特許第5683952号(P5683952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5683952改質された炭素質材料及び炭素質材料の改質方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5683952
(24)【登録日】2015年1月23日
(45)【発行日】2015年3月11日
(54)【発明の名称】改質された炭素質材料及び炭素質材料の改質方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150219BHJP
   C09C 1/56 20060101ALI20150219BHJP
【FI】
   C01B31/02 101B
   C09C1/56
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-519445(P2010-519445)
(86)(22)【出願日】2008年8月4日
(65)【公表番号】特表2010-535689(P2010-535689A)
(43)【公表日】2010年11月25日
(86)【国際出願番号】EP2008060210
(87)【国際公開番号】WO2009019243
(87)【国際公開日】20090212
【審査請求日】2011年8月1日
(31)【優先権主張番号】07113955.4
(32)【優先日】2007年8月7日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508305960
【氏名又は名称】ソルヴェイ・スペシャルティ・ポリマーズ・イタリー・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター・ナヴァッリーニ
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ・サンソテラ
(72)【発明者】
【氏名】ピエランジェロ・メトランゴロ
(72)【発明者】
【氏名】ピエトロ・カヴァロッティ
(72)【発明者】
【氏名】ジュセッペ・レスナーティ
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−173128(JP,A)
【文献】 川口雅弘、外2名,PFPEの潤滑特性に及ぼす固定層の影響,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,2001年,宇都宮 2001-11,P.41-42
【文献】 川口雅弘、外3名,DLC表面に対するPFPE潤滑膜の凝着現象の影響 ,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,2002年,東京 2002-5,p.45-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00〜31/16
C09C 1/56
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、炭素繊維、ダイヤモンド様炭素、黒鉛、球形フラーレンを含むフラーレン、およびカーボンナノチューブからなる群から選択される、炭素質材料(材料(C))の改質方法であって、
−前記材料(C)を、
sp炭素原子間に含まれる少なくとも1個のペルオキシ部分と、
少なくとも1種類のフルオロポリオキシアルケン鎖(鎖R)、すなわち主鎖中にエーテル結合を含むフルオロカーボンセグメントと
を含むフルオロポリエーテルペルオキシドまたはペルフルオロポリエーテルペルオキシド(過酸化物(P))と接触させる工程、および
−前記材料(C)を、前記過酸化物(P)と接触させたままの状態で、前記過酸化物(P)の分解温度を超える温度で加熱して、前記鎖Rを化学的に前記材料(C)に結合させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記過酸化物(P)の前記フルオロポリオキシアルケン鎖(鎖R)が、反復単位Rを含む鎖であって、前記反復単位が、
(i)−CFXO−(式中、XはFまたはCFである)、
(ii)−CFXCFXO−(式中、Xは、等しいかまたは出現するごとに異なり、Xの少なくとも1つが−Fであるという条件で、FまたはCFである)、
(iii)−CFCFCFO−、
(iv)−CFCFCFCFO−、
