の付加に伴い外向きに撓み変形するように構成されており、タルク9の圧縮長さを確保して主体金具50内の気密性を高めている。
【0025】
主体金具50の先端部には、主体金具50の先端部から中心軸Oに向かって屈曲した接地電極30が接合されている。接地電極30は、インコネル600等(「インコネル」は商標名)の耐腐食性が高いニッケル合金で形成することが可能である。この接地電極30と主体金具50との接合は、溶接により行うことができる。接地電極30の先端部33は、中心電極20と対向している。
【0026】
スパークプラグ100の端子金具40には、図示しない高圧ケーブルがプラグキャップ(図示しない)を介して接続されている。そして、この端子金具40とエンジンヘッド200との間に高電圧を印加することにより、接地電極30と中心電極20との間に火花放電が生じる。
【0027】
なお、中心電極20と接地電極30とのそれぞれには、耐火花消耗性を向上するために、高融点の貴金属を主成分として形成された電極チップ90,95が取り付けられる。具体的には、中心電極20の先端側の面には、例えば、イリジウム(Ir)や、イリジウムを主成分として、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、レニウム(Re)のうち、1種類あるいは2種類以上を添加したIr合金によって形成された電極チップ90が取り付けられる。また、接地電極30の先端部33の中心電極20と対向する面には、白金または白金を主成分とした電極チップ95が取り付けられる。なお、以下では電極チップを貴金属チップともいう。
【0028】
A2.中心電極の先端部の詳細:
図2は、中心電極20の先端付近を拡大して示す説明図である。
図2(A)は、中心電極20を先端側から示した図であり、
図2(B)は、
図2(A)のB−B断面を示した図である。
図2(A)に示す矢印MGは、絶縁碍子10の軸孔12の先端における内周面と、中心電極20の外周面との隙間が最小になる位置(以下では、この位置における隙間を「最小隙間MG」とも呼ぶ。)を示している。B−B断面線は、この最小隙間MGと、中心電極20の中心を通る軸線Oとを結んでいる。なお、この
図2では、図示の便宜上、電極チップ90,95を省略して描いている。また、中心電極20の外径は、絶縁碍子10の軸孔12の先端から1mm後端側の位置よりも先端側の部分で縮径している場合がある。
【0029】
絶縁碍子10の軸孔12の先端近傍における熱引き性能は、絶縁碍子10と中心電極20との隙間の大きさの影響を受ける。すなわち、絶縁碍子10と中心電極20との隙間が小さいほど、絶縁碍子10の熱が中心電極20に伝わりやすくなり、熱引き性能が向上する。一方、中心電極20の熱引き性能は、中心電極20の断面における結晶粒の平均粒子径の大きさの影響を受ける。すなわち、結晶粒の平均粒子径が大きいほど、結晶粒間における界面の存在割合が小さくなるので、界面による熱抵抗が減少して熱伝導率が向上し、中心電極20の熱引き性能が向上する。したがって、本実施形態では、絶縁碍子10及び中心電極20の熱引き性能の向上を目的として、絶縁碍子10の軸孔12の先端における内周面と、中心電極20の外周面との隙間が最小になる位置(最小隙間MG)における断面において、絶縁碍子10から中心電極20への熱流速の大きい箇所(最小隙間MG)の近傍における中心電極20の結晶粒の平均粒子径を規定する。
【0030】
本実施形態では、絶縁碍子10から中心電極20への熱流速の大きい箇所(最小隙間MG)の近傍として線分LSを定義し、線分LS上における結晶粒の平均粒子径を規定する。線分LSの定義を
図2(B)を参照して以下に説明する。
【0031】
[線分LSの定義]
・
図2(B)に示された断面において、軸線Oに対して垂直であり、軸孔12の先端を通る直線を直線L1とする。
・直線L1に対して平行であり、軸孔12の先端から1mm後端側に位置する直線を直線L2とする。
・軸線Oに対して平行であり、中心電極20の外周面のうち隙間が最小となっている側から0.5mm内周側に位置する直線を直線L3とする。
・直線L2と、中心電極20の外周面のうち隙間が最小となっている側との交点を点P1とする。
・直線L2と直線L3との交点を点P2とする。
・点P1から点P2までの線分を線分LSとする。
【0032】
本実施形態では、
図2(B)に示された断面に現れた中心電極20(電極母材21)の結晶粒のうち、線分LS上に位置する結晶粒の平均粒子径は、0.01mm以上である。平均粒子径を0.01mm以上とすれば、線分LS近傍における熱伝導率が大きくなるため、絶縁碍子10及び中心電極20の熱引き性能を向上させることができ、スパークプラグの耐プレイグニッション性を向上させることができる。さらに、線分LS上に位置する結晶粒の平均粒子径を0.025mm以上とすれば、絶縁碍子10及び中心電極20の熱引き性能をさらに向上させることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、線分LS上に位置する結晶粒を金属顕微鏡によって観察することによって、平均粒子径を規定する。具体的には、線分LS上に位置する結晶粒を金属顕微鏡(倍率100倍)によって観察し、当該結晶粒の画像を取得する。取得した画像から、線分LS上に位置する結晶粒のそれぞれの面積を画像処理によって算出する。算出した結晶粒の面積と同じ面積を有する円の直径(面積円相当径)をそれぞれの結晶粒ごとに算出する。そして、算出した円の直径を線分LS上に位置する結晶粒で平均化したものを平均粒子径として規定する。
