特許第5683804号(P5683804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5683804歯周炎モデル作製方法及び歯周炎モデル非ヒト動物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5683804
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】歯周炎モデル作製方法及び歯周炎モデル非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20150219BHJP
【FI】
   A01K67/027
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-268419(P2009-268419)
(22)【出願日】2009年11月26日
(65)【公開番号】特開2011-109951(P2011-109951A)
(43)【公開日】2011年6月9日
【審査請求日】2012年9月11日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 「特定非営利活動法人 日本歯科保存学会 2009年度春季学術大会(第130回)プログラムおよび講演抄録集」第54頁 平成21年5月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 「特定非営利活動法人 日本歯科保存学会 2009年度春季学術大会(第130回)札幌コンベンションセンターSORA 平成21年6月21日 [発表内容(歯周炎発症メカニズム研究−実験的歯周炎モデルの確率)]
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】原 宜興
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 孝
(72)【発明者】
【氏名】吉永 泰周
(72)【発明者】
【氏名】押野 一志
(72)【発明者】
【氏名】市村 育久
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209115(JP,A)
【文献】 特開2006−105969(JP,A)
【文献】 特開2006−298911(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/037492(WO,A1)
【文献】 特開平07−267867(JP,A)
【文献】 日本歯科保存学雑誌,2008, Vol.51, No.3, pp.323-330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物にあらかじめグラム陽性菌又はグラム陰性菌の菌体成分及び歯周病関連細菌の代謝物であるジンジパインから選ばれる歯周病原因性抗原を全身投与した後に、該非ヒト動物の歯肉表面に前記全身投与した歯周病原因性抗原を局所投与する、歯周病原因性抗原を局所投与した部位に歯周ポケットが形成された歯周炎モデル作製方法。
【請求項2】
歯肉表面への局所投与が、歯肉表面への塗布又は滴下である請求項1記載の歯周炎モデル作製方法。
【請求項3】
あらかじめグラム陽性菌又はグラム陰性菌の菌体成分及び歯周病関連細菌の代謝物であるジンジパインから選ばれる歯周病原因性抗原を全身投与した後、歯肉表面に前記全身投与した歯周病原因性抗原を局所投与することにより作製される、前記歯周病原因性抗原を局所投与した部位に歯周ポケットが形成された歯周炎モデル非ヒト動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周炎モデル作製方法及び歯周炎モデル非ヒト動物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯ぐきに限局した歯肉炎と歯槽骨の吸収を伴う歯周炎の総称であり、成人の約8割が罹患しているといわれている。歯肉炎、歯周炎の主な原因として歯の表面についた歯垢(プラーク)があげられる。歯垢中の細菌の内毒素(lipopolysaccharide:LPS)やリポタンパク質などの刺激は歯周組織に慢性的な炎症を起こすと考えられている。歯周炎の進行過程は、歯周組織の慢性的な炎症が起き、歯肉溝が深化して歯周ポケットが形成されていき、さらには歯槽骨吸収が進行していくことが知られている。しかし、歯周炎については、発症や進行に部位特異性があること、及び遺伝や生活習慣の違いなどによる生体側の免疫系の影響も大きいことは知られているものの、歯周ポケット形成や歯槽骨吸収の進行メカニズムは未だに部分的にしか解明されていない。また、歯肉炎は適切なブラッシングなどで歯垢除去することで改善しやすいが、歯周炎は改善しにくく、歯周炎の治療は歯肉を切開するフラップ手術などの外科的治療法や、対症療法的にミノサイクリンやドキシサイクリンなどの抗生物質による薬物治療法などが行われているのが現状である。そのため、さらに抜本的な、歯周炎の発症や進行におけるメカニズム解明、より有効な予防・治療法の開発が望まれており、その手段の一つとして、歯周炎モデルを作製し、これを用いた評価も検討されている。