(v)−(CF−CFZ−O−(式中、jは0から3の整数であり、Zは一般式−OR’Tの基であって、R’が0から10個の複数個の反復単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記反復単位が−CFXO−、−CFCFXO−、−CFCFCFO−、−CFCFCFCFO−(Xは、それぞれ独立してFまたはCFである)の中から選択され、TがC〜Cペルフルオロアルキル基である)
からなる群の中から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記過酸化物(P)が下記の種類、すなわち
(A)Xo−O(CFCFO)r1(CFO)s1(O)t1−Xo’
式(II−A)
(式中、
XoおよびXo’は、等しいかまたは互いに異なり、−CFCl、−CFCFCl、−CF、−CFCF、−CFCOF、−COFであり、
r1、s1、t1は、前記過酸化物(P)の数平均分子量が400と150,000の間にあるような0以上の整数であり、t1が0より大きな整数である)、
(B)X3−O(CFCFO)r2(CFO)s2(CF(CF)O)u2(CFCF(CF)O)v2(O)t2−X3’
式(II−B)
(式中、
X3およびX3’は、等しいかまたは互いに異なり、−CFCl、−CFCFCl、−CFCF、−CF、−C、−CF(CF)COF、−COF、−CFCOF、−CFC(O)CFであり、
r2、s2、u2、v2は、前記過酸化物(P)の数平均分子量が500と150,000の間にあるように選択される0以上の整数であり、t2は0より大きな整数である)、
(C)X2−O(CFCFO)r3(CFO)s3(CF(CFCFO)k3(O)t3−X2’
式(II−C)
(式中、
X2およびX2’は、等しいかまたは互いに異なり、−CFCOF、−COFであり、
wは、1または2であり、
r3、s3、k3は、前記過酸化物(P)の数平均分子量が500と100,000の間にあるように選択される0以上の整数であり、t3は0より大きな整数である)、
から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記過酸化物(P)が、下記の式(III)、
A−O−(CFO)a1(CFCFO)a2(O)a3−A’
式(III)
(式中、
−AおよびA’は、等しいか、または互いにかつ出現するごとに異なり、独立して−CF、−CFCF、−CFCl、−CFCFCl、−CF−COFから選択され、
−a1、a2、およびa3は、前記過酸化物(P)の数平均分子量が400と150,000の間にあるような0より大きな整数であり、a2/a1の比が0.1と10の間に含まれる)
に従う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
過酸化物(P)と接触させたままの状態で、前記材料(C)を、40℃と300℃の間に含まれる温度に加熱する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
面に化学的に結合したフルオロポリオキシアルケン鎖(R)、すなわち主鎖中にエーテル結合を含むフルオロカーボンセグメント(過酸化物(P))を含むことにより改質された炭素質材料であって、該炭素質材料が、カーボンブラック、炭素繊維、ダイヤモンド様炭素、黒鉛、球形フラーレンを含むフラーレン、およびカーボンナノチューブからなる群から選択される、改質された炭素質材料。
【請求項7】
その表面に化学的に結合している、下記式
−(O)−(CFXO)c1(CFXCFXO)c2(CFCFCFO)c3(CFCFCFCFO)c4−E
(式中、
−wは0または1であり、
−X、X、Xは、等しいか、または互いにかつ出現するごとに異なり、独立して−F、−CFであり、
−c1、c2、c3、およびc4は、等しいかまたは互いに異なり、c1+c2+c3+c4が5から2000の範囲にあるように独立して0以上の整数であり、c1、c2、c3、およびc4のうちの少なくとも2つがゼロと異なる場合、それらの異なる反復単位が前記鎖に沿って分布し、
−Eは、−CF、−CF−CF、−CFCl、−CFCFCl、−CF−COF、−CFOCOFから選択される基であるか、または前記炭素質材料の前記表面にエーテル結合を介して結合する基である)
のフルオロポリオキシアルキレン鎖を含む、請求項6に記載の改質された炭素質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油および撥水性表面改質のための(ペル)フルオロポリエーテル鎖による炭素質材料の改質方法に関する。本発明はまた、前記方法から得られる炭素質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素質材料は、興味深い構造的、機械的、電気的、および機械電気的特性を示し、広範な分野において用途が見出されている、広くに使用されている添加剤および充填剤である。
