特許第5683477号(P5683477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5683477ZnOキュバン混合物を含む調製物、及び前記調製物を用いるZnO半導体層製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5683477
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】ZnOキュバン混合物を含む調製物、及び前記調製物を用いるZnO半導体層製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/02 20060101AFI20150219BHJP
   C23C 18/12 20060101ALI20150219BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   C01G9/02 A
   C23C18/12
   H01L21/368 Z
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-536814(P2011-536814)
(86)(22)【出願日】2009年11月4日
(65)【公表番号】特表2012-509403(P2012-509403A)
(43)【公表日】2012年4月19日
(86)【国際出願番号】EP2009064584
(87)【国際公開番号】WO2010057770
(87)【国際公開日】20100527
【審査請求日】2012年11月1日
(31)【優先権主張番号】102008058040.6
(32)【優先日】2008年11月18日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ティーム
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シュタイガー
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ メルクロフ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥイ ヴ ファム
(72)【発明者】
【氏名】イルマズ アクス
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュッテ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ドリース
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−182939(JP,A)
【文献】 特開2008−088511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/02
C23C 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)以下の少なくとも2つの異なるZnOキュバン
i)少なくとも1つのSATP条件で固体のZnOキュバン、及び
ii)少なくとも1つのSATP条件で液体のZnOキュバン、並びに、
b)少なくとも1つの溶剤
を含み、
前記SATP条件で固体のZnOキュバンが、一般式
[R1Zn(OR2)]4
[式中、R1=Me又はEtであり、R2=t−Bu又はi−Prである]
のZnOキュバンであり、
前記SATP条件で液体のZnOキュバンが、一般式
[R1Zn(OR2)]4
[式中、R1=Me又はEtであり、R2=CH2CH2OCH3、CH2CH2OCH2CH3、CH2OCH2CH3、CH2OCH3、又はCH2CH2CH2OCH3である]
のZnOキュバンである、
スピンコート、スプレー又は印刷法によるZnO層を製造するための調製物。
【請求項2】
前記SATP条件で固体のZnOキュバンが、105Paで120〜300℃の分解点を有することを特徴とする、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
前記SATP条件で固体のZnOキュバンが、[MeZn(O−t−Bu)]4、又は[MeZn(O−i−Pr)]4であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の調製物。
【請求項4】
前記SATP条件で液体のZnOキュバンが、常圧で25〜−100℃の融点を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項5】
前記SATP条件で液体のZnOキュバンが、[MeZn(OCH2CH2OCH3)]4であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項6】