【0003】
歯周炎モデルの作製方法及びこれを用いた評価としては、歯垢が付着しやすくなるように、動物の歯の周りに糸を巻いて装着し、数ヶ月放置して歯周炎を発症させる自然発症モデルや(例えば、非特許文献1、2参照)、ヒトの歯周病に関与すると考えられる特定の細菌を動物の口腔内の例えば歯周溝や歯肉に局所投与して感染させて発症させる方法(例えば、非特許文献3、4参照)等が報告されている。また、歯垢の細菌の関与なしにLPSなどの特定の起炎成分を動物の歯肉に注射又は塗布する局所投与により炎症性歯槽骨吸収を引き起こす歯周炎発症モデルを作製する方法(例えば、非特許文献5〜7、特許文献1、2参照)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−90124号公報
【特許文献2】特開2006−105969号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Periodont Res.39:107−110,2004
【非特許文献2】J.Periodont Res.43:261−267,2008
【非特許文献3】Arch Oral Biol.39:1035−1040,1994
【非特許文献4】J.Clin.Invest.106:R59−R67,2000
【非特許文献5】J.Periodont Res.36:1−8,2001
【非特許文献6】Calc.Tiss.Int.71:53−58,2002
【非特許文献7】J Periodont Res.38:591−596,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、自然発症モデルを作製する方法は、歯の周りに巻いた糸に付着した歯垢だけでなく糸も直接歯周組織を刺激して破壊するため、単に細菌と宿主の免疫系による歯周炎の発症とは異なっているという問題があった。そして、歯垢が付着したとしても必ずしも歯周炎を生じるとは限らず、歯周炎を発症するとしても長期間を要し、十分な評価のできるモデルを安定して得ることが困難であった。また、非特許文献3、4のように歯周病菌を投与する方法の場合、動物を無菌環境で飼育する必要性があり、実施環境の整備が求められるため、評価系としては汎用性に欠ける上に、動物の感染に時間がかかり、歯槽骨吸収までに時間がかかる問題がある。さらに、これらの方法により歯周ポケットが形成されたことは報告されていない。非特許文献5〜7、特許文献1、2のように特定の起炎成分を投与する方法の場合は、歯槽骨吸収までに時間がかかり、発症まで例えば毎日動物に投与する必要があり手間もかかる。さらに、これらの方法によっても歯周ポケットが形成されたとの報告はなく、ヒトの歯周炎の症状を十分に再現していない問題があった。
従って、本発明の課題は、ヒトの歯周炎を確実かつ十分に、しかも短期間で再現する歯周炎モデルを安定的に作製する方法及び歯周炎モデル動物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来は、歯槽骨吸収を歯周炎モデルととらえ、早期かつ確実に歯槽骨吸収を発症させるために、歯肉への起炎成分の直接注射の手段について検討されてきた。また、歯肉内部への局所投与ではなく、歯肉溝への滴下等の投与手段は、歯周炎の症状を起こすには手間も時間もかかる上に、不確実であるため、歯周炎モデルの作製方法から除外されていた。
しかし、ヒトの歯周炎は、歯肉の炎症にはじまり、歯周ポケットが形成され、歯槽骨の吸収に至る。そこで、本発明者らは、歯周炎のメカニズムの解明と、効果的な治療や予防方法の研究には、ヒトの歯周炎を十分に再現する歯周炎モデルの作製が必要であることに着目して検討したところ、まず、特定の抗原に対して感作されて全身的に抗体価が高まった状態とし、この特定の抗原を歯肉表面に接触させることで、その部位に歯周ポケットが形成され、さらに継続して抗原を接触させることで歯槽骨吸収も比較的短期間で発症させることが可能になり、当該モデルはヒトの歯周炎の進行が再現されていることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、非ヒト動物にあらかじめ歯周病原因性抗原を全身投与した後に、非ヒト動物の歯肉表面に前記歯周病原因性抗原を局所投与する歯周炎モデル作製方法を提供するものである。
