特許第5683606号(P5683606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5683606相互作用の分析のための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5683606
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】相互作用の分析のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20150219BHJP
【FI】
   G01N21/41 101
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-545420(P2012-545420)
(86)(22)【出願日】2010年11月29日
(65)【公表番号】特表2013-512457(P2013-512457A)
(43)【公表日】2013年4月11日
(86)【国際出願番号】SE2010051310
(87)【国際公開番号】WO2011065912
(87)【国際公開日】20110603
【審査請求日】2013年10月8日
(31)【優先権主張番号】0950913-4
(32)【優先日】2009年11月30日
(33)【優先権主張国】SE
(31)【優先権主張番号】0951035-5
(32)【優先日】2009年12月30日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】カールソン,オロフ
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−502668(JP,A)
【文献】 特開2008−292211(JP,A)
【文献】 特表2005−513496(JP,A)
【文献】 特表2008−544248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
G01N 29/00−29/52
G01N 33/48−33/98
G01N 5/00− 9/36
G01N 27/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物とリガンドとの相互作用についての1以上の相互作用パラメータを、バイオセンサーを用いて求める方法であって、
A:リガンドを固定させたセンサー表面を準備する段階と、
B:センサー表面を対照分析物と接触させる段階と、
C:リガンドの結合部位への対照分析物の結合からのセンサー応答を記録する段階と、
D:対照分析物とリガンドとの相互作用について対照飽和応答(RmaxC)を求める段階と、
E:分析物及び対照分析物の相対モル感度の寄与を用いて、対照飽和応答(RmaxC)を分析物飽和応答(RmaxA)に変換する段階と、
F:センサー表面を、異なる濃度の分析物を含む1種以上の試料と接触させる段階と、
G:結合部位への分析物の結合からのセンサー応答を記録する段階と、
H:分析物飽和応答(RmaxA)を用いて、記録されたセンサー応答を所定の相互作用モデルにフィッティングし、相互作用パラメータを求める段階と
を含む方法。
【請求項2】
対照分析物が、全ての結合部位を占有して、1つの相互作用の事象から対照飽和応答(RmaxC)を直接求められる濃度で準備される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対照飽和応答(RmaxC)が、対照分析物とリガンドとの非定常状態相互作用から求められる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
段階Eにおける分析物と対照分析物の相対モル感度の寄与が、分析物と対照分析物とのモル質量の比により近似される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
段階E〜Hを複数の分析物に対して繰り返す、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
段階E〜Hを所定の数の分析物に対して実行した後で、段階B〜Dを繰り返す、請求項5記載の方法。
【請求項7】
I.分析物の異なる濃度において記録されたセンサー応答からの、RmaxGlobalの全般的決定、及び、対照分析物及び関連するRmaxCを用いたRmaxAの決定から、各分析物に対してRmaxを求める方法を選択する段階と、
J.1以上の結合の挙動の基準により、分析物とリガンドの相互作用の結合の挙動を評価する段階であって、基準が、
a)記録されたセンサー応答(が大きいこと
b)試料注入後にベースラインが上がること
c)試料注入中に応答が増大すること
d)RmaxGlobalとRmaxAの比
からなる群から選択される、段階と、
K.段階Jでの評価に基づいて、各分析物の相互作用パラメータの計算に用いられるべき、相互作用モデルを提案する段階と
を含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
分子結合の相互作用を検出するための分析システムであって、
(i)1以上の検知表面と、1以上の検知表面において分子結合の相互作用を検出するための検出手段と、結合曲線を表す検出データを生成するための手段とを含む、バイオセンサーであって、各曲線が、時間に対する結合の相互作用の進行を表す、バイオセンサーと、
(ii)請求項1乃至請求項7のいずれか1項で定義される請求項1記載の段階A〜Hを実行するためのデータ処理手段と
を含む分析システム。
【請求項9】