前記SATP条件で固体のZnOキュバンが、前記SATP条件で固体のZnOキュバン及び前記SATP条件で液体のZnOキュバンの全質量に対して10〜90質量%の割合で存在することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの溶剤が、非プロトン性溶剤の群である、トルエン、キシレン、アニソール、メシチレン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トリス−(3,6−ジオキサヘプチル)−アミン(TDA)、2−アミノメチルテトラヒドロフラン、フェネトール、4−メチルアニソール、3−メチルアニソール、メチルベンゾエート、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラリン、エチルベンゾエート、及びジエチルエーテルから成る群から選択されていることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項8】
前記SATP条件で固体のZnOキュバン及び前記SATP条件で液体のZnOキュバンの濃度が、前記調製物に対して5〜60質量%であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項9】
前記調製物がさらに少なくとも1つの添加剤を、前記調製物中に存在するZnOキュバンに対して0.1〜20質量%含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項10】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の調製物をスピンコート、スプレー又は印刷法により、基板に施与し、引き続き熱変換することを特徴とするZnO半導体層の製造方法。
【請求項11】
前記基板が、Siウェハ若しくはSi/SiO2ウェハ、ガラス基板、又はポリマー基板であり、前記ポリマー基板が、PET、PE、PEN、PEI、PEEK、PI、PC、PEA、PA、又はPPをベースとすることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記施与を、スピンコート、スプレー、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、シルクスクリーン、タンポン印刷、又はオフセット印刷で行うことを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記熱変換を120〜450℃の温度で行うことを特徴とする、請求項10から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ZnO半導体層を、還元性若しくは酸化性雰囲気による後処理、湿分による処理、プラズマ処理、レーザー処理、及びUV照射から選択される少なくとも1つの方法工程で後処理することを特徴とする、請求項10から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の調製物をスピンコート、スプレー又は印刷法により、基板に施与し、引き続き熱変換することによりZnO半導体層を得ることを特徴とする、トランジスタ、光学電子部材又はセンサーである電子部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnOキュバンの混合物を含む調製物、この調製物を用いるZnO半導体層の製造方法、この方法により得られるZnO半導体層、電子部材製造のための前記調製物の使用、並びに前記方法により製造されるZnO層を有する電子部材に関する。
【0002】
低い製造コストと容易なスケーリング(Skalierbarkeit)のため、プリント電子工学(gedruckte Elektronik)は、多くの活発な研究及び発展プロジェクトの焦点であり、半導体技術の分野では特にそうである。ここで電子回路は、電界効果トランジスタ(FET)無しでは考えられず、これはプリント電子工学の場合、薄層電界効果トランジスタ(TFT;thin-film field effect transistor)として分類できる。
【0003】
あらゆるトランジスタで重要な要素は、回路パラメータ、例えば電圧に影響を与える半導体材料である。半導体材料にとって重要なパラメータは、あらゆる電界効果移動度、加工性、及び製造の際の加工温度である。
【0004】
窒化ガリウムの特性に似たその特性、及びその容易かつ安価な製造のため、酸化亜鉛がトランジスタ製造のための魅力的な無機酸化物材料に該当する。さらに酸化亜鉛は、その興味深い圧電特性及び電気機械特性のため、しばしば半導体技術でも一般的であり(Mater. Sei. Eng. B- SoNd State Mater. Adv. Technol. 2001 , 80, 383; IEEE Trans. Microw. Theory Tech. 1969, MT17, 957)、電子工学及び光電子工学で使用される。常温で3.37eVというそのバンドギャップ(Klingshirn, Phys. Status Solidi B, 1975, 71 , 547)、及び60meVというその高い励起子束縛エネルギー(Landolt-Boernstein New Series, Group III Vol. 41 B)のため、酸化亜鉛はまた、他の非常に幅広い適用、例えば室温におけるレーザー技術で使用できる。