【0003】
それにもかかわらずこれらの応用は、このような材料を様々な媒体を用いて分散させ、相溶化させることが困難なために、特に、フッ素化された相の場合それらの不十分な表面親水性に起因して、場合によって多少制限されることが分っている。
【0004】
この観点から、前記材料の表面剤による表面の改質と、表面へのフルオロアルキル基の導入による共有結合官能基化との両方に目が向けられてきた。
【0005】
フルオロアルカノイルペルオキシドは、対応するフルオロアルキル基を炭素質材料上に導入するための便利な手段として従来使用されてきた。
【0006】
2006年3月2日付の(特許文献1)(DUPONT)は、式[Z−[CF−O−[CF−CFR]−O−[CF−CO−O](ただし、a=0または1、b=0〜10、c=0または1、d=1〜10、e=1〜10)の低分子量ペルフルオロジアシルペルオキシドによる炭素質材料、具体的にはフラーレンまたは湾曲カーボンナノ構造体の官能基化を開示している。実施例は、式COCF(CF)−C(O)−OO−C(O)−CF(CF)OCのビス(ペルフルオロ−2−プロポキシプロパノイル)ペルオキシドと単層カーボンナノチューブとの反応に関するものである。
【0007】
(非特許文献1)は、式
【化1】
(式中、Rは、−CF(CF)OCまたは−CF(CF)OCである)
のペルフルオロジアシルペルオキシドの反応を開示している。
【0008】
しかし、フッ素化ペルフルオロアルカノイルペルオキシドが関与する従来技術の方法は、不安定かつ潜在的に爆発性の低分子量のフッ素化過酸化アシルの取扱いを必要とする。
【0009】
加えて、従来技術の方法は、高分子量フルオロオキシアルキレン基による炭素質材料の官能基化に到達する可能性を与えない。これらの基は、低分子量の対応物では達成できない表面活性特性を示し、炭素質材料表面の撥油および撥水性を効率的に改質するため、特に興味深い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/23921号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】サワダ・ヒデオ(SAWADA,Hideo)ら、フルオロアルカノイルペルオキシドと単層カーボンナノチューブとの反応:フルオロアルキル基の導入による単層カーボンナノチューブの側壁の改質への応用(Reactions of fluoroalkanoyl peroxides with single−walled carbon nanotubes:application to sidewall modification of single−walled carbon nanotubes with the introduction of fluoroalkyl groups)、Polymers for advanced technologies,2005,vol.16,p.764〜769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって熱安定性および貯蔵安定性の高いフッ素化過酸化物による炭素質材料の効率的な官能基化のための方法に対する、および撥油および撥水性ならびに低い表面エネルギー特性を有する官能基化された炭素質材料に対する不足が当該技術分野において現在のところ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって本発明は、炭素質材料(材料(C))の改質方法に関し、この方法は、
−材料(C)を、
sp炭素原子間に含まれる少なくとも1個のペルオキシ部分と、
少なくとも1種類のフルオロポリオキシアルケン鎖(鎖R)、すなわち主鎖中にエーテル結合を含むフルオロカーボンセグメントと
を含む(ペル)フルオロポリエーテルペルオキシド(過酸化物(P))と接触させる工程、および
−この材料(C)を、前記過酸化物(P)と接触させたままの状態で、過酸化物(P)の分解温度を超える温度で加熱する工程
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得た、ペルフルオロポリエーテルペルオキシドで処理したカーボンブラックの圧縮ペレットの表面の水滴を示す図である。
図2】カーボンブラックの圧縮ペレットの水滴の即時吸収を示す一連の画像である。