プログラムコード手段を含むコンピュータプログラムであって、プログラムがコンピュータ上で実行されると、プログラムコード手段が、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に従って、分析物とリガンドとの相互作用についての1以上の相互作用パラメータを求める、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知表面において分子結合の相互作用を分析する方法に関し、より具体的には、分析物とリガンドとの相互作用についての1以上の相互作用パラメータを、バイオセンサーを用いて求める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子のような分子の間の相互作用をリアルタイムで観測できる分析センサーシステムに対し、興味が高まっている。これらのシステムは、光バイオセンサーに基づくことが多く、通常、相互作用分析センサー又は生体特異的相互作用分析センサーと呼ばれる。代表的なそのようなバイオセンサーシステムは、Biacore AB(スウェーデン、ウプサラ)から市販されているBIACORE(登録商標)装置であり、この装置は、試料中の分子と、検知表面上に固定された分子構造との相互作用を検出するために、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いる。試料がセンサー表面を通過する際、結合の進行は、相互作用の起こる速度を直接反映する。試料の注入に続いて緩衝液が流れ、この間、検出器の応答は、表面上の錯体の解離の速度を反映する。BIACORE(登録商標)システムからの典型的な出力は、時間に対する分子の相互作用の進行を表現するグラフ又は曲線であり、これは会合段階の部分と解離段階の部分とを含む。この結合曲線は通常コンピュータ画面に表示され、「センサグラム」と呼ばれることが多い。
【0003】
こうして、BIACORE(登録商標)システム(及び類似のセンサーシステム)により、標識を行うことなく、かつ多くの場合、関係する物質の精製を行うことなく、試料中の特定の分子(分析物)の存在及び濃度に加えて、分子の相互作用における結合(会合)及び解離の反応速度定数ならびに表面相互作用に対するアフィニティを含む、追加の相互作用パラメータも、リアルタイムで求めることができる。会合速度定数(k)及び解離速度定数(k)は、複数の異なる試料の分析物の濃度に対して得られた反応速度データを、微分方程式の形式の、相互作用モデルの数学的な表現にフィッティングすることで、得ることができる。(アフィニティ定数K又は解離定数Kとして表される)アフィニティは、会合速度定数又は解離速度定数から計算されうる。しかし、多くの場合、明確な反応速度データを得ることは難しいことがあるので、通常、平衡結合分析によりアフィニティを測定することがより確実であり、平衡結合分析は、一連の分析物の濃度について、結合の相互作用の会合段階の終わり又は終わり近くで達したと推測される平衡状態すなわち定常状態での、結合のレベルを求めることを含む。結合曲線の会合段階が、実際に定常状態に達していそうであるということを確実にするために、通常は、アフィニティの測定に用いられる予定である条件下で、結合される分析物が平衡に達するのに必要な、試料注入の時間の長さ(すなわち、センサーチップの表面との試料の接触時間)を事前に求める。平衡に達するのにかかる時間と、分析物が解離するのにかかる時間の両方が、主に解離速度定数により決まるので、おおよその注入時間も、その解離定数から推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6093536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、分析物とリガンドとの相互作用についての1以上の相互作用パラメータを、バイオセンサーを用いて求めるための新しい方法及びバイオセンサーシステムを提供することであり、この方法及びバイオセンサーシステムは、従来技術の1以上の欠点を克服する。このことは、独立請求項で定義されるような方法及びバイオセンサーシステムにより実現される。
【0006】
本発明の方法の1つの利点は、アフィニティの低い分析物に対する相互作用パラメータの決定を改善し、より信頼性を高めることができることである。
【0007】
以下の詳細な説明及び図面を参照することで、本発明及び本発明のさらなる特徴及び利点が、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】SPRに基づくバイオセンサーシステムの概略的な側面図である。
図2】結合曲線が目に見える会合段階及び解離段階を有する、代表的なセンサグラムである。
図3】「通常」のアフィニティの、分析物のカーブフィッティングの例を示す図である。
図4図3のデータ点の下側範囲に基づく、「低い」アフィニティの、分析物のカーブフィッティングの例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態による方法の概略的なブロック図を示す図である。
図6図4の対応するフィッティングを示す図である。
図7a】様々なレベルの方法ノイズを有する、シミュレーションされたデータセットのフィッティングを示す図である。
図7b】様々なレベルの方法ノイズを有する、シミュレーションされたデータセットのフィッティングを示す図である。
図7c】様々なレベルの方法ノイズを有する、シミュレーションされたデータセットのフィッティングを示す図である。
図8a】アフィニティが非常に低い第2の(非特異的な)結合について、シミュレーションされたデータへのフィッティングを示す図である。