【0005】
ZnO単結晶中の電子のハル移動度(Hall-Beweglichkeit)μHは、400cm2・V-1・s-1であるが、この値は実際の試験で製造された層ではこれまで達成されていない。エピタキシャル、すなわち例えば化学蒸着(Chemical Vapour Deposition、CVD)で堆積された、又はスパッタされたZnO層は、FET移動度が50〜155cm2・V-1・s-1である。既に言及した圧力プロセスという利点が原因で、回路での使用に適した、可能な限り高い電荷担体移動度を有するZnO層が印刷法によって製造できることが望ましいだろう。
【0006】
現在公知のZnO製造技術がほぼ失敗している、プリント電子工学のためのシステムへの要求は、所望の低い工程温度である。この温度は、ポリマーベースの可撓性基板に適しているようにするため、300℃未満であるのが望ましかった。
【0007】
原則的には、プリント電子工学を実現するために2つの可能性がある:粒子コンセプトと、前駆体コンセプトである。
【0008】
ここで粒子に基づくコンセプトは、とりわけナノ粒子システム、例えばZnOのナノパイプを使用する(Nano Letters, 2005, 5, 12, 2408-2413)。粒子コンセプトの欠点はまず、使用する粒子分散液のコロイド不安定性であり、このため分散添加剤の使用が必要になるのだが、これは他方で、生成する電荷担体移動度に否定的に作用し得る。また、粒子−粒子の抵抗が問題となる。と言うのも、この抵抗は電荷担体の移動度を減少させ、一般的に層の抵抗を向上させるからである。
【0009】
前駆体バッチについては原則的に、様々なZn2+塩をZnO合成のために使用することができ、例えばZnCl2、ZnBr2、Zn(OAc)2、他のカルボン酸のZn塩、Zn(NO32、及びZn(SO42である。生成する良好な運動度の値にも拘わらず、このような前駆体はプリント可能な電子工学には適していない。と言うのも、工程温度は常に350度をかなり上回っているからである(例えばZnO(OAc)2の分解についてはJ. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 2750 2751を、若しくはZnCl2の分解についてはIEEE Trans., 54, 6, 2007, 1301 -1307を参照)。例えばキレート配位子の使用によって、工程温度は確かに減少できるが、その使用は生成する層にとって不利であることが実証されている(DE 20 2005 010 697 U1)。説明されている亜鉛塩とは異なり、容易に工業的に利用可能なジアルキル亜鉛化合物、例えばMe2ZnとEt2Znは、非常に反応性である。まさにこの理由から、これらを用いた工程化は非常に高コストであり、プリント可能な電子工学に良好に適した他のZnO前駆体に対する需要がある。
【0010】
ジアルキル亜鉛化合物とアルコールとの反応は100年以上前から知られているにも拘わらず、生成物の構造の説明は、前世紀の60年代になってようやくなされた。ジアルキル亜鉛とアルコールとの反応により、アルコキシ亜鉛化合物が得られ、これはたいてい四量体若しくはキュバン形態[RZn(OR’)]4で存在する。置換基に依存して、他のオリゴマー形態、とりわけ[RZn(OR’)]n(ただしn=2〜6)が考えられるにも拘わらず、である(J. Chem. Soc. 1965, 1870 1877; J. Chem. Soc. (B) 1966, 1020 1024; Chem. Comm. 1966, 194a)。キュバンはまた、ジアルキル亜鉛化合物から、酸素及び場合により水との反応によって合成することができ、ここでモノキュバンの他にまた、ジキュバンも生成し得る(Inorg. Chem. 2007, 46, 4293 4297)。
【0011】
ZnOキュバンは、有機合成、例えばアルコール脱水素でβ−プロピオラクトンの重合開始剤として(J. Org. Chem. 1979, 44(8), 1221-1232)、及びメタノール合成でZnOのための前駆体として(J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 12028-12034)、化学蒸着合成によるZnO製造の際に(MOCVD; J. Mater. Chem. 1994, 4(8), 1249-1253)、及び溶媒熱分解若しくはCVDによるZnOナノ粒子合成の際に(WO 03/014011 A1 ; SmII 2005, 1 (5), 540 552)使用される。
【0012】
JP 07-182939 Aは、有機溶剤中の[R1Zn(OR2)]4タイプの化合物の溶液から、透明なZnO膜を製造することを記載しており、この膜は基本的に基材上への溶液の施与と熱硬化により製造可能なものである(R1=R2=アルキル、アリール、アラルキル)。
【0013】