図3】実施例2で得た、ペルフルオロポリエーテルペルオキシドで処理したDLCのフィルムの表面のn−ドデカンの滴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願人は、意外なことに、上記で詳細に述べた方法が、炭素質材料の表面にフルオロポリオキシアルケン鎖を化学的にグラフトすることによって、炭素質材料を有効に表面改質することを可能にし、その結果この炭素質材料の撥油および撥水性が著しく増大するので有利であることを発見した。
【0016】
本発明の方法の(ペル)フルオロポリエーテルペルオキシドは、高い熱安定性および貯蔵安定性に恵まれており、その結果、爆発の危険なしに簡単に取り扱い、かつ、貯蔵することができるので有利である。
【0017】
本発明の文脈において、表現「炭素質材料」および「材料(C)」は、本質的に炭素からなるすべての材料を意味する。前記炭素質材料は、炭素質材料自体の物理化学的性質に著しい影響を与えることなしに、少量の他の元素(例えば、H、O、N、S等)を含んでいてもよいことを理解されたい。
【0018】
本発明の目的に適した炭素質材料としては、とりわけカーボンブラック、炭素繊維、ダイヤモンド様炭素、黒鉛、球形フラーレンを含むフラーレン、およびカーボンナノチューブを挙げることができる。
【0019】
表現「カーボンブラック」は、粉末形態の、高度に分散されたアモルファス元素状炭素を意味する。カーボンブラックは、球およびそれらの溶融一次凝集体の形態の微粉化したコロイド状材料として一般に入手可能である。カーボンブラックの種類は、一次粒子の粒度分布と、それらの一次凝集および二次凝集の度合とによって特徴付けられる。カーボンブラックの平均一次粒径は典型的には10から400nmの範囲にあり、一方、平均一次凝集体径は100から800nmの範囲にある。煤がランダムに形成されるのに対し、カーボンブラックは制御された条件下で製造することができ、これらはタール、灰分、および不純物に基づいて区別することができる。カーボンブラックはまた、重質油の留出物および残油、コールタール生成物、天然ガス、およびアセチレンなどの炭化水素混合物の制御下の気相熱分解および/または熱分解によっても製造することができる。したがって表現「カーボンブラック」は、とりわけアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックを包含する。アセチレンブラックは、アセチレンの燃焼から得られるカーボンブラックの種類である。チャンネルブラックは、鋼板または溝形鉄(名称はこれに由来する)にガス炎を衝突させ、時間間隔をおいて堆積物をこすり落とすことによって製造される。ファーネスブラックは、耐火性炉中で製造されるカーボンブラックに一般に適用される用語である。ランプブラックは、その特性が他のカーボンブラックと著しく異なっており、固形物を回収するための沈降室を備えた密閉系の中で重油または他の炭素質材料を燃焼させることによって製造される。サーマルブラックは、天然ガスを加熱したレンガの格子積みを通過させることによって生産される。そこでは天然ガスが熱分解して比較的粗いカーボンブラックが形成される。今日生産されている全カーボンブラックの90%超がファーネスブラックである。カーボンブラックは、Cabot Corporation社などの非常に多くの供給業者から市販されている。
【0020】
本明細書中で用いる表現「ダイヤモンド様炭素(DLC)」は、かなりの量(例えば、50%を超える量)のsp混成炭素原子を含有するアモルファス炭素材料のすべての形態を包含する。その結果、DLC材料は、典型的に、天然のダイヤモンドの独特の性質の幾つかを示す。天然ダイヤモンドには、2種類の結晶多形がみられることがよく知られている。通常の結晶形は、その炭素原子が立方格子に配置されており、一方、きわめて稀な結晶形(ロンズデーライト:lonsdaleite)は六方格子を有する。DLC材料においてはこれらの多形が、典型的に、ナノスケールレベルの構造で存在している結果、同時にアモルファスであり、可撓性であり、なおかつ純粋にsp結合した「ダイヤモンド」であるDLC被膜を作ることができる。このような混合物は、最も硬く、強く、かつ滑らかであり、四面体アモルファス炭素、またはta−Cとして知られる。例えば、わずか2μmの厚さのta−Cの被膜は、磨損に対する普通のステンレス鋼(すなわち、304型)の抵抗性を向上させ、使用寿命を1週間から85年へ変える。このようなta−Cはsp結合炭素原子のみからなるので、DLCの「純粋」な形態と考えることができる。水素、黒鉛sp炭素、および金属などの充填剤が、生産費用を下げるために、DLCのその他の形態において一般に使用されるが、被覆される物品の耐用年数が低下してしまう。様々な形態のDLCを、真空環境と相性のよい大部分の任意の材料に適用することができる。