【0034】
また、本明細書において「線分LS上に位置する結晶粒」とは、線分LSが通過している結晶粒を意味し、具体的には、
図2(B)の円C内に示すように、斜線のハッチングが施された結晶粒である。
【0035】
さらに、最小隙間MGは、0.05mm以上0.15mm以下であることが好ましい。この理由について説明する。最小隙間MGを0.15mm以下とすれば、絶縁碍子10の熱が中心電極20へ伝わりやすくなるため、絶縁碍子10の熱引き性能が向上し、耐プレイグニッション性を向上させることができる。一方、最小隙間MGを0.05mm以上とすれば、スパークプラグが高温になった場合に、中心電極20が径方向に膨張することによる絶縁碍子10の破損を抑制することができる。すなわち、最小隙間MGを0.05mm以上0.15mm以下とすれば、絶縁碍子10の破損を抑制しつつ、絶縁碍子10の耐プレイグニッション性を向上させることができる。最小隙間MGをこのような数値に規定する根拠については、後述する。
【0036】
さらに、中心電極20(電極母材21)は、ニッケルを70重量%以上含むことが好ましく、80重量%以上含むことが特に好ましい。この理由について説明する。中心電極20におけるニッケルの含有量が多いと、中心電極20の熱伝導率が大きくなり、熱引き性能が向上する。また、中心電極20が加熱処理された場合に、結晶粒の成長が促進され、中心電極20の結晶粒の平均粒子径が大きくなりやすいといった効果もある。したがって、中心電極20におけるニッケルの含有量を70重量%以上、特に80重量%以上とすれば、中心電極20の熱引き性能を向上させることができ、耐プレイグニッション性を向上させることができる。ニッケルの含有量をこのような数値に規定する根拠については、後述する。
【0037】
A3.製造方法:
図3は、スパークプラグ100の製造工程の一部を示す工程図である。工程S10では、電極母材21の内部に芯材25が埋設された状態で押出成形された中心電極20を準備する。工程S12では、準備された中心電極20に対して、500℃以上950℃以下の温度範囲で、25時間以上の加熱処理を行なう。工程S14では、中心電極20を絶縁碍子10の軸孔12の先端側に組付ける。
【0038】
このような製造方法によれば、中心電極20に対する加熱処理によって電極母材21における結晶粒が成長するため、線分LS上における結晶粒の平均粒子径を0.01mm以上とすることができる。また、中心電極20に対する加熱処理を絶縁碍子10への組付け前に行なうため、加熱処理によって絶縁碍子10の機械的強度や耐電圧性能が低下してしまうことを回避することができる。
【0039】
なお、この
図3に示す製造工程では、中心電極20に対する加熱処理の後に、中心電極20の先端に貴金属チップを取り付けるが、中心電極20の先端に貴金属チップを取り付けないこととしてもよい。また、500℃以上950℃以下の温度範囲での加熱処理に耐えうる貴金属チップを用いる場合には、中心電極20に対する加熱処理の前に、中心電極20の先端に貴金属チップを取り付けることとしてもよい。
【0040】
図4は、イリジウムを含有する貴金属チップを中心電極20の先端に接合する場合における製造工程の一部を示す工程図である。工程S20では、電極母材21の内部に芯材25が埋設された状態で押出成形された中心電極20を準備する。工程S22では、準備された中心電極20に対して、イリジウムを含有する貴金属チップを接合する。工程S24では、貴金属チップが接合された中心電極20に対して、500℃以上750℃以下の温度範囲で、25時間以上の加熱処理を行なう。工程S26では、中心電極20を絶縁碍子10の軸孔12の先端側に組付ける。
【0041】
イリジウムを含有する貴金属チップは、約850℃以上の高温な環境に晒されると、酸化してしまうおそれがある。しかし、この製造方法によれば、イリジウムを含有する貴金属チップが接合された中心電極20に対して加熱処理を行なっても、イリジウムが酸化してしまうことを抑制することができるとともに、線分LS上における結晶粒の平均粒子径を0.01mm以上とすることができる。
【0042】
なお、本明細書及び図面において示された平均粒子径の有効数字は、小数点以下3桁である。
【0043】
B.実験例:
B1.平均粒子径に関する実験例1:
線分LS上に位置する結晶粒の平均粒子径と、耐プレイグニッション性との関係を調べるため、平均粒子径の異なるサンプルを用いて実験を行なった。本実験例では、各サンプルを4気筒エンジンに取り付けて、点火時期を徐々に進角させ、プレイグニッションが発生した点火時期(進角)を10回ずつ測定し、その平均値を算出した。そして、中心電極20の組織がファイバー状(すなわち、結晶粒ができていない状態)になっている比較サンプルに対してどの程度進角できたかに基づいて、耐プレイグニッション性を評価した。なお、本実験例における各サンプルの最小隙間MGは、0.2mmである。
【0044】