記載されたZnOキュバンからZnOへの変換は、膜形態の変更につながる。しかしながらこれまで、低い加工温度で既に良好な電子移動度を有する均質な膜を生成させることは困難である。
【0014】
そこで本発明の課題は、低い加工温度で均質かつ閉鎖された、高い電子移動度を有するZnO層が得られる、前駆体ベースのシステムからZnOを製造するための既存のバッチを従来技術に比して改善可能なシステムを提供することである。
【0015】
この課題は、
a)以下の少なくとも2つの異なるZnOキュバン
i)SATP条件で固体の少なくとも1つのZnOキュバン(SATP=標準雰囲気温度及び圧力;25℃及び105Pa)
ii)SATP条件で液体の少なくとも1つのZnOキュバン、並びに
b)少なくとも1つの溶剤
を含む調製物によって解決される。
【0016】
先に説明したように、本発明による調製物でZnOキュバンはその都度、一般式[R1Zn(OR2)]4によって記載される。ここでR1及びR2は相互に独立して、アルキル、アリール、アラルキル、アルキルオキシアルキル、アリールオキシアルキル、又はアラルキルオキシアルキルであり、とりわけ置換又は非置換のC1〜C10アルキル、置換又は非置換のC6〜C14アリール、置換又は非置換のC6〜C14アリール基及び1つ若しくは複数の置換又は非置換のC1〜C10アルキル基を有する置換又は非置換のアラルキル、置換又は非置換のC1〜C10アルキルオキシC1〜C10アルキル、又は置換若しくは非置換のC6〜C14アリールオキシC1〜C10アルキルであってよいが、ただしその都度ZnOキュバンが、SATP条件で固体若しくは液体で存在することによってさらに区別される。
【0017】
意外なことに、本発明が基礎に置く課題は、単にZnOキュバンを含有する調製物によっては実現不可能なことが確認された。そこでSATP条件で液体のZnOキュバンのみを含む調製物は、非常に均質な膜をもたらすが、この膜は比較的高い温度で変換せねば成らず、生成するZnO層の部材中での性能は、非常に僅かである(μFET=2×10-4cm2/Vs)。これとは逆に、SATP条件で固体のZnOキュバンのみを含む調製物は均質な膜をもたらさず、ひいては機能性部材が得られない。
【0018】
これに対して、SATP条件で液体のZnOキュバンと、SATP条件で固体のZnOキュバンとを含む調製物は、低い温度で加工可能であり、それから良好な電子移動度を有する均質な膜を得ることができるだけではなく、前記調製物を使用して製造された層はさらに、SATP条件で液体のZnOキュバンをベースとして製造された層よりも高い電子移動度を有する。
【0019】
SATP条件で固体のZnOキュバンは、105Paの圧力で>25℃の分解点若しくは融点を有する。ここでまた、SATP条件で固体のZnOキュバンは、溶融工程により液相に移行できないだけでなく、固体状態から直接分解するものが使用可能である。固体で存在する使用可能なZnOキュバンは好ましくは、先の圧力で分解点が120〜300℃の範囲、特に好ましくは150〜250℃の範囲である。このようなZnOキュバンは、SATP条件で液体のZnOキュバンとの混合物で、意外なことに特に良好な膜形成につながり、その上低温で加工できる。
【0020】
SATP条件で固体のZnOキュバンは、一般式[R1Zn(OR2)]4で表され、式中、R1=Me又はEtであり、R2=t−Bu又はi−Prである。
【0021】
特に好ましくはSATP条件で固体のZnOキュバンが、[MeZn(O−t−Bu)]4又は[MeZn(O−i−Pr)]4から選択される化合物である。
【0022】
SATP条件で液体のZnOキュバンは、105Paの圧力で<25℃の分解点若しくは融点を有する。前記キュバンは特に好ましくは、この圧力で融点が25〜−100℃、特に好ましくは融点が0〜−30℃である。意外なことに、より低温で溶融するZnOキュバンを用いるほど、生成する層の均質性がより良好になることが確認できた。
【0023】
SATP条件で液体のZnOキュバンは好ましくは、一般式[R1Zn(OR2)]4で表され、式中、R1=Me又はEtであり、R2=CH2CH2OCH3、CH2CH2OCH2CH3、CH2OCH2CH3、CH2OCH3、又はCH2CH2CH2OCH3のものである。特に好ましくは、SATP条件で液体のZnOキュバンは、[MeZn(OCH2CH2OCH3)]4である。
【0024】
少なくとも1つの常圧で固体のZnOキュバンは、本発明による調製物中に、固体及び液体のZnOキュバンの全質量に対して好ましくは10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%、極めて特に好ましくは40〜60質量%の割合で存在する。相応するZnO膜は、固体及び液体のZnOキュバンのその都度の質量パーセント割合が、全質量に対して50質量%という値に近づけば近づくほど、より均質であり、部材中でより良好な性能を示す。常圧で固体のZnOキュバンを50質量%(ZnOキュバンの全質量に対して)含み、常圧で液体のZnOキュバンを50質量%(ZnOキュバンの全質量に対して)含む調製物に対する結果が、最適である:またさらに特に良好な性能(μFET=10-3cm2/Vs)が部材中で得られる、特に均質な膜が生じる。