また、本発明は、あらかじめ歯周病原因性抗原を全身投与した後、歯肉表面に前記歯周病原因性抗原を局所投与することにより作製される歯周炎モデル動物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯周炎モデル作製方法を用いることにより、ヒトの歯周炎を十分に再現できる歯周炎モデルを短期間でしかも高い確率で得ることができる。従って、長期間をかけて進行するヒトの歯周炎の状態に近い歯周炎モデル非ヒト動物を確実に得ることが可能となり、歯周炎のメカニズム研究、歯周炎の予防、治療に有用な候補物質の評価探索に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】血清LPS抗体レベル(IgG)の変化を示す図である。
図2】JE(接合上皮)周囲結合組織の炎症性細胞数の変化を示す図である。
図3】JE(接合上皮)内の炎症性細胞数の変化を示す図である。
図4】根尖側移動距離の変化を示す図である。
図5】歯槽骨吸収の変化を示す図である。
図6】アタッチメントロスの変化を示す図である。
図7】歯周ポケットの形成状態を示す図である。
図8】歯槽骨の吸収状態を示す図である。
図9】JE内及びJE周囲の炎症性細胞数観察部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の歯周炎モデル非ヒト動物は、非ヒト動物にあらかじめ歯周病原因性抗原を全身投与して感作させた後、歯肉表面に前記歯周病原因性抗原を局所投与することにより作製できる。
【0012】
本発明における非ヒト動物としては、ヒト以外の哺乳類が挙げられ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシ、サル等が好ましく、特に短期間で歯槽骨吸収
を発症させることができ、かつ扱いが簡便である点でラットが好ましい。また、全身投与の方法は、腹腔内投与、血管内投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与、鼻腔内投与、経口摂取などが挙げられ、腹腔内投与が好ましい。
【0013】
本発明における歯周病原因性抗原としては、細菌の菌体成分又は代謝物が好ましく、細菌の菌体成分又は代謝物としては、グラム陽性菌のペプチド、ペプチドグリカン、細菌由来トリアシル化リポタンパク質、マイコプラズマ由来ジアシル化リポタンパク質等の細菌由来のリポタンパク質、歯周病関連細菌や非歯周病関連細菌を含むグラム陰性菌の細胞壁に特異的な糖脂質であるlipopolysaccharide(LPS)、リポタンパク質などがあげられる。また、歯周病関連細菌といわれているPorphyromonas gingivalisの産生するジンジパイン等の酵素を挙げることができ、細菌の菌体成分又は代謝物であるLPS、ペプチドグリカン、リポタンパク質が好ましく、特にLPSが好ましい。歯周病原因性抗原に用いる細菌は、歯周病関連細菌としては、Porphyromonas gingivalis,Fusobacterium nucleatum,Actinobacillus actinomycetemcomitans,Tannerella forsythia,Treponema denticola,及びCapnocytophaga ochracea等が挙げられ,非歯周病関連細菌であるEscherichia coli等も挙げられ、市販されており使用上の利便性から考えると非歯周病関連細菌ではあるがEscherichia coli(E.coli)が好ましく、歯周病原因性抗原は、E.coliから抽出したLPSが好ましい。また、歯周病原因性抗原は1種又は2種以上を用いることができる。歯周病原因性抗原の全身投与の際には、歯周病原因性抗原とアジュバンドとの混合液を投与することが好ましい。アジュバンドとしては、フロイントアジュバント(Freund’adjuvant)やアラム(Alum)が挙げられ、フロイントアジュバンドが好ましい。なお、歯周ポケットを形成する観点から、局所投与する際には、物理的組織破壊をしないことが好ましく、組織破壊物質を含めないことが好ましい。
【0014】
歯周病原因性抗原の使用濃度や使用量は、歯周病原因性抗原の種類、非ヒト動物の種類やその体重によって適宜変更しうるが、全身投与の場合、短期間で感作するように使用濃度や使用量を決定することが好ましい。例えば非ヒト動物がラットであり歯周病原因性抗原としてLPSを使用する場合、ラットの体重応じて15〜500μg/kgのLPSを全身投与することが好ましい。アジュバンドの投与量は、15〜500μg/kgが好ましい。
【0015】