【0021】
用語「黒鉛」は、炭素(C)の低密度同素体を意味し、その構造はsp混成炭素原子の層状六員環からなる。これらの層は、とりわけそれらの各層からの非局在化p電子の雲間の相互作用により生じる弱いファンデルワールス型の力によって互いに保持されている。
【0022】
用語「フラーレン」は、炭素原子が支配的に連結した六員環形態、あるいは前記集合体が平面であるのを妨げる五員環または時には七員環の形態の下で、sp結合によって結合した炭素原子の球形、楕円形、または円筒形配置からなる炭素分子(とりわけ黒鉛およびダイヤモンドとは異なる)を包含する。
【0023】
球形フラーレンがしばしば「バッキーボール」と呼ばれるのに対し、円筒形フラーレンは「バッキーチューブ」または「カーボンナノチューブ(CNT)」として知られる。
【0024】
単層カーボンナノチューブ(SWCN)または多層カーボンナノチューブ(NWCN)のいずれかを本発明の目的に使用することができる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の場合の約0.6ナノメートル(nm)から、SWNTまたは多層カーボンナノチューブ(NWNT)の場合の3nm、5nm、10nm、30nm、60nm、または100nmまでの範囲の直径を有することができる。CNTの長さは、50nmから、1ミリメートル(mm)、1センチメートル(cm)、3cm、5cm、またはそれ以上の範囲に及び得る。CNTは、典型的には、長軸の寸法対他方の寸法のアスペクト比が約10を超える。一般にアスペクト比は、10と2000の間にある。
【0025】
好ましくは、材料(C)は、カーボンブラックおよび/またはDLCから選択される。
【0026】
本発明の方法によって得ることができるカーボンブラックは、低表面張力を有するホストマトリックス中でのそれらの相溶性を高めるのに、すなわちフルオロポリマーホストマトリックス等のへの分散に特に適している。
【0027】
本発明の方法によって得ることができるDLC材料は、本方法が、DLCの固有のすぐれた機械的性質に、DLC材料の摩擦学的挙動を向上させるためのフッ化潤滑媒体に対する高い親和性を含めたフッ化表面の利点を加えるため、特に興味深い。
【0028】
表現「少なくとも1個の過酸化物部分」とは、過酸化物(P)が1個または2個以上の過酸化物部分を含むことを意味することを理解されたい。下記の本発明書中において表現「過酸化物(P)」は、単数および複数の両方に理解されるものとする。
【0029】
過酸化物(P)の過酸化物部分はsp混成炭素原子間に含まれる。すなわちこの配置のおかげで、過酸化物(P)の熱安定性および貯蔵安定性は、とりわけ―OO−基が−C(O)−sp混成炭素原子と結合したペルフルオロアルカノイルペルオキシドの安定性よりも増大するので有利である。
【0030】
過酸化物(P)のフルオロポリオキシアルケン鎖(R)は、好ましくは反復単位Rを含む鎖であり、前記反復単位は、
(i)−CFXO−(式中、XはFまたはCFである)、
(ii)−CFXCFXO−(式中、Xは、等しいかまたは出現するごとに異なり、Xの少なくとも1つが−Fであるという条件で、FまたはCFである)、
(iii)−CFCFCFO−、
(iv)−CFCFCFCFO−、
(v)−(CF−CFZ−O−(式中、jは0から3の整数であり、Zは一般式−OR’Tの基であって、R’が0から10個の複数個の反復単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記反復単位が−CFXO−、−CFCFXO−、−CFCFCFO−、−CFCFCFCFO−(Xは、それぞれ独立してFまたはCFである)から選択され、TがC〜Cペルフルオロアルキル基である)
からなる群から選択される。
【0031】
好ましくは本発明の過酸化物(P)の過酸化物部分は、ペルフルオロポリオキシアルキレン鎖中にランダムに分布する。
【0032】
したがって過酸化物(P)は、好ましくは下記の式(I)に従う。
C−O−(CFXO)c1(CFXCFXO)c2(CFCFCFO)c3(CFCFCFCFO)c4(O)−C’
式(I)
(式中、
−X、X、Xは、等しいか、または互いにかつ出現するごとに異なり、独立してFまたはCFであり、