【0025】
調製物はさらに、少なくとも1つの溶剤を含む。ここで調製物は少なくとも1つの溶剤も、また異なる溶剤の混合物も含むことができる。好適には本発明による調製物中で、非プロトン性溶剤、すなわち非プロトン性非極性溶剤の群、すなわちアルカン、置換されたアルカン、アルケン、アルキン、脂肪族若しくは芳香族置換基を有する、又は有さない芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素、テトラメチルシランの群から、或いは非プロトン性極性溶剤の群、すなわちエーテル、芳香族エーテル、置換されたエーテル、エステル又は酸無水物、ケトン、第三級アミン、ニトロメタン、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、又はプロピレンカーボネートの群から選択されるものが使用可能である。使用可能な溶剤で特に好ましいのは、トルエン、キシレン、アニソール、メシチレン、n−ヘキサン、nーヘプタン、トリス−(3,6−ジオキサヘプチル)−アミン(TDA)、2−アミノメチルテトラヒドロフラン、フェネトール、4−メチルアニソール、3−メチルアニソール、メチルベンゾエート、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラリン、エチルベンゾエート、及びジエチルエーテルである。
【0026】
調製物中のZnOキュバン濃度は好ましくは、調製物に対して5〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%、極めて特に好ましくは20〜40質量%である。
【0027】
本発明による調製物はZnO層の製造に優れて適しており、その製造のためにさらなる添加剤を添加する必要がない。それにもかかわらず、本発明による調製物は、様々な添加剤、例えば自身を再凝集や沈降に対して安定化させる物質と相容性である。これには通常、少なくとも1つの添加剤(タイプ、酸化亜鉛濃度、及び分散液の液相の種類は問わない)が、調製物中にあるZnOキュバンに対して0.01〜20質量%の割合で存在しうる。通常は、この物質の割合を低くすることが目的とされる。というのも、これにより電子部材の性能に肯定的な影響をもたらすことができるからである。特に適切な添加剤は以下のものである。
【0028】
I)以下の一般式(1)
【化1】
[式中、
1=8〜13個の炭素原子を有する直鎖状、又は分枝鎖状、又は脂環式の基、
2=水素、1〜8個のC原子をそれぞれ有する、アシル基、アルキル基、又はカルボン酸基、
SO=スチレンオキシド、EO=エチレンオキシド、PO=プロピレンオキシド、
BO=ブチレンオキシド、
a=1〜5、
b=3〜50、
c=0〜3、
d=0〜3、ここでb≧a+c+dである]
の、ランダムな分布を有する、又はブロックコポリマーとしてのスチレンオキシドベースのポリアルキレンオキシド。
【0029】
aが1〜1.9の化合物は、例えばEP−A−1078946に記載されている。
【0030】
II)一般式(2)
【化2】
のリン酸エステル、
ただしR=
【化3】
であり、
前記式中、
x=1又は2、
n=2〜18
m、o=2〜100、
k=2〜4
R’’=H、又は線状又は分枝状のアルキル基、このアルキル基は場合により、付加的な官能基で置換されていてよく、
R’=アルキル基、アルカリール基、アルケニル基、又はスルホプロピル基である。
【0031】
使用される好ましい化合物は、例えばEP−A−940406に記載されている。
【0032】
III)さらに、一般式(3)
【化4】
[式中、
1=1〜22個の炭素原子を有する直鎖状、分枝状、又は脂環式基、
SO=スチレンオキシド、EO=エチレンオキシド、BO=ブチレンオキシド、
a=1〜<2、
b=0〜100、
c=0〜10、
d=0〜3、ここでb≧a+c+dである]
のブロックコポリマー及びその塩を使用することができる。
【0033】
IV)さらに、以下の部分的又は完全な反応により得られる化合物が使用可能である:
A)1つ又は複数のアミノ官能性ポリマーと、
B)一般式(4)/(4a)
【化5】
の1つ又は複数のポリエステル、及び
C)一般式(5)/(5a)
【化6】
の1つ又は複数のポリエーテルとの反応
前記式中、
Tは水素基、及び/又は場合により置換された、1〜24個の炭素原子を有する線状、又は分枝状のアリール基、アリールアルキル基、アルキル基、又はアルケニル基であり、
Aは、線状、分枝状、環状、及び芳香族の炭化水素基の群から選択される少なくとも1つの二価の基であり、
Zは、スルホン酸、硫酸、ホスホン酸、リン酸、カルボン酸、イソシアネート、エポキシドの群から、とりわけリン酸及び(メタ)アクリル酸の群から選択される少なくとも1つの基であり、
Bは一般式(6)
【化7】