図5は、平均粒子径と耐プレイグニッション性との関係についての実験結果を示す説明図である。
図5(A)は、実験結果を表形式で示す図であり、
図5(B)は、実験結果をグラフ形式で示す図である。耐プレイグニッション性についての評価基準は、以下のとおりである。
F:+0.1度未満の進角によりプレイグニッションが発生した場合。(最も低い評価)
E:+0.1度以上+0.4度未満の進角によりプレイグニッションが発生した場合。
D:+0.4度以上+1.0度未満の進角によりプレイグニッションが発生した場合。
C:+1.0度以上+1.3度未満の進角によりプレイグニッションが発生した場合。
B:+1.3度以上+2.0度未満の進角によりプレイグニッションが発生した場合。
A:+2.0度以上の進角によりプレイグニッションが発生した場合。(最も高い評価)
【0045】
この
図5によれば、平均粒子径が大きくなるほど、耐プレイグニッション性が向上することが理解できる。具体的には、平均粒子径が0.010mm以上であれば、耐プレイグニッション性についての評価が「E」になり、平均粒子径が0.015mm以上であれば、耐プレイグニッション性についての評価が「D」になることが理解できる。以上より、平均粒子径は、0.010mm以上であることが好ましく、0.015mm以上であることがさらに好ましい。
【0046】
B2.最小隙間MGに関する実験例:
最小隙間MGと絶縁碍子10における割れの発生との関係、及び、最小隙間MGと耐プレイグニッション性との関係を調べるため、最小隙間MGの異なるサンプルを用いて実験を行なった。本実験例の実験方法及び評価基準は、上述した「平均粒子径に関する実験例1」と同じである。ただし、絶縁碍子10に割れが発生した場合は、耐プレイグニッション性の評価を、最も低い評価である「F」とした。
【0047】
図6は、最小隙間MGと絶縁碍子10の状態との関係、及び、最小隙間MGと耐プレイグニッション性との関係についての実験結果を示す説明図である。
図6(A)は、実験結果を表形式で示す図であり、
図6(B)は、実験結果をグラフ形式で示す図である。
【0048】
この
図6によれば、最小隙間MGが小さくなるほど、耐プレイグニッション性が向上することが理解できる。具体的には、最小隙間MGが0.15mm以下であれば、耐プレイグニッション性の評価が「D」以上となり、最小隙間MGが0.05mmであれば、耐プレイグニッション性の評価が「C」となることが理解できる。
【0049】
一方、最小隙間MGが所定値以上であれば、絶縁碍子10の割れの発生を抑制可能であることが理解できる。具体的には、最小隙間MGが0.05mm以上であれば、絶縁碍子10に割れが発生しないことが理解できる。以上より、最小隙間MGは、0.05mm以上0.15mm以下であることが好ましい。
【0050】
B3.平均粒子径に関する実験例2:
本実験例では、最小隙間MGが0.15mmである各サンプルに対して、上述した「平均粒子径に関する実験例1」と同様の実験を行なった。
【0051】
図7は、平均粒子径と耐プレイグニッション性との関係についての実験結果を示す説明図である。
図7(A)は、実験結果を表形式で示す図であり、
図7(B)は、実験結果をグラフ形式で示す図である。この
図7によれば、平均粒子径が大きくなるほど、耐プレイグニッション性が向上することが理解できる。具体的には、最小隙間MGが0.15mmであり、かつ、平均粒子径が0.025mm以上であれば、耐プレイグニッション性についての評価が「C」になることが理解できる。以上より、平均粒子径は、0.025mm以上であることが特に好ましい。
【0052】
B4.中心電極におけるNiの含有量に関する実験例:
中心電極20におけるNiの含有量と、耐プレイグニッション性との関係を調べるため、Niの含有量の異なるサンプルを用いて実験を行なった。本実験例の実験方法及び評価基準は、上述した「平均粒子径に関する実験例1」と同じである。なお、本実験例における各サンプルの最小隙間MGは、0.15mmであり、線分LS上に位置する結晶粒の平均粒子径は、0.045mmである。
【0053】
図8は、中心電極におけるNiの含有量と耐プレイグニッション性との関係についての実験結果を示す説明図である。
図8(A)は、表形式で示す図であり、
図8(B)は、グラフ形式で示す図である。
図8によれば、中心電極20におけるNiの含有量が多くなるほど、耐プレイグニッション性が向上することが理解できる。具体的には、中心電極20におけるNiの含有量が70%以上であれば、耐プレイグニッション性の評価が「B」以上になり、中心電極20におけるNiの含有量が80%以上であれば、耐プレイグニッション性の評価が「A」になることが理解できる。以上より、中心電極20におけるNiの含有量は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
C1.変形例1:
上記実施形態におけるスパークプラグの放電方向は、軸線方向ODに一致しているが、本発明は、放電方向が軸線方向ODに垂直な方向である、いわゆる横放電型のスパークプラグに対しても、適用することができる。
【0056】
C2.変形例2:
上記実施形態におけるスパークプラグには、電極チップ90,95が設けられているが、これらの一方又は両方を設けないこととしてもよい。