図8b】アフィニティが非常に低い第2の(非特異的な)結合について、シミュレーションされたデータへのフィッティングを示す図である。
図9】注入後にベースラインが上がった、応答曲線の例を示す図である。
図10】注入の間に増大する応答を示す、応答曲線の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述の通り、本発明は、第1の種類の分子と第2の種類の分子の間の分子結合の相互作用に対する定常状態の結合データを評価して、相互作用のアフィニティを求めることに関し、第1の種類の分子と第3の種類の対照分子との間の結合の相互作用に対する定常状態の結合データが、第1の種類の分子と第2の種類の分子の間の相互作用に対する最大の応答Rmaxを推定するために用いられる。通常、実験的な結合データはセンサーに基づく技術により得られ、そのような技術は、分子の相互作用を詳しく調べ、相互作用が進行するに従いリアルタイムで結果を提示する。しかし、本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明が用いられることになる全般的な状況が説明される。
【0010】
別段定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術的な用語及び科学的な用語は、本発明に関する当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。また、単数形で記載したものであっても、別途記載しない限り、複数形を含む。
【0011】
本明細書で引用した刊行物、特許出願、特許その他の文献の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0012】
上述の通り、本発明は、分子結合の相互作用についての複数のデータセットから、分子結合の相互作用に対する定常状態の結合データを評価して、相互作用についての1以上の相互作用パラメータを求めることに関し、定常状態の結合データ以外の、データセットからの他の相互作用のデータが、データセットの定常状態の結合データの信頼性を推測するのに用いられる。通常、実験的な結合データは、センサーに基づく技術により得られ、そのような技術は、分子の相互作用を詳しく調べ、相互作用が進行するに従いリアルタイムで結果を提示する。しかし、本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明が用いられることになる全般的な状況が説明される。
【0013】
化学センサー又はバイオセンサーは通常、標識を伴わない技術に基づき、例えば、固定された層の質量、屈折率、又は厚さのような、センサー表面の特性の変化を検出するが、ある種の標識を用いるセンサーも存在する。典型的なセンサー検出技術は、限定はされないが、光学的な、熱光学的な、圧電性の、又は音波による方法(例えば、表面音波(SAW)及び水晶振動子マイクロバランス(QCM)による方法を含む)のような、質量検出の方法と、電位差測定、電気伝導度測定、電流測定、及び容量/インピーダンスによる方法のような、電気化学的な方法とを含む。光学的な検出方法については、代表的な方法には、反射光学的な方法のような、表面の質量濃度を検出する方法が含まれ、反射光学的な方法は、外部反射の方法と内部反射の方法の両方を含み、これらは角度、波長、偏光、又は位相を分解するものであり、例えば、エバネッセント波による偏光解析法及びエバネッセント波による分光法(EWS、又は内部反射分光法)である。これらの偏光解析法と分光法の両方が、表面プラズモン共鳴(SPR)を介したエバネッセント場の増強、ブリュースター角屈折率測定、臨界角屈折率測定、漏れ全反射(FTR)、散乱内部全反射(STIR)(散乱増強標識を含みうる)、導光体センサーを含んでもよく、臨界角分解イメージング、ブリュースター角分解イメージング、SPR角度分解イメージングなどのような、外部反射イメージング、エバネッセント波に基づくイメージングを含んでもよい。さらに、例えば表面増強ラマン分光法(SERS)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS)、エバネッセント波蛍光(TIRF)及びリン光に基づく、光度測定及びイメージング/顕微鏡による方法が、「それ自体」で、又は反射による方法と組み合わせて、導波路干渉計、導波路漏洩モード分光法、反射干渉分光法(RIfS)、伝送干渉計、ホログラフィック分光法、及び原子間力顕微鏡(AFR)とともに、言及されうる。
【0014】
一般に利用可能なバイオセンサーには、スウェーデン・ウプサラのBiacore ABにより製造され販売される、前述のBIACORE(登録商標)システム装置が含まれ、これは、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づき、結合するリガンドと対象の分析物との間の表面の結合の相互作用を、リアルタイムで観測することを可能にする。この文脈において、「リガンド」とは、所与の分析物に対して既知又は未知のアフィニティを有する分子であり、表面上に固定された、任意の捕捉する又は捕獲する物質を含み、「分析物」は、リガンドへの任意の特定の結合対象物を含む。
【0015】
以下の詳細な説明及び例では、本発明はSPR分光法に関して、より具体的にはBIACORE(登録商標)システムに関して例示されるが、本発明はこの検出方法に限定されないことを理解されたい。むしろ、検知表面上に固定されたリガンドへの分析物の結合を定量的に示す、検出表面における変化が測定されうる限り、分析物が検知表面上に固定されたリガンドに結合する、アフィニティに基づくあらゆる検出方法を用いることができる。