の基であり、ここでa、b、cは相互に独立して0〜100の値であり、ただし、a+b+cの和は0以上、好適には5〜35、とりわけ10〜20であり、ただし、a+b+c+dの和は0より大きく、
dは0以上、好適には1〜5であり、
l、m、nは相互に独立して2以上、好適には2〜4であり、
x、yは相互に独立して2以上である。
【0034】
V)さらに、一般式(7)
【化8】
のオルガノポリシロキサンを使用でき、
式中、
1は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、又はアリール基であるが、基R1のうち少なくとも80%がメチル基である
2は分子中で同じでも異なっていてもよく、以下の意味を有することができる:
a)
【化9】
式中、
3は水素基、又はアルキル基であり、
4は水素基、アルキル基、又はカルボキシ基であり、
cは1〜20の数であり、
dは0〜50の数であり、
eは0〜50の数である、
又は
b)
【化10】
式中、
5は、水素基、アルキル基、カルボキシル基、又は場合によりエーテル基含有ジメチロールプロパン基であり、
fは、2〜20の数である、
又は
c)
【化11】
式中、
6は、水素基、アルキル基、又はカルボキシル基であり、
gは、2〜6の数であり、
hは、0〜20の数であり、
iは、1〜50の数であり、
jは、0〜10の数であり、
kは、0〜10の数である、
又は
d)基R1に相当するもの、但し、平均分子で少なくとも1個の基R2が、(a)の意味を有し、この場合aは、1〜500、好適には1〜200、とりわけ1〜50の数であり、bは、0〜10の数、特に5未満、とりわけ0である。
【0035】
このような化合物は、例えばEP−A−1382632に記載されている。
【0036】
VI)スチレンオキシドベースのオキシアルキレングリコール又はポリアルキレンオキシドアルケニルエーテルと、不飽和カルボン酸誘導体、好適にはジカルボン酸誘導体とをベースとするコポリマーをさらに使用することができ、上記誘導体は、
a)式(8a)、(8b)、(8c)、及び/又は(8d)
【化12】
の構成要素のうち少なくとも1つを1〜80mol%有し、
前記式中、
1=H、1〜5個のC原子を有する脂肪族炭化水素基、
p=1〜4、q=0〜6、t=0〜4、i=1〜6、l=1〜2、m=2〜18であり、
ここでH原子の添え字は、l×mの積により得られ、n=0〜100、o=0〜100、SO=スチレンオキシドであり、
ここで(SO)i及びアルキレンオキシド誘導体はランダムに又はブロック状にポリエーテル中で分布していてよいが、これらの基は好適にはブロック状に構成されており、以下の
【化13】
連続で存在し、
前記式中、R2は、H、1〜20個のC原子を有する脂肪族の、場合により分枝状の炭化水素基、5〜8個のC原子を有する脂環式炭化水素基、6〜14個のC原子を有するアリール基であり、この基は、場合により置換されているか、又はリン酸エステル誘導体(好適にはモノエステル)、スルフェート誘導体、又はスルホネート誘導体であってよく、
b)式(9)
【化14】
の構成要素1〜90mol%、
前記式中、
Sは、−H、−COOMa、−COOR3を表わし、
Mは、水素、一価又は二価の金属カチオン、アンモニウムイオン、有機アミン基を表わし、
aは1、又はMが二価の金属カチオンの場合には1/2であり、
3は、1〜20個のC原子を有する脂肪族の、場合により分枝状の炭化水素基、5〜8個のC原子を有する脂環式炭化水素基、6〜14個のC原子を有するアリール基であり、
Tは、−U1−R4、又は−U1−(CmlmO)n−(CmlmO)o−R2であり、
1は、−COO−、−CONH−、−CONR3−、−O−、−CH2O−であり、
4は、H、Ma、R3、又は−Q1−NQ23であり、
ここでQ1は、2〜24個の炭素原子を有する二価のアルキレン基であり、
2及びQ3は、1〜12個の炭素原子を有する脂肪族及び/又は脂環式アルキル基であり、場合によっては
【化15】
に酸化されており、m、n、l、o、R1及びR2は、上記の意味を有し、
c)式(10)
【化16】
の構成要素を0〜10mol%
前記式中、
1は、−U1−(CmlmO)n−(CmlmO)o−R5であり、
5はR4、又は
【化17】
であり、
ここでU2は−OOC−、−NHOC−、−O−、−O−CH2であり、
ここでm、n、l、o、S、R1、R2、及びU1は上記の意味を有する。
【0037】
このような化合物は、例えばDE−A−10348825に記載されている。
【0038】
(VII)さらに、質量平均分子量Mwが好ましくは200〜2,000,000g/mol、特に好ましくはMwが1,000〜50,000g/molのポリアクリル酸、及びその塩が使用できる。
【0039】
本発明による調製物はさらに、ZnO層を製造するための添加物と直接一緒に、又は添加剤無しで使用できるだけでなく、この調製物はまた、ZnO層製造のためのマトリックス形成剤中、例えばPMMA、ポリスチレン、PP、PE、PC、又はPVC中に埋め込まれて使用することもできる。
【0040】
本発明の対象はさらに、本発明による調製物を基板上に施与し、そして引き続き熱変換するZnO半導体層の製造方法、及び本方法に従って製造可能なZnO層である。