−CおよびC’は、等しいかまたは互いに異なり、独立して−CF、−CFCF、−CFCl、−CFCFCl、−CFCOF、−COFから選択され、
−c1、c2、c3、およびc4は、等しいかまたは互いに異なり、c1+c2+c3+c4が5から2000の範囲、好ましくは10と500の間の範囲にあるように独立して0以上の整数であり、c1、c2、c3、およびc4のうちの少なくとも2つがゼロと異なる場合、それら異なる反復単位は、一般に鎖に沿って統計的に分布し、
−pは、0より大きな整数である)。
【0033】
典型的には、過酸化物(P)は、p/(c1+c2+c3+c4)の比が、0.001と0.9の間、好ましくは0.01と0.5の間に含まれるように選択される。
【0034】
ペルオキシPFPEは、例えば、1969年5月6日付の米国特許第3442942号明細書(MONTEDISON SPA)、1972年3月21日付の米国特許第3650928号明細書(MONTEDISON SPA)、1972年5月23日付の米国特許第3665041号明細書(MONTEDISON SPA)の教示に従って酸素の存在下でテトラフルオロエチレン(TFE)および/またはヘキサフルオロプロペン(HFP)の光重合(photoassisted polymerization)により調製することができる。
【0035】
単位−(CF−CFZ−O−を有するペルオキシPFPEは、例えば米国特許第5,114,092号明細書の記載に従って、酸素およびUVの存在下での式CF=CFOXaの1種以上の(ペル)フルオロアルキルビニルエーテルの、溶媒の存在下かつ50℃以下の温度での操作による重合によって調製することができる。前記式中、Xaは、等しいかまたは互いに異なる1種以上の基(R’O)R’’であり、mは0〜6であり、R’は基−CF−、−CFCF−、−CFCF(CF)−から選択され、R’’はC〜C10直鎖ペルフルオロアルキル、C〜C10分枝ペルフルオロアルキル、またはC〜C10環状ペルフルオロアルキルから選択される。この同じプロセスは、TFEおよび/またはHFPの存在下でも行うことができる。さらには、例えば2004年9月8日付の欧州特許第1454938A号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)、2005年4月20日付の欧州特許第1524287A号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)を参照されたい。
【0036】
好ましくは、過酸化物(P)は、下記の種類から選択される。
(A)Xo−O(CFCFO)r1(CFO)s1(O)t1−Xo’
式(II−A)
(式中、
XoおよびXo’は、等しいかまたは互いに異なり、−CFCl、−CFCFCl、−CF、−CFCF、−CFCOF、−COFであり、
r1、s1、t1は、数平均分子量が400と150,000の間、好ましくは500と80,000の間にあるような0以上の整数であり、t1は0より大きな整数であり、r1およびs1の両方が好ましくはゼロと異なり、r1/s1の比は、好ましくは0.1と10の間に含まれる)。
上記の式(II−A)に従う過酸化物(P)は、とりわけ1973年2月6日付の米国特許第3715378号明細書(MONTEDISON SPA)、1984年5月29日付の米国特許第4451646号明細書(MONTEDISON SPA)、1993年11月2日付の米国特許第5258110号明細書(AUSIMONT SRL)、1998年4月28日付の米国特許第5744651号明細書(AUSIMONT SPA)の教示に従ってテトラフルオロエチレンの酸素重合(oxypolymerization)によって調製することができる。
(B)X3−O(CFCFO)r2(CFO)s2(CF(CF)O)u2(CFCF(CF)O)v2(O)t2−X3’
式(II−B)
(式中、
X3およびX3’は、等しいかまたは互いに異なり、−CFCl、−CFCFCl、−CFCF、−CF、−C、−CF(CF)COF、−COF、−CFCOF、−CFC(O)CFであり、
r2、s2、u2、v2は、数平均分子量が500と150,000の間、好ましくは700と80,000の間にあるように選択される0以上の整数であり、t2は0より大きな整数である。好ましくはr2、s2、u2、v2がすべて0より大であり、v2/(r2+s2+u2)の比は1未満である)。
上記式(II−B)に従う過酸化物(P)は、とりわけ1991年3月19日付の米国特許第5000830号明細書(AUSIMONT SRL)および1974年11月12日付の米国特許第3847978号明細書(MONTEDISON SPA)の教示に従ってテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンの酸素重合によって調製することができる。