【0016】
SPRの現象はよく知られており、ある条件下で、光が屈折率の異なる2つの媒体の間の境界で反射すると、SPRが発生する、と言えば十分であろう。その境界は、通常銀又は金の金属膜で被覆されている。BIACORE(登録商標)装置では、媒体は試料及びセンサーチップのガラスであり、センサーチップのガラスは微小流体の流動システムにより試料と接触している。金属膜は、チップ表面上の薄い金の層である。SPRにより、特定の反射角で反射される光の強度が、低減する。反射される光の強度が最小になるこの角度は、反射された光とは反対側、すなわちBIACORE(登録商標)システム及び試料側の表面の近くの屈折率とともに変化する。
【0017】
BIACORE(登録商標)システムの概略的な図が、図1に示されている。センサーチップ1は、流路5を通る、例えば抗原のような分析物4を有する試料の流れに曝される、例えば抗体のような捕捉分子(リガンド)3を支持する金属膜2を有する。光源7(LED)からの単色のp偏光した光6は、プリズム8によりガラス/金属境界9に結合され、その境界9で光が全反射する。反射された光線10の強度は、光検出ユニット11(光検出アレイ)により検出される。
【0018】
BIACORE(登録商標)装置の技術的な側面及びSPRの現象についての詳細な議論は、米国特許第5313264号で見出すことができる。バイオセンサーの検知表面の基質の被覆についてのより詳細な情報は、例えば、米国特許第5242828号及び5436161号で与えられる。加えて、BIACORE(登録商標)装置とともに用いられるバイオセンサーチップの技術的な側面についての詳細な議論を、米国特許第5492840号で見出すことができる。
【0019】
試料中の分子が、センサーチップ表面上の捕捉分子に結合すると、表面の濃度と、したがって屈折率とが変化し、SPRの反応が検出される。相互作用の進行中、時間に対して応答をプロットすることで、相互作用の進行の度合が定量的に得られる。そのようなプロット、又は反応速度若しくは結合の曲線(結合等温線)は、通常センサグラムと呼ばれ、当技術分野では「アフィニティ軌跡」又は「アフィノグラム」と呼ばれることもある。BIACORE(登録商標)システムでは、SPRの応答の値は、レゾナンスユニット(RU)で表現される。1RUは、反射光の強度が最小になる角度の0.0001°の変化を表し、ほとんどのタンパク質及び他の生体分子では、センサー表面上での約1pg/mmの濃度の変化に相当する。分析物を含む試料がセンサー表面に接触すると、センサー表面に結合した捕捉分子(リガンド)が、「会合」と呼ばれる段階で分析物と相互作用する。この段階は、試料が最初にセンサー表面と接触させられるに従って、RUの増大によりセンサグラム上で示される。逆に、「解離」は通常、試料の流れが例えば緩衝液の流れで置き換えられると、発生する。この段階は、分析物が表面に結合したリガンドから解離するに従って、時間とともに生じるRUの低下により、センサグラム上で示される。
【0020】
センサーチップ表面での可逆的な相互作用の代表的なセンサグラム(結合曲線)が図2に提示され、固定された捕捉分子すなわちリガンド、例えば抗体を有する検知表面が、試料中の結合の対象、すなわち分析物と相互作用する。上で言及された他の検出の原理に基づくバイオセンサーシステムにより生成される結合曲線は、外観が類似する。垂直軸(y軸)は(ここではレゾナンスユニット、RUで)応答を示し、水平軸(x軸)は(ここでは秒で)時間を示す。最初は、緩衝液が検知表面を通過し、センサグラム中のベースライン応答Aを与える。試料を注入する間、分析物との結合による信号の増大が観測される。結合曲線のこの部分Bは、通常「会合段階」と呼ばれる。最終的に、会合段階の終わり又は終わり近くで定常状態の条件に達し、共鳴信号がCで安定する(しかし、この状態に常に到達しなくてもよい)。本明細書において、用語「定常状態」は、用語「平衡」と同義に用いられることに留意されたい(実際には、システムが平衡ではなくても、結合は長時間一定でありうるので、他の文脈では、用語「平衡」は、理想的な相互作用モデルを表現するために取っておかれることがある)。試料注入の終わりで、試料は緩衝液の継続的な流れに置き換えられ、信号の低下は、表面からの分析物の解離又は放出を反映したものである。結合曲線のこの部分Dは、通常、「解離段階」と呼ばれる。分析は再生段階で終了し、再生段階において、結合した分析物を表面から除去できる溶液がセンサー表面に注入されるとともに、(理想的には)リガンドの活性を保つ。これは、センサグラムの部分Eにより示される。緩衝液の注入によりベースラインAが回復し、表面は新しい分析の準備ができている。
【0021】
会合段階B及び解離段階Dの外形からそれぞれ、結合反応速度及び解離反応速度に関する情報が得られ、Cにおける共鳴信号の大きさは、アフィニティを表す(応答は、表面の質量濃度の変化に関連する相互作用の結果である)。ここで、このことが以下でより詳細に説明される。
【0022】
表面結合速度
拡散又は質量の移動が制限されず擬一次速度式に従う、分析物Aと表面に結合した(固定された)捕捉分子、すなわちリガンドBとの間の可逆反応を仮定する。
【0023】
A+B⇔AB
この相互作用モデル(通常ラングミュア型と呼ばれる)は、分析物(A)が一価かつ均質であり、リガンド(B)が均質であり、全ての結合事象が独立であるということを仮定し、実際に、大部分の場合に適用可能である。
【0024】
分析物の注入中の、分析物Aの表面濃度の変化速度(=形成された錯体ABの濃度の変化速度)は、分析物Aの流入速度と流出速度の合計である。