本発明においては、非ヒト動物に歯周病原因性抗原を全身投与した後に、同じ歯周病原因性抗原を歯肉表面に局所投与する。このとき、非ヒト動物が全身投与された歯周病原因性抗原に感作した状態としてから歯肉表面に局所投与することが好ましい。このように感作した状態としてから歯肉表面に局所投与することによって、局所投与開始から短期間で歯周炎を発症させることができる。また、局所投与は、全身投与に比べて手間もかかり、継続して繰り返し行う必要があることから、感作した状態になってから局所投与を開始することが効率の点からも好適である。感作した状態は、非ヒト動物の全身投与した歯周病原因性抗原に対する血中の抗体価を測定することによって確認することができる。感作するまでの期間は、非ヒト動物の種類、全身投与の方法によっても異なるが、例えば、非ヒト動物がラットであって、全身投与の方法が腹腔内投与2回の場合、1回目から20日〜35日後、好ましくは25日〜30日後の2回目の腹腔内投与により血中に抗体価が高くなっていることを確認できる。
【0016】
次に、全身投与と同じ歯周病原因性抗原を非ヒト動物の歯肉表面に局所投与する。歯周病原因性抗原の局所投与手段として、歯肉の内部へ注射した場合には、歯周ポケットの形成なしに、歯槽骨吸収が生じてしまい、ヒトの歯周病の病態とは異なったものとなる。この局所投与の方法は、歯肉表面に歯周病原因性抗原が付着できる手段であればよく、塗布、滴下等が好ましい。また局所投与の部位としては、歯周ポケットが形成できる部位、すなわち歯肉と歯の間、すなわち歯肉溝付近が好ましい。
【0017】
歯周病原因性抗原の使用濃度や使用量は、歯周病原因性抗原の種類、非ヒト動物の種類やその体重によって適宜変更しうるが、短期間で歯周炎が発症するように使用濃度や使用量を決定することが好ましい。例えば非ヒト動物がラットであり歯周病原因性抗原としてLPSを使用する場合、投与部位1箇所について1回の投与量は、5〜500μg/μLのLPSを2〜5μL局所投与を繰り返し、合計で10〜50μL、好ましくは12〜30μL局所投与することが好ましい。
【0018】
局所投与の部位及び評価部位は、非ヒト動物がラットの場合、上顎臼歯口蓋側の歯肉が好適である。また、短期間で歯周炎を発症させる点から局所投与は同じ部位に繰り返し行うことが好ましく、例えば12時間、24時間単位など、一定時間ごとに行うことが可能であり、局所投与する部位が歯周病原因性抗原に接触している状態を長時間とることが好ましい。
【0019】
前記の如くして得られる本発明の歯周炎モデル非ヒト動物は、歯周病原因性抗原の局所投与開始から8〜10日目ぐらいから、歯周ポケットの形成が生じ、10〜15日目ぐらいから歯槽骨の吸収が生じる。また、歯周ポケットは、局所投与した部位特異的であり、歯の片面側のみ局所投与した場合、投与側に歯周ポケットが生じ、局所投与しなかった側には生じない。これは、ヒトの歯周炎において歯磨きが不充分な部分に歯周ポケットが生じるのと全く同一であり、本発明の歯周炎モデルは、ヒトの歯周炎の症状をよく反映している。また歯槽骨の吸収も歯周ポケットを生じた側から発生することも観察された。
【0020】
本発明の歯周炎モデル非ヒト動物による歯周炎の症状は、セメント・エナメル境(CEJ)から接合上皮の根尖側端までの距離の測定による結合組織の破壊状態、CEJから接合上皮の歯冠側端までの距離の測定による歯周ポケットの形成状態、CEJから歯槽骨骨頂部までの距離の測定による歯槽骨の吸収状態により確認することができる。なお、本発明により歯周病原因性抗原を投与した動物と、投与しない対照動物とを比較して評価することが好ましいが、歯周病の発症には部位特異性があることから、同一の非ヒト動物において、歯周病原因性抗原を局所投与した部位と、局所投与していない対照部位とを比較することもできる。例えば、非ヒト動物の右側又は左側の一方の歯肉に局所投与し、他方の側に局所投与しない場合に、右側と左側の歯肉、歯槽骨、歯肉溝等を比較することができる。
【0021】
本発明の歯周炎モデルに対して、治療又は予防用の被検成分を投与して評価する場合には、歯周炎を起こしてから評価しても良いし、本発明のモデル作製過程である局所投与の際に、被検成分を歯周病原因性抗原とともに局所投与して、被検成分を投与しなかったモデルと比較評価することもできる。
【0022】
上記被検物質としては特に制限されないが、鎮痛・抗炎症剤(NSAID、ステロイド類など)、抗生物質、動植物からの抽出物、生薬、核酸、糖類、糖アルコール、ビタミン類、ポリペプチドなどを挙げることができる。特に、歯磨剤などのオーラルケア製品、ガムや飴などの食品やサプリメントに適用可能な動植物からの抽出物、生薬、糖類、糖アルコール、ビタミン類などが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
歯周病原因性抗原としてLPSを用いて、LPSを全身投与する本発明の歯周炎モデルと、LPSを全身投与しない比較例のモデルとの歯周炎の発症や進行症状の比較を行った。