(C)X2−O(CFCFO)r3(CFO)s3(CF(CFCFO)k3(O)t3−X2’
式(II−C)
(式中、
X2およびX2’は、等しいかまたは互いに異なり、−CFCOF、−COFであり、
wは、1または2であり、
r3、s3、k3は、数平均分子量が500と100,000の間にあるように選択される0以上の整数であり、t3は0より大きな整数であり、好ましくはr3、s3、およびk3が、すべて0より大であり、r3/s3の比が、典型的には、0.2と10の間にあり、かつk3/(r3+s3)の比が、一般に、0.05未満である)。
上記式(II−C)に従う過酸化物(P)は、とりわけ2005年9月1日付の米国特許出願公開第2005192413号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)の教示に従って調製することができる。
【0037】
より好ましくは、過酸化物(P)は、下記の式(III)に従う。
A−O−(CFO)a1(CFCFO)a2(O)a3−A’
式(III)
(式中、
−AおよびA’は、等しいか、または互いにかつ出現するごとに異なり、独立して−CF、−CFCF、−CFCl、−CFCFCl、−CF−COFから選択され、
−a1、a2、およびa3は、数平均分子量が400と150,000の間、好ましくは500と80,000の間にあるような0より大きな整数であり、a2/a1の比が0.1と10の間、より好ましくは0.2と5の間に含まれ、かつ好ましくはa3/(a1+a2+1)の比が0.01と0.5の間、より好ましくは0.03と0.3の間に含まれる)。
【0038】
本発明の方法は、材料(C)を懸濁することができる適切な溶媒の存在下で行うことができる。これらの溶媒は、過酸化物(P)と反応しないものの中から選択される。好適な溶媒としては、とりわけ(ペル)フルオロカーボン、(ペル)クロロフルオロカーボン、(ペル)(ハロ)フルオロアルキルエーテル、第三級(ペル)フルオロアルキルアミン、(ペル)フルオロポリエーテル、液化ガス様超臨界COを挙げることができる。
【0039】
材料(C)と過酸化物(P)との接触時間は、特に限定されず、とりわけ反応温度との関係で当業者によって選択される。接触時間は、数秒と数時間の間でさまざまであってよいが、それにもかかわらず一般にはこの接触時間は15分間と50時間の間、好ましくは30分間と30時間の間に含まれると考えられる。
【0040】
材料(C)と過酸化物(P)とを、不活性雰囲気下、すなわち本質的に酸素を含まない雰囲気下で接触させることも、一般には好ましい。典型的には、材料(C)および過酸化物(P)を、不活性気体、とりわけ窒素、アルゴン、ヘリウム、ガス状フルオロカーボン、ガス状ハイドロフルオロカーボン、ガス状(ペル)フルオロエーテル(例えば、CF、CFCHF、CFOCFCF)などの存在下で、あるいは別法として減圧下で、接触させる。
【0041】
過酸化物(P)と接触させたままの状態で、材料(C)を、40℃と300℃の間に含まれる温度に加熱することができる。適切な温度は、過酸化物(P)の分解温度を考慮して当業者によって選択される。好ましくは、過酸化物(P)の効率的な分解、したがって炭素質材料とのラジカル反応を達成するのに適した温度は、100℃と250℃の間、より好ましくは120℃と240℃の間に含まれる温度である。
【0042】
本発明の別の目的は、その表面に化学的に結合した前述のフルオロポリオキシアルケン鎖(R)を含む、改質された炭素質材料である。
【0043】
前記材料は、本発明の方法により得ることができる。
【0044】
本出願人は、意外なことに、前述の改質された炭素質材料が恒久的に改質され、その結果、表面特性、例えば撥水および撥油性が決定的に改質されることを発見した。
【0045】
炭素質材料は、好ましくはその表面に化学的に結合している、下記式:
−(O)−(CFXO)c1(CFXCFXO)c2(CFCFCFO)c3(CFCFCFCFO)c4−E

(式中、
−wは0または1であり、
−X、X、X、c1、c2、c3、c4は、上記定義と同じ意味を有し、
−Eは、−CF、−CF−CF、−CFCl、−CFCFCl、−CF−COF、−CFOCOFから選択される基であるか、または炭素質材料の表面にエーテル結合を介して結合する基である)
のフルオロポリオキシアルキレン鎖を含む。
【0046】