【0025】
【数1】
ここで[A]は分析物Aの濃度、[B]はリガンドBの濃度、[AB]は反応錯体ABの濃度、kは会合速度定数、kは解離速度定数である。
【0026】
時間t後、表面における結合していないリガンドBの濃度は[B]−[AB]であり、[B]はリガンドBの全体又は最大の濃度である。式(1)に代入すると、
【0027】
【数2】
が得られる。
【0028】
検出器の応答ユニット(ABが検出される)については、これは以下のように表すことができる。
【0029】
【数3】
ここで、Rは時間tでのレゾナンスユニット(RU)での応答であり、Cは溶液中の結合していない分析物(A)の初期の、すなわち体積濃度であり、Rmaxは分析物(A)が表面上のリガンド(B)に全て結合した場合に得られる(RU単位の)応答であり、飽和応答とも呼ばれる。式(3)を並べ替えると、
【0030】
【数4】
が得られ、Rはレゾナンスユニット(RU)での応答である。積分された形では、式は
【0031】
【数5】
である。
【0032】
及びkの計算
ここで、式(4)に従って、dR/dtが結合した分析物の濃度Rに対してプロットされると、傾きは−(kC+k)であり、縦軸の切片はkCRmaxである。体積濃度Cが既知であり、飽和応答Rmaxが求められている(例えば、大量の過剰な分析物で表面を飽和させることで)場合、会合速度定数k及び解離速度定数kを計算することができる。しかし、より便利な方法は、好ましくはコンピュータプログラムによる、積分された関数(5)のフィッティング、又は微分方程式(4)の数値計算及びフィッティングである。
【0033】
は、以下のように求めることもできる。解離の速度は、
【0034】
【数6】
のように表すことができ、積分された形では、
【0035】
【数7】
であり、Rは、解離段階の開始時(緩衝液による表面の洗浄が始まる時)の応答である。
【0036】
式(6)は、
【0037】
【数8】
のように線形化することができ、tに対してln[R/R]をプロットすると、傾き=−kの直線が得られる。しかし、より便利には、解離速度定数kは、指数関数の速度式(7)をフィッティングすることで求められる。
【0038】
信頼性のある反応速度定数を得るために、通常、上で説明された分析が、複数の異なる分析物濃度と、適宜、センサー表面における1以上の他のリガンド濃度とに対しても、繰り返される。
【0039】
アフィニティの計算
アフィニティは、会合定数K=k/kにより、又は、解離定数(平衡定数とも呼ばれる)K=k/kにより表現される。
【0040】
あるいは、会合定数Kは式(3)から求めることができ、ここで平衡状態ではdR/dt=0であり、
eq=kC(Rmax−Req) (9)
が得られ、Reqは平衡状態における検出器の応答である。k/k=Kなので、式(9)に代入して整理すると、
【0041】
【数9】
が得られる。
【0042】
複数の濃度において結合反応が行われる場合、Kは、データの非線形なカーブフィッティングにより得ることができる。あるいは、例えば、反応速度データに信頼性がない場合、又は会合若しくは解離が正確に測定するには速すぎる場合、Req/CをReqに対してプロットしてもよく、これにより傾き=−Kが得られる(スキャッチャードプロット)。
【0043】
式(10)を整理すると、
【0044】
【数10】
が得られる。
【0045】
式(11)にK=1/Kを代入すると、
【0046】
【数11】
が得られる。
【0047】
通常、式(12)は、
【0048】
【数12】
に変更され、「オフセット」は、屈折率の系統的誤差による、ベースラインの平行移動を補償する要素である。
【0049】
式(11)及び(12)は、平均でいくつの結合部位が1つの分析物分子によりブロックされるかを規定する、立体障害係数nを導入することによって、以下のように変更することができる。
【0050】
【数13】
【0051】
【数14】
ソフトウェア支援分析
反応速度及びアフィニティのデータを分析するためのソフトウェアは、市販されている。したがって、例えば、BIACORE(登録商標)装置により生成された、反応速度及びアフィニティのデータは、通常、(スウェーデン・ウプサラのBiacore ABにより提供される)専用のBIA評価ソフトウェアにより評価される。このソフトウェアは、数値積分を用いて、微分形の速度方程式を計算し、非線形回帰を用いて、フィッティングが最もよく合う変数の値を見つけることによって反応速度及びアフィニティのパラメータをフィッティングして、残差平方和を最小にする。
【0052】
測定された定常状態の結合レベルから、BIA評価ソフトウェアによりアフィニティの定数を求めることは、以下の段階を含む。
【0053】
(i)曲線の定常状態の領域で、センサグラム上の報告点から、定常状態の結合レベル(Req)を得る。
【0054】
(ii)Cに対してReqのプロットを作成する。
【0055】
(iii)このプロットを、一般的な「定常状態のアフィニティ」フィッティングモデル(例えば、式(13)又は式(14))にフィッティングして、K/K及びRmaxを得る。
【0056】
本発明