(材料及び方法)
1)実験的歯周炎モデルの作製:36匹の9週齢の雄性ルイス系ラットを、本発明の歯周炎モデル(実施例モデル)18匹と、比較例モデルの18匹に分けた。実施例モデルのラットは、E.coli由来LPS150μg/kgとFreund’s complete adjuvant 150μg/kgとの混合液を腹腔内投与し、最初の腹腔投与から28日後に再度LPS150μg/kgをFreund’s incomplete adjuvant 150μg/kgとともに腹腔内投与を行った。比較例モデルのラットは、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)のみを腹腔内に実施例と同じ時期、量(300μg/kg)を同様に2回投与した。実施例モデルと比較例モデルのラットのいずれについても2回目の腹腔内投与から24時間後に局所投与を開始した。局所投与は、上顎左側第一臼歯の口蓋側歯肉溝にマイクロピペットを用いてLPS(50μg/μL)を30分間(5分おきに3uLずつ)滴下して合計21μL投与とし、これを毎日行った。歯周炎の症状は、局所投与を行う前(0日)、及び局所投与を5日、10日行ってから24時間後に実施例と比較例のラット各6匹を屠殺して確認した。具体的には、屠殺したラットより上顎骨を摘出し、AMeX法を用いてパラフィン包埋を行い、病理組織学的(HE染色、TRAP染色)に両者を比較検討した。
【0025】
2)血清抗体価の測定:
LPS感作の状態は、0日、5日、10日間の局所投与から24時間後の測定モデルの各ラット(実施例と比較例のラット6匹)の眼窩下静脈から血液を採取し、血液から分離した血清を用い、ELISA法によりE.coli LPSに対するIgG抗体レベルを測定した。抗LPS抗体レベル測定のためのELISA法は次の方法によって行った。
E.coli LPS(0.02M MgCl2含有炭酸緩衝液中の2.5μg/ml、pH9.6)を4℃で一晩中培養し被覆したELISAプレートに、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)で37℃、1時間ブロッキングを行い、そのプレートを洗浄し、血清サンプル(0.01M PBSにて1/1000)を添加、37℃、1時間培養し、洗浄後、HRP標識ヤギ抗ラットIgG(1/5000 ;ZyMax社製)を加え37℃、1時間反応させた。そのプレートを洗浄後、Substrate Reagent Pack(TMB;R&D社製)にて発色後、サンプルの吸光度を450nmで測定した。
【0026】
3)形態学的評価:
形態学的評価は、CEJから歯根に接している接合上皮(JE)の歯冠側端までの距離(歯周ポケットの深さ)、及びJEの歯根尖側移動距離、すなわちCEJから歯根面に接したJEの歯根尖側端までの距離を測定した。さらにCEJから歯槽骨頂部までの距離(歯槽骨吸収)も測定した。また、JE周囲の結合組織、JE内へ湿潤した炎症性細胞数を測定した。なお、上述の歯周ポケットの深さなどの距離及び面積は、屠殺後にHE染色を行ったラットの局所投与部位の切片の写真(画像)をPCソフトImageJにより測定した。JE周囲の結合組織の炎症性細胞数は、図9に示すようにラットの切片のJE周囲の組織について50μm×50μmを1unitとし、unit内の炎症性細胞数を測定し、4unitの平均を1unitあたりの炎症性細胞数とした。JE内の炎症性細胞数は、ラットの切片のJE内の炎症性細胞数を測定し、JEの面積で割ることで単位面積あたりの細胞数とした。
【0027】
(結果)
図1に示すように、血清抗体レベルは、比較例は10日目まで殆ど上昇が確認されなかったが、実施例は0日から上昇し5日目には十分に上昇し、10日目以降も維持されていた。
JE内やJE周囲の結合組織へ浸潤した炎症性細胞数(図2、3)は実施例が比較例に比べて高い傾向を示し、JEの根尖側移動距離(図4)、CEJから骨頂部までの距離(図5)は実施例が比較例に比べて有意に高かった(p<0.05)。さらに歯周ポケット形成においても(図6)、実施例は6匹とも10日目に形成され、アタッチメントロスが徐々に大きくなっているのに対し、比較例は6匹とも10日目にも形成されなかった(図6)。なお、アタッチメントロスは、CEJから歯周ポケットの底(歯肉と歯の付着部位)までの距離である。また局所投与部位の切片の写真(画像)のPCソフトImageJによる測定によっても、10日目で、比較例は歯周ポケットが認められないのに対し、実施例では明確な歯周ポケットの形成が認められた(図7)。さらに実施例では30日目にはTRAP染色にて陽性を示す多数の破骨細胞が歯槽骨表面に観察された(図8)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9