本出願人は、本発明の範囲を限定するものでははないが、これらのフルオロポリオキシアルキレン鎖が、主として炭素−炭素共有結合を介して炭素質材料と結合している、換言すれば上に示した式中でwがゼロであると考える。この挙動は、フルオロポリオキシアルキレン鎖上の酸素ラジカルの相対的不安定性と結びついていると考えられ、その結果、一般には、炭素ラジカルがCOFの発生によって形成されてからラジカル種が炭素質材料と反応すると考えられる。それにもかかわらず、フルオロポリオキシアルキレン鎖が酸素原子(w=1)を介して結合している炭素質材料が存在することができ、またそれらはなお本発明の範囲に包含される。
【0047】
炭素質材料は、より好ましくはその表面に化学的に結合している、下記式:
−(O)−(CFO)a1(CFCFO)a2−A’’

(式中、
−wは0または1であり、
−a1、a2は、上記定義と同じ意味を有し、
−A’’は、−CF−、−CFCF、−CFCl、−CFCFCl、−CF−COFから選択される基であるか、または炭素質材料の表面にエーテル結合を介して結合する基である)
のフルオロポリオキシアルキレン鎖を含む。
【0048】
本発明を、下記の実施例を参照しながらより詳細に述べる。これらの実施例は、単に例示的を目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
100mlの内部容積を有するガラス反応器に0.5gのCABOT VULCAN(登録商標)XC72Rカーボンブラックを導入し、20mlのCFOCFClCFCl(希釈剤)中に懸濁させ、次いでa2/a1モル比1.15、数平均分子量29,400、およびP.O.値1.33を有する1gの式CF−O−(CFO)a1(CFCFO)a2(O)a3−CFのペルフルオロポリエーテルペルオキシドを激しく撹拌しながら滴下によって加えた。酸素を含まない環境を確実にするために、反応器温度を、希釈剤が完全に蒸発するまで窒素をバブルさせながら40℃に保った。次に反応混合物を150℃に加熱し、次いで一度に15℃ずつ段階的に195℃に達するまで、各増分温度を1時間一定に保ちながら上昇させた。最後に混合物を200℃で2時間維持した。次いで反応器を脱気し、高温(210℃)において減圧下で6時間保った。次いで、固体残渣を、水(3×50ml)およびCFOCFClCFCl(3×50ml)で洗浄した。この洗浄は、処理済み材料を適切な量の希釈剤と共に室温で1時間撹拌することによって行った。最後に、試料を真空(0.01mmHg)かつ高温(210℃)下で6時間乾燥した。この処理済み試料のEDS分析は、0.7KeV付近の領域にフッ素の存在に起因するピークを示した。処理済み試料のXPS分析は、C−F結合の存在と関連のある690eVの領域にピークを示した。7,000kg/cmの荷重下で少量の処理済み試料をプレス成形することによって処理済み材料のペレットを得た。こうして得られたペレットを用いて水との接触角を求めた。図1は、前述の圧縮ペレットの表面の水滴を示す。145°の接触角が測定され、それは経時的に安定なままであった(水は吸収されず、また拡散しなかった)。比較としてCABOT VULCAN(登録商標)XC72Rカーボンブラックの圧縮ペレットは、図2の一連の画像が示すように同様の条件において水滴の即時吸収を起こした。したがって接触角を測定することができなかった。
【0050】
[実施例2]
実施例1で述べたと同じ手順を繰り返したが、DLCのフィルム試料を使用した。処理の終りに、試料を、XPSにより、また水およびn−ドデカンの双方との接触角により分析した。XPS分析は、C−F結合に特有の689eVに中心のあるピークを示した。図3は、処理済み試料の表面のn−ドデカンの滴を示す。72度の接触角が測定され、それは経時的に安定なままであった(n−ドデカンは吸収されず、また拡散しなかった)。
【0051】
[比較例3(イソブチリルペルオキシド)]
実施例1における手順と同様の手順に従ったが、ペルフルオロポリエーテルペルオキシドの代わりに、イソブチリルペルオキシド(CFOCFClCFClに溶かした4.2重量%のイソブチリルペルオキシド溶液8.6ml)を、48mgのCABOT VULCAN(登録商標)XC72Rカーボンブラックと組み合わせて使用した。反応混合物を55℃で48時間加熱した。処理済み試料をNaHCOの水溶液(2重量%)および水で洗浄してから乾燥する。実施例1の場合と同じ手順に従って測定された水との接触角は、この試料の場合、実施例1で観察されたものよりも約10°低い値を示し、したがってより低い疎水性を実証した。
図1
図2A
図2B
図2C
図3