上述の通り、アフィニティ、ならびに、会合定数及び解離定数のような相互作用パラメータが、Biacore装置のようなバイオセンサーによる定常状態分析により求められ、一連の濃度の分析物が固定されたリガンドに注入され、異なる濃度における相互作用の定常状態での応答を記録する。その後、応答は所定の相互作用モデルにフィッティングされ、相互作用パラメータを求める。信頼性のある結果を得るために、分析物の濃度は、相互作用曲線に対してかなり広い範囲にわたらなければならない。従来技術では、1つの推奨される方法は、濃度が例えば2Kから例えば0.1Kに連続して希釈される分析物を用い、曲線全体を確実にカバーして、フィッティングされるパラメータの不確実性を最小限にすることである。図3は、「通常の」アフィニティの分析物の曲線フィッティングの例を示し、データ点は、分析物濃度が0.03K〜16Kでの応答を表すとともに、飽和応答Rmaxの全体のフィッティングを示し、結果はK=0.511mM、Rmax=57.4RUである。
【0057】
しかし、例えば分析物の溶解度などの制限のために、そのような広範囲にわたって分析物の濃度を提供することは、常には実現可能ではない。この問題は、フラグメントベースの薬品設計を行う際には一般的な、低いアフィニティを求める際には、目立つようになる。分析物の濃度を高くすることで、評価をさらに複雑にする、表面との二次的な(非特異的な)相互作用の可能性も高まる。こうした状況では、低い濃度(<K)のみを用いることが可能であり、実現しうる最大の応答がRmaxよりもはるかに低くなり、結果として記録される応答曲線が、プロット中で非常に小さな曲率しか示さず、これらの両方が、フィッティングされるパラメータ、すなわちK及びRmaxに不確実性をもたらす。図4は、図3のデータ点の下側領域に基づく、「低い」アフィニティの分析物の曲線フィッティングの例を示し、データセットの最も低い5個のデータ点のみを用いる。この例では、フィッティングによりK=0.109mM、Rmax=30.9RUが得られ、アフィニティKと飽和応答Rmaxの両方の値が、全ての点が用いられた場合の上記の値から大きくずれる(図3との比較)。
【0058】
飽和応答Rmaxは、分析物ではなく、表面すなわち固定された反応体に関するパラメータであるので、そのような分析物に対する飽和応答RmaxAは、別の実験で適切な第2の分析物(対照分析物)を用いて求められうる、ということが分かっている。対照分析物と試料分析物との間の相対的な応答(又は分子量)の違いを調整した後で、RmaxCと呼ばれる対照分析物の飽和応答値が、次いで、(アフィニティKに対して)濃度が低い分析物による実験を評価する際に、定数として使用できる。
【0059】
図5に概略的に示される本発明の一実施形態によれば、分析物とリガンドとの相互作用についての1以上の相互作用パラメータを、バイオセンサーを用いて求める方法が提供され、その方法は、
A:リガンドを固定させたセンサー表面を準備する段階(図5、参照番号10)と、
B:センサー表面を対照分析物と接触させる段階(図5、参照番号20)と、
C:リガンドの結合部位への対照分析物の結合からのセンサー応答を記録する段階(図5、参照番号30)と、
D:対照分析物とリガンドとの相互作用について対照飽和応答(RmaxC)を求める段階(図5、参照番号40)と、
E:分析物及び対照分析物の相対モル感度の寄与を用いて、対照飽和応答(RmaxC)を分析物飽和応答(RmaxA)に変換する段階(図5、参照番号50)と、
F:センサー表面を、異なる濃度の分析物を含む1種以上の試料と接触させる段階(図5、参照番号60)と、
G:結合部位への分析物の結合からのセンサー応答を記録する段階(図5、参照番号70)と、
H:分析物飽和応答(RmaxA)を用いて、記録されたセンサー応答を所定の相互作用モデルにフィッティングし、相互作用パラメータを求める段階(図5、参照番号80)とを含む。
【0060】
上述の通り、相互作用パラメータは、アフィニティ(例えばK又はK)、反応速度定数(例えばk又はk)のような、リガンドと分析物との相互作用を特徴付ける、任意のパラメータであってよい。この方法は、上で例示されたような任意の適切なバイオセンサーを用いて実行することができ、相互作用パラメータの指標、例えば、K、K、k又はkは、バイオセンサーの分野に応じて異なっていてもよい。
【0061】
リガンドを固定させたセンサー表面を準備する段階Aは、使用される特定のバイオセンサーのセンサー表面に、リガンドを固定する任意の適切な方法を含む。固定されたリガンドは、対照分析物及び調査されることになる分析物に対する結合部位を与える。段階Bでは、適切な対照分析物が、センサー表面と接触させられる。上の記述によれば、対照分析物は、対照分析物とリガンドとの相互作用に対する対照飽和応答(RmaxC)が容易に求められうるように、選択されるべきである。例えば、対照分析物は、調査されることになる分析物と比較して、アフィニティKに関して、溶解度がより高くなければならない。一実施形態によれば、対照分析物は、センサー表面上のリガンドの全ての結合部位を占有して、1つの相互作用の事象から対照飽和応答(RmaxC)を直接求められるような、濃度で準備される。あるいは、対照分析物は、対照分析物とリガンドとの非定常状態相互作用から対照飽和応答(RmaxC)を求められる濃度領域で準備される。
【0062】
対照飽和応答(RmaxC)を分析物飽和応答(RmaxA)に変換する段階Eでは、各分析物の飽和応答(Rmax)は全ての結合部位が占有される時の応答を表す、という事実が、変換のために用いられる。2つの異なる分析物、例えばそれぞれ分析物S及びTの飽和応答(Rmax)を求めるために同じセンサー表面を用いることで、理想的には、飽和応答(RmaxS)及び(RmaxT)はそれぞれ、センサー表面に結合した同じ数の分子による応答を表す。したがって、同じセンサー表面を用いて記録された飽和応答(RmaxS)及び(RmaxT)は、2つの分析物の相対モル感度の寄与を与える。したがって、2つの分析物の相対モル感度の寄与が既知又は推定されうるとすると、1つの分析物の飽和応答(Rmax)は、別の分析物の飽和応答(Rmax)から計算(推定)されうる。本発明によれば、この関係を用いて、対照飽和応答(RmaxC)を分析物飽和応答(RmaxA)に変換する。