【0041】
ここで基材とは、Siウェハ又はSi/SiO2ウェハ、ガラス基板、又はポリマー基板であり、ポリマー基板はとりわけPET、PE、PEN、PEI、PEEK、PI、PC、PEA、PA又はPPであり得る。
【0042】
基板への本発明による調製物の施与は、スピンコート、スプレー、又は様々な印刷法(フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、シルクスクリーン、タンポン印刷、又はオフセット印刷)によって行うことができる。熱変換は好ましくは、120〜450℃の温度で、さらに好ましくは150〜400℃の温度で行う。ここで熱変換は、加熱板、炉、レーザー、及びUV光線、及び/又はマイクロ波照射によって行うことができる。
【0043】
熱変換に引き続き、本発明による調製物から製造されたZnO層を後処理することができる。そこで、製造されたZnO層の特性は、還元性若しくは酸化性雰囲気による後処理、湿分、プラズマ処理、レーザー処理、UV光線によってさらになお改善することができる。
【0044】
よって本発明によるZnOキュバン調製物は、電子部材の製造に使用できる。本発明によるZnOキュバン調製物はとりわけ、トランジスタ、光学電子部材、及び圧電センサの製造に適している。
【0045】
よって本発明の対象は同様に、上記方法により製造されたZnO半導体層をそれぞれ少なくとも1つ有する、電子部材、とりわけトランジスタ、光学電子部材、及び圧電センサである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】400℃で生成したZnO層の顕微鏡写真である。
図2】300℃で生成したZnO層の顕微鏡写真である。
図3】200℃で生成したZnO層の顕微鏡写真である。
【0047】
実施例:
実施例1:
トルエン2mL中の、SATP条件で液体のZnOキュバン([MeZn(OCH2CH2OCH3)]4、400mg)、及びSATP条件で固体のZnOキュバン([MeZn(O−t−Bu)4、400mg])の50/50質量%の混合物を、スピンコート(2000rpm、30秒)でSi/SiO2基板上に施与し、400℃で乾燥炉で加熱した。
【0048】
生成するZnO層はTFTにおいて、同一条件で液体キュバンのみを有する溶液(キュバンの量については同濃度)から製造されたZnO層と比較して、より良好な性能値を示すことが、表1からわかる。図1は、生成する層の顕微鏡写真を示す(撮像条件SEM:Hitachi S-4000顕微鏡、SAMX EDX検知器付き、前処理無し、室温及び大気圧下での顕微鏡試験)。同一条件で加工された、固体のキュバンのみを有する溶液(キュバンの量については同濃度)は、図1cからわかるように、均質な層を形成しない;よってここでは性能値を測定することができない。
【0049】
実施例2:
トルエン2mL中の、SATP条件で液体のZnOキュバン([MeZn(OCH2CH2OCH3)]4、400mg)、及びSATP条件で固体のZnOキュバン([MeZn(O−t−Bu)4、400mg])の50/50質量%の混合物を、スピンコート(2000rpm、30秒)でSi/SiO2基板上に施与し、300℃で乾燥炉で加熱した。
【0050】
生成するZnO層はTFTにおいて、同一条件で液体キュバンのみを有する溶液(キュバンの量については同濃度)から製造されたZnO層と比較して、より良好な性能値を示すことが、表1からわかる。図2は、生成する層の顕微鏡写真を示す(撮像条件SEM:Hitachi S-4000顕微鏡、SAMX EDX検知器付き、前処理無し、室温及び大気圧下での顕微鏡試験)。同一条件で加工された、固体のキュバンのみを有する溶液(キュバンの量については同濃度)は、図2cからわかるように、均質な層を形成しない;よって性能値を測定することができない。
【0051】
実施例3:
トルエン2mL中の、SATP条件で液体のZnOキュバン([MeZn(OCH2CH2OCH3)]4、400mg)、及びSATP条件で固体のZnOキュバン([MeZn(O−t−Bu)4、400mg])の50/50質量%の混合物を、スピンコート(2000rpm、30秒)でSi/SiO2基板上に施与し、200℃で乾燥炉で加熱した。
【0052】
生成するZnO層はTFTにおいて、同一条件で液体キュバンのみを有する溶液(キュバンの量については同濃度)から製造されたZnO層と比較して、より良好な性能値を示すことが、表1からわかる。図3は、生成する層の顕微鏡写真を示す(撮像条件SEM:Hitachi S-4000顕微鏡、SAMX EDX検知器付き、前処理無し、室温及び大気圧下での顕微鏡試験)。
【0053】
同一条件で加工された、固体のキュバンのみを有する溶液(キュバンの量については同濃度)は、図3cからわかるように、均質な層を形成しない;よって性能値を測定することができない。
【0054】
【表1】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】