【0063】
上述の通り、複数の異なる検出技術に基づく、複数のバイオセンサーが利用可能なので、2つの異なる分析物の相対モル感度は用いられるバイオセンサーにより決まるが、それでも原理は有効である。一実施形態によれば、段階Eにおける分析物と対照分析物の相対モル感度の寄与は、分析物と対照分析物とのモル質量の比により近似される。この手法は、センサー表面に結合される分子の質量を直接又は間接的に記録する任意のバイオセンサー技術に対して、有効であり、又は少なくとも良好な近似法である。
【0064】
一実施形態によれば、対照分析物の解離速度は、センサー表面に結合できる分析物を含まない試料、例えば緩衝液で、対照分析物を置き換えた後の、適当な期間内に完全な解離に達するのに、十分に速い。あるいは、再生の段階が、分析物間で全ての結合部位を解放するのに必要でありうる。一実施形態では、各々の分析物に対して計算される飽和応答(RmaxA)に基づいて複数の分析物の各々に対して1以上の相互作用パラメータを求めるために、段階E〜Hが、複数の分析物について繰り返され、これは図5で参照番号90により示される。長時間にわたりセンサー表面の可能性のある変性を検出及び/又は修正するために、段階E〜Hを所定の数の分析物に対して実行した後に、段階B〜Dを繰り返すことができ、これは図5で参照番号100により示される。
【0065】
一実施形態によれば、分子結合の相互作用を検出するための分析システムが提供され、その分析システムは、
(i)1以上の検知表面と、1以上の検知表面において分子結合の相互作用を検出するための検出手段と、結合曲線を表す検出データを生成するための手段とを含む、バイオセンサーであって、各曲線が、時間に対する結合の相互作用の進行を表す、バイオセンサーと、
(ii)上記の方法の段階A〜Hを実行するための、データ処理手段とを含む。
【0066】
本発明は、本発明の方法を実行に移すようになされたコンピュータプログラム、特に、担体上又は担体中のコンピュータプログラムにも、拡張される。担体は、プログラムを担持できる任意のエンティティ又はデバイスであってよい。例えば、担体は、ROM、CD ROM、DVD又は半導体ROMのような記録媒体、又は磁気記憶媒体、例えばフロッピー(登録商標)ディスク又はハードディスクを含みうる。担体は、電気ケーブル若しくは光ケーブルを介して、又は無線若しくは他の手段により搬送されうる、電気信号又は光信号のような、伝送可能な担体であってもよい。あるいは、担体は、プログラムが組み込まれる集積回路であってもよい。コンピュータシステムとともに用いるのに適切な情報を格納できる、任意の既知の又は開発された媒体を、用いることができる。
【0067】
図6は、図4のような、対応するフィッティングを示す。図4と同じデータ点であるが、対照分析物を用いて別の実験で求められた60RUの定数Rmaxを使ってフィッティングされており、これによりK=0.52mMである。図4と6はともに、間隔が離れたいくつかの点へのフィッティングにより、誤解を招く良好なフィッティング(図4)が得られ、パラメータが誤って求められるという場合を例示する。本発明に従って、所定の対照飽和応答(RmaxC)を用いることで、このことを避けることができ、正しいアフィニティが求められる(図6)。
【0068】
これは、低いアフィニティ、例えば最低でK=0.5mM又はそれ未満のアフィニティを正確に求めるのに、強力な手法であることが示された。評価に用いられるデータ点が少ない場合に、この方法の相対的な利点が大きくなるということも、示された。
【0069】
図7a〜7cは、1〜6RUという様々なレベルの方法ノイズを有する、7個、6個、又は5個のデータ点を用いた、シミュレーションされたデータセットのフィッティングを示す。斜線が引かれた棒グラフは、変化するRmaxについてのフィッティングから得られるKを表し、白い棒グラフは、Rmaxがシミュレーション値である60RUに設定されたフィッティングから得られるKを表す。シミュレーションされたアフイニティは、K=5×10−4Mである。誤差の棒グラフは、3回実験した場合の±1標準偏差を表す。
【0070】
この手法は、以下の式による、二次的な相互作用についてのデータセットのフィッティングに使用できることが、さらに分かっている。
【0071】
【数15】
所定のRmax1を定数として設定すると、適切な相互作用に対するアフィニティ(KD1)は、容易に求めることができる。図8a及び8bは、アフィニティが非常に小さな(非特異的な)二次的な結合についての、シミュレーションされたデータセットへのフィッティングを示す。シミュレーションされた仕様K=1mMは、対応するシミュレーションされたRmaxが定数として設定された場合に、計算されうる(K=1.7mM±0.45、n=7)。シミュレーションされた方法ノイズは、比較的高い、2RUすなわちRmaxの20%である。
【0072】
結合挙動の評価
本発明の一実施形態によれば、記録されたセンサー応答の、所定の1:1の結合の相互作用モデルへのフィッティングの品質を評価して、相互作用パラメータを求める方法が提供され、この方法は、
I.各分析物に対してRmaxを求める方法を選択する段階であって、可能な選択肢は、例えば、分析物の異なる濃度において記録されたセンサー応答からの、Rmaxの全般的決定、及び、対照分析物及び関連するRmaxCを用いた上記の方法によるRmaxAの決定であってよい、段階と、
J.1以上の結合の挙動の基準により、分析物とリガンドの相互作用の結合の挙動を評価する段階であって、その基準が、
a)記録されたRが大きいこと
b)注入後にベースラインが上がること
c)注入中に応答が増大すること
d)RmaxGlobalとRmaxAの比
からなる群から選択される、段階と、
K.段階Jでの評価に基づいて、各分析物の相互作用パラメータの計算に用いられるべき、結合モデルを提案する段階とを含む。
【0073】
一実施形態によれば、結合の挙動の基準a)は、記録された最大の応答が、分析物の相互作用に対する所定の値「high R」を超えるかどうかの基準である。この基準は、応答が、分析物の相互作用に対する計算された又は測定された飽和応答の値を超えるかどうかに、関連する。(化学量論的に1:1の)Rmax(又はRmaxA)は、分析物の記録された最大の応答と比較される。1以上の分析物濃度について記録された応答RがRmax+xRUを超え、xが調査される特定の相互作用に基づいて選択された値である場合、分析物の濃度、センサー表面上のリガンドの濃度など。相互作用に応じて、値は例えば、10、50、100、200又は400のような、1〜500の間の任意の適切な値であってよく、分析物は、「High registered R」として分類され、これは、代替の化学量論的な相互作用又は追加の集合的な相互作用を示すものとして用いられ、それにより複数部位のモデルがより良好なフィッティングを実現できる。
【0074】
一実施形態によれば、結合の挙動の基準b)は、分析物がセンサー表面と接触した後で、記録された応答が所定の値を超えるかどうかの基準である。図9は、注入の後にベースラインが上がる、この種類の基準を満たす応答の例を示す。所定の値は、調査される相互作用により決まる、1RU〜500RU又はその間の任意の値のような、RU単位の全体で固定された値でありうる。あるいは、所定の値は、特定の分析物の記録された応答又は様々な分析物の平均に基づいて決定される、値であってよい。一実施形態によれば、所定の値は3RUであってよい。注入後にベースラインが上がることは、(特定のフラグメントに対する)強固で非特異的な結合又は集団を示すことができ、それにより複数部位のモデルがより良好なフィッティングを実現する。
【0075】
一実施形態によれば、結合の挙動の基準c)は、分析物の接触時間の間に、記録された応答が、所定の率、例えば0.1RU/s〜150RU/s又はその間の任意の値を超える率で、増大することである。図10は、注入の間に増大する応答を表示する応答曲線の例であり、使用できる所定の率の基準の一例は、例えば、「0.2RU/sより大きい」である。そのような挙動は、調査される相互作用に加えて起こる、二次的な相互作用を表すことがあり、それにより複数部位のモデルがより良好なフィッティングを実現できる。
【0076】
一実施形態によれば、飽和応答の値Rmaxは、分析物の異なる濃度における記録されたセンサー応答からの全体的な決定(RmaxGlobal)、また、対照分析物及び関連するRmaxCを用いる上記の方法によるRmaxAの決定の両方によって計算され、段階1でどちらの方法が選択されたかには関係がない。その後、2つの結果が、関係n=RmaxGlobal/RmaxAを計算することによって、結合の挙動の基準d)として比較され、nは、1以上の所定の制限に関する、結合の挙動を示すものとして評価される。一実施形態では、制限は、
n<1.5 −1:1の結合を示す
n>1.5 −複数部位での結合を示す
として選択される。
【0077】
上述の通り、いくつかの状況では、例えば、分析物の異なる濃度において記録されたセンサー応答の少数の点が急峻な傾きを示すために、最も大きな記録された応答Rが適度に高い場合でも、RmaxGlobalを計算すると非常に大きな値になることがある。そのような状況では、相互作用そのものは1:1の結合でありうるとしても、得られるRmaxGlobalの値は、RmaxAと比べて非常に大きくなることがある。したがって、比率nの第2の制限基準は、例えば、
n>10かつR<RmaxA −高いRを示し1:1の結合が除外され得ない
として選択されうる。
【0078】
明らかに、上記の基準で言及された制限値は、本発明から逸脱することなく、所望の効果を実現するために変えることができる。
【0079】
本発明の一実施形態によれば、段階Kは、複数部位モデルのような代替の結合モデルを提案するための、合計の基準を含んでもよく、満たされる結合の挙動の基準の数が数えられ、合計が所定の値を超えると、代替の結合モデルが提案される。本発明の一実施形態によれば、段階Kの合計の基準は、結合の挙動の基準の加重和を含んでもよく、基準a〜dは関連する重み付け係数を与えられる。一実施形態によれば、結合の挙動の基準a及びdは重み2を与えられ、基準b〜cは重み1を与えられ、合計の基準は2に設定される。
【0080】
したがって、適切な濃度を用いることを可能にする分析物により、準備された表面のRmaxCを求めることによって、アフィニティが非常に低い分析物の分析において、信頼性を実現することができる。
【0081】
本発明は、上で説明された本発明の特定の実施形態には限定されず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により確立されることを、理解されたい。
【符号の説明】
【0082】
1 センサーチップ
2 金属膜
3 リガンド
4 分析物
5 流路
6 単色のp偏光した光
7 光源
8 プリズム
9 境界
10 反射された光線
11 光検出ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図8a
図8b
図